日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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第36話 「姉妹…」

 ハワイ近海。

 ブリタニア領ハワイには太平洋を監視・警戒して、大規模なブリタニア駐留艦隊が存在していた(・・・・)

 していたと過去形になっているのは現在はそこまでの艦艇が駐留できない状況にあるからである。

 白虎がシャルル皇帝を亡き者にした後、神楽耶率いる艦隊がブリタニア艦隊迎撃のために戦闘を行い、勝利を収めると同時に手薄になっていたハワイ駐留艦隊軍港を砲撃して大部分を破壊された為だ。

 しかし太平洋と言う海洋をフリーにしておくほど危うい事もないので、仮施設を急遽建設してそれなりの艦隊は配備させてはいる。

 正直八八艦隊を含めた日本艦隊で挑めば圧勝とまでもいかないまでも、被害は少なく勝利を収めることは容易であろう。

 容易ではあるが現在白虎はブリタニア皇帝の誘拐作戦を敢行し、時間との勝負に追われている。

 時間が掛かれば掛かるほど追跡の手は伸び、超合集国の発足予定期日を過ぎてしまう可能性すらあり、勝てる相手だからと言って放置して時間稼ぎに攻撃を仕掛けられても厄介極まりない。

 ゆえに第二艦隊は二度目のハワイ軍港攻撃命令を受け、今まさに戦端を開いたのであった。

 

 「全艦第一種戦闘態勢!」

 

 第二艦隊の総司令官に任命された藤堂 鏡志郎少将は旗艦である大和型超弩級特務戦艦大和より命令を下す。

 各日本艦艇は命令に従って行動を開始する。

 敵は少数なれどやたら無暗に戦力を失う事を良しとはしない。

 出来るだけ多くの者を日本へ返す役目も藤堂は背負っていると認識している。

 

 「先遣艦隊がブリタニア艦隊との戦闘に入りました!」

 「向こうも小手調べか。ブリタニアの主力は?」

 「我が艦隊主力へ向かって進行中です」

 「紅月君の隊を先遣艦隊の援護に向かわせ早々に突破を図る。その間主力艦隊には遅滞戦闘を徹底させ、先遣艦隊との挟撃に持ち込む」

 「空母より無頼の発艦許可を求めておりますが…」

 「まだだ。虎の子を無暗に消費することは白虎の望むところではないだろうからな」

 「では待機したままで?」

 「今はそうだ。挟撃体制が完了し次第出撃命令を下す。それまで待てと伝えろ」

 

 これで最小限の被害でハワイ駐留艦隊を片付けれる筈だ。

 水上戦闘用の無頼は艦船の懐に入りすれば一騎で戦艦や空母を落とす事も可能であるが、長距離から突っ込むとなると格段に射程の長い艦の方が有利。下手をすれば辿り着く前に全滅しかねない。

 攻撃は牽制に留め、回避運動を行う主力艦隊。

 被害は今のところ少ないが時間が経てば経つほど増えるが、そこは先遣艦隊――いや、カレンが解消してくれるだろう。

 先遣艦隊上空をフロートユニットを装備した紅蓮弐式が飛行しブリタニア艦隊に急接近する。

 無論接近させぬように弾幕が張られるが弾雨の中をすり抜けるように躱して、巨大な腕が艦橋に叩き込まれて潰れた。

 日本軍の人型自在戦闘装甲騎の中で最上位に位置する機体に、常人をかけ離れた操縦能力を有するパイロットの一人であるカレンにしてみればこれぐらいの弾雨など問題はない。

 次々とブリタニア艦に取り付いては艦橋やエンジン部を破壊して指揮能力か航行能力を奪い去っていく。

 中には輻射波動にて内部より吹き飛ばされた艦艇も見受けられる。

 たった一騎のナイトメアに隊列を崩され、空いた隙間に先遣艦隊とカレンに預けたフロートユニットを付けた月下隊が突っ込み、食い破るように敵艦隊を蹴散らして行く。

 敵艦隊を突破した先遣艦隊はそのまま敵主力艦隊後方へ向かい、ナイトメア部隊は戦闘可能なブリタニア残存艦への最小限の攻撃を行って合流を急ぐ。

 こういう時に至って白虎が恐ろしく感じる。

 紅蓮弐式やランスロットなどの世界各国のナイトメア技術に格段の差を持つ機体に、ブリタニアでいうラウンズ級のカレンやスザクにいち早く目を付けたり、何処まで先を見据えて行動をしていたというのか。

