日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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第37話 「白虎の最期」

 枢木 白虎が指揮を執る日本海軍第一艦隊は待ち伏せをしていたコーネリア艦隊と共闘し、ブリタニア本国より追撃してきた艦隊を相手に艦隊戦を開始。

 敵味方共に速度を重視したために空母系は無く、ブリタニア艦艇には積み込みが間に合わなかったポートマンなどの海中用ナイトメアフレームは存在しない。

 代わりに日本艦艇にも水上戦闘可能な無頼が一機もないのだが、そこは現時点では何ら問題ない。

 要は単純な艦隊による対艦戦闘。

 日本海軍第一艦隊は高速巡洋艦三笠を旗艦に艦隊護衛戦闘艦金剛型四隻、軽巡洋艦四隻に駆逐艦十二隻の合計二十一隻。

 コーネリア艦隊は巡洋艦七隻に駆逐艦十五隻の合計二十二隻。

 対するブリタニア追撃艦隊は戦艦一隻に巡洋艦十二隻、駆逐艦三十隻以上と白虎・コーネリア艦隊とほぼ同数。

 戦力差は等しく、航空戦力も海中戦力も気にせずに砲と誘導弾での戦いであるならば手立てはある。

 

 白虎・コーネリア艦隊は金剛型四隻を最前線に配置してブレイズルミナスで防御しつつ、後に続く日本・ブリタニア艦艇が攻撃を加える形で艦隊を動かしている。

 高速巡洋艦三笠は軽巡洋艦四隻と共に後方待機。

 現在艦隊旗艦は金剛へと移されて、輸送用のヘリで移動した白虎にユーフェミアは艦橋にて戦場を眺めている。

 

 「面倒くせぇ…」

 

 ポツリと白虎はやる気なさげに呟く。

 砲撃音響く戦場であっても、艦橋内は緊迫して足音一つ良く響く。

 当然ながら白虎のつぶやきもその場の全員の耳に届く。

 

 「いつもの奇策や奇襲をしないのか?それとも今日は時間が無くて何も用意出来ないか?」

 「厭味ったらしく囀んな」

 

 海戦が始まってから距離をとっての撃ち合いしかしていない白虎に、コーネリアは内心飽き飽きしながら見つめていた。

 共同戦線をとったのは良かったが、異なる指揮系統を持つ指揮官が二人となれば隊列は乱れる。

 そこで今後の参考とお手並み拝見という事でコーネリアが総指揮権を白虎に譲ったのだ。

 他にも日本艦隊所属の日本兵はブリタニアに敵意を持っており、命令で共闘はするものの下になる気はさらさらないものばかり。比べてコーネリア艦隊はコーネリアやダールトンを慕う部下達を艦隊に乗せた為に、コーネリアの判断であるならばそれに従う意思があるとの事で、指揮権を一つにまとめるならコーネリアが折れるしかなかったというのもある。

 兎も角、総指揮権を譲ってわざわざ金剛に移ったコーネリアとダールトンは教本通り…いや、以下の命令しか下さない白虎にガッカリしていた。

 

 「正面の敵艦隊よりも後方より舐める様な視線がウザったいって言ってんの」

 「人の目を気にするとは案外と照屋なんだな」

 「そうだよ。英雄軍師様は繊細なんだ。心はガラス細工並みなんだから」

 「あら?ブレイズルミナスよりも堅いと思っておりました」

 「……意外と言うねぇ」

 

 クツクツとユフィの発言に笑う白虎。

 逆にコーネリアとダールトンはあの純粋無垢で優しいユフィが普通に皮肉を言う様になった事を嘆く。

  

 「頃合いか…三笠に伝達。酸素供給を停止してタンクを切り離せ。同時にソナーキル発射。全艦にソナーキル使用を通達。耳を潰されんなよ」

 

