日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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第20話 「英雄の大隊」

 枢木 白虎は山奥にある訓練場にて、双眼鏡を片手に笑みを零す。

 先に広がるのは木々が生え広がる森林地帯で、総数二千人強での大規模な模擬戦が繰り広げられている。

 怪我人が出ないように防具をちゃんと装備させ、銃弾はペイント弾、近接格闘戦無しと指示を出しているし問題は無いだろう。

 隣で同じように眺めている扇 要中尉は、不安で仕方がないのか青くなっている。

 

 「第二十七と第十四訓練小隊壊滅。これで背後が手薄になった第十七訓練小隊も、挟撃にて詰んだな。いやはや結構結構」

 「大丈夫なんでしょうか…」

 「物は考えようだって。彼らは実戦を味わう前に、どれだけ自分達が未熟で役立たずなのかを理解できたんだ。これが実戦なら、授業料に命が含まれているところだよ」

 「確かにそれはそうですが…」

 

 今行われている演習は、今後俺が鍛え上げる新兵諸君達と、先輩達との実力の差を分からせる為のものだ。

 期待と現実が混同している新兵諸君の鼻をへし折るのは辛い仕事であるが、これも無駄死にを減らすためと思えば、心を鬼にしてでもしなければならない。

 と、言ってもこの程度、レクリエーションでしかないんだけどな。

 訓練生二千人対精鋭一個中隊の実戦に近い模擬戦。

 数的有利と未だ戦いを知らない彼ら・彼女らは、慢心と油断で勝てる戦いと思い込んでいるだろう。

 けど相手は俺と共に戦場を駆け抜けた、紅月 ナオト大尉が指揮する御所警備隊。

 数が多かろうと彼らは良くも悪くも型通りのことしか出来ず、実戦経験豊富なナオト達では勝負になっていない。

 

 「さすがナオト君だね。訓練生の指揮所を陥落。まぁ、元々指揮系統あっても、連携なんて無いような感じだったけどね」

 「本当に一個中隊で二個大隊を相手できるとは…」

 「馬鹿抜かせ。三個でも足んねぇよ」

 

 視界の先では、勢い任せで突っ込んだ玉城 真一郎軍曹が、一個小隊を一人で壊滅させていた。

 木々を盾にするように駆け抜け、容赦なく訓練生をペイント塗れにしてゆく。

 正直動きも弾も無駄が多いが、それでも咄嗟に対応できず、焦って仁王立ちで反撃する彼らでは相手になっていない。

 玉城でアレなのだから、一人で訓練生一個中隊と考えてもおつりがくる計算だ。

 勝負にすらなっていない。

 当然ながら疲労による困憊も考えられるが、そこはナオトがよく考えて指示を出している。

 

 「に、しても基礎からかぁ…」

 「それは白虎少将と同意見ですね。アレではついて来れない」

 

 訓練生は軍の学校で訓練を受けてきた者達ではあるが、まだ足りなさすぎる。

 上からの承認も得ているし、本人からの許諾も受けている。

 なら遠慮することなく自由にさせて貰いますか。

 

 白虎の漏らした邪悪さを含んだ笑みを見て、扇は我が身に降りかからない事を幸運に思いながら、訓練生諸君に心の中で合掌するのであった…。

 

 

 

 訓練生の一人、井上 直美は自分がどれだけ甘い考えを持っていたのかをしっかりと理解し、零れ落ちる汗を袖で拭い、限界を超えているであろう両足に無理にでも動かす。

 希望と期待を胸いっぱいに詰め込んでいた三日前の自分を一発殴りたい気持ちを抱き、この三日間を思い返す。

 

 初日の挨拶と、教官を務める部隊との親睦を深める為のレクリエーションと聞いていたのに、到着したのは山奥の訓練所。

 渡されたのは防弾チョッキやゴーグルなどの防具に、ペイント弾が詰まったマガジンと銃。

 レクリエーションとは名ばかりの模擬戦が執り行われたのだ。

 しかも相手はブリタニアとの戦争を生き抜いた精鋭中の精鋭部隊で、今は名家である皇家の御所を守護する“御所警備隊”に所属する、紅月 ナオト大尉の部隊だ。

 数的有利もある事から多少不安は安らいでいたのだが、いざ始まると数の差なんてあってないが如く瓦解した。

 最前線は数で押しきれずに逆に押し返され、何とか手を打とうと模索する間もなく後方の指揮所が落とされ、全部隊が孤立してしまった。気が付けば突っ込んできた一人によって私が入った小隊は全滅していた。

