日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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第16話 「二泊三日ブリタニアの旅 三日目」

 枢木 白虎が神聖ブリタニア帝国を訪れて三日目となった今日。

 コーネリア・リ・ブリタニア第二皇女は、帝都に近い空港の滑走路で心配な表情を浮かべていた。

 理由は皇帝陛下が決めた、最愛の妹である第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアを枢木家次男の婚約者として送り出すためである。

 ブリタニアの日本侵攻を食い止めた立役者である枢木 白虎と関係を築きたかった皇帝陛下は、第一皇女のギネヴィア・ド・ブリタニアを婚約者としようとしたが断られ、白虎が代わりにと弟の枢木 スザクとユフィとの婚約話を代案として提案したのだ。

 皇帝陛下はその代案を呑み、白虎が日本に帰る日に合わせてユフィを送り出すことに。

 

 現在我々にとって日本の治安は悪い。

 戦争で被害を受けて街も人も心も荒れ果ているのもあるが、それ以上に戦争を仕掛けたブリタニア人に対しては最悪だ。

 そこにユフィを…戦争を仕掛けるように命令した皇帝陛下の血を引く皇女が行ったら、どういう反応があるかなど明白なのに、送るという。

 

 不安な思いもあるだろうに、気丈に振舞って心配かけない様に笑みを浮かべ続けている。

 隠しきれぬ不安から肩が震えている。

 自分の不甲斐無さに握り締めた拳が痛む。

 出来れば決定を覆したいと想うが、皇帝陛下の決定は絶対。あの父上を納得させられるだけの理由を持ち得ない私では、どうすることも出来なかった…。

 シュナイゼル兄上に頼んでみたものの駄目だったらしい。

 諦めきれずにも、心のどこかでもはや何も出来ないと理解している自分自身が悔しくて仕方がない。

 

 「すまないなユフィ」

 「だ、大丈夫ですよ私は」

 「本当にすまない」

 

 少しでも不安が拭えるように優しく抱きしめる。

 抱き返してくるユフィの腕が震えているのを肌で感じて、本当に申し訳なく思ってしまう。

 あの日本侵攻の時に、自身が白虎に勝利していればこんなことは無かったのに。

 少し離れた所より眺めているキャリーバックを持ったアンドレアス・ダールトンに、書類が入ったカバンを抱えるギルフォード・G・P・ギルバート、見送りで来てくれたシュナイゼル・エル・ブリタニアに側近のカノン・マルディーニも悲壮感漂う表情を浮かべて悲しんでいる。

 警備も含めてこの場に居る者の大半が同じ感情を共有している。

 一名を除いては…。

 

 「おい、まだ掛かりそうか?」

 

 飛行機内より顔を覗かせて急かす男……枢木 白虎…。

 あからさまに面倒臭そうな表情にギリッと音が聞こえるほど歯を噛み締める。

 頭が真っ白になるほど怒りが高まって感情のまま怒鳴ろうとしたところをシュナイゼルに制止された。

 

 「落ち着きなさいコーネリア」

 「しかし兄上!」

 「ったく、二人共(・・・)早くしろよ」

 「――――ッ!!このッ…………ん?」

 

 怒り狂いそうだったコーネリアは耳に入った一つの単語により一気に鎮静化された。

 聞き間違いだろうか。今二人共(・・・)と言ったか?

 日本に向かうのはユフィ一人で護衛は枢木家が行うとの事で、ルルーシュ達が行った時同様にいない。が、奴は二人と言った。

 つまりユフィ以外にも日本に向かう者がいるのか?

 

 「もうとっくに出発の時刻過ぎてんだから早くしろよ」

 「おいちょっと待て。貴様先ほど二人と言わなかったか?」

 「言ったけど…それがどうしたんだコー姉」

 「コー姉言うな!!」

 「良いから早くしろよコー姉」

 

 思考と動きが凍り付いたように固まる。

 首が錆びついたようにギギギとゆっくりと振り返り、もしやと思ってダールトンとギルフォードを見つめると、きょとんとした顔を見つめ返してくる。

 二人が手にしているカバンとキャリーバックが多少気になっては居たが、まさかアレは……。

 

