日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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第27話 「撤退戦」

 事態を把握する間もなく日本軍と戦闘状態に入ったブリタニア軍は、無双する白いナイトメア(ランスロット)に手間取って中々制圧し切れないでいた。

 しかしながらブリタニアの第一優先事項は敵の排除にあらず。

 優先すべきは皇帝陛下の救出。

 別動隊がシュナイゼル・エル・ブリタニア殿下に側近のカノン・マルディーニ卿、それと貴族を一名保護したと報告があったが、今は安全の確保が最優先となってどうなったかの情報は巡ってきていない。

 ならば未だ任務は変わらず、皇帝陛下の救出を第一優先に元老院や貴族の捜索を続ける。

 敵を殲滅するだけなら機関銃や爆発系の武器を使っても良いのだが、建物内には貴族や元老院は勿論ブリタニア皇帝もいる。下手に撃って怪我をさせる訳には行かない。

 先を急ぐ室内戦を想定した軽装備の一団は、通路に破裂音が響いて薄っすらと白い煙が立ち込めた事で足を止める。

 スモークグレーネードであることを察し、前後左右の間隔を広げて敵との遭遇に備える。

 隊長が小声で指示を飛ばし、柱の陰や壁側に一人一人配置する。

 その最中に一発の銃声が響いて、一人が脳天より血を垂れ流しながら倒れ込んだ。

 

 「来るぞ!!」

 

 仲間の死を悲しむ間もなく敵の攻撃に備え緊張が走る。

 スモークで視界が利かない中での戦闘。

 もしも敵が人質を取っていてもすぐに識別することは出来ない。

 つまり先手をどうしても譲ってしまう事になる。

 識別できたとしても人質次第ではまったくもって手出しが出来ない。行えるのは包囲したまま交代するか、手に負えないと全力撤退するかだ。

 

 「行くよぉ」

 

 相手を馬鹿にしたような声が届き、銃声が続く。

 一人、また一人と撃たれて倒れた。

 白煙の中を一人の青年がアサルトアイフルを手に駆けて来る。

 全員その顔には見覚えがあった。

 枢木 白虎中将…。

 先の戦争でブリタニアに土をつけた男。

 それが獰猛な笑みを浮かべながら一人で突っ込んで来る。

 敵兵一人で人質無し。

 

 「撃て撃て撃て!!」

 

 掛け声と同時に反撃が開始しされた。

 銃弾を受けないように左右に回避しながらアサルトライフルを撃って来る。

 常人ではない。が、それでも人間だ。

 複数人からの集中銃撃にずっと耐えきれる筈がない。

 狭い通路に近づけば近づくほど回避は難しくなる。

 徐々に弾が掠り、肩や腕、太ももより銃弾によって鮮血が噴き出た。

 動きが鈍った白虎は自ら銃口を頭部に当てて、そのまま引き金を引いた。

 捕まるのを嫌がったのか、それとも敵に殺されるぐらいならと自決を選んだのかは分からない。

 どっちにしても、ブリタニア最大の強敵はここで戦死した。

 

 安堵する間もなく通路の先よりちらりと一瞬人影が映る。

 銃口を向けたまま警戒態勢は解くことはない。が、相手を識別できない以上は下手に発砲は出来ない。

 一触即発な状況を破ったのは曲がり角の向こう側からの声だった。

 

 「撃つな!ナナリー皇女殿下が居られる」

 「――――ッ!?警戒態勢のまま待機!絶対に撃つなよ。ゆっくりとだ。ゆっくりと出て来い」

 

 警戒しながら曲がり角より出てくる人物を待つ。

 ゆっくりと出てきたのはブリタニア人らしき女性であった。

 緑色の長髪で見えずらいが背に少女を背負っている。

 最近ナナリー皇女殿下が見つかった事から過去の映像や今の様子をニュースで流されており、全員がその映像と一致する少女にほっと胸を撫でおろす。

 

 「皇女殿下。良くぞご無事で」

 

 安堵しつつも周囲の警戒は怠らない。

 優先順位第一位ではないが保護すべき対象が見つかったのだ。

 多少なり油断はしていた。

 

