日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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第28話 「海戦‐神楽耶の戦‐」

 世界は今日…この日より大きく動くだろう。

 平穏が戦乱へと飲み込まれる。

 これは可能性の話ではなく確定事項。

 すでに賽は投げられた…。

 

 世界の三分の一を有している超大国“神聖ブリタニア帝国”と、小さな島国でありながらもブリタニアと引き分けた“日本国”。

 双方は歩み寄りを見せ、ブリタニア領ハワイにて、ブリタニア皇帝と日本国首相のトップ会談を交えた同盟の締結を行おうとしていた。

 これにて反ブリタニアの希望と謳われていた日本がブリタニアと手を結び、再びブリタニアの脅威が世界に及ぶ。

 そう世界各国は怯え震えた…が、事態は急展開を見せた。

 枢木 白虎とルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの策謀により、会議中にブリタニア側が発砲して日本国首相澤崎 敦を含んだ一団を殺害。唯一生き残りの枢木 白虎の反撃で大貴族や元老院、シャルル・ジ・ブリタニア皇帝を射殺するという公式上そうなる(・・・・・・・)事件が発生。

 現地に派遣されていた日本警備部隊とブリタニア駐留軍と皇帝直属の騎士団が交戦。

 多くの戦死者を出しながらも白虎を含む一部の日本軍が潜水艦にてハワイより脱出。

 

 皇帝陛下を殺害された上に、帝国最強の十二騎士“ナイト・オブ・ラウンズ”の二名を喪失したブリタニア軍は付近に展開していた艦隊を二手に分け、コーネリア貴下の艦隊は銃撃戦となった会議室を生き延びたシュナイゼル・エル・ブリタニアを連れて本国へ帰還し、もう一団は日本に対して血の代償を払わせようと日本本土への攻撃に出た。

 本土攻撃と言っても制圧を目的にした侵攻作戦ではなく、ブリタニアと同じく首脳陣を失った日本が素早く動かないように牽制を入れる目的で、沿岸部の都市を焼く程度(・・)の遠距離攻撃を行おうとしているのだ。

 

 ―――が、日本側もそれを黙って見過ごすわけにはいかない。

 元よりブリタニアが侵攻する事も考えて、領海内には艦隊を展開されており、今まさに戦端が切られようとしている。

 もはや日本とブリタニアの戦争は避けられないだろう。

 そうなれば中華連邦、ユーロピア共和国連合などなどいろんな国が動くだろう。

 当事者だけでなくその近くにいる者も巻き込まれ、この火種は世界に蔓延する。

 

 

 

 日本海域では四隻の最新鋭潜水艦が浮上し、潜水艦隊旗艦より枢木 白虎中将が迎えに来た高速巡洋艦“三笠”へと乗り換えを行っていた。

 多くの大貴族に元老院、皇帝に最強の騎士を失って政治も軍事も乱れるであろうブリタニアだが、意図して失わせた日本国首相の死は同様に日本にも乱れを生じさせる。

 己が大事な者を護る為に、白虎はハワイでの作戦を第一段階とするならば、日本にて第三(・・)段階へ急ぎ移行しなければならない。しかもその後には第四段階の策が待っているので大忙しである。

 千葉 凪沙少佐率いる潜水艦隊は、第三作戦の要となるとある要人を迎えに行く任務があるので、白虎を三笠に移すのと同時に行っている海上補給が終了次第、日本海域より出撃することになっている。

 

 そして送り狼の撃退という第二段階が日本領海内で行われようとしていた。

 

 ハワイで事件が発生後、ハワイ諸島周辺に展開していた艦隊が集結。

 軍港が脱出した日本潜水艦隊により破壊されたので、停泊されていた艦艇は即座に使用することは不可能。

 皇帝不在の為に、帝国の最終決定権は第一皇子であるオデュッセウス・ウ・ブリタニアに委ねられることになるのだが、平時であれば有能な彼は、戦時など即断即決が求められる場合には一際決断力がない。

 ならば周りが支えるしかなく、宰相として外交や指揮官として最も優れているシュナイゼル・エル・ブリタニアの力は必要不可欠となり、ラウンズ二人の戦死で武力が大幅に減少した現状で、戦いに慣れ、精鋭揃いのコーネリアを遊ばせている余裕はない。

