神聖ブリタニア帝国第二皇女コーネリア・リ・ブリタニアは戦争を行っている戦場の真ん中と言えど高揚感を隠しきれないでいた。
日本にて軍神と謳われる二十にも満たない若き軍人――枢木 白虎。
奴は初めて私に敗北というものを叩きつけてきた。
それも激戦の末とか辛勝なんて判定ではなく、言い訳のしようもない敗北…。
油断があったなんて皇帝陛下の前ではいい訳にもなり得ない。
弱いから負けた………ただそれだけ。
大きな憎しみと悔しさを味わっ――いや、それだけではないな。
策士と優れたアイツに対してそういった感情以上に興味が湧いた。
諜報部に色々と調べさせたがどうも怪しい男という事ぐらいしか分からなかった。
軍属になったのが一年と数か月でいろんな部署を周り、少佐の地位を手に入れるなど親の七光り、または裏工作しかありえない。でなければ調べたような短期間に功績を上げるなど不可能である。しかし実力はあるのだから不思議としか言いようがない。
グラスゴーを実戦投入して対策を練るのでなく、導入した第一次の待ち伏せの時点で対策をした兵器を使用してきた。まぁ、これに関してはブリタニアの情報が筒抜けだったのか、相手が非常に優れていたのか解り辛いところではあるが…。
なんにしてもこの相手に興味が湧いたのは本当の事だ。
そして知れば謎が増えるアイツを自らの手で討ちたいと強く想ってしまう。
武人として強い相手と戦いたいというのはもはや性なのだろう。ブリタニア皇族の皇女としてなどなど、また
だが、今の私には何事よりもそれだけが―――それだけしか考えれない。
いつもなら戦場を駆けて敵対する者を討って、討って、討ちまくって武功を上げていくところだが、今日は白虎の為に雑魚を見逃し、暗殺者やコソ泥の如くに身を潜め、猟犬のように何処にいるのかと必死に嗅ぎまわった。
私を破り、私が認めた強者…。
それの命運を今私が握ったのだ。
コクピットから乗り出し銃口を向けて。
高揚感が胸の中を漂う中、私はトリガーに指をかける。
『アンタに俺は―――殺せやしないさ』
認めた相手に馬鹿にされたようで本気で腹が立つ。
だが、殺しはしない。
肩か耳を撃ち抜いてその言葉を撤回させ、捕縛する。
心中を渦巻く感情を表情に出さぬまま、銃口を頭部よりずらしてトリガーを引いた。
銃の反動にしては強すぎる衝撃がコーネリアを襲った。
大きく揺れる機体の上で世界がスローモーションのように視界に映っているコーネリアは訳も分からずゆっくりと見渡す。
自身が乗り込んでいたグラスゴーの右腕が吹き飛んでいる。
周りには対ナイトメア兵装の武器を持った者など居らず、日本軍兵士は白虎の後ろで驚愕の表情を晒している。
ならば何がどうなって腕を吹き飛ばした?
視界の先に居るのは同じくグラスゴーの群れ。
ただその銃口は日本軍ではなくこちらに向いていること以外は何も変わらない。
――あぁ…そういう事か。
たったそれだけで全てを理解した。
自分は敵の策略にまんまとはまったのだ。
頬より血をたらりと流している白虎はスローに映るコーネリアの視界内でニタリと卑下するように笑い、人差し指と中指を伸ばし、薬指と小指は握り、親指を立てて銃のように見立てた右腕が向けてきた。
「――パン」
短く呟かれた言葉をきっかけに向かいに位置していたグラスゴーの銃口が輝き、銃声が鳴り響いた。
大きな衝撃を受けて横転するグラスゴーより地面へと投げ出されたコーネリアは歪んだ笑みを浮かべる白虎を睨みつけながら意識を失っのだった。
グラスゴーの銃撃を背で感じながら驚く部下たちを忘れ、白虎は大口を開けて興奮を露わにする。
「はっはぁー!ざまぁ見晒せブリキども!!」
囲んでいたブリタニアのグラスゴーが一気に撃ち抜かれていく。
止む事のない苛烈な銃声の前に抵抗など行えず、スクラップに変わっていく中、数機のグラスゴーだけは咄嗟に遮蔽物や命を絶った味方機を盾にして何とか凌いでいた。
コーネリアが撃った銃弾により掠った頬の傷をなぞりながら、この状況に上機嫌になった白虎は銃撃戦のど真ん中であろうが悠々と散歩をしているかのような気楽さで歩く。