 「正面に二人」

 「はい?」

 

 ぼそりと呟かれた一言に首を捻る。

 確かに自分の前にはナナリー皇女殿下と皇女殿下を背負ったブリタニア女性の二人。

 けれどそれを伝える意味が分からない。

 彼は気付かない。

 ナナリーが呟いた正面というのが彼を始点にしたものではなく、別の誰かから見ての物だという事を…。

 

 「後方に四名。左に二人、右に一人」

 「一体何を?」

 「位置情報に決まってんじゃん」

 

 背後から銃声が響いて慌てて振り返る。

 あり得ない…。

 そう思ったのは隊長だけでなく、周囲の隊員全員と一致していた。

 

 振り返った先にはハンドガンを片手に一丁ずつ持って、撃ち始めていた枢木 白虎の姿があった。

 事態を呑み込めず膠着してしまった者。

 理解出来ずにも攻撃に動いた者。

 そのどちらもが白虎より放たれた弾丸により命が刈り取られて行った。

 

 「あはははは!さっすがナナちゃん。まるで最新鋭のソナーじゃないか」

 「化け物が!!」

 

 サブマシンガンを連射して白虎へと銃弾を叩き込むが、白虎は喰らってはいるものの平然とした表情で歩いて来る。

 撃ち尽くしてマガジンは空となり、トリガーを引いてもかちりと音を立てるだけ。

 目の前の非現実的な事柄に震えるしか出来なくなった隊長は身動き一つできず、ゆっくりと向けられたハンドガンにて撃ち殺された。

 

 「ハッハー!さすが不老不死。死なねぇけど死ぬほど痛ぇ!!アニメの受け売り通りに動く前に、考えておくべきだったか」

 「本当に大丈夫なんでしょうか?」

 「いやアイツの頭は手遅れだろう」

 

 銃弾により穴だらけになった肉体は元に戻り、血痕で濡れた服装だけが撃たれた事を物語っていた。

 C.C.よりコードを継承した白虎は今や不老不死。

 銃弾を受けようともチェーンソーで薙ぎ払われようとも時間が経てば復活する。

 ただし痛覚ははっきりしているのでかなりの痛みは負う事になるが。

 

 「ご無事――――そうですね」

 

 脱出ルートを先行して確保に向かった咲世子が、合流した矢先に血まみれの白虎を心配するが、銃創は消え去り、体内より銃弾が零れ落ちた様子に驚きと安堵の両方を抱く。

 

 「まぁ、無事もなんもねぇけどな。この身体では無事になっちまう(・・・・・)

 「一応聞いていましたが、今目の当たりにしても信じられません」

 「だろうな。俺だって同じ立場ならそう思うしなぁ…で、脱出路の確保はどうよ?」

 「問題なく。すでに神楽耶様のプレゼント(専用新型ナイトメア)も用意しております」

 「ならとっとこ行くか」

 「おい、白虎……(契約内容)が違うんだが」

 

 二人の会話に割って入ったのは如何にも不服そうな視線を向け、ナナリーを背負っているC.C.であった。

 彼女はコードを継承する者が現れるのを待ち望んでいた。

 死ねない、この生きているという経験から自らを解き放ち、終焉を迎える為に。

 願いは叶ってコードは無事白虎が継承した。あとは終わらせるだけだったのに荷物(ナナリー)運びをやらされている。

 少しばかり文句を言っても罰は当たらないだろう。

 

 「ん~…確かコードを奪うじゃなかったか?」

 

 おどけた様に答えた白虎を睨みつけるが、本人は気にも止めてないような表情を浮かべる。が、冗談で流すだけで済ませることはせずに、微笑みながらも真剣そうな瞳をC.C.に向ける。

 

 「そう睨むんじゃねぇよ。もうお前さんは自由に死ねるんだ。だったら別に痛い思いして終わるより、終わりある命で一生懸命生きて老いて逝け」

 「私にまだ生きろと」

 「今度は経験ではなく一つの人生としてな。それに見てぇじゃねぇか。大人の女性になった姿ってやつ」

 

