結月ゆかりの人間関係   作:アニヴィア

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 SSを開いていただき有難うございます。
一話目のからの続きの話になっています。
一応この話だけでも読める内容だと思いますけれど、よろしければ一話目からお願いします。


お月様お星様お日様で並びたい

 「ゆかりちゃん、次の休みの日一緒に勉強しない?」

「弦巻さん風邪ひきました?」

「ゆかりお姉ちゃん、私も一緒に勉強したいです」

「いいですよ」

「扱いの差ひどくない?」

「普段の行いの差です」

「……今度のテストで見直してもらうからね」

「期待しています。どこに集まりましょうか」

「私の家来る?」

「いつもお邪魔しているので少し悪い気がしますね」

「それなら、その、お二人がよかったらでいいんですけれど、私の家に来ませんか?」

「あかりちゃんのお家?いいの?」

「は、はい。この間のペンダントのお礼しないとって思っていたので」

「お礼なんて気にしないでいいんですけどね」

「まぁまぁ。有難うあかりちゃん!」

「い、いえいえ」

「弦巻さんは大丈夫ですか?」

「うん?うん」

「そうですか。有難うあかり。今度お邪魔しますね」

「は、はい。家まで迎えに行きますか?」

「駅にしましょう」

 

 私はこのときゆかりちゃんにもっと聞いておくべきだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 約束の日、集合時間はお昼過ぎなので、私はお昼ご飯を食べてから集合場所の駅前へ。

遅れたら大変だと思って早めに来たら、もうゆかりちゃんがいた。

丈の長い黒の兎耳パーカーに薄紫色のカットソー、足を隠す濃い色のジーンズ。

シンプルさが実にゆかりちゃんらしい。

 「やっほーゆかりちゃん」

「こんにちは弦巻さん」

「待たせてごめんね」

「まだ集合時間より早いですよ」

「有難う。私あかりちゃんのお家初めてだよ。緊張するなぁ」

「弦巻さんなら大丈夫ですよ」

「本当?どんなところ?」

「案内がないと迷うところです」

「そんな複雑なところにあるんだ」

「いえ、辿り着くまででなくて、家が大きすぎて」

「あはは。そんな広い家なんて創作の中か海外にしかないよ」

「……そうですか」

ゆかりちゃんが冗談を言うなんて珍しい。

学校にはお金持ちの子ばかりだけれど、そこまでのお金持ちは滅多にいないはず。

私はお金持ちってわけではないし、もしそんな家に入ったらカルチャーショックで倒れてしまうんじゃないかな。

「あかりちゃん家の車ってどんなの?まだ着いてない、よね?」

「いえ、多分今停まったあの車ですね。行きましょうか」

ゆかりちゃんに続いて歩き出す。

その先には、同じアルファベットが重なっているエンブレムの選ばれし者しか乗れない高級感をその身に纏った黒い車。

「な、何か凄そうな車だね」

「あの車一台で家が買えますよ」

「Yeah?」

「家です」

 

んん?

 

 運転手さんからドアを開けてもらって車からあかりちゃんが出てきた。

私からは冷や汗が出てきた。

「……もしかして、あかりちゃんのお家ってお金持ち?」

「だから聞いたじゃないですか。大丈夫ですか?って」

「もっとちゃんと説明してよぉおお!」

私普通の一般人だから!

事前に心の準備が必要だから!

人生で初めての体験に色々震えて来たから!

「ど、どうしました?大丈夫ですか?」

駆け寄ってきたあかりちゃんが心配そうに私を見上げる。

「だだだだだだだいじょうぶだよ」

「太鼓ですか?」

「え、えっと」

気が動転してしまった。息を吸って吐いて、まだ落ち着かないからあかりちゃんを見て気を紛らわせる。

黒のブラウスに白の丈が長いスカート。

ゆかりちゃんからのプレゼント、星のペンダントが胸元で金色に淡く輝いている。

ふふふ。ペンダントの金色を目立たせるために黒いブラウスなんだろうな。

プレゼントが嬉しかったという気持ちがびしびし伝わってくる。

……おっきいよね。前も思ったけど。

 「うん、今度こそ大丈夫。迎えに来てくれて有り難うあかりちゃん」

「い、いえ、私は車に乗っていただけなので」

「遠いところまで有難うございます」

「ゆかりお姉ちゃんまで。え、えっと、どういたしまして」

「あはは」

「そ、その……」

あかりちゃんがじーっと何かを期待する目をしている。

ああ、ペンダントに反応して欲しいんだな。

「かわ」

「どうしました?」

危ない。あのお洒落はきっとゆかりちゃんに見せるためだろうから私が言っちゃ駄目だ。

でも肝心のゆかりちゃんに反応する様子がない!