『同士討ち!?お前たちは何をしているのか分かっているのか!!』
状況を飲み込めていないギルフォードの叫びが響き渡るが誰一人トリガーを引く手は止めない。
まったく楽しくて楽しくて仕方がない。
愉快に愉悦に頭の中がハイになっている事に気付いているがもはや止められない。
「どうしてこうも歪んじまったかなぁ…」
クツクツと笑いながら転がっているコーネリアのグラスゴーのコクピットに寄り掛かる。
腕も足も壊れたナイトメアなどもはや兵器ですらない。
警戒する気すら起きない。
しかもパイロットが気を失っているのであれば尚更だ。
『すまない遅れた』
「構わないですよ。寧ろナイスタイミングです」
『埋め合わせはこの戦場で果たさせてもらう!』
間に合ってくれて助かったと心より安堵する。
藤堂や四聖剣が戦場でなく成田に籠っていたのはすべてこの時の為だ。
戦場では敵軍の兵器を入手する機会はよくある事。
中でも海戦にて転覆させた輸送船にはたんまりと転がっていた。
勿論最新鋭の兵器であるグラスゴーもだ。
鹵獲に捕縛し、こちらに寝返った部隊は手土産に、荒れた戦場では完全なものではないが残骸を集めて修復すれば組み立てる事だって可能。
そんなこんなで集めに集めたグラスゴーを成田連山内部に持ち込み、藤堂指揮の下で人型自在戦闘装甲騎部隊を設立させ、実践可能なレベルまで訓練させたのだ。
短い期間内でよくやってくれたよ。
まぁ、知識はあったから旋回活殺自在陣などのアニメで使用された陣形は伝えておいたから、陣形考案はしなくても済んだかな。
何にせよ劣勢に立たされていた日本軍は藤堂らの援軍によって巻き返す事になる。
すでに鹵獲した敵ナイトメアのデータより位置情報がこちらに駄々洩れで、成田で藤堂に実戦での体験談を加えた教えを受けたルルーシュが全体指揮を、藤堂が現場の指揮を執っている。
さすがの化け物染みたシュナイゼルでもこの状況を覆すのは難しい。
無理だとは言えないがそろそろシュナイゼルにはこの戦場から退出して貰う予定だからもはや関係ない。
優勢になり勢い付いたブリタニアは東京内部に深入りし過ぎ、体勢を立て直す暇さえ有りはしない。
「さぁ~て兵士諸君!ここまで来たんだ―――最後まで暴れまくれ!」
自身と同じようにグラスゴーに囲まれていた兵士達は銃弾飛び交う戦場のど真ん中に居る事に怯えていたが、獰猛かつ朗らかに笑みを見せつける白虎の言葉にごくりと口内に溜まった唾を飲み込み雄たけびを挙げる。
自らを奮い立たせるために、一度屈してしまった恐怖を追い出すように、勢いをつける為に各々口を大にして挙げる。
白虎も負けじと大きな雄たけびを挙げる。
「ナイトメアフレームは歩兵でも倒せる兵器だ!脚部や関節部、コクピットを潰してパイロットを引き摺り降ろせ!我らが勝利は目前ぞ!総員奮起せよ!!」
各々武器を手に駆け出す。
藤堂指揮の部隊がそれに合わせるように部隊を展開して突っ込んで行く。
それを見送った白虎は歩みを止めて気絶しているコーネリアに銃口を向ける。
さて、ここでコーネリアを殺害したときのメリットとデメリットを考えてみようか。
デメリットとしては皇族に忠誠心を捧げているブリタニア連中の怒りを買う事。メリットとしてはこの先も日本がブリタニアと戦争をする場合には強敵として現れる敵を早々に退場させれる事だ。
ブリタニアとの戦争が続く可能性も否定できないが、もはやそれだけの余力があるかを考えれば可能性は低い。
日本の快進撃により植民地エリアの反ブリタニア活動は活発になりつつあり、大国の中華連邦がグラスゴーを手にした事で早くに手を打たねば攻めてくることだってあり得る状況になりつつある。それにユーロピア連合や白ロシアも動きかねないのだからいつまでも日本にだけ目を向けている訳にはいかない
ブリタニア上層部はどんな事情があろうとも日本との一時的でも和平交渉に持ち込んで諸外国への対処に向かいたい筈なのだから。
ここでコーネリアを殺害したとしても交渉の席は一度は必ず準備される。
