日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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第14話 「二泊三日ブリタニアの旅 初日」

 本日、神聖ブリタニア帝国の帝都ペンドラゴンにある宮殿ではあるパーティが開かれていた。

 “日本国の英雄”で“ブリタニアの怨敵”の枢木 白虎。

 奴が当主を務める枢木家とブリタニア皇族の婚約が決まった名目で開かれているが、集まっている貴族や軍関係者は祝うことなく各々自由に過ごしている。

 誰だって敵対者である男に関わりを持って目を付けられるのはご免被りたいところであるだろう。

 ゆえに枢木 白虎は誰も近づかれずにいる事を良い事に一人壁に持たれながらワイングラスに注がれたジュースを傾け、周りを観察しながら暇を潰していた。

 

 ただ一人、コーネリア・リ・ブリタニアが来るまでは…。

 ギルフォード・G・P・ギルバートとアンドレアス・ダールトンを連れたコーネリアが進むたびに付近の人間は関わり合いにならない様に散らばって行く。

 瞳には怒りが宿り、一歩一歩踏みしめる足には雑に力が籠っており、誰から見ても苛立って居るのは見て取れる。

 

  「白虎!白虎は居るか!!」

 

 穏やかな雰囲気をぶち壊すように放たれた怒声を白虎は笑みを浮かべて受け止める。

 その態度、その笑み、その存在そのものを認識するたびに怒りの度合いが高まって行く。

 決して忘れる事のない虜囚とされた日々。

 同じ相手に二度も負けた事すら恥だというのに囚われの身になるなど醜態以外のなにものでもない。

 囚われた時にはどんな目に合わされるのかと不安に襲われもした。

 恐怖で身を震わせた時もあった。

 実際に思い描いていた事はされずに着せ替え人形にされるという斜め上の事態になって別の意味で羞恥を味わったがそれは良い。

 虜囚となる恥もそれからどのような目に合わされるかという不安や恐怖に耐えきれたのは最愛の妹、ユーフェミアの事を想えばこそであった。あの優しいユフィが私が死んだと知ればどれだけ悲しむだろうか。いや、悲しませるだけでも心が痛いというのに復讐なんて道に走ったらと思うと痛すぎて辛い。

 そんな事はさせないし、される訳にいかないと耐えたのだ。

 第三次侵攻作戦で囚われの身になる直前に白虎が自決しようと考えた私をその可能性を示唆して押し止めたのだ。

 だと言うのにアイツは私の大事な大事なユフィに手を出したのだ!

 シュナイゼル兄様から聞いた事なのだが父上が枢木家と婚約の話を持ち掛けており、それを受けた白虎が自身でなく弟のスザクと年齢の近いユーフェミアとの婚約を提案。父上はそれを呑んだという事だ。

 父上――皇帝陛下の決定は絶対だ。

 今更私がとやかく言った所で覆らない。

 だとしても奴に真意を問い質さなければならない。

 

 「これはこれはコーネリア皇女殿下。ご機嫌麗しゅう」

 「…貴様、ご機嫌麗しゅうの意味を分かって使っているのか?」

 「勿論ですよ」

 「なら麗しい様に見えるか」

 「まったくもって見えませんね」

 「喧嘩を売っているなら買うぞ」

 「ははは、ご冗談を」

 

 にこやかな笑みを浮かべて対応するがどんどんと機嫌は悪化して行く一方だ。

 表情や態度よりも言動を気に掛けろとダールトンやギルフォードはいつ手を出さないかと冷や冷やしながらコーネリアを見守る。

 ここが誰の目もない所で、白虎(・・)でなければコーネリアは手を出していただろう。

 日本では白虎に手酷くやられた事が脳裏に焼き付いており、この挑発一つ一つが何かしらの策ではないかと疑ってしまっているのだ。相手の策にわざわざ乗ってやる義理も無い。他にも何か無いかと警戒しながら手を出さないのが得策だろう。されど怒りだけは抑えきれないのだが…。

 そこまで疑われているがこれが白虎の通常運転だとは気付いていないのであった。

 