 命令通りに三笠の下部に取り付いていたタンク(・・・)―――ステルス潜水艦白鯨型一番艦が海底へと潜る。

 その痕跡を隠すようにコーネリアとの初の海戦時に使用したソナーを一時的に無力化する魚雷“ソナーキル”が放たれ、海中を搔き乱す。

 白鯨型はブリタニア侵攻作戦にも使用された潜水艦で、ハワイ・ブリタニア駐屯地攻撃にも参加している。

 ブリタニアは詳細こそ知らないものの、存在は知られている潜水艦はオデュッセウスを運搬する作戦に適している事は明らかで、最も警戒されるべき艦だ。

 されどその白鯨型はブリタニアの追撃艦艇を足止めする際に沈められ、ブリタニア海軍は潜水艦による危機感を和らげているだろう。

 沈めた潜水艦は三隻で、ハワイで導入された潜水艦は四隻だというのに。

 単体で大海原を突破する手もあったが、万が一にでも対潜艦艇に捕まってしまえば沈められる可能性がある。

 そこで三笠の下部に接続させることで潜水艦特有の駆動音で特定されぬように距離を稼ぎ、敵に第一艦隊が見つかった際には艦隊を囮にして逃げるという手段を用意したのだ。

 これでオデュッセウスはシュナイゼルと共に蓬莱島に辿り着けることだろう。

 

 「全艦に陣形を維持したまま後退させろ。全速力でなくていい。相手との一定の距離を保つぐらいで良いからさ」

 

 背後の期待の眼差しを感じながらため息を漏らす。

 策はあるにはあるのだ。

 ただ相手がどんな連中であるかを知らなければ効果は薄いものばかり。

 他の手立てもあるがどれもこれも相手に寄りけり。

 さてどうしたものかと頭を悩ませる。

 

 「私が説得してみます」

 

 ユーフェミアの言葉に全員の視線が集まる。

 先のコーネリアに対しての演説は見事な物だったが、今度の相手は皇族の有無に関わらず砲撃してくる輩だ。

 中には困惑して輪を乱せる可能性はあるにはあるだろうが…。

 策はあるものの、きっかけがなかった白虎はユフィの案に閃いた。

 

 「いいや、俺が話を付けよう。通信回線を追撃してきたブリタニア艦隊に」

 「話し合いでどうにかなるものか」

 

 即座に否定してきたコーネリアに白虎は首を横に振る。

 

 「殺し殺されの戦場であるが、言葉で何とかなるならその方が良いさ」

 

 なんとも穏やかな笑みと含みのある言い方をする白虎にその場に居合わせた一同が顔を歪める。

 これは絶対何かをやる気だな…と。

 

 

 

 

 

 

 ブリタニア追撃艦隊旗艦を務める戦艦“ルーカン・キャメラン”の艦橋にて、対峙している日本艦艇群を見てアーニャ・アールストレイムはほくそ笑む。

 否…彼女はアーニャであるがアーニャではない。

 マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。

 ルルーシュとナナリーの母親でシャルルの皇妃の一人で計画を成そうとしていた同志。

 計画に支障が出るとV.V.に暗殺されたはずであるが、彼女は自身のギアス能力で何とか生き延びてきた。

 そのギアスとは自身が死ぬことで他者に意識を移せるもの。

 死ななければ発動しないデメリットを抱えておきながら、人払いを済ませた深夜の離宮内で都合良く居合わせた行儀見習いのアーニャに取り付いたのだ。

 意識を表層に移せば身体を操り、自由に行動が可能で今は己が復讐の為に動いている。

 動いていると言っても相手はフィールドに海を選び、こちらは追う側なのでそれに従うしかない。

 海である以上艦隊を組むしかない集団行動。

 これが陸戦であるならば一騎駆けでも行えたというのに。

 敵対行動を見せるコーネリアや通信から居ると判断されたユーフェミアの居る艦隊との撃ち合いを眺める。

 “何故コーネリアが敵に回ったのか”などと問うつもりは毛頭ない。

 敵になったのなら何であれ潰すだけ。

 

