日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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第29話 「白虎、始動」

 日本国は混乱の渦中に立たされていた。

 ハワイでの事件は世界各国で報道され、ブリタニアの謀略を受けたとなれば国内外からの注目を浴びることになる。

 特に軍神とまで謳われる英雄、枢木 白虎がこのまま何もしないとは考えられない。

 首脳陣を失った与党としては強気の姿勢を見せたい一方、ブリタニアとの同盟路線をとってしまった事に対しての野党の批判で手一杯。国の方針を決めようにもこんな大事な局面でリーダーシップを発揮できる稀有な人材がいないので、何もかもが中途半端な対応となってしまっていた。

 

 だからこそ彼は―――枢木 白虎が動けた訳なのだが…。

 

 軍港にて待機させていた装甲指揮車両に乗り換えた白虎は、護衛を伴い国会議事堂へと向かっていた。

 指揮車両内では常に情報を収集し、いくつもの連絡用のチャンネルを開いたままにして通信を行っている。

 どっかりと腰を据えた白虎は糖分を補充しようと飴を口の中に放り込む。

 左右には不安気なナナリーと、雑誌を読んで我関せずのC.C.が腰かけている。

 

 「閣下、海軍本部へ赴いた卜部少佐より“海軍は全面協力する”との事です」

 「はは、色々資金を回して立て直した甲斐があったな。して空軍の反応は?」

 「現在は中立を貫くそうです。軍として命令が下ればそれに従うと」

 「なら良しだ。これで軍部の掌握は完了っと」

 

 楽し気に笑う白虎は、陸海空軍を手中に収めた事に笑みを浮かべている。

 元々陸軍も海軍も先の戦争で上層部がほぼ総入れ替えしており、現在上層部を固めているのはなぜか(・・・)枢木 白虎を称える連中ばかり。

 さらに、陸軍は残っていた年寄り連中も九州の件で一掃され、より枢木寄りの者らが占めた。

 海軍は戦力の回復どころか、八八艦隊のように多くの資金を回して戦力強化された事で、白虎に対して良い印象を持っている。

 だからその両軍はやり易かったが、空軍だけはどう動くか予想し辛かった。

 もしもの時はこれからの作戦を空軍抜きでやらねばならないかと頭を悩ましていたが、中立と宣言してくれただけでもかなり有難い。

 

 「放送局はどうなっている?」

 「まだ連絡は…連絡来ました。仙波中佐と藤堂准将により、各放送局の制圧終了したそうです」

 「警察機構が動きを見せたとの報が…」

 「放送局奪還の動きがあるなら朝比奈に対処させろ。司令部を押さえれば黙るだろうさ」

 「銃撃戦が起こり得る場合はどうなさるので?」

 「その為に、スザクを含んだ人型自在戦闘装甲騎部隊の指揮権を任せたんだろが。支給された拳銃ぐらいでは何とも出来んだろうしな」

 

 次々と入る制圧の報告にご満悦な白虎に、ナナリーは不安の目を向ける。

 雑誌を読みながらも様子だけは窺っていたC.C.が、面倒臭そうにため息を漏らす。

 

 「言いたい事があるなら言った方が良いぞ。この男に遠慮や空気を読む必要はない」

 「お前は遠慮を覚えろよ」

 「……クロヴィス兄さまとユフィ姉様は大丈夫なのでしょうか?」

 「あーそゆこと。大丈夫大丈夫、すでに手は打ってるからさ」

 

 確かにナナリーからすれば二人の安否が心配か。

 今回の件でブリタニアに対する批判は高まり、国内にいる皇族へには何が起こるか分かったものではない。

 でもまぁ、そこまで心配はしていない。

 クロヴィスには皇帝を批判する演説文を読み上げさせ反ブリタニア寄りに見せ、ユフィは事件発生直後に酷くスザクを心配していた様子をカメラで連絡員に納めさせたので、いろいろと加工して日本寄り放送に使用させてもらう。あとは印象操作出来得るものを仕上げれるかに掛かっているかだが、失敗しても最悪御所警備隊の連中で警備させるから大丈夫だろう。

 御所警備隊で思い出したが、アイツらの作戦はどうなったのだろうか?