 「そのわざとらしく畏まったような言い回しは止めよ」

 「はいはいコー姉様」

 「止めろ。貴様に姉様なんて呼ばれたら鳥肌が立つ」

 「では、コーネリアの姉貴で」

 「何がではだ!却下だ却下」

 「じゃあ姉御?(あね)さん?」

 「お前殴っても良いなら思いっきり行くが良いか?」

 

 ぐぐぐとコーネリアの拳に力が入り始めた所で慌ててギルフォードが前に出る。

 もしもここでコーネリアから手を出せば百%非が姫様に行ってしまう。それに話の内容を知らない者らから見れば悪印象しか残らない。それだけは何としても回避しなければならない。

 ダールトンも気付きウェイターに声を掛けて飲み物を持ってくるように命じ、持って来たワインをさっとコーネリアに差し出して視線を白虎から外させる。

 

 「姫様、ワインでも如何ですか?」

 「今は―――…いや、貰おう」

 

 血が上りかけていたコーネリアも二人の行動の意図を知って、ワイングラスを受け取り一息入れて落ち着こうとする。

 このペースは非情に不味い。

 完全に乗せられている。

 ここは落ち着いて冷静にならなければ…。

 

 「で、婚約の話で来たんだろ?」

 「―――ッ!?そうだ。貴様!何故ユフィとの婚約の話を進めた!!」

 「いや、スザクに合う性格の皇族ってユフィちゃんしか知らないし。もしかして名乗り上げたかった?ショタコン?」

 「そんな訳あるか!!」

 「姫様、お気を鎮めて下さい」

 「貴s…白虎殿。あまり姫様を苛めないで頂きたい。そういうのには見ての通り慣れていないので」

 「了解しましたダールトン将軍閣下」

 

 あまりの大声で周りの視線を一斉に集めたコーネリアはギルフォードに諫められ、白虎はやんわりとダールトンから注意を受ける。言葉遣いはやんわりとだが笑みに威圧と怒気を潜ませているのは誰の目にも明白であった。

 白虎も少し弄り過ぎたかなと多少、微かに、僅かながらでも反省し、ジュースのお代わりをウェイターから貰って口を付けて間を開ける。

 

 「ま、理由についてはさっき言った通りだよ。年齢的にも近いしね」

 「私への嫌がらせではないのか?」 

 「溺愛する弟を持つ俺が溺愛する妹を持つコーネリアに嫌がらせか。それは直接するから」

 「どうだかな。貴様は意地が悪いからな」

 「意地が悪い(イジガワ ルイ)か…なんかアニメか漫画のキャラクターで居たような気が…」

 「いきなり何の話だ?」

 「何でもないよ。懸念するなと言っても無理だろうけど別に含みは無い」

 「信用は出来んな」

 「でしょうね。俺も同じ立場だったら信用しないな」

 

 かかっと笑うとコーネリアやギルフォード、ダールトンがため息を漏らした。

 これが奴の真意なのか否か判断しきれない。

 どうもこいつの性格がつかめない。

 だけれども…。

 

 「俺が心配するなって言うのも信用ならないと思うが、大事な弟を持つ身として気持ちは解るからさ。俺の弟並みに身命を賭してでも護ってやる。どんな手を使ってもな」

 「―――そうか…」

 

 最後に言ったこの一言だけはなぜか信じても良い気がした。

 変わらない口調であったもののその瞳は真っ直ぐでとても優しく暖かく感じ、妙な安心感を覚えさせられたのだ。

 なんと返答して良いか分からず一言漏らすことしか出来なかった自身にもう少し何か言う事があっただろうにと思うが同時に今はこれで良いかとも思ってしまったのも事実。

 これ以上騒がすのもどうかと思い踵を返そうとするのだが…。

 

 「ユフィちゃん来るんだよなぁ。一人増えるのも二人増えんのも変わらないし一緒に家来るか?」

 「・・・はぁ!?」

 「ダールトン将軍にギルフォード卿もどうかな?」

 「…貴様。今とんでも無い引き抜きを行っているという自覚はあるか?」

 「来るならばこの前撮ったコー姉の着物姿の写真をプレゼントしよう!」

 「何を日本から持ち込んでいるのだ!!そして手を伸ばすな貴様ら!!」

 

