結月ゆかりの人間関係   作:アニヴィア

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 SSを開いていただき有難うございます。
今回は『結月ゆかりの人間関係』1000UA記念に、1000文字丁度のSSをおまけにつけました。


こうしてると簡単に勝てそうなのに/音楽で近づく距離?

 次こそは勝つ。もう負けたくない。

人間誰しも、一つは他人に負けたくないものがある。

私にとっては勉学、試験の点数がそうだ。

首位でなければ我慢がならない。

それなのに私は3回連続でゆかりさんに負け、二位が続いてしまっている。

悔しい思いをし続けてきたけど、再戦の時はすぐだ。

 10日後の高等部二学年一学期中間試験。

今度こそは私が首位を奪い返す。

 

 『I have been reading this book』

have been ~ing ~し続けている。うん、このくらいは大丈夫。

今日私は一人で登校しているので、頭の中で昨日の復習をしていた。

ゆかりさんを追い越すためには、隙間の時間も有効に使わなくては。

次は、えーと。

あら?

 階段を上がっていると、目の前に白いハンカチが落ちてきた。

前を歩いていた人が落としてしまったみたい。

「ハンカチ落としましたよー」

声をかけつつハンカチを拾う。

 落とした人はすぐに戻ってきたようで、目の前に女性の足だけが見える。うー。細い足羨ましい。

顔を上げると、無表情に紫色の髪。

綺麗な紫色の瞳が瞼に遮られて少し見えづらい、眠いのかな?

「ゆかりさんじゃないですか」

「おはようございます、ずん子さん。ハンカチ有難うございます」

ハンカチを手渡す。

すぐ前にいたのに気づかないなんて、復習に気を使いすぎてたようでちょっと反省。

「おはようございます。今日は眠たそうですね」

「えぇ。テスト前だからと勉強しすぎました」

「体調管理もテスト勉強の一環ですよ?」

「分かってはいるんですけど」

「私としては多少体調が悪くてもいいんですが。そろそろ一位欲しいので」

「最近、そういうの隠さなくなってきましたね」

「ふふふ。欲しいですから。あ、今日図書室行きますか?先輩から去年の試験問題貰ってきましたよ」

「有難うございます。行きます」

 私はゆかりさんとよく一緒に勉強している。

首位を争う仲ではあるけど、それ故いい刺激になるし、学ぶことも多い。

過去問を渡すのも、私がゆかりさんの解き方を学べる機会の一つになる。

 今回はそんな打算的な理由だけじゃないけどね。

「いえいえ、この間きりたんの面倒見てもらいましたから」

そう、この間のお礼。妹が面倒を見てもらい、お金まで使わせてしまったからにはお礼をしなければいけない。

「たまたま会っただけですけど」

「いえいえ、本当有難うございました、でも、その」

「はい?」

「……おやつ食べすぎなときは止めてもらえますか」

「……すいません」

 

 実は私は先輩のさらに先輩から私達の教科担当が作った過去問も入手している。

そっちはゆかりさんには内緒。

きりたんのお礼があっても、渡してしまうと後が怖すぎる。

 

 

 

 

 放課後 、相変わらず眠そうなゆかりさんと私は図書室にやってきた。

マキさんも来たがっていたけど、補習からは逃げられない。

図書室は教室より静かで、辞書も揃っているし勉強するにはいい場所。

4人掛けテーブルの奥の方に私が座り、ゆかりさんはその正面に座る。

「はい、これです。去年の問題」

「有難うございます。よく手に入りましたね」

「いえいえ。生徒会の先輩がいい人で助かりました」

「そういえば生徒会でしたね」

「そうなんですよ。欠員あるんでゆかりさん入りませんか?」

「嫌です。そういえば今日の英語の宿題面倒ですね」

「あー。英作文でしたっけ。ここで終わらせます?」

「そうしましょうか」

「じゃあ辞書取って来ますね」

「有難うございます」

英作文で使うのは普段授業では使わない和英辞書だから学校に持ってきてない。

こういうとき図書館は便利がいい。

席を立って本棚を探し、適当な和英辞書を二冊見繕い、席へ戻る。

 

 

