日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

36 / 40
第35話 「超合集国の為にやるべき事」

 中華連邦領黄海に浮かぶ潮力発電用の人工島“蓬莱島”。

 サクラダイトに依存しない自然エネルギー精製所として作られたこの地に、皇 神楽耶は降り立った。

 現在蓬莱島には多くの国を代表する大物たちが集まっている。

 と、言うのも日本国が発起人として構想した超合集国憲章に参加しようと名乗りを挙げて前交渉の為に訪れているのだ。

 超合集国というのは原作に出てきたゼロが提案した対ブリタニアの枠組み。

 各国バラバラの軍事力を超合集国と契約した軍事組織“黒の騎士団”に集めて指揮系統の統一を行い、民主主義の下で採決は多数決にて、黒の騎士団の派遣から超合集国の大小問わない議案を取り決める。

 それらを原作知識で得ていた白虎が提案し、ようやく為そうと動き出したのだ。

 対して各国の反応としては、日本国一国が騒いでいるのならよほど美味しい話でなければ無視していただろう。

 しかし、その話に中華連邦とユーロピアで名を挙げた英雄のゼロが参加するというのだから無視は出来ない。

 是非を問う前に話だけでもと急遽集まり、連日のように会議が予定されている。

 中にはユーロ・ブリタニアによって祖国を追われた王族や国家元首なども居り、ブリタニアに敵対している三国が集まっている事から藁に縋るような思いで駆け付けた国もある。

 

 それらを纏めるべく白虎より交渉を一任され、皇 神楽耶は篠崎 咲世子と共に会合場所へと向かっている。

 会合場所である防音を施した一室にはユーロピアの英雄ことゼロと、中華連邦の最高責任者となった天子を支える武官の黎 星刻が先に入室して待っていた。

 時間には遅れてはいないが待たせてしまった事から、軽く頭を下げて謝罪の意図を見せる。

 

 「お待たせしてしまったようで」

 「いや、時間通りだ神楽耶殿」

 

 問題ないと言わんばかりに席を示され、求められてない謝辞もそこまでにして話を進めようと席に着く。

 この三人が顔を合わせたのは、これより集まった各国に都合の良いように話を通して、これより白虎が行おうとしている計画をスムーズに進ませる為の打ち合わせ。

 その為には、超合集国の採決で行われる多数決で過半数以上を会得する為に、各国代表を取り込まねばならず、この三人はそれらを全て担う事になっている。

 

 「早速だが話に入ろう」

 「今後の予定も考えると時間が惜しいですからね」

 「一番の問題はユーロピアだが、そちらに対しては何か方策はあるのかゼロ?」

 「集まったユーロピア勢の大半は、ユーロ・ブリタニアに恨みを持つ者。なら餌をぶら下げるだけで、こちらの条件は飲むだろうな」

 

 自信満々の答えに星刻は渋い顔を浮かべ、神楽耶はくすくすと嗤う。

 二人共ゼロが餌と称したモノが何なのか察したのだが、考え方の違いは表情を見るに明らかだ。

 特に神楽耶などは白虎に似たような笑みを浮かべているので、碌でもない事はその笑みから明白である。

 

 「本当にやる気があるのか?」

 「勿論だとも。寧ろソレで世界の平和が手に入るのだから安いものだろう」

 「餌とされるユーロ・ブリタニアには悲劇でしかないがな」

 

 そう、ゼロはユーロピア各国を味方にする為に、ユーロ・ブリタニアを生け贄にすると言っているのだ。

 ユーロピア各国が超合集国に加盟すれば、当然ユーロ・ブリタニア打倒は提案されるだろう。

 だが、神楽耶を含めた三人は打倒や追い払うのではなく生け贄(・・・)にしようと言う。

 世界を平和にしようと思って今までの憎しみや恨みを全て水に流して皆で手を取り合いましょう………などとほざいた所で、本当に憎しみ合った者は簡単には手を取らない。取ったとしても内心憎しみがぐつぐつと煮え滾り、いつ爆発するか分からなくなる。

 こういう場合には捌け口を用意してやれば、表面上は納得出来ずとも内心では納得してしまうもの。

 つまり、ユーロピアをユーロ・ブリタニアから奪還すると同時に世界の憎しみの捌け口になって貰おうとしているのだ。

 きっと血で血を洗い流す殺戮劇が繰り広げられるだろう。

 殴殺、撲殺、絞殺、銃殺、拷問etc.etc.