 

 「御所警備隊副隊長()より制圧及び捕縛は完了と」

 「だろうな。特権階級に貪って高みの見物をしようとするからだ」

 

 御所警備隊の面々には日本国における名家の制圧を任せている。

 意外に厄介なのだ、名家の方々と言うのは。

 いろんな所にパイプを持っており、資金も豊富なので気に入らなかったら武力を行使することだって可能。その上、家柄が良いだけに旗印としても使えると来たもんだ。

 ゆえに押さえておく必要があった。

 日本の象徴である皇家主催のお茶会という檻に跳び込んだ名家当主を丁重に確保し、当主不在で動きの鈍い本宅へ各小隊が制圧して何も出来ないように見張っている。

 本当はナオトに任せたかったのだが、別件を頼んで今は日本に居ない。

 これで予定していた第二段階はほぼ終了した。

 残るは咲世子と俺達が制圧すべきところだけだ。

 車が停車し、目的地に到着した事を理解した白虎は車外に降り立つ。

 国会入り口で止まった装甲車群に記者達が群がろうとするが、中より現れた一団を目撃するとその足を止めた。

 顔はゴーグルとフェイスマスクで覆い、防弾チョッキに野戦服などを着用し、野外戦と屋内戦仕様の銃を装備した二種類の一個大隊が隊列を組んだのだ。

 先頭に立つのは大隊の指揮権を持つ枢木 白虎中将。

 顔を隠しているが指揮官である井上が前に出て、総員の準備が整った事を伝える。

 対して白虎は片手を挙げ、国会方面へと傾けた。

 同時に武装した一個大隊が素早い動きで突入。

 国会議事堂制圧に動いたのだ。

 記者達は目の前の光景に興奮しながらカメラを回し続ける。

 白虎はナナリーを車椅子に乗せるとC.C.に押させ、護衛の部隊に護られたながら議事堂へと歩いて行く。

 勿論国会には警備を置いているが、こうすることは事前に決めていたので、諜報部の者と入れ替わっており、防衛される事無く堂々と入り込む。

 入口より入ると待っていた咲世子が頭を下げ、列に加わって斜め後方に立つ。

 

 「諜報部の制圧完了致しました」

 「よく上層部が首を縦に振ったな」

 「いえ、諜報部の実行部隊の方々は私が指導した者達ですので」

 「咲世子の子飼いか。あんまり敵にしたくない感じがするな」

 「恐縮です。なので手早く集まっていた上層部の方々を拘束させて頂きました」

 「まじで怖ぇよ」

 

 有能過ぎるくのいち(SP)に満面の笑みを浮かべた白虎は、国会議事堂本会議室前で立ち止まる。

 最近野党との会食を通じてこちら寄りの者らを募って、味方を増やしたので上手くいくとは思うのだが、ここから国民向けの演説ですべてが覆りかねない。

 柄になく緊張する白虎に、C.C.が背中を軽く押す。

 

 「…―――ッハ!背中を押すという言葉があるが物理でやるか?」

 「もたもたとしているお前が悪い。私からのエールを受けたんだ、喜べよ」

 「ったく、本当にお前って良い性格…もとい、良い女だよ」

 「当たり前だろ。私はC.C.だからな」

 「はいはいっと、なら行ってくるよ」

 

 扉を大きく開くと護衛の兵も雪崩れ込み、本会議場を占拠する。

 

 「閉会するな!この席を借りたい!」

 

 続いて素の白虎ではなく、国民の多くが抱いている、日本国をブリタニアの侵攻から救った英雄像としての表情で壇上に立つ。

 その場に居る議員と国営放送のカメラ越しに見ている国民の視線を感じながら、白虎は言葉を紡ぐ。

 己の大事な者たちを守る為に手ぶり身振りし、感情豊かに表情を変え、着飾りながらも真に迫った言葉で、この国のすべてを掴もうと投げかけた。

 

 

 

 

 

 

 日本も大きく動き始めた頃、ブリタニアに匹敵するほどの大国である中華連邦は静観を決め込んでいた。

 と言うのも、大宦官にしてみれば対岸の大火事に跳び込むのは酷く面倒臭く、動くならばもっとブリタニアが疲弊してからでも問題ないと判断したからだ。それ以上に、ブリタニア以上に大量のサクラダイトを保有する日本が、ブリタニアと戦争して弱らないかなとチャンスを伺っているのもあるが…。