その場であのカードを切れれば間違いなく戦争は終結させれる自信はある。
トリガーに指をかけて力を籠める…。
引く前に銃口を上に向けてトリガーから指を外す。
「今日は止めておこう。
そう呟くと女性というよりも米俵でも扱うように担ぎ、空いている左手で構えた拳銃を額に当てて再び大声を上げる。
「おらブリキども!大人しく降伏しねぇとテメェらの大事な姫さんの額に風穴が空くことになるぞ!!特にギルフォードとダールトンはすぐに出てこい!!出てこねぇと五分おきに爪を剥ぐぞ!!」
さっきの言葉はどうした!?と味方からも敵からも突っ込まれるだろうが気にせずに叫んだ言葉は、慌てて駆け寄った通信兵により拡散される。
コーネリアを
藤堂 鏡志郎は頬を緩めて笑みを浮かべた。
敵は圧倒的なほどの数で勝っている。
それを白虎があの手この手で翻弄し、準備を進め、損害覚悟で敵を引き込んでくれたおかげでここまで好条件が揃う事が出来た。
ここまでお膳立てをされて失敗する訳にはいかない。
「藤堂 鏡志郎、まかり通る!!」
夜の暗闇で見難いが草緑色の日本軍カラーのグラスゴーが敵陣へと突っ込んで行く。
手にしている武器はナイトメア用のアサルトライフル以外に警官が持っているような警棒を下げていた。
さすがにチェーンソーのような廻転刃刀やメーザーバイブレーションソードは用意出来なかった白虎の苦肉の策。
近接戦に耐えれるように強度を持った打撃武器。
これなら大した技術が無くても造り上げる事は可能。
正面から銃撃をしてくるグラスゴーが三機。
決して足を止めることせずに突き進む。
猪武者のような我武者羅にではなく、銃弾の射線から身体をずらすように躱しながら自身の範囲へと納める。
警棒の距離。
それこそが藤堂のフィールド。
眼前にまで迫った一機目のアサルトライフルに横薙ぎの一撃を見舞い、銃口を横に居た二機目に向けさせる。
人間と違って反射的に指を外すことなど難しいナイトメアではそのままトリガーを引いた状態。横に居た二機目は仲間による同士討ちにより撃破され、一機目は次の振り上げてからの一撃でコクピットを叩き潰した。
三機目は両機があっさりとやられた事で戦意喪失し逃げ出した。
「これがナイトメア…敵にすると厄介だが味方だと心強い」
『中佐!敵ナイトメア部隊が集結しております』
「数は?」
『報告では二十四機と』
「二個中隊規模か…良し。仙波、卜部、朝比奈、千葉、付いて来い!」
藤堂機を先頭に四聖剣のグラスゴーが追従する。
他にも付いていたグラスゴーも居たが蜘蛛の子を散らすように違う方向へと散って行った。
(子供だと侮っていたがどうしてこう…白虎君の眼は確かという事か)
成田連山にて組織された人型自在戦闘装甲騎部隊の総指揮権を持つのはルルーシュ。
最初この話を聞かされた時は正気を疑った。
藤堂自身は人種差別を自ら行う人間ではないが、ブリタニア人の――それも皇子である幼いルルーシュに指揮権を任せると聞けば誰もが思うであろう。
だが、接してみて分かった。
あの子は指揮に関しては天才的な才能を持っていた。
実戦経験がない為に甘い部分もあったが有能であることは疑いようがなかった。
今も細かく部隊に指揮が伝達されて次々と敵の部隊を駆逐して行っている。
これに関しては白虎の命により捕縛されたナイトメアとパイロットのおかげというのもある。
ブリタニア軍と戦術データリンクを接続した機体を鹵獲してコードを聞き出したのだ。おかげでこちらは索敵無しで敵の正確な配置が筒抜けだ。何度もコードを変えているがこれは暗号通信を解読したものではない。コードを変えれば味方にも伝達されて鹵獲した機体にもそれが適応される。
幼くも天才的な指揮官に丸解りの配置図。
まさに鬼に金棒・虎に翼だ。
目標のナイトメア部隊をモニターに収めた藤堂は短く息を吐き出して操縦桿を握り締める。
「螺旋陣のちに旋回活殺自在陣に移行する!」
『『『『承知!』』』
円を描くように動きながら射撃で敵機を円陣に組むように誘導する。