 おかげで一騎当千と実際にはあり得ない力を持った一騎のナイトメアによって犠牲も少なく艦隊戦に決着が着くのだから有難い話なのだがな。

 

 「挟撃体制が整いました!」

 「攻撃開始。無頼全機発艦。同時に千葉、朝比奈、卜部に白虎大隊の飛行可能な月下隊に頭上を押さえさせろ」

 

 先遣艦隊と紅蓮弐式を含めたナイトメア部隊が後方から襲い掛かり、正面で牽制と回避に専念していた主力艦隊が攻勢に転じ、左右と頭上からナイトメア部隊が襲い掛かる。

 ブリタニア艦隊も必死に攻勢に出るが、四方を囲まれた上に上空を押さえられればあの艦数であれば逆転は難しいだろう。

 あちらは任せ、藤堂は先遣艦隊にも主力艦隊にも含めなかった旗艦大和などの弩級戦艦八隻と少数の護衛艦を連れて軍港を射程に収めようと近づく。

 駐留艦隊は出払い大和を止めるだけの艦は無し。

 けれども航空部隊は別だ。

 軍事施設に設けられた滑走路に停めてあった戦闘ヘリ部隊が飛翔する。

 

 「敵航空機隊が本艦に向けて接近中!」

 「護衛機を発艦させろ。対空戦闘用意!!」

 

 ここには戦域護衛戦闘艦天岩戸は居ない。

 あの絶対的な防衛システムが無くて少々心許ないが、代わりに今は空戦ナイトメア隊がここに居る。

 甲板に立たせていたフロートユニット装備の月下とスザクのランスロットが飛び立つ。

 向かってくる航空機隊に比べれば数こそ劣るが、ナイトメアは小回りが利き、護衛機として配備された月下は急いで配備された初期型ではなく後期型。

 これは(後期型)アニメで言う“R2”で登場する暁の武装である内蔵型機銃を装備させ、今までの戦闘データから機体能力の向上させた機体となっている。

 小回りが利く上にアサルトライフルとハンドガン合わせれば四基の砲身が一斉に火を噴いて一機で弾幕を張れる。

 それが護衛機として一個中隊居るのだから航空機隊にとっては弾雨の嵐だろう。

 白虎はもっと数を揃えたかっただろうが、戦闘データを収集して急ぎ作った機体だけあって生産数は少なく、ここにある一個中隊のみ。

 

 「護衛部隊が戦闘を開始。戦況はこちらの優勢です」

 「監視は緩めるな。一機でも見落とすなよ」

 

 一応口にしたものの、突破できる者など居る訳もなし。

 月下だけならあり得たかも知れぬが、スザクが操る常識場慣れした戦闘能力を発揮するランスロットを戦闘ヘリごときで突破できるわけがない。出来たとすればそれは正真正銘の化け物であろう。

 なんにせよ敵機が来ない内に決着をつけるべく藤堂は命令を下す。

 

 「主砲装填。目標ブリタニア領ハワイ沿岸部にある軍事施設―――撃ち方はじめ!」

 

 大和を含んだ超弩級戦艦八隻の主砲一斉射が再びハワイ・ブリタニア軍港に降り注ぐ。

 一撃で戦艦をも沈める世界最大の主砲の斉射によって施設は破損するどころか、地面を抉って周辺ごと消滅させる。

 主力艦隊は挟撃にて半壊。

 分艦隊は壊滅。

 駐留艦隊基地司令部及び軍事施設の消失。

 残存ブリタニア艦隊が戦意を失うのには充分すぎる戦果だったのだろう。

 投降や降伏の申し出をしてくる通信が入り、藤堂は警戒しつつ武装解除するように勧告し、艦隊には敵味方問わずに救援するように命令を出す。

 かなりの時間を食うが問題ないだろう。

 この艦隊は急ぐ必要がないのだから。

 

 それより藤堂はこの後の事を考えると気分が滅入る。

 これから先に第二艦隊が戦闘を行う事は無いだろう。

 何故ならこの艦隊は注目されようとも、唯一ブリタニアが手を出す事のない艦隊なのだから。

 

 第二艦隊はハワイ攻略後はオーストラリア方面に進み、そこから大きく回り込むように中華連邦の蓬莱島に向かう。

 ただでさえ距離のあるコースに加え、足の遅い空母群と弩級戦艦が配属されて艦隊の航行速度は酷く鈍っている。

 囮として使うのであれば高速巡洋艦三笠や足の速い船舶で第二艦隊を固め、大和などの足の遅い艦は最短コースを航行する第一艦隊に配置すべきだ。

 それらをこちらに回したという事は目は引かせるが、囮として敵を引き付ける役目は与えないという事なのだろう。

 

