日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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第24話 「旅立つ者ら」

 ようやくか…。

 この数年の月日は長く、辛く、屈託な日々が続いた。

 そこには妹と平穏暮らすという幸せも確かに存在したが、俺の怒りも憎しみも消え去りはしなかった。

 時は全てを忘れさせる。

 怖かった…。

 何時か己が抱いた感情が劣化し、薄れていくのではないかと。

 母さんが死に、アイツに捨てられ、アイツに斬り捨てられた恨みに辛みに憎しみ。

 杞憂だったがな。

 時が経とうと俺の感情は薄れるどころか、時が経ち尚も増長し続けた。

 

 「笑みが漏れてっぞ」

 「そういうお前もだろう」

 

 喜びから自然と笑みを漏らしていたのか。

 嬉しいことに変わりはないし、表情を取り繕う必要もないことからそのまま放置する。

 それより、同じく悪い笑みを浮かべている白虎には言われたくないな。

 

 「まったく…昔はまだ可愛げがあったというのに。育て方を間違えたかな」

 

 いつもの白虎の冗談だ。

 だが、後ろに控えるジェレミアはそれを良しとしない。 

 噛みつく前に笑い声をあげて意識を逸らさせる。

 ま、言いたい事もあったしな。

 

 「お前のような悪い手本がこれ見よがしに近くにあったのだ。純粋な赤子でも黒く染まるだろう」

 「言ってくれるなぁ。これほど純粋な想いを持っているというのに」

 「それは心根まで腐っているからそう見えるのでは?」

 

 今度は本気で笑い声が漏れた。

 お互いに馬鹿みたいに笑い合う様子に、ジェレミアは向けかけた怒りを収めた。

 

 「で、本題に入ろう。お前の狙いはブリタニアの打倒―――ではないな」

 

 一区切りついた所でルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、机を挟んで対面に座る枢木 白虎に真剣な表情で問うた。

 ピクリと眉が動き、にこやかだった目が細められた。

 

 「何処でそれに気付いた?」

 「中華連邦に何度か渡っている事実」

 「つー事はノーフェイスは勘付いていると見て良いな。どの手段を用いるかは理解できないだろうがな」

 「普通は理解できないだろうさ」

 

 今でも信じがたい。

 白虎に言われて理解はしたつもりだが、何処か夢物語の話をしているのではないかと思っていたぐらいだ。

 実際にこのギアスという力を得るまでは。

 左目の辺りを押さえながら確認する。

 これが己だけでなく、ナナリーを含んだ周りを滅ぼしかねない劇薬であることも聞かされた。

 

 「どうだった。連中は使えそうか」

 「数合わせの手駒としてはな」

 「わざわざ使い潰すなよ。補充は利かないんだから」

 

 今回の遠征に向けて、白虎は重火器に食糧、兵士から、さらにはナイトメアフレームまで用意した。

 どれも日本製も混ぜた数か国の品々を集め、直接的にも裏を読んでも疑われないように品集めは行われ、ナイトメアフレーム22騎中に二十騎は鋼髏で構成されている。

 兵員に関しては選ぶことは叶わなかったが。

 元ナンバーズで日本に残った者の中で、馴染めずに悪事に手を染めた者。

 福岡の事件の際に捕虜にしたが、公式記録からは抹消した者。

 それらをルルーシュの絶対順守のギアスで、意のままに操れる駒へと変えたのだ。

 あまりギアスも多様する訳にはいかないし、これ以上の兵員の補充は難しいから、使い潰すのは都合が悪い。

 それでも被害は必ず出るだろうから、向こうで入手する事も視野に入れて行動せねば…。

 

 「何故アレを側に置いていたのかを、数年ごしに理解させられたよ」

 「そう言うなよ。彼女は仕事はしないし、食っちゃ寝の日々を過ごす怠惰な者に見えるだろうが、相手を気遣い支えられる良い女性だよ」

 「ふっ、他の誰でもなくお前が言うのだからそうなのだろうな。にしても良い女か。今度神楽耶に密告してみるか」

 「勘弁してくれ。神楽耶の機嫌どうこうの前に、ルルーシュが生きていた事に大騒ぎしそうだからな」

 「冗談だ」

 

 そんな事に手間暇をかける気もない。

 無駄手間にしかならないし、俺が生きているという情報を知る口は少ない方がいい。

 

 「で、ルルーシュ。俺は君達を何処に派遣したら良いかな?」

 「……直接的に考えればブリタニア本土でのテロ行為。もしくは中華連邦で地盤補強の工作に勤しむか――だが」

 「――だが?」

 

 ニヤリと嗤う。

 人を馬鹿にしたでは無く、人を試すような笑み。

 こういった笑みを浮かべる時は、大抵ろくでもない事を考えているのを経験から知っている。

 中華連邦でもブリタニアでもなければ何処を狙う?

