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第26話 「狼煙」
皇暦2017年8月10日。
神聖ブリタニア帝国が日本国に対して侵略戦争を仕掛けてから、七年の歳月が経った。
戦争によって生じた心の傷は癒えはしないが、各地につけられた戦場跡と言う爪痕は綺麗に均され、今や戦闘など無かったように新たな街並みを形成してしまっている。
立ち直している兆候として、世界各国は日本国の行動を注視していた。
いくつもの戦線を抱えつつも、日本との戦いで失った戦力の回復がそれほど進んでいない超大国ブリタニア。
中華連邦とも良き関係を築きながら、戦力を整えている日本国。
反ブリタニア勢力からすれば、そのまま日本国がブリタニアに戦争を仕掛けてくれるのが、最高の打倒ブリタニアの狼煙になる。
そう期待を抱いていたのだ。
『日本国は神聖ブリタニア帝国と正式に同盟を結ぶ』との発表があるまでは…。
ブリタニア本国より離れ、日本に近いブリタニア領“ハワイ”。
観光地としても有名なこの地であるが、現在は交通規制が敷かれて特定の地区では行動すら制限されている。
理由は、神聖ブリタニア帝国と日本国により、同盟を結ぶための最終調整と調印式が行われるからだ。
日本国からは澤崎 敦首相を始めとした政府高官達に枢木 白虎中将。
ブリタニアより宰相のシュナイゼル。エル・ブリタニアに元老院と貴族でなる交渉団。そして、何故か付いて来られたシャルル・ジ・ブリタニア皇帝陛下。
皇務を疎かにしたり、誰かに任せっきりにする父上が何故来られたのかは解らない。解らないが、日本側の端の席でだらんと机に突っ伏している白虎が関係している事は間違いないだろう。
警戒すべき
この交渉自体は白虎が提案したものであったが、今や主導権を握るのはシュナイゼルとなっている。
澤崎は白虎と持ちつ持たれつの関係で今の地位を保って来たが、白虎がどんどんと軍部に力を伸ばして以前より人気を得ている事を危惧し始めていたのだ。逆に澤崎は、首相の地位を守る為に試行錯誤アピール活動を行うも、支持率を維持するのが精々。
そこで白虎へは諜報部の監視だけで、自身は澤崎に接触を試みた。
結果、日本と同盟後はこちらが全面的にバックアップする事と、首相職を降りた後にブリタニアの貴族の地位を与えると約束を交わしている。他の政府高官も似たような条件で、ここに並ぶ日本側のほとんどがシュナイゼルの手駒と成り果てている。
白虎と言えば何か仕込んで来るかと警戒していたが、中華連邦へ出向いたりする程度で別段何かを仕掛けてくる兆しなし。それはそれで怖いものがあるが、無いものを、知らないものを、理解できないモノを警戒するのは困難で、警戒しつつ伺うしかなかった。
が、結局何事もなく、こうして父上が居るというイレギュラーを除いて無事に進んだわけだが…。
「これで我が国はブリタニアと同盟を組めたわけですな」
「えぇ、長きに渡ったブリタニアと日本の因縁は終止符が打たれ、お互い未来に向かって歩める」
「ナナリー皇女殿下も安心なさるでしょうね」
自身が言った言葉にそうであれば良いが無理だなと判断を降しながらも握り返す。
ナナリー・ヴィ・ブリタニア―――ブリタニアが日本に進行する前に枢木家に人質として送り出された母違いの妹。
この同盟の交渉をブリタニアに呑ませる為に白虎が用意した仕掛け。
七年の歳月を経て発見されたナナリーを公表したのは、交渉を持ちかけてすぐだった。
それこそが唯一シュナイゼルが確認できた白虎の工作である。
行方不明だった皇女殿下が日本の手の内にあると知った貴族や元老院は、我先にと皇帝に恩を売ろうと、仕方ないが皇女様の為に応じるしかありますまいと、行動を開始した。
この流れを止める手立てもあったが、別段すべきとも思えなかった。
それよりも白虎の動向を探る事が先決だと監視を続けていたが、報告にあるのは議員と会食したり、中華連邦の天子や大宦官と談笑するばかり。
何も手を打ってこない事に不気味さを感じながら、今日に至ったわけだが…。
白虎へ視線を向けても突っ伏したまま動く様子がない。
「白虎よ。C.C.はどうした?」
今まで閉ざしていた口を開いたかと思えば、聞きなれない
その言葉でようやく突っ伏していた白虎は顔をあげ、眠たげな眼を擦りながらようやく口を開いた。
「…んぁ?C.C.ならナナリーと一緒に居るよ。多分ピザ食ってると思うけど」
「引き渡す約束、忘れておらんだろうな」
話の内容と周りの反応からして、C.C.と言うのが父上と白虎のみ知っている人物だという事を理解する。が、父上が気にする理由が分からない。
もしやその女性が貴方がここに来た理由?