気付いてもらわなければ!

「ゆかりちゃん、あかりちゃんを見て」

「はい?」

「いいから!」

「見ましたけれど」

それが何か?と言わんばかりで気付く気配が全くない。

あー。あかりちゃん下向いちゃった。

「これだからゆかりちゃんは、全く」

代わりに懲らしめてあげよう。

ゆかりちゃんの頬をぷにぷに突く。いつかやって以来感触が気持ちよくて癖になっちゃったかもしれない。

「何ですか?」

「ゆかりちゃん本当に女の子なの?」

ぷにぷに。

「はい?」

ぷにぷぐきぃ。

「ごめん、私の指はそっちには曲がらないんだ」

すぐに指を引く。痛い。

「あかりまでどうしたんですか?」

反対側の頬にあかりちゃんが指を伸ばして、当たる寸前で止めた。

「……何でもないです」

指を引っ込めて車の方に歩くあかりちゃん。

ゆかりちゃんは不思議そうに首を傾げていた。

 

 

 女性の運転手さんが助手席のドアを開け、あかりちゃんが中に入って、運転手さんが閉める。

慣れを感じる二人の動きに、慣れない私は再び体が震える。

「本日運転を担当させていただきます夜空です。よろしくお願いします」

「よ、よろしくおねがいします」

「よろしくお願いします」

深く頭を下げられて、慌ててもっと深く頭を下げる。

「後ろの席にお願いします」

開けてもらう後部座席へのドアから中が見える。

買ったばかりのような綺麗な車内。

社長さんが座ってそうな茶色の座席。

本当に私が座ってもいいの?分不相応な感覚に足が震え出した。

 「ゆかりちゃん、ここって私が座っていい場所なの?」

「何のために迎えに来てもらったんですか」

「靴脱いだ方がいいの?ドレスコードとかない?」

「そのまま乗っていいと思います」

「大丈夫ですよ。そのままお乗りください」

 運転手さんにまで気を使わせてしまった私は入念に靴と服をはたいてから車内に入る。

座った椅子は硬すぎず柔らかすぎない程よさで迎えてくれた。

あ、柑橘系の良い匂いがする。

ゆかりちゃんが入ったところで運転手さんがドアを閉め、運転席へ移動した。

うわー私今凄い体験してる。

 

 「準備はいいですか?では出発します」

運転手さんは車内を一度確認し車を走らせ始めた。

車が進み始めるのに全く揺れないしエンジンの音や外の音が全然聞こえない。

周りの景色だけ動いているような不思議な気持ち。

「すごーい!私こんなの初めて!」

「そうですか」

「ゆかりちゃん、何か反応薄くない?」

「私は何度か乗せてもらっていますから」

「それだけで慣れるの?」

 私は何度乗っても慣れることは無いと思う。

凄く快適だけど、快適すぎて落ち着かないこの気持ち。

素直に楽しめないのは貧乏性なんだろうか。

そわそわする気持ちを私はお喋りで誤魔化すことにした。

 

 

 そこそこ距離があったけど、話してたせいか、緊張のせいか、あっという間に着いた気がする。

車が門の前で停車した。ここがそうなのかなと前を見れば私の背より高い門。

運転手さんが車を降り、門の横で何かをして、うわ、門が勝手に開いた。

「本当に映画の中みたい」

「現実ですよ」

「分かってるから!」

戻ってきた運転手さんが車を運転し、敷地内をしばらく進み再び停車する。

 「到着しました」

運転手さんが助手席の扉を開けあかりちゃんが降り、私もドアを開けようとしたらゆかりちゃんに止められた。

運転手さんが私の横のドアを開ける。待てなかった自分に恥ずかしくなってしまう。

開けてもらったお礼を言いながら車を降りる。うーん。有難いけど慣れない。

3人からお礼を受け取った運転手さんが車に戻りどこかへ走っていくのを見届け、そして目の前の建物を見上げる。

「ここがあかりちゃんのその……」

「はい、私が住んでいる家です」

「い、家かぁ」

 家って表現はしっくりこない。

後ろに見える私の背より高い門。敷地を仕切る柵に囲われた中には庭師の手入れが必要だろう綺麗で大きなお庭。

目の前には丘くらい大きさありそうな西洋風の建物。

多分『豪邸』や『お屋敷』と表現されるべきだと思う。

 私の体は圧倒され再び震えだした。

「弦巻先輩?ど、どうされました?」

「だ、大丈夫。ごめんね……あれ?私『弦巻先輩』?マキでいいよ?」

「ゆかりお姉ちゃんが『弦巻さん』なので……」

「ゆかりちゃん、私のことマキでいいんだよ?」

「別にいいでしょう」

相変わらずゆかりちゃんは頑なだなぁ。

 

