日本国をエリア11とは呼ばせない   作:チェリオ

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第07話 「第三次侵攻」

 皇歴2010年九月二十日

 神聖ブリタニア帝国は第二次侵攻作戦よりたった二週間と二日で侵攻作戦案をまとめ上げ、軍団を再編制し、第三次侵攻作戦を実施。第二次侵攻作戦で使用した艦隊を一纏めにし、唯一完全な制圧地域にした北海道東北部を目指して進軍したのであった。

 対して日本海軍は全戦力を北海道東北部に集中させ、陸軍からの援軍を拒否しての防衛作戦を強引に敢行し、保有していた艦隊の尽くを蹴散らされ、日本領海防衛能力は吹けば飛ぶような微々たるものになった。

 上陸時の反撃作戦は当然ながら皆無でほとんど無傷で上陸部隊を届けたブリタニア海軍は行ける艦のみ津軽海峡へ進軍。北海道より青森へと渡る上陸部隊の援護に努めた。

 

 さすがに海軍が破れた状況で陸軍も傍観する訳にもいかず、青森周辺に防衛ラインを展開・強化すると同時に枢木 白虎中佐率いる日本陸軍所属特務護衛艦隊が出陣。

 戦域護衛戦闘艦【天岩戸】の防衛システムと新兵器である範囲型特殊ミサイル弾頭―――通称【番傘】によりブリタニア海軍のミサイル攻撃を防ぎ、艦載機隊を撃ち落とした。

 番傘は目標地点まで飛翔すると中心部の炸薬を爆破し、ニードル鋼を前方と周囲に撒き散らす。ミサイルだろうが戦闘機の装甲だろうが軽々貫通させ撃墜させれるのだ。例えジャミングやフレアなどで逸らしたとしても範囲攻撃なので幾らかは巻き込まれて損害を出すようになっている。

 豊富な対空兵器以外にもフレシェット弾を撃てる122mm砲を甲板上に対空兵装代わりに追加配備して防衛能力を高めた。

 

 防衛は天岩戸が行い、攻撃は対艦用大型レールガン搭載の初春型特殊駆逐艦が担当した。

 日本陸軍所属特務護衛艦隊の目的は青森への上陸部隊の移動阻止……ではなく、海上からの砲撃を警戒しての少ない戦艦級や重巡洋艦級の排除と敵艦載機隊を無力化する為の空母の甲板を使用不能にする事。

 戦果は戦艦一隻、空母三隻、重巡洋艦五隻の轟沈に戦艦一隻中破。軽巡洋艦・駆逐艦多数と重々の戦果を叩き出した。そもそも大型レールガンは速射率も射程も現行の砲に比べて長い。これは戦闘艦の主だった攻撃能力が砲撃から射程も威力も高いミサイルに代わったことが大きいだろう。

 ミサイルを天岩戸の防衛システムにて無力化すれば、初春型特殊駆逐艦はほぼ無双状態。

 しかし、自損覚悟で接近されれば無双状態は崩壊する。

 

 皇族に対する忠誠心の高い艦長だったのだろう。もしくは第一次や第二次などの失敗にてもう後がないのか…。

 なんにせよ自艦を盾にしてまで友軍艦を護りつつ突っ込んできたのだ。

 沈める事に成功はしたが有明と夕暮が轟沈、若葉が中破させられた。最高機密である大型レールガンを搭載している事から有明と夕暮は轟沈前に機密処理の為にレールガンを内部から破壊させたがブリタニアなら簡単に作るだろう。

 

 なんにせよブリタニア侵攻軍の青森への移動は完了。

 そこからは数とナイトメアの性能に押され青森を囲むように展開されていた防衛ラインは攻撃を受けて一日を待たずして崩壊した。ブリタニアの進撃は続き、二週間と経たないうちに秋田に岩手、宮城がブリタニア侵攻軍の支配下に置かれた。

 ナイトメアの性能を前面に押し出しての全力攻勢に出ればもっと早く制圧できたのだが、総指揮官であるクロヴィスに将として参加しているコーネリアは白虎の反撃にしてやられた過去があり、今回は同じ轍を踏まないように警戒に警戒を重ねている為に思いのほか進軍が遅れたのだ。

