日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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第03話 「狩られる者と狩る者」

 神聖ブリタニア帝国の日本侵攻が始まって一週間。

 ブリタニアの日本侵攻は予定が狂いに狂って当初予定していた作戦のほとんどが実施不可能に追い込まれていた。

 

 中部地方新潟県上陸部隊。

 石川県に上陸した部隊と呼応して日本海沿岸部側より中部地方内陸部へと侵攻することを想定された部隊。最終的には関東地方と東北地方に上陸した部隊と連携し東日本を制圧する役目もあったが今となっては夢物語となっていた。

 なにせ関東地方上陸部隊は壊滅し、東北地方へ上陸する部隊の内、岩手県上陸部隊は半壊させられて、無事上陸出来た青森県上陸部隊と無理をして合流。結果、上陸出来た岩手県上陸部隊の無理やりな防衛線突破はさらに戦力を失う事となるばかりか、青森県付近の日本軍守備隊の大半により囲まれることになってしまった。

 ほかにも九州地方制圧の任務を授かっていた大規模な上陸部隊と連絡が取れなかったりとか、補給面の不安など問題が蓄積している。特に石川県上陸部隊が半壊して海上で撤退を開始したのは新潟県上陸部隊にとって一番の痛手である。

 

 連携を取るべき友軍を失った事で正直孤立状態に陥ってしまった。

 この事を機に侵攻作戦を諦めて新潟県制圧に方針を変えて、制圧作戦を実行。

 ナイトメアフレームの力をもってすれば一夜にして主力の防衛隊を打ち破るのは容易かった。後は各個撃破するか、県外に追い立てるか。どちらにしても時間をあまり掛けられるものではなかった。

 

 群馬県と新潟県の県境に最も近い街ではブリタニア軍が警戒態勢を強めていた。

 何とか新潟県をブリタニア勢力圏にすることは叶ったが、県境はすべて日本軍が展開しており、いつ攻撃してきてもおかしくない。

 簡単にだが制圧に掛かった日数は四日。それから三日も動きを見せないことから新潟県上陸部隊上層部は日本軍が周囲を取り囲んでの兵糧攻めを実行していると推測している。確かに補給物資を得るには難しい事を考えれば兵糧攻めは被害の少ない敵への攻撃方法だろう。

 しかしながらそれは悪手でしかない。

 なにせブリタニア軍は日本周辺の海上を制している。防衛艦隊を蹴散らしての上陸で日本軍艦隊は無くなった。時間さえあれば海上からの輸送が来るだろうし、海上・航空支援を受ける事は間違いない。さらに被害を受けたのが本国ならば兎も角、他国に侵攻しに来た侵攻軍。余力のある本国から第二次上陸部隊が差し向けられるのは考えるに易い。

 時間が経てば経つほど有利なのだ。

 ゆえに県境に配置された部隊は警戒を強める。

 …とは言いつつもナイトメアフレーム三機で戦車中隊を壊滅させられるだけの性能差があるのだ。奇襲にだけ気を付けておけば後は楽なものである。

 

 周囲の警戒には索敵能力を有するナイトメアフレームと双眼鏡などで遠くを確認できる歩兵部隊で行っていた。

 ウェスカーと名付けられたナイトメアフレーム小隊も警戒任務に当たっていた。

 

 しかし索敵能力が高いからと言って搭乗者からしてみれば長い間乗っていたい物ではない。

 なにせ第四世代ナイトメアフレーム【グラスゴー】の居住性は最悪なのだ。人が一人入れるだけのコクピットは熱を発する電子機器に囲まれており、排気口なども不十分で熱がこもり易いのだ。

 まるでサウナの中に居るような熱気。ただ外に出たら出たで、多くのブリタニア人がじっとりとした湿気の多い体験したことのない暑さに苛まれることになるのでどちらがマシかと問われれば首を捻ってしまう。

 

 『ウェスカー01よりCPへ。定時連絡1400、異常なし』

 『こちらCP、ウェスカー01了k――待て。CPよりウェスカー01へ。ポイントD4にてウロボロス隊が敵対勢力を確認。応援に向かわれたし』

 『ウェスカー01、ウロボロス隊の援護に向かう』

 

 ウェスカー隊の隊長であるウェスカー01が命令を受け、移動を開始する。

 ナイトメアの機動力を駆使すれば現場には5分と掛からず到着し、ウロボロス隊が交戦を行う前に合流することが出来た。

 すでにムコノ隊にエクセラ隊も合流して、ナイトメア一個中隊もの戦力が日本軍と睨み合う事になった。

 

