日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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 すみません。
 投稿日忘れてました。
 遅れましたけど投稿します。


第21話 「九州事変」

 皇歴2013年二月二十日。

 日本国と協定を結んでいた中華連邦の一部が反ブリタニア活動を掲げて、日本国九州の福岡基地を占拠した。

 軍を指揮している中華連邦遼東軍管区の曹将軍は、この行動でブリタニアへの反抗の意志を失いつつある日本をもう一度奮い立てるためと公式に発し、福岡基地に中華連邦製ナイトメアフレーム“鋼髏”を配置し籠城している。

 福岡基地は沿岸部に位置する要塞で、その目的は西側よりの侵攻を阻止する為に作られ、外壁には対艦用の砲門が取り付けられ、対空装備も充実させている。

 護るに易く、攻めるは難しい鉄壁の要塞であるが、抵抗らしい抵抗すら行う事無くあっさりと曹将軍の支配下に収まっている。

 どんな砦でも城でも同じなのだが、拠点と言うのは特殊なものを除けば、大概が外から向かってくる敵に対して機能しており、内部に対してはそこまでの防衛能力を有していない。言うなれば内部より堕とすのが外から攻めるより楽なのだ。攻めるのは楽であってもそこまで手を回すのはとても難しい。

 今回はその内部に協力する一団が居たからこそなった。

 白虎曰く、将校クラスで対ブリタニア思想を色濃くして、理由も無く勝てると信じ切っている楽観主義者共。

 彼らが公に戦う素振りを見せない白虎に業を煮やした一部が跳び付いたのだ。

 そうして日本国内に反ブリタニアを掲げる組織が国家の壁を越えて出来上がった訳だが、日本政府はそれを容認できる筈も無い。

 神聖ブリタニア帝国からは、日本に戦争をする気があるのかの真偽を問われ、まだ戦う気の無い澤崎首相らは自国の無実を証明せねばならなくなったのだ。

 

 「かくして役職だけの大人たちは、無垢なる若者に責任を投げつけるのであったとさ」

 「あら?何方が無垢なる(・・・・)若者ですの?」

 

 円形状の机を中央に配置した一室を、僅か二人の人物が占領していた。

 上座にて背凭れに凭れきり、眉を潜めつつも笑みを浮かべる枢木 白虎少将。

 そして白虎が座っている椅子の肘掛に腰かけている皇 神楽耶。

 枢木家と皇家の名家同士の会談の場―――ではなく、ここは…こここそが中華連邦対策本部。

 邪魔者を排し、案を出さないだけの傍観者も取り除き、優秀な味方はすでに臨戦態勢で待機している。

 結果、二人だけの対策本部になったのだ。

 

 先の神楽耶の問いに苦笑いを浮かべる。

 否定はしない。

 言う事があるとすれば…。

 

 「半年間見ぬ間に言うようになったな」

 「そうですわ。半年間もほったらかしにされたのですから」

 「悪かったって神楽耶」

 

 頬を膨らませて抗議の視線を向ける神楽耶を引き寄せて、背中は足を組んで支え、後頭部には自身の右腕枕代わりにして仰向けに転がす。

 ニヤリと似たような笑みを浮かべ笑い合う。

 

 「埋め合わせはさせて貰うさ」

 「言質は取りましたよ」

 「信用はされていたと思っていたが?」

 「意地の悪い。勿論してますわ。ですが保険と言うのは必要でなくて」

 「まさにその通りだな」

 

 クククと嗤うとスッと真面目な表情を取り繕う。

 このまま何気ない会話を続けていていたいものだが、現状どうにかしないといけない問題を解決しないと後に響く。

 

 「さてさて、本題に移ろうか。どうやってあの目障りなダルマモドキ(鋼髏)を中心にした奴らを駆逐するかだな。

  小型舟艇を用いて接近し、歩兵による潜入工作」

 「否ですわ。

  福岡基地の索敵網に見つかり、壁上の砲台で吹き飛ばされるのが関の山。

  新造戦艦“金剛”での強硬突入」

 「否、パレードで見せたのは外見に借り物の武装を乗せただけの未完成品。完成させるには最低でも一年は掛かるし、大型艦船で近づけば撃ち合いになるのは必至だ。初の大舞台に立つならば晴れ着(専用装備)を着させてやるべきだろう?