 

 まぁ、それだけではないのだが…

 

 

 

 

 

 

 枢木 白虎は眠たそうにあくび一つするとため息をついた。

 遅い…遅すぎる。

 猛暑だった八月を過ぎて段々と暑さが減って来たこの頃ではあるが、まだ日光浴するには暑い。

 そもそも待つ事自体そこまで好きではない。

 というか暇なのだ。

 

 「と、いう訳で話し相手になってはくれまいか」

 『あの…何がとどうしてそうなるのでしょうか?』

 

 あまりに暇すぎて無線機で扇君に声を掛けたのだが心の底から困惑しているようだった。

 はっきり言って戦闘地域のど真ん中で待機させている状況下でこのような言葉を投げかけられれば誰だって困惑する。

 無線機を片手に建物の陰より斜め向かいの五階建てのビルを見つめる。

 現在、紅月 ナオト率いる義勇兵の部隊はビルの二階で待機している。勿論、副指揮官である扇もそこで待機中だ。

 ちなみに最初は憧れなどの感情を向ける義勇兵たちを気遣って言葉遣いや態度に気を付けていたが、もう良いだろうと面倒くさくなって今では地を出して言っている。

 

 「なんかさぁ、待ちぼうけ喰らっているようで暇なのよ。今後の予定も考えると時間が無駄に感じちゃってね」

 『ですがここで足止めしないといけないと仰られたのは――』

 「俺なんだけどね。なんかこういう時の思考の切り替え?みたいなの知らない?」

 

 白虎達が居るのは山形県北東部の市街地。

 秋田県を占拠し進軍してくるブリタニア軍を食い止めるべく白虎指揮下の対人型自在戦闘装甲騎用装甲戦闘車両【弦月三式】を主力としている第一戦車連隊と義勇兵部隊、それと草壁 徐水中佐率いる第三戦車大隊が防衛線を展開していた。

 正直草壁中佐を前線に出すことは嫌だったのだが彼以外にまともな軍人が居ない為に仕方なく手伝って貰っている。

 本当なら藤堂さんを始めとした四聖剣の面々に手伝ってほしいが、後の事を考えて成田連山で待機して貰っているのだ。ちなみに四聖剣と表記したのは間違いではない。義勇兵に所属していた千葉ちゃんを藤堂中佐に紹介して将来有望な人材だから連れて行って色々教えてあげてと頼んだのだ。仙波、卜部、朝比奈も揃って成田行ってもらっているので全員勢揃いで四聖剣。

 ルルーシュも俺の元でなく藤堂さんと行動中だ。

 これからの戦闘は危険極まりないからね。

 

 『えと、そうですね…ほら、よくドラマでデートの待ち合わせのシーンがあるじゃないですか』

 「あぁ、あるね。彼女を待つようにあいつらを待てと…そういう事ね。来たらどんな目に遭わせてやるかと想うと待つ時間も楽しいか」

 『えー…そういう事…ですかね』

 「中佐!奴らが来たようです」

 「おう、総員戦闘配置!!」

 

 玉城が奴らの接近を知らせると命令を下す。

 それぞれが所定のポイントで息を潜めてターゲットがキルゾーンへ踏み込んでくれるのを待ち続ける。

 

 潜んでいる事を知らずに白虎やナオト達が居る通りを一個中隊――――十二機ものグラスゴーが移動している。

 想定よりも数が多いものの別段大丈夫だろうと気楽に気構えている白虎と違い、周囲の義勇兵は気が気ではなかった。

 移動中という事もあって索敵を行うファクトスフィアは閉じられており、進むことだけに専念しているから気付いていないのだろうが、もし一機でも熱源センサーでも使用しようものなら全員がナイトメアの銃弾の前に肉片となるだろう。

 特にナオトたちには逃げ場がなく、見つかれば一発アウト。

 

 ゴクリと誰かが飲み込んだ生唾の音が響き渡る。

 全員が全員冷や汗を掻き始めている中、白虎は涼しい顔でニタリと笑う。

 