 ブリタニアが日本に侵略した戦争で白虎が挑んだ東京決戦。

 奴は少ない兵力で決戦を戦った。

 しかし奴は全兵力を用いて戦った訳ではなかった。

 俺が指揮する当時最先端の鹵獲したナイトメアを扱う部隊や疲弊したとはいえまだ力を残していた海軍。

 白虎は己の命を賭けて博打を大抵は打つが、大事な局面では保険をかけたがる。

 日本が敗れても芽を残すために残った海軍とナイトメア部隊を中華連邦へと逃がそうとしたように…。

 

 オデュッセウス皇帝を蓬莱島に連れていけなかった場合には、超合集国と神聖ブリタニア帝国との大戦になるのは必然。

 となれば日本の大半の戦力を失った超合集国で対抗できるかと言えば首を横に振るしかない。

 だから失敗しても日本海軍の主力艦隊とナイトメア部隊、優秀な人員を残そうとしているのだろう。

 全ては弟の枢木 スザクの為に…。

 

 藤堂はこの事をスザク、そしてカレンに告げずにいる。

 話せば必ず白虎の下へと駆けつけようとするのは目に見えている。

 それだけは絶対にさせれない。

 

 いや、後ろ向きだなこの考えは。

 白虎が簡単に失敗するとも思えないしな。

 

 

 

 

 

 

 第一艦隊旗艦三笠艦橋では枢木 白虎が忌々しそうに正面海域を睨む。

 作戦は犠牲を伴いながらも順調に進んでいた。

 ブリタニア本国からの追撃艦の妨害を行っていたステルス潜水艦白鯨型三隻は、意図を理解して最大限の戦果を出して沈んだ…。ほどほどで良いと言ったのに…おかげで第一艦隊は追撃艦隊の姿を見る事無く、予定以上に航行している。

 浮遊航空母艦鳳翔は作戦通りブリタニアの空母と航空戦力を引き付けてくれた。

 空を飛べて最短を進める鳳翔にオデュッセウスが乗っていた場合、追撃を失敗して逃げられれば二度と捉えることは出来ない。

 ゆえにブリタニア軍は鳳翔に向けて空母と航空戦力を集中して対応。

 空戦ナイトメアは第二艦隊に回したので数少ない戦闘ヘリと対空兵装で応戦したが、圧倒的なまでの数に成す統べなく海上に不時着させられた。

 乗っている可能性を考慮してエンジン部を狙っての攻撃を繰り返されたが、ブレイズルミナスでエンジン部は徹底して防御したので、そう簡単には落ちずにエナジー切れを起こすまで攻撃を集中され、切れるまでにかなりの時間を稼いでくれた。

 おかげでオデュッセウスを乗せた第一艦隊に鳳翔に向かった大規模な航空戦力と空母艦隊が追い付くことはなくなった。

 不時着した際には機密保持のために鳳翔は自爆。

 乗組員の多くを退艦させたと最後の報告を受けたが、ちゃんと国際法に則って捕虜として扱ってくれればいいのだが…。

 

 時間を稼いでくれた彼らに感謝の念を抱き、航行を続けていた第一艦隊だったが、ここでまさかのイレギュラーが発生したのだ。

 

 第一艦隊正面にブリタニア艦隊が展開している。

 誰かがこちらの意図を読んで待ち伏せしていたようだ。

 シュナイゼルをこちら側に引き込んだ今となってはそれほどの知将いるとは思えないのだが。

 

 「正面のブリタニア艦隊より通信が入っております」

 「モニターに」

 

 仙波を通して伝えられ、白虎は即座に返す。

 モニターの映像が変わり、とある人物が映し出された。

 その人物を見るや否や目を丸くして驚きを表情に出してしまった。

 

 『貴様でもそのような表情を浮かべるのだな』

 「そりゃあ驚くよ。まさかコー姉に先読みされるなんて」

 

 予想外ではあったが可能性が一番高い人物(キャラクター)

 懸念はしていたけどもまさか彼女が来るとは思いもしなかった。

 これは見逃した俺の落ち度か…。

 驚いた表情から余裕を持ったものへと変えたものの、嘲笑う様にコーネリアは笑う。

 

 『逆だ。貴様は捻くれているから逆に読めやすい』

 「読めやすいだって?」

 『枢木 白虎の名は囮として十分に役立つ。手薄で目立つ人物が乗った艦隊など囮に決まっている――――が、だからこそ一緒に乗せているのだろう?』

 

