ステルス潜水艦白鯨型一番艦と囮としてブリタニアの追撃艦隊と戦った日本・コーネリア連合艦隊の活躍により、神聖ブリタニア帝国オデュッセウス・ウ・ブリタニア皇帝は蓬莱島に無事到着し、超合集国への参加を表明した。
超合集国に参加したからには軍事力を放棄し、議会の承認により動ける戦闘集団“黒の騎士団”と契約を交わす。
これにより世界の脅威として見られつつあった超軍事大国ブリタニアは世界各国と共存の道を選ぶことになる。
無論反発もあるだろう。
私兵を抱える貴族の中には武力を持って反旗を翻す者だって出て来る。が、そこは黒の騎士団入りしたブリタニア正規軍が内乱鎮圧の口実で排除することになっている。
それもシュナイゼルを指揮官に据えたラウンズを主力とする部隊によって…。
ブリタニアの内乱はブリタニア自身に決着を付けさせ、黒の騎士団主力はユーロ・ブリタニア討伐の準備を着々と始めている。
中でも中核を担うのは超合集国の発案国で、ブリタニアと幾度と渡り合った日本国。
海軍力を著しく減少したものの、性能は世界トップクラス。
現在日本国には黒の騎士団の艦艇が集まり、大和を旗艦に大上陸作戦を敢行すべく艦隊を組みつつあった。
ユーロ・ブリタニアにとっては不運だが、世界は確実に戦争を終結させて平和への道へと向かいつつある。
当の日本国は沸いていた。
なにせ侵略戦争に抗い、数年の時を経てブリタニアと条約を結ぼうとしたらいきなりの首相一団が殺害され、ブリタニア皇帝を殺害し戦闘へ発展。
戦闘を生き残り帰国した枢木 白虎は記者会見で国民に説明する間もなく、軍事クーデターにて現政権を奪取、中華連邦へと宣戦布告し軍を派遣し、数日と言う短期間で大国中華連邦政権をひっくり返し、新政権と同盟を結んだ。
そして超合集国の設立と発表、ブリタニア本土よりブリタニア皇帝を誘拐する為にブリタニアと交戦状態に突入した。
慌ただしい渦中に巻き込まれた日本国民にとっては気が気ではない時期であったろう。
何が何やら解らず、理解した頃にはすべてが上手くいっていた。
今までの反動もあって馬鹿騒ぎ真っただ中へと突入してしまっている。
ただ良く先が見えている者には今の状態が長続きする事は無いと不安が高まっている。
この世界において日本は全てを白虎中心に動いていた。
力を持つ陸海空すべての軍部に諜報機関、物流や政治にまで多大な影響を与えていた枢木 白虎はブリタニアの追撃艦隊との戦闘にて行方不明…否、金剛と共に沈み、戦死した事となっている。
白虎はこの戦いが終わった後には支援して政権をくれてやると約束されていた政治家達は大慌て。
軍部は頼れる英雄を失った事で自らいきなり自らの考えで歩まなければならなくなった。
連日日本で流されるニュースには枢木 白虎戦死関連のものが大半を占めていた。
「日本じゃなくて“世界の英雄”だってよ。ユーロピアやアフリカ系からしたら誰だよって言われそうだがな」
「仕方ない。やって来たことが世界を巻き込み、それだけ評価される事を仕出かしたのだから」
「仕出かした…か。間違ってねぇな」
道行く人々が不信な視線を向ける中、不審者が堂々と歩道を進んでいく。
赤のネクタイに黒のベスト、白の上着に黒のつばが前下がりのチロリアンハット、さらに顔の上半分を隠している狐面を被っている男性―――枢木 白虎。
白虎が押している台車にて拘束着を着ながらも不満そうな表情は一切見せないアーニャ・アールストレイム。
日本から世界に昇格した英雄とブリタニア最強の十二騎士の一人が共に行動しているのはお互いの利害が一致したからに他ならない。
ブリタニア追撃艦隊旗艦を務めていた戦艦ルーカン・キャメランに、金剛で突撃をして火災や爆発に巻き込まれた白虎は
そもそも不死のコードを持っているので死ぬことは出来ない。
地位があり、恨みを抱かれ、不死者。
まさに囮として最高の人員であったろう。
兎も角、突っ込んだ白虎は敵艦に一人突っ込んだ。
死んでいれば良し、生きていれば災厄のタネにしかならないマリアンヌを排除する為に。
さすがにしぶとく生きていたさ。
体格差に加えて不死という特性上白兵戦なら分があり、どのようにでも殺せた。
なので一番簡単な方法をとった。
コードギアスのアニメ一期にてC.C.はスザクに間接接触で錯乱させる事が出来た。
だったら直接ショックイメージを叩き込んで精神を殺してやれば良い。
いくら撃たれようが、斬られようが、嬲られようが足を止めずに腕を掴んだ。
ここで一つの奇跡が起きた。
いや、理解していれば必然。
ただ運が良かっただけかも知れないが、表に出ていたマリアンヌは精神体であってアーニャではない。マリアンヌの精神が死んだことでアーニャが意識を取り戻したのだ。
記憶が無くなる事に困り果てていたアーニャに、マリアンヌがまた出てくる可能性を無視できない白虎。
完全に治せる方法を知っているので方法確立するまで隔離との話をして今に至る。
「で、何処に行くの」
「俺が俺で居られる仕事場」
「黒の騎士団?超合集国議会?」
「阿呆が。あんなところ行ってみろ。世界の英雄なんて糞いらない地位と名誉押し付けられんだぞ」
「栄誉だと思う」
「いるかよんなもん。飯食いに行くのも一苦労だぞ」
ため息を吐き出す。