 ありとあらゆる暴力的行為が行われ、それら全てが黙認される…。

 

 「怖い話ですこと。ユーロ・ブリタニアは世界平和の礎に殲滅されるのですね。酷く可哀そうで残念な事です」

 「そう思うなら、せめて泣く演技でもされることをお勧めするが」

 「まるで小さな白虎を見ているような笑みだな」

 「お褒めの言葉ですわ」

 

 褒めてないのだがと言いかけた口を閉じて、呆れた視線だけを向ける。

 

 「とりあえず、超合集国の議題第一号辺りでユーロピアへの派遣を議題にあげるとして、これでは半分の賛成を得るには少ないでしょうか」

 「ユーロピアは私が請け負うのだ。他はそちらで対応して欲しいものだが?」

 

 ゼロの言う事は最もだ。

 効果的だと思われる餌があろうと、国と国の交渉と言うのはそう簡単なものではない。

 利益は勿論だが、国民からの支持に国としての在り方や方針、歴史などが入り込んで入り乱れる。

 ゼロと言う名を使い、餌をぶら下げ、高い交渉能力が無ければ到底熟せない事であることは事実。

 そんな交渉事をゼロ一人でユーロピアより来た代表一人一人に行うのだから、

 

 「畏まりました。残りは私と星刻様で何とか致しましょう」

 

 同意見の星刻は大きく頷いて同意するが、何処か表情は曇っている。

 それもその筈。

 白虎の計画である超合集国憲章にはクリアしなければ難題があるのだ。

 交渉が上手く言ったところでソレさえ揃わなければ計画は頓挫し、世界平和への道は何十年も先の話になるか水泡に帰すだろう。

 

 「しかし問題は()を連れてこれるかどうかだな」

 

 不安を口にしたところ、神楽耶だけでなく控えていた咲世子までもクスリと嗤う。

 心配など無用だという態度にゼロも見えないが微笑む。

 

 「ご安心を。すでに白虎が迎えに向かっております。優秀な誘導係も居ますので万事上手くいくかと」

 

 枢木 白虎の名前に妙な安堵と変な不安も覚えながら、三人は話を詰めていく。

 

 

 

 

 

 

 オデュッセウス・ウ・ブリタニアは疲れ果てていた。

 元々争いごとが得意ではない彼は、父親であるシャルル皇帝が亡くなってから戦乱極まる神聖ブリタニア帝国を背負う立場に無理にでも押し上げられた。

 長男で皇位継承権第一位、そして皇帝不在時には代行とされてきた事から当然の流れ。

 しかし人には向き不向きがあり、オデュッセウスには現状のブリタニアは扱いきれるものでは決してなかった。

 自他ともに気付いているのでギネヴィアやシュナイゼル達が率先して手を回しているが、日本に中華連邦、ユーロピアに反ブリタニア勢力の活発化などでまったくもって手が足りない。

 責任は重大で責務は超過。

 さらに皇帝不在の長期化は不味いという事で、つい先日即位式が執り行われて正式に皇帝となった……いや、なってしまった。

 

 牽制してくる中華連邦に勝利を重ねるユーロピア共和国連合、そして何かしら動いている日本国。

 問題は山積みで、それらすべての責任を負う立場となった事に、気持ちが重く沈んで自然とため息が漏れる。

 

 「兄上、ご気分が優れませんか?」

 

 各国との交渉に連日追われて相当疲弊しているであろうシュナイゼルが、精いっぱいの笑みを浮かべて気遣ってくれる。

 その気遣いだけで心がほんの少しだけでも安らぐ。

 今日の予定だってそうだ。

 シュナイゼルが私の仕事の一部を請け負って無理やりに時間を作り、ちょっとした気分転換にクルージングは如何ですかと誘ってくれたのだ。

 車が軍港に到着して停車すると、車内より出てゆったりと落ち着いた気持ちで太陽の日差しをめいっぱい浴びる。

 ポカポカとした陽気をただただ感じれるだけの余裕がなかった事から、それすらも心地よい安らぎを感じる。

 クルージング用に用意された船に、SPにしては些か不審な人物が視界に入り、眉をひそめた。

 

 「彼は誰だい?」

 「あぁ、彼はマオという諜報に優れた仲間(・・)ですよ。護衛の一人でもあります」

 「護衛…ねぇ…」

 