 これが英雄と共に戦場を渡った精鋭たちの実力かと、力の差を目の当たりにされて現実の厳しさを体感すると同時に、あの人達が日本を護ったんだという実感と憧れを抱いた。

 

 その日は昼の模擬戦を終えればゆっくり身体を休めろという話だったのだが、深夜一時に警報のサイレンが鳴り響いたかと思えば急な集合命令。

 何事かと思えば訓練を開始するとの一言が…。

 うそでしょ!?と言葉が漏れそうなのを必死に堪えて続きを待つと、「各学校で優秀な成績を収めている諸君らにとっては、昼間の模擬戦などつまらぬお遊びだったとさぞがっかりした事だろう。そこで私は優秀なる諸君らが楽しんで頂けるように、夜の散歩を用意したという訳さ」と歪んだ笑みを浮かべながら言ったのだ。

 用意された夜の散歩とは、山道や森林地帯を通っての長距離行軍。

 道のりは長く、時間は少ない。

 妨害者として御所警備隊が索敵に出るという…。

 救いとしては今すぐ止めたい。または途中で棄権する者は、地図に記載された小屋に辿り着けば元の学校に戻れるという事ぐらいか。

 

 私は直感から棄権することはしなかった。

 だってレクリエーションやら散歩など言って、皮肉交じりにこのような訓練を笑いながら押し付けて来るお人が、「はい、そうですか」と止めさせてくれる筈がない。

 寧ろ何かされるのではという恐怖が脳裏に過った。

 

 索敵しているであろう御所警備隊に気を付けながら、足場が整地されてない山道や林道を通り抜け、睡眠時間も極力少なくして、時間ギリギリに目的地である山頂に到着した我々を待っていたのは、暖かな食事でも休息でもなく、対尋問訓練という名の地獄であった…。

 男性陣はパンツ一枚という格好で縛られ、女性陣と枢木少将は尋問する側として訓練を行った。

 気温の寒い山頂で、裸に近い形で言葉と鞭で攻め立てられる男性陣には悪いが、今日ほど自身が女性で良かったと思った日は無い。なにせ私達は見も知らぬ相手に罵倒を浴びせ、叩くという良心を痛めるだけで済んだのだから。

 

 厳しい長距離行軍もあと少し。

 女性として汗塗れになった身体を温かいお湯と石鹸で綺麗にしたいという想いもあるが、それ以上に腹いっぱいに食べれることと、とりあえず寝れることだけを夢見つつ足を動かすのだった。

 

 

 

 人間とは不思議なものだと南 佳高は思う。

 どれだけ過酷であろうとも、肉体が悲鳴を挙げようとも、ソレを何度か繰り返すだけで柔軟に慣れるもの。

 それがここ数か月で骨身に染みた事柄だ。

 あの肉体と精神の限界まで締め上げられた長距離行軍を終えた訓練生に待っていたのは、それはキツイ訓練の数々だった。

 