 出来る事なら白虎に対して追撃を敢行したかったコーネリア貴下の艦隊は、シュナイゼルを乗せて本国へ即座に帰国。

 しかし、日本への牽制を兼ねて潜水艦隊の追撃部隊と称した日本本土に対する攻撃艦隊が編成。

 日本近海へと迫っていたのだ。

 その追撃艦隊の殲滅、もしくは撃退の総指揮を任された皇 神楽耶は微笑を浮かべる。

 

 日本本土に対する攻撃を目的としたブリタニア艦隊は、かなりの戦力であった。

 艦隊指揮艦一隻に直掩の巡洋艦三隻と駆逐艦六隻、ミサイル駆逐艦が三十隻とミサイル巡洋艦が十六隻、さらには空母が四隻に補給艦と護衛艦が数十隻の合計60隻もの艦艇。

 対して日本より出撃した艦艇は新造艦を含む同数近くの55隻を誇っていたが、そのうち24隻は小火器を取り付けただけの自動航行可能な輸送艦で、六隻は旧型の軽巡洋艦と駆逐艦である。

 されど神楽耶は敗北はあり得ないと余裕を見せる。

 自分が編み出した対艦戦術と、白虎が用意してくれた戦力をもって、勝利は必定と想えたからだ。

 敵の指揮官がシュナイゼルやコーネリアならまだしも、多少名が知れた程度の(モブ)なら何の問題もない。

 何より自身が乗り込んでいる艦が轟沈する事など考えられないのだ。

  

 日本には世界にも知られた巨大艦が存在する。

 唯一と言っていい戦域護衛戦闘艦と命名された、全長250メートルの巨大護衛艦。 

 ブリタニアなどにはもっと全長の長い大型空母の建造技術があるが、巡洋艦に近い形で大型艦にした建造技術は日本にしか存在しない。

 その技術を用いて、対空能力特化型から海上砲撃戦に主眼を置いた大型艦が建造された。

 白虎が前世で生きていた世界では“超々々弩級”と付けられた世界に誇る巨大戦艦。

 秘匿呼称“八八”にて建造された八八艦隊建造計画によって、この世界にもたらされた大和型超弩級特務戦艦一番艦“大和”。

 主砲である46cm三連装砲が前方に二基、後方に一基。副砲を八基に対空砲数基に特殊兵装を装備した大和を先頭に、同型弐番艦“武蔵”、三番艦“信濃”、四番艦“紀伊”が艦隊を組んで進む。

 さらにどの後方にはサイズ的に近しい伊勢型改良試験運用超弩級戦艦一番艦“伊勢”と二番艦“日向”、扶桑型試験運用超弩級戦艦一番艦“扶桑”と二番艦“山城”が続く。

 この光景にブリタニア艦隊は目を目を見開いて驚きながらも、日本海軍は愚か者の集まりだと蔑んだ。

 大和もそうだが、コードギアスでの近代戦闘ではミサイルや超電磁砲などが主力武装だというのに、砲撃戦に主眼を置いた装備しか見えない。

 扶桑型には対艦用大型超電磁砲が前後ろで三基あるものの、伊勢型は砲戦用の41cm三連装砲が前後ろに三基で、ミサイル発射管などは一切取り付けられていないのだ

 

 「ブリタニア艦隊より通信が」

 「読み上げて下さい」

 「え、はい。――道を開けろ――です」

 「そうですか…なら返信は“くたばれ、ブリキ野郎”でお願いします」

 「…は?」

 

 相手の通信もそうだが、神楽耶の返信を呑み込めずに通信士が一瞬呆ける。

 それを気にせずに神楽耶は指揮を飛ばす。

 

 「旗艦大和より各艦へ。これよりブリタニアとの戦闘に突入します。第一種戦闘配備!戦域護衛支援艦は天岩戸とリンクを開始。“アマテラスシステム”の構築を。輸送艦隊は合図があり次第自動航行での目標地点へ前進用意。空母艦隊は戦闘機の発進準備を進め、特務一八駆逐隊は対潜戦闘準備!」

 