思想を巡らす間も二人の会話は続く。
「引き渡す約束なんてしてねぇよ。出会いの機会作ってやっから、あとはご自由に口説いて下さいって言ったろうに」
「女一人連れてくるなぞ容易かったろうに」
「丸腰の女一人を力付くで意のままにしろと?強姦魔じゃんそれ。俺ってばロリコンであっても、レイプ魔じゃねぇの。お分かり?」
ブリタニア――否、世界中のどこを探しても、父上にこうもフランクに話しかける者は居ないだろう。
無礼だと批判を口にすべき貴族や元老院達は、あまりの出来事に呆けてしまっている。
冷静になったら批判が日本側に殺到する。そうなる事を予想して澤崎の顔色が真っ青に変わる。
ここは無理にでも注意を逸らした方が良いだろう。
「では同盟締結のサインを願いますか?」
兎も角これで同盟はなったも同然。
日本国の政府首脳陣はもはやこちら陣営。
すでに取引によって、白虎は日本政府によりブリタニア本国へ出向する事になっており、そうなれば二十四時間監視体制を組んで、動きを制限するつもりだ。
そうなればどれだけ狡猾であろうとも、翼をもがれた鳥同様に、自由に動くことは出来ないだろう。
ブリタニア最大の脅威はもう手中にある。
呆気なさ過ぎる終わりに何処か物足りなさを感じながら、シュナイゼルは、同盟締結の書類を手にして席を立とうとする。
「なぁシュナイゼル。俺が仕掛けをせずにここに来たと思ってるか」
その一言にシュナイゼルは白虎へと視線を向ける。
絶対にありえない。
この場において奴が仕掛けを施すなどあり得ない。
しかしなんだあの不敵な笑みは?
「―――ッ!!皇帝陛下をお守りしろ!」
誰かが叫んだ一言に警備のブリタニア兵が動き出す。
この室内で最も優先順位の高いシャルルと次点のシュナイゼルを護るように固める。が、白虎はたった一言で状況は一変した。
「取り押さえろ」
護る為に周囲を固めたブリタニア兵が、シャルルとシュナイゼル、カノンの三名を組み伏して身動きを取れなくした。
何故このようなことになったのか理解が出来ない。
ここの兵は、すべて代々皇帝を守護していた者達の中で、一番の精鋭達。
どうしてこのような事に…。
シュナイゼル以上に理解できてない貴族に元老院、日本の高官達と他所に、白虎は満面の笑みを浮かべて老齢の元老院の一人を指差した。
「俺は除いてそいつとシュナイゼルとカノン、あとはシャルル以外は殺せ」
弾んでいながらも冷たい言葉に背筋が凍りつく。
奴の言葉の通りなら――と、考える前に放たれた銃弾がブリタニア側だけでなく、日本国高官一行をも貫いて、生命の活動を停止させる。
「――ッ貴様!!」
「おっと巻き毛皇帝の目を塞げ」
父上の瞳が輝き始めたかと思えば、指示通りに目を塞がれて輝きは見えなくなった。
身動きも取れない状況で、どうしたら良いものかと悩む。
「訳が分からないって顔だねぇ」
白虎の余裕ぶった態度と言葉が妙に苛つく。
クスクスと嗤いながら私の後ろを指出す。
「三人とも後ろ見てごらん。あ、巻き毛の目隠しは外して」
言われるがままに振り返ると、軍帽を深くかぶった警備をしていた兵士が立っていた。
目元は軍帽で隠れているが、覗いていた口元が笑い、ゆっくりと深くかぶっていた軍帽を外した。
「久しぶりですね父上、兄上」
そこにはブリタニア軍の制服を着て入り込んでいた幼い頃より幾段にも成長した
ホテル内より銃声が鳴り響いて、周辺は大混乱へと叩き込まれた。
日本とブリタニアが同盟を結ぶ晴れの日として、両軍合わせた警備部隊が肩を並べて警備に当たっているが、戦争の遺恨を残す両者が本当の意味で肩を並べれる筈もなく、急な銃声に疑心暗鬼に陥るのは時間の問題だったろう。
この日の為に急遽設立され、派遣されたナイトメア部隊“日本軍所属特別警備部隊”もその渦中に居たが、人型自在戦闘装甲騎隊隊長を命じられた枢木 スザクは落ち着いていた。
なにせこの銃声の意味を知っている…知らされていた数少ない人物であるのだから。
これは狼煙だ。
しろ兄が世界に対して打ち上げた、大火へと続く狼煙。
日本とブリタニアだけでなく全世界を巻き込み、己が夢と欲望を叶える為の進撃の合図。
藤堂さんも、ナオトさんも、カレンも白虎の命を受けて待機している。