 まず基礎がなってないとの事で行われたのが“超回復”を使った肉体強化だ。

 超回復とは、筋肉の繊維をズタボロになるまで酷使すると、千切れた繊維を肉体が補修するのだが、回復すると元以上に筋肉量が増える事の事だ。

 これには、酷使した後は最低でも二十四時間身体を休める必要があるとの事で、一日目の二十四時間は鍛錬に使い、二日目は休息と座学で身体を休める。

 その繰り返しを一か月行い、筋肉量の増加とスタミナ面を強化された俺達は、次は野山を走らされた。

 なんでもファルトレクという鍛錬法で、起伏の多い場所を走って意図せずに持久力や足の筋肉強化、走力のアップを計るものらしい。

 理屈は理解したが、それを二グループずつに分けて追いかけっこさせ、追い付かれた方or追い付けなかった方は鍛錬二倍は勘弁して欲しかった…。

 合計二か月間肉体を鍛え上げ、枢木少将の言う基礎を作り上げると、今度は実戦的な訓練へと移行した。

 武器一つない状態でのスニーキングミッション。

 ナイトメアフレームとの戦闘を想定した対ナイトメア戦闘。

 水中という動き辛い地点を、定められた時間内に到着する水中行軍。

 ただひたすらにいつ来るか分からない敵に対しての待ち伏せ。

 そして予告なしで各宿舎へ仕掛けられる夜襲への対応。

 他にも様々な実戦を仮定した激しい訓練に身を投じたのだが、初めの内は苦しいと思えた訓練も、次第と疲れたという簡易な感想で留まる程度となっている。

 鍛え上げられた事で問題なく熟せるようになったというのもあるが、正直慣れたというのが大きいだろう。

 しかし油断はできない。

 そんな時だからこそあの悪魔―――コホン、枢木少将の事だ。絶対良からぬ訓練を用意しているに違いない。

 変な希望は後で絶望感を生み出す元になりかねない。

 気を引き締めなければ。

 

 ところで対尋問訓練の時、どうして枢木少将は俺の事をロリコンだと断言したのだろうか。

 それだけが不思議でならない。

 

 

 

 物音がする。

 本当に小さな音だ。

 普通に寝ている人間なら絶対に気付かない程度。

 しかし音は耳に入り、俺、吉田 透を含んだ同室の面子は瞬時に脳を覚醒させて、近くに置いていた銃と食糧を持って飛び起きる。

 暗闇で前が見えないなど言い訳にならない。

 身体に叩き込んだ構造を頼りに、寝室から外への脱出経路へと向かう。

 

 「おいおい、待てって!俺だよ俺!!」

 

 聞き覚えのある声に足を止め、全員が声の主へとゆっくりと近づいて行く。

 そこに居たのは玉城軍曹であった。

 視認した全員が安堵の吐息を漏らし、彼の来訪を心より感謝した。

 

 ここでの生活は厳しく娯楽がない。

 多少認められてはいるが、鬱憤を晴らすほどのことは出来ない。出来ても夜襲を気にしておちおち酒も飲めやしない。だが、彼の来訪だけはその日常が覆る。

 

 玉城軍曹が手にしているのは、酒瓶一本につまみ類が見受けられ、全員が頬を緩めた。

 訓練内容や夜襲する日時を知りえる彼は、こうやって狙われない班にやって来ては、ちょっとした宴会を開くのだ。

 順番など無く、ただ騒ぎたいという名目であろうが、訓練生にとっては唯一の楽しみである。

 

 「へへへ、飲もうぜお前ら」

 

 確かに御所警備隊の紅月 ナオト隊長や副隊長の扇 要中尉は、厳しい訓練によるストレスや身体の異常を含めて俺達を心配して、相談に乗って下さっているので大変ありがたい。

 特に女性陣にとって、ナオト大尉はもはやアイドル的扱いになっている。

 隊長として周りに気を配れるようになった事と、すらっとしたルックス、整った顔立ちなどから、現実の枢木 白虎少将を知って幻滅した女性陣の興味が移ったのだ。

 扇中尉は良い人なのだがどうも頼りないし、基本的に流されやすいのか、これと言ってストレス発散の場を設けた試しも無し。

 そこで男性陣にとって、こうやって軍規に違反しようともストレス発散の場を設けてくれる玉城軍曹の存在が大変ありがたいのだ。

 渡されたコップになみなみと注がれた酒をちびりと飲み込む。

 焼けるような酒の感覚が喉を通り、臓物に染みわたって行く。

 用意されたつまみを摘まみながら、玉城軍曹の武勇伝に相槌を打つ。

 基本的自分が話したいだけの話だが、日本各地を飛び回った事もあって話のレパートリーは豊富だ。

 あっと驚く戦いや、手に汗握る展開をスラスラと語る。

 耳にするたびに、枢木少将の策やそれを実行するナオト大尉達の技量に驚かされる。

 それと圧倒的な信頼を寄せている事がヒシヒシと伝わり、彼らの関係が羨ましいと心の底から思える。

 いつかは自分達もと熱が籠る。

 

