予約投稿したと思い込んで投稿するの遅れました。
皇歴2015年八月十日。
世界は大きな変化を見せぬまま、時が過ぎている。
超大国ブリタニアはユーロピアに戦争を継続し、他の国にも戦争を吹っ掛けて植民地支配を徐々に増やしているものの、世界各地で活動している旧日本軍人が率いている反ブリタニア組織“解放戦線”の対処もあって、進行速度は低下している。
日本国と言えば平和そのものである。
中華連邦との関係も以前以上に強化され、大宦官が何かしらと来日するようになった。
軍事力は回復どころか戦争前以上に保持している。
戦争の兆しは何年も前から抱えたままで、動く気配はない。
否、一部を除いて動けないと思われている。
枢木 白虎が病を患った。
ある日、突然にも白虎は右目を隠すような眼帯を着用するようになり、そのまま表舞台より姿を隠したのだ。
実際は右目が見辛いらしいが、時間が解決する病気らしい。
それを見せつけて動き出すやつらを粛正するつもりだとか。
相も合わらず怖い考えを何の躊躇いもなく実行する兄を、スザクは嫌いになる事はなかった。
寧ろ変わらぬ兄に安心を覚えるほどだ。
十五歳になった枢木 スザクは日課である鍛錬を早めに切り上げて、流した汗を風呂で洗い流して身なりを整える。
本日は白虎の誕生日という事もあって、枢木邸にて祝いの席が設けられることになっており、スザクを始めとした身近な者が集まっている。
ただし、藤堂及び四聖剣は政治家絡みが用意したパーティに参加するのでこちらは不参加。御所警備隊と白虎大隊の面々は別会場で騒ぐので以下同文。白虎は両方に顔を出してこちらに向かうとの事。
まだ時間に余裕があるとはいえ、しろ兄に変な所は見せたくない。
ただでさえ今日は客が多いのだ。
汗でびしょびしょになっていた道着を洗濯機で洗い始め、制服に着替えて洋間へと向かう。
いつもならまだまだ訓練を行って汗を流す時間帯だが、汗だくで誕生日会に出る訳にもいかない。が、その間する事もない。よって何か暇潰しに来たのだ。
洋間ではソファに腰を下ろして読書していたユフィがそこに居た。
入るや否や視界に収めたユフィは、にっこりと微笑む。
「スザクちょっと良いかしら?」
「どうしたんだいユフィ」
自分の婚約者である彼女の微笑みに、未だに慣れずにトクンとときめいたスザクは、何か嫌な予感までも抱きながら微笑み返す。
彼女は良くも悪くも純粋だ。
だからC.C.や咲世子さんによるいらない知識や冗談を真に受けて、突飛のないことをすることが度々ある。
今日はさすがに無いと思いたいのだが…。
「耳かきしてあげようと思って」
「・・・はい?」
耳かき棒を手にこっちにおいでと手招きするユフィに目が点になる。
嫌な訳ではない。寧ろして欲しいと思う。
嬉し恥ずかしの提案に跳び付く前に、平常心を保とうと心掛けながら高鳴る気持ちを抑える。
「恋人はこういう事をするって聞いて、やってみたかったんですよ」
「一応聞くけど誰から」
「しろ兄様からです」
しろ兄ぃ…。
まさかの情報源に頭を痛める。
だいたいこういう知識を与えるのは神楽耶か篠崎さんの筈だったんだが…っと、そろそろ動かないと拗ねそうだ。
少し照れながら、ぽんぽんと叩いて強調された太ももに頭をのせる。
柔らかく、ほのかに漂う香りに心臓が高鳴る。
その高鳴りに気付かぬまま、ユーフェミアは耳かき棒をゆっくりと耳へと入れて行く。
カリカリと優しく耳の内側を撫でるような感触が気持ちよく、太ももから伝わる温かな体温が心地よい眠気を誘う
「お前たち兄弟は、人目を気にすることを覚えた方がいいと思うが?」
「くろ兄!?」
恥ずかしさと嬉しさばかり感じていてまったく気配を感じ取れなかったことに驚き、呆れたような眼差しを向けるクロヴィスを見上げる。
以前は皇子として教育されてシャキっとしていたのに…。
目の周りに大きなクマを作り、ラフなTシャツにズボンを着用し、黄金色の長髪を雑に後ろで結んでいる姿は、もはや別人と言っても良いだろう。
「あら?随分とお疲れですね」
「そうかい?まぁ、疲れているが清々しい気分だよ」
