日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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 明けましておめでとうございます。
 今日で第二章へ入った本作をこれからもよろしくお願いいたします。


第二章
第13話 「新たに動き出す白虎」


 草壁 徐水は朝日も昇らぬ早朝の福岡県博多湾にてゆっくりと、穏やかな気持ちで煙草を吹かしていた。

 日も昇ってない事から寒く、吐き出す吐息ですら煙草の煙と何ら見分けがつかない。

 日本軍の制服の上からロングコート着込み、出航の準備を着々と進める部下たち―――いや、同志に視線を向ける。

 

 彼らはこれより中華連邦に渡る。

 正規の手段ではない。

 武器弾薬に軍資金、そして当分の生活する為に必要な食糧などの物資。

 こんなものを正規の手段で運べるはずもなく、運べたとしても日本軍人が何の不自由もなく動ける道理もない。

 超大国の神聖ブリタニア帝国の大規模攻勢に勝ち続けた小さな島国の日本。

 そこの軍人が武器を持って他国に渡る。

 何も無いと考える方が無いだろう。

 渡った先は勿論ブリタニアからの監視が張り付く。

 

 それは…それだけは絶対に避けたいところだ。

 我々は他国に渡り、ブリタニアとの戦いに赴くのだから。

 

 日本国は勝利した。

 確かに停戦という事からブリタニアからは引き分けと言って譲らないだろうが、日本国に客観的に見た各国からすれば圧倒的戦力差を物ともせずに二度も叩き返し、三度目の侵攻では皇族を二人も捕らえる功績を挙げた事で勝ったも同然と捉えている。

 だからこそ日本国の多くの者が未だにブリタニアと戦う姿勢を見せている。

 しかし彼らは勝った傲り、故郷を蹂躙された怒り、肉親や近しい者を失った悲しみで現実を見ていない。

 

 日本国は勝ったが勝ち抜くことは出来なかった。

 そもそも物資の流通を他国からの輸入に頼り切っている日本国が、海上を押さえられれば戦う事もままならないのは容易に察せられる。それに勝って来たと言っても大なり小なり犠牲を払っての勝利だ。ブリタニアに比べれば些細な被害かも知れぬ。だがそれは攻めてきた戦力と比べてだ。

 周囲の国々の様子や植民地エリアの内乱の兆しを無視さえすれば後二回、いや()が言う事によれば三回は余裕で攻めて来れるとの事。対して日本国は用意していた兵器も多くの軍人など総戦力の大半を失ってしまった。

 今や日本国の戦力は鹵獲・捕獲・修理を施したグラスゴーとやる気だけは十分な戦闘経験もない新兵と数少ない軍人、さらに軍属でなく義勇兵に所属している若者らで成り立っている。

 拾い物の兵器と銃の扱いも知らぬようなド素人集団で物資もままならない状態で戦えというのは無理な話だ。

 

 日本国の英雄、軍神と謳われている枢木 白虎でさえこれ以上は戦えないと断言した。

 今の日本に必要なのは時間なのだと。

 失った海軍の立て直し。

 人型自在戦闘装甲騎技術を習得し、日本独自の人型自在戦闘装甲騎部隊の創設。

 何より経験を積んできた兵士を失った分、若手の育成に力を入れなければならない。

 などなどやることなす事多すぎる。

 しかもどれも多大な時間に膨大な資金が必要となる。

 資金に関しては枢木家がどうやってか桐原産業を支配下に置いた事で幾らかはどうとでもなるだろう。桐原産業は日本のサクラダイト採掘権を持っている事だしな。

 

 なんにしてもこの港に居る者達。

 世間でいう過激派の面子はそれら日本の事情を顧みずに戦おうとしている。

 これ以上ブリタニアとの波風を立てたくない日本政府からすれば邪魔者でしかない彼らはこれより己の意志のままにと利用されている事に気付かぬまま(・・・・・・・・・・・・・・・)海を渡るのだ。

 

 俺は奴の傀儡だ。

 俺の役割は血気盛んな過激派を纏め上げ、他国へ渡らせる事。

 さらに渡った先で反ブリタニア活動に勤しみ、反ブリタニア感情を孕む国々や植民地エリアにこの戦争で得た経験を活かし、対人型自在戦闘装甲騎戦を叩き込む事だ。

 奴が俺だけに語ってくれた対ブリタニア計画の一端。

 地味な嫌がらせのようだがこれが後に日本を勝利へと導く下準備。

 