 笑いながら投げかけられた言葉は、胸の奥に潜む罪悪感を刺激し痛みを伴わせた。

 忘れられない過去が脳裏を過り、苦悶の表情に歪ませる。

 もはや自身が許されるような段階はとうの昔に通り過ぎていた。

 

 「……私は自分を殺すために多くの者を苦しめたんだぞ」

 「知ってるよ」

 「人生を歪ませ、凄惨な死を迎えた者だって」

 「分かってるよ」

 「自分勝手に求めて捨てた奴だって―――」

 「ごちゃごちゃうるせぇな。解ってるって言ってんだろうが!!」

 

 柄にもなく怒鳴り声をあげた事で、C.C.もだが、ナナリーも咲世子も驚いて肩を震わした。

 

 「テメェが自分勝手で、我侭で拾った餓鬼を愛でたが契約を熟せないって斬り捨てたのだって解ってんだよこっちは。教団(・・)の事もマオ(・・)の事も全部ひっくるめて、コードと共に俺が継承してやる。だからテメェはうじうじ悩んでねぇで生きやがれ」

 

 怒りながら言葉を放ち、少し落ち着いた白虎はばつが悪そうに小さく声を漏らしながら、ポンと優しく頭に手を置き撫でる。

 

 「あー、人間になったってこたぁ、ピザ食ってばっかの生活だとすぐにデブるんじゃねぇか?ちゃんと痩せる努力しろよ」

 「まったくお前と来たら…シリアスな話をしていたというのに」

 「五月蠅い。片っ苦しい話を長々出来っかよ」

 「責任を取れよ白虎。私はどん欲だぞ」

 「ハッ、それがさっきまで思い悩んでいた女の言う事か。まぁ、面倒は見てやんよ。それも含めて請け負ってやるから長く生きろよ」

 「ふふ、数年後にはロリコンのお前も魅入るほどの女になっているだろうな」

 「自分で言うか?っつかロリコンオンリーにすんな。ロリコンでもあるが正解なんだから」

 

 軽口をたたき合い、白虎とC.C.先へと進む。

 これから起きる全てを超えて未来を歩む為にも……。

 

 「―――で、本音は?」

 「白兵戦で戦力になる咲世子以外に荷物持ち(ナナリーの運び役)が必要だったから」

 「あとで百回殺す」

 「痛ぇ!?あとでって言いながら脇腹撃つんじゃねぇ!!」

 

 ……シリアスが影も形も消え去った二人を咲世子は微笑ましく眺め、ナナリーは割と本気で心配するのであった。

 

 

 

 

 

 

 日本から見たら文字通りの一騎当千。

 ブリタニアから見れば悪鬼の類になるのだろう。

 乱戦状態に入った両軍の最前線を駆けるランスロットは異常だった。

 真っ赤に輝く二刀のメーザーバイブレーションソード(MVS)を振り回し、サザーランドやグロースターの群れに単身で斬り込んでは、無傷で敵機の命を刈り取っていく。

 目で追うのがやっとな高速戦闘に、対峙する者らは対応し切れずに、ただただ撃破されてゆくのみ。

 味方を少しでも多く助けようと躍起になるスザクであるが、どうしても被害は出てしまう。

 この作戦はどうしても被害が出る事を想定して練られている。

 戦争状態に突入することを予期している白虎は練度の高い兵士の損失や上位ナイトメアの鹵獲を避けるべく、今回の編成された部隊に無頼改の姿は無く、ハワイに連れてきたのは練度そこそこの兵士にグラスゴーとそう大差のない無頼のみ。しかも無頼は時が経つに連れ改修された機体ではなくほとんど初期型に近い旧型。

 技量の低い兵士に旧型の兵器…。

 事実を知れば生け贄だと誰もが理解出来る部隊…。

 悪いとは言わないが良質ともいえない部隊にしてはかなり善戦しているが、やはり差が表れて倒される無頼が増えてゆく。

 

 「しろ兄……白虎中将はまだか?」

 『ハッ、未だ閣下の姿は確認されておりません』

 「人型自在戦闘装甲騎の残存数はどうなっている?」

 『すでに40%を失いました』

 「半分近くも!?―――クッ、何としてもここを死守しろ!!」

 