 「え、えっと、いらっしゃいませ」

玄関の扉を開けあかりちゃんが中へと促す。

「お邪魔します……弦巻さん?」

私の足は震えるばかりで前に進もうとしない。

「う、うーん、あはは」

何で怖いんだろう。自分で笑ってしまう。

「行きますよ」

私の手がひんやりした。

ゆかりちゃんの手が私の手を握っている。

「ゆゆかりちゃん?」

「行きますよ」

「う、うん」

先導するあかりちゃんの後ろを手を引かれて進む。

ひんやりするけど暖かな手。

私の部屋より広い玄関、芸術的な壺や絵、光り輝く廊下。

それよりも私は繋がれた手の方が一大事だった。

緊張してるけど嫌じゃない。

嫌じゃないし恥ずかしいけどむしろ嬉しい。

そう思いながら前を見ると、あかりちゃんがちらっとこっちを向いている。

年下にこんな姿を見られたら駄目じゃん!

「ごめん、ゆかりちゃん、もう大丈夫!」

急いで離してもらう。失敗した!恥ずかしくてもう前見れない……

 

 

 「今日はここです」

あかりちゃんの足だけを見て歩き、辿り着いた部屋は襖だった。

畳みが敷いてあって木の渋いテーブル。和室!

1、2……8畳。あまり広いと感じないのは私の感覚が狂ったせいかな。

墨で桜の絵が描かれた掛け軸、い草の香り。な、何この親しみやすいお部屋!

「びっくりした。西洋風なお屋敷にもこういう部屋があるんだね」

「和室がないと不便だし、あれば落ち着くから、らしいです」

日本人が建てるとそういうこともあるんだな。

 先導して中に入るあかりちゃんに続いて入室し、あかりちゃんの隣にゆかりちゃん、その正面に私が座る。

「うん、私も凄く落ち着いた」

「よ、よかったです」

「凄い緊張してましたね」

「あはは。別の世界に来たみたいだよ」

「いつも通りでいいんですよ」

「無理だって。何でゆかりちゃんが平気だったのか不思議だよ」

「言った通り慣れですよ。それより勉強始めましょう」

「おー」

「……はい」

 今日やるのは特に苦手な数学!

兎に角今は基本問題だけやりましょう。弦巻さんには基礎が足りません。

そうゆかりちゃんに言われてから私は基本問題に集中している。

問題集を進めてると確かにそれを自覚してしまう。

基礎の問題ですら躓くことが多いからだ。

今日は分からなかったらすぐゆかりちゃんに聞けるから有難いな。

問題集を開き、数字とxyzを相手に格闘を始めた。

 

 たまに私かあかりちゃんがゆかりちゃんに質問する声以外、静かな勉強時間が進む。

と思ったら、メイドさんがお茶を持ってきてくれて心臓が止まるかと思った。

メイドさんってテレビの中にしかいないと思ってた。お茶は美味しかった。

 

 一時間くらい経ったかな。少し疲れてきた。

二人はどうかなと頭を上げると、集中して勉強している。

休憩しようとは言えない雰囲気。

もう少し頑張ろう。うん、一人で勉強してるときにはしない考えだ。

 