 「……嘘でしょ」

戻ってきてみたらゆかりさんが眠っていた。椅子に座ったまま前後に揺れている。

座ってから5分も経ってないのに寝るなんて、本当お疲れだったみたい。

「……うーん」

私が辞書を持ってきたのに自分は寝ている。何より一位を取られ続けている悔しい相手。

私の心に悪戯心が芽生えた。軽い悪戯くらいならゆかりさんは許してくれるだろうし。

何しようかな……確かマキさんが、ゆかりさんの頬は感触が気持ちいいと言ってたっけ。

ゆかりさんの右隣に座って頬を突く。

うん、程よく柔らかくて確かに気持ちがいい。

あ、しまった。

頭が反対側に倒れそう。急いで左手を伸ばし頭を支える。

 ふぅ、危な……あいた

今度はゆかりさんの頭が反対側、すなわち私の方に倒れて、私の肩で止まった。

「ゆ、ゆかりさん?」

返事はない。肩に頭を乗せたまま寝ている。

静かな寝息がはっきりと聞こえるほどの顔の距離。

 無防備に眠っている顔を間近で見てしまった。

恥ずかしくなってきた。

体勢を変えてもらわないと。

 そう思い手を動かす。これが間違いだった。

手を動かすに従って自然に私の肩が動き、ゆかりさんの頭の支えが不安定になり、重力に従いゆかりさんの頭が落ちる。

私の太ももに頭が落ちた。痛い。

 

 いつの間にか膝枕になってしまった。

 

 「ゆかりさんっ!?」

しまった。焦って声が大きくなってしまった。

図書館にいる人達にこの状況がばれていないことを祈る。

幸い、長椅子で隠れているため、見えづらいはずだけど、だからといってこの状況が大丈夫なわけではない。

他人に見られたら「結月さんとずん子さんってもしかしてそういう…」と思われてしまう。

そして何より、私の顔が真っ赤になって熱を持っていると自覚できるほど恥ずかしい。

早く起こさないと。

 ゆさゆさと肩を揺さぶってみる、起きない。

頬を突く、駄目。伸ばしてみても、おお、思ったより伸びる。じゃない、起きない。

 うぅ、膝枕なんて妹にするのも抵抗があるのに、まさかゆかりさんが。

それでなくても、私にとって太い足はコンプレックスの一つなのに。

まさかコンプレックスの上にゆかりさんの頭が載ることになるとは。

ゆかりさんに「ずん子さんの太ももって丸太みたいですよね(笑)」と言われたらもう二度と足出せない。

今すぐゆかりさんみたいに細い足になってお願い。

 

 じゃなくて!

起きて貰わないと!

えーと、えーとー。

脇をくすぐって、起きない。

そのまま手をスライドさせ、ぐ、ウエスト細い、羨ましい。

 これじゃ私セクハラしてるだけでしょ!?

落ち着け、落ち着くんだ、私。

えーと。膝を抜けばいいけど、でもゆかりさんの頭が長椅子につくのは駄目だから。

 

 ゆかりさんが寝返りをうった。

外を向いていたゆかりさんの頭が私のお腹の方を向く。

駄目!駄目!これは本当に駄目!

お腹の匂い嗅がれる!

こんなの新婚のお婿さんがやることでしょ!

誰が誰のお婿さんですか!

思わずゆかりさんのお腹を叩く。叩いてしまった。

「ん、んー」

まずい、起きそう。

ここで起きられたらどうしようもな……そうだ!

起死回生の手段を見つけた!お願い間に合って!

 

 

 

 手段を施し30秒後、ゆかりさんが体を起こした。

 「……寝てしまってましたか」

「え、えぇ。はい。そうですね。余程お疲れだったんですね」

 私の解決策は、私の膝の代わりに鞄を入れてゆかりさんの枕にする、だった。

こんなことにも気づかなかったなんて。

けど、ゆかりさんが起きる前に解決できてよかった。

このことは絶対誰にも言わない。

思い出すだけで顔が赤くなりそう。

「鞄敷いてくれたんですか。有難うございます」

「いえいえ。大丈夫ですよ。お疲れみたいですし、今日は終わりにしましょうか」

「宿題する予定だったのにごめんなさい」

「仕方ないですよ。それより、お買い物行きますけど一緒に行きます?」

「行きます。今日は何が安いんでしたっけ」

「確かお魚ですね。でも、ゆかりさんはお魚食べない方がいいですよ?」

「何故です?」

「お魚食べると頭にいいって言うじゃないですか」

「今日は魚煮ることにします」

「私はー。今日は焼こうかな?後枝豆も買わないと」

「妹さんがこの間、ずんだ餅はもう嫌だって言ってましたよ」

「え?本当です?」

「はい」

「えー。いつも美味しいって食べてくれてますよ?」

「……そうですか」

 ゆかりさんはたまにおかしなことを言う。

 うーん、図書室で勉強は出来なかったけど、いい気分転換にはなったかな。

ゆかりさんが無防備に寝てる姿を思い出す。

何だか勝てそうだ。

早く帰って勉強しないと。

 