 サングラスで視界を隠し、口元はニヤつき、身体は長身痩躯で鍛えている様子はない。

 ついでに言うとヘッドホンを付けている様子から、周囲への警戒もしていないように見える。

 本当に護衛なのかと疑いの眼差しを向けるが、シュナイゼルがそう言うのならそうなのだろうとタラップを駆けあがる。

 船をゆっくりと港を離れ、護衛の為の小型船舶と共に沖合へと向かう。

 涼しい潮風を受けながら、日々の皇務を忘れて穏やかな一時を味わう。

 このような時間が続けば楽で良いのに。

 そのような想いを抱きながらクルージングを楽しんでいると、シュナイゼルが隣に並んで同じく海を眺めながら口を開いた。

 

 「敵対関係にある国々と和解でき、争いの絶えないブリタニアが平和になれるとしたら――――どうします?」

 「それは良いね。まるで夢のようだよ。出来ればそれが実現できれば良いのだけど」

 

 穏やかな海を眺めながらシュナイゼルの問いかけに何気なく答える。

 それが良かったのか悪かったのかは、今のオデュッセウスが要る由はなし。

 ただ解答がどれであれ、結果は変わらなかっただろう。

 

 「そうですか。なら―――カノン」

 「畏まりました」

 

 そう答えたカノンは懐より携帯端末を取り出し何処かに連絡をした。

 すると護衛に出てきた小型船舶の後方が爆発して速度が落ち停止。

 一体何事かと驚きながら眺めていると、急に速度を上げて沖へと向かって進みだした。

 驚きと混乱の中で余裕のある笑みを浮かべるシュナイゼルの横顔が映った。

 

 「どういうことだいこれは?」

 

 青ざめるオデュッセウスにシュナイゼルは微笑むを向ける。

 その瞳は妙に赤みを帯びているように見え、奇妙な違和感を与えてきた。

 

 「安心してください兄上。これもブリタニア、ひいては世界平和につながる行為です」

 

 ニタリと嗤うシュナイゼルに一抹の不安を抱きながら、オデュッセウスは今まで成果を上げ続けてきた優秀な弟を信じて抵抗することなく従う。

 ………その後、皇帝を追うべく出向した駆逐艦と巡洋艦が正体不明の敵により撃沈されて、神聖ブリタニア帝国は全軍を挙げて奪還すべく行動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 日本国は戦乱続く世界に平穏をもたらす案として超合集国という連合体を生み出そうとしている。

 その為には絶対必要なピース―――神聖ブリタニア帝国皇帝の身柄。

 とてもとても簡単に手に入るような品物(・・)ではないが、是が非でも手に入れるしかない。

 枢木 白虎は日本国に最低限の海上戦力と、超合集国の会合場所である蓬莱島防衛の為に戦域護衛戦闘艦天岩戸と戦域護衛支援艦を残し、残りのすべての日本海軍戦闘艦艇を集結させた。

 高速巡洋艦三笠のブリーフィングルームには各艦の艦長や白虎に召集された者が集まり、これより行われる作戦のブリーフィングが行われていた。

 

 白虎はスザクを護る為に、おまけで日本をエリア11と呼ばせないように兵器を用意し、邪魔者は排除してここまでに至った。

 すでに現状で神聖ブリタニア帝国は以前の様な絶対的な強者としての高みから引き摺り降ろされ、疲弊したまま不利な状況で戦線維持に努めて余力はない。

 多くの人が今こそ攻めればブリタニアを倒せると思っている。

 だが、それは間違いで、倒し切れるだけの力を世界は持ってはいない。

 

 中華連邦は天子を頂点に、星刻の成果もあって生まれ変わったが、実状内乱を恐れて大規模な遠征は不可能な状態だ。

 表立って天子や星刻に敵対していた勢力は叩き潰して纏め上げた様に見えるが、表に出していないだけで同様の考えを持っている奴が影に潜んで巣食っている状態。

 原作ではシュナイゼルがそういう奴らを交渉で取り込んだために色分けがし易かったが、内戦が続くことを恐れた白虎が手駒にしたシュナイゼルにさせなかったので、中華連邦はいつ爆発するか分からない不発弾を抱え込むことになってしまった。

 こんな状態でブリタニアへの侵攻作戦をしたところで、隙を伺っていた連中が暴れ出して中華連邦そのものが瓦解しかねない。

 

