日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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第一章
第00話 「白虎」


 皇歴2005年8月10日。

 畳が床一面に敷かれ、壁は温かみを感じる木材で囲まれた一室。

 それほど広くないこの部屋に数十人の大人が詰め込んでいた。それぞれが違う資料に目を通しながら、真面目な表情で物々しく話し合っている。

 部屋の奥には小さな子供が一人紛れ込んでいた。

 誰かが連れて来たにしても部屋の雰囲気に似つかわしくない少年に誰も無下に扱うことは無かった。寧ろ、大切に、割れ物を扱うように、上役の機嫌を取るかのように接している。

 まるでその少年こそ自分たちよりも権力を持っているかのように。

 

 ―まぁ、実際そうなのだけど…。

 

 どこかやる気のない半眼だけ開いた少年はつまらなさそうに周囲の大人連中を見渡す。

 軍需産業の武器開発班、桐原産業の地底調査班、日本国政府機関所属の派遣員などが日を改めてやってくる…今日は技研の連中だったかな?。

 

 大の大人たちがこんな幼い子供に頭を下げる光景は情けなくも感じる。

 向こうにではなくて()()()()()()()()()()()()()()()()()()自分に対してだ。

 

 部屋に居た少年の名は枢木 白虎(くるるぎ しらとら)

 今年で13歳になったただの子供――ではなく、日本国の名家である枢木家の長男にして、現日本国首相の枢木 ゲンブの嫡子である。

 幼くして天童と称される彼はまさに天才であった。

 小学生になる前に一般の高校までの学を身に着け、やんちゃに外を駆け巡るより子供らしさは無く大人びていた。ゲンブに連れていかれたお偉いさんが集まるパーティーでは落ち着いた態度で首相の子として、枢木家の嫡男として恥ずかしくない態度と礼節を持って見せたのだ。

 あまりの少年らしくない彼を気持ち悪いと毛嫌う者もいるが、本人は気にも留めていない。

 

 元より()()()()の大人のほとんどに期待など抱いていないのだから。

 

 あー…周りに言っても信じて貰えないから口にしたことは無いのだが、俺こと白虎は転生者である。

 理不尽に事故にあって死んだかとか、人の生死に関われる力を持った存在に会ったとか、特別な能力を持って転生したとかは無い。ただただ前世の記憶を持ち合わせているだけだ。

 見て来たアニメに歩んできた人生とかその程度の記憶だ。これだけでも能力と言えるが実際に超常の異能が存在するこの世界では些細な物だろう。

 

 なにせコードギアスの世界に転生したのだから。

 産まれた当時は心底驚きましたよ。いきなり赤子となって見知らぬ女性に抱きしめられていたんですから。

 しかも枢木 ゲンブの息子とか最悪の一言に尽きた。

 この世界の未来を知っている分、読めている分、最悪の先しか見えないのだ。

 

 日本国最後の首相である枢木 ゲンブの息子…。

 うん、日本解放軍を中心とした日本の反ブリタニア勢力の旗印として使われるのですね。

 ならば国外に脱出――しても中華連邦に逃げれば澤崎 敦などに旗印に使われるだろうし、ユーロピアに行けば強制収容所送りだろうし、弟の枢木 スザクのようにブリタニア軍に入れば差別を受けつつナンバーズの歩兵として使い捨てられるだろう。

 ならば名誉ブリタニア人として余生を送るか?……ゼロ・レクイエムで悪逆皇帝と罵られるルルーシュに付いた枢木 スザクの兄なんてどうなるか――否、どうされるか分からない。

 

 これ詰んだんじゃねと絶望したくなる。

 死にたくないし、差別と虐げを受けるのも好ましくない。

 ならば取るべき道は自身の有能性をアピールしつつ安全そうで問題ない人物の側で仕えるか身内になるかと判断する。

 有能性は前世で培った経験や知能を使えば何とかなる。そして一応だが安全かつ問題ない人物との接点も出来そうだ。

 原作開始時より12年前でまだ赤子だが皇 神楽耶との婚約候補となった。原作ではスザクとそんな話が合ったようだが、長男で俺が居るので俺との話に変わりそうなのだ。あくまで候補であり、年齢的に近いスザクも出ているので安心はできないが。

 

 どちらにしても皇 神楽耶の側近ともなれば平和な人生を送れるだろう。安易な皮算用だと笑われるかも知れないけれどそれぐらいしか思いつかなかったし、それで良いと思った。

 あまり無茶もしたくないしね…。

 

 そう思っていたんだよな――去年までは。

 

 きっかけは去年の弟の誕生日。

 枢木 スザクの4歳の誕生日という事で枢木家ではお祝いの準備に忙しかった。と言っても父は一言二言祝いを淡々と述べるだけで別段何か想っている様子はないが。

 さすがに12歳の自分からも何かをするべきかと声を掛けたのだ。

 はっきり言ってスザクの事はあまり好きではなかった。まだ幼いという事で騒がしく暴れまわるし、その結果物を壊す。子供なのだから当たり前と言ったら当たり前なのだが、騒がしいのが基本的に好きではない俺からしたら嫌悪を抱くのは時間が掛からなかった。

