皇歴2010年九月四日。
ブリタニアの日本侵攻から一か月が経ち、白虎は第二次上陸作戦を敢行したブリタニア艦隊を相手にする為に五十五隻の艦を引き連れて対峙していた。
白虎率いる艦隊に対してブリタニア艦隊は空母一隻、重巡洋艦二隻、軽巡洋艦三隻、駆逐艦二十隻、輸送艦二十隻と上陸部隊を積み込んだ非戦闘艦である輸送艦を除けば合計二十六となり、数だけ見れば白虎の艦隊の方が有利に見える。
……数だけを見れば…。
日本海軍は第一次上陸作戦時の海戦にて多くの艦艇を失い、現在日本国の軍港に停泊している艦を集めた所で二十隻も満たない。今ここにあるのは旗艦である駆逐艦を除き、第一次の時にブリタニアより鹵獲した艦で構成されている。
サクラダイトを用いた作戦で転覆したり、何かしらの理由で放棄された輸送艦……それをかき集めて機銃二基と小口径砲門、追加装甲板を取り付けただけの防衛艦隊なのである。しかも唯一の戦闘艦である駆逐艦は古い老朽艦。装備そのものが旧型で塗装すら剥げていたものを真紅に塗装し直して見栄えだけ良くした物で、ブリタニアの駆逐艦に一対一を挑んでも力負けしてそのまま撃沈されるレベル。
正直相手になる訳がない。
乗り込んでいる船員も正規の軍人ではなく義勇軍に名乗り出た青年ばかりで、実戦経験があるのは白虎のみで火力・経験ともに劣っている。
心の底からため息を吐きたいところであるがそれだけは出来ないと軍帽を被り直す。
今日の白虎の服装はいつもの赤のネクタイに黒のベスト、白の上着に黒のチロリアンハットではなく、日本軍の制服を着こなしていた。
「枢木少佐。敵艦隊を捉えました」
「あぁ、全艦戦闘配備。指示通り動いてくれれば負けはしないさ」
「そこは勝つとは仰られないのですか?」
「士気を挙げるにはそうだけどね。俺達はそこまで気負う必要はない。だから紅月君ももう少し肩の力を抜いときな」
「了解しました」
これである…。
本来なら海軍に兵員の要請をするところだったのだが陸軍の手伝いなどまっぴらと断られたのだ。
まぁ、件の原因が俺にあるからあまり強く言えなかった。
何しろ今まで対ナイトメアだ!対ブリタニアだ!と武器などの開発を行っていたんだけど費用のことなど全く考えていなかった。結果、国防予算で海軍に割かれていた予算が陸軍――つまり俺の元に流されたのだ。陸軍からというのは戦車を弦月三式に改修したり、新装備を揃えたりと予算のほとんどが使われており、海軍から予算を割くしかなかったのだ。
仕方なしと侵攻開始と同時に問題となっていた兵員不足から義勇兵を募っていたのを思い出し、訓練を受けていた中から人員を集めたのだ。
驚くことに紅月 カレンの兄である紅月 ナオトの名があり、注意深く調べてみると原作キャラクターの何人かが義勇兵に名乗りを挙げていたのだ。今回の作戦にはその人物も集めて編成してある。
はぁ…義勇兵からの視線がキラキラと輝いていてとても痛い。
なんでも俺は軍神だのなんだの謳われているらしい。そんな称賛はいらないんだけど。
陸軍からの評価は親の七光りで出世した青二才。
海軍からは予算を親のコネを使って奪った盗人。
侮られている程度の評価が良いんだ。下手に高い評価を得ると味方からは高望みされるし、敵からは標的にされたりと良い事なしなのだから。
だからなのかこの艦隊に編成した義勇兵はその…言いたくないが軍神に選ばれたと浮かれ、火力の差なんてあってないように勝ってくれると期待しているのだ。