 正直最初はアイツの事は大嫌いだった。

 枢木 ゲンブ首相の息子で親の七光りで高い地位に就いた若造。

 高い地位も役職もさることながら連日報道された奴が挙げたとされる功績を見る度に腹が立った。

 あの若さで中佐というのも対ブリタニアの総指揮官という役職に就けるというのも可笑し過ぎる。だから報道される内容もそれなりにお膳立てされたか、誰かの功績を語っているとしか思っていなかった。

 が、後々にそれらが真実で、奴がその地位や役職に居るのにはそれだけの能力があると知ったのはまだ先の事だった。

 

 俺はそんな奴の下に就き、自身ならば奴以上の戦果が挙げられると想い上がり、多くの部下と武器を失った。

 高卒前後の若い義勇兵も含めた部下の大半を失ってしまったのだ。

 自身の思い上がりを悔い、その場で自刃または敵に一泡吹かせようと命を捨ててでも斬り込もうとした。

 

 『責任?責任はここの総指揮官を任命された俺の仕事だ。盗らないでくれ。兎も角、逃げ延びて下さいよ。日本の未来の為にも。待ってますからね』

 

 奴はそう言って俺の死に場所を奪い、責任を被り、尻拭いをした。

 若かろうと立場的に上官である命令に軍人である以上は従わねばならない。それが俺だけでなく部下の為、日本の未来の為と言われれば尚更だ。

 そして俺は目の当たりにした。

 俺達を圧倒的な力を持って壊滅間近まで追い込んだブリタニア軍が、呆気なく返り討ちに合う光景を。

 しかもそれを誇ることなく淡々と結果を把握し、次に何をすべきかを的確に判断して、窮地を脱したのだ。

 

 圧巻の光景だった。

 胸がすくような思いだった。

 それから俺は奴の認識を正しく改め、恩を抱くようになったのは。

 

 だからこそ俺は今回の任務を快く受けた。

 あの時死にそびれた俺が死に場所を、恩を返せる機会を、祖国を犯された恨みを晴らせる戦場を、日本の為に働ける役目を得たのだ。

 

 日本を離れるのは想うところがあるが、それでもなさねばならない。

 

 「中佐!出航の準備が整いました」

 「うむ、今行く」

 

 吸い終えた煙草の吸殻を捨て、背凭れにしていた壁に立て掛けていた日本刀を手に取る。

 白虎はブリタニアから危険視されており、何かしら監視を受けている。

 だから俺達の行動が日本政府の策略と思われない様に見送りも無い。が、せめてと渡されたのがこの日本刀だ。

 日本軍の佐官以上の指揮官などには軍刀を支給されるが、これは枢木家の倉庫に眠っていた宝物の類。

 記録も枢木家しか持ってなく、銘や刀で枢木家まで辿り着くことは出来ない。

 

 自身の命で日本の礎となるのだからと渡されたのだ。

 そんな気遣いはいらないというのに…。

 

 草壁 徐水 ()中佐は笑みを零しながら、受け取った日本刀を握り締め踏み出した。

 長きに渡る不正規戦闘に身を投じるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブリタニアとの戦争が停戦という形で終結し、一か月が経過し十一月中頃。

 日本は被害を受けた各地の復興に勤しみながらも次の準備を密かに行い始めていた。

 その最中、ブリタニアとの戦争を勝利に導き軍神だけでなく“英雄”とも謳われ始めた枢木 白虎少将(・・)は、京都に設けられた軍司令部にて山のような書類を片すためにペンと視線を走らせていた。

 

 日本政府はブリタニアの侵攻により政府機能どころか都市としての機能をずたずたにされた東京より大阪に臨時的に政府機能を移転。ただ今までのように一点集中だと一回の攻撃で国の中枢が機能しなくなる可能性があるので、京都にも予備の政府機能を行える施設を置くことになったが、現政府にそれほどの余裕はないので名家が管理する施設とし、緊急時には政府が使用できるように約定を結んだ。

 この施設建設と維持に関して多くの名家は拒否し、一番に話に乗った皇家に枢木家が行う事に。

 ちなみに皇家―――神楽耶が乗ったのは俺と暮らせる御所が欲しかったらしく、ついでに機能を持たせてしまおうとの事だ。

 