 「さぁて、問題です。索敵能力を持つグラスゴーが周囲に所属不明の反応を受けたらどうするでしょうか?」

 

 何処か楽し気な口調で問題を出した白虎は懐からスイッチを取り出し、グラスゴーの位置を確認して押し込む。

 グラスゴーのレーダーには突如として所属不明の反応が拾われ表示される。

 方向としてはナオトたちが潜むビルの向かい100メートル先。

 銃口をそちらに向けながら全機が足を止め、その内の数機がファクトスフィアを展開して索敵を行う。

 

 「正解は馬鹿が戦場のど真ん中で立ち止まるだ―――ご褒美に鉛玉を浴びせてやれ」

 

 ちょうどナオト達に背を向ける形で立ち止まったグラスゴー達に銃弾の嵐が浴びせられる。

 軽機関銃に重機関銃、対戦車ライフルの弾丸はナイトメアの薄い装甲を簡単に突き破って、搭乗者も内部機構もずたずたに抉り取って行く。

 いきなりの奇襲で反応できずに五機ものグラスゴーが撃破されたのだ。

 しかし、七機ものグラスゴーが残っている。ビルより離れつつ振り向いて、アサルトライフルの銃口を向けようとする。

 

 だが、ナイトメアの銃弾がナオト達を貫くことは無かった。

 潜んでいた白虎達が跳び出し、RPGやグレネードランチャーを放ったのだ。

 奇襲に次ぐ奇襲に対応出来る兵士なんて早々いる者ではない。残存していたグラスゴーも直撃を受けたりして戦闘不能に陥った。

 それでも残ったナイトメアに集中砲火が浴びせられる。

 

 火事場の馬鹿力とでも申しましょうか片腕を吹っ飛ばされ、かなりの銃弾を浴びたというのにまだ動けたグラスゴー一機が白虎や玉城達へ銃口を向ける。

 このままでは自分もだが玉城達がやられてしまう。

 白虎は何の迷いもなくその一機に向かって駆けた。

 一人グレネードランチャーを持って駆けてくる白虎にアサルトライフルの弾丸は放たれた。

 

 白虎にその弾丸は当たる事がなかった。

 否、当たるどころか掠りすらしなかったのだ。

 

 C.C.より授かったギアス能力。

 本当ならスザクを護るような力であったならどれだけ良かったことかと思った事か。

 白虎に発現したギアスは先を読むギアス。

 ナイトオブワンのビスマルク卿のような未来を読むギアスではなく先を読む。つまり相手が銃口を向けたとすれば、その銃口の射線などから弾道が読めてしまうというもの。

 誰かを護るよりも自身を護る用途が多そうな力である。

 

 まぁ、おかげでこうやってアサルトライフルの弾道が見えているからそこから避けるように動いて行けるのだが。

 身体能力は言わずもがな――だろ。

 なんたってあの枢木家の人間なのだ。親父のように腹に重りでもくっ付けてなければかなりの性能を持っている。ましてや俺は軍人として一応ながら鍛えているんだ。スザクほどでは無いがそれなりには動ける。

 

 アサルトライフルを躱されることに驚く搭乗者に微笑みを向けてグレネードランチャー下部にワイヤーを射出。先のアンカー部分が胴体下部にくっ付いた。それを確認すると横についているスイッチを押して巻取りを開始する。すると引っ張られて白虎は前に出る。滑り込むように仰向けに転ぶと巻取りの速度を上げてグラスゴーの真下へと滑り出す。

 RPGなら兎も角、グレネードランチャーで正面切っての撃ち合いは非常に危険だ。ならば懐に潜り込んで弱点を狙うのがベストだろう。

 

 この作戦の要であるグラスゴーの動きもナイトメアの弱点もアニメから知っている。

 シンジュクゲットーでは突如レーダー内に入った紅月 カレンのグラスゴーに対してブリタニアのサザーランドは戦場のど真ん中だというのに立ち止まってファクトスフィアの展開。索敵に努めた。

 ワイヤー付きのグレネードランチャーを持った日向 アキトはグラスゴーの足の付け根を狙って倒した。

 