 「あれ?巻き毛から聞いてねぇ?ユフィちゃんだけだと心許ないだろうと思って、二週間ほど連れてくって言ったんだけど」

 「巻き……毛…?」

 「まぁ、侵攻作戦でクロ坊ほどでないとしても失態を仕出かした事で、謹慎喰らわせるって話も出てたらしいからちょうどいいかなって。給仕の女性達に用意させたり手間だったんだぞってあんれ?おーい、聞いてるか?」

 

 いきなりの日本行きに失態からの謹慎の話など、唐突過ぎて理解が追い付かない。

 何か白虎が手を振ったりとモーションを行っているが気にも止まらない。

 

 「まさか本当に聞いてなかったのか?まぁ、なんでも良いから乗り込めよ。ギルにダールトンも荷物を積み込んでくれるか」

 「あ、あぁ…」 

 「姫様大丈夫ですか?」

 「ア、ウン…」

 

 呆然とするコーネリアは片言で答えながら、一緒に行けるという事で嬉しそうにするユーフェミアに引っ張られて機内へと進んで行く…。

 日本行きのブリタニア皇族の飛行機は、予定時刻より三十分も遅れブリタニア本国を離れる。

 行先は日本……なのだが直行せずにハワイへと着陸。

 貨物に紛れて日本政府専用機に移り、離陸する前に整備士の服装に着替えて降り、シュナイゼル(・・・・・・)に用意して貰った船舶で日本へ帰るのであった。

 道中不安から解放されたユーフェミアははしゃぎっぱなしだったが、コーネリアと言えば乾いた笑みを浮かべたまま、ぼぅっとしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 片耳にイヤホンを付け、ポケットに入れたラジオの内容を聞き入る。

 天気予報や政治系のニュースは無視して、聞きたい事故や事件だけに耳を傾ける。

 空港でのブリタニア皇族専用機及び日本政府機墜落事故に、貨物運搬をしていた貨物列車脱線事故、ブリタニア大使館へ向かう車両が襲撃された三つのニュース。

 このニュースを耳にして上手くいったと喜びながらも、これほどかと頭を痛める。

 ブリタニアから飛行機を変え、船で日本入りを果すなど面倒臭い手段を用いたのはこの襲撃を防ぐためだ。

 日本の英雄と謳われていても、戦争終結後すぐにブリタニアとの和平を進め、皇族との関係を成した俺を一部では売国奴と呼ぶ奴らも存在する。今回は日本に残っている過激派掃討作戦を兼ねていたのだが、結果は上々にして最悪である。

 なにせ一般的にはブリタニアの飛行機で帰り、ブリタニア大使館へ向かうという情報しか流していない。なのに日本政府専用機に貨物列車での移動を知っているとなると…。

 

 「情報局や政府関係者に、モグラかネズミが蔓延っていたのか」

 「対処はすでに成ったようです」

 「早いだろうに。誰が動いた?」

 「藤堂様が情報局を。澤崎様が取り込んだようです」

 「ネズミが蛇に呑まれたか。さすが政治家。こういう時は動きが速いな」

 

 キャリーバックとカバンを持った篠崎 咲世子からの報告に安堵の息を漏らし、澤崎の動きの速さと狡猾さに舌を巻いた。

 敵対はしていないとはいえ、少し危機感を持っていた方が良いか。

 

 「あの…この扱いはどうかと…」

 「喧しいわ。ウロチョロウロチョロと猫でもあるまいし、ジッとして居ろ」

 「むぅ」

 

 脇に抱えたユーフェミアより抗議の視線を受けるが無視だ無視。

 普通車で枢木家本宅近くまで来たのだが、見るものすべてに興味を持っているのかあっちへフラフラ、こっちへふらふらと、50メートルと短い距離でなん十分以上掛かるのかと思ったほどだ。

 ネコか何かかこいつは…。

 あー…猫だったなこの子。さっき道端で「にゃぁああ」って野良猫と会話してたし。

 

 猫で思い出した。

 借りてきた猫のように大人しくなっているコーネリアへ視線を移すと、目は虚ろで気配が薄い。白装束で夜にでも徘徊していたら幽霊と間違うような気配を漂わせている。

 どれだけショックだったんだと言うより想像に易いだろうに。

 だって基本貴族主義の神聖ブリタニア帝国で、実力主義を押す巻き毛皇帝だぜ。

 役に立たなければ無暗に斬り捨てる事はしないが、扱いは目に見えて雑になるだろう。侵攻作戦に置いて指揮する海上部隊が半壊し、第三次では虜囚と成れば、他の皇族派閥の貴族たちは攻撃材料として突く。それを擁護するか否かは分かり切っていた。