 待つしかない。

 白虎自身は自分が居なくとも後を継ぐ者が居るから戦争は出来ると断言しているが、スザクはそうは思っていない。

 兄弟だから、家族だからと贔屓で見ている訳ではなく、実際に白虎を中心にすべてが回っているのを理解しているからだ。

 藤堂さんもロイド博士を含んだ技術者達も、ナオトさんもカレンも、全員がしろ兄を頼り、しろ兄が全員を上手く回している。

 だからしろ兄がいなければ、今後は絶対に立ち行かなくなる。

 そう思いスザクは操縦桿を握り締め、目の前の敵に対応していく。

 

 モニターの映像に一騎のグロースターが映し出された。

 ただ突っ込んで来るだけなら案勘に対応出来たが、そのグロースターは建物に潜むように接近し、アサルトライフルを向けてきたのだ。

 咄嗟に移動して不意の銃撃を回避する。が、それだけでは終わらない。

 回避した先に、一騎のグロースターが大型ランスを片手に突っ込んで来る。

 鋭い突きを払って逆に斬りかかる。

 

 『おっと危ない』

 

 言葉に笑い声を含んだ一言の後に、スラッシュハーケンで引っ掛けたサザーランドを盾にして距離を取った。

 鮮やかな動きに相手の技量には目を見張るが、それ以上に味方を盾に使用した事実に腹を立てる。いや、嫌悪した。

 

 『妙に動きが良いな。極東のサルでそれほどなのだから、相当性能の良い機体のようだ』

 「普通とは違う…なんだ?」

 『私をそこいらの雑魚と一緒にしないで欲しい。私はナイトオブラウンズに所属するルキアーノ・ブラッドリー。貴様を殺してその機体を頂くものだ』

 

 名前は知っている。確か帝国最強の十二騎士の一人の名だ。

 怒りが高まるどころか冷静になる自分に驚く。

 逆だな。

 怒りが沸点を超えて逆に冷静になれたのだ。

 

 「そうか“ブリタニアの吸血鬼”…」

 『あぁ、選ばせてやろう。私に機体を渡して殺されるか。私に殺されてから機体を譲るか』

 

 反吐が出そうだ。

 技量は高いのは明白だし、経験も豊富なベテランなのだろう。

 だけど味方を盾にし、あまつさえ人の命で遊ぶような輩をスザクは受け入れられない。

 

 『どちらにせよ死んでもらうがなぁ!!』

 

 仁王立ちしたままのランスロットに正面から突っ込む。

 あまりの反応の無さに首をかしげるが、やられていた雑魚とは違い、自分なら対応仕切れると過信しているブラッドリーはランスを突き出す。

 ふらりとランスロットが一歩左に動き、軽く撫でる様な動作でMVSをランスの先に当てる。

 室温に戻したバターにナイフを刺したかのように抵抗も衝撃もないまま、ランスが真っ二つに両断されていく。

 

 『馬鹿な!?なんだそれはぁ!!』

 

 機体の速度を殺せずにそのまま突っ切ってしまったグロースターは、大型ランスごと掴んでいた両腕までも断ち切られ、主だった攻撃手段を失い、振り返る。

 そこには振り返らずにMVSを逆手持ちし、後退してきたランスロットの背中がモニターいっぱいに映り、刹那に赤い刀身を目にしたブラッドリーは終わりを迎えた。

 

 「お前は“殺害リスト”に名があった。いや、しろ兄のリストになくても()はお前を殺していたよ」

 

 そう呟いて、スザクはグロースターのコクピットに突き刺したMVSを引き抜き、振り返ると同時にコクピットごとグロースターを横一文字に斬った。

 強い怒りを覚えながら周囲を見渡すと明らかに敵は引いている。

 ラウンズを討たれて士気が下がったのだ。

 

 「帝国最強十二騎士が一人、ルキアーノ・ブラッドリー。日本軍所属枢木 スザクが討ち取った!」

 