「それ徹夜明けだからじゃないよね!?」
クロヴィスは今現在売れっ子の芸術家として公に姿を晒している。
元々芸術関係の才能を持っており、整った容姿にすらっとしたスタイルから、若い女性からアイドル並みの扱いを受けている。
おかげで作品・テレビどちらも引っ張りだこで大忙し。
前の戦争の総大将を務めていた事から悪感情も抱かれているが、本人は真摯にその事と向き合い後悔し、儲けの半分以上を義援金として毎月送り続けている。それらが功を成してか幾分か和らいでいる様子はある。そもそも子供に総司令を押し付けた時点でだいたいがお飾りと理解しているようだし。
まぁ、しろ兄が情報操作を行ったのもあるけど…。
疲れ切っているだろうに微笑を絶やさないクロヴィスに、どたどたと大慌てでバトレーが駆け寄って来る。
「クロヴィス様!そのお身体でご無理は…」
「やぁ、バトレー。大丈夫だよ――それにしてもバトレーが二人になっているのはどういうことかな?」
「大丈夫ではないではございませんか!?もっとご自愛ください!!」
「なぁに、この絵をしろ兄に渡さなければ……なんだか瞼が重い…」
「くろ兄!?」
「クロヴィス様!?」
ふらりと倒れ込んだクロヴィスをバトレーが支え、そのまま自室へと運んでいく。
本当にお疲れなのだろう。
仕事の合間にしろ、兄へのプレゼントとして絵を完成させていたのか。
せめて誕生日会が始まるまでは寝かせてあげよう。
それと秘書orマネージャーの仕事をして、クロ兄並みに働いているバトレーも休んだ方がいいと思う。いつもエナジードリンクで誤魔化さずにね…。
「来たわよスザク。って邪魔だった」
「いや、邪魔ではないけど…」
呆れたというか半笑いを浮かべたカレンは、襖を開けて中に入るとこちらを眺められる位置に腰かけた。
彼女との付き合いも、もう四年以上経つのかと思うと感慨深いものがある。
あのブリタニアの戦争より彼女も己を鍛え続け、今や自分と同等以上の実力者になっている。
内心羨ましく思う。
しろ兄は僕の時には甘さが出てしまうと藤堂さんに鍛錬を任せたが、カレンはしろ兄に鍛錬を付けて貰った(片手間で指示だけ)上で、しろ兄から勧められた
紅月さんは喜んでいたけど、しろ兄が勧めた時点で多分…いや、絶対言葉通りの海外留学では無いだろう。
確実に今後を見据えた作戦にカレンを参加させる気だ。
まだ僕は頼りないと思われているんだろうか。
違うと思いつつ不安が頭を過る。
まぁ、納得はするのだが。
なにせ去年のカレンは地獄を見たのだから。
白虎大隊と御所警備隊の合同訓練への非公式での参加。
どのような訓練を受けたのかは教えてくれなかったが、たった半月でカレンのポテンシャルは飛躍的に向上し、肉弾戦で僕と引けを取らないレベルに仕上がっていた。
過る感情を押しのけ、うじうじと考えるのを止める。
それにしてもと、胡坐を掻いてポテチを食べ始めているカレンを見つめる。
昔のようなやんちゃは成りを潜めて、ちょっとがさつな所はあるものの随分と大人になったものだ。
「なによ?」
「昔に比べて穏やかになったなと思ってさ」
「あんたが言うの。随分と丸くなったあんたがさ」
「あはは、確かにそうだね。池に投げ込まれたのが懐かしいね」
「ほぅ、何ならまた投げ入れてやろうか」
投げ込んだ
「楽しそうですね」
「お願いだから跳び込まないでね…」
「もう勘弁して欲しいんだけど。っていうかC.C.は枢木家の女中なのよね?仕事もせずになんでそうも偉そうなの」
「C.C.だからな」
「昔から変わらないわねソレ」
「容姿も変わらないしね」
慣れてしまって違和感が無くなってしまっているが、カレンの言うとおりだ。
ただC.C.は自分から仕事をしようとしないし、紅月さんがするからと放棄している節がある。それでもしろ兄が近くに置いているという事は、何かしら理由があるのだろう。
普段のアレから予想が全く立たないけど…。
「おい。パーティはまだなのか?」
「それこそ女中の仕事でしょうが。紅月さんや咲世子さんを見習いなさいよ」
