枢木 白虎は大きなため息を吐き出しながら枢木家別宅に帰宅した。
東京決戦より三日が経ち、本日はブリタニアとのテレビ電話を使っての会談。
ブリタニアはナイトメアの技術が
日本も日本で亡命した植民地エリア出身者を受け入れて歩兵戦力を補填し、失った兵器分は鹵獲・捕獲・改修・修理したナイトメアで補充。戦力的には申し分ないが輸入に頼ってきた我が祖国は物資不足。如何に優秀な兵士がいようと玉無しじゃあ役立たずだ。おっと、
お互いにこれ以上の戦いが続けれないのは理解していただろう。
だからと言って素直に話し合えないのが政治だ。
あれこれ言い訳や難癖をつけて自分に都合の良い条件を呑ませようと頑張るんだ。
そんな無駄に時間費やすぐらいなら日本復興の財源確保などこれからの事を決めた方が有意義だというもの。
なのでそういうのに関心がなく、嘘をつかない事を心情にしている巻き毛皇帝を会談に呼び出してみました。
シュナイゼルが桐原の爺さん様に用意していた通信ラインより連絡をつけて、皇帝に『神根島』『遺跡』のワードを伝言して貰ったら案の定喰いついてきたよ。
テレビ回線越しとは言えあの独特の喋りを聞けたのはコードギアスファンとしては嬉しい限り。
遺跡の事を色々聞かれたがギアスには触れずに、今まで侵攻してきた場所を調べて云々と語り、最終的には年間採掘したサクラダイト25%の販売権と捕虜であるコーネリア皇女殿下を条約締結時に返還。それと神根島の譲渡で停戦協定及びに不可侵条約を呑ませる事に成功。
口約束とは言えあの嘘嫌いの巻き毛が承諾したのだ。後で覆る事はまずないと思って良いだろう。
まぁ、会談中は相手に嘗められたらいけないと思って巻き毛に対してあまりに堂々と不敬に取られかねない態度で接していたから、澤崎さんの顔が真っ青でブリタニアの貴族の方々が怒りで顔真っ赤になり、自分でもやり過ぎたかなと思う。
なんでも良いけどね。
これで時間も稼げたし。
とりあえず打ち合わせをして……。
「…………めろ!そんな辱めを私に……くっ!!」
「姫様に何を!」
「申し訳ありません姫様…」
「さぁ、やるのじゃ!!」
「すみません。これも命令ですので」
「何をされても私は――」
「「姫様ぁああああ!!」」
「廊下までくっころ手前みたいなセリフ聞こえてんぞ」
地下にある一室に向かう途中、廊下まで響いていた声に扉を開けると同時に突っ込みを入れる。
扉を開けた先には強化ガラスで遮られた捕虜用の大広間が見えるようになっており、女性用の一室で忍び装束を手にして迫る咲世子と、着物を着て逃げ惑うコーネリアがそこに居た。
男性陣とは壁で遮っており声は聞こえるものの様子は見えない。
なのでコーネリアの声に反応してギルフォードとダールトンが壁に貼り付いて謝っているこの光景…。
なぁにこれ?とどこぞの決闘者みたいな事を言いかけるが、その前に様子を眺め、コーネリアがあんな状況に追い込まれるようになった原因であろう神楽耶に視線を向ける。すると 嬉しそうに抱き着いてきたので優しく受け止めて抱き締め返す。
腹部の辺りに顔を埋めたかと思ったら、顔を見上げて一言。
「おかえりなさい貴方。お風呂にします?食事にします?それともわ・た・し?」
「おう、贅沢なフルコースだな。とりあえず誰から聞いたか聞こうか」
「咲世子から聞いたのじゃ」
「殿方はそういうのを喜ばれると聞きましたが」
「…間違ってねぇかな」
満更でもないと思いながら頭を撫でてやると嬉しそうに笑みを浮かべる。
本来ならコーネリア達は日本政府が用意した収容所に送られる予定だったが、下手に収容所に入れておくと面倒ごとが起きる事が容易く想像出来る。
戦争を仕掛けてきた敵の親玉の娘。
やられた仕返しを考える連中は五万と居る。
しかも女性であるなら肉体的暴力だけでなく性的暴行を企てる阿呆も出て来る。
絶対にあるとは言えないがあった場合は下手すればブリタニアからの報復があるだろうから非公式にではあるが俺んとこで面倒を見るという事にして貰ったのだ。一応、俺の戦利品だしな。ついでに専属の騎士のギルフォードとダールトン将軍も。