 宴会は酒が切れるまで続き、暗闇の中を帰っていく玉城軍曹を見送ると、気分をリフレッシュした吉田は明日の訓練に備えてベットに横になるのだった。

 

 

 

 なんだろうかこの感情は。

 早く帰りたい、離れたいと思っていた訓練場であったが、いざ帰るとなると、どうにも寂しさに似た感覚に囚われる。

 半年間の訓練を終え、帰る為のバスに乗り込んだ杉山 賢人は窓よりぼんやりと眺める。

 正直ここまで残れるとは、訓練を開始した当時は思いもしなかった。

 いきなりの長距離行軍に肉体の強化。あらゆる状況にも対応できるようにと行われた訓練の数々。

 まさに血反吐を吐きそうになった過酷な内容だった。

 

 だからか、今や一緒に耐え抜いた仲間には、家族よりも強い絆を感じている。

 隣の席で安心しきった表情で眠っている井上や、後ろの席で今にも眠りそうな吉田に南。

 側にいるだけで妙な安心感を覚える。

 最初は二千人以上居た訓練生も千人に減った。

 今いる仲間はそのまま枢木少将の大隊配属―――つまり英雄の指揮する大隊に配属することになる。

 訓練時は悪魔のようにしか見えなかった枢木少将が指揮を執り、あの訓練を耐え抜いた仲間が戦友として戦場を駆け抜ける。

 これ以上に頼もしい部隊は無いだろう。

 

 未来に希望を抱きつつ、杉山も井上達に釣られて眠気のままに瞼を下ろした。

 それからあまり時間は経っていないが、眠りについていた意識がバスが停車するにつれて覚醒する。

 到着したかと、この半年間で一番心穏やかな眠りから脱した杉山は、窓から見える光景に首を傾げた。

 どう見ても向かっていた先は半年前に集まった集合場所でなく、何処かの訓練場らしき場所。

 不安を覚えながらアナウンス通りにバスより降り立つと、真新しい制服に袖を通した一個大隊の軍人が並んでいる。

 

 現状を理解できずに呆然としたが、すぐさま隊列を組んでこれから指揮車両より降りる枢木少将を待つ。

 整列した自分達に、枢木少将はにこやかな笑みを向ける。

 とてつもなく嫌な予感がするのは自分だけではないだろう。

 御所警備隊の面々と共に、向かい合う形で並んだ枢木少将の言葉に耳を傾ける。

 

 「さて、この半年間を耐えに耐え抜いた優秀なる訓練生諸君。今日を持って諸君らは訓練生ではなく、私の指揮する大隊―――白虎(ビャッコ)大隊に配属する訳だが、未だ自分達がどれだけの力を得たのか実感が少ないと思う」

 

 確かにその通りだ。

 仲間内で「良い動きが出来たな」とか「身体つきが変わったな」などという確認は出来ても、自分がどれだけ強くなったかは意外と分からないものだ。

 特に同じ訓練を受けた者通しでしか触れ合えなかった俺達ではなおさらだ。

 試しにと取っ組み合いをしたところで、相手も鍛えられて強くなっているからあまり比較にならない。

 寧ろ変わってないのではと思うほどだ。

 

 「なので最終確認も兼ねて、軍学校を卒業した新兵諸君との模擬戦を用意した。諸君らは今までの訓練で得た物を活かして、自分達の力を十二分に確かめてくれたまえ」

 

 ゆえにこういう場を用意して自分達に認識させる辺り、枢木少将はよく分かっているのだろう。 

 相手は新兵だからと油断せずに、御所警備隊の先輩方を相手にする気持ちで挑むべきか。

 緩みかけていた気持ちを引き締め始めた杉山達に、白虎は続けて一言放った。

 

「あ、言い忘れたが、新兵に後れをとった者、手を抜いた者に対しては、遺憾ながら再訓練を用意しているので精々励むように」

 

 最後の一言を耳にした俺はカチリと脳内で何かが(・・・)入った音がした。

 その後、俺の記憶が曖昧になったのだが、とりあえず再訓練を受ける羽目にならなくて済んでよかったとだけ言っておこう。

 