 オープンチャンネルで叫ぶと味方が勢いづき、敵の動きが乱れたのがはっきりと解かる。

 敵に乱れが出た瞬間に一部が攻勢に出る。

 その間にランスロットのエナジーを新しいものに代えて置く。

 いくら高性能な機体でもエネルギーが切れればただの鉄の塊だ。

 

 『ブラッドリー卿を倒すとはやるな』

 

 オープンチャンネルで囁かれた声にスザクは警戒を強める。

 辺りを見渡せばブリタニアのナイトメア隊が道を開けるように左右に散り、中央を一騎のグロースターが進んでくる。

 グロースターの一部の機体にはマントの装着が許されている。

 ナイトオブラウンズもその中に入っており、ブラッドリーの機体にはパーソナルカラーであるオレンジのマントにラウンズの紋章が描かれている。

 対して目の前に現れた機体は純白のマントにラウンズの紋章。

 まさかの相手に呼吸が少しだけ荒くなる。 

 

 『おかげでこちらの士気は駄々下がりだ。陛下の御身も分らずこれではままならんな』

 

 ランスロットに対峙するように立ち止まったグロースターは、隙だらけのようで斬りかかればただでは済まないのは容易に想像できた。

 ゴクリと生唾を呑み込み、相手の出方を待つ。

 

 『我が名はビスマルク・ヴァルトシュタイン!日本軍所属枢木 スザクに対し決闘を申し込む!!』

 

 皇帝が居るなら居るだろうと、しろ兄が予測していた通りにビスマルクは居た。

 殺害の優先順位一位に当たる殺害対象の、帝国最強の十二騎士で最強の“ナイトオブワン”。

 

 この発言に白虎だったらと嘲笑っているなと思いながら、スザクはありがたいとさえ思った。

 現状必要なのは白虎が合流するまでの時間稼ぎ。

 一対一の戦いとなれば周りは手出し無用。

 さらにはナイトオブワンの邪魔にならないようにと考えると、付近の部隊も動きを止める。

 否、すでに止めている。

 こちらが受けて立つように餌を撒いているのだろう。

 それだけ腕に自信があるというのは厄介だが、スザクはその誘いに乗らずにはいられない。

 

 「日本軍所属特別警備部隊隊長枢木 スザク。受けて立つ」

 

 名乗りを挙げてMVSを両手に構えてビスマルクのグロースターに斬りかかる。

 先のブラッドリーとの戦いを見ていたのか、知ったのかは分からないが、MVSに対して真っ向から受けようとはせず、剣の腹を叩くように剣先を逸らしていく。

 ビスマルクはこの斬り合いにおいてスザクとランスロットを圧倒した。

 肉体能力も白兵戦でスザクと張り合えるほどの上に、鍛え上げられた戦闘技術に潜った数々の修羅場によって得た経験が、ランスロットと改修型グロースターの差を埋め、さらには未来の動きが読めるギアスの後押しもあって、拮抗ではなく押し返しているのだ。

 スザクも意地となって喰らいつく。

 しろ兄の為にも勝たなくては、生き残らなければならない。

 これがいけなかったのだろう。

 熱くなり過ぎたスザクの心が技術より勢いが勝った一撃を行い、そこを付いて大型ランスの一撃がランスロットの右腕を払った。衝撃でMVSを落としたが、何とか大型ランスをもう一本の剣で斬り落とす。

 が、それは囮であった。

 大型ランスを囮にして攻撃を受けると同時に投げ捨てて、手放したMVSを手にしたのだ。

 

 『()った!!』

 

 奪われたMVSの刃がコクピットへと向かってくる。

 

 (ごめんよユフィ…しろ兄…)

 

 死を悟ったスザクは走馬灯と呼べる過去の記憶を眺める。

 大概が白虎との日常に父を殺した事実、ユフィとの出会いなど様々な思い出が過ぎる。

 刃が突っ込んで来るのがスローで視界に映る中で影が落ちる。

 

 『()った?違う、()られたんだ』

 

