日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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第31話  「空の王者」

 日本軍の上陸作戦に一部武官による内乱と民の暴動。

 歯止めの利かない大宦官への攻撃と批判は時間を増すごとに苛烈に被害を与えて来る。

 沿岸部で指揮を取っていた夏望(シャ・ワン)項勝(シャン・シェン)は討ち死に。

 朱禁城にて待機していた蔡力士(サイ・リ・シ)黄遷(フアン・シェン)は斬首。

 運よく生き残った四名は国外への脱出を検討したが、真っ先に逃げ出した高亥(ガオ・ハイ)が空港で暴徒に見つかって嬲り殺しにされた事でその選択肢は消滅した。

 ゆえに残存している大宦官の趙皓(ジャオ・ハオウ)程忠(チェン・ジョン)童倫(トン・ルン)は、自分達の命令を聞く兵力を動員して朱禁城へと向かっている。

 

 大宦官は決して有能な人材ではない。

 しかしながらまるっきしの無能という訳ではないのだ。

 その地位に就く過程においても維持するにしても、知恵無くして得られるものではない。

 彼らは悪知恵については群を抜いている。

 日本軍を排除しようにも今の中華連邦の大部分が反乱や内乱で動けない。これらを解消するには中華連邦のトップである天子の権力を使うしかないが、天子は反乱を起こした黎星刻が確保している。

 攻め落とす作戦も奪還しようと潜入部隊を送ったが失敗。

 奪還は不可能と諦め、大宦官は次の手を打つ。

 天子ごと朱禁城を潰せば良い。

 正直天子などただのお飾りであり、言う事を聞く人形を天子と担いで仕立てれば良いだけの話。

 作戦失敗してすぐに選定を開始して、候補者リストを作成。

 あとは内乱の首謀者である黎星刻を含めた主力メンバーともども天子を討ち、国内外に新たな天子から号令を発生させればよい。

 何も心配はいらない。

 何も問題はない。

 これが終われば元通りの生活が待っているのだ。

 

 大地を削りながら突き進む陸上戦艦竜胆の後を、鋼髏の大規模部隊が追従する。

 朱禁城に竜胆の主砲を叩き込むべく射程に入れるべく接近しようと、朱禁城周辺に広がる建造物を踏みつぶしてただ進む。

 無駄に余裕のある態度でふんぞり返っている大宦官。

 俺達は大丈夫だと確証もない自信を胸にほくそ笑む。

 通信兵からの報告を耳にするまでは…。

 

 「レーダーに感!急速にこちらに接近する艦影(・・)有り」

 「艦影?艦影だと?」

 「馬鹿を言うな。ここは陸上ぞ!急速で進める艦など…」

 「映像をモニターに出します」

 

 モニターへ視線を向けるとそこには艦があった。

 戦艦、もしくは巡洋艦にVの字の甲板が後ろから前へと伸びている艦が飛行していた。

 甲板よりナニカが飛び立ち、一直線にこちらに向かってくる。

 

 「不明艦より発艦!」

 「見れば分かる。迎撃を!!」

 

 慌てて迎撃するもソレはするりと対空砲火を掻い潜り、さらに接近してくるではないか。

 旋回の良さからして戦闘機ではない。

 速度から戦闘ヘリではない。

 一体なんだというのだと目を凝らすと、モニターに白いナイトメアが浮かび上がる。

 

 「ナナナ、ナイトメア!?」

 「そんな…空を飛ぶナイトメアなど…」

 「しかし現に…」

 『聞こえるか?こちら日本陸軍所属枢木 スザク』

 

 オープンチャンネルでの通信に耳を疑う。

 日本海軍は上海に上陸して動きを停止している筈。

 なのに奴らは空を進む艦を使用してここまで攻めてきた。

 それも現日本のトップとなった枢木 白虎の弟が直々に…。

 

 『我々日本軍は中華連邦代表蒋麗華(チェン・リーファ)を支援する為に行動中である。これ以上無駄な争いをせず投降されることを望むものである』

 「なにを馬鹿なことを!敵はたった一騎ぞ!」

 「撃ち落してその首を枢木白虎に送り付けてくれる!!」

 