  航空機より空挺降下」

 「それも否ですわ。

  対空迎撃システムで配備された対空ミサイルにより接近すら難しいでしょうし、基地を制圧できるだけの人員を揃えるのは現状難しいかと。

  自在戦闘装甲騎“無頼”による大規模攻勢」

 「否だ。

  鋼髏の秀でているのは火力と射程だ。無頼の攻撃範囲に入る前に鴨撃ちにされる」

 

 これは提案ではない。

 お互いに頭に浮かんだ物を言い合って、それらが無意味であることを再確認しているに過ぎない。

 本来ならば中華連邦に抗議するという案も浮かぶ可能性もあったが、それはすでに澤崎が外交官を通じて行っており「日本の基地占拠は曹将軍の独断で、我々大宦官は関与していない」と返答が成された後だ。

 そもそもこの動きはおかしい。

 友好関係を築いている中華連邦が攻めるにしては、メリットが見つからない。もしもサクラダイトを欲しての行為だとしても、対ブリタニアの構図を生み出すことは無い。寧ろデメリットの方が多い。

 白虎が思うに今回の事件の背後にはあのノーフェイス(シュナイゼル)の影が伺える。

 無論奴だと特定出来る証拠は無いし、それらしい痕跡すらない。

 これはただの勘だ。

 欲に塗れた大宦官の誰かを唆して、かませ犬にしてこちらの―――俺の戦術を伺うつもりだろう。

 戦うつもり満々のノーフェイスなど怖くて震えが止まらねぇぜ。ついでに笑いもだが。

 

 「つまりCIWS(ガトリング)群や砲からの弾雨を物ともせず、対空ミサイルと索敵網を掻い潜り、射程と火力を誇る鋼髏を突破して、基地を無事に奪還できる作戦」

 

 確認が終え、神楽耶がまとめた。

 “自由”の名を関する複数機に攻撃が出来るロボットと、それに搭乗していたジノ・ヴァインベルグと同じ声の覚醒後の人物でないと無理じゃね?と言いたくなるような状況に、苦笑いしか出来なくなる。

 

 「不可能極まれりだな」

 「さすがの英雄様もお手上げですか?」

 「条件を縛られ過ぎればな」

 

 ルルーシュだって奇跡を演出することは出来ても、無理な事は無理なのだ。 

 だからと言って嘆くだけなら誰でも出来る。

 俺がするべき事は嘆く事でも不可能を可能にする事でもない。不可能なことを出来るだけ可能な形で解決する事。

 

 「だけどまぁ、問題を解決することは可能だ」

 「悪い顔をしてますわね」

 「二兎を追う者は一兎をも得ず。欲が多くなると身動きが取れ難くなるのさ。だったら片方を捨てれば解決だ」

 「あそこには敵対していると言っても、同じ日本軍人が居りましてよ?」

 

 悪戯っぽく問いかけた質問に何の感情も挟まずに答える。

 

 「だから?」

 「ふふ、そう仰られると思っていましたわ」

 「たかが同民族だからと言って、顔も知らん相手を救おうと願うほど聖人君子に見えたか」

 「いいえ、いつも通りの私の愛しい白虎です」

 「――ッ…恥ずかしがらずによくもまぁ嬉しそうに」

 

 恥ずかしげも無く言い放たれた言葉に不意を撃たれ、照れた白虎は神楽耶を起こして抱き締めながら立ち上がる。

 海を渡って来たかませ犬に、与えられた仕事をさせてやろうと邪悪に嗤う。

 

 

 

 

 

 

 福岡基地を占拠した曹将軍は不敵に笑う。

 今回の日本への侵攻作戦に疑問を覚えない訳ではないが、そんな事を那由他の彼方に追いやるほど、眼前にぶら下げられた餌にしか興味が無くなっていた。

 日本という国は特殊な立ち位置に立っている。

 小国でありながら超大国ブリタニアを三度も退けた事で、反ブリタニア活動を行う国家や組織に希望を与え、ブリタニアとも対等の立ち位置に立っている。敵対しながらも手を取り合い伺い合う。

 馬鹿げている話だ。

 ブリタニアを含んだ世界屈指の三つの大国が一つ“ユーロピア共和国連合”。

 比べるまでも無く総戦力は日本の数十倍に及ぶ連合は、正面からぶつかり合ったところで押され、ブリタニアは対等どころか見下している節が見受けられる。

 そんな中で日本という国は、ブリタニアから見れば我が祖国“中華連邦”同様―――違うな。それ以上に重要視されている。

 でなければ、ブリタニア皇帝が日本の枢木家と第一皇女との婚約話を持ち出さないだろうし、代案を出されたとしても、断られた時点で文句のひとつも言わないのは実におかしなことだ。