結果、こうして神楽耶の着せ替え人形にされているのは謝るべきなのか…。
「で、これは何してんの?」
「女性であるからには美しくあるべきとは思いません?」
「それで美しい衣装を着飾らせようってことか」
「はい。あまりそういう服を着てこなかったという事なので」
「まぁ、気を付けてな」
「止めないのか!?」
「……まぁ、頑張れよっと、そうだクロ坊にお土産があるんだった」
コーネリアとの会話を切り上げて男性陣の部屋の隅で膝を抱えてぐったりしているクロヴィス・ラ・ブリタニアに声を掛ける。
ゆっくりと顔が向けられる前にガラス越しにバトレーが詰めよって来る。
「貴様!殿下に何と気安く…無礼であろう!」
「うるせえよ。怒鳴んな。禿げるぞ――――アンタには育毛剤でも持って来てやろうか?」
「いらん!!」
育毛剤は断られたか。
そっちはどうでも良いが差し入れを入れるスペースから日本画に浮世絵など画集数冊を差し込む。
美術関係には大いに興味を持っているクロヴィスはのそりのそりと歩み寄り、画集を広げると目を見開いて食い入るように魅入っている。
「おっと、一つ伝える事があるんだわ。コーネリアの姉さん達は条約締結後にブリタニアに還すから」
「なに?」
「これで日本とブリタニアは遺恨を抱きつつも戦争も終いだ」
「…そうか」
「やったねシスコン。ユフィちゃんに会えるね」
「五月蠅いブラコンのロリコンが!!」
「否定しないぞ俺」
「・・・フン!」
嫌味が通じないと知ると鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「で、クロ坊だけど家で預かるから」
「……え?」
心の底から理解できていない声が漏れた。
自分も帰れると思っていただけに致し方ないだろうが、事実を述べなければならない。
「いやぁ、帰っても居場所ないよ多分。三度も大規模作戦ミスって大損害。最後には一目散に逃げ出して速攻で捕まっちゃうしさ。皇位継承権剥奪するなんて感情も無く言ってたよ皇帝陛下。アレだけの失態したらそりゃそうだって納得しちまうだろ?」
「こ、言葉を選ばんか!殿下の心は貴様のような藁で出来ている心と違ってガラス細工のように繊細なのだ」
「誰の心が藁だとこの野郎」
「良い…良いのだバトレー」
「しかし殿下」
瞳は曇り、目頭には涙が溜まり始めていた。
これじゃあ、俺が虐めているみたいで罪悪感が積もるじゃないか。
大きくため息を漏らしながら言葉を続ける。
「向こうからしたら人質として出すんだとよ。つっても扱いは客人と変わんねぇから安心しな」
「貴様のようながさつ者が殿下の教育上一番悪い気が…」
「喧しいわ!クロ坊一人だと寂しいだろうからアンタも残す方向で話進めてたんだけど一人帰るか?」
「…私が殿下と共に?」
「どうするよ?今まで築き上げてきた地位も名誉もかなぐり捨てて、もう再起の余地もなく、人質として出された餓鬼と共に残る覚悟が有るか否か」
「勿論有る!」
「即答かよ。でもまぁ、良いねぇそういうの」
墜ちた主に対しても忠義を貫くか…。
これだよ…こう言う奴を俺は欲している。
この世界の――今の日本軍でそういうのがあるのは藤堂と四聖剣ぐらいか。
ブリタニアにはギルフォードやダールトン、ジェレミアやキューエルなどなど上下問わずに忠義に厚い連中が大勢いる。
だから目の前でほんに嬉しそうにしているクロ坊とその喜びを自身の喜びのように感じているバトレーを見て羨ましく思える。
まぁ、俺が欲しいのは忠義に厚く、
そして言わなかったがクロヴィスの専属の将軍をやっていたバトレーもブリタニア本国へ帰還すれば大きな罰が待っているだろう。
なにせ大敗の将なのだ。
後ろ盾や皇族といった地位がない彼では責任の取りようは異なり、私財を根こそぎ奪われた上に地位の剥奪、あとは責任を取る形で死罪とかか?なんにせよ戻るに戻れないのは確かだ。
役に立つかと言われれば多少はって程度だが、クロ坊を引き取るならば子守にちょうど良いだろう。
伝える事も伝えたという事で退出しようとすると神楽耶より抗議の視線を向けられる。
はて、何か怒らせるような事をしたかな?