 空中に飛翔しているランスロットに鋼髏の攻撃も集中するも、高度差もあってまず当たらない。

 対してランスロットは可変弾薬反発衝撃砲ヴァリスを展開し、銃口を向けてトリガーを引いて、緑色に発行するエネルギー体を撃ち出す。

 高所より一方的に撃たれて為す術もなく鋼髏部隊の数を減らして行く。

 

 大宦官達は後悔する。

 もっと早く手を打てばよかった。

 日本が宣戦布告した時点で海外へ逃亡すればよかった。

 もしも…もしも…もしもと脳裏に考えが過るがもはや遅い。

 遅すぎたのだ。

 もしもと考えるのならもっと昔―――大宦官の役職に就いた頃まで戻るべきだ。

 思ったところで、願ったところで、言ったところで無駄ではあるがね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 護衛母艦“鳳翔”。

 八八計画によって創り出された、護衛母艦の予定になかった三番艦。

 この艦は八八艦隊に組み込むのではなく、白虎の淡い期待を胸に追加建造された一隻で、単独行動を主とする母艦である。

 そして淡い期待は現実のものとなり、急遽改修を加えられた。

 後部から伸びるV字甲板には射出用のカタパルトレールが左右に二本ずつ。後部格納庫左右隔壁より展開できるように、側面にカタパルトレールと連動するレバーの設置。前部にあった砲塔は取り除かれ、ミサイル垂直発射管が十二基。船首と船尾には四基ずつ魚雷発射管を持ち、対空迎撃用のガトリングも他の艦船とは比べ物にならない程搭載されている。

 これほどの改修が加えられるのはそれだけ白虎が重要視していた証。

 

 この護衛母艦“鳳翔”―――――否、護衛母艦改め浮遊航空母艦“鳳翔”にはセシル・クルーミーが開発したフロートシステムを得て、コードギアス世界初となる空を航行出来る戦闘艦となったのだ。

 

 「ランスロットが敵陸上戦艦に攻撃を開始。砲塔の破壊を継続中」

 

 セシル・クルーミーからの報告に、艦長席に腰かける皇 神楽耶は満足そうに頷く。

 まったくもって全ては順調そのもの。

 中華連邦侵攻に差し当たって未だイレギュラーは一つ(・・)しか起こらず、すべてが当初の予定通りに進み過ぎている。

 まず藤堂が指揮する主力艦隊での奇襲を仕掛けて、相手の目をそちらに向かせる囮も兼ねた上陸作戦。

 同時に内部に混乱と大義名分を確保する黎星刻達による武装蜂起と、大宦官に対する暴動による陽動作戦。

 そしてゲフィオンディスターバーを用いたステルス機能を使っての、黄海より朱禁城がある首都洛陽への鳳翔の派遣。

 籠城戦をしていた黎星刻達主力部隊は、航空戦力と言う増援と多くの物資を得る。

 

 まさかここまで来てイレギュラーが起きるとは思いもしなかった。

 それもこちらとしては嬉しいイレギュラーが。

 中華連邦を実質的に支配している大宦官が数少ない自分達に従う兵力を掻き集めて、天子もろとも朱禁城を堕とそうとしている。なんと愚かで有難い事か。

 黎星刻達では護りきれない大部隊を日本国が救援する。

 非常な大きな貸しだ。

 

 「スザクさんは大丈夫でしょうか…」

 

 現状を知る唯一のセシルの報告を耳にしたナナリーは不安を口にする。

 本来なら非戦闘員であるブリタニア皇族の方々には用意した個室で待機してもらうべきなのだが、白虎が「別に艦橋で見てても良いだろ」と艦橋での観戦許可を出したので、ここから戦争を感じて貰っている。

 スザクの恋人であるユーフェミアは不安はあるものの表情には出さず、ぎゅっと拳を握って帰って来ることをひたすら祈り、クロヴィスは白虎が用意させた兵器と用意した作戦を見て、なんとも言えない表情を浮かべていた。きっとあの戦争を思い出しているに違いない。

 神楽耶は不安を口にしたナナリーに声を掛ける。

 