 ビスマルクに集中していた視界が一気に開けた。

 広く周りの建物まで鮮明に映る瞳に一騎のナイトメアが映り込んできた。

 空を連想させるような青に、無頼と違って滑らかな装甲。

 通常の腕に比べて大きく長い白銀の腕に、真紅の三つ爪が特徴的な人型自在戦闘装甲騎。

 枢木 白虎専用に改修された月下先行試作型が、ビスマルクのグロースター後方より飛び掛り、巨大な左腕をもってグロースターのコクピットブロックを掴んで地面にねじ伏せた。

 

 「しろ兄!?」

 『おぅ、待たせちまったな―――ハッ、もうリテイクしていい?“待たせたなぁ”って言い直したいんだが』

 

 無線越しにふざけた様に言い放ったしろ兄に笑みを浮かべる。

 先行試作型は藤堂の人型自在戦闘装甲騎部隊に優先されている月下の文字通りの先行試作を兼ねて制作された機体。

 試作機でも性能は月下と変わらず、それをラクシャータに頼んで輻射波動機構を備えた“甲壱型腕”を取り付けたりと強化改修された一品だ。

 “コードギアス ロストカラーズ”をプレイした方であれば、それに登場したオリジナル月下と言えば解って頂けるだろう。ただ白虎にはゲームオリジナルキャラのような技量はないので、あくまで特殊武装を装備させて、指揮官機として防御力を強化した程度である。

 そんな月下先行試作型に押さえつけられたビスマルクは抵抗を試みるが、押し返せずにモーター類が悲鳴を挙げるばかり。しかもコクピットブロックを掴まれた為に脱出すら出来ないときた。

 

 『決闘の最中に奇襲とは…』

 

 オープンチャンネルで忌々しそうに漏らされた言葉に白虎は嘲笑う。

 

 『はぁ?ばっかじゃねぇの。この近代の戦争にタイマンの決闘とか時代錯誤も甚だしいだろうが。戦争と恋はルール無用の奪い合いか殺し合いなんだよ』

 『クッ…貴様ぁ…』

 『時間も押しているんでとっとと巻き毛の下へ送ってやんよ』

 『まさか陛下を!?』

 『さぁ、電子レンジの時間だ!』

 

 アレだけ苦戦させられたナイトオブワンが呆気なく最後を迎えた。

 甲壱型腕より掴んでいたコクピットブロックに輻射波動が叩き込まれ、機体は見る見るうちに膨れ上がる。

 手を放して速攻離れた月下の前でグロースターはハッチを開ける事も、ブロックごと排出する事もなく爆発四散した。

 ランスロットと月下先行試作型が並ぶ。

 それがどうしようもなく嬉しく感じる。

 まるで自分としろ兄が肩を並べれたようで…。 

 

 「助かったよしろ兄」

 『一つ教えといてやろう。どんなに強い相手でも、視界外から(・・・・・)攻撃すれば倒せんだよ』

 「視界外からの攻撃……狙撃や砲撃の考え方と同じだよね」

 『いや、アメフトしてるドレッドヘアを元パシリ少年が潰す方法』

 「はい?」

 

 時々しろ兄は訳の分からない事を言うんだけどこれはどういう意味なんだろうか?

 疑問符を浮かべるスザクは周囲の状況に目を向ける。

 ナイトオブワンまでも失った事で士気はだだ下がりで、向こうから突っ込んで来ることは無いが完全に囲まれた。

 隙だらけに打って出てこない分、厄介に思える。

 

 「囲まれたね」

 『囲まれたなぁ』

 「ボクが退路を切り開きます」

 『それは無理だろ。いや、スザクは出来ても俺は蜂の巣だな』

 

 さすがにこの包囲の中で誰かを護りながら突破は困難だ。だからと言って単騎で突っ込んで攻撃を受ける前に倒し切る事は不可能。

 考えを巡らすスザクは、ポンとランスロットの方を月下が握った事で、意識がそちらに向く。

 

 『兄ちゃんに任せろスザク』

 

 力強いその言葉にスザクは道を開けて、月下がゆっくりと前に出るのを確認した。

 しろ兄ならばと期待を眼差しを向けながら。

 