 モニターに映し出されるのは時速40キロで接近してくる戦車らしき部隊。

 らしきと不確定なのは戦車のキャタピラは見えるのだが砲塔などはシートを掛けて覆っているのだ。規模としては戦車一個中隊。戦車一個小隊が三、四両で、一個中隊は三個、または四個小隊と中隊長車で形成される。向かってきている戦車の数は十七両。四両の四個小隊での一個中隊だ。それとその後方より三輪バイク、装甲兵員輸送車、装甲車が見受けられた。

 

 『CPよりウロボロスへ。状況知らせ』

 『ウロボロス01よりCPへ。敵は日本軍機械化装甲部隊と断定。攻撃許可を求む』

 『こちらCPよりポイントD4に展開中の部隊に告ぐ。敵対勢力への任意での発砲を許可する。市街地に紛れ込まれると厄介だ。市街地に接近する前に排除せよ』

 

 コマンドポストより攻撃命令が下ったことで各ナイトメア隊搭乗者はほくそ笑む。

 コクピット内の暑さと溜まった鬱憤を晴らせる機会がようやく来たのだ。彼らはウサギを狩る心持で向かってくる機械化装甲部隊に突っ込んで行く。

 ナイトメア本来の使い方は機動力を活かした機動戦。相手のバイク集団が気になるところだが、先頭の戦車中隊はナイトメアの敵ではない。戦車の砲撃は一発でナイトメアを屠れるが、立ち尽くしているなら兎も角、機動力を活かしているナイトメアに当てるのは至難の業だ。

 

 

 

 ―――――だからこそか…そこまでしか考えが至らなかった彼らは敗北する事となる。

 

 

 

 シートに小さな光が点滅したと思った瞬間、真っ先に突っ込んだウロボロス隊が溶けた。

 溶けたというのは誤りだが、実際それに近い。

 十七両の装甲戦闘車両より注がれた集中砲火により見る見るうちに装甲が削られ、貫かれ、弾き飛ばされ、上半身が数秒で弾け飛ばされたのだ。

 

 装甲戦闘車両の集中砲火はその反動でシートを蜂の巣にして上部より吹き飛ばした。

 戦車と思われていた装甲戦闘車両上部には砲塔は存在せず、銃身長1500mmの30mm機関砲二門が姿を現した。

 

 想定してもいなかった装甲戦闘車両に驚き、足が止まる。中には方向転換を行い距離を取ろうとするグラスゴーも居たが手遅れだ。

 グラスゴーは機体の中心を軸としてその場で方向転換する超信地旋回する性能を持っていなかった。だから急に方向転換しようとすれば円弧を描くように動くしかない。いち早く気付いたウェスカー隊やエクセラ隊は旋回ではなく後退することで射程から逃れようとする。

 毎分1500発もの30mm口径徹甲弾が足を止めたり、旋回しているグラスゴーを容赦なく撃ち抜いて行く。

 

 ウェスカー01はウェスカー02、ウェスカー03が無事なのを確認しながら後退し、市街地外縁部の建物の陰に隠れた。

 近くにはエクセラ隊のグラスゴーも後退してきたが数は二機となり、一機をさっきの攻撃で失ったようだ。

 

 『CP、CP!こちらウェスカー01。敵は対ナイトメア戦を想定した機械化装甲部隊だ。ナイトメア隊の半数が溶けた!』

 『こちらCP。不明瞭な状況報告は止めよ。被害報告を』

 『ウェスカー隊は無事だがウロボロス隊とムコノ隊が全滅。エクセラ隊は一機を撃破された』

 『了解した。増援を送る。持ち堪えろ』

 『……了解しました』

 

 ポイントD4の防衛線には戦車・装甲車が十二両。歩兵が二個小隊居り、そこに増援であるナイトメア二個小隊と戦車一個小隊が加われば日本軍は易々と攻めてはこないだろう。向こうには遮蔽物はなく、こちらは遮蔽物を盾に出来るのだから。

 

 駆け付けた戦車部隊とグラスゴー隊が配置に付こうとしていると足を止めた日本軍装甲戦闘車両は左右の履帯をカバーする装甲に取り付けられた小型の四つの発射筒よりグレネードらしきものを発射した。

 斜め上へと発射されたグレネード弾は空中で破裂して周囲に煙を撒き散らした。

 スモークグレネードにより完全に目標を見失った為に数機のグラスゴーが情報収集を行おうと頭部のファクトスフィアを開く。

 