 国外や自身の私腹を肥やすぐらいしか考えがない彼らは、自らの足元が崩れ去ろうとしている事に全く気付いていない。

 おかげで動きやすいのだがなと、ボロボロのマントにフードで姿を隠す黎 星刻は、辺りを警戒しながら倉庫街を歩く。

 

 日本国より進出した企業が集まる区画。

 その一部に出来上がった倉庫街の一角に、私用で訪れようと出向いたのだ。

 全ては天子様の為に…。

 

 周囲に人の気配を感じ取って、隠し持った得物に手をかけるが、少しだけ覗いていた顔より判断して、ロングコートの襟元を緩めて中に隠していた日本軍の軍服を見せてきた。

 どうやら案内人のようだ。

 

 「お待ちしていましたよ。どうぞこちらに」

 

 日本人にしては珍しい赤毛の青年に誘わるままについて行く。

 周囲には、彼の仲間と思われる者達が固めて警戒に努めているようだ。

 終始無言のまま移動して、とある倉庫に到着する。

 扉が開かれ物で溢れた倉庫内を歩いていると、突然彼が口を開いた。

 

 「本当に宜しいのですか?」

 

 青年の言葉に疑問符を浮かべる。

 

 「事情は窺っていませんが…今なら戻る事も出来ますよ」

 「愚問を。なら諸君らは今更足を止めれるのか。それも心の底からの願いを諦めて」

 「確かに愚問でした。すみません」

 

 何を想っていたのかは分からないが、一言詫びると青年の顔は凛としたことから覚悟が決まったと見える。

 歩いていると最奥へ辿り着き、壁に偽装されていた奥の扉が開かれる。

 照明も付いておらず、ぼんやりと眺めていると徐々に暗闇に目が慣れて、内部の様子がようやく見え始める。

 そこにはなん十機もの無頼がすでに待機しており、武装を装備している事からいつでも出撃可能状態であることを察した。

 

 「よくもこれだけの戦力を」

 「案外と簡単でした。他の国ではこうは上手くはいかないでしょう」

 「我が国の実状ゆえか…」

 

 星刻が察したように、腐敗が進んだ中華連邦ゆえの方法である。

 金や物品をチラつかせるだけでほとんどの役人が靡くなど、他の国ではみないだろう。

 天子様を操る事実上のトップである大宦官から汚職をしているのだから、子は親を見て育つように、下の者は上に倣うのだ。

 悪しき現状に嫌悪すると同時に、こうして友軍が動いてくれるのだから有難いとも思うのは微妙なところだな…。

 

 「これでこちらの本気は知れたと思いますが」

 「・・・あぁ」

 

 後は白虎の動きによるが、ここまでは信じても良いだろう。

 かといってすべてが終わるまでは完全に信用できないがな。

 もしかすると、事を起こす直前に私を大宦官に売ることだって、可能性としてはあり得るのだから。

 

 「それと貴方に“約束の品”だそうですよ

 「――ッ、これは…」

 

 赤髪の青年―――紅月 ナオトに示された先に佇む、無頼とは一線を画す一機のナイトメアフレームに感嘆を漏らす。

 いつぞや口にしていたな。

 私専用のナイトメアフレームを用意しても良いと。

 威風堂々とした姿に高揚しつつ、自らの刃となるナイトメアフレームに力強い視線を向ける。

 このナイトメアも奴も利用してでも、あの方を助けてみせると誓いながら…。

 

 

 

 

  

 

 日本領海内にて浮上した、最新鋭のステルス潜水艦隊の旗艦“白鯨”の甲板上に一人の男性が立ち、遠くに見える大地をしみじみと眺めていた。

 腰まで届く白髪に胸元まで伸びた白髭。

 目につく肌と言う肌には、銃創から刺し傷まで受けた数々の怪我の後が残り、腕がある筈のコートの左袖は風を受けてパタパタと揺れる。

 パッと見た感じは六十代を超えた老人であるが、実年齢はそこまで上ではない。

 それだけ苦労と毛が白くなるほどの恐怖を体験してきた猛者なのだ。

 左腰に差している日本刀と古びた日本軍軍帽を被り、顔つきから東洋人だと判断できる。

 