 「本当にナイトメアがないとつまらないわね…」

 「敵艦より通信来ました」

 

 ポツリと言葉を漏らすと通信兵が振り向きながら指示を求める。

 つまらなさそうにため息交じりに答える。

 

 「繋げなさい」

 

 指示に従って艦橋のモニターに一人の青年が映し出される。

 その顔には見覚えがあった。

 

 『私は艦隊の総指揮を執っている枢木 白虎だ。そちらの総指揮官と話がしたい』

 

 アレがシャルルを殺したという男ね。

 片目を吊り上げながら見つめていると、一瞬だが瞳が驚愕を示してから落ち着いて感心したように驚きの表情を見せる。

 

 『ほう、かの有名なナイトオブラウンズのアームストレイム卿が来られているとは…陸地でなかった事を喜ぶべきですかね』

 「そうね。ナイトメアが使えれれば貴方の首を私自ら落とせたのに。残念よ」

 

 くすくすと嗤いながら本音を口にすると肩を竦められた。

 意図を察しているのだろう。

 今までの経歴などは資料で程度知ってはいるが、こうやって会ってみると被って(・・・)いるようだ。

 妙な違和感が漂ってくる。

 ただそれを感じ取れている者は、私以外に居ないようだ。

 鼻で小さく笑い、白虎を見上げる。

 

 「通信の目的を伺っても?」

 『これ以上の攻撃はそちらの皇女様方の命が危険となる。それでも攻撃を続けるかを確認しようと思った次第』

 

 艦橋内の空気が騒めいた。

 待ち伏せしていたコーネリアは何故かこちらに対して敵対行動をとり、日本艦艇と共同戦線を敷いた。

 そう考えても裏切り行為。

 排除されても文句は言えないだろうが、彼女の生れを想うとブリタニア兵士は戸惑う。

 なにせ彼女はブリタニア人が敬う対象である皇族。

 しかも戦場で数々の武功を挙げたコーネリア・リ・ブリタニアとなれば余計に兵士は討っていいものかと悩んだ。

 今は命令して言う事を利かせて考えないようにしていただろうけども、こうも事実を突き付けられるとおもむろに兵に動揺が走るというもの。

 けれどそれは兵の話であって、マリアンヌを躊躇わせる理由にはなり得ない。

 

 「命乞いのつもりかしら。前皇帝を討ち取った罪人を見逃すとでもお思いで?」

 『結果、お二人のブリタニア皇族の命が失われると解っていても…ですか?』

 

 二人は瞳を見つめ合う。

 言葉に出さずとも攻撃を緩める気がない事を察したのか、白虎は大きくため息を零して俯いた。

 

 『人質にはなり得ない。そう言う事ですね。であるならば…』

 「少し待て!」

 

 間に割って入ったのはルーカン・キャメランの艦長であった。

 彼は最後まで皇女たちが居る艦隊への攻撃を渋っていた皇族に忠誠を誓っている人物。

 白虎に最後まで言わせてしまったら取り返しのつかない事になると思い、割って入って来たのだろう。

 正直邪魔であるが止める気もない。

 

 「コーネリア皇女殿下とユーフェミア皇女殿下を解放せよ。さすれば―――」

 『別に構いませんよ』

 

 艦長の言葉を最後まで言わすことなく、あっさりと答えられた。

 

 『と言ってもこちらから送って部下が捕縛されるのは嫌ですし、ブリタニア本国を裏切ったコーネリア皇女殿下の部下に贈らせる訳にもいかない。そこでそちらから迎えの船を出してくれるかな。両皇女殿下に加えて将軍と騎士殿も解放しようじゃないか』

 

 あまりにこちらに都合が良すぎる。

 皇女達を返して欲しい気持ちは本物だっただろうけど、こうもあっさり言われると逆に罠ではないかと疑ってしまう。

 疑いを精査するにも、派遣するにしても誰を送るべきか決めるにも時間が掛かる。

 誰も喋らずに沈黙が続くと白虎が首を捻った。

 