 顔を真っ赤に懐から取り出された写真を没収し、一瞬とは言えども手を伸ばし掛けた二人に睨みを入れる。

 全くこいつはと思いながら一連の流れを振り返ると私はこいつにただ遊ばれていただけではないかと気付くのであった。

 その後、パーティが終わると同時に白虎から離れ、監視しているホテルへチェックインしたという報を聞いてコーネリアは帰路につくのであった。

 

 

 

 

 

 帝都ペンドラゴン周辺にもほの暗い場所は存在する。

 警察の目も届きにくいそこは帝都と言えども後ろめたい者達の溜まり場となり、犯罪の温床となっていた。

 そんな場所の一角に異様な一団が潜伏していた。

 タンクトップにジーパンとラフな格好の者も居れば、オーダーメイドのスーツ姿という者など職種も年齢も服装も統一性のないバラバラの集団は中央の男性に視線を向ける。

 

 「面白かったなぁ。皆にも見せたかったよ羞恥で染まったコー姉の赤面」

 「あまり長居していては…」

 「分かってる。分かっているって」

 

 一人異様な黒装束の篠崎 咲世子の注意を含んだ言葉にホテルに入った筈の白虎は微笑みながら答える。

 スザクとユフィの婚約話が決まったから祝いも兼ねてパーティもしたいと言われて、なら喜んでパーティに出席しますと馬鹿正直にパーティだけで白虎は訪れていない。

 せっかく本国に御呼ばれしたのだからこちらの用事も済ませてしまおう。

 

 そういう考えで白虎は行動をしている。

 日本から偽装パスポートを使って咲世子を入れた全員をバラバラに中華連邦などのアジア系の国々から数日前にブリタニアに入らせここまで来させたのだ。

  

 「じゃあ、作戦概要を説明するぞ。第一班は俺と共に行動し、第二班は優先事項第四位の現状確認と今後の監視。第三班は入る前に優先事項第一位と接触出来たか?」

 「いえ、出来ませんでしたが間接的ですが返答は頂きました。ご当主様の言われた条件に心動かされていたように思われます」

 「なら第三班は第二班の補佐を頼む」

 

 皆の顔を見渡せば緊張交じりではあるもののやる気は十分。

 瞳に映る熱を確認すると腕を顔近くまで上げて腕時計を確認する。

 

 「現在夜の二十時。作戦開始は今より八時間後の六時からとする。第二、第三班は別として第一班は作戦終了時間は十時まで。時間厳守でどんな状況であろうと結果であろうと時間が来れば切り上げる」

 

 白虎は現在ホテルにチェックインしている事になっている。

 これはパーティが終わり日本から持って来た専用車に乗り込む前のトイレで、変装を施した影武者と入れ替わったからそうなっている。

 今日はもう誰とも会う予定はないので良いのだが、明日には予定が入っている為に確実にそれまでに影武者と入れ替わらなければならない。

 このブリタニア本国には二泊三日ほど滞在することになっており、本日は皇帝陛下に謁見後にパーティ参加。最終日には皇帝陛下にもう一度顔を見せて、スザクの婚約者となるユフィと会って多少話をして帰国する。

 どちらも昼食後の予定だが明日、つまり二日目は昼食は神聖ブリタニア帝国の第二皇子との会食となり、午後は第一皇子のオデュッセウスと共に帝国を観光することになっている。

 もしも会食がオデュッセウスなら影武者にそのまま代役させても良いのだが、相手がシュナイゼルとなると自身が出向くほかない。

 胃が痛い思いだけれどね…。

 

 「では予定通りにオペレーション“ログレスの選定”を開始する。各員気張れよ」

 「「「畏まりましたご当主」」」

 「いや、違うだろお前ら…」

 

 ご当主と呼ばれた事に大きなため息を漏らす白虎。

 その反応に皆がしまったと顔を見合わせる中、ポケットより縁の厚い眼鏡をかけて不敵な笑みを浮かべる。

 

 「龍黒技術研究所の龍黒 虚(タツグロ ウツロ)―――だろ?」




 白→黒
 虎→竜(龍)
 そして空の存在に器だけの企業という事で虚ろ

 なので龍黒 虚

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