 「大丈夫ですわ。スザクはそう簡単にやられたりする筈がありませんもの」

 

 なんたってあのブラコン白虎が一番槍を任せたのだ。

 危険は非常に少なく、かつ効率的と判断しての事。

 でなければ先行させるなどしよう筈もない。

 ランスロットに続いて発艦した飛行第一中隊が合流して、上空より鋼髏を一騎ずつ狙撃して行く。

 鳳翔には戦闘機は積み込まれておらず、人型自在戦闘装甲騎が格納庫を占めていた。

 白虎が育てた白虎大隊。

 その中でも人型自在戦闘装甲騎の操縦に長けた六十四名の機体。

 中隊長用の月下四機に各小隊長用の無頼改指揮官機がニ十機、無頼改四十機の人型自在戦闘装甲騎一個大隊分。

 白虎大隊では三機を一個小隊として、五個小隊で一個中隊で四個中隊で一個大隊を形成しており、中隊長はその中に加えられずに足されていく形を取っている。

 今回第三第四中隊は虎の子であるフロートユニットを装備して、飛行第一第二中隊として狙撃ライフルやグレネードを装備している。本当なら全機に配備したかったが、フロートユニットの生産が間に合わずに二個中隊分しか用意出来なかったのだ。

 ゆえに残りの二個中隊は、降下部隊として地上に降り立っての敵の殲滅と地上戦艦の制圧を予定している。

 

 「敵に動き在り。航空戦力が上がって来ます。戦闘ヘリで構成された航空戦力……それと対空ミサイルも確認」

 

 さすがに黙ってやられる訳もなかったかとため息交じりに、地上戦艦のハッチより飛び立つ戦闘ヘリをモニター越しに眺めながら指示を飛ばす。

 

 「下部にブレイズルミナスを展開。上空へ上がろうとする物は迎撃を」

 

 単騎での航行を主とする鳳翔には大和型同様にブレイズルミナスが搭載されており、敵の対空兵装への防御を可能としていた。

 高い防御力に飛行能力、人型自在戦闘装甲騎の展開能力。

 馬鹿と阿呆が総動員された非常識な艦なのだろうか。

 

 「敵地上戦力の予定数の撃破を確認。それと敵地上戦艦の全砲塔が沈黙しました」

 「第二飛行中隊を発艦。向かってくる航空戦力を排除後、降下部隊の支援を」

 「畏まりました。では第二飛行中隊発艦を開始してください。第一第二降下部隊は降下準備を」

 

 V字甲板カタパルトレールより次々と人型自在戦闘装甲騎が発艦する中、左右格納庫の隔壁が開いて側面カタパルトレールが展開される。

 これより終局に突入す。

 汚職に塗れた中華連邦を終わらせに、あの人が出撃するのだ。

 

 

 

 

 

 

 開かれた格納庫側面の隔壁より地獄が見える。

 圧倒的な数を誇る中華連邦のナイトメア鋼髏部隊は一方的に空中から撃ち抜かれ、ピラミッド状の巨大な地上戦艦は足を止めて、至る所から黒煙を挙げていた。

 あの戦場を制圧すべく、これより私達はこの鳳翔より飛び降りて殲滅戦を開始するのだと思うと、井上 直美中尉はため息を漏らす。

 第一中隊長と白虎大隊副長を務める彼女は今回重要な任務が待っている。

 南 佳高率いる飛行第一中隊(第三中隊)の上空よりの攻撃と、吉田 透率いる飛行第二中隊(第四中隊)による降下支援を受けながら敵中に降下する以上に、白虎の護衛を任されているのだ。

 なんでこの人も降りちゃうのかなぁと思いが過るが、決して口にはしない。

 言ったら言ったで胃に穴が空きそうな気がするからだ。

 

 艦橋から格納庫に降りてきた白虎が興奮気味であった事で、嫌な予感がして胃がシクシク痛むというのに。

 「宇宙へ進出したのは戦艦(ヤマト)だけでなく空母もあるんだぜ」などと訳の分からない事を言ってたし…。

  

 『敵航空戦力の排除が完了。降下部隊は降下開始して下さい』

 「総員、装備の再度確認怠らないように」

 