「時間的にはそろそろしろ兄様が帰って来る頃合いだと思いますが」
「あー、だったらコー姉呼んできた方がいいかな」
「………言い出しっぺの法則を知っているか?」
「アンタ少しは仕事しなさいよ」
私は呼びに行かないからなと宣言したC.C.に苦笑して、ユフィの耳かきを中断して呼びに行くことにする。
まだ途中だからと不満そうな表情をされたが、また後でして欲しいと説得してとりあえず納得して貰う。
さて、部屋を出て階段を上がってコー姉を呼びに来たが、あの人も最初に会った時に比べて大分毒されたなぁ…。
ユフィの顔を見に来たついでに白虎の誕生日を祝ってやると来日した彼女は、客間ではなくしろ兄の自室に立て籠もっている。
扉を開けなくとも中の惨状が予想出来、ため息を漏らしつつ戸を叩く。
「入るよコー姉」
「――ッ!?……なんだスザクか。構わん」
ユフィだった時だけ構うんだよな。
本人知っているけど…。
なんて本人には言わないように気を付けて扉を開ける。
部屋より流れ出る寒すぎる冷気。
散乱している漫画に菓子袋とペットボトルの数々。
中央に居座るこたつに入り込んでいるジャージ姿の義姉。
「どうした?」
「そろそろしろ兄来るけどまだ立て籠もってる?」
「もうそんな時間か…分かった。用意するとしよう」
布巾に畳まれたブリタニア軍の制服に手を伸ばした辺りでスザクは扉を閉めた。
あとはしろ兄が帰って来るのを待つだけだと階段を降りていると、玄関が開けられた音が耳に届く。
期待を胸に駆け降りると玄関には眼帯で右目を隠している白虎に神楽耶、ギルフォードにダールトンが立っていた。
「お帰りしろ兄」
「ただいまスザク」
久しぶりに顔を合わせれた事に喜び、自然と笑みが浮かぶ。
その様子に面白くないと言いたげな神楽耶が、白虎の腕を強く抱きしめ注意を引く。
いつもしろ兄と一緒なのだから、こういう時は引いてくれても良いのにと思うんだけど…。
意図をくみ取った白虎は含みを持った笑みを浮かべ、そのままスザクに歩み寄って頭をガシガシと撫でた。
嬉しさのあまりスザクは白虎に微笑、神楽耶にはニヤリと悪い笑みを浮かべて見せつける。
「お帰りなさいませ白虎様」
「お久しぶりです紅月さん。遅れましたか?」
「いえ、ちょうど準備を終えたところです」
「なら飯にすっか」
不平不満からゲジゲジとスザクの脛に蹴りを入れる神楽耶を他所に、出迎えに来た紅月と白虎はにこやかに会話を交わし、何時までも続きそうだった神楽耶を止める。
「駄目ですよ白虎様。ちゃんと手を洗わないと」
「なら僕は皆を呼んで来るよ」
「おう、頼んだ」
皆を呼びにスザクは集まっていたカレンやユフィ、C.C.に声を掛けると、寝ているであろうクロヴィスをバトレーと共に起こし、まだ部屋にいるであろうコーネリアにも声を掛けに行こうとしたら、先に用意を済ませて階段を降りて来ていた。
すらっと背筋を伸ばし、凛とした表情に思わず誰だ?といいかけた僕は悪くないと思う。
言いたい事を察したコーネリアの険しい表情が向けられるが、すぐさまその表情は別の誰かさんへと向けられる。
「よぅ、コー姉。ユフィちゃんの顔見るついでとは言え、祝いに来てくれてあんがとな」
「祝う気はないがついでで参加させて貰うぞ」
「おう楽しんで行けシスコン」
二カリと笑い合いながら言い合う二人の
コーネリアと白虎に並んで大広間に向かうと、座敷の上に設けられた長机に豪華な料理と酒やジュース、お茶類が並び、すでに呼んだ面子が集まり終え、用意していた咲世子が端で待機していた。
「にしても悪いなコー姉。護衛として二人借りちゃって」
「構わないさ。私とて
「皇女様ってのは大変なんだな」
「名家の当主で自由に振舞える貴様がおかしいだけだがな」
「はぁ?皇務を疎かにしている
「ふむ…一理あるか」
公の場では口に出来ない単語と隠れた本音が聞こえてくるのだが…。
二人の会話に慣れてスルーしているギルフォードとダールトンは良いとして、クロヴィスを連れてきたバトレーなんかは倒れそうなぐらい驚いている。