 

 私が命じられた命令は、日本軍や一般民衆を焚きつけて対ブリタニア思想を表面化させる事。

 すでに燻ぶっていた軍部の一部には、協力者(・・・)が手を回してこちら側に加わっており、あとはここを占拠しつつ日本軍部を分断し続ければ良い。その間にこちらの工作員が、一般市民を焚きつける手筈になっている。

 軍を裂かれ、市民までもこちらに付けば、日本政府だけではどうしようもないだろう。

 

 今は国を守るために知らんぷりしている中華連邦も、作戦が成功すれば、ブリタニアに対して宣戦布告し決起する手筈になっている。

 たかが島国であるが利用価値は十二分にある。

 日本がブリタニアと戦うとなれば、反ブリタニア勢力は動き、すでにユーロピアや他にも複数の戦線を抱えるブリタニアは、全方位からの攻撃に晒されて崩壊するだろう。

 さすれば世界の主導権を握るのは、纏まりきれずに疲弊しているユーロピア共和国連合か?

 違う!それは我が祖国中華連邦をおいて他ならない。

 十分な戦力に、日本を支配下に置くことで得れる膨大なサクラダイト。

 

 この作戦が成功した暁には、私はこの国の管理を任されている。

 小さいと言えども一国の王に成れるのだ。

 

 未来に対して高揚し、笑みが漏れる。

 しかも自分が行うのは、この基地を護るという事だけ。

 海には絶壁の外壁に複数の砲台。

 空にはCIWSやミサイルによる対空防衛網。

 地上にはこちらに付いた日本兵及び、鋼髏を主軸に据えた中華連邦軍。

 元々この基地は日本防衛の一翼を担う事から、日本軍は出来るだけ無傷での奪還作戦を考えるだろうが、欲から手数は限られ、思い切った行動は取れ辛い。

 もはや負ける要素は無いに等しい。

 

 「将軍!!」

 

 レーダーを見つめていた兵士より声が掛かる。

 さすがに日本も黙ってはいないとは思っていたが、予想よりも早い。

 いや、ブリタニアを退ける大きな要因となったあの枢木 白虎が居るのだから、おかしい事でもないか。

 中華連邦まで、ブリタニアと日本との戦争時の逸話や武勇伝は伝わってきている。が、軍人として戦いを知っている曹は、それらすべてが真実とは信じていない。

 全てが嘘と言う事は無いだろうが、疲弊した日本がでっち上げた英雄の可能性もあるし、名家の出だった事から手柄を持たせる事もあっただろうから、合っていても三割程度だろう。

 

 「なにか?」

 「レーダーに艦影多数!」

 「さすがに動いたか。上陸艇だろうが戦闘艦だろうが予定通りに対処せよ。向こうの攻撃などたかが知れている」

 「そ、それが敵艦隊は、こちらの射程外で停止したまま動きを見せてません」

 「なに?」

 

 海からなら船で接近して特殊部隊による破壊工作といったところか。

 しかしながら、外壁には海より侵入してくるであろう敵に対しての対策も施して、人員を裂いている。万が一にもバレずに侵入することは不可能だ。 

 

 

 『あ、あー…もしもし聞こえますか?こちら日本軍枢木 白虎少将でぇす』

 「…こちらは()中華連邦遼東軍管区の曹将軍である」

 

 どこかふざけた様子の声に、若干苛立ちを覚えながら答える。

 勿論現在は中華連邦軍ではなく、自身の行動であるとする為に元を強調する。

 そして相手から交渉が行われると考え、時間稼ぎでもと相手の条件に食いつきそうな素振りを見せつつ話すかなどと模索し始める――――が…。

 

 『おぉ!これは引率者の方でしたか』

 

 引率者?