 なにせ相手の考えの頭には、死んだとしても計画が成ったら会えるのだからという考えがあるんだからな。

 成功だけを見て失敗したときの保険を考えないのは思い切りが良いと思うべきか、それとも阿呆と罵るべきか。

 

 兎に角今にも消え入りそうなコーネリアの手を引いて、さっさと本宅へ向かう。

 入り口の警備が向かってくる俺達に警戒の色を示すが、変装している白虎だと気付くと警戒を解いて門を開ける。堂々とその間を通りながら、労いの言葉をかけて玄関へと進む。

 右手も左手も荷物(リ姉妹)で手が塞がっているので咲世子に指示して戸を開けさせる。

 

 「おら付いたぞ」

 

 ユーフェミアを降して、コーネリアから手を放すと二人共玄関へと歩いて行く。

 日本家屋を始めて見たのかまたもや興味深々と言った様子で見渡すユーフェミアと、対照的に意識があるのかないのか分からない顔で淡々と進むコーネリア。

 玄関から入って上がろうとする二人の首根っこを?まえる。

 

 「ちょい待ち。日本では家に上がる際には靴を脱ぐんだ」

 「え、あ、これはすみません」

 

 もう少しで土足を許すところだった。

 国が違えば仕来りも習慣も異なる。まさか帰って早々味わう事になるとは思わなかったが。

 

 「お帰りなさいませ白虎様。そしていらっしゃいませブリタニアのお姫様方」

 「紅月さん。お久しぶりですね。そしてただいまです」

 

 紅月さんは戦争終結後も枢木家付きで働いてもらっているが、彼方此方飛び回る俺ではなくスザクに付いてもらっている。そもそもこちらには篠崎 咲世子と言う優秀な警備兼でやってもらっているから問題はない。というか俺と一緒に居ては危険も多くなるし、重要な仕事が多い分一々何らかのミスを仕出かされたら困るというものだ。

 まぁ、スザクは藤堂さんに弟子入りしているから藤堂の世話もしている事にもなるのだが、失敗談の不満や報告が上がってこないという事は失敗していないのか、する前にスザクがフォローに入っているのか。

 

 「紅月さんは向こうの暮らしには慣れたのかい?」

 「いえ…まだ。スザク様が手助けして下さるので何とかと言ったところでしょうか」

 「徐々に慣れて行けば良いさ」

 「白さん!これはなんでしょう!!」

 

 目を離した俺が悪いのか数秒前まですぐそこに居たユーフェミアもコーネリアも姿が消えており、居間の辺りから大声が聞こえてくる。

 紅月さんは活発な声色から「あらあら」と困ったようにも取れる声を漏らしながら嬉しそうに、白虎としては面倒臭そうにため息を漏らす。発生源に向けて進むと、そこには物珍しそうにこたつを眺める二人の姿とピザを片手に寝っ転がっているC.C.の姿が…。

 

 「これはなんでしょう?それとこの方は?」

 「あー、それはダメ人間製造機だ」

 「ダメ人間製造機と言うのですか?」

 「そう。日本に大昔より存在するダメ人間製造機がひとつ、“こたつ”だ。冬などの寒い時期や寒い地方で使用される暖房機器のひとつで、程よい温かさが寒さから護るだけでなく、よりよい環境を提供する為に寒さに対して要塞と化す。さらにこの暖房器具が机である事から、食事を摂る際は台所に移ることなくガスコンロと鍋に具材を用意しておくことでその場で、調理し食べることが出来る為に、極端に行動することが無くなる。さらには程よい温かさが人間を堕落させ、活動意欲を根こそぎそぎ落とすことが可能。唯一動かねばならないのはトイレだけだが、それも大人用のオムツやペットボトルを用いて凌ぐ猛者が出るほど依存性が高い」

 「ダメ人間か…。なら失態続きで謹慎を言い渡され、日本に送られた私なら何の問題も無いという訳だ…」

 

 気力が全く感じられないコーネリアがC.C.を見て、こういうものかと当たりを付けて座り込み足を入れる。

 そこまで卑下しなくても良いのにと思いながらみかんが入っている籠を寄せ、冷蔵庫より飲み物を取って来る。

 

