と言う事で、とりあえず序章4話の投稿を開始します。
第一話 アゲアゲで行きますよ!
悪魔との契約をご存知ですか?
ええ、そうです。
あの願いを叶えて貰う代わりに魂を差し出すってヤツです。
え?違います違います!別に悪魔召喚の儀式をしたわけじゃありません!
あの日、私が彼女とした約束は悪魔との契約だったんじゃないかって、後にそう思っただけなんです。
もっとも、悪魔は彼女ではなくて私の方だったんですけど……。
彼女はどんな人だったか…ですか?
そうですね……。
私と一緒にあの戦争を戦い抜いた彼女は、悪魔のような残酷さと、天使のような純真さを合わせ持っていました。子供みたいだったと言っても良いかもしれませんね。
だって彼女は、愛するあの人と一緒に居たかっただけだったんです。
一緒に居たかったから……彼女は消えて行ったんです……。
~戦後回想録~
匿名希望の元艦娘へのインタビューより抜粋。
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平成3年春。
年号が正化31年の五月を最後に平成に変わって約3年ですか。月日が経つのは早いものですね。
と言う事は、この戦争が始まってから14年。
4年前の大規模作戦の成功により、日本は他国に比べて平和な方ですがそれでも深海棲艦の出没はなくなってはいません。
もっとも、そのおかげで、艦娘を辞めた今でも失業せずに済んでいるのですが……。
あ、申し遅れました。
私は瀬戸内海に面する艦娘養成所で教官を務めている
「あのぉ……」
おっと、私が目の前の問題児の処遇を考えるのに嫌気が差して現実逃避していたら、ポニーテールにした焦げ茶色の長い髪をユラユラ揺らした問題児(ずぶ濡れ&スクール水着&毛布装備)が痺れを切らしたみたいです。
「何ですか?諦めてくれる気になりましたか?」
「絶対に諦めません!」
はぁ……。目の前の問題児はまだ諦める気がないご様子。このやり取りも何度目でしょうか……。
「
「冗談じゃありません!歴とした本名です!」
わかってますよ。
貴女が半年前に初めて不法侵入した時に徹底的に調べましたから。
他人が聞いたら冗談か自意識過剰の馬鹿のどちらかに思われかねない名前を持ち、机を挟んだ私の向かい側でパイプ椅子に拘束された不法侵入者、大和 撫子(18)は艦娘志願者で、養成所に入れてくれと1カ月おきくらいの頻度で不法侵入を繰り返す問題児です。いや、犯罪者と言った方が適当でしょうか。
「何度もご説明したと思いますが、貴女には艦娘になれる適性が無いんです」
「そんなの!やってみなければわからないじゃないですか!私に適合試験を受けさせてください!」
「無理です。現在、戦況が小康状態なのもあって、適合者がいない艤装が有りません。適性のある子達が艤装の空き待ちな状態なんですよ?これも何度も説明したじゃないですか」
「で、でも……。そうだあの人!え~と…艦名は……。矢矧さん!彼女は一昨日艦娘になったとお聞きしました!」
「先代の矢矧が引退して、今の矢矧が決まるまで半日ほどしかかかっていません。その半日も、艤装を横須賀からこの養成所に運び込んで試験が終わるまでにかかった時間です」
それくらい、今は艦娘候補者が溢れています。私が艦娘だった頃には考えられなかった事ですけど、今はこれが現実です。適性のない者を養成所で養う余裕など、養成所の懐事情を考えればありません。
「だいたい、貴女がなりたいのは駆逐艦でしょう?そんなにデカい図体して」
「デカっ!?デッカくなんてありません!」
いや、大きいでしょ。
貴女、身長が180センチ近いじゃないですか。
しかも、胸もお尻も相応にボリュームがありますし、顔立ちや髪の色が日本人なのが救いですけど、体型だけ見たら完全に外国人ですよ。
艦娘よりグラビアモデルになるのをお勧めしたいくらいです。
「艦娘の艤装にある程度の年齢制限が有るのはご存知ですよね?」
「知ってますけど……。ほら、呉や横須賀に胸の大きい駆逐艦が居ると聞いた事がありますし」
「胸がデカい駆逐艦は何人か居ますが、身長が下手な成人男性より高い駆逐艦は存在しません」
少し捕捉しますが、艤装に適合出来る年齢制限はあくまで見た目の年齢です。
実際、小学生くらいの年齢の子しか適合出来ない朝潮型の艤装に、発育が悪かったため13歳でも10歳そこそこにしか見えなかった子が適合した例も有ります。まあ、私の元姉妹艦の事なんですけど。
ですが、貴女は完全にアウトです。どう見ても成人女性にしか見えませんもの。
貴女では、割と年齢制限が高い陽炎型以降の駆逐艦にもなれないでしょう。
「じゃ…じゃあ軽巡なら……」
「貴女の脳みそは空っぽですか?艤装が無いんです!何度言わせるんですか!」
「艤装が無いなら作れば良いじゃない!」
ダメだ。相変わらずこの子は話が通じない。
無いなら作れば良い?何処のアントワネットですか!それが出来るなら苦労なんてしませんよ!頭に来ました!