 思いもしなかった単語に脳内に疑問符が浮かび上がる。

 

 『いやはや困りますよ。税関も通さず荷物を持ち込み、当国の入国監査を無視したら』

 「貴様何を言っている?」

 『おんやぁ?もしや正規の手段で入られておりましたか。これは失敬。入国目的をお聞きしても?あとビザをお持ちですかぁ?』

 「きさッ、貴様ぁ!何を言っている!!いや、この状況を理解しているのか!?」

 

 完全に馬鹿にしているとしか思えない。

 こんなふざけた奴が噂の“日本の英雄”枢木 白虎なのかと伺いつつ、怒声の返答を待つ。

 

 『もぅ、白虎は意地悪が過ぎる』

 『必要な事柄だろ。日本への団体旅行者に誤射ったら国際問題だ』

 『それは確かに。演習中(・・・)の事故で外国旅行者を吹き飛ばしたなんて聞いたら、澤崎はストレスで禿げるかも知れませんしね』

 『それは手遅れだ。ストレス関係なしにすでに頭皮は後退を開始しているから』

 「ふ、ふざけるな!!我々は貴様ら腑抜けた日本人共に、何が正義かを教育しに来たのだ。これは冗談でも悪戯でもなく、我々の確固たる意志で現実だ。ブリタニアとの仲良しこよしをしている貴様らには、理解出来んだろうがな!!」

 

 時間稼ぎに利用してやろうと思っていたが、このような児戯に付き合ってられるか。

 不毛な会話を終わらせる為にも、用意していた理由を怒鳴って相手に叩きつける。しかしながら相手はそれを耳にしながら相槌を打ち、言葉を続けてきた。

 

 『――ハッ!噛ませ犬がよく吠える』

 「なんだと!?」

 『ともあれ、ようこそ日本国へ。歓迎しますよ』

 

 不敵な言葉に不安を抱いた曹は、基地中に響き渡った轟音と、海沿いの外壁から煙と爆発が起こっているのを見て呆然とする。

 多くの疑問が浮かぶ中、一つだけ理解した事がある。

 どれだけ日本を―――枢木 白虎をブリタニアが重要視するかの意味を、軽んじていたという事を…。

 

 

 

 

 

 

 井上 直美は高揚している。

 焦げ臭い悪臭が漂い、悲鳴と雄叫びが交じり合う戦場。

 まだ温かな血潮で頬を濡らし、手には人を殺した感触と命を奪った実感が酷くこびり付いている。

 対艦用大型レールガン搭載の、初春型特殊駆逐艦を含めた海軍主力艦隊の砲撃にて、海上への防衛の要であった外壁上の砲台は完全に無力化。

 迎撃用のミサイル群は、海軍主力艦隊旗艦を務めている戦域護衛戦闘艦“天岩戸”によって逆に迎撃され、チャフやデコイを大量に詰んだ戦闘機部隊に、ミサイル発射装置は破壊された。

 鋼髏を含めた地上部隊は、天岩戸より発射された三式弾を空中で爆発された弾雨により、壊滅状態一歩手前にまで追い込まれ、さらには藤堂 鏡志郎大佐率いる自在戦闘装甲騎大隊に、自分達白虎大隊を含んだ歩兵部隊が突入している。

 日本に侵攻してきた中華連邦軍も、売国奴へと身を落とした日本軍の一部ももはや虫の息。

 

 

 ―――だからどうした?敵は息をし、我らの領土に立っている。ならば諸君らがすべきことは何か?

 

 

 脳内で枢木少将の言葉が再生される。

 答えは決まっている。

 

 腕を負傷したのか抑えながら、何かを必死に叫んでいる中華連邦の兵士がいる。

 武器は持っておらず、投降の意志は窺えない(知る気も無し)

 ならばそれは敵だ。

 倒すべき敵だ。

 憎むべき敵だ。

 弾丸は勿体ない。

 拳では心もとない。

 だったらシャベルを使おう。

 枢木少将が特注で作らせた折り畳み式のシャベル。

 折り畳みであるが強度を持たせ、重みも十分。

 叩いて良し。

 斬って良し。

 突いて良し。

 振り被ったシャベルが相手の頭部に当たり、骨がきしむ音と感触がシャベル越しに伝わってくる。

 

 半年前の私では決して想像できぬ蛮行である。

 でもしなければならない。やらなければならない。

 それが私達の職務であり、祖国の為なのだ。

 

 同小隊の吉田 透が遮蔽物に身を隠した敵兵を手榴弾で吹き飛ばし、南 佳高が敵兵を撃ち殺し、杉山 賢人も私同様にシャベル片手に斬り込んだ。

 皆が皆、狂ったように歪んだ笑みを浮かべながら。

 

 別に楽しんでいる訳ではない。

 寧ろこの狂気に飲み込まれないように、必死に感情を押し殺している。

 少将曰く、殺しながら嗤っている奴は怖いだろうと。

 確かに怖いだろう。

 自分がそのような笑みを浮かべながら人を殺している者を目にしたならば、恐怖のあまり逃げ出すだろう。

 