 『おや、どうしたブリキの兵隊共。まさか己の命惜しさに皇女殿下を助けに来られないなんて事ないよなぁ?』

 

 先と違って人を小馬鹿にした言い様に周りの目の色が変わった。

 明らかな挑発だ。

 奴はこちらを誘うつもりでいる。

 怒りが浮かぶ将兵は

 

 『それとも何か?人質が居て全力が出せませんでしたって逃げ口上があった方が都合良いのかなぁ?』

 「なんだと!?貴様ぁ…」

 「落ち着きなさい。相手のペースに乗る事は―――」

 

 抑えようと声を掛けるマリアンヌを嘲笑うかのように白虎は先よりも大きく、馬鹿にしていると言わんばかりの口調で言葉を続けた。

 

 『あれ?あれれ?もしかして―――図星だったかぁ?』

 

 …不味い。 

 そう思った矢先に聞こえる筈の無いナニカが切れたような音が聞こえた。

 続いて艦橋内だけでも耳を破くような怒号が飛び交う。

 

 「おのれええ!!皇帝を殺めた大罪人が!!」

 「舐めた事を!!」

 

 マリアンヌは忌々しくこの状況に舌打ちする。

 もはやラウンズの名だけで彼らを留める事は不可能だろう。

 ブリタニア軍人の多くがブリタニア皇族を称えている。

 無理やりにラウンズと言う地位を使って攻撃命令を下したが、内心は皇族が居るのに撃ちたくない気持ちでいっぱいだった。

 そこを刺激された上にシャルルを殺した白虎にあそこまで挑発されては我慢の限界というもの。

 自身だってナイトメアがあれば跳び出して行ったに違いない。

 しかし、ナイトメアがないために出来ないからこそ、冷静に事態を眺める事が出来る。

 確実に白虎は何かを仕掛ける気だ。

 この怒りを露わにした彼らを利用して。

 嫌な予感を感じつつ、マリアンヌは敵艦隊を睨む。

 

 

 

 

 

 「動いた!」

 

 追撃してきたブリタニア艦隊は正面に主力を置き、左右に分艦隊を動かした。

 正面より圧力を掛けつつ、左右より包囲する気なのだろう。

 その動きは殲滅戦と言うよりは包囲戦。

 彼ら残っていた忠誠心により、囚われている皇女殿下をお救いするという意思表示。

 真面目そうな青年を演じた直後に嬉々とした挑発…。

 周りから呆れた視線を受ける白虎は気にせずに獰猛な笑みを浮かべる。

 

 怒り任せに猪突猛進してくるようなら、中央突破させて背後をとってやろうかと思っていたが、包囲しようと数を分けたのなら“不敗”ではなく“金髪の孺子”の戦法でいけるではないか。しかも被害はそちらの方が少ないと良いこと尽くめだ。

 ユフィが言う様にまずは言葉による話し合いって大事だなぁ。

 本人にしてはその内容から不本意である。

 

 「全艦鋒矢陣形に移行!最大船速にて正面艦隊に突っ込む!」

 「正気か!?」

 「正気で戦争が出来っかよ!それにこんなの単純な数の計算だ!解かるだろうが!!」

 

 興奮気味に叫ぶ白虎の言う通りだった。

 敵は同数であったのに、二つの分艦隊を出したためにこちらとブリタニア中央艦隊の戦力差はこちら側に傾いた。

 金剛型が矢の先端を務め、白虎・コーネリア艦隊の全艦は指示通りに敵中央に向かって突っ込んでいく。

 まさか突っ込んでくるとは思わず速度を出して追ってきたブリタニア艦隊は、大慌てで回避行動に入って衝突事故を起こす。

 そこに砲弾や誘導弾が叩き込まれ、さらには面ではなく先端に沿う様に展開された金剛型のブレイズルミナスが進路上の艦を切り裂いて突き進む。

 突破する最中、金剛はルーカン・キャメランに掠めるように横切った。

 こちらを睨みつける桃色の少女に満面の笑みを浮かべて答えてやる。

 