羨望の眼差しに圧し掛かって来る期待からいつもの軍人らしからぬ恰好は憚られてこうも軍人らしい堅苦しい恰好をしなければならないとは。出陣前には親父から日本刀を渡されてどうしようかと思ったさ。日本刀を見て格好いいと笑顔を向けたスザクに見えない所で預けたけど。
「枢木少佐。敵旗艦より打電――降伏せよと。返信はどうしますか?」
当艦の通信士を受け持っている扇 要が問うてくる。
その答えの返し方に艦橋に配置されている義勇兵全員が聞き耳を立てる。
気にしたところでこの問いに対する返答はひとつしか無いというのに。
「馬鹿めと言ってやれ」
「は?」
「馬鹿めだ!」
予想していなかった答えに扇は戸惑いながらもブリタニア艦隊に返信をする。
艦橋内どころかその返答を聞いた各艦の義勇兵は大声で、楽し気に笑った。
返信しなければならない扇だけは困ったような笑みしか浮かべてなかったが、なんにしてもこれでこちらの緊張は解れただろう。
「前衛艦隊に通達。好きに暴れて来い。ただし無茶はするなよ――とな」
「りょ、了解しました」
白虎は片目を吊り上げ、「さぁて、ブリタニアさんはどう出てくるかな?」と呟きながら不敵な笑みを浮かべる。
神聖ブリタニア帝国は再度日本侵攻―――第二次上陸作戦を決行。
日本全土を完全包囲する形は戦力の分断を防ぐために攻撃地点を三つに絞った。
フィリピンより中華連邦経由で新潟に上陸したブリタニア軍を援護する為の今回急遽編成された侵攻軍第三艦隊。
ブリタニア本土よりクロヴィス・ラ・ブリタニアが指揮をする主力艦隊であり、青森に向けて出陣した侵攻軍第一艦隊。
そして首都東京に迫り、相手の視線を釘付けにする囮の役割、または東京侵攻の大きな役割を持った侵攻軍第二艦隊。
第二次日本侵攻軍第二艦隊旗艦、ブリタニア海軍航空母艦ニヴィアン。
艦橋の艦長用に誂えられたシートには神聖ブリタニア帝国第二皇女、コーネリア・リ・ブリタニアが腰かけていた。
左右には専属の将軍アンドレアス・ダールトンと、専属騎士であるギルバート・G・P・ギルフォード。
三人の目には勇猛果敢に祖国を護らんと挑んでくる日本艦隊ではなく、形ばかりの抵抗の為に生け贄として差し出された哀れな船団としか映っていなかった。
数だけは負けているが、敵は多少強化した程度の輸送艦隊。
勝敗は目に見えている。
だが、手加減をする気は微塵もない。
艦載機隊は日本国本土上陸の際に飽和攻撃を行うので温存はするが砲弾はその限りではない。
敵輸送艦に備えられた砲を形状から計算して射程はこちらの半分強。
これなら砲撃戦で事足りる。
「姫様。奴らは降伏するでしょうか?」
「どうだろうな。降伏するなら良し、しなければ叩くのみだ。その時は指揮を任せるぞダールトン」
「ご下命有難く受け賜ります」
深々と頭を下げるダールトンを見て満足そうに笑みを浮かべる。
すると少し戸惑った通信士が振り返り、口を開く。
「コーネリア皇女殿下。敵艦隊より返信!」
「早かったな。で、何と言ってきた?」
「えと、それが…その…」
「どうした?早く言わないか?」
「どれ、見せてみろ――――ッ!?フハハハハ、なるほど口にし辛いな」
口篭る通信士に顰めるような視線を向けるギルフォード。その視線を遮るように通信士に近づき、返信が映されているモニターを見てダールトンが朗らかに笑う。視線で自分が言っても宜しいかと伺い、頷かれた事でダールトンが読み上げる。
「馬鹿め――それが奴らの返答です」
「随分と威勢がいいな」