 

 

 目の前の戦果―――否、惨劇に大変ご満悦な枢木 白虎に対して、同様に観戦していた将校たちは驚きで目を見開くのではなく、憐れみで目を背けたい気持ちでいっぱいだった。

 彼らは日本の英雄と謳われる白虎の鍛え上げた大隊に興味があり、今日の模擬戦の観戦を申し込んだ者達だが、予想を遥かに超えた実績に震えていた。

 白虎達が鍛え上げた訓練生大隊に対して用意したのは、軍学校を卒業したての新兵一個大隊。

 兵数は同数でも、この半年間鍛え上げられた事で多少有利に戦況を運べる程度にしか考えていなかった将校達と、それなりに善戦できると思い込んでいた新兵諸君の想いは一瞬で瓦解した。

 

 目は血走り、実戦さながらの殺気を纏い、戦場を縦横無尽に駆け抜ける彼らは、もはや悪鬼羅刹にしか映らない。

 獲物を見つけてはそれを如何に効率的に狩るかを模索し、集団が一個の個体のように動き回る。

 新兵どころか下手な現役軍人でも止められるかどうか怪しい一方的な戦い。

 

 そんな現状を目の当たりにした将校と体験している新兵に、扇は苦笑いを浮かべる。

 

 「どうですかな私の大隊は?」

 「す、素晴らしいですな。さすがは英雄殿」

 「こ、これほどの精鋭を半年で鍛え上げられるとは」

 「声が震えておりますなぁ。自国の優秀な若者の成長に歓喜されておられるようで何よりです」

 

 絶対分かって言っているなと扇は内心呆れる。

 将校達の震えは、半年前までただの優秀な訓練生だった者らが半年間で纏った狂気。そしてあの狂戦士達を生み出すために何をしたのか。さらにはそんな大隊を作り出して、こいつは何を仕出かす気なのだという恐怖からなっている。

 それらを理解して嗤いながら同意を強要している。

 英雄というより悪魔の類だと訓練生諸君は想っているに違いない。

 

 そんな扇の考えを他所に、将校たちの引き攣った笑みと喜ばしいと絶賛する拍手を愛想笑いで白虎は受け取る。

 受け取るだけ受け取って、どうでも良い賞賛など速攻で脳内のゴミ箱で処理する。

 なんたって今の彼にはようやく手駒が揃いつつあることしか頭にないのだから。

 

 約束された最新鋭のナイトメアフレームの紅蓮弐式とランスロットに、性能を十分に活かし切れる技量を持つスザクにカレン。

 藤堂 鏡志郎に四聖剣、それにジェレミア・ゴットバルトという優秀なパイロット陣。

 高い指揮能力を誇るルルーシュに世界屈指の技術者達。

 そしてようやく手に入った優秀な兵士諸君。

 後は時さえ待てば全てが揃うのみ。

 

 高笑いしそうな気持を抑えていた白虎の下に、一人の兵士が駆け寄る。

 

 「枢木少将!澤崎首相より緊急電です」

 「んぁ?緊急ってこんな時期になんかあったか?」

 

 急に現れた兵士より通信機を渡され、首を捻りながら内容を聞いた白虎は、みるみる険しいものに変わって行った。

 

 「扇!すぐにナオト達と大隊各員を集めろ!」

 「了解です」

 

 慌てて無線機を手にして訓練中止を言い渡す扇を残して、白虎はその場から離れる。

 アニメや漫画の知識を持っているからと言って、異物が混入して内容を掻き回したこの世界がすべてそれに沿う筈がない。

 少し考えれば分かる事なのに、それに気付けなかった己に腹が立つ。

 

 “中華連邦軍が九州に侵攻して来た”

 

 突然の事柄に疑念を抱きつつも、何故という疑問を解消するだけの確証も無い答えを弾き出して、余計に苛立つ。

 

 「あの金髪…いつか絶対殴り飛ばしてやる」

 

 未来への決め事を一つ増やし、白虎は御所警備隊と訓練生大隊を引き連れ、広島へと一時向かうのであった。


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