と、首を傾げていると頬を膨らませて怒っている事を現した。
「どうしたんだ神楽耶。可愛い顔が台無しだぞ」
「さっきの解答を聞いてないのじゃ!」
「あぁ…さっきのってアレか。そうだなぁ…まずは飯を食って、次に風呂入って、最後に一緒に寝るか」
「うん!」
楽しみじゃ、楽しみじゃと繰り返しながら神楽耶は喜ぶ。
一応言っておくが添い寝だからな。さすがに子供に手は出さねぇよ。
おい捕虜一団。そんなゴミを見るような視線を向けんじゃねぇ。
少し腹が立ったので着物姿のコーネリアを携帯のカメラ機能で撮り、大声でネットへのアップの仕方を神楽耶に聞き始めたらコーネリアを含めた三人が必死に止めようと説得してきたが無視して放置してやった。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
神聖ブリタニア帝国の皇子の一人で母親を失うと同時に目と足が不自由な最愛の妹と共に父親に人質として日本に放り捨てられた子供…。
捨てられた先の日本にて枢木 スザクや枢木 白虎などと出会い平和な日常を得るが、ブリタニア帝国が宣戦布告して侵攻作戦を開始され、事実上父親に二度も捨てられた。
東京決戦の際に枢木家本邸がブリタニアの
世間一般的にはだが…。
本人は藤堂に連れられ成田連山や東京決戦では移動型の指揮所におり無傷。ナナリーに関しては枢木家の女中兼護衛の篠崎 咲世子に連れられて避難済み。
枢木家本邸はルルーシュとナナリーが死んだという偽装工作の為に爆破。作業に従事したのは枢木家に所縁のある人物のみで行われ秘密は隠されるだろう。
その行方不明とされているナナリーとルルーシュは枢木家別邸の隠し部屋で過ごしている。
隠し部屋と言っても狭い事もなく、人が生活するに十分すぎるスペースを確保してある。
ナナリーは隣の寝室で休んでおり、食糧庫兼居間にはルルーシュとスザクが椅子に腰かけてただただ黙って待ち続けていた。
「悪いな。遅くなった」
待ち続けた相手である白虎は隠し通路を通って二人の前に姿を現した。
空いていた一席に腰かけると大きな息を吐き、首と肩の骨をコキコキと鳴らして楽な姿勢を取る。
「遅い。いつまで待たせるんだ」
「お前んとこの姉貴達の様子見に行ってたんだよ。見るか着物姿」
「いや、いい。それよりもさっさと本題に入ろう」
「そう急くなって」
焦りもするさ。
これからルルーシュも白虎も慌ただしく動き回らねばならない。
白虎は次の争いに勝つために。
ルルーシュは今度は自身でちゃんと戦えるように。
生活そのものが一変し、慌ただしくなる中で限られた時間で最大限の努力をしなければあの大国に勝つことなど出来はしない。
焦りを募らせるルルーシュに対して白虎は大欠伸をひとつして、別段焦った様子はなかった。
「ほれ、これルルとナナリーの偽造IDね」
「助かる―――よ!?」
胸ポケットより取り出した二枚のIDカードを渡される。
出来るなら枢木家の敷居内で活動したいところだが、ブリタニアにマークされるであろうことを考えたら死んだことになっているルルーシュとナナリーは離れなければならないのは必須。
そこで身分を証明する偽造したIDカードが必要となり、白虎が色々手を回して用意してくれたのだ。
カードの氏名欄には
ランペルージと言うのは偽名でルルーシュはわざと残したのだろう。
設定上日本人とブリタニア人のハーフで通すから日本人っぽく漢字で登録したのだろう。
だが、さすがのルルーシュも当て字過ぎるだろうと怪訝な顔をする。
「おい、さすがにこれは…」
「ははっ、冗談だよ。本物はこっちだ。偽造してるのに本物って言うのもおかしいか」