 「ちなみに温かい熱が随時発生させられているので、知らず知らずに体内から水分が抜けていくので塩分と水分の摂取はきちんとする事だ。それとこっちの緑色の生物は、ダメ人間製造機“こたつ”に生息する通称“こたつむり”だ。カタツムリのような殻の住まいは持ってはいないが、こたつを殻として生息するダメ人間の成れの果てだ」

 「誰が成れの果てか」

 「どう見ても果てじゃねぇか。何ピザ片手に籠城してんだよ。空になった二リットルのコーラのペットボトルにピザの空箱の山はなんだよ」

 「すみません。急いで片付けたのですが…」

 「片付けたのにこうなってたと…よくもまぁこんだけ平らげたもんだ」

 「ふふん」

 「自慢のように胸を張るんじゃねぇよ」

 

 大きくため息を漏らしているとユーフェミアも恐る恐るこたつに足を入れてほぅと息を漏らす。

 軽く紅月さんに指示を出して彼らの面倒を任す。

 そして隙間より様子を伺っていた者の下へと向かう。

 襖を開けるとさっと隠れ、廊下より居間に入る気はないようだ。

 

 「どうしたスザク。照れてんのか?」

 

 襖を閉めて小声で話し掛けた。

 話し掛けられたスザクはどうも歯切れが悪く俯いている。

 

 「すまなかった…」

 「―――え?」

 

 ぼそっと漏らした謝罪にスザクは驚き伏していた顔を上げると、天井を眺めながら別のどこかを見ているような白虎の横顔が目に映った。  

 

 「お前に面倒ごとを押し付けちまった。すまないな…」

 「ううん、そんな事ないよしろにい」

 「聞き分けが良いからなぁ。俺の事思って反論も何もしなかったんだろ。これは俺からお前にした押し付けだ。お前には文句を言う資格があるし、俺は聞く責任がある」

 「無いってば。しろにいのやってることはただしいんだろうし、それにあの子…その…」

 「その…なんだ?」

 「……か、かわいいし」

 

 再び俯いたスザクの顔色は窺えなかったが、真っ赤に染まった耳を見れば何を思っているのかは一目瞭然だった。

 理解した白虎は吹き出してしまい、抗議と恥ずかしさの入り混じった視線を受ける。

 

 「笑う事ないだろしろにい!」

 「すまんすまん。いやぁ、お前も男になったんだなと思ってな」

 「うまれた時からおとこだろ?」

 「そうじゃなくてな、いやぁ、ま、いっか。だとしたら兎も角近づかないとな」

 「…う」

 

 照れて近づき難いスザクに白虎は思案する。

 まだ幼いスザクは相手に配慮した対応は難しい。紅月さんやC.C.にフォローを任せても碌な事がないのは目に見えるし、咲世子は咲世子で別の不安が残るので却下。となればやはり自分がアドバイスするしかないか。

 

 「良いかスザク。露骨に接近するのは避けた方が良い。何の情報もなく真正面からぶつかるな。遠回りでも外延から埋めて行け」

 「まったくどうしたらいいのかわからないんだけど」

 「そうだなぁ…まずは自己紹介からだろうな普通。それから話題を振っては聞き役に回れ。下手に自分の話や意志を話すよりはそっちの方が良いだろう。それと機会が有るのならルルーシュ達との暮らしなどを話してあげな。第三次侵攻作戦までの暮らし(・・・・・・・・・・・・・)だけな」

 「―――ッ…分かったよ」

 「なら行ってこい」

 

 襖を開けて押し入れて白虎はニカっと笑う。 

 少し怒ったような表情を返して来たが、ユーフェミアに向き直ると緊張した趣で、意を決してゆっくりとながら歩み寄っていく。

 その様子を見届けた白虎は襖を閉めて、廊下の端からこちらを伺う咲世子に視線を移した。

 

 「何かあったのか?」

 「白虎様。第二班から動き有りと報告がありました」

 「ほぅ、対象は来るのか?」

 「はい。ブリタニアからの直通便で東京への航空券を購入したと」

 「日時と到着後の監視要員を。それと咲世子には囮を頼むことになる」

 「畏まりました」

 

 やる事が多いなと漏らしながら、次なる駒を入手すべき白虎は思考を働かせる。

 交渉が失敗した場合ルルーシュに任せることになるが、どうなる事やら…。

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