日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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最終話 「三年後…」

 超合集国建国から三年。

 世界は平和に向かって歩みを続けていた。

 だが、確実に平和になったという訳ではない。

 コードギアスの原作では超合集国を主導して作り上げたのはルルーシュであり、この物語では白虎が雛型を作り上げた。

 正直白虎はルルーシュほど賢くはなく、原作の超合集国ほどの安定性を生み出せなかったのである。

 これは原作との差異であろう。

 結果、尻拭いをさせられるのは周囲の者へと飛び火し、それは世界を巻き込む事となった。

 日本では白虎に良い様にされた名家や元軍属の者らが、ブリタニアでは現政権に反対する貴族や皇族が、中華連邦では大宦官によって甘い汁を吸っていて星刻によって罰せられた富裕層などなど。 

 場合によっては武力を行使出来る者らが多く残ってしまったのだ。

 中には脅しや交渉程度で済ます者も居れば、実際にテロを起こす者も出てしまった。

 

 それでも以前に比べて戦争が激減し、平和を謳歌する時間が増えたのも事実。

 今日は超合集国建国三周年を記念して至る所で祝いの場が設けられている。

 東京にて大人気となっている飲食店“カフェ・しらとら”でもパーティが行われていた。

 

 「少し遅れてしまったかな?」

 「そのようですね」

 

 店名を眺め、小さく笑みを零した枢木 スザクはすぐ後ろを付いて歩いていた井上に問いかける。

 腕時計を確認して返された返答に肩を竦める。

 平和を乱す火種を消すために世界各地を飛び回っているスザクは忙しく、総帥直轄戦闘大隊“白虎大隊”と共に駆け続けている。少数精鋭で事に当たれる彼らは黒の騎士団内で重宝されているが、白虎大隊を扱える指揮官が限られるのでもはやスザク直属部隊のような感じになりつつある。

 というのも半端な指揮官では扱え切れず、小心者は彼らの苛烈な戦いぶりから動きを制限してしまう可能性が高いのだ。

 対してスザクとの相性は最高である。

 白虎の様に言葉巧みに高揚させながら指示を飛ばす事はしないが、簡単な命令を下して戦闘指揮は任せっきり。その上で責任はちゃんと取るという方針なのだから白虎大隊は動き易くて助かるし、力任せで大雑把な命令しか出せないスザクとしても有難い。

 結果、今日の祝いの席に遅れてしまった訳だが…。

 

 現枢木家当主兼黒の騎士団最強の騎士であるスザクと共に、“白虎大隊”大隊長井上 直美少佐(・・)に杉山 賢人、南 佳高、吉田 透の“白虎大隊”中隊長である各大尉達が続く。

 すでに店内には見知った顔ぶれで溢れており、それぞれ楽しむようにと散開の合図を送る。

 しろ兄に叩き込まれたとはいえ、咄嗟に蜘蛛の子を散らすように散り、人ごみに紛れる動きはさすがだとしか言いようがない。

 クスリと誰も彼もが白虎生存を知っている数少ない人物ばかり。 

 ゆえに気軽にしろ兄の名前を出しても問題ない。

 皆にとってしろ兄とは頼れる上官であり、戦友。そして英雄なんて高尚な存在ではなく悪魔の類という認識なのだ。

 それを崇めろというのは中々に難しいものだ。

 

 「遅かったなスザク」

 

 黒の騎士団総帥ゼロを演じるルルーシュがテーブル席より声を掛けた。

 テーブル席には総帥親衛隊長紅月 カレンと親衛隊所属ジェレミア・ゴットバルトが控えていた。

 ジェレミアは超合集国建国後にバトレーの下で原作通りに能力再現実験に使用し、サイボーグ化されてギアスを無効化するギアスキャンセラーを得ていた。

 しろ兄曰く、ナナリーの目を治すのに必要だったとか。

 そんな理由を言われればジェレミアは忠誠心により快く受け入れた。

 

 ルルーシュに声を掛けられたのでそのまま近づきながらニヤリと嗤う(・・)

 

 「そうだね。誰かさんが酷使するせいでね」

 「英雄の弟君を酷使するとはとんだ怖いもの知らずね。そいつは」

 「本当にそう思うよ」

 