「姫様、敵艦隊に動きが…」
「――ほぅ」
モニターに映し出されている簡略された敵味方を現した配置図に、日本艦隊が二つに分かれて一方がこちらに突っ込んでくる様子を現していた。
狙いを読み取ろうと眺めると意図は明らかで、戦術を弁えている事が伺えた。
旗艦を中心に広く展開しているこちらに対して数で勝っていても射程で負け、長期戦でも分が悪い事をよく理解している。
接近しての火力を集中して中央突破。さらには旗艦であるニヴィアンへ攻撃して短期で決めるつもりだろう。
だが、それは質と量が伴ってこそ意味のあるもの…。
落ち着いて指揮を執るダールトンにより突っ込んできた輸送艦隊はすぐに大被害を被る事になった。
よくよく観察してみると突っ込んできた輸送艦隊はどうやら一つの艦隊ではなく、二つの指揮系統を持っているらしい。一方は良くも悪くも直情的で勢い任せ。もう一方は熱いところが伺えるがそれでも戦場を読んでよく動かしている。
ただの雑兵ではない様だが、もはやそれすらも意味を成さない。
機銃と小口径砲門を撃ち続けながら前進してくる輸送艦にブリタニア海軍の駆逐艦が放った砲弾が直撃。追加装甲で防御力をあげているものの、あってないようなもの。呆気なく追加装甲は貫通され、内部に砲弾が入り込み、爆散する。
魚雷を放てば速度が遅く、回避が間に合わずに直撃して吹き飛んで行く。
ようやく射程距離に届いた輸送艦の砲が駆逐艦に当たったが損害は軽微と判定し難いほどの軽傷。逆に数隻の駆逐艦の砲撃により海の藻屑と消えた。
攻め込んできた輸送艦隊は70%もの損害を出して本体に合流。護りを固める事を選択したようだ。
「終局だな」
「まるで標的艦を相手にしているかのように動きの遅い艦隊でしたな」
「これから如何なさいます。敵はかなりの数を消耗。しかして我らは無傷。もう一度降伏勧告を行いますか?」
「いや、奴らが守りを固めた。逃げずにな。ならば最後まで付き合ってやれ」
「了解しました。これより敵輸送艦隊を包囲殲滅致します」
コーネリアは最終局面に移ったことに物足りなさを感じていた。
出撃前にシュナイゼルに言われたのだ。
「もしも戦場で枢木 白虎なる人物に出くわすことあれば注意しなさい。アレは数の差も力の差もひっくり返す奇策士だ。油断すれば一瞬で勝敗を持って行かれかねない。気を付けるんだよコーネリア」
あのシュナイゼル兄上が警戒するほどの人物…。
不謹慎かも知れないがそれほど手応えのある者ならば手合わせしたいものだ。
そんなことを想いながら艦隊が包囲するさまを眺める。
今、自分たちの目の前に存在する艦隊を操っているのがその白虎とも知らずに…。
シートに腰かけて戦場を眺めていた白虎は半笑いを浮かべる。
無理をするなと言ったのに前衛艦隊の指揮を任せた二人は無茶をして冷や冷やさせてくれる。無事帰って来てくれたから良かったものの、ここで戦死されたらと思うとゾッとする。
「すみません少佐!俺が無茶な突撃をしたから…」
前衛艦隊の指揮を執っていた二人が乗っていた輸送艦より白虎が乗っている艦に移り、艦橋に入ると同時に深々と頭を下げて許しを請う。
短く息を吐き出して、軽く頭を叩く。
「ったく、心配かけさせやがって。無茶すんなつったろ?」
「本当にすいません!」
「でも、まぁ、良くやってくれたよ玉城君。千葉さん」
くしゃくしゃと頭を撫でると玉城 真一郎と千葉 凪沙は不思議そうに頭を挙げてホッと胸を撫でおろした。
二人とも紅月君同様の義勇兵だ。