 「うらぁ、行くぞおめぇら!!」

 

 叫び声と同時に、私達白虎大隊の引率として同行した御所警備隊の玉城軍曹を先頭に、何人かが突っ込んで行く。

 目指すは未だ健在だった鋼髏一騎。

 勢い任せの突撃に見せて、周囲に散開し包囲。距離を詰めるとスモークグレネードで視界を塞いで、足へと集中砲火を浴びせる。

 鋼髏は巨大な胴体に腕部のマシンガン、キャノン砲を搭載したナイトメアフレーム。白虎だからと言わず、一目見ただけで弱点は足にあると誰でも気づくだろう。

 細い足の一本を崩すだけで身体を支えれずに転倒し、腕部は上下にしか動かせない機構なので、起き上がるにも起き上がれない。

 もう動きの取れない鋼髏は成す統べ無し。

 虫の死骸に群がる蟻のように集まり、ハッチを手投げ弾で破壊し、中よりパイロットを引き摺り降ろす。

 その先は見ない方が賢明と判断して咄嗟に視線を外すが、つんざくような金切り声が状況を克明に脳へ叩きつけてくる。

 

 これが戦争…。

 これが戦場…。

 いつか私達も地獄の訓練同様慣れるのだろうか…。

 

 シャベルに映った自分の顔に疑問を浮かべる。

 汗で張り付いた髪に返り血を浴びて真っ赤に染まった頬、楽しそうな歪んだ笑みを浮かべた誰かが(・・・)そこに居た。狂気に染まった瞳が自身を見つめている…。

 

 「おい、戦場で止まってんじゃねぇよ!死にてぇのか!?」

 「―――ッ!?申し訳ありません!!」

 

 玉城軍曹の声により我に返った井上は、シャベルから視線を逸らして正面を見据える。

 今はなんやかんやと考えている場合ではない。

 生き残る為にも前に進まなければ…。

 

 笑みを浮かべながら戦場を駆ける。

 もうここには無垢だった新兵達は存在しない。

 居るのは屍を踏み越え、ただひたすらに敵を打ち倒すべく駆け抜ける、白虎が求めた戦争狂へと踏みしめた者達であった。

 

 

 

 

 

 

 福岡基地は地獄と化した。

 海軍の主力艦隊による海上よりの支援砲撃に、迎撃システム及び地上戦力の無力化。

 航空支援による、正確な迎撃システムと主な施設への攻撃。

 大被害を被って混乱する、敵への歩兵と自在戦闘装甲騎を組み合わせた地上戦力による掃討戦。

 

 正常な人が見れば吐き気を催すであろう光景を、白虎は満足げに眺める。

 暗い一室でソファに腰かけ、偵察機などから送られてくる映像を複数のモニターに映し出し、戦闘状況を吟味する。

 実に良い。

 戦争がではなく彼らの戦う様に。

 ようやく白虎は実感できたのだ。

 ちゃんとしたピース()に成れた彼ら彼女らを。

 

 「酷いお顔ですわ」

 「本当にな。それが日本の英雄と持て囃される奴の顔か?」

 

 膝の上に腰かけた皇 神楽耶。

 ソファの背もたれに前のめりに寄り掛かり、後ろから表情を覗き見るC.C.。

 

 「そんなに悪い顔してたか咲世子」

 「いいえ、とても楽しそうなお顔をしておられますよ」

 

 にっこりと微笑みながら待機している篠崎 咲世子。

 この世界で少なく本音で語れる彼女らに囲まれて、隠すことなく白虎は頬を緩ませる。

 

 「ようやく手駒が使えると分かったんだ。計画も次へと進める」

 「シュナイゼルに良いようにされてか?」 

 「寧ろこの程度で済んでよかったよ。下手すれば“助力いたしましょうか”とか言って介入する気満々だったろうしな」

 「お互い狡いと手が読めやすくて良かった」

 「違いますよC.C.さん。白虎様は狡いのではなく感性が歪んでいるのです」

 「せめてフォローして咲世子さん」

 「申し訳ありません。フォローのつもりだったのですが」

 

 絶対その気は無かったろうと思いつつ、喉の渇きを覚えて注文を一つ。

 

 「咲世子さん、ここにある一番良いココアをよく練って持ってきて。砂糖もミルクもありありで」

 「畏まりました」

 