 その視線の先で白虎はコクピットブロックを開けて生身を晒す。

 すると月下先行試作型には白虎以外に三人の人物が乗り込んでいた。

 シートの左右に立っているC.C.と咲世子、シートに背を預けるように後付けされた簡易シートに座るナナリーだ。

 何をしているのか理解出来なかったブリタニア軍であるが、後部座席に座っている少女がナナリー・ヴィ・ブリタニアだと理解して情報が伝わり、少し離れた先でも響いていた銃声までもが止んだ。

 

 「全軍集結せよ!我々はブリタニアより預かっているナナリーを護りながら(・・・・・)撤退する!!身を挺して護るように俺の周囲を囲め!!」

 

 無線ではなく張り上げた声が辺りに響く。

 勿論オープンチャンネルでブリタニアにも日本軍にも通達している。

 まったくしろ兄はと、先とは打って変わって呆れた視線を向ける。

 身を挺して護ると言っておきながら、ナナリーを盾にブリタニア軍を脅迫しているのだから。

 これでは下手に撃てない。

 月下を戦闘不能にしようとしても、周囲の無頼で射線が塞がれ、爆発させようものなら月下が巻き込まれかねない。

 誰も皇族に怪我、もしくは死亡させて責任を負おうとは思わない。

 ゆえに彼らは手出しできずに突き進む日本一団を通さざる得ないのだ。

 ハワイ軍港に向かって…。

 

 

 

 

 

 

 ブリタニア領ハワイ軍港ではすでに防備を固めていた。

 軍港守備隊に加えて艦の護衛に残っていたナイトメア二個中隊が展開。

 日本軍部隊が軍港に向かってくるという事はハワイより脱出する為に艦を強奪すると予想され、敵兵脱出の最終防衛ラインとして待ち構えていた。

 とは言ってもナナリーが居るので下手な(・・・)攻撃は出来ない。

 逆に狙ったように百発百中のような攻撃なら問題はない。

 護衛に残っていたのはロイアルナイツの部隊の一つで、帝国最強の十二騎士に及ばないとしても一人一人がブリタニアの誇る精鋭達。

 その精鋭たちがナイトメア用の狙撃ライフルを構えて待ち構えているのだ。

 狙いは月下を除く無頼のコクピットブロック。

 盾となっている無頼さえ排除すれば、月下の手足を撃って行動不能に出来る。

 歩兵や装甲車系は殲滅し、月下を無力化してナナリー皇女殿下を救出できれば、このハワイでの戦闘は終結する。

 各員は接近中の日本部隊が現れるであろう軍港入り口へと視線を向けていた。

 

 背後の海中より飛翔物が放たれるまではだが…。

 

 沈飛沫を巻き上げて飛び出した飛翔物は一定の高度まで上がると方向を変えて、空へではなく地上に向かって落ちてゆく。

 いきなりの事で、誰も反応できぬまま爆発に呑み込まれて吹き飛んだ。

 勿論のことだが、前方に敵が居るからと言って周りの警戒をしてなかったなどと言う事はない。

 周囲の索敵は厳重に行っていたし、周囲の海域に出払っている哨戒船からはこちらに侵入した船舶の報告は上がって来てはいない。

 いやはや、こればかりはブリタニアでなくとも防ぐのは困難だったであろう。

 なにせソナーやレーダーでは絶対に探知出来ない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)潜水艦からの攻撃なのだから。

 日本海軍最新鋭の潜水艦。

 ラクシャータ博士が設計開発を手掛けた潜水艦で、形はクジラの様なシルエットで大型。

 従来の潜水艦よりも高速で、合計十セルもの垂直発射装置に艦首魚雷発射管六門と攻撃共に性能は高い。

 何より一番の特徴はゲフィオンディスターバーという新兵器を利用したステルス性であろう。これによりソナーにもレーダーにも感知されない。

 展望鏡深度まで浮上していた潜水艦は戦果を確認し、目標の撃破をモニターに映し出した。

 

 「対地ミサイル全弾命中!ブリタニア防衛陣地が吹っ飛びました」

 「続いて艦首魚雷発射用意」

 「艦首魚雷発射管一番から六番まで魚雷用意」

 