 「“老師”、もうすぐ迎えが来るそうです」

 「あぁ、そのようだ」

 

 男性は何処か寂しげに笑う。

 千葉 凪沙少佐の敬意ある態度から、事情を知らない兵士も彼がただ者でない事は承知していた。

 

 ブリタニアで恐れられている人物が何人かいる。

 シュナイゼルやコーネリアからすれば、その筆頭は枢木 白虎と答えるだろう。

 が、この“老師”と呼ばれる人物も、ブリタニアが血眼となって探していた危険人物の一人であった。

 七年前より反ブリタニア活動に身を投じ、最大の反ブリタニア勢力“解放戦線”の総帥で“老師”と呼ばれる日本人。

 元日本陸軍所属の草壁 徐水中佐。

 懐かしい故郷の匂いを肌身で感じながら、アイツらを連れて帰れなかったことを深く悔やむ。

 若者を含めた多くの仲間と戦地に向かったというのに、生きて祖国の地を踏めるのは自身一人とは…。

 出発前に撮った古びた写真を眺めながら涙を薄っすらと流す。

 失った仲間を思い浮かべていると迎えが到着したようだ。

 

 見上げる首が痛くなるほど巨大な戦艦。

 説明は受けていたがこれほど大きいとは…。

 一隻のボートが近づき、凝り込もうと近づくと、カツンカツンと右足の義足が歩くたびに音を立てる。

 兵士の手を借りながら移ったボートは草壁を乗せて進む。

 弩級戦艦八隻と空母八隻の八八艦隊と駆逐艦や巡洋艦数隻に囲まれ、護られている高速巡洋艦三笠に向かって。

 三笠に乗船する為にタラップを上がった先には懐かしい人物が立っていた。

 

 「久しぶりですね中佐(・・)

 「えぇ、死に損なって戻って参りました」

 

 昔を思い出す二人は笑い合う。

 周囲には敬礼したまま不動の姿勢で立っている兵士が待機している。さすがに気軽には話し辛いので白虎が少数に絞って、残りは職務に戻させた。

 

 「こんな盛大な出迎えを受けるとは思わなんだな」

 「ったりまえだろ。日本国の英雄が凱旋するんだから。資金に余裕があればパレードもやってやれたんだがな」

 「英雄にそのように言われるとこそばゆいな。しかし本当に良かったのか?俺は世間的にはテロリスト。日本国も俺を犯罪者として扱わなければ世間的にも不味かろうに」

 「あー…そこんところだけど問題ない。隠しても仕方ないから大々的に公表した」

 「ですから、貴方様は日本国を護る為に戦った勇者として報道されておりますよ」

 「―――ッ!?これは失礼致しました」

 

 白虎と並んで歩いていた草壁は、目の前に現れた日本国の象徴である皇家当主の皇 神楽耶に対し、姿勢を正して頭を深く下げた。

 その行動に神楽耶は困ったように制止を掛ける。

 

 「面を挙げて下さい。貴方が奮戦してくれたおかげで、私も日本も存在できたのですから」

 「勿体なきお言葉、感謝いたします。それにしてもお――私を勇者と公表するのはかなり骨だったのでは?政府の連中が首を縦に振るとは思えませんが…」

 「んぁ?言ってなかったっけ。今現政権握ってんの俺だけど」

 「・・・・・・はぁ!?」

 

 驚き過ぎて大口を開ける草壁を、白虎と神楽耶は予想通りと笑みを零した。

 

 「なにを!?どうやって!?」

 「落ち着けって。ちょっと考えれば分かるだろうに。政府連中が集まっていた国会議事堂を占拠したに決まってんじゃん」

 「せんッ!?」

 「ちなみに軍部も諜報部も抑えたぞ。つっても海軍も陸軍も、上層部が前の戦争で入れ替わって、俺寄りの連中が何故か上層部に固まってたから案外楽だったがな」

 「それにしても酷いんですのよ白虎は。軍部上層部だけでなく、この頃は野党の議員達と会食して、事が終わったら政権をくれてやるって確約して取り込んだんですのよ。その上皇家を含んだ日本有数の名家を制圧して支配下に置いたんですの」