 一瞬の沈黙。

 正面からコーネリアが、横からは仙波が白虎の顔を伺う。

 英雄とまで呼ばれて今まで敗北は無し。

 神聖ブリタニア帝国にたった一人でありながらも脅威判定された人物が、解かり易いと馬鹿にされたのだ。

 当然ながら天才だろうが凡人であろうが馬鹿であろうが大事に抱く誇りや想いというものが存在する。

 仙波は危惧した。

 負け無しで英雄と呼ばれた人物が、策を読まれるという指揮官としての初めての敗北と挑発により乱れるのではないかと。

 コーネリアは楽し気に笑みを浮かべる。

 あのいつも太々しい笑みを浮かべた白虎がどのような反応を見せるのかと楽しみで仕方がない。

 対して白虎は俯いて肩を震わしていたが、急に顔を上げて笑い出した。

 

 「フッ、あははははははは。参った参った。まさか移動ルートとかでなく俺の性格で当てに(・・・)来るとは。いつからブリタニア皇女様はギャンブラーになったんだか」

 『今ならベガスで大当たりしそうだな』

 「なら今度スザクとユフィ連れて行ってみるか?誰が一番当たるかな――――面白そうだろは思わないかい?」

 

 戦闘がいつ開始されるか分からない状況下で笑い合う二人。

 しかし白虎は振り向いた先より現れた人物に今度はコーネリアが驚きの表情を浮かべる。 

 そう…白虎は捻くれている。

 ならばこういう手も予測していなければならない。

 

 「お姉さま…」

 『ユフィ…』

 

 奥よりユーフェミアがモニター前に歩み、コーネリアと対峙する。

 別にコーネリアが出てくることを予想して乗艦して貰った訳ではない。

 神聖ブリタニア帝国軍人であれば皇族と言うのは絶対的な象徴で自分達が忠誠を向けるべき対象。

 それが乗っているとすれば普通は手は出せない。

 日本国には公では三名のブリタニア皇族がいるが、過去にブリタニア皇帝に捨てられたクロヴィスでは効力は低く、ナナリーの場合は後でルルーシュに殺されそうなので(コードのおかげで死なないが)止めた。

 ……まぁ、ユフィの場合はスザクの回転蹴りを喰らわされるかも知れないが、その程度なら受けよう。

 

 「お願いですお姉さま。道を開けて下さい」

 

 モニターを見上げながらユーフェミアはコーネリアの瞳をしっかりと見つめ、しっかりとした口調で話し始める。

 ユーフェミアには連れてきた理由は“相手を説得して少しでも無暗な戦闘を避ける”と伝えており、ソレは彼女の望むところで応じてくれているので是が非でも交渉を成功させる気でいる。

 それが例え大切な姉であろうとも一歩も引かずに。

 

 『それは出来ない。出来る筈がないだろう』

 「それはお姉さまの意志ですか?それともブリタニア軍人としてですか?」

 『…両方だ』

 

 コーネリアの心情は透けて見えるようだ。

 ユーフェミアが出てきた事で非情に攻撃を仕掛ける事は出来ず、かといって見逃す訳にもいかないと意志と責任の板挟み。

 平常心を保っているようで眉や口元がぴくぴくと僅かながら動いている。

 

 『皇帝を誘拐しておいてそれを見逃す事は出来ない』

 「けれどオデュッセウス兄様は白虎さんの考えに同意し、自らの意志で超合集国の参加を決めたのです!悲惨な戦争の幕がようやく下り、これでようやく世界が平和になるのですよ」

 『それでも私は…ブリタニア軍人として』

 「でしたら私も討ちますか?帝国の敵として」

  

 凛とした態度でしっかりと瞳を見つめ力強い問うも、僅かに感情が出て手が震えている。

 不安や怯えなどの感情が彼女の心と感情の中で入り混じっている事だろう。

 なにせ今まで喧嘩どころか意見すらぶつけてこなかった少女がこんな大舞台で真っ向から対決しているのだ。

 震えるのも当然である。

 けれど心はブレる事無くコーネリアに真正面よりぶつけた。

 

 「私は一歩も引きません。お姉さまが立ちはだかるのだとしても一歩も下がりません!」

 

 ユーフェミアの想いの籠った一言にコーネリアがたじろぐ。

 心の底から白虎は驚いていた。

 世間知らずのお嬢さんだと思い込んでいた少女が、震える気持ちを拳を握り締め我慢し、真っ向から意見したのだ。

 義妹となるであろうユーフェミアの成長を喜ぶと同時に、少しでも手を緩めさせようと本人を騙して利用した事に若干良心に響く。

 予想ではシスコンのコーネリアの決断力を鈍らす程度だと思っていたが、これはどちらに転ぶか分からない。

 もしかすると戦わずに済む事も…。

 若干の期待を胸に様子を眺めていた白虎は突如鳴り響いた警報に舌打ちをする。

 