 セシルの艦内放送を聞き、部下に命じつつ胸部に着地時の衝撃を緩和する追加スラスター、後部には降下に必須のパラシュート、側面にはフレアにチャフにダミーバルーンを撒く自機の追加装備の確認を行う。

 何度もした自身の点検を終えると、隣の白虎と互いの追加装備の確認を行い降下準備を整える。

 

 『行くぞ前線豚共。戦争の時間だ』

 

 嬉々として命令を下した白虎の月下先行試作機が一番にカタパルトレールに近づく。

 隔壁の外では片足を乗せれるカタパルトレールと船体側面にグリップが展開されており、右足をカタパルト台に乗せて重心を艦に寄せ、左足はぶらりと宙に浮く。上体を支えるべくグリップを右手で握り締める。

 口には出さなかったがこれはあの人なりの配慮なのだろう。

 部下にいきなり飛ばすのではなく、自身が手本となって最初に跳ぶ。

 本来なら艦橋で指揮を執るか、戦場に出たとしてもフロートユニットを装備して安全な空より援護すれば良いのだから。

 

 『枢木 白虎。月下先行試作機出るぞ!』

 『御武運を』

 『おうさ!』

 

 カタパルトと連動したグリップによって月下は艦前方へと突き進まされ、その勢いのまま飛んで行く。

 マニュアルでは知っていたが、目の前で手本を見せられてより正確に理解して同じようにカタパルトレール台に足を乗せる。

 

 『発艦どうぞ』

 「第一降下部隊長井上 直美、了解しました」

 

 セシルからの通信を受け、井上は自機である月下をカタパルト台に足を乗せて発艦準備を進める。

 すると第二降下部隊長杉山賢人中尉の無頼よりジェスチャーで『気を付けろよ』と伝えられ、にっこりと微笑みながら「お先に」と返す。

 

 「井上 直美、月下行きます!」

 

 急激な衝撃を耐え射出され、井上はすぐさま先に出撃した白虎機を見つけて近づく。

 後方になった鳳翔の船首魚雷発射管より降下部隊支援の為にミサイルが発射され、当たらないように距離を保ちながら降下地点に向かって白煙を引いて突き進む。

 幾らか撃ち落されても、確実に着弾して目標地点の脅威を排除する。

 飛行第二中隊が周囲に展開して降下支援を行い始め、全機発艦した第一降下部隊は編隊を組む。

 地上からの射程に入った事を警報器が鳴り響いて、側面の装置よりダミーバルーンにチャフ、フレアを射出して地上からの目を暗ます。

 後はパラシュートを展開して速度を落とし、着地ギリギリで切り離しつつスラスターを吹かして追加装備を全部着脱すれば良いだけだ。

 降下の動作は不備がない限り自動なので井上はそれに任せていたが、自機のパラシュートが展開するより早く白虎機が手動で展開させ着地のタイミングが遅れた。

 何事かと思案しつつ先に着地して武器を手に取る。

 すると―――。

 

 

 『こちら白虎。降下部隊降下完了!井上 直美中尉が一番乗りだ』

 『それは勲章物ですね』

 「………はいっ!?」

 

 白虎と神楽耶のやり取りに呆気にとられ、素っ頓狂な声を挙げてしまった。

 驚きながら腰に備えられたスモークグレネードを着地地点周辺に投げて、敵の目より姿を隠れさせる。

 

 『帰ったら昇進だな井上大尉(・・)

 「ご冗談を――」

 『冗談だと思うのか。心外だなぁこの方嘘などついた覚えがないんだがなぁ』

 

 それが嘘でしょうにと思いつつ、次々と着地を決めた第一中隊総員の被害を確認しつつ、白虎を中心に陣形を整える。

 あの冗談を口にする為に降りるタイミングを遅らせたとは思わないが、何を考えているか分からない白虎の思考を読むのは自身には無理だと諦めて思考を切り替える。

 

 『副長!被害状況報告』

 「降下時の弾幕で数機損傷なれど軽微!戦闘続行可能レベル!!」

 『―――ハッ!そこを見張れ。あそこを見張れ。我らの敵を撫で切りにせよ。目標“全方位(選り取り見取り)”―――ひっ飛べや!!』

 