 「や、やり過ぎではないか……国民がそれを許すとは思えんが…」

 「そこはほら…俺ってば清廉潔白な英雄だろ。サングラス掛けた彗星さんやとある公国軍総帥、または歌うロボットもののフロンティア艦長張りの演説をかましたら一発よ」

 

 言いたい事は色々とある。

 が、その前に言うべき事が一つある

 

 「清廉潔白?」

 「やっぱりそこに食いつきますわよね」

 「良いんだよ。イメージはそうなんだから」

 「素を知ったら幻滅するでしょうな」

 「喧しいわ」

 

 その場に座り込み、兵士に持って越された日本酒の蓋を開ける。

 同じようにその場に座り、兵士より杯を受け取る。すると白虎が酒瓶を傾けて注いでくれた。

 神楽耶は未成年なので手にしてないので、白虎と草壁だけ杯を手にして二人してあおった。

 

 「やはり酒は日本酒ですな。身体に沁み込みます」

 「良い米に名水、それに職人の腕が揃った逸品だからな」

 「アイツらにも飲ませてやりたかったですなぁ…」

 

 しみじみと呟かれた一言に三者三様に想うところがあり、静寂がその場を支配する。

 ゴクリと酒を飲み、静かな時間だけが過ぎてゆく。

 その中でぽつりと草壁が問いかける。

 

 「私はブリタニアを叩き潰したい。が、日本として…白虎閣下としては違う方針をとるのでしょうな」

 

 憎しみの籠った言葉に白虎は躊躇う事なく頷いた。

 解っていても、日本の為にと散って逝った仲間を想う草壁の憎しみは理解はする。

 けれども白虎の最終目標はそこにはない。

 

 「叩くにゃ叩くが手段は択ばせてもらう」

 「やはりそうでしたか…」

 「感情的には納得できないだろうが、協力してくれるか?」

 

 優しい微笑を向けられた草壁は正座をして姿勢を正し、白虎の目をしっかりと見て答える。

 

 「祖国の為、そして死んでいった仲間の為にも協力させて頂きます」

 

 大きく頷き、深々と頭を下げた草壁に、白虎も床すれすれに頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 「なんでこうなるんだよぉ…」

 

 盛大なため息を吐き出し、机に突っ伏した人物は自身に降りかかった不幸に頭を悩ましていた。

 彼の名はオデュッセウス・ウ・ブリタニア。

 神聖ブリタニア帝国第一皇子であり、皇位継承権第一位。そして皇帝不在時には皇帝代理という最高責任者だ。

 ブリタニアは弱肉強食。

 強ければ何をしても許されるし、弱者は虐げられるしかない。

 そんな国に生まれた事自体が彼の不幸だったかも知れない。

 シャルル・ジ・ブリタニア皇帝の子供たちは大なり小なり優秀な者が多く、オデュッセウスも例にもれずに内政に関してはかなり優秀な人材である。

 ただ温厚な性格が殺伐としたブリタニアに合わないのだ。

 平時であれば優秀な君主と成れた彼は、戦時ではただの優柔不断な暗君となり下がる。

 

 「父上…どうしてあんなことを…」

 

 恨まずにはいられない。

 ハワイで日本との同盟交渉が行われることに、オデュッセウスは大賛成だった。

 日本との戦争以降、ブリタニアは以前の余裕が失われてピリピリしていた気がする。他国にも植民地エリアにも白虎と言う一人の人物に対してもだ。

 だから日本との同盟は平和に繋がると信じて、朗報を期待していたというのに…。

 

 父上の指示で日本代表団の殺害が実行された。

 その一手で、日本と和平交渉どころか話し合いの場すら設けることは不可能。

 しかも殺害に失敗して父上が亡くなり、一緒に居た元老院と貴族も巻き添えに返り討ちにあった。

 悪い事は続くもので、皇帝最強の十二騎士が二人に皇帝直属の騎士団の壊滅、日本に進撃した海軍の敗退…。

 政治だけでなく軍事力でも大きな痛手を受けて、今のブリタニアは混乱の極みに陥ってしまった。

 さらに皇帝死去の報に沸き立った植民地エリアでは暴動が起こり、反ブリタニア勢力を勢いを高めて活発化。

 