 覚えのある注文を口にするぐらい気分が高鳴っている。

 ノー・フェイスの策略に填まったのは酷く腹立たしいが、見返りはとても大きかった。

 今回晒してしまったのは、白虎が自国の基地であろうと自国の兵士であろうと、敵の手に渡れば一切の容赦がなく殲滅を行うという事。ナイトメアフレームを、実戦で使用可能なレベルにパイロットも含めて仕上げている事。さらに金剛型などを使用しなかった事から、未完成という事にも気付かれるかも知れない。

 他にも気付かないだけであるかも知れないが、致命的なものはなかった筈だ。

 この程度で得れたものと言えば、支援が万全に行える状態での白虎大隊への実戦体験、無頼の実戦データ取り、機械による射撃補正を行わずに手動での砲撃。さらには軍部上層部の大規模粛清。裏切った者に手助けした者、見て見ぬ振りをした者全てが対象で、これから多くの者が裁かれ軍部から一掃されるだろう。

 

 現在政府軍部両方で今回の件は審議されている。

 裏切ったといえども、自国の兵士に奪還すべき基地を放棄した白虎に想うところがあるのは仕方がないだろう。

 されど軍部は、大半が居なくなるとすれば白虎に意見する余裕は無いし、政府に至っては、すでに澤崎を始めとしたグループが抑えるべく動き始めている。

 澤崎は小言は言うかも知れんが、それ以上に“短期間で中華連邦軍を打ち払った英雄”との友好をアピールして、自分のポイントとして利用しようと考えているのが予想できる。尻拭いしてくれたのだからそれぐらい別に良いけどね。

 

 「それにしても、これからは中華連邦には足を向けて寝れないな。新兵訓練用の的に、大規模演習の機会を与えてくれたんだからな」

 「あと、残骸とは言え鋼髏の技術提供もですよ」

 「それでこれからどうするのだ?ブリタニアに宣戦布告でもするのか?」

 「馬鹿抜かせ。現状で勝てる訳ねぇだろう。せめてお前さんとの契約を完了できる手前まで、症状(ギアス)を進めたい」

 「お前だけだよ。私との契約を遂行してくれようとしてくれているのは」

 「別にそっちがその気になれば、中華連邦に置いてきた(マオ)に押し付ければ、無理やりだが契約完了できるだろうが―――まぁ、無理だろうけどな。なんたって優しいから」

 「無駄に知ったような事を言うな。おしゃべりが過ぎる男は嫌われるぞ」

 「構わないさ。好いてくれる女子が居てくれるからな」

 

 膝の上に座り、凭れている神楽耶の頭を撫でる。

 嬉しそうな笑い声が漏れるのと対照的に、妙に苛立った視線を感じたが気にしない。

 戻ってきた咲世子から手渡されたココアを一口飲んで一息つく。

 ふと、神楽耶を見て政治の道具とされている一人の少女を思い出した。

 

 「あー…そういえば今年で七歳ぐらいになったか…」

 「何のことです?」

 「いんや、中華連邦にお友達を作りに行こうかなと」

 「お前友達少なそうだからな」

 「……C.C.…お前、人の事言えるのか?」

 「大宦官と肩を並べられるのですか?」

 「止めてくれ。想像しただけでも吐き気がする」

 「なら中華連邦の象徴である天子様ですか?」

 

 振り向いた瞳からハイライトが消えているのですが神楽耶さん?

 英雄色を好むって言ったの貴方なんですが?

 ………まぁ、原作での未来の貴方ですがね。

 元よりそういう意図は無いし、単なるお飾りでしかない点ではオデュッセウスとそう変わらない。

 狙うはその忠誠を向ける方だ。

 

 「そっちは神楽耶に任せるよ。俺は長髪のイケメンと交友を計るからさ」

 「それはそれで薄い本が厚くなりそうですね」

 「…どういう目で見られたのかを聞きたいところだが、あえてスルーしていた方が良さそうな話題だな」

 

 嫌に影が掛かっているように見える咲世子の笑みに身震いし、そちらへの考えは放棄した方が精神的に最善の選択だろう。

 モニターに視線を向け直して見ると、戦闘行為が停止し警戒体制へと移行された。

 そのことから凡そを理解し、鳴り出した携帯を手に取る。

 “曹将軍が降伏した”報告に何の感情も抱かず、次の指示を淡々と出して携帯を切った。

 

 「さて相手方も降伏したようだし、将の首を土産に遊びに行きますか」

 

 クツクツと意地の悪い笑みを浮かべ、白虎は次の目標を中華連邦へと確定する。


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