 命令が下った。

 カチリとスイッチが入り、キリングマシーン(殺人機)と化した白虎大隊は動く。

 どう動けばいいか。

 なにをすればいいか。

 左手のアサルトライフルを連射しつつ、右手の廻転刃刀を振り上げながら斬り込む。

 猪突猛進の如く突き進むが、味方の位置情報を把握して誤射を避けつつカバーも熟す。

 難しい事であるが思考より先に身体が動いてくれている。

 

 『吹き飛べや!!』

 

 月下先行試作機の輻射波動により敵機が破裂して破片を辺りに撒き散らす。

 それを諫めるのではなく追従するように縋り、日本国を背負った大きな男を超す勢いでペダルを踏み切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天子を裏で操り中華連邦を牛耳っていた大宦官は全員が裁かれた。

 おかげで中華連邦は自由を獲得し、戦乱の火蓋が斬られることとなった。

 当然と言ったら当然だよな。

 強大な力を誇示して大国を支配していた大宦官がいなくなり、台頭してきたのがまだケツの青い若手武官に政治なんて知らない箱入りの少女ですよ。

 これは好機と思い込んで立ち上がる奴も出て来るってもんよ。

 欲を露わに我が中華連邦を統べると私兵を挙げ、中華連邦は群雄割拠したのであった。

 

 と、他人事のように語ったけど、こればかりは白虎も見て見ぬ振りは出来ないのだ。

 何故なら中華連邦とは同盟を締結して共に歩んで行くのだから、阿呆共によって遅延させられる訳にはいかない。

 

 頭脳明晰で運動能力が跳びぬけた黎星刻と言えども、分裂しつつある中華連邦を短期間で押さえつけるには術も駒も時間も足りない。そこで日本としては援軍を送らざるを得ない。

 千葉率いるステルス潜水艦隊と仙波率いる艦隊が沿岸部の敵対勢力を薙ぎ払い、卜部に朝比奈、ナオトの御所警備隊が人型自在戦闘装甲騎部隊を引き連れての制圧作戦を展開する。

 さらには白虎大隊と鳳翔により、空からの攻撃も予定している。

 ただ藤堂は別件を頼んだので大和型を連れて日本国へ帰還している。

 

 かなりの支出と労力だ。

 代わりに中華連邦…いんや、天子様に三つの条件を飲ませた。

 一つはインド軍区の独立を認める事。

 これは先に黎星刻に伝えていたので問題なく良い返事をくれ、ようやく約束を果たせたよ。

 二つ目はまだ公には口に出来ないがとある事(・・・・)への全面協力。

 最後の三つ目は条約の締結だが、これはまだ先の事。

 意図や意味は天子様には理解出来てなかったが、黎星刻の説得と言うか説明があって承認された。

 

 日本の同盟と武力支援を得た中華連邦は早くに立ち直る。

 まだやる事はあるだろうがそれは星刻の仕事だ。

 

 「と言う訳でデート行って来いよ」

 「なにがと言う訳だ。行ける訳ないだろう」

 

 あり得ない。

 ルルーシュばりの頭脳を持った天才が、これだけ話したというのに理解していないなんて。

 小首を傾げる白虎を、星刻は溜め息を漏らして呆れる素振りを見せる。

 

 「日本国の協力のおかげで天子様に歯向かった者達は鎮圧されつつある。が、未だ政府機能の選定が急務であり、私にはシステムの構築と天子様をお守りするという職務があるのだ」

 「いや、知ってけど」

 「だったら解かるだろう」

 

 そうは言われても理解も納得も出来ねぇ。

 

 「それが天子様との約束を反故にする理由になんねぇだろ」

 

 ピクリと眉を動かして反応を示す。

 確かに生きていればこれから外に出る機会はあるさ。

 けどそれは天子が望んだものでは決してない。

 

 「これからお前さんは天子様を頂点とした国造りに励むんだろ。システムが組み上がったら動き辛いぞ。政などで外を出る機会があっても、それは移動だけで見て回るなんて自由なんてないぞ」