 カレンと言葉を交わしつつ、ルルーシュに視線を向けると罰が悪そうにそっぽを向く。

 二人して笑いながら席に腰かけ周囲を見渡す。

 軍を辞めると“カフェ・しらとら”を開いた店主の玉城 真一郎は、酒を浴びるように飲みながら白虎大隊に絡む。

 その様子を苦笑しながら眺めている黒の騎士団事務総長の扇 要。

 統合幕僚長藤堂 鏡志朗に四聖剣ではなくそれぞれが大隊長として各地で指揮を執っている千葉 凪沙、朝比奈 省悟、仙波 崚河、卜部 巧雪などの各中佐達も龍黒技術研究所主席研究員のロイド・アスプルンドもラクシャータ・チャウラー、セシル・クルーミー達も大いに飲んで、食って、楽しんでいる。

 

 少し離れたところにはC.C.達も居り、以前と変わらずピザを食べていた。

 現在C.C.は枢木家女中ではなく、「働かざる者、食うべからず」と言われ、資格の取得などさせられて龍黒技術研究所の食堂で働いている。

 同じ席には龍黒技術研究所テストパイロットのシャル(ロロ)に、ロロの兄と自分を認識したままのV.V.。それと二年間の成果により白虎からコードを受け継いで、C.C.同様食堂で働いているマオが居る。

 背景を知っているだけになんとも言えない面子だ。

 後、ジェレミアのギアスキャンセラーにより深層意識に寄生していたマリアンヌを排除されて記憶障害を解消し、ロロと同じで龍黒技術研究所テストパイロットをしているアーニャ・アールストレイムは携帯電話片手を弄り、何かしら写真を撮っているようだ。

 眺めているとカレンからの視線に気づき振り向く。

 

 「アンタさぁ、ユーフェミアの所に行かなくていいの?」

 

 気にかけてくれたのだろうカレンが呟いた。

 ユーフェミアはジェレミアのおかげで目が見えるようになったナナリーや、今も画家兼アイドルとして活動しているクロヴィス・ラ・ブリタニア、ブリタニア方面軍司令コーネリア・リ・ブリタニア中将などと楽し気に話していた。

 付近にはアンドレアス・ダールトン将軍にコーネリアの騎士であるギルバート・G・P・ギルフォード、ジェレミアの改造を終えてクロヴィスのマネージャー職に戻ったバトレー・アスプリウスなども居り、さすがにあの輪の中に入り込むのも気が引ける。

 

 「良いさ」

 「でも…」

 「皆が居ない所でいっぱい確かめ合うからさ(・・・・・・・・)

 「あー…うん。ご馳走様(・・・・)

 

 意図を察したカレンは肩を竦めながら返事をする。

 逆にスザクはカレンに言った言葉を返す。

 

 「カレンこそナオ兄と話さなくていいの」

 「そうね…確かにそうね」

 

 言い返されカレンは今も枢木家女中として働いてくれている紅月さんと合集国日本代表となった紅月 ナオトが居る席へ向かう。

 白虎が死んだとされた後で、日本国中枢は困惑しただろう。

 政治家の中にはひと段落つけた後に、政権を譲る為に力を貸すと確約した者らも居たが、当の本人が居ないのであれば助力を乞う事が出来ず、政権を得ようとする政治家同士の争いに発展した。

 そもそもそんな約束を守る気は然程なかった白虎は、合集国日本の為に用意したレールを確実に維持する為に自身の考えを共有でき、軍部の支持を一定以上持っている人材―――紅月 ナオトに日本のトップになるようにしたのだ。

 本人への説得から咲世子を使っての政治家の裏情報の流出。

 台頭する者が居なくなり、枢木 白虎と共に日本中を駆けて戦ったナオトだからこそ白虎の名を使い、民衆からの支持も一手に受けて代表にあっさりと就任した。

 身を隠しているとは言え気軽に帰って来ることの出来るしろ兄と違い、ガチガチの立場を持つナオ兄とでは一緒に過ごす事だって難しい。

 久しぶりの時間にカレンも会話に華を咲かせるだろう。

 

 「皆、幸せそうだよね」

 「これもどれもアイツの思い通りか」

 「そこまでしろ兄も万能ではないと思うんだけど」

 「確かに万能ではないな。今でも俺らは奴の尻拭いをさせられているのだからな」

 

 確かに確かにと二人共笑みを浮かべる。

 レールは敷いてくれたが維持するだけの方策は用意してくれなかったのだから。

 草壁 徐水だって未だに戦火に身を置いている。

 今はアフリカ辺りで潜伏している現ブリタニア政権に批判的な武装勢力捜索に全力を挙げてくれたりするのだから。

 ふと、最近姿を見せてくれてない白虎の顔が脳裏に過った。

 

 「しろ兄は今頃何してるのかな?」

 「どうせ飄々としながら誰かを巻き込んで何かしているんだろう」

 