それらの全ては今自分に掛かっている。
ボクがしろ兄の計画通りに動かなければ、日本は確実に詰むし、しろ兄は叶える事無く潰されるだろう。
だから今だけは心を鬼にして任務を…しろ兄の願いを叶えよう。
ロイド博士が作り上げた人型自在戦闘装甲騎“ランスロット”のコクピット内で大きく深呼吸をしたスザクは、操縦桿を握り締めながら、握った手がこれから人を殺すというのに震えすらない事に気付いた。
それもその筈か…なにせこの手は血で汚れているのだから…。
『く、枢木隊長!先ほどの銃声は!?我々はどうすれば宜しいでしょうか?』
無線より狼狽えながらの質問が届く。
日本軍所属特別警備部隊の最高責任者は白虎になっているが、他に指揮を執れる者は存在する。が、ここでの発砲=戦争の引き金と解っては下手な命令は出せない。そこで、白虎の実弟で人型自在戦闘装甲騎を任せられているスザクに判断を任せたのだ。
スザクはしっかりとした口調で力強く答えた。
「落ち着け!情報担当官は情報収集に全力を注げ。それ以外の警備はその場を動くな!」
『もしやこれはブリタニアの攻撃では!?』
「だとしても明確に攻撃してきたという確証はない!
“実に厄介だが、大きな争いとなると口実って言うのが必要だからな…”
心の底から面倒臭そうに言い放ったしろ兄の顔が浮かぶ。
ホテル周辺にはブリタニア・日本両軍だけでなく、世界各国より様子を知ろうと押し寄せた記者達が集まっている。
ここで先に撃てばそれを世界各国が知ってしまう。
後々の印象を考えると、絶対にこちらからの発砲は避けねばならない。
スザクは無線で呼びかけて、命令を徹底させた。
『おのれ日本の猿が。我らブリタニアを謀りおったな!』
『隊長!!ブリタニア機がこちらに銃口を向けています』
「撃つな!戦端が開かれるぞ!!絶対撃つな!!」
攻撃しようと動こうとする無頼を止める為にライフルを無理にでも下げさせる。
『この劣等民族が!!』
サザーランドのアサルトライフルより弾丸が放たれ、無頼の装甲に穴を空けて削っていく。
これも全て計画なんだ…。
全世界に中継されているこの場で、ブリタニア軍が発砲して日本軍に攻撃を開始した。
今死んだ新兵の死は、その大義名分と世界各国に狼煙を焚きつける為の犠牲。
納得した訳ではない。
けれども―――…。
ペダルを踏み込んで加速したランスロットが、銃弾の中を駆け抜けてゼロ距離まで接近する。
腕部に取り付けられたブレイズルミナス展開装置を起動させ、エネルギー体であるブレイズルミナスを展開。そのまま腕を振るう事で、エネルギー体により
もうしろ兄もそうだけど
「全機に通達!ブリタニア軍により我らが同胞が討たれた。これより自衛のため武器の使用を許可する!!周囲には世界各国から訪れた記者や地元民が居る。一般市民に被害を出さぬよう反撃せよ!!」
しろ兄は
一騎やられたら最小限の目標だけを達成するだけでもいいと言ったのだ。
仲間を全て身を守る為の盾にしてでも……と。
だけどしろ兄。
ボクはそうはしないよ。
言ったよね“達成するだけ
ならもっと高みの結果を求めても良いんだよね。
目標を達成は当たり前として、仲間の護りながら敵機を排除しても。
ランスロットは駆ける。
一騎でも多くの敵を討ち取って仲間を、白虎の計画が少しでも良い方向へ向かう様に最前線へ。
ようやく面倒臭い作業が終わったと枢木 白虎は清々しい気持ちで一杯だった。
ブリタニアを交渉のテーブルに付かせる為にナナリーを餌にし、ルルーシュの抗議と殺意を含んだ視線を耐え凌ぎ、C.C.の存在をチラつかせて皇帝を誘き寄せた。
というか
ナナリーを交渉の餌にして、期待薄でC.C.をシャルルの餌にしたらまさか喰いつくとは…。いや、喰いつく理由があったから餌にしたのだけど、まさか本当に喰いつくとは…。
ま、なんにしても計画通り。――――って、言うか実際それぐらいしかしてねぇし。
他に俺がこの数か月行ったのって、政治家と飯食ったり、神楽耶を連れて天子ちゃん家(中華連邦)に遊びに行くぐらいだ。
シュナイゼルの手勢がストーキングしているのに、下手に動いて露見させるのも不味いからな。