 何をしようとしている?

 考えろ。

 思考を止めるな。

 状況を整理しろ。

 

 そもそも白虎はブリタニアの打倒(・・・・・・・・)を考えているのか?

 

 「………ユーロピアか」

 「ほう!ほうほうほう!!―――その心は?」

 「あの国がブリタニアに攻められつつも、愚かだからだ」

 

 興味深く、心の底から嬉しそうに白虎は大仰に動き、表情をころころと変化させた。

 どうやら今回は読み切れたようだ。

 ただユーロピアでの意味は読めても、その後は手は読み切れないがな。

 

 「ユーロ・ブリタニアの侵攻を食い止め、成果を挙げる事の出来ていないユーロピア連邦の地盤を俺がひっくり返すか」

 「それによりブリタニアはユーロ方面にも兵力と戦力を裂かなければならなくなり、身動きが取れない上に月日が経つたびに疲弊して行く」

 「対してこちらは戦果を挙げることにより、人気政治と化し、纏まったようでバラバラな連合体で身動きが取れ難いユーロピア共和国を弱体化させる」

 「簡単に言ってくれる」

 「難しくも無いだろう?」

 

 さも当然のように言ってくれる白虎にため息を漏らす。

 こいつは希望的観測で口は開いていない。

 そう出来るからこそ口にしている。

 希望でも願いでもなく

 

 「そろそろお時間です」

 「もうそんな時間か。なら格納庫へ向かおうか」

 「だな―――っとそうだった。渡すもんがあったんだ」

 

 ジェレミアに促されて席を立ち、移動しようとしたところで白虎が下に置いていたアタッシュケースを机の上に載せた。

 中には黒をベースとしたマントに制服などを収められ、一番上には変わった面が置かれていた。

 

 「なんだこれ?」

 「お前さんの一張羅だよ――――ゼロ(・・)

 

 

 

 

 

 私はあの日の光景を忘れない。

 神聖ブリタニア帝国と日本国との戦争。

 幼き彼女は母と共に(ナオト)と白虎さんを送り出し、遠く離れた地より眺めるしかなかった。

 焼かれる街。

 崩れ落ちたビル。

 大勢の人の死。

 地獄絵図のような光景を目にしてぎゅっと拳を握り締めた。

 彼らを見送るしかなかった事と、何も出来なかった無力さを呪った。

 あの何も出来なかった過去がある私は力を求めた。

 白虎さんに師事を求め、これからの主戦力になるナイトメアフレームの知識を蓄え、自主的にも鍛錬を行った。

 白虎大隊の井上さん達に以前受けた入団試験を体験させて貰い、持久力も筋力も戦闘技術も胆力も飛躍的に向上した。

 …二度と受けようとも思い出そうとも思わないけど……。

 前のような思いはしたくないと続けてきた頑張りは、ようやく報われる。

 海外留学という嘘を付いて、白虎の長期に渡る極秘作戦に参加する。

 お母さんに嘘を付いた事は心苦しいが、それでも今は自身を誇らしく思っている。

 

 そして、白虎からの迎えに応じる形でとある倉庫へと訪れた、紅月 カレンは高揚していた。

 この倉庫に火器弾薬に二十騎もの中華連邦のナイトメアフレーム鋼髏、統一された黒い制服を着た二百名以上の兵員が立ち並ぶ光景は、非常に心躍るものであった。

 日本はブリタニアには屈しない。

 まだまだ戦える。

 そんな想いを抱くのは私だけではないだろう。

 