 ユーロピア各国はルルーシュの協力もあってユーロ・ブリタニアに対して優勢に事を成してはいるが、超合集国に加盟させる為に分裂させたり色々したせいで、自国防衛とユーロ・ブリタニアの相手で手一杯。

 分裂させなかったらと考えもしたが、ユーロ・ブリタニアを叩けたとしてもすでに兵力の多くを失い、疲弊していたユーロピア共和国連合にブリタニア本土進攻などの力はなかったろう。

 

 最もブリタニアを苦しめているのは、草壁率いる解放戦線などの反ブリタニア組織が積極的な攻勢をかけているおかげ。

 しかし正規軍と違って補給もままならず、資金振りも支援頼みの彼らに長期に渡る攻勢は不可能。

 現在攻勢が行えているのも、ため込んでいた資金に物資を放出するかのように使っているからに他ならない。

 後二年…否、一年もしない内に主だった活動が出来ない程になってしまうと予想される。

 

 最後の綱とされるは戦線を抱えず、自由に動けて、戦力を保持している日本国だが、極東の島国一国が大国のブリタニアに侵攻しても制圧できる見込みはない。

 ランスロットと紅蓮でナイトメアの性能で圧倒は出来るだろうが、それ頼みになれば疲労は堪り、機体の破損や損傷、劣化が激しく、専用パーツばかりの二機は補給が苦しくなる。

 それ以前に敵がそれを理解すれば、空爆や砲撃、暗殺でスザクとカレンを直に狙ってくるのは目に見えている。

 スザクを護る為の行動なのに、スザクを失ってしまうような作戦を立てれば本末転倒だろう。

 

 ゆえの超合集国憲章なのだ。

 原作ではブリタニアと反ブリタニアを分けた構図となったが、白虎は超合集国の枠組みにブリタニアを端から納める気でいる。

 ブリタニアが疲弊して皇帝が温和なオデュッセウスだからこそ行える策。

 彼ならば現状打破出来るなら協力してくれる。

 希望的観測ではない。

 何故なら彼は周りの意見に流されやすく、優秀な弟であるシュナイゼルに多大な信頼と信用を寄せている。

 頭脳明晰で人を操る事に関して高い交渉能力を持つ彼からの説得を受ければ、オデュッセウスは絶対に話に応じて来る。

 出来れば正式な手段で穏便に事を運べれば良かったんだけど、ブリタニアに正式に話を通したところで聞き入れてくれる筈はない。

 なので誘拐作戦を敢行した。

 ブリタニアが超合集国に加入する為には、後入りは絶対に避けたいところだ。

 何故ならば、今まで仕出かして来た事柄から、加入を認めるか否かの多数決で絶対に反対多数になるのが目に見えている。

 入れたとしても到底許諾しかねる条件を付け加える。

 そうなればブリタニアも入ろうとせずに、意地になって戦闘を激化させる可能性が出て来る。

 これらを考えると、多数決で加入を決める前の段階から参加させるほかない。

 多くの国家元首も参加する式典に間に合わせて、オデュッセウス皇帝に加盟の宣言をさせる。

 名ばかりの皇帝でもその宣言さえすれば、過激な連中を除いたブリタニア人は皇帝の決定に従う他ない。ただ加入が決まる前に奪還しようと動くだろうけどな。

  

 まず作戦の第一段階としてシュナイゼルとカノン、そして省庁近くを歩くだけで機密事項を入手していたマオにより、ブリタニア本国よりオデュッセウスを連れ出す。

 その際に急ぎブリタニア海軍が出向して追って来るだろうが、それに対してはすでにステルス潜水艦白鯨型を三隻差し向けてある。爆雷を詰んだ対潜装備の大艦隊と戦えば、さすがの白鯨型も海の藻屑と消えるだろうが、急遽発進して艦隊もくそもない艦艇など恐れるに足らず。

 オデュッセウス皇帝を乗せた船舶と日本艦隊が合流し、超合集国発足会場となる蓬莱島に向けて進めばよい。

 しかしそんな事をさせまいと、ブリタニアは全力で阻止しようと艦隊を向かわせてくるだろう。

 ゆえに艦隊を四つに分ける。

 三笠を旗艦とした第一艦隊は真っ直ぐ蓬莱島へ。

 大和を旗艦とした第二艦隊はハワイのブリタニア駐留艦隊に攻撃し、オーストラリア方面から蓬莱島へと遠回りする。

 第三艦隊は左回りするかのように進路を取った第二艦隊の逆で右に回り込む形で進み、最後の艦隊と言うか鳳翔のみは飛行して日本上空を通って向かう最短コースを取る事になっている。