 「きりたーん、きりたーん」

「はーい、ずん姉様、どうしました?」

「テストが終わったら、ゆかりさん家に呼ぼうって思ってるんだけど」

「本当ですか?ついに復讐のときですね」

「頑張ってね。あ、そうそう」

「はい?」

「私が作るずんだ餅、もう嫌になっちゃったって本当?」

「はぁ。正直毎日食べてるから飽きてきたといいますか」

「そうなんだ……ごめんね、喜んでくれてると思ってた、本当にごめんね。もう作らな」

「わー!わー!嘘です!嘘に決まってるじゃないですか!!僕ずん姉様が作るずんだ餅大好きですよ!」

「え?本当?有難う!えへへ。じゃあ作ってくるねー!」

「楽しみです!凄く楽しみです!……はぁ」

 

 

おまけ。少し前のお話。

 

 音楽を聴かない人間はいない。

ゆかりちゃんも何かしら好きな音楽があるはず。

それさえ分かればカラオケに誘いやすいんだけど。

 普段何聞いてるのかな?

手っ取り早いのは直接聞くことだけど、もし、万が一だけど

『何故弦巻さんに教えなければならないんですか?』

などと冷たい反応をされたら、私の心は砕け散る。

慎重にならなければいけない。

 

 流行りの歌が好きな感じではないし、クラシックとか洋楽?

クラシックなら、クラシックに歌をつけたものを薦めてみようかな。

洋楽なら、歌えるどころかギターで引ける歌も結構ある。

後はー。演歌とか?

無表情で演歌を歌うゆかりちゃん。

想像したら笑ってしまいそうになる。

「弦巻、聞いてるのか?補習中なのに余裕だな?」

「はい、先生!真面目に聞いてます!」

危ない。先生に怒られてしまった。

 ちょっと集中しよう。

 

 

 

 「以上だ、宿題を出しておくから、各自復習しておくように」

ふぅ、やっと補修の時間終わった、のはいいんだけど、

宿題が多い。

早く家に帰って宿題しないと、間に合わ、お?

廊下にゆかりちゃんがいる。

耳にイヤホンをつけて何か聞いてるみたい。

きっと音楽聞いてる!渡りに船!

「ゆかりちゃーん、やっほー」

「…ああ、弦巻さん補習受けてたんですか」

「あはは。ちょっと小テスト失敗しちゃって。それより、何聞いてるの?」

「これですか?聞いてみます?」

イヤホンを片方外してゆかりちゃんが差し出してきた。

えーと、これは、つまり、一つのイヤホンを二人で分ける、あれ。

少女漫画でよくある、あのシーン。

 「え、えっと」

「どうしました?」

普段は平気なのに何か改まってみるとちょっと恥ずかしい。

 だけどこれはチャンス。というかもはや勝った。

何でも来い。即座に反応してカラオケの誘いに繋げて見せる。

カラオケでデュエットする私とゆかりちゃんの姿が見えるようだ。

勇気を出して!

いざ!

隣に座ってイヤホンを耳に着けた!

 

 

『Not wearing follow the truth is easy』

歌じゃない。淡々と英語が読み上げられている。

 

 

うん?

 

 

「ゆかりちゃん、何これ」

「リスニングです。図書館でプレーヤー本体も借りられるので助かりました」

……よく考えたら、学校の廊下でイヤホンつけて趣味の歌聞いてるはずないよね。

 

 「ゆかりちゃんって本当こういうことするよね!」

「はい?」

落胆を叫ぶも、何言ってるのこの人って反応された。

ゆかりちゃんは悪くないけどゆかりちゃんが悪いと思う。




 最後まで読んでいただき有難うございました。
前作投稿時、今までのペースなら1000UAまで4日くらいかなと予想していたら、その日にもう超えてしまって、驚きのあまり心臓が動き出しました。
こんなにも読んでいただけるとは思っていませんでした。
本当に有難うございます。
また書こうと思っているので、よろしければ次もお願いします。

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