 京都は予備で大阪が臨時。

 何でも東京復興計画は単なる復興計画ではなく、防衛能力を持った都市として再建するつもりらしく、終わり次第政府機能を東京に戻すらしい。

 この辺の話は澤崎さんに任せて口出しは最低限に抑えている。

 

 東日本の大半が戦場になった事で復興面に目が行きがちだが、先のブリタニアとの事を考えると軍部の立て直しと強化も重要。なので白虎はそちらに力を割いている。

 

 まず海軍の立て直しは急務である。

 海に囲まれた島国である日本が周辺の警備や防衛に当たろうとすると海軍力は必須。

 現在海軍の軍艦以外にも小規模な戦闘でが海上保安の船舶も徴用されたので船自体が少ない。

 ブリタニアと条約を結んだとは言えそれを完全に当てにする訳にも行かないし、度々ちょっかいを出してくる中華連邦の船舶を追い返すことも考えると軍部での優先事項第一位なんだよなぁ…。

 

 次に優先されるのは空軍だ。

 戦争前に陸軍が優遇された事で海軍との間に大きな溝が出来た。

 今は反対していた大半の軍人が殉職し、日本国の英雄となった白虎を尊敬する色に染まっている海兵が多いので深かった溝は浅くなったが、余裕で放置することは絶対できない。

 海軍の軍備復興は陸軍の提案として政府に上げたり、友好的なアピールをしたりして気を使わなければならない。

 かといって海軍ばかりに目を向けて空軍との関係を疎かにすれば、今度は空軍との間に溝が出来る。

 八年以内の対ナイトメア戦術を考えると、陸軍だけでなく空軍の力は必要不可欠の上に、空戦能力を持っていないナイトメアに対して空軍の力は絶大である。

 ゆえに空軍には技術提供など行い借りを作っておく。

 まだ安易な対空戦用・対ナイトメア用兵装の試案であるが、これからもっと具体的な案を提供するつもりだ。

 

 最後に俺が所属している陸軍。

 正直に言うと陸軍は兵器だけで考えると、日本空軍・日本海軍と比較するよりブリタニアを除く他国以上の最先端の兵器で固めている。というのも戦争時に鹵獲・捕獲・回収したグラスゴーを修理・改修して陸軍に組み込んでいるのだ。

 ゆえに世界最先端のナイトメアを軍に配備させて、失った兵員は亡命した元ナンバーズ兵士を雇用して立て直しはほぼ完成している。

 ただ車両系統に関しては心許なさ過ぎるので早く作りたいところだが、ほかに比べて立て直しが出来ているので後回し。

 

 他にもやる事は多々ある。

 ナイトメア―――人型自在戦闘装甲騎の操縦や運用を熟知した兵士を育成する教育大隊に、人型自在戦闘装甲騎開発局の設立と忙し過ぎて神楽耶に「恋人らしく逢引の一つもしたいのじゃ!!」と数日前に蹴られるほどだ。

 頼むから弁慶の泣き所は勘弁してくれ。

 

 今書き上げている書類はまさに教育大隊の設立案のものだ。

 人型自在戦闘装甲騎開発局のほうは原作知識を役立てることで俺が局長を務めるとして、これ以上仕事を増やしては過労以前に片手間になって、要領よく行う事が出来ない。

 なので教育大隊の大隊長は藤堂大佐(・・)に任せよう。副官として仙波少佐(・・)をつけて置けば、教官として申し分なさすぎるだろう。

 原作と違ってブリタニアの侵攻を阻止したので、それに伴って活躍した藤堂さんや四聖剣は原作よりも一階級昇格した。

 ただし千葉は別な。

 アイツだけは義勇兵所属だったのでそもそも階級が存在しない。

 義勇兵のほとんどが軍に入ったが、優秀な人材以外は軍学校で基礎から教わっている。

 一から習っている生徒と違って実戦経験を積んだ彼らには卒業後、階級を一つ上げる約束を結んで他の生徒に対して差をつけておいた。

 さて、優秀な千葉はと言えば一週間の講習会を受けて、活躍に応じた階級に“相当官”と付け加えた階級を得て、速攻で軍部で働いてもらっている。彼ら・彼女らは一年間の成績と査定から昇格、もしくは降格するのと同時に相当官から正式な階級が与えられる手筈になっている。

 

 

 …話が逸れたか?