 艦長を命じられた千葉 凪沙少佐(・・)は、白虎の指揮の下で戦っていたあの戦争を思い出す。

 やはりというかあの方は異常だ。

 この潜水艦もそうだが、全てを理解して部隊を展開させていた。

 最初からブリタニアが仕掛けてくることを予測していたかのように。

 

 「魚雷用意完了。いつでも撃てます」

 「発射!」

 「魚雷一番から六番全弾発射!」

 

 艦首より放たれた魚雷が停泊していた軍艦に直撃する。

 撃破轟沈させると残骸が周りに撒き散らされてこちらの航行の邪魔になるので、あくまで航行不能にする程度で留める。

 混乱の最中に叩き落されたブリタニア軍港にランスロットを先頭にした部隊が突入し、確認した千葉は垂直発射装置を開かせ、人型自在戦闘装甲騎の受け入れ準備をさせる。

 開くと同時に先行試作型月下が跳び込む。

 ランスロットだけは撤収する味方の援護をしようと、ブレイズルミナスを展開して防御に周っている。

 当然ながら全部の無頼を収容できないのでほとんどは置き去りだ。

 潜水艦を旋回させて港に近づけ、積み込む予定の無頼達が大急ぎで人員を移動させる。

 その間にも乱れながらブリタニア軍が攻撃を試みる。

 

 「戦友達の乗り込みを急がせろ!手の空いている者は甲板より援護射撃せよ」

 

 素早く命令を受けた潜水艦乗員による援護射撃が開始され、当たらなくとも敵の動きを少しでも遅らせようと銃弾の嵐が吹き抜ける。

 無論ブリタニア軍からの攻撃もあるが、深海をも走破する潜水艦の分厚い装甲を歩兵の装備では貫けない。

 ナイトメア部隊は先の先制攻撃で壊滅的打撃を受け、生き残っていてもそちらは優先して無頼が攻撃を集中している。

 状況を眺めながら千葉は艦橋に足を踏み込んで来た人物に視線を向ける。

 そこには軍服の襟元を緩めながら近づいてくる白虎の姿があった。

 

 「お迎えご苦労さん」

 「閣下」

 「閣下とか重苦しい呼び方止めて欲しいんだけど」

 

 艦橋に足を踏み入れた白虎に全員が敬礼を行うが、必要ないと手を振る。

 すぐさま戦況を確認した白虎はおもむろに舌打ちをする。

 展開していたコーネリアの艦隊が、予想以上に早く海域を封鎖しようと展開しているのだ。

 

 「積み込み完了までどれくらいだ?」

 「最低でもニ十分は―――」

 「却下だ。車両は勿論だが、月下とランスロット以外は全部捨てて行くぞ。残存無頼は人員の輸送に専念させろ」

 「閣下。それではこちらの技術をみすみす渡す事に…」

 「無頼程度覗かれた程度で何の痛みも無ぇよ。で、人員を積み込むだけならどれくらいよ?」

 「人員だけでしたら五分も掛からないかと…」

 「まぁ、連れてきた半分以上ブリキに食われたからな。道中合流出来なかったのも居るようだし」

 

 悲しい出来事だが嘆いている時間はない。

 発見が難しい潜水艦とは言え、勘で進路や時間を推測されて爆雷でも投下されれば事だ。

 その事をよく理解しているであろう白虎は撤収の指揮を執って、急ぎ部隊の収容を急がせる。

 最後にランスロットが飛び移ると、急げと手をくるくると回しながら指示を飛ばす。

 

 「撤収するぞ。ブリキ共にケツ見せながら一目散に逃げるぞ。後続の潜水艦には無頼を破壊させろ。別に調べられて困るようなもんじゃないが、覗かれて良い気もせんしなぁ」

 「相変わらずですねその言い方――――後続の三隻に打電。無頼に対して対地ミサイル発射せよ。破壊を確認の後に反転、我に続けと」

 「追い掛け甲斐があるだろうな。俺ケツでなく美女のケツを追えるんだから」

 「閣下。セクハラですよそれ」

 「おう、閣下の言い方に壁を感じるな」

 

 昔ではありえなかった白虎との軽口を交えた千葉は、笑みを零しながら急速潜航の指示を出す。

 言われるがままとっとと祖国に帰還すべく。

 


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