素直に言って裏工作ルルーシュにぶん投げたったわ。
「後任せた」っつたら「まずナナリーの事で話がある」って捕まったけどな。
「たす…助けて……くれぇ」
血の臭いでむせ返る室内に、澤崎の弱々しく掠れた声が、枢木 白虎の耳へと届く。
白虎は呆れた表情を浮かべ、振り向く事無くブリタニア製の拳銃でトドメを刺した。
完全にシュナイゼルと取引をして、俺を売ろうとしていた相手を助けるほどお人好しではないし、ブリタニアとの友好関係を築こうとした日本国首相が殺されたとなれば、国民は開戦へと向かうだろう。
その下準備も済ませた事だしな…。
同じく話を聞き終えて用無しとなったブリタニアの種馬…じゃなかったシャルルをルルーシュが撃ち殺した。
この惨状で生き残ったのは五人のみ。
白虎とルルーシュを除けば、ギアスで従順な僕にしたシュナイゼルにカノン、あとはブリタニアから発砲した事実を知らせる役目用に、ギアスで命令済みの名も知らぬ貴族か元老院の誰か。
巻き毛皇帝のように記憶改竄のギアスの持ち合わせは無いから、ルルーシュのギアスで“シャルルの命令でブリタニア兵が撃ち始め、応戦した
「案外と呆気ないものだな」
「漫画みたいに壮絶なバトル期待してたの?あと一年していたらジオ●グみたく飛んできて、首絞められていたかもだけどさ」
「期待もしてないし、意味が分からん。なんだジ●ングって」
「気にしやるな。もうifの話だから」
ルルーシュは白虎が動くなと命じてから撃ち殺して行ったブリタニア兵を踏まぬように近づき、シャルルを殺した拳銃を白虎に渡しておく。
皇帝を撃ち殺したのは、今後を考えて白虎でなければならない。
最悪なのが、ルルーシュの指紋が残っていて生存がバレる事だ。
丁寧にルルーシュの指紋を拭き取り、白虎が指紋をつけるように握ってトリガーを何度か引く。
これで指紋を調べられても出てくるのは白虎の指紋のみ。
やる事も済ませたルルーシュは、早々にここから離れようと扉へと歩き出し、途中で足を止めて振り返る。
「後は任せて良いんだよな」
「おう、ナナリーのエスコートは任せろ」
「……ナナリーを餌にした件はまた話そう」
「うわぁおう、今度会った時が怖いねぇ」
苦笑いを浮かべたまま見送り、窓より地上で行われているナイトメア戦に視線を移す。
高所からでもランスロットは見分け易く、文字通り一騎当千の活躍に頬を緩ませる。
背後で扉が開く音が聞こえて警戒したけれども、無防備に入って来たC.C.に警戒をすぐさま解いた。
「何時まで待たせるんだ。時間はあまりないぞ」
「急かすのは嫌われるんじゃなかったのか?」
「私が急かすのは良いんだ」
一瞬だが息絶えたシャルルに対してなんとも言えない表情を浮かべたが、彼女ももう立ち止まる事はない。
何しろ契約はこちらで叶えれるんだから。
「これでお前の目的の半分は達成した訳か」
「ま、そうなるわな。おまけ込みでな」
「皇帝殺害がオマケか。随分とデカいオマケだな」
「一にシュナイゼル、二に売国奴澤崎の死、三と四跳んでシャルルだからな」
第三目標と第四目標はスザクに頑張ってもらう予定だけど、少し手助けしてやらないと不味いだろうな。
「ナナリーと咲世子は、もう準備を整えてお前を待っているぞ」
「なら行きますか。悪逆皇帝シャルル・ジ・ブリタニアを殺したこの一件の主役として、正面入口より堂々と―――逃げるぞ」
「そこは打って出るではないのか?」
「馬鹿言え。ハワイに駐屯している部隊とロイヤルナイツはどうにか出来ても、近くでスタンバっているコーネリアのブリタニア艦隊は無理がある。逃げるが勝ちって言うだろ」
さっさとこのホテルを抜け出そうと、歩き出そうとした矢先に立ち止まった。
急にどうしたのかと首をかしげるC.C.の前で白虎は―――サングラスを当の昔に捨てた白虎は両目のギアスを発動させた。
その行動で全てを悟った。
暴走したギアスの制御。
コードを剥奪できるシャルルの死。
白虎とC.C.が二人っきりで揃った空間。
ようやくこの時が来たのかと…。
「…の前に
「あぁ、
白虎は楽し気に歪んだ笑みを浮かべ、C.C.は何処か儚げに笑う。
二人は互いに近づき、触れ合う距離に達すると――――…。