 「違いない」と笑い、スザクはグラスに口をつける。

 世界の何処かで何かしら仕出かしているであろう白虎を想いながら。

 

 

 

 

 

 

 枢木 白虎は誰かに呼ばれたような気がして、室内を振り返るが誰も呼んだ様子がない。

 振り向いた先にいた超合集国評議会議長である皇 神楽耶が「どうされましたか?」と小首を傾げる。

 気のせいかと思い、荒野だった(・・・)土地に建てられた高層ビルより眼下を見下ろす。

 

 今、白虎達が居るのは“戦士の国”と呼ばれるジルクスタン王国。

 乾いた大地と荒れた大地が大半を占め、希少資源は乏しく民の生活は困窮。

 されど過酷な環境で鍛えられた兵士は極上。

 自国の少数でブリタニアの大軍を打ち破る軍事国家としての力を見せ、周辺国家に傭兵として派遣することで国益を得ていた傭兵派遣国家。

 そんな国だからこそ超合集国が生まれ、戦争自体が激減して派遣依頼が減少すれば国が一気に衰弱するのは当然であろう。

 

 「戦争経済が破綻すりゃあ滅ぶわな」

 「無から金でも得る様な豊作でもなければ…ですね」

 「等価交換の法則に外れてんだよな。賢者の石でもあれば別だがね」

 

 神楽耶との軽口に笑みを浮かべ、隣に並び立つジルクスタン王国のシャリオ国王に視線を向ける。

 自国の事を言われたというのに彼は嫌な顔一つしない。

 寧ろ今の国の現状を快く思っているのだ。

 

 超合集国は加盟しなかったジルクスタン王国を危険視していた。

 かの国は戦争経済によって生き延びていた国家だけに、戦争が大幅減少した今となっては外貨を稼ぐ手段が無くなり、万が一にでも自暴自棄の様に戦争を引き起こそうと動かれたら非常に困るのだ。

 ブリタニアを打ち破った戦闘を指揮した“褐色の城壁”の異名を持つボルボナ・フォーグナー大将軍も健在で、軍も十分にまだ機能している。

 対して黒の騎士団は加盟国の軍事力を手に入れ、強大になりはしたが動きに制限が掛けられて身動きは悪い。

 戦争を仕掛けられたら一撃をどうしても許してしまう事になる。

 ゆえにアジアの大国で影響力を持っている合集国中華連邦が交渉することになったのだ。

 とは言えども天子を支えていた黎 星刻はすでに病死しており、補佐するのは生前に星刻に天子様の事を託され、神楽耶から絶大の信頼を誇っていた相談役である龍黒技術研究所所長龍黒 虚(枢木 白虎)が担当することになった。

 

 白虎がとった手は簡単だ。

 加盟すれば龍黒技術第二研究所と黒の騎士団アジア方面司令部の一つをジルクスタンに設けると取引を持ち掛けた。

 元々欲しいなと思っていたし、人が集まる場が出来れば自然と需要に合わせて店が並ぶ。

 便利が良くなれば流れるように人が集い、街が出来、職を得て金を使えば経済が多少なりとも回り出す。

 咲世子の調べでシャリオはシャルルや俺、大宦官と違って民を想う心優しき王であったようだったので存外簡単に喰いついたよ。

 豊かになった土地を眺めながら満足そうに息を吐く。

 

 「君と手を組んで本当に良かったと心より思うよ」

 「それはそれは。国王陛下のお役に立てたようで何よりですよ」

 

 演技染みた動作を取って隣に並んで年齢的にはナナリーとそう変わらなさそうな少年―――シャリオに頭を下げると鼻で笑われ、「心にもない事を」と呟かれた。

 同様に神楽耶も天子も(・・・)大きく頷く。

 良く俺の事が分かってきたようだ。

 

 「最初は胡散臭い奴だと思ったよ。詐欺師の類ではないかとね」

 「で、ですよね…」

 「言うようになったじゃねぇか糞餓鬼共(シャリオに天子)

 

 糞餓鬼と言われシャリオは肩で笑い、天子は白虎の楽し気な雰囲気より褒められたと察して笑みを零す。

 ボルボナや天子の警護達は怪訝な顔を浮かべるが、毎度の事だと割り切って口には出さなかった。

 ただ神楽耶を除いて…。

 

 「龍黒さん。純粋無垢な天子様を穢さないで頂けます?」 

 「語弊が生まれるってその言い方。ただでさえアーニャの件もあってロリコン疑惑あるってのに」

 「私、穢されたのですか?」

 「だからさぁ………あー、言葉遣いとかは確かにそうか」

 「確かにそのようだな。以前に比べて口が悪くなった」

 