 秒単位で事態が悪化する状況下で、残った皇族や貴族、元老院に将軍達が問うのだ。

 「どうなされますかオデュッセウス殿下?」…と。

 もう、こっちがそんなこと聞きたいよ。

 一手仕損じただけでブリタニアが瓦解されそうな状況で私なんかが判断できないよ。

 責任だって取れる訳ないし…。

 

 「あー…本当にどうしてこうなった…」

 

 シクシクと痛む胃を押さえながら、オデュッセウスは頼もしい自慢の弟であるシュナイゼルに全てを丸投げして願う。

 何とかして平穏を取り戻してくれと…。

 

 

 

 

 

 

 世界は大きく揺れ動く。

 超大国ブリタニアの皇帝の死去は、大きい災厄と成り果てようとしている。

 ブリタニアは植民地エリアを増やす戦争を仕掛け、幾つもの敵を抱えていた。

 対立国との戦線。

 当然のことながら植民地エリアでの不満の蓄積。

 反ブリタニア勢力の発足。

 起こっているものから寸前のものまでより取り見取り。

 このように戦火が燻ぶり続けている現状にて、ブリタニア皇帝の死はダイナマイトの導火線に火をつけるが如し。

 戦線は混乱し、反ブリタニア勢力は活発に動き出し、植民地エリアの不満は暴動やテロとして爆発。

 今や世界全てを巻き込む争いが勃発したと言っても過言ではない。

 

 その渦中に跳び込むであろう日本国は決断を迫られている。

 現状で和平の道は無いとしても、戦争を仕掛けるのか、戦争をしている国を支援して後ろに控えるのか。

 日本国は現在枢木 白虎が軍部も政府も抑え、彼の決定一つで国の方針が決まる。

 本日はその方針を決めるべく、国会議事堂本会議室にて話し合いが行われようとしていた。

 

 参加するのは枢木 白虎に日本国の象徴である皇 神楽耶、藤堂 鏡志郎と側近の四聖剣のメンバー。御所警備隊より扇 要と玉城 真一郎、白虎大隊より井上 直美。人型自在戦闘装甲騎隊のエースの枢木 スザク、技術部よりロイド・アスプルンドとセシル・クルーミー。そして最大の反ブリタニア勢力の総司令“老師”こと草壁 徐水の面々が集結している。

 

 「せいぞぉ~ん、せんりゃくぅ~」

 

 国の行く末を決める会議の第一声に、何人かががくっとコケそうになる。

 なんともやる気のない声に何人かが呆れたような睨みを利かすが、相手が白虎なだけに無駄だと知るやため息を吐くと同時に流す。

 

 「さてさて、みんな大好きブリキの国が大変なことになったね」

 「凄い嬉しそうですね」

 「ロイドさんも嬉しそうですけど…」

 「データ取りが捗るからでしょうね」

 

 上機嫌なロイドに、セシルとスザクが乾いた笑みを浮かべる。

 ここで白虎に同様の視線が向けられないのは、もうそういう性格だと認識されている事だからだろう。

 

 「セシルさんはあんまり乗り気ではないですかね?」

 「それは…はい…」

 「一般的に考えればそれが普通の反応だろう」

 「生まれ育った国と戦争をしようと言う会議ですからね」 

 「まぁ、セシルさんのおかげでユニット(フロートユニット)と“鳳翔”が完成したから、後はゆっくりしておいてもらっても良いけども…どうする?」

 「最後まで見させていただきます。もう他人事ではいられませんから…」

 「―――そうか」

 

 意思確認を終え、一瞬だけ神妙な顔つきになったが、呟くといつも通りの様子を見せ、話を次に移す。

 

 「老師にはブリタニアへの攻勢を頼みますよ」

 「承った。解放戦線は全軍を挙げてブリタニアに仕掛けよう」

 「決死隊はなしで頼みますよ。じわりじわりと首を絞めてやれば良いんで」

 

 この会話で皆の瞳の色が変わった。

 白虎が傍観ではなく攻める気であると理解したからだ。

 中でも玉城は前の戦争を思い返して、前のお返しが出来ると喜んでいた。

 

 「よっしゃあ!!これでようやくブリキと全面戦争か!腕が鳴るぜ!!」

 

 気合十分な玉城の言葉に白虎は首を傾げ、神楽耶はかわいそうな子を見るような瞳を向ける。

 なんか変なことを言ったかと焦る玉城に一言。

 