 

 それでも相手は幼子。

 表情や態度に出すことは一切せずにしていた。と言ってもあまり勉学などを理由に関わらないようにしていたのは確かだ。

 

 まったく感じていなかったスザクは突然の俺の言葉にきょとんとした表情を浮かべた。

 話し掛けてきたことが信じられないと言いたげな表情だ。

 そして次の瞬間にはその場に可愛らしい天使が現れた。

 

 「にいといっしょにいたいです」

 

 心の底から満面の笑顔を浮かべながら、元気に遊びまわることしか考えていないようなスザクがそう言って来たのだ。

 俺に興味を持っていたのとか、自身が抱いていた嫌悪感がどうだとかは一瞬にて消え去った。

 

 あまりに純粋無垢なスザク自身に俺の毒気が抜かれて、可愛らしい笑顔に心の底から見惚れてしまった…。

 その日、一日はスザクと一緒に過ごした。

 何をするにも一緒に、動けば後ろをとことこと付いて来る。

 

 なんだこの可愛い生物は?

 未来の様子を知っているとしてもこの生き物を無下に扱う事は出来ないと思い知った…。

 

 この時に兄としての想いが芽生えた。

 弟、スザクの為に未来を変えれないかと願ったのだ。

 

 

 軍事大国である神聖ブリタニア帝国に強硬な姿勢を取って日本国民には支持を得ていたが、ナナリーを嫁にするとか言ったり、終わりまで攻め気だけに走ったり、ある話ではルルーシュ達を殺そうとしたりした父、枢木 ゲンブ首相。

 

 守りを重視すると言えば聞こえがいいが我が身大事で逃げ腰だけは軽く、戦場で藤堂 鏡志郎の足を引っ張りまくった片瀬 帯刀少将。

 

 無骨な軍人で日本人がまだ諦めていない、死んではいない事を内外に知らせる為にとはいえ、後先考えず一般人を人質に取った下策に走った草壁中佐。

 

 

 

 ………あれ?日本国のキャラクターで有能そうなのが藤堂 鏡志郎と四聖剣(日本がブリタニアの植民地にされる前の千葉 凪沙は学生なので二人のみ)ぐらいか。神楽耶は原作開始ぐらいにならないと幼過ぎるし、自身の力を振るう事も出来ないだろうし。

 これは知識・未来を伝えて何とかするとかいう甘い考えは無理だとはっきりと理解した。

 

 

 

 だったら俺が動くしかないだろう。

 幼き身でやれることは少ないが幸いにも枢木家の家名に父親の権力、桐原産業の創設者の桐原 泰三の協力など利用できるものには恵まれている。

 ゲンブは利になることを理由付けして伝えれば納得し、桐原のじいちゃんには大量のサクラダイトが富士の下に埋まっていることを伝えた。勿論、日本侵攻が早まるかも知れないので公には発表されていない。

 そもそも日本で原作のように取り出すことは不可能だ。どれだけ父が頑固で強引な手腕を振るおうと富士山そのものを取り出すための装置に作り替えるのは批判がすさまじいことになる。別ルートでの発掘になるとかなり手間取るが原作開始までに間に合えばいいのだからゆっくりと考えて貰おう。

 

 桐原産業の人とはその話がメインで、軍需産業には対ナイトメアを想定した兵器の開発、技研には災害時に使えるとして開発案を持ち込んだ機械。…誤解が生まれないように細くすると災害時に使えるが戦争にも転用できる機械である。

 

 こちらのほうが日本侵攻までに間に合うかが怪しいのだが、間に合わなかったら間に合わなかったで何とかしないといけない。

 五年も前から気が重いよ…。

 

 「しろにいあそぼぉ」

 

 襖の向こうよりスザクの声が届き、大人たちは顔をしかめる。

 コードギアスの日本国の大人たちは前世に比べてもプライドが高すぎる。天元突破しているのではないかと思うほどだ。だけど実績も叩き出して、利益をいくつか生み出し、権力のある父親を持つ俺に対して頭を下げねばならない。出来るなら下げたくないもの理解している。さっさと済ませて関わりたくない気持ちを持っていることも知っている。

 だから断って話を詰めないといけない……分かってはいるんだけども…。

 

 「スザク、少し待っていてくれるかな。

  皆も休憩を挟もう。かれこれ二時間も詰めっきりでは思考能力が鈍ってしまう。何か甘い菓子とお茶を持ってこさせよう」

 

 何か言いたげではあるが頷き、二つ返事を返した大人たちに背を向けて襖を開けた。

 

 「待たせたなスザク。何をしようか」

 

 先ほどまで半眼で冷めていた白虎は消え去り、穏やかな微笑みを浮かべた表情に周りの大人達は驚くばかりだ。

 スザクは遊んで貰えると大いに喜び手を引いて行く。

 

 これから何があろうとこいつだけは護って行こうと嬉しそうなスザクを見て白虎は心に誓うのであった。

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