紅月や扇を見つけた段階で玉城もいるだろうと思っていたから驚きはしなかったが、まさか義勇兵の名簿に四聖剣の千葉 凪沙の名前があるとは露とも思っていなかったからこっちは驚いたさ。
今回二人を前衛艦隊の司令官にしたのには理由がある。
前衛艦隊の目的はこっちは本気で抗う気があり、完全に劣っている艦隊と認識してもらう為。
原作知識で玉城の生存能力の高さを知っていたので、彼ならば絶対に生き延びるであろうという確信があって第一前衛艦隊の指揮を任せた。だが、玉城は指揮能力は乏しくてそこまで有効な戦術を行えない。やっても猪武者が如くの猪突猛進の突撃のみ。そこで指揮能力が高く、生き延びる可能性が一番高そうな千葉に第二前衛艦隊を任せたのだ。
結果は上々。
相手はこちらを舐めているとまでいかないが格下に捉えている。
「扇君。敵艦隊の動きはどうかな」
「敵艦隊左右に艦隊を展開して…これは…」
「包囲しようとしている?」
「おいおい、マジかよ!?」
言葉を詰まらせた扇の代わりに紅月が呟いた。
焦る玉城の横から千葉が前に出る。
「枢木少佐!このままでは退路を防がれます。私は撤退を具申致します!!」
艦橋内に響き渡る凛とした声、美しいと思えるほど見事な敬礼に聞き入り、魅入ってしまった。
本来ならばその選択が正しいのだろう。このまま攻勢に出た所で勝ち目がある訳でもないのだから。
―――この艦隊では。
「その意見具申は承諾しかねる。全艦現状の陣形を維持。発砲は任意で許可をするが進撃も後退も許可しない」
「少佐!!」
「あー…紅月君。あの作戦計画書を彼女に」
「了解しました」
厳重に保管してあった資料を取り出して、手渡すと千葉はすぐさま計画書に目を通し、次第に目が見開かれ驚愕の表情を向けてくる。計画書と言ってもこの輸送艦隊がどういう目的で何を行うかで後のことは何も書いていないものだが、勘の良い人なら何をするかは理解出来なくても何かを行うのは理解できる。
この計画書を目に出来るのは各輸送艦の艦長のみで、俺が乗っている艦だと紅月君だけである。
ちなみに白虎は艦隊総司令であって艦長ではない。
「何と無しに理解してくれたかな?」
「―――はい。差し出がましい事を申しました。申し訳ありません」
「いやいや、君は良く見えているよ。謝る必要はないさ」
「敵艦隊こちらを包囲しようとしているんですが宜しいのですか」
「そうさねぇ…紅月君、準備は出来ているかな?」
「戦闘準備は完了しております」
「いやいや、逃げる準備だよ。やる事やったらさっさと逃げるよ」
納得する紅月以外はポカーンと間の抜けた顔を露わにするが、白虎はにっこりと笑い懐から取り出した飴玉を口の中に放り込む。
「くれぐれもタイタニa――じゃなかったブリタニアの皆さんに失礼のない様に」
簡略図ではほぼブリタニア艦隊が円陣を組んだ日本艦隊を包囲していた。
メインモニターには簡略図ではなく、望遠で撮られた輸送艦隊が映し出されている。
一隻の真紅の駆逐艦を中心にしたまま、引く事無くその場に居座り続け、何の動きも見せない事から不気味ささえ漂わせていた。
「姫様、包囲が完成する前ですが攻撃は可能です」
「あの艦…おかしいな」
「は?何がでしょうか」
「いや、気にするな。各艦に伝達。射程に入り次第攻撃開始せよとな」
指示を受けた艦が攻撃を開始する。
コーネリアが乗っている航空母艦ニヴィアンは後方にて数隻の駆逐艦と重巡洋艦の護衛と共に待機し、包囲・砲撃を開始した艦隊を眺めていた。