もう気にせずに誰もが席に腰かけ始め、上座に白虎が座るとさも当たり前のように神楽耶がその膝の上に腰かける。
恥ずかしさを一切感じさせず、慣れた様子の二人にユフィが目を輝かせてこちらを見つめる。
「スザk――」
「しないからね。さすがに恥ずかしいから」
「もうスザクったら」
口にはしなかったが君のお姉さんが殺気を向けているのもあるからね。
起きたクロヴィスも含めた全員が着席し、白虎の誕生日を口々に祝い用意された料理と飲み物に口を付ける。
白虎は箸で料理を摘まむと「あ~ん」と口を開く神楽耶に食べさせ、プレゼントとして渡された品々に目を通していた。特にクロヴィスの神楽耶と白虎の肖像画は偉く気に入ったのか笑みを浮かべていた。
ふと何かを思い出したようで、白虎が懐から何かを取り出した。
「あ、ギルギル。これ頼まれてたものね」
「――ッ…ありがとう。大事にさせて貰うよ」
白虎よりギルフォードに一枚の写真が差し出され、何やら慌てるように受け取りに行くギルフォード。
それを不審に思わない者は居らず、特に気になったコーネリアが先に手を伸ばした。
「姫様!?それは――」
ひったくるように取ったそれは、いつぞやの着物姿のコーネリアが写っている写真だった。
一瞬の時間でギルフォードは青ざめ、コーネリアはハイライトの消えた瞳で、獲物を捉えるように白虎へ視線を向けていた。
「これはどういうことだ?」
「んぁ?あぁ、欲しい欲しいと強請るからやった」
「お待ちを!それは語弊を強く含んでおります!!」
「なら欲しくなかったのか?」
「それはっ…」
「ギルフォード卿。騎士なら潔く認めなければな」
「おい、今胸ポケットにしまった物を出せ」
「違うのです姫様!」
「違わないだろうが!!」
ガヤガヤと騒がしくなった様子にほっこりと笑う。
ここにはブリタニアと日本の政治も過去も関係ない。
友人というよりは家族に近い間柄に心が弾む。
他では見られないこの光景も、しろ兄が成した一つの結果だ。
それでもしろ兄は歩みを止めない。
お互いが殺し合う事態に進むかも知れないのに。
その決断を否定はしないが、そう思うと虚しく感じる。
騒ぐ皆に背を向けてそっと部屋を出る。
廊下を歩き、喧騒が小さくなった縁側付近で腰を下ろし、空を見上げる。
月明かりがそっと撫でるように辺りを照らす。
「どうしたスザク」
「…良いの。主役が抜け出しても」
音も立てずに歩み寄って来た白虎は隣に腰を下ろす。
「構わんさ。今あの場に居たら矛先が俺に向けられかねんしな」
フッと漏らした笑みにスザクは苦笑する。
そんなスザクを心配している白虎は話を戻す。
「で、どうしたんだよ」
「……しろ兄は分かってるんだよね。そのまま歩みを続けたらどうなるか」
「理解せずに歩んでいたら、ただの馬鹿か夢想家だろう。だから正しく理解している。最悪の場合も含めてな」
「立ち止まろうとは思わないの」
「思わん。俺にとってお前と神楽耶が大事だ。他がどうなろうと構わんとは言わんが、その結果を背負う覚悟は
「……そう」
もう止まる事も止まる気もない。
分かっていても訪れる未来を想像して、気持ちが沈み込む。
「スザク、お前にまだあの時の覚悟はあるか?」
唐突な問いに
あの時から考えは変わらない。
変える訳には行かないんだ。
「僕はしろ兄に付いて行くよ。自身の意志で」
「―――そっか」
白虎は悲しそうで寂しそうな瞳で何処か遠くを見つめながら、小さくそう呟いた。
危険な目に合わせたくない想いを持ちながら、僕の意志を無視しないように葛藤して出た言葉なのだろう。
その表情に罪悪感を感じながら、そこまで想われているのを実感する。
諦めか無理やりにでも納得したのか、白虎は大きく頷くと姿勢を正してスザクに相対した。
「だったら来週から仕事を手伝ってもらう」
「しろ兄の仕事を?僕でも出来るかな…」
「策略を巡らせなんてことは言わないさ。それは俺の仕事だ。だからスザクには騎士として訓練に励んでもらう」
「…騎士」
「あぁ、頼んだぞスザク」
最後にはニカっと笑って頭を撫でられる。
僕は護りたい。
しろ兄も、しろ兄が望む世界も…。