 告げられた命令を大和の艦長は復唱し、それぞれの仕事に取り掛からせる。

 返信を受けたブリタニア艦隊は攻撃を開始。

 先制攻撃として全ミサイル艦よりミサイルが発射され、第一次攻撃機隊が空へと上がり、各艦に搭載されていた潜水可能な水陸両用型のナイトメア“ポートマン”を出撃させた。

 が、正直対空防衛能力に関しては問題はない。

 日本艦隊には戦域護衛戦闘艦天岩戸も組み込まれており、天岩戸をサポートする限定海域護衛艦、ミサイル巡洋艦秋月型の“秋月”、“照月”、“涼月”、“初月”が同行しているのだから。

 ちなみに秋月型は全部で八隻建造されているが、残りの四隻はそれぞれ別海域の警戒任務に就いているのでここには居ない。

 天岩戸の最大の特徴は対空防衛能力に特化した武装とシステムだろう。

 しかしどれだけ強力な対空能力を持っていようと、数で押されれば為す術はない。その弱点を補完する為に白虎が計画したさらなる防衛計画。広域索敵可能で識別圏内の脅威に対して優先順位を判断する天岩戸のシステムに、対空防衛能力に特化したミサイル巡洋艦を連動させて対空防衛の強化と効率化を図った“アマテラスシステム”。

 それによって現艦隊の対空能力は飛躍的に上がり、ミサイル攻撃や艦載機に対しての迎撃が行われている。

 勿論突破して向かってくる機も居るが、そちらは後方に居る八隻の空母から発艦した対空装備の艦載機が対応することになっている。この八隻の中には今までになかった機構を詰んだ空母も存在するが、その説明はまた今度にしよう。

 寧ろ問題は海中を進むポートマンだ。

 一応対潜特化型駆逐艦として新造された“霰”に“霞”に“陽炎”に“不知火”を連れてきているが、己に向かってくるなら兎も角、戦域にいる艦隊全部を護る事は不可能。

 だから最初の一撃が重要となる。

 

 「大和型及び伊勢型の主砲に“Z弾”装填。目標海中の人型自在戦闘装甲騎」

 

 大型砲塔しか発射できない機密扱いの新型弾頭だが、使わずに敗北するなど愚の骨頂。

 命令により主砲に“Z弾”は装填され、ソナーに映るポートマンの群れの進路上上空へ向けて、空気を震え上がらすほどの轟音を挙げながら放たれた。。

 放物線を描きながら発射された54発の砲弾は、予定地点上空で破裂して内部に収納していた小型爆弾を振りまいた。

 空から海中へと降り注いだ小型爆弾は起爆し、海中で幾つもの爆発を発生させ、魚群のように移動していたポートマンを巻き込み海上高くまで水柱を挙げさせた。

 

 「対艦・対潜爆撃特殊弾頭…想像以上ですね」

 「感想は後です艦長。Z弾の装填を急いでください。二射後の残存蛙モドキ(ポートマン)の相手は一八に任せます。目標地点に向けて輸送艦隊発進を」

 「――ハッ!」

 

 勝てる戦いだが油断はしない。

 何事においても絶対なんてないんだから。

 なにせ神楽耶は多くを聞き、あり得ないような奇跡を成した事実を知っている。

 あの無謀とも覚えた神聖ブリタニア帝国による三度に渡る侵攻作戦を耐え抜き、日本を植民地でなく国家として存続させたきっかけを作った者がいることを。

 そして自分はその者の背を追い、肩を並べようとしている。

 

 速力を挙げて突っ込んでいく輸送艦がブリタニア艦隊の攻撃により破壊され、炎上しながらも自動航行に従って航行する様子を眺め、自分達と敵艦隊の位置を把握して神楽耶は大きく頷いた。

 

 「艦長、取舵一杯」 

 「…え?取り舵なさるので?」

 

 突然の命令に艦長が驚きながら聞き直すが、神楽耶は説明を省いてもう一度告げる。

 

 「はい。取り舵です」

 「……とーりかーじ、一杯!」

 