 「亡霊がしがみ付いてんな」

 「何のことだ?」

 「いんや、こっちの話さ。後方の艦はスモーク散布。敵中央艦隊の目を潰し、我らは右翼の分艦隊を背後より攻撃す!!」

 

 原作知識からアーニャに巣くっている存在に頭を悩ませつつ、敵中突破した事で次の指示を飛ばす。

 これで中央艦隊は煙の中に閉じ込められて一時的にでも動きが鈍る。

 その隙にこちらは出来得る限り数を潰す。

 

 …だけどその前にやる事はやっておかないと。

 

 「仙波!ギル!制空権の強みを見せてやれ!!」

 『承知!』

 『了解しました』

 

 三笠の甲板上に布で覆う程度で隠していた月下が二機飛翔する。

 一騎は仙波専用の月下後期型で、もう一騎は白虎の月下先行試作型。

 本来なら白虎が乗るべきなのだろうけど、正直白虎のナイトメア操縦技術はギルフォードに比べて数段劣る。

 であるならばギルに任せた方が戦果は稼げるし、こちらは指揮に専念した方が効率的だ。

 月下の情報を抜かれる可能性もあるにはあるが、作戦が上手くいけばブリタニアとも超合集国で軍事纏めるからどうでも良いだろうし。

 飛び立った二機は水面ギリギリを飛行し、先行して敵右翼に攻撃を仕掛ける。

 注意が二機に向きつつあるところを背後より白虎・コーネリア艦隊が砲撃を集中させて、数を減らすと同時に敵の陣形を大きく乱した。

 

 「すげぇな。さすがコー姉の騎士だな。まるで蠅みてぇに飛び回って掠りもしねぇぞ」

 「…誉め言葉なのかソレは?」

 「え?どう聞いても誉め言葉だろ」

 「どう聞いても貶しているようにしか聞こえませんよ」

 「じゃあゴキb…」

 「絶対誉め言葉ではない」

 「あ…そう」

 

 凄く否定されたけどあんな変態機動を行う奴らを他にどういえば良いのさ。

 そんなどうでも良い事を考えていると、敵左翼が煙幕より抜けた中央艦隊と合流しようと動きを見せた。

 というかあんな短時間で煙幕を抜けるか?

 思いっきりが良いと褒めるしかない。

 さすが“閃光”…面倒この上ない。

 歳考えろよ精神体の悪霊め!

  

 「次は合流しようとしている中央と左翼を突っ切り、そのまま我らは蓬莱島に向かう。全艦足を止めるなよ!弾をケチるな!」

 「ついでに身軽になるしな」

 「そゆこと。コー姉ったら俺と以心伝心かな」

 「反吐が出そうだな」

 「うわぁお、辛辣な愛情表現かなぁ?かなぁ?」

 「今の会話を神楽耶に伝えてやろうか」

 「すみませんでした」

 

 全体へ指示を飛ばし、コーネリアと軽い会話をしつつ艦隊は先と同じく敵中突破を図る。

 このまま無事に(・・・)蓬莱島へいけると…。

 

 「レーダーに艦影多数……ブリタニア艦隊の増援です!」

 

 索敵班からの連絡に目を見開いくと、爆発音と同時に金剛が揺れた。

 倒れ込まないように手摺にしがみ付く。

 

 「被害報告!」

 「エンジン部付近に着弾!しかし航行に支障なし」

 

 舌打ちしながら何かを考え込む白虎。

 新手の艦隊は艦種から然程足が速いようには見えない。

 今追い付いたのだって追撃艦隊によって足止めされていたからだ。

 艦隊から逃げ切るのは簡単だが、積み込こんでいるポートマンからは逃れられないだろう。

 持続力は艦艇ほど無いが小型なだけに速度は出る。

 防御面で優れている金剛型と言えども海中内にブレイズルミナスを張るには、水に接触してエナジーが消費することを考えて膨大な量を用意しなければならず、現状ではそんな事が出来る訳も無いのでポートマンは天敵である。