こいつは知らねぇだろうけど俺はスザクに辛い思いさせない為にブリタニアとの喧嘩を買ったんだ。
もうエリア11と呼ばれる事は無い。
ならば俺の役割は終わりだ。
死んだことになってんなら都合がよく、このままバックレさせてもらおう。
とはいえ完全に今までの関係を無くすわけではない。
世界の英雄と謳われる枢木 白虎が死んだだけで、まだ俺自身は生きてんだから。
「俺は龍黒 虚だ。なら向かう先は龍黒技術研究所に決まってる」
「龍黒技術研究所?」
「そうそう、世界屈指の技術力が詰まった日本軍の支柱であり、これからは俺の財布だ」
「大人って汚い」
「おぉ、それを知れただけいい勉強になったな」
呆れた視線を受けながら白虎は大声を上げて笑う。
重責…否、英雄と言う重荷を取っ払えて身軽になって気が楽になった事と、見た目から何度も職質を受けて飽き飽きしていたところに
…というか公衆電話で一方的に迎えに来てくれってだけで良く場所が分かったな。
あいつの情報網どうなってんだか…。
皇 神楽耶は喜びとも怒りとも取れるなんとも言えない笑顔を浮かべて死んだはずの人間を見つめていた。
金剛と共に沈み、連日新聞の欄を埋めている人物。
「生きていたんですね」
咲世子に呼ばれて忙しい職務の合間を縫って訪れれば、咲世子とロロを近場に待機させ、何気なくカップ麺を啜っている枢木 白虎がいた。
それもアーニャというお土産付きで…。
死んだと思ってからは感情が抜け落ち、悲しむどころか涙の一滴も流す事は出来なかった。
感情が死ぬとはこういう事かと思っていた所に生きている彼を見て安堵すると同時に、やっぱり生きていましたかと妙に納得して泣くに泣けなくなってしまった。
「幽霊に見えっか?ジオングみたく足無しじゃないだろ……あー、でもあれって結局機動力が上がる事が解って脚つけたっけか?」
人の気持ちを知らずに相も変わらず意味の通じない話。
クスリと笑みが漏れる。
「また分からない話を……でもらしいですわ」
「らしいか。らしいと言えばこうやって向き合うのって俺ららしくなくね」
言われて確かにと頷き、スタスタと白虎へと寄る。
白虎はソファの真ん中に構えているので左右が空いているが、そこには座らずに白虎の膝の上に腰かけて、首へと手を回す。
背を支えるように白虎が抱き、お互いにお互いを感じながら小さく息を漏らす。
こうやって触れ合い、感じあえる。
安心感を抱きながら笑みを零す。
「貴方が生きていたと知れば大騒ぎですわね。黒の騎士団も喜ぶでしょう」
「あー、その話なんだが…」
「解ってます。どうせ面倒だなんて思って表に枢木 白虎として出る気はないのでしょう」
「話が早くて助かる」
「早いついでに私に話を通さずに死んだふりするなんて酷くないですか?」
にっこりと笑うと何故か青ざめた表情を浮かべられた。
どうしてでしょう?
私がこんなに愛らしい笑みを浮かべているというのに。
咲世子は変わらず、C.C.はニマニマと笑みを浮かべ、ロロとアーニャはそっと距離を置いた。
「悪い。言い忘れてた」
「咲世子さんから聞きました。咲世子さんやC.C.さんはまだ良いとしてもナナリーまでも知っていたらしいではないですか?なのに私には言い忘れたと」
「いや、本当にすまん。ってか俺、不老不死になりましたなんて信じるか?」
「他の誰かなら信じませんが白虎が相手なら半々で」
「ま、荒唐無稽の夢物語だと思われるのが50%でも信じて貰えるなら言えばよかったな」
鼻で嗤いながらそう言った白虎の頬を抓る。
ムニムニと引っ張たり押し潰す足りを繰り返す。
非難や抵抗はしなかったが視線でどうしたと訴えかけて来る。
「もう勝手にいなくなったりしないで下さいね」
「あぁ、今度居なくなる時は事前に書類にまとめて提出するさ」
「一緒にとは言ってくれないんですの?」
「時と場合による」
「どんな時でも」
強めに言うと苦笑いを浮かべながら分かったと大きく頷いた。
二度目は生きていると解かるだろうけど、それでも離れ離れになるのは嫌だ。
もしも今度こそ表より姿を消すのなら二人でひっそりと穏やかに暮らしたいものである。
一応返事を受けた神楽耶は気持ちを切り替える。
なにせ超合集国評議会議長として多々の案件を抱えているのだから、手早くそれらを処理する必要があるのだ。
「龍黒 虚と名乗るのであれば技術研究所所長として、それと私の相談役として働いてもらいますわ」
「神楽耶の相談役って。超合集国評議会議長閣下の相談役って事だろ」
「世界の英雄より私の相談役の方が魅力的ではなくて?」
「ちげぇねぇや」
「それで今後のプランは?」
「早速死者を馬車馬並みに働かそうって。ぶら下げられる人参に期待しても?」
「勿論ですわ。とっておきのご褒美用意しておりますので」
悪い顔で嗤う。
またろくでもない事をするのでしょう。
自分と私やスザクなど親しい人間に都合がよく、他はどうでもいい斬り捨てるように幸福を搔き集めて災難をばら撒くのでしょう。
解ってます。
判ってますとも。
でも私は止めないどころか彼の行いを推奨します。
結果的にそれが上手く回るのだから。
私も親しい者達も皆が同意見でしょう。
何故なら誰も彼もが良い意味でも悪い意味でも彼に染まってしまっている。
馬鹿馬鹿しくもどうしようもない彼色に。
私も嗤う。
彼と歩むこの世界の上で…。