「これは最後通告です。もし、また貴女が不法侵入をしようとした場合、次は容赦なく射殺します」
「しゃ、射殺!?冗談…ですよ……ね?」
「冗談ではありません。ここは養成所とは言え軍事施設です。そこに不法侵入してただで済むわけがないでしょう?」
「でも今までは……」
「今までは今までです。本来なら憲兵か警察に引き渡すところを、貴女が艦娘になりたいと言う熱意を尊重して穏便に済ませてきただけです」
それでも半年間で計6回。さすがに我慢し過ぎました。
私が甘すぎたから、彼女をここまで増長させてしまったのでしょう。人に嫌われるのは慣れていませんが、責任は取らないと。
「だったら、これからも穏便に……」
「甘えるんじゃない。下世話な話になりますが、こうしている間にも私の給料は発生しています。その給料がどこから支払われるのかわかりますか?」
「え~と……。軍ですか?」
「そうです。その軍から支払われるお金はどこから来るか。それは国です。頭が空っぽの貴女でも理解できるよう、もっと分かりやすく言いましょう。税金です!貴女みたいな馬鹿女を相手にしているこの瞬間にも、国民の血税が使われているんです!」
「そ、それはつまり……」
「貴女の相手をしている無駄な時間は無いと言う事です。今晩は独居房に泊めてあげますから、明日の朝一でバスなり電車なり使って家に帰りなさい」
「でも……」
「いいですね!」
「はい……」
少し厳しく言い過ぎたかしら……。いや、これで良いんです。艦娘にならずに済むならそれに越した事はありません。
この子に限ってそんな事は無いと思いますけど、昨今は元艦娘と言う肩書が女性のステータスになってるんだとか。元艦娘の身としては嘆かわしい限りですね……。
「失礼します。矢矧、参りました」
コンコンとノックをした後、私が彼女を押し付けるために呼んでおいた教え子が到着しました。
彼女は晴れて軽巡洋艦 矢矧の艤装と適合した私の初めての教え子です。
明日には迎えが到着して横須賀鎮守に配属になるのですが、空いてる子が彼女しかいなかったので仕方なく、本当に仕方なく不法侵入者の面倒をお願いしたんです。
けっして、面倒くさかったからではありません。
「ご苦労様です。配属前に面倒事を押し付けて申し訳ないんだけど、彼女を独居房へ。一晩面倒を見てあげてください」
「面倒事なんてとんでもない。お世話になった大城戸教官の役に少しでも立てるなら、この矢矧、光栄です」
「ありがとう。では、お願いしますね」
私はあの子を矢矧に押しつけ…もとい!預けて臨時の取調室となった教官室を後にしました。
あの子の相手をしている内に、すっかり日も暮れて夜になってしまったようですね。晩御飯に丁度良い時間ではありますが……。
「終わったのかい?大城戸君」
「はい、所長。相変わらずでしたよ」
自室に帰って夕食(お湯を注いで3分待つだけ)でも作ろうかと思案しながら廊下を歩いていると、この養成所の所長に声を掛けられました。
所長が相手をしてくれていれば、私は今頃夕食と入浴を済ませて録り溜めているドラマを見ながらビールと洒落込んでいたものを……。
「そんな恨めしそうな顔で見ないでくれ。せっかくの美人が台無しだよ?」
「お褒めに預かり光栄ですけど、美人で得した事なんてありません」
私はなんとなしに、窓ガラスに映った自分を見てみました。