 「何事か?」

 「後方よりブリタニア艦隊!」

 「――ッ、しまった…時間をかけ過ぎたか」

 「元帥、このままでは挟撃されます」

 「解っている!」

 

 最悪の状況に白虎は考えを巡らす。

 持久戦は確実に不利過ぎて不可能。

 殲滅戦は数的に不可能。

 艦隊の一部を捨て駒にして後方艦隊の足止めをして、残りで正面のコーネリア艦隊を強行突破――――無理だ。挟撃されている状況でこの策は見破られている可能性が高く、コーネリアがそれを馬鹿正直に見逃すとは思えない。

 考えろ、考えろ、考えろ…。

 

 『…ブリタニアは帝国だ』

 

 必死に思考を働かせていた白虎にコーネリアのぽつりと漏らした声が届いた。

 戦闘がこれから起きるというのにモニターでコーネリアと繋いでいては作戦を指示したとしても駄々洩れである。

 映像を切れと命じる前に二言目を呟く。

 

 『帝国とはつまり皇帝が支配し、統治し、君臨する皇帝の命を第一とする国家だ』

 

 何か迷っていたように俯いていたコーネリアが勢いよく顔を上げた。

 その瞳には熱いナニカが宿っており、強い意志を感じ取って命令を口に出すことなく停止する。

 

 『オデュッセウス皇帝陛下の意思(・・)の下、これより我が艦隊は日本艦隊に協力・援護する!』

 「お姉さま…」

 

 コーネリアの決断に呆気にとられる白虎。

 モニターの映像ではコーネリアの発言に驚く兵士以外に苦笑いを浮かべつつ、理解を示したギルフォードとダールトンが映し出されていた。

 

 『負けたよユフィ。私はお前と戦いたくはないからな』

 「ありがとうございます。お姉さま」

 

 穏やかな表情のコーネリアに今にも泣きだしそうなユーフェミア。

 姉妹仲が良いというのは喜ばしい事だ。

 っと、見惚れている場合ではなかった。

 我々は(・・・)敵と相対しているのだから。

 

 「全艦に通達!180度回頭!金剛型に防衛陣形に就くように言え!」

 「宜しいのですかな?コーネリア艦隊に背後を見せる事になりますが?」

 「馬鹿言え。俺が知っているコーネリアがケツを掘って来る(背後からの騙し討ち)訳がない」

 『信頼されたのは分かったが、もう少し良い言い方は無かったのか?…まぁ、良い。兎も角貴様との決着はまたの機会にさせて貰う』

 「ここを切り抜けても地獄か。せめて鞭でなく飴が欲しかったよ…」

 

 二人の冗談めいた会話に周囲の兵士は戸惑う。

 しかしながら白虎やコーネリアを知っているユーフェミアや仙波はくすくすと笑う。

 なんとも言えない雰囲気を漂わせた白虎は大きく息を吐き出すと、真剣な表情で命令を飛ばす。 

 

 「これより第一艦隊はコーネリア艦隊と共に敵艦隊の進行を(・・・)阻止する」

 『全艦戦闘態勢!!』

 

 ブレイズルミナスを展開できる金剛型四隻が最前線に位置して艦隊を護る形をとる。

 続いて枢木艦隊とコーネリア艦隊が左右に分かれて隊列を組んで追撃艦隊に砲を向けた。

 追撃艦隊もこの様子に面食らったが、確認の連絡を入れる事無く攻撃準備を行っている事から、どうも予想はしていたらしい。

 その反応からモブではなく名有のキャラクター…それも皇族だろうと銃を向けれる人物が率いていると見た。それが誰だろうと負ける気は全くしないがな。

 

 「タンク(・・・)切り離し用意。まだ用意だぞ。酸素注入器も何時でも外せるようにしておけよ」

 「追撃してきたブリタニア艦隊より通信―――オデュッセウス皇帝陛下の身柄の引き渡し、今すぐ投降すれば命だけは助ける―――だそうですが…」

 

 通信兵からの言葉に白虎はモニターに映るコーネリアと目を合わし、二人してニカっと笑う。

 そして二人同時に口を開いた。

 

 「『馬鹿めと言ってやれ―――馬鹿めだ!』」 

 

 返信すると同時に両艦隊の戦闘の火蓋が切って落とされた。


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