一切抵抗することなく落とされて行く。
砲弾を回避もせずに、反撃も行わず、ただただその場に留まる。
その行為にどのような意味があり、意図があるのかが読み取れない。
ただ一抹の不安だけが過る…。
そしてその不安は現実となる。
突如として敵輸送艦隊は外装部のパージを開始。
内部より現れたのは積載部いっぱいの透明なケースに入れられた桜色の液体。
思い当たる名称が脳裏を過った。
流体サクラダイト。
鉱物資源であるサクラダイトを流体化させたもので引火性は高く、高い爆発を起こすことを知っている。
第一次上陸作戦で身をもって知っているブリタニア軍は包囲の足を止めて、相手を伺う。
「流体サクラダイトか!?」
「馬鹿な。まだアレだけの量を持っていたと」
「持っていたとしてもアレをどうする気だ。爆発させれば自らも吹っ飛ぶことに――」
ダールトンとギルフォードの会話を耳に入れながらコーネリアは考える。
言っている通り爆発させればあの輸送艦隊の乗員は助からない。しかし、逆に言えば乗員を犠牲にすることで爆発によって生じた高波でブリタニア艦隊の何割かは横転しかねない。
そもそもその作戦を知って来ているのなら自らの死も惜しくない死兵で編成されている可能性が高い。
短い時間で脳内をフルに稼働させる。だが、これだという確証も無ければ対処法も思い浮かばない。
「アレで我らを脅しているのか…」
「姫様ご命令を。撃てば当たります」
「―――――ッ!?全艦退避!急げ!!」
コーネリアは気付いた。
先ほどの攻撃してきた前衛艦隊の動きが遅く、円陣を組んだ輸送艦のほとんどが反撃も何もしてこないのは、相手の練度や対応、艦の性能ではなく、あの艦隊のほとんどが無人艦。遠隔操作で移動と簡単な攻撃プログラムで組まれたものだという事に。
旗艦らしき真紅の駆逐艦も恐らく…。
普段見られることのない慌てようからダールトンとギルフォードも危機感を察し、各艦に距離を取るように命じる。が、サクラダイトを積んだ艦があり、旗艦が慌てて退避命令を出して来たことから敵が自分達を巻き込んでの自爆を敢行しようとしていると理解した艦は我先にと逃げ出す。
急激な退避行動は味方の進路を塞ぎ、中には衝突する艦すら見受けられた。
焦りと混乱が支配していたブリタニア艦隊に追い打ちをかけるように中をむき出しにした輸送艦隊がゆっくりと前進してくる。
よく見ると約3割ほどの輸送艦から小型ボートが下ろされて、艦を捨てて包囲前の隙間より逃げて行く。
爆発すると味方の損害を覚悟したコーネリアは次の瞬間、サクラダイトと思われていたケースより吹き出された桜色のスモークを見て騙されたと肩をわなわなと震わせるのであった。
「我らをコケにするか!!」
「陣形を立て直しま―――何事か!?」
散布された霧の中で大きな水柱が立ち上る。
それも一つや二つではない。時間が経つに連れて幾つもの水柱が立っては消えて行く。
「ソナーに反応あり。魚雷です!!」
「何処から撃ってきている!?」
「か、海中からです。なおも撃ち続けております!」
「日本軍の潜水艦か!?何故発見できなかった!!」
「爆雷投下!敵潜水艦を撃破せよ!」
「了k――」
「うわぁあああ!?」
「きゃあああ!?」
攻撃命令を受諾して返事を返そうとした兵士の声を複数の悲鳴がかき消した。
悲鳴を挙げたのは海中のあらゆる音源を探知する専門官達であった。装着していたヘッドフォンを投げ捨て、顔を歪ませ耳を抑えていた。