 尚、本命のオデュッセウスがどの艦に乗艦しているかは白虎を含めた一部にしか知らせてはいない。

 

 「てなことで質問ある奴おるか?」

 

 集まった艦長や佐官クラス、白虎が信用に足ると思っている人物たちが沈黙する中、玉城が恐る恐る手を挙げた。

 この時、集まった者達全員は同じ疑問を持っていただろう。

 重要な作戦を話していたというのに、全員の視線は部屋の片隅にちらちらと向けられていたのだから。

 当然ながら気付いていた白虎は、知らないように振舞う。

 

 「はい、玉城君」

 「ブリーフィングが始まった時から思ってたんだけどよ。アイツ誰だよ?」

 

 さも当然のように参加していた十代半ばの少年と、少年より幼い子供というこの場に似つかわしい二人に全員の視線が注がれるが、両者とも白虎同様まった気にした様子もなく、ただただ作戦資料を眺めている。

 

 「紹介が遅れたな。えっと、俺を殺そうとブリタニアより差し向けられた暗殺者のロロ…改めシャル(・・・)君と、お兄さんのV.V.君だ。皆、宜しくねぇ~」

 「良いのかよ!命を狙った相手なのに!?」

 「使えるもんは使わないと。と言っても、彼らにはオデュッセウスの護衛を任せようと思う」

 「そんな子供に?」

 

 朝比奈の当然の問いにムッと表情を歪ませるV.V.。

 それを白虎が制して困ったように笑う。

 

 「シャル君は強いよぉ。ここにいる全員を瞬きする前に皆殺しに出来るぐらいに」

 

 嘘は言っていない。

 なにせギアスを使用されて体感時間を止めている間に銃でも使えば、瞬きする間に皆殺しに出来るのだから。

 説明したところで信じて貰えないからそれ以上は言わないけど。

 

 ちなみにロロの名前がシャルに変更したのはV.V.を精神崩壊に漬け込んだツケだ。

 何しろ精神が崩壊した事を良い事に、ロロを弟と認識させて扱いやすくしたまでは良かったのだが、V.V.の弟=シャルル・ジ・ブリタニアなので、それがロロだと精神保護の為に誤認識しているV.V.には疑問が生まれ続ける。

 そこでロロの名前をシャルに変更したのだ。

 さすがにシャルルと呼ぶと巻き毛の顔がチラついて違和感があったので、一文字省略したシャルにしたが問題はなかったようだ。

 

 嘘だと思いつつ、真面目に答えた白虎からあながち嘘でもないのだろうと認識した彼らは、それなら隣の幼い子供は何なのだろうと視線を向ける。

 勿論正確に答えないが、省略した役割ぐらいは答えてやる。

 

 「それとV.V.は肉壁として優秀だから」

 「盾にすることを前提に話を進めないで下さい」

 「殺されても死なないだろう?」

 「痛いものは痛いからね」

 

 ロロ(シャル)に向ける穏やかで優し気な瞳から急に冷めた視線へと変わり、言葉と共に視線が突き刺さる。

 それもそうかと肩を揺らし、ブリーフィングの続きを口にする。

 

 「第二艦隊の総指揮は藤堂に任せるよ。足の遅い艦隊だから敵の集中が予想されるので、俺の大隊とスザクとカレンも付ける。四聖剣の面子も第二艦隊所属でヨロ」

 「………いや、私は第一艦隊への配属を希望したいのだが」

 

 割って入った仙波に視線を向けると、困ったような笑みを浮かべられた。

 ちらりと見渡すと藤堂も似たような表情をしていたから、藤堂と仙波だけは察した(・・・)のだろう。

 断って口を割られたら後が厄介な事になるか…。

 

 「なら俺の補佐を頼もうか。老人と若者合わせて一人前ってところだろうからな」

 「はっはっはっ、であれば有望な若者を頼らせて貰いましょうかな」

 

 仙波の冗談に合わせて不敵に笑う。

 内心では謝罪と感謝の言葉を抱きながら…。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。