 「護衛を配置したところで貴方は心配して気が気ではなくなるでしょう。そうすれば天子様は楽しめないどころか、貴方に苦労を強いてしまったと後悔なさるでしょう」

 「しかし――」

 「もう、男らしくなさい!うじうじと悩んで白虎を少しは見習ってくださいな」

 「…なぁ、それは思いっきりが良いと受け止めれば良いのか?それとも考え無しと思われてたと捉えた方が良いのか?」

 

 煮え滾らない解答に神楽耶が憤ったが、微妙に白虎が顔を顰める。

 コホンと小さく咳き込んで話を戻す。

 

 「兎も角今だけだ。今だけなんだぞ、自由に動けんのは。天子様が外を出られる次の機会なんてものは、万が一にも億にも(ちょう)にも(けい)にも、那由他を超えて無量大数の先にも有りはしない。

  約束を違えるか。外に連れ出す一時の夢を。まほろばの想いを……御身が大事ですと一言で奈落へと堕とすのか?」

 

 これだけでも悩んで答えを出せない。

 面倒臭いな。頭でっかちの忠義者ってのは…。

 

 「天子様だって星刻と空中デートしたいよなぁ?」

 「ででで、デート…星刻と」

 「こういう時は―――」

 「貴様ら天子様に…」

 

 攻め口を変えて天子を巻き込み始めた事に抗議の声を向けるが、神楽耶に耳打ちされて大きく頷いた天子がおずおずと立ち塞がった。

 動きを止めて見つめていると――。

 

 「――――駄目?」

 「――ッカハ!」

 

 恐る恐る見上げられた表情はか弱く、霞む様な弱々しい言の葉と潤んだ瞳が星刻に突き刺さる。

 吐血したかのような声を漏らしながら膝をつきかけた様子に、効果が抜群だったのを察した。

 

 「行って来いよ。鳳翔での空中デート。上空より中華連邦が一望できるから絶景だぞ」

 「空戦戦力も防衛能力も高いですから、もしもの時なんて考えなくて良いですからね」

 

 井上達白虎大隊の面子の負担はかなりデカいがそれはそれ。

 これでもぐだぐだ言うようならケツを蹴り上げてやろうかと思ったが、先の天子様の攻撃が利いたのか反論は無かった。

 

 嬉し気に恥じらう少女と優し気な微笑みを浮かべる青年。

 ニマニマと微笑ましい様子を眺めていると、羨ましい気持ちに襲われる。

 

 「俺達も久方ぶりにデートでもしますか」

 「ですわね」

 

 星刻と天子を鳳翔へ案内した後、神楽耶と白虎は朱禁城より出て中華連邦の街へと繰り出そうとする

 そういえばと神楽耶は先の白虎の井上に対しての行いに想うところがあり、少しばかり表情をオーバーに問いかける。

 

 「それにしても意地悪が過ぎますわ。あれでは副長さん達(白虎大隊)が可哀そうです」

 「アレぐらいしないと駄目だって。今の内から鍛えておかないと―――――俺がいなくなった(・・・・・・・・)後を任せれないしな」

 「…え?今なんて―――」

 「さぁて、行くぞ神楽耶。初の海外デートなんだから楽しまないとな」

 

 小さく聞き取れにくかった言葉に一抹の不安を抱きながら、神楽耶は白虎の横に並んで進む。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――を殺す。

 

 ボクは命じられた。

 いつもと変わらない仕事。

 何の変哲もない暗殺の依頼。

 ターゲットは白虎。

 または白虎の関係者。

 出来得ることならば白虎の大切なものが好ましい。

 そう言われた。

 

 V.V.は怒り狂っている。

 大切な弟を失い、育んできた計画を阻害する要因に怨嗟を持って殺意を向ける。

 

 正直どうでも良い。

 ボクはただただ言われた事を行うのみ。

 そこにボクの感情も想いも存在しない。

 淡々と目標に近づき、欠陥品と罵られた能力を行使して、無防備な姿勢を晒す奴の血で刃を血で染める。

 

 今日もまた…一人の人間を殺した…。 


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