 先頭を進む旗艦大和の動きに合わせて合計八隻の戦艦が取り舵――つまり進行方向左へと舵を切った。

 巨艦が水面を切り分け、水飛沫を挙げながら大きく動く。

 大和型四隻に伊勢型二隻、扶桑型二隻の合計八隻の動きに合わせてブリタニア艦隊も動き、ミサイルは迎撃され続けているので電磁砲を向ける。

 タイミングを計る。

 早すぎてはエネルギーの消費が早くなり、遅くなれば被害が増える。

 喰いつくように敵艦隊を見つめる神楽耶の張り詰めた空気に艦橋内は静まり、緊張と不安だけが支配する。

 牽制――否、射弾観測の為の一射が付近に着水し、空気は一掃張り詰める。

 ゴクリと生唾を呑み込む音さえ大きく聞こえる艦橋で、タイミングを見切った神楽耶が叫ぶ。

 

 「特殊武装ゲフィオンディスターバー起動!」

 

 ブリタニア艦隊は面食らった事だろう。

 目視でも捉えれている超巨大戦艦の艦隊がレーダー上消滅したのだから。

 すでに潜水艦でも使用した、ゲフィオンディスターバーでのソナーなどの無力化。

 それを扶桑型で戦艦で出来るように改良した特殊武装。

 出来るまで大変だったさ。

 サクラダイトに干渉するように作られているゲフィオンディスターバーを使用するのだから、少しでも不備があれば戦艦の方が停止するという問題があり、何度テスト艦の扶桑型が停止した事か。

 また扶桑が動いたけど対艦用の超電磁砲が止まったりして、ラクシャータ博士と扶桑の技術スタッフが問題点の洗い出しを何度も繰り返した。

 

 …ソナーやレーダーを誤魔化せるという事は、自動化した照準システムもすり抜けれるという事。

 ブリタニア艦隊は未曽有の危機に陥っている。

 攻撃をしようにも武器管制システムは目標を捉えれないのだから。

 今頃は大慌てで問題を検討するか、指揮官の判断が早ければ手動での操作に切り替えているところだろう。

 

 対して日本艦隊はすでに側面を逸らして全主砲と副砲にて敵艦隊を捉えている。

 

 「主砲!副砲!いえ、全攻撃手段は任意に攻撃はじめ!!」

 「撃ちぃー方ぁー始めぇー!」

 

 響き渡った号令に従って八隻の大型戦艦より砲弾が放たれる。

 大和型に搭載された46cm三連装砲が、ミサイル巡洋艦を一撃で轟沈する。

 混乱の一途を辿るブリタニア艦隊に神楽耶は容赦なく砲撃を続けさせ、さらに神楽耶が生み出した対艦戦術“ルウム”を発動させる。

 

 対艦戦術“ルウム”は水上艦の死角に、対艦能力を有した機動力のある兵器を送り込み、敵艦隊内にて攻撃を仕掛ける戦術である。

 水上艦は甲板より下への攻撃手段を持っておらず、白虎の前世では雷撃機を海面すれすれを飛行させて、敵艦艇の対空網を避けて有効距離まで突っ込む戦術があり、白虎はそれをこの世界でするのかと最初は反対した。

 すでにプロペラ機でなくジェット戦闘機が空を駆ける時代にそれは難しい。

 海面すれすれを飛行するというのはかなり難しく、少しでも海面を擦れば機体は衝撃で海面に叩き壊されパイロットの命はない。

 それを行うぐらいなら、戦闘機の速度を上げて爆弾を落とせば良い。

 命中率は落ちるかも知れないが、熟練させたパイロットが死ぬ可能性の高い作戦を実行させるよりはマシだ。

 が、神楽耶は戦闘機でなく小回りが利き、元々小型であるナイトメアを使用した戦術であった。

 

 艦隊を囮としてナイトメアを接近させ、敵艦隊の懐で大暴れさせる…。

 これを聞いた白虎は「ルウム戦役の再現か…」と呟き、神楽耶がその名を作戦名にしたのだが、神楽耶は未だにルウムが何のことか理解していない。

 

 輸送艦隊には二つの仕掛けが施されていた。

 ひとつは以前と同じように、流体サクラダイトと見間違う桃色の液体を満載したタンクを内部に仕込んだこと。さすがに二度目で、戦術バレしている今となっては意味なく、撃破された。

 そしてもう一つは、二隻で一隻を牽引している、簡易的に作られた潜水可能な輸送潜水艦である。

 潜航と浮上の機構を備え、最低限であるが航行能力のある輸送用のコンテナと言った方が正しい潜水艦を、自動航行の輸送船に引っ張らせて自ら航行させず、敵に悟られずに接近できるこれらは、航行不能となった輸送船とケーブルを切断する事で、目標地点にほとんどが到達していた。