 それを狙っていたかのように煙で覆われていた所より何かが打ち上げられた。

 大きさ的には30cmほどの円柱型の物体。遠くに放てるように後部に発射筒を取り付けてあったのか、放たれた物体は外縁部上空まで届いた。

 

 『―――ッ!?全機退避!!』

 

 それが何かは理解しえなかった。ただ、こちらが迂闊だったとは言えナイトメアを七機も初手で撃破した相手の行動に対して、ただただ危険を感じたのだ。

 ウェスカー01の直感は大当たりであった。

 

 上空まで差し掛かった円柱型の物体は中央をスライドさせて、露出させた無数の穴より弾丸のようなものを一定の範囲内に撃ち込んだ。それは貫通能力の高い弾が使用されていたのだろう。歩兵は勿論の事ながら装甲車も戦車もグラスゴーも貫いていた。

 

 ウェスカー01の言葉に反応できた者は少なく、さらに円柱型の被害から脱した者となると極僅かだった。中には範囲に入っておらずに難を脱した者も居た。

 が、この悲惨な状況を受けた部隊に立て直しの時間を日本軍は与えない。寧ろ次の行動へと移っていた。

 

 煙を突き抜けて飛び出したのは装甲戦闘車両砲門の左右に二つずつ取り付けられた対戦車ミサイル。

 容赦無しに外縁部に直撃して、建造物や味方に損害を与えてくる。

 続いて三輪バイク集団に重機関銃を上部に取り付けた装甲車、装甲兵員輸送車が突っ込んでくる。そして左右に展開した17両の装甲戦闘車両が銃撃しながら突入の援護をしている。

 

 すでにポイントD4の防衛隊は崩壊している。

 立て直す時間も反撃に出る余裕もない。

 

 『……撤…退…撤退だ…撤退しろ!!』

 

 生き残ったエクセラ01が一目散に市街地内部へと撤退を開始したのを皮切りに生き残った部隊は散り散りに撤退を開始し始めた。

 その場で留まるのは自殺行為と判断したウェスカー01もそれに続く。

 

 先ほどまで守っていたところを三輪バイクが突破し、グラスゴー目掛けて突っ込んでくる。

 逃げ惑う歩兵部隊の中には応戦する者も居たが、三輪バイクの荷台の銃座に取り付けられた軽機関銃で応戦されて蜂の巣にされた。返り討ちにする者も居たが機動力に照準が追い付かず、やられる者が大半だ。

 それに三輪バイクは逃げ惑う歩兵は無視して応戦する歩兵、もしくはグラスゴーを優先的に狙っている。

 ウェスカー01にも数台の三輪バイクが追って来た。

 アサルトライフルを構えて容赦なく発砲するが、向こうは市街地の配置を把握しているのか銃口が向けられるとビルの間に入り、いつの間にか別の場所から飛び出してくる。

 そんな敵から逃れようとウェスカー02がスラッシュハーケンを高層ビル中腹に撃ち込んでクライミングを開始しようとした。

 

 『登るんじゃない!!』

 

 スラッシュハーケンで上に逃げれば確かに三輪バイクの脅威からは脱せられる。しかし、登る前にはハーケンを撃ち込むために足を止める。動きながら撃ち込んだとしてもハーケンと機体を繋ぐワイヤーから移動の方向がばれてそこを狙われる可能性が高い。

 想像した通り、クライミング中を狙われてコクピットに複数の風穴が開けられて刺さった個所まで登ったウェスカー02はピクリとも動かなくなった。

 暑さと死に直面している事からパニックを起こしそうになるが必死に抑える。

 

 隣を走行していたウェスカー03のコクピットが三輪バイクの軽機関銃で撃たれて、穴が開いて搭乗者が戦死した。

 ここでウェスカー01は後ろを向けている危険性に気付いた。

 ナイトメアは装甲車と同じ素材を用いた装甲に覆われている。覆われているが高い機動力を得る為の軽量化とサイズの問題から戦車程装甲は厚くないのだ。特にコクピットの装甲はボディに比べれば格段に薄い。

 

 グラスゴーの腰辺りに銃撃を受けている衝撃を感じ取り、背筋が凍り付く。

 このままでは自分も02、03のように死ぬ…。

 

 そう思ったウェスカー01は身体が反応して脱出機能を作動させるレバーを力いっぱい引いていた。

 搭乗者を護るためのコクピット脱出機能。胴体からロックが外されたコクピットが後方へと射出される。落下の衝撃を無くすために内部にはエアバック、外部にはパラシュートが展開されるようになっている。