 特に目を引いたのは中央に立つ全く知らないナイトメアフレームだ。

 ブリタニアのサザーランドとも日本の無頼とも、勿論中華連邦の鋼髏とも違う別種の真紅のナイトメアフレーム。

 同じ人型でも胴体が下半身に比べて大きく、全体的に見れば逆三角形の形であり、その姿形は力強さを一目見た私に抱かせた。

 

 「気に入ったかな?」

 「うわぁっ!?」

 

 気配もなく耳元でささやかれた事に驚き飛び退くと、そこにはニンマリと笑みを浮かべる白虎がそこにいた。

 まさに悪戯成功と言いたげな顔にムッと睨む。

 

 「もぅ、白虎さん。びっくりするじゃないですか」

 「ワリィワリィ」

 

 白虎に続くように三名の男女が現れたが、その三名にカレンは眉を顰める。

 一人は歩いても姿勢が乱れない事から、かなり訓練を積んだブリタニア人の男性。

 一人は白衣を着てキセルを吹かしている、褐色のインド系女性。

 そして最後の一人は、頭の天辺から足のつま先まで肌にぴっしりとくっ付くバディスーツとマント、さらに仮面で覆い隠した人物。

 怪訝な表情から意図を読み取った白虎が「あー…」と唸り、三名が見え易いように横にずれる。

 

 

 「っと、紹介するよ。この遠征組の指揮官のゼロに彼に忠誠を誓っているジェレミア。そしてそのナイトメアフレーム“紅蓮壱式”の制作者であるラクシャータ博士」

 「貴方がカレンちゃんね。紅蓮共々よろしくね」

 「宜しくお願いします―――って紅蓮共々?」

 「あら?聞いてないのかしら」

 「まだ言っていないからな。まず先に」

 

 ポケットに納めていた起動キーにブリタニア人――ジェレミアへと放り投げる。

 落とすことなく受け取り、これはと言いたげな視線が向けられる。

 対して真っ先に行われた意思表示は、最奥にあった両肩がオレンジ色に塗装されたサザーランドを親指で指示した事だった。

 

 「ジェレミアにはアレを渡しておくよ」

 「あれはサザーランド?」

 「サザーランドJ。外見だけはサザーランドを模しているけれど、中身は全くの別物。性能的にはサザーランドを大きく上回っている、貴方専用に改修を施したナイトメアよ」

 「そしてカレンちゃんにはこっちだ」

 

 同じく起動キーを投げられ、受け取った私は目を見開いて驚きながら、指で示された方向――真紅のナイトメアフレームへと視線を向けた。

 

 「紅蓮壱式。

  性能は現行のナイトメアフレームと絶対的な開きを持っていると断言するわ。

  武装は飛燕爪牙(スラッシュハーケン)呂号乙型特斬刀(特殊鍛造合金製ナイフ)、43mmグレネードランチャー。追加装備として対ナイトメア戦闘用ランスとアサルトライフルも用意してある」

 「グラスゴーのコピーである無頼と違い、純日本製のナイトメアフレーム」

 「そんなナイトメアフレームを私に…」

 「シミュレーターとは言え、君の騎乗能力は他に比べて卓越している。それに俺が信頼を置ける人物だからな」

 

 ポムっと頭に手が置かれると優しく撫でられた。

 温かい手に安心感が与えられ、笑みがこぼれる。

 

 「私、期待に答えれるように頑張りますから!」

 

 心の底から放たれた笑みと言葉に、白虎はズキリと痛みを感じた。

 なにせ白虎は自身の我侭を叶える為の歯車として、ラクシャータは後に完成させる紅蓮弐式のデータ収集ぐらいしか思ってない。

 悪い大人だなと、白虎が他人事のように想っているなんて露ほども感じず、自身に与えられた紅蓮に駆け寄り、希望を抱いて見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 ナイトメアフレームは解体し、人員を含めて貨物に紛れさせて、中華連邦を介してユーロピアへ。

 白虎は見送った後、今回呼ばなかったナナリーを迎えに行き、向かい合うように椅子に腰を降ろしていた。

 ルルーシュとジェレミアがこの地を離れた時点で、ナナリーの面倒は白虎が直接する事となり、この後は隠れ家などでなく枢木家本邸に連れ帰る事となっている。

 これまでルルーシュとナナリーが暮らしていた家から移動する前、白虎はある事を思い出して口にした。

 