 さらに一時間くらい。難しめの問題を解いて区切りがよくなったところで、どっと疲れを意識してしまった。

頭が重たい。二人はまだ集中してるみたい。凄いなぁ。

うぅ。悪い気がするけど、そろそろ

「ごめん、疲れてきちゃった」

「じゃあ休憩に国語をしましょうか」

「休憩にならないよ!」

「?」

あかりちゃんが不思議そうな顔をしてる。

まさか本当に勉強の休憩に勉強してるんだろうか。

ここは話題を変えるしかない。

「そういえば、ゆかりちゃんとあかりちゃんって二人でいるときいつも何してるの?」

「大体勉強してますよよね」

こくこくと頷くあかりちゃん。

二人とも真面目だなぁ。私が勉強するのなんてテスト前と宿題くらいだもの。宿題よく忘れちゃうけれど。

「べ、勉強かぁ。えっと、それ以外で、遊びとかは」

「二人で遊ぶといえば将棋でしょうか」

「ゆかりお姉ちゃんすっごく強いんですよ。負けてばかりですけど楽しいです」

「し、渋いね。将棋やってる女の子達初めてみたかも」

「ずん子さんきりたんちゃん、茜ちゃん葵ちゃんもやってますよ」

「嘘!?私知らなかったんだけど!」

「本当です。何度か対局したことありますよ」

「私仲間外れ……?」

「そ、そんなことないと思いますけど……」

「弦巻さんが将棋を知ってるように見えないから話を振らないだけでしょう」

「う、うーん。確かに私将棋全然分かんないからなぁ」

 お父さんの影響でテレビで見たことあるけど、私には全然分からない。

言われてみると東北姉妹はそもそも和風だし、琴葉ちゃん達も和風好きだっけ。

そう考えたら別に不思議なことでもないのかな。

「いつもその人達と何を話してるんです?」

「んー?いつもは雑誌見ながらこれいいねとか。今日も持ってきてるよ」

鞄から雑誌を取り出し、テーブルに広げてページをぱらぱらめくる。

「あ、今」

「んー?」

あかりちゃんが反応したページを探して逆側にめくる。

「これ、私がつけてるのですよね」

「うん、この間見た他のもあるね。同じシリーズの太陽とか月とか」

「弦巻先輩はお日様が似合いそうですね」

「有難う。ならゆかりちゃんはお月様かなー?」

「私には似合いませんよ」

「似合うよ。ねーあかりちゃん」

「は、はい。私もそう思います」

「……あかりまで」

「あ、そうだ!私が今度20位入ったらこれがいい!」

「太陽ですか?」

「そう、それで私がゆかりちゃんにお月様プレゼントするの!それで皆お揃いにしよう!」

 子供っぽいかもしれないけど、我ながら悪くない考えだと思う。

勢いのままゆかりちゃんの両手を包み込むように握る。

この熱よどうにかゆかりちゃんに伝わっておくれ。

「はぁ」

無理だった。

「20位以内に入ったら、プレゼント交換するんですか?」

あれ、そういえばその話したのってあかりちゃんと別れた後だったっけ。

「そうそう。ゆかりちゃんと約束したんだ」

「……そうなんですか」

あれ、あかりちゃんが何か微妙な反応。

ゆかりちゃんとお揃いになるから喜ぶと思ったんだけどな。

「弦巻さん前回170位くらいでしたから、どうなるか分かりませんけどね」

「全体の人数って何人くらいなんです?」

「えーと、200人と少しくらい?」

「……え、えっと。が、頑張ってください」

うん、確かに遠い。それは分かってる。

けど!それでも!やりたいことがあるんだ!!

「あかり、弦巻さんはそういう人です。後そろそろ手を離してください」

「あ、ごめん。うん?そういう人ってどういうこと?」

「前向きに勉強してて偉いってことです」

「でしょー?だから勉強しよー」

「そろそろ休憩終わりにしましょうか、あかりも大丈夫です?」

「……はい」

 数学の問題集に再び向き合う。

今の私は覚悟完了。やる気が溢れて何でも出来る気がする。

応用でも引っ掛けでも何でも来い。全部解いてあげるから!

 

 

 「ゆかりちゃんここどうしてもわかんない」

「はいはい」

覚悟完了してもすぐに頭がよくなるわけではない。

私覚えた。

その日は夕方までみっちりと勉強し、一人ではあり得ない程進んだ問題集に驚いた私は二人に何度も何度もお礼を言った。

 

 

 

 

 「もしもし、ゆかりお姉ちゃん」

『もしもし。電話してくるなんて珍しいですね』

「そ、その」

『どうしました?』

「……」

『まとまってからでいいですよ』

「……つ、次のテストで私が15位以上だったら、私からの贈り物を受け取って欲しいんです」

『私が受け取るんですか?私が贈るのではなくて』

「は、はい」

『不思議なことを言いますね』

「だ、駄目ですか?」

『いえ、いいですけれど。年下の子から受け取っていいものかと少し悩みまして』

「むー」

『どうしました』

「いえ、いいんです」

『そういえばあかり』

「どうしました?」

『今日私が贈ったペンダントつけてましたね』

「え、ええ、はい」

『似合ってたと思いますよ』

「…………」

『あかり?』

 この電話は現在、持ち主が枕に顔を突っ込んで足をばたばたしているため電話に出ることが出来ません。




 最後まで読んでいただき有難うございました。
UAやお気に入りが私の予想以上に多く、SSを書く際の励みと楽しみになっています。
読んでくださっている方、お気に入りを押してくれている方、本当に有難うございます。
また次話も投稿したいと思っているので、その話も読んでいただけると幸いです。

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