 が、ここは市街地で後方も確認する間もなく脱出機能を使った為に後方にあったビルの一室に突入する形となってしまった。

 

 一室に入り込んで出れなくなったウェスカー01が救助されたのは、防衛部隊を打ち破られた戦闘終了後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ~…」

 

 白虎は大きなため息を漏らし、気怠そうに辺りを見渡す。

 太陽の強い日差しの中、仮司令部としての野営用のテントの周りを多くの軍人が働き続けている。

 超が付くほどの軍事大国に物量の差を付けられて侵攻されているというのに、悲壮感を纏った者はひとりも居らずに皆がやる気に満ちた瞳をしていた。

 

 「皆忙しそうだなぁ…」

 「当たり前と言えば当たり前だろう」

 「だよねぇ…はぁ~…」

 

 否、一人だけ悲壮感を漂わしていた人物がいた。

 茨木・福島からルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを連れて群馬県防衛司令部から新潟県の仮設防衛拠点に移った枢木 白虎である。

 パイプ椅子に腰かけたままため息ばかり吐く白虎にルルーシュは苛立ちを隠せないでいる。

 

 「さっきから何なんだ!ため息ばっかり吐いて言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ!!」

 「あ~…弟成分が足りないよ~。スザクに一週間近く会ってないよ~」

 「ボクだってナナリーに会えてないんだ我慢しろ!っていうか弟成分なんてものは無い!!」

 「そうカリカリするな。短気は損気だぞ。奴さん(ブリタニア軍)は短気でも単騎でも良いんだけどさぁ」

 「あぁ、もう!」

 「はっはっはっ、少佐はその少年と仲が良いようですな」

 

 怒りを爆発させるルルーシュに対してどこか投げやりな白虎の会話に、大きく笑いながら優しげな雰囲気を出したどっしりとした体格の軍人が歩み寄って来た。

 彼は仙波 崚河大尉。

 白虎の防衛計画に従って中部地方へと赴いていた武官で、すでに石川に上陸しようとした部隊を半壊させて海上にて撤退へと追い込んだ。

 原作知識にて藤堂直属の指揮官としても兵士としても優秀な四聖剣の一人となり、その後は黒の騎士団の部隊長を務めた経歴から防衛計画を練り上げる当初から侵攻作戦阻止の要となる一人として考え、対人型自在戦闘装甲騎部隊の一つを預けている。

 

 初対面の仙波に警戒の色を強くするルルーシュは白虎を盾にするように陰に隠れた。

 

 「そんな露骨に警戒しなくてもな」

 「いやいや、彼の行動が正しいでしょう。なにせ私たちはブリタニアと戦争をしているのですから」 

 「あー…ブリタニア軍は敵として認識しているんですけどね」

 「私もブリタニア人全員が敵でないことは理解しております。が、兵士の中にはブリタニアそのものを憎んでいる者は少なからず居る。それでもその少年を連れてくるだけの理由があったという事なのでしょう?」

 「まぁそうですね。未来の布石というか何というか…ねぇ?」

 

 この子に指揮官として活躍してもらうべく勉強させてます――なんて堂々と言える訳もなく言葉を濁す。

 頬を掻きながら話題を変えようと頭を働かせた白虎は「おっと」と声を出して立ち上がり、笑みを浮かべながら姿勢を正して仙波に相対した。

 

 「新潟のブリタニア駐留軍に対する作戦成功おめでとうございます」

 「いやはや、アレは対人型自在戦闘装甲騎部隊を育成し、新戦術や武装を開発した枢木少佐のおかげです」

 「確かに武装・戦術があって有利だったのはあるでしょう。しかしそれを使いこなして戦果を挙げたのは現場の兵士、そして有能な指揮官が居たからです」

 「ありがとうございます。兵士達にもそのお言葉伝えておきましょう」

 

 先ほどまで仙波大尉率いる部隊はひと戦終えて来たばかりなのだ。

 内容は群馬と新潟の県境付近の街を占拠するブリタニア軍の排除。

 味方の被害もあったがそれ以上の戦果を挙げたのは仙波の指揮あってこそ。

 

 今回の戦闘で活躍した対人型自在戦闘装甲騎用装甲戦闘車両【弦月三式(ゲンゲツサンシキ)】は白虎が七年前より試行錯誤の末に完成した装甲戦闘車両である。

 元は戦車支援戦闘車という対戦車攻撃を行う歩兵の排除を目的とした装甲戦闘車両で、それを白虎の知識と合わせて対ナイトメア仕様にしたのだ。これは新しく作るのではなく、現行の戦車の砲塔を外して開発した機関砲を取り付けた上部とその他武装を取り付けるだけなので配備するのは案外楽だった。