そうなればナイトメアの機動力を失ってただの案山子となる。
案山子同然となれば対処はし易い。
藤堂達は臆することなく戦場を駆け抜け、多大な戦果を挙げたのだった。
これに対してブリタニア軍も混乱を収拾しようと動いたがもうここまで戦況を乱され掻き回されればクロヴィスやクロヴィス付きの将軍バトレーや参謀達ではどうしようもない。
そうなれば連絡が取れているシュナイゼルに頼るしかない。
シュナイゼルならばこの危機的状況でさえ覆すという希望を持ち、本人もその期待に応えるだけの能力を持ち得ているので可能ではある。
――が、そうは問屋が卸さない。というか白虎が許しはしない。
白虎は事前策として藤堂にブリタニア軍が東京に集中して他への上陸・侵攻作戦が行われない、もしくは他の侵攻軍が駐留部隊やその近辺の部隊で対応・時間稼ぎが可能ならば東京への援軍へと出向くようにと。もしも敵主力が別より侵攻してきたときはその対処を。
この一手にて戦場は完全な乱戦模様と相成り、地の利と位置情報の把握、勢いを得ている日本軍が優勢に事を運ぶだろうが敵にシュナイゼルが居る限り幼く未熟なルルーシュや押し負けた白虎では勝つのは難しいだろう。
だからもう一手…藤堂達がここに来たことでもう一つの策も動き出す…。
クロヴィスが居る千葉の指令室は慌ただしく将校が走り回っていた。
不安と恐怖に押し潰されそうになるクロヴィスはバトレーに手を引かれるままただただ走る。
「殿下!お急ぎください」
「なんで…なんでこうも…」
シュナイゼル兄上の指揮となって戦況は徐々にだがブリタニア側に傾き、コーネリア姉様が敵指令所を発見し、総大将である白虎を確認した一報で形勢は決まった筈であった。
突如現れたグラスゴーの一団にて戦線は乱され、コーネリア姉様のナイトメア部隊とは連絡が取れなくなった。
また日本軍の奇策かと警戒したがすでに時遅し。
何とか打開しようと兄上に懇願するも、
動揺が広がる指令室では急ぎ情報収集に勤め始める。
集めるまでもなく目で見た方が早いレベルであったが…。
日本軍はどうも三段構えの作戦を練っていたようだ。
東京防衛は敵を迎え入れて仕掛けた罠の数々と奇襲・強襲による地の利を生かした作戦でこちらを疲弊・撃退を狙う。これは兄上と知略によって打破された。ならばと温存していたナイトメア部隊を投入しての乱戦。
我々は敵の防衛線を突破して追い込んだのではなく誘い込まれた事になる。
敵に有利な地形でこちらは乱れに乱れて大混乱。しかも姉上の消息不明という緊急事態も起こってなにをどうしていいのか…。
そんな私達に追い打ちをかけてきた一手。
東京湾へ日本艦隊が進んでの後方攪乱。
参謀達はこちらの人の出入りやら情報の発信地を特定されたのだろうと言っていた。その事が事実だとしてもブリタニア軍に彼らを止める術はない。
そもそも日本艦隊は第三次侵攻作戦で壊滅的打撃を与えており敵とも認識していなかった。
長崎辺りに集まっているとの情報はあったものの気にも留めておらず、形だけの警戒をさせるだけ。
奪った徴用している各施設は艦砲射撃により吹き飛ばされ、東京湾内の軍港に停泊中の軍艦は魚雷を積んだ戦闘機部隊の奇襲により海の藻屑となり、何とか離陸出来た爆撃機や戦闘機隊は一隻の大型艦の対空防衛網により消滅。反撃に出た艦船は射程外より大型レールガンを積んだ艦船に沈められた。
司令部には砲弾が飛び込まない代わりにナイトメアを含んだ上陸部隊が迫ってきている。
防衛部隊が応戦しているが日本軍の勢いは凄まじく足止めにしかなっていないのだとか…。
通信施設や中継地点が破壊されて味方の指揮が行えず、兄上との連絡までもが寸断されれば打つ手はない。
押し込まれるように車内に入らされ、猛スピードで発進した車のリアガラスより司令部を見つめる。
右肩に日本国の国旗が描かれたグラスゴーが雪崩れ込み、付近の防衛部隊が吹き飛ばされる。
もう少し遅かったらと思ってしまったクロヴィスは身体を振るわせて、視界にこの光景が映らぬように身を縮こまらせた…。