 「君は本当に馬鹿だなぁ(濁声で」

 「うぇ!?おかしなこと言ってないですよね」

 

 玉城の問いに神楽耶が特大のため息を漏らす。

 周りの反応はそこまで酷くないが、何人かは気付いているので何とも言えぬ表情を浮かべている。

 

 「良いですか玉城さん。確かにブリタニアはいくつもの戦線を抱えて、人手も足りずに疲弊し弱っています。けれども攻めてどうするんです?敵を打ち倒せば終わりではないのですよ」

 「戦争って二次元のように正義一つで戦えねぇんだ。大義名分は必要だし、己が正義の為に戦っている心持ちも居るだろう。でもそれは個人個人の話で、国家としては慈善事業で戦争は出来ねぇのさ」

 「資源が欲しい。権利が欲しい。力関係を知らしめる。土地が欲しい。海域を得る為あの島が欲しい」

 「戦争って言うのはつまるところ外交の手段であり、無理やりに何かを得る方法(駄々)だ」

 

 白虎と神楽耶の説明に玉城は生返事を返す。

 藤堂や草壁は大きく頷いて納得しているようだが、扇と井上は別の所に注目していた。

 神楽耶だ。

 まだ少女である彼女がどうしてあのように語れるのか。

 知っているから語っている様子ではなく、理解しているから話している。

 白虎ならまだわかる。

 彼は最前線で戦った戦争の経験者だ。

 確かに神楽耶も指揮を執ったがまだ一桁で、そこまで実感するほどではない。

 となればこれは白虎の影響か。

 あんな少女にあれだけの影響と重みを背負わす。

 そう思うと背筋が寒くなる。

 彼の狂気は歳など関係なく染め上げる。

 二人がそんな考えを向けている事を露とも知らない、白虎と神楽耶は話を続ける。

 

 「それとな玉城。戦争に勝ったとしてその後はどうすんだ?」

 「どうするって勝ったらそこで終わりだろ?」

 「そこからが大変なのですわ。もしもブリタニアを自国の領土とした場合は、戦争被害の復興からブリタニアに向けられていた怨嗟を日本国が引き受ける事になります」

 「他国からの視線は厳しいぞ。人道に反するとか植民地は止めましょうとかいろんな理由をつけて手放せと言ってくる。今の日本に世界各国と弁論を行って言い負かせる様な達者な奴はいねぇ」

 「敵戦力を倒す事は出来ても制圧には人手がいります。日本国でブリタニアを完全支配するのは、民間人を武装させて配置したとしても不可能。暴動一つですべてが崩れ落ちるのが目に見えてますわ」

 「手放したら手放したで予算を消費しただけで得るものは皆無。ピラニアが食らいつくような感じで、ブリタニアの領土がいろんな国にむさぼられるだろうしな」

 「下手したら日本国の戦力が弱まったところを近隣国が攻めて、サクラダイトを手にしようと動く事だってありえます」

 「ってなわけで日本国はブリタニアと戦争はしねぇ…っつか出来ねぇんだよ」

 

 雪崩のような情報を一回で理解出来ず、困惑する玉城に扇がもっとかみ砕いて教え込む。

 

 「だ、だったらあのまま放置かよ!俺達はただここで観戦しろってか?」

 「んぁ?誰がそんな事言ったよ」

 

 嗤った。

 見慣れた笑みに逆にホッとする共に闘った面々と、狂気に満ちた笑みに恐れを見せる共闘未経験の二組に分かれ、ギラリとした瞳を見せる白虎の宣言を待つ。

 

 「俺達の進軍目標は国の象徴を裏で操り、私腹を肥やす事のみに特化した糞野郎の巣―――――中華連邦!!」

 

 植民地エリアを除けばブリタニア本国と同等の大国へ進撃するという発言に、全員が面喰らった。

 先の理由を述べておきながら大国を攻めるというのなら、それなりの理由がある。

 それも白虎がいうのだからすでに準備は行っている筈だ。

 だからこそあえて藤堂が問うた。

 

 「理由を聞いても良いか?」

 「中華連邦を攻める理由か――――同じロリコン(同志)を助ける為だけど」

 

 一気に会議開始の一言以上に本会議場が凍り付き、神楽耶を除いた全員から冷めた視線を向けられるのだった。


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