艦娘だった後遺症で薄群青色に染まったままの瞳。瞳と同じ色の髪は背中の中ほどまで伸ばして首筋辺りで一纏めにしています。
二十歳を過ぎている割に幼い印象を残す顔が少しコンプレックスになってますけど、まあ美人の部類でしょう。
スタイルも平均以上。身長は低めですが、誰が何と言おうと平均以上です。
胸だって、引退した姉妹艦と比べても上から数えた方が早いくらいには大きいですもの。
「そうだ、例の艤装だけど、1時間ほど前に無事届いたよ」
「例の艤装?あ~……そんな話もありましたね……」
有った。
適合者が居ない艤装が一つだけ有った……。いや、有ったところで同じか。彼女には艦娘になれる適性が無いのだから。
「では、試験は予定通りに?」
「そのつもりだよ。予定通り明後日の午後から始めようと思っている」
「建造されて4年ですか……。最高記録をあっさり更新しちゃいましたね」
「今までの最高は3年だったな。そう言えば、彼女もこの養成所出身だったか。懐かしいな……」
艦娘の運用が始まって14年。
艤装の適合者が見つからない期間の最高記録は、その例の艤装が建造されるまで3年が最高でした。先に言った通り、あっさり抜いちゃいましたけどね。
「4年か……。長かったような、アッという間だったような……」
私は所長と別れ、自室に戻ってシャワーを浴びました。いくら女性がほとんどとは言え、身だしなみを整える癖は残しておかないといざという時に困る事になりますからね。
「彼氏なんて、もう何年も居ませんけど」
最後に男性と付き合ったのはいつだったかしら。
姉妹達に紹介する事はしなかったけど、正化29年の末に行われた大規模作戦の時にはたしか交際してたはずです。
次の年に、胸の大きさに文句言われたんで別れちゃいましたけど、あのまま付き合ってたら結婚とかしてたのかなぁ……。
胸の大きさが原因で別れたせいで、しばらくの間『貧乳はステータスだ』と、自分を慰めていたのも今では良い思い出…でもないか。
「はて…妙に静かですね……」
風呂上がりのビールでもと思って冷蔵庫に向かう途中、部屋の中が妙に静まり返っているのに気がつきました。
就寝時間は過ぎてますから人の声がしないのは当たり前ですが、これはその手の静けさとは違う。世界から音が消えたと錯覚してしまいそうな静けさです。
それに、この胸のざわめき。高揚してると言っても良い胸の高鳴りにも覚えがあります。
「こんな所をなぜ……。いや、考えてる暇は無いですね」
私は風呂上がりのビールを諦め、スマホである人物に電話をかけました。急がないと。私の予感が確かなら、あと数分もしたら警報が鳴る。
「久しぶり。寝てたとこ悪いんだけど、貴女経由で呉鎮守府に出撃を要請して欲しいの」
私は相手の『こんな時間になんなのよぉ~…』と言う苦情は一切気にせずに要件だけを手短に伝えました。あの子なら、これだけで事態を察してくれるはずと信じて。
「大丈夫よ。呉の艦隊が到着するまでは私が保たせるから」
たぶん、無理だろうとは思いました。
私はもう艦娘じゃない。
内火艇ユニットと呼ばれる訓練用の艤装で海に出ることは出来るけど、そんな物じゃ深海棲艦に太刀打ち出来ない。
私に出来るのは敵を攪乱し、目眩まし代わりに模擬弾をバラ撒くのが精一杯でしょう。
まあ、模擬弾で敵を倒す手段が無いわけじゃないですけど。実際にやった事は無いんですよねぇ……。
ビー!ビー!ビー!