 逃げ切れないか…。

 そう思うと考えを変える。

 艦隊…いや、この先を考えて重要な人材を逃がす。

 この艦隊には殿を行うのに最適な人材(・・・・・)が居り、敵の足止めをするには充分な目標(・・・・・)が居る。

 内心でニタリと嗤いながら、落ち着いた表情で呟いた。

 

 「ここまでだな」…と。

 

 

 

 

 

 

 「ここまでだな」

 

 ポツリと漏れた白虎の言葉にユーフェミアは

 小さな呟きが艦橋内に伝わり、驚愕の表情を向ける物もいたが、お姉さまを含めて何人かは納得したように頷いていた。

 

 「総員退艦。旗艦を比叡に移すぞ。撤退指揮はコー姉に任せた」

 「白虎さんはどうなさるのですか?」

 「俺か?金剛には敵の足止めの仕事が残っていてな。自動航行で敵艦隊に突っ込ませるんでプログラム組まないかんのよ」

 「私も残っても宜しいでしょうか」

 「おいおい、残ったって――」

 

 解っています。

 私には指揮能力もナイトメア操縦技術もプログラムする知識もない。

 だけどここには誰かが残らなければならない。

 

 ――そうしなければ彼が何処かに行ってしまいそう…そんな気がしたから…。

 

 「我侭姫め。良かったな金剛。ヴァルハラに行く前に美少女を乗せられてよ」

 「金剛は日本生れの艦だろう。なのにヴァルハラはおかしくないか?」

 「可笑しくねぇよ。金剛と言えば改造巫女服を着た英国産まれって決まってんだ――――ってそうじゃねぇよ!輸送用のヘリがあるからお前さんはそれで行け」

 「ユフィが残るのに私に先に行けと?」

 「ったりめぇだボケ!先に行かないと指揮取れねぇだろうが!ユフィはギルに送ってもらう。それで良いだろう!?」

 

 少し躊躇う素振りを見せるコーネリアは小さく微笑、ユーフェミアに近づくとそっと頬を撫でた。

 

 「先に行く。すぐに来るんだぞ」

 「はい、お姉さま」

 

 艦橋よりダールトンを連れて退席し、同様に艦橋に詰めていた兵士達が次々に出ていく。

 その中で一人パネルを操作する白虎と、それをただ眺めるユーフェミア。 

 後部ハッチより輸送用のヘリが飛び立ち、護衛するように仙波の月下が付き、小さく手を振るって見送る。

 

 「意外に勘良いよね」

 

 操作しながら小さく言葉が投げかけられ、その言葉に俯きながら少し怒りを覚える。 

 まるで自分の命を勘定に入れてないと言わんばかり。

 その結果、どうなるかは解っている筈なのに…。

 

 「やはりそのつもりだったのですね…。駄目ですよ。そんな事をしたらスザクが……」

 「悲しむだろうねぇ。けど死なないし死ねないから問題ないでしょう」

 「それは一体どういう?」

 「良し。自爆システムも準備OKだ。さっさとずらかるぞ。迎えも来てるしな」

 

 発言に疑問を浮かべるも誤魔化すように笑っている事からこれ以上聞き出すのは難しいだろう。

 艦橋を覗き込むようにギルフォードが操る月下が待機しており、白虎の動きに合わせて艦橋に取り付けてあるハッチに近づく。

 重そうなハンドルを回し、ギギギ…と思い金属の擦れる音と共にハッチが開き、風が勢いよく入り込む。

 前まで来ていたユーフェミアは一瞬だけど目を瞑り、開くと片手をハッチ前に出して渡れるようにしている月下がそこに居た。

 

 「白虎さんも―――えっ?」

 