 だから白虎もアキトに倣って真下に滑り込むと足の付け根にグレネードを射出した。

 ポンっと軽い射出音を耳にし、背後へと転がっていく最中に付け根で爆発が起きて転倒するグラスゴーを見た。

 すぐさま立ち上がり頭部とコクピットへと続けて撃って完全に破壊した。

 

 「無事ですか中佐ぁ!!」

 「おうよ。俺は無事だ。各隊に被害は?」

 「こちらナオト。損害無し」

 「こっちも被害なしです」

 「そっか、ならば良し!全員移動するぞ」

 「中佐!緊急入電です!!」

 

 一人の通信兵が駆け寄って来て背負っている情報端末から受話器を手渡して来た。

 何かなと思い耳を当てると息の荒いおっさんらしき吐息が…。

 新手の嫌がらせか?

 

 『こちら草壁だ。すまん敵に突破された…』

 「被害状況は如何です?」

 『大隊の半数が溶けた…。敵の策略にはまって追撃指示を出した俺の失策だ!!』

 

 嫌がらせの方が良かったな。

 最悪の状況ではないか。

 詳しくは聞かないが島津の釣り野伏せみたいな戦略にやられたらしい。

 

 「あぁ~、了解です。では初期に用意していた脱出プランAを放棄。プランCで逃げましょうか」

 『逃げるなど出来ない!俺の命令で多くの部下が!義勇兵として名乗りを挙げた若者を殺してしまったのだ!おめおめ逃げ帰ることなど出来ない』

 「一時の感情で生き残っている味方を巻き込んで自爆とかマジで止めて下さい」

 『しかし俺には責任が!!』

 「責任?責任はここの総指揮官を任命された俺の仕事だ。盗らないでくれ。兎も角、逃げ延びて下さいよ。日本の未来の為にも。待ってますからね」

 

 そう言い切ると受話器を戻してため息一つ。

 弦月三式などの自身の下に付いている部隊にはヒットアウェイの戦法で常に動き続け、相手との交戦時間を短く駆けまわれと指示し、草壁中佐の戦車大隊には敵を防ぐのと宮城に居るブリタニア軍に対して睨みを利かして貰っていたのだ。

 想定よりも30分以上も早い撤退。

 仕方ないかと思って考えを切り替える。

 

 「はいはい、全員撤退するよ。防衛線は崩壊した。プランCにて撤退開始。重い荷物なんかは置いて行っていいからね。我が身第一で脱兎のごとく逃げんぞ」

 「ここを捨てるのですか!?」

 

 ビルより降りて来たナオトが一番に反応して寄って来る。

 まるで信じられないと言っている問いに対して白虎は「捨てる」と即答で答える。

 

 「我々が優勢なのです。ここで踏ん張れば――」

 「ここで踏ん張れば神風が吹いて助かるとでも?すでに台風の季節は過ぎてそんな期待できないよ。寧ろ今来られたら俺達の方が被害を食うさ。右翼担当の戦車大隊が崩れたんだ。正面の部隊は俺たちで抑え込めたとしても宮城よりブリタニア軍が押し寄せてきたら袋の鼠だぞ」

 「で、ですが…」

 「攻め時もそうだが引き時を間違えるな」

 「―――ッ!?………了解です」

 

 白虎の指示に従い撤退を開始。

 防衛線を引くと同時に白虎は脱出経路や仕掛けを後方の部隊に任せており、脱出経路以外の橋を落として、デコイの地雷と爆薬を配置させている。

 草壁中佐を含めた残存の戦車大隊が通過しきると手動で爆破させ、追撃していたブリタニア戦車群を吹き飛ばした。これにより爆破物を確かめながら必死にデコイ地雷を一つ一つ処理しなければならなくなったブリタニア軍は追撃を諦めるしかなくなったのである。

 

 そう。

 すべては白虎を始めとした一部の対ブリタニア戦略に長けた人物を注意してブリタニアの進軍速度が鈍っているのだ。

 当の本人としては敵の進軍速度が鈍って有難い反面、自分が標的にされているという事実に項垂れるのである。

 

 

 

 この後、咲世子より連絡を受けた白虎は使える移動手段を用いて急ぎ東京へと向かうのであった…。


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