こちらの気を紛らわすためだったのか、それともただの悪戯だったのか。
多分後者であろうが妙なボケを入れられて焦っていた気持ちが変に落ち着いてしまった。
そしてニヤリと笑みを浮かべる。
「中華連邦の四獣からか。
「あっさりと言いやがって。離れ離れになってもせめて名前だけでも繋がりを持ちたい――」
「白虎にしては青いんじゃないか?」
「―――ってスザクが考えたんだよ」
「お前が?」
「悪かったな。青くて」
心底驚き目を見開いて振り向くと、ふてたのかそっぽを向いてしまっていた。
その様子にご満悦な白虎がニタニタと笑っていたのがイラついたのでお茶菓子として置いてあった煎餅を思いっきり投げつけてやった。
見間違いか白虎の目が赤く輝いたと思ったらまるで知っていたかのように軌道を読んでパクリと銜えてそのまま食べ始めた。
ゴクンと最後まで食べ終えると先ほどまでの緩やかな雰囲気は成りを潜め、いつになく真面目な表情を向けてきた。
「では、本題だ。
日本はブリタニアと停戦協定及びに不可侵条約を結んだ。細かなのはまだだがこれで数年は戦端を開くことは無いだろう」
「軍の動きは?まさか反対意見がない訳ではないだろう」
「血の気の多い奴らは――勢いは我らにあり!今度はこちらから攻めようぞ!!――なぁんて言っているけど問題はない。すでに手は打ったさ」
「抑えれるのか?」
「出来る訳ないだろう。どうやったら猪突猛進してくる猪の群れを一人で抑えれるんだっつうの。走りたいんなら走らせるだけだよ。ただしこっちが用意した柵の中でだけどな」
「………そうか。軍や都市部の復興はどうするのだ」
「軍は使えそうなもんかき集めて何とかするさ。復興の方はちと難しいかな。なにせ東日本ほとんどが被害を被ったからなぁ。東京に至っては復興の日程すら決まらん」
「となると首都移転か」
「今現在京都か大阪のどちらかでって澤崎さんが話を詰めているがどうなる事やら。どっちにしても名家枢木家としては本家を立て直す必要もあって京都に拠点を作ろうと思っている。ちなみにクロ坊とバトレーも連れてく。ルルーシュとナナリーには咲世子と共に名古屋のほうに家を用意するからそっちな」
「しろにい。おれは?」
「スザクは俺と―――と言いたいところだけど。スザクはルルーシュを助けたいんだろ?」
「うん!」
「俺としては安全に暮らして欲しいところだけどスザクの意志を無視したくない。はぁ…ならスザクは藤堂さんの所で鍛えて貰うかな」
「?しろにいだとだめなのか?」
「あー…多分甘くするから為にならない」
何処か申し訳なさそうに頭を掻き、ため息を漏らす。
スザクに俺は伝えた。
これから俺は、俺達が何をしようとしているのかを。
「さて、二人共――――七年後だ。俺達は七年後に行動を開始する。
戦えるだけの兵員は俺が揃えよう。
軍資金も物資も俺が用意しよう。
最新鋭のナイトメアが欲しいなら入手できるよう手を打とう。
他国から優秀な人材を引き抜き、勝ち得るだけの軍隊に仕立てよう。
だが、これらに参加する以上は敵を殺し、殺されたりするのはお前たちの意志だ」
始めて見る禍々しい笑みに瞬き一つ出来ない程の威圧感。
俺もスザクも冷や汗を掻き始め、ゴクリと生唾を飲み込む。
怪しく目を赤く輝かせ頬を吊り上げる。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、そして枢木 スザク。お前たちにその覚悟が有るかな?」
俺の答えはとっくに決まっている。
どんな手を使ってもブリタニアをぶっ壊す!
―――だから…。
次回一月10日投稿予定。