 ――脱出しましょうと言い切る前に振り返ったユーフェミアは宙へと押し出された。

 どうしてと戸惑いの表情を向ける先には、小さく手を振りながらにこっと笑う白虎。

 押されるままに月下の掌に倒れ込むと、すぐにガバっと立ち上がって戻ろうとするが、艦橋の扉は閉じて金剛は進路を変更し始める。

  

 『ユーフェミア様!お怪我は―――』

 「私は良いのです。それより金剛に通信を」

 

 ギルフォードの心配を他所に、コクピットに移ったユーフェミアは無線機を手に取る。

 

 「聞こえますか白虎さん!」

 『おう、聞こえてるぜい』

 「総員退艦ではないのですか!?」

 『そうだ。俺を除いて(・・・・・)総員退艦なんだ。これより金剛は単独行動に入る。ギルは脱出したユフィを護って比叡に向かえ』

 

 駄目だ…。

 あの人は一人で行く気だ。

 私達を…スザクや神楽耶さんを残して行ってしまう気だ。

 護るべき者を護ろうと残される者の事など考えずに…。

 このまま行かせては駄目だと思うユーフェミアに反してギルフォードは金剛より離れ、比叡へと移動を開始する。 

 

 「戻って下さい!まだ白虎さんが――」

 「これ以上は無理です!」

 

 そう言い放つと同時に輻射波動を使って飛んできた砲弾を防ぐ。

 金剛が引き返す事に敵艦隊が追撃から迎撃に変え、近くを飛行していた月下にも副砲群や機銃などで迎撃を開始したのだ。

 ギルフォードもユーフェミアを乗せてなければ付いて行くことは可能だが、乗せているからには無茶をする事は出来ない。

 理解したユーフェミアは俯き、目を見開いて顔を上げる。

 決して目を離してはいけない。

 浮かび始めた涙を拭い、金剛が映るモニターを見つめる。

 

 突撃時と同じく面ではなく船体を覆う様にブレイズルミナスを展開し、追撃艦隊の戦艦に向かって突き進んでいく。

 金剛型はブレイズルミナスを展開する事で非情に高い防御力を持っているが、全体を覆う程の能力は無いので隙間が存在する。

 狙った訳ではないだろうが絶え間なく降り注ぐ砲弾がその隙間を塗って直撃し、船体で爆発が起きて幾つもの黒煙が立ち上がる。それだけでなく撤退し始めた白虎・コーネリア艦隊に向かっていたポートマン隊が引き返し、魚雷攻撃を開始して水柱が立つ。

 

 本当にいやらしい事を平気でする。

 前皇帝を殺害し、現皇帝を誘拐し、皇女三名と皇子一人を味方につけ、ラウンズ二人を葬り、余剰戦力どころか足りない程ブリタニアに戦線を抱えさせた張本人が狙うはラウンズの一人であるアーニャが乗艦するルーカン・キャメラン。

 ラウンズの戦闘能力は個々で大きく変わるが、それでも一個師団以上の力を有している化け物。

 軍事力・政治ともに疲弊しきっているブリタニアにとってこれ以上ラウンズの消失は避けたい所。

 白虎の企みを阻止すべく艦艇やポートマンが急速に集まり、結果は魚雷も砲撃も友軍と被って攻撃が緩む事となる。。

 

 あれだけの砲撃と魚雷を浴びても金剛はまだ沈んでいない。

 黒煙を挙げようとも、砲を潰されようとも、エンジン部からは限界を超えて火を噴き出しても未だ“健在”なのだ。

 もはや止める事は出来ないと判断したブリタニアの戦艦は回避行動に移る。

 …が、それをするには遅すぎた。

 

 『遅いわい。バァカ』

 

 相手を馬鹿にしたような白虎の言葉が無線機より流れ、金剛の船体がブリタニアの戦艦に突き刺さる。

 巨大な戦艦同士の衝突に海は荒れ、近くにまで迫っていたポートマンは波に巻き込まれる。

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