 “ルウム”が発動すると一斉に浮上し、内部に格納されていた、水上戦闘可能なように改修された無頼隊が出撃する。

 足には浮力を得る為のスキー板のようなボードを履き、コクピットには海上走行を可能とするホバー装置が取り付けられている。

 武装は対艦を想定してバズーカとハンドグレネード、あと一応貫通能力重視で軽量化されたサブマシンガン。

 牽引していた輸送艦が三隻とも撃破されて、目標地点まで至れなかったものも数隻存在したが、問題なく敵艦隊に水中戦闘可能な無頼が入り込み、敵艦隊内で暴れまくって戦果をあげ始めた。

 

 「ふふ、王手…いえ、チェックメイトと言うのでしょうかね?」

 

 正面に展開する艦艇に向けて砲撃。

 艦隊陣形内部で無頼による攻撃。

 大混乱に陥って、有効的な打開策を見出せないまま次々と沈んでいくブリタニア艦艇。

 一息ついた神楽耶はふと考える。

 こういう時は勝利を喜び、戦闘に従事した者に何かしらした方が良いのだろうか?

 高価なお酒? 

 ボーナス?

 戦術などの勉強はしたものの、そこは勉強不足だったようで考え込む。

 まぁ、帰還して白虎に聞けばいいかと考えを放棄する。

 

 「敵艦隊撤退を開始!追撃を行いますか?」

 

 艦長の言葉で敵艦隊へと視線を向け、黒煙を挙げながらも数隻の艦艇が撤退している光景を目にする。

 後方に居て無傷とは言え、空母を伴っての後退は足が遅すぎる。再度射程に収めて殲滅することは容易い――が、その考えを神楽耶は捨て去る。

 

 「深追いはしませんよ。それより空母護衛の軽巡洋艦と駆逐艦に、海上を漂う兵士達の救助を。勿論敵味方問わずにです」

 「――ッ!!……畏まりました。救助したブリタニア兵は武装と航行能力を解除した輸送艦に入れてけん引いたします」

 「救助指揮は任せます」

 「救助」

 

 この時、艦長以下大和艦橋に配備されていた乗員は神楽耶の行動に心打たれていた。

 多くのブリタニア兵は艦の残骸などにしがみ付き、必死に生き長らえようと頑張る。が、ここは日本の領海内で、ブリタニア領から救援が来るには時間がかかる。さらに戦闘があった事から、来るのであれば勝てるだけの艦隊を戦う為に用意をするだろう。

 今しがた殺し合いをしていた敵も、戦いを終えれば関係なく、それも人数だけで言えば救助する艦艇の乗組員よりも多い。

 それを助けろというのだ。

 戦いが終われば敵味方も関係ない。

 武士道精神と呼べばいいのか…。

 艦隊に所属する日本軍人は、伝えられた命令に誇りと感嘆の想いをもって救助作業に取り組んだ。

 

 

 

 ……好き勝手に思われたようだが、神楽耶の本音は違っていた。

 人道的や武士道に倣ってブリタニア軍漂流者を助ける為に救助命令を出したのではなく、ブリタニアとの交渉も考えて、捕虜を白虎の手土産に帰国しようと考えていたのだ。

 ブリタニアが交渉に応じれば良い取引が出来るだろうし、取引を拒否すれば大々的にブリタニアは兵士を見捨てると宣伝できる。

 どちらに転んでも日本には都合が良い。

 微笑ながら神楽耶は地図を見つめた。

 

 補給を終えた潜水艦隊が迎えに出撃した頃合いか。

 七年間…。

 あの戦争から経った時を神楽耶は次の戦争の為に自ら励んだが、日常は白虎を始めとした多くの者に護られた穏やかな物だった。

 だから想像出来はしない。

 出来たと思っても、それは自身の思考の範疇で勝手に想い描いてしまった事。

 決して口が裂けても解かるなどとは言ってはいけない。

 祖国を護らんと海を渡って敵地に身を置き武器を取り続け、他国からの良い訳として祖国は彼の者を自国とは関係のないテロリストと非難し、足りない人員と武器で祖国の為に七年間も戦い続けた人物の生き様を…。


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