 「そういえばちゃんとリハビリしてたか?」

 「えーと…」

 

 なんとも歯切れの悪い返事に眉を潜ませた白虎は、立ち上がってナナリーに近寄ると、スカートを軽く捲った。

 急にそんな事をされて驚いて、上まで捲られないように抑えるが、白虎はそこらはまったくもって眼中になかった。

 

 「おめぇ…ちゃんと足動かしてねぇだろ」

 

 必要最低限の筋肉しかついてない痩せ細った足を見た白虎は、呆れてため息を漏らす。

 ルルーシュが見たら確実に激怒、神楽耶なら二度と口を聞いてくれない行為だろう。

 

 「し、白虎さん。その恥ずかしいです…」

 「ならちゃんと歩けるようにリハビリはしておけよ。してないようだったらまた確認するからな」

 

 捲っていたスカートの端から手を離し、見えていないが睨みつけて忠告する。

 

 「ったく、目は見えないが身体は問題ないんだからなお前は。いつまでもルルーシュにべったりって訳にもいかないんだから」

 「…でも、私は目が…」

 「確かに確かに。だけどナナリーの場合は事情が事情だ。治療方法さえ確保できれば一気に解決できる」

 「―――治るのですか!?」

 

 期待の籠った問いに白虎は少し考え込む。

 ここで治せる治療方法(バトレーによるC.C.再現実験の副産物)を口にしても良いが、普通は信じれる類の話ではない。

 が、ナナリーは別だった。

 だからこそ悩んだわけだが、これからの事を考えると逆に都合がいいか。

 

 「治るさ。ただ、そうさな―――手を握ってくれるか」

 

 どういうことか理解できずにナナリーは差し出された手を握った(・・・・・・・・・・・)

 盗み見た光景と内容に、ナナリーの表情が崩れた。

 白虎の記憶…。

 何をして、何を成そうとしているのか。

 ルルーシュとカレンに何をさせようとしているか。

 これから自分に言わんとしている事も、すべて映像のように脳内に流れ込んでくる。

 自分達が慕っていたお母様(マリアンヌ)が、自分達をギアスの実験体や計画の予備としか考えておらず、お父様が私達兄妹を愛してくれていたからこそ愛していたように演技していたという事も全てが、マリアンヌの命で行われたC.C.の遺伝子を取り込ませ、目を見えなくすることで覚醒させられた力によって自身に伝える。

 

 「あぁ…ああ!」

 

 絶望と呼べる感情が胸中で渦巻き、悲痛な声が漏れ出る。

 それを白虎が覆い包むように抱きしめて、ナナリーを落ち付かせようとする。

 流れ込んだ情報に感情が追い付かず、涙を流しながら嗚咽を漏らすどころか胃の内容物全てを吐き出す。

 まだ形が残っている内容物をぶちまけたら、胃酸を吐き出しているかのようにまだ吐き続ける。

 白虎はそれが収まるまで抱き締め続ける。

 服が吐瀉物で汚れようとも離さない。

 

 数十分も経てば落ち着きを取り戻し、青ざめながら申し訳なさそうに見上げる。

 

 「すみません白虎さん…」

 「謝るな。これは俺の浅慮によるミスだ…。そうだよなぁ、教えたい情報だけ伝えれるもんじゃなかった…すまない」

 

 首を横に振るが表情は優れていない。

 配慮が足りなかったことは自分の失態なのだが、知り得た事実の前に気が狂わずにこうも立て直したところを見るとやはり―――いや、考えるのは止めよう。

 

 「治療方法は理解しました。貴方の事情も」

 「見たのか。まぁ、見えるわな―――で?」

 

 問われたナナリーは俯き、少し悩んでから顔を上げる。

 そこには強い意志と覚悟が見えた。

 

 「構いません。それがお兄様の為であり、白虎さんの――世界を護る為ですもの」

 「本当にすまんな」

 

 心の底から謝罪をするとナナリーはにっこりと笑った。

 その笑みには白虎のこれまでの苦労と葛藤を知った事により、悲しみや感謝の念が込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………例え自分自身を予備の餌(・・・・)として使おうとしていると知っても、彼女は笑みを浮かべた…。

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