 ブッっと噴き出すように白虎が笑いだすと全員が笑い出す。

 困惑する天子を囲むように室内が笑いで溢れる中、怒声にも似た大声が響き渡る。

 

 「龍黒!」

 「んぁ?」

 

 扉越しにも響く大声に振り返ると、扉が開かれるとシャリオの姉であり聖神官であるシャムナが怪訝そうな表情を浮かべ現れた。

 逆に白虎は瞼を大きく開けて彼女の来訪を歓迎する。

 

 「おぉ、同志シャムナ(ブラコン仲間)よ。そのような大声でどうなされた?」

 「誰が同志か!誰が!!」

 

 不服そうな返しに小首をかしげるとシャナムの額に青筋が浮かぶ。

 シャムナは最初白虎との取引に懐疑的であったが、サイバネティック医療の権威であるラクシャータの治療を受けれるように用意してやると言うと賛成に回ってくれた人物で、今では杖ありであるが多少でも歩けるようになったシャリオの事を喜び、白虎に一定以上の信頼と信用を置いている。

 

 「貴方が関わるとシャリオの教育上良くないのよ。シェスタールの二の舞は御免なの」

 「いや、アレはアイツの性格からだろう…」

 

 シェスタールというのはシャムナの親衛隊隊長でボルボナ・フォーグナーの息子である。

 接触直後は色々と睨まれていたが、取引を持ち掛けて何度か会ううちに打ち解け、シェスタールとも接する機会が増えた。

 元々キザな所と自分に酔う所があったようで、白虎の他にない物言いに感化されて漫画などでしか聞く事の無いようなセリフを恥ずかしげもなく吐くようになってしまった。

 まさか中二病を発病するとは思わなかっただけに、これは最近で一番の衝撃だったのを白虎は忘れないだろう。

 

 「ま、可愛い弟を溺愛する気持ちも解るさ。早々に退散するよ」

 「是非ともそうしてくれ」

 

 しっしっと追い払うように手を払うシャムナに従って、廊下に向かって歩き出すと神楽耶に咲世子、天子達が後に続く。

 廊下に出て、エレベーターで下まで降りた白虎は迎えの車に乗らず、街並みに視線を向けながら小腹が空いた腹を撫でる。

 

 「帰りに日本街(日本系飲食店)によって牛丼でも食って帰るか?」

 「ギュウドン?」

 「そうだよなぁ。天子は知んねぇか」

 「美味しいですのよ。手軽で安いので人気のある料理ですの」

 

 神楽耶が天子に説明していると、どうもハブにされているようで寂しい。

 子供っぽい自身の気持ちを鼻で嗤う。

 内心を笑っていると説明も終わり、天子はどうしようか悩んでいる様子だった。

 

 「どうする?コースメニューじゃねぇと喉通らねぇよってんなら準備させるけど」

 「えっと、食う―――で宜しいんでしょうか」

 「おう。宜しいがそれを中華で言わんといてね。俺が締め上げられっから」

 

 先を進み始めた白虎に対して神楽耶は右腕にしがみ付くように抱き着き、天子は恐る恐ると手を伸ばして手を握る。

 無論天子と白虎には恋愛感情は存在しない。

 あるのは兄妹的な好意のみ。

 照れ恥ずかしそうな天子を二人して笑い、手を離すと同時に左手で抱えて街中へと走り出す。

 眺めていた咲世子はだからロリコン疑惑が深まるんですよと思いつつ、いつものように付いて行く。

 困惑する表情を浮かべる天子に、幸せそうに笑みを浮かべる神楽耶。

 そして日本でユフィと幸せを掴んだスザクを想い、それだけでも自分がやって来たことは間違いではなかったと頬を緩める。

 

 世界の平和=ではないが、自らと周りの幸せを得た。

 後はこの幸せが生きている間だけでも持続させるだけだ。

 恒久的な平和など望まない。

 自分達が謳歌できる程度で良いのだ。

 それまではどのような火の粉であろうが滅してやる。

 スザク(可愛い弟)の為に。

 神楽耶(愛らしい恋人)の為に。

 なにより自分自身の為に。

 “日本国をエリア11とは呼ばせない”だけでなく、確固たる意志を持って護っていこう。

 

 そう誓いながら白虎は心の底より笑い、街の喧騒の中に消えていくのであった…。




 本作品はこれで最終回となります。
 多くのお気に入り登録に評価、感想などなど本当にありがとうございます。
 それと多くの誤字報告して下さり感謝すると同時に、大変ご迷惑をおかけしました。

 二年間に渡るご愛読ありがとうございました。

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