敵はこちらの耳を潰すべく海中内で音を響かせてきたのだろう。
だが、理解が出来ない。
この行為はこちらの耳を潰し、一時的にだがソナーを無力化する。それは向こうも同じことで耳はヘッドフォンを外すなどで対処出来るだろうがソナーなどの目は同じように潰れる。
敵の位置を自身も見えなくなるというのに何故…。
ここまで考えたコーネリアはソナーを無力化した隙に撤退、または移動して姿を隠すものと推測したが、まったく別であった。
艦橋のガラスに水飛沫が掛かるぐらいの近距離での水柱。
航空母艦を大きく揺らすほどの衝撃。
揺れに耐えながらもその方向へと視線を向けると中央部が完全に水柱に飲み込まれ、真っ二つに引き裂かれた重巡洋艦の姿が…。
「重巡洋艦ブルグ・ゲヒト……轟沈…」
「馬鹿な!どうやってこちらの位置を知り得ていると言うのか!!」
「潜望鏡の確認急げ!」
「艦載機隊は出られないのか?」
「この揺れでは…」
「レーダーに反応!小規模艦隊が接近中!!大きさから戦艦クラスかと」
「軽巡洋艦ケーニッヒ、駆逐艦アルケー、共に通信途絶!」
「味方が混乱しております。立て直しの指示を」
「敵潜水艦ロストしました!」
次々と届けられる報告に歯を食いしばる。
強く食いしばったが為に歯茎から一筋の血が口元から顎へと垂れた。
忌々しく現れた艦隊に睨み、大きく息を吐き出すと同時に力を抜いてシートにもたれる。
「全艦に通達。我が艦隊は現海域を離脱。撤退する…」
「……姫様、本当に宜しいので」
「二度も言わせるなよ」
「…………全艦に撤退命令を」
無念と言わんばかりに肩を落とすダールトンを眺め、コーネリアは自身の油断と慢心を呪う。
もしかするとシュナイゼル兄上が言っていたのはこの事だったのだろうか。
有利だった戦況がすべて相手の策略で、理解が及ばない潜水艦の攻撃などでここまで被害を出さされた。もしかしたらあの少数艦隊にも何かしら思いもよらぬ兵装を仕込んでいたり、何かしら奇策を施していた可能性があるかも知れない。
本国に帰還後、敵が枢木 白虎と知ったコーネリアはリベンジする為に第三次上陸作戦に名乗りを挙げるのであった…。
ブリタニア艦隊が退く光景を眺めていたルルーシュは勝利した喜びよりも、作戦に対する興奮と驚きに呑まれていた。
無人艦を多数含んだ輸送艦と老朽化が進んだ駆逐艦の艦隊で敵を誘い出し、海底で待ち伏せしていた潜水艦のキリングゾーンまで誘導。
サクラダイトと誤認させようと見せびらかせたスモークの原料。
誤認して慌てふためき衝突や渋滞を起こしたところで、津波などの波を観測する津波ブイと戦術チャートを合わせた敵の位置を把握できる新システムを用いた海中からの潜水艦の精密な魚雷攻撃。
禁止事項としては攻撃能力を持たない輸送艦は放置。
敵の護る対象を無くして動き易くするよりは、腹に抱えたままでいて貰う事。
ブリタニア艦隊の旗艦は絶対に狙ってはならない。
諜報部から皇族二人以上に動きがある事が判明し、一人は日本侵攻総司令としてクロヴィスと戦場にわざわざ出張って来るという事でコーネリアと断定。
敵の艦隊は三方向から攻めてきているから多くて三分の二に皇族が乗り込んでいる。もしも攻撃して戦死などさせたら弔い合戦などになって敵の士気は向上。ただでさえ数で負けているのに士気の高い敵となんてやってられるかというのが白虎の言だ。
あと、某公国のIQ240の総帥みたく国葬で士気向上の演説やられるだろうしなぁ…とかぼやいていたが誰の事を言っているのだろうか?