 なんにしても俺は忙しい。

 年末年始の忙しさが一日に凝縮され、それが何日も続いているような忙しさだ。

 だから面倒臭い事案は欲していない。

 これは断じてフリではない!断じてだ!!

 

 だというのにこいつはどういう事なんだ。

 神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアより書状が届いた。

 内容は手短に言うと娘と婚約しろというのも。

 相手は第一皇女であるギネヴィア・ド・ブリタニア…。

 アニメで少し登場しただけなのでどういう人柄の人物なのかまったく知らない。

 見た目は冷静…というより冷たそうな雰囲気を持った美女だったか。

 

 

 うん、いらね。

 いらねと言ったら失礼になるが本心で言おう。いらん。

 不満どうこうではなく俺には神楽耶が居る。

 確かに男であるから美女に囲まれるハーレムを夢見た頃もあったさ。

 けど実際問題で考えると、一緒に人生歩む相手はしっかりと抱き締められる一人で充分だ。

 だからいらない。

 

 けど―――――「おめぇの娘いらねぇから」なんて率直に言える訳もない。

 言う以前に巻き毛皇帝直々の書状に断るというのも如何なものか。

 皇帝の誘いを断ったとすれば周りが黙ってないだろうし、袖にしてしまったギネヴィアはどういう行動を取るのか。恥をかかせたと怒り心頭になるのだろうか?

 現状ブリタニアとの不仲は避けたいところだ。

 そうなると何か代替案を用意した方が良いだろうな。

 巻き毛が俺、もしくは枢木家との関係を盤石にしたいというのなら俺が(・・)皇族と結婚する必要はない。

 しかしそうなると枢木家本家の人間は俺を除けばスザクだけ。

 …寧ろその方が良いのか。

 

 強がって普段通りの様子を見せているが人を、父親殺しをしてしまったスザクの心は酷く弱っている。

 ドラマCDで幼少期の頃から変わらない優しさを持っていたユーフェミアを今の内から会わした方が心の安定に繋がるか。

 

 「―――――ます!」

 「ならばすぐに返答するべきか。その前にスザクに了承を得ないと駄目だな」

 「おねがいします!」

 「・・・ふー、幻聴の類ではないよなぁ」

 

 執務室でペンを走らせようとしていた白虎は頭を抱えて現実から目を逸らそうとしていたが、無理なようだ。

 机を挟んだ反対側には真っ赤な髪を大きく揺らしてぴょこぴょこ跳ねて自身を主張する少女、紅月 カレンがそこには居た。

 大きくため息を吐き出してペンをその場に置く。

 

 「でしにしてください!」

 「なんでさ?」

 「わたしもおにいちゃんみたくがんばりたい!」

 

 頭が痛い…。

 弟子とかどうすれば良いとか考える以前にこのクソ忙しい時にいらん仕事増やすなと本気で思ってしまう。

 思うだけで口に出さないのは、カレンが今後必要不可欠で良好な関係を築いておきたいという下心もあって強く言えないのだ。

 断るのも受けるのも言うのは簡単ではあるが、後々厄介になるのは必須。

 それに俺が決めたとはいえ、自分の兄が御所警備隊の一角の隊長という誉ある役職に就くのだ。

 カレンからしたら誇らしくも嬉しくもある反面、自分も頑張りたいという気持ちが生まれたのだろう。 

 何となくだが分からなくもない。

 それも含め出来るだけ本人の希望に沿いつつ、俺が構わなくても良い案を出すしかないか。

 

 

 「分かったから少し静かにしてくれ」

 「ほんと!?やった!!」

 「とりあえず無茶しない様に筋トレな。身体に筋肉を付ける事を主眼に置かず、持久力を上げれるように毎日走るようにしてろ。まずはそれから――」

 「分かりました師匠」

 「だれが師匠だ…って弟子なら師匠って呼ぶのか普通」

 

 話を最後まで聞かずに外へと駆けて行った。

 とりあえずこれで当分放置は出来るだろうが、飛び出して行った今を無視することは出来ない。

 独り言を呟きながら執務室の外で待機していた警備の者に、先ほどの少女の監視&護衛を任せて白虎は頭を働かす。

 

 「………あぁ、一度ブリタニアに行くべきか」

 

 思い至った結論をぽつりと漏らし、白虎は面倒臭そうに肩を落とした。

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