 30×165mm口径の徹甲弾は有効射程内に入ればグラスゴーの正面装甲からでも貫くことが出来る。対戦車用のミサイルで戦車戦にも備え、視界を遮るスモークグレネードにケイオス爆雷を装備している。

 原作知識で見た事を頼りに開発したケイオス爆雷にはかなり手間取ってしまった。おかげで完成まで六年も掛かってしまったよ。

 

 ちなみに弦月三式(ゲンゲツサンシキ)の三式は最初にできた弦月に三度の改良を加えた事から付いている。

 最初の試作弦月は廃棄寸前の戦車上部の砲塔を取っ払い、軍倉庫の奥隅に眠っていた旧式の30×92mm機関砲を乗せただけのゲンブを含めた軍上層部に説明する例とした物で、一式になると上部の機関砲を30×165mm口径に対応した物に変え、二式ではスモークグレネードに対戦車ミサイル発射筒を取り付けた。そのせいで二式は当初予定していた速度を大幅に下回り、機動力の低下が激し過ぎた。機動力を確保するために二式に改良を加えて整えられたのが弦月三式となる。この頃になってようやくケイオス爆雷が完成したので積み込んだのだ。

 もう少し時期がずれていたらケイオス爆雷を積み込んで調整するので四式になっていたのだろうか?

 

 「で、これからどうするんだ?新潟奪還のために攻勢に出るのか」

 「いんや、奪還した街を放棄する」

 「……はぁ!?お前何言って…」

 「早とちりすんな。手は打つし、作戦だよ」

 

 悪戯っ子みたく笑みを浮かべる白虎にルルーシュは眉を顰める。

 内容を知っている仙波や付近の兵士たちはどこか苦笑いを浮かべている。

 

 「今は八月。日本の夏本場の時期だ。ブリタニア軍は今頃ブリタニア本国では味わう事のない湿気の多い暑さに慣れず苦しんでいる事だろう。ただでさえ歩兵は防弾の為に全身を覆っている。相当な暑さだろうな」

 「それで?」

 「暑さは集中力を欠き、苛立ちを募らせる。

 さて、それを踏まえて街を放棄する際に俺達は多数の地雷を設置して行くんだ。勿論後で処理するために何処に埋めたかは詳細な位置情報を用意する」

 

 情報が盗まれて場所の特定がされないように設置する各部隊事で自分たちが埋めた地図を作ってもらい、最終的にすべての地図を手にする白虎にしか全体図は分からないようにしてある。

 

 「しかもほとんどが地雷に似せたダミーだ。これがもたらす意味とは如何に?」

 「………あぁ、分かった」

 「さすがルルーシュ君」

 「お前の性格の悪さが良く分かったよ」

 「…否定はしないでおくよ」

 

 地雷処理は相当な集中力を要する。夜は探知機を使って地雷を探そうとも地雷以外の罠も警戒して探索はしないだろうから、炎天下が続く夏場の日差しを浴びながら作業をするのだ。

 暑さに耐えに耐えてようやく処理した地雷が偽物だったら?

 苛立ちと疲労感は相当なものとなる。

 

 そもそも街を奪還すればそこに駐留する防衛部隊に部隊を割かなければならなくなって各所の平均戦力が低下する。中には余分だと思われたところの戦力を削るだろう。さすればそこから攻め、全体的に弱まるなら何処か一か所をまた落とす。それを繰り返せば勝てるのだ。

 白虎の予想では一週間経って予定の戦果を挙げられないブリタニアは動く。

 予想通りに動いてくれるなら(・・・・・・・・)中華連邦の支援(・・・・・・・)を受ける事だって可能になり、新潟に留まるブリタニア軍の補給線を完全に断つことが出来る。

 

 「少佐」

 

 一人の士官が白虎のもとに駆け寄って来た。

 ほかの誰にも聞かれないように耳打ちさせると予想通りに動き(・・・・・・・)予想通りに対応(・・・・・・・)したそうだ。

 頬が吊り上がって笑みが零れる。

 

 「気持ち悪い笑みだな。何か良い事があったのか?」

 「あぁ!朗報さ、朗報。これで日本の未来は繋がった!」

 

 なにを言っているのか分からずルルーシュだけでなく仙波までもが眉を顰める。

 高笑いし始めた上機嫌になった白虎はその日のうちにルルーシュを連れて東京へと向かうのであった。


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