これらすべてを考え、用いたのがあの白虎だ。
本人曰く、先人たちの知恵と語っていたがこんな戦術を耳にした事は無い。
何故隠しているのかは分からないが、あいつの知識や戦術の幅は恐ろしく広い事が良くわかる。
予定と違ったのはこの新造艦……日本陸軍所属特務護衛艦隊旗艦 戦域護衛戦闘艦【天岩戸】の出番がなかったことだ
全長250m、全幅40メートルの大型艦で最大速力二十ノット。艦首魚雷発射管四門、62口径連装速射砲四基、50口径短装砲八基、高性能20mm機関砲十二基、デコイ発射装置複数、対潜爆雷投射装置、艦対空ミサイル発射装置を四基、近接防空ミサイルを四基。垂直発射システムなどの攻撃火器をふんだんに装備した艦。
艦の防衛と言うよりも味方艦隊の護衛を務めるという白虎の思想の下に建造された。
当初は三十ノットを予定していたがあまりに武装が増え、速度が低下してしまったのは痛いところであるが、主眼は防衛で速力はそこまで重要視していない。
天岩戸に追従する駆逐艦。
初春、子日、若葉、初霜、有明、夕暮の初春型特殊駆逐艦は世界初の対艦用大型レールガンが搭載されている。
天岩戸と初春型特殊駆逐艦の力をここでお披露目する予定だったのだが敵が引くのであればお披露目は延期だ。
とても残念でならない。
虎の子でもある兵装を使わないという事は相手はまだその情報を得ていない。これは戦術で大きく役に立つがルルーシュはどのようなものかを見たい気持ちでいっぱいだったこともあり、残念だと思っている。
「やっぱりすごいやしろにいは!」
「あぁ、本当にな」
「なんだよもっとよろこべよ」
満面の笑みではしゃぐスザクを横目に軽く笑みを返す。
それにしてもまだ幼い子供に日本刀を渡すというのはどうなんだろう?
あのブラコンは何を考えているんだか…。
ルルーシュ達はスザクが白虎と約束した通りの天岩戸の艦橋に居る。
勿論ナナリーも神楽耶も一緒だ。ナナリーは目が見えないので神楽耶が分かりやすく解説しながら話している。それを眺めているのがC.C.なのだが戦いには興味なさそうにいつもながらのピザを食べている。
アレだけ食べて飽きないのだろうか?
「あー…疲れた疲れた。只今戻ったよー…」
「あ!お帰りなのじゃ」
「お疲れ様です」
「しろにい!」
ボートに乗って艦隊に合流した白虎は潮風に当たってべとべとしたとか言ってシャワーを浴び、いつもの服装で艦橋へと足を運んだのだ。
ナナリーと神楽耶の言葉を笑顔で受け、抱き着いたスザクを抱き抱える。
「どうだったスザク」
「すごかった!しろにいのいってたとおりで」
「そうか、そうか」
晴れ晴れとした笑みを浮かべてシートに腰かけ、何故か近くに居た俺の頭を撫でた。
いきなりで驚き対応できなかったが、スザクたちの視線が集まると徐々に恥ずかしくなって払い除けた。
「い、いきなり何してんだよ」
「ちょっとな。いい勉強になったかなルルーシュ君?」
「フン………まぁまぁかな」
「クッハッハッハッ!及第点か。厳しいな。っと、敵艦隊は引いていくようだけどかなり残されているな。全艦に通達。現海域にて漂流中のブリタニア兵の救出・使えそうな物資の回収を開始せよ。とな」
「貧乏くさい」
「やかましい。こっちは物資難なんだから」
海上を見渡す白虎はどこか楽し気で愉快そうで―――疲れているように見えた。
なんにしてもこれで日本が生き延びる希望が見えて来たのは間違いないだろう。
すでに残りの二艦隊にも対応策を出している事だし、今のところ不安はなくなった。
ルルーシュは心の底から安堵した。
こいつがいるなら負けないと…。
「これで戦争は終わりなのですか?」
「いんや、まだ上陸作戦してくるだろうねぇ」
「でも、しろにいがいるんならじょうりくなんてさせないよね」
「それは無理だねぇ。多分ラスボスも出てくるだろうから蹂躙されっかな」
隠すことなく当然のように答えられた言葉に先ほどまでの思いは消し飛び、不安が押し寄せて来るのだった……。