当たって欲しくない予感が的中してしまいました。
養成所の沖合20海里に浮かべてある警戒用のブイが敵を感知したようです。
警報と一緒に、施設内に居る人間向けの避難指示も流れています。「これは訓練ではない」なんてセリフ久しぶりに聴きましたよ。
「そんなに心配しないで。私は死んだりしないから」
そう言って、私の身を按じてくれる元妹との電話を切りました。さて、お次は着換えて放送室ですね。
「所長。状況はどうですか?」
「大城戸君か。先ほど、近隣住民と候補生達への避難指示が終わったところだ。今から呉に救援要請を……」
「必要ありません。警報が鳴る前に妹…失礼。横須賀提督経由で要請しておきました。あと2時間もすれば来るでしょう」
非常時に司令室も兼ねる放送室に着くと、所長と数名の教官が慌ただしく電話と格闘していました。
皆さん、表情に余裕が無いですね。所長を除いて、実戦経験の無い人ばかりだから仕方ないですけど。
「非常事態のため、海軍条例15条3項に基づき、現時刻をもって皆さんは私の指揮下に入ってもらいます。よろしいですね?」
「はっ!全養成所職員は、これより大城戸少佐の指揮下に入ります!」
電話の対応で忙しい職員を代表して、所長が了承した旨を伝えてくれました。
あ、一応説明しておきます。
海軍条例第15条3項とは。
平成2年に就任した現海軍元帥によって制定された、深海棲艦絡みの非常事態に置ける指揮系統の順位付けに関した条例です。
簡単に言うと、深海棲艦の襲撃を受けた地域に提督や艦隊指揮官が居らず、代わりに元艦娘が居た場合、階級や所属等は関係無しにその者の指揮下に入りなさいと言うものです。
この条例が制定された理由は二つ。
一つ。
元とは言え、最低4年の任期を終えた元艦娘は、艦種を問わず深海棲艦との戦いに長けたプロフェッショナルであるから。
二つ。
艦娘、及び元艦娘以外の軍人に深海棲艦と直接交戦した経験のある者が稀だから。
要は、化け物相手の戦いを知らない奴は知っている奴に従えってことです。
「敵の規模はわかりますか?」
「確認出来ているだけで12隻。重巡洋艦1軽巡洋艦2駆逐艦9。真っ直ぐ此方に向け進行中です」
「規模が大きいお陰で発見が早まりましたね。もっとも、発見が早かっただけで事態は好転しませんが……」
制海権を取り戻している瀬戸内側にしては艦隊の規模が大きい。
まさか、徘徊している野良の艦隊を掻き集めた?だとしたら理由は?
深海棲艦の襲撃対象に戦略、及び戦術的な目的がない手当たり次第の襲撃だという事はこの14年でほぼ定説となっています。
けど、今回は違う。
連合艦隊規模で、明らかに
「いや、二度だけ有りましたね」
8年前の『舞鶴襲撃』そして7年前の『横須賀襲撃』。しいて言うならその二つに似ています。
舞鶴の時は艦娘が減ったのを狙ったかのように。
横須賀の時は、呉鎮守府が棲地攻略にかまけて担当軍区の哨戒を疎かにしているのを知っていたかのように、敵艦隊は目前に迫った呉艦隊を嘲笑って棲地を放棄し、横須賀鎮守府を襲撃しました。
でも不可解な事が一つ。
先に上げた二つと違い、ここは数ある養成所の一つです。潰したからと言って大局には影響しません。
考えられる理由は一つ。
今日届いた艤装です。
その艤装は長門型戦艦を上回る火力と装甲を備え、適合者さえ見つかればたった一人で戦局に影響を及ぼすほどの潜在能力を秘めた艤装です。
実際、過去にその二番艦がたった一撃で敵艦隊を文字通り粉砕した事があります。実際にこの目で見ましたから間違いありません。
敵の襲撃に目的があるとするなら、間違いなくその艤装でしょう。
「やはり、例の艤装の破壊が目的でしょうか」
「私もそうだと思います。ですが……」
所長も私と同じ考えに到ったようです。同時に、同じ疑問にも。
何故、今回に限って襲撃を?
あの艤装がここに届けられたのは初めてではありません。
何故なら、あの艤装は建造されてからの4年間、各地にある養成所を周りながら適合試験を繰り返していたのです。オブラートに包まず言うなら、たらい回しにされていました。
何者かが、あの艤装がここに有る事を深海棲艦にリークした?それとも、過去には無かった要因が今回は有った?
前者は考えづらいですね。奴らは人間を問答無用で殺しますから。
では後者はどうか。
過去には無く、今回はある要因……。
まさか、彼女が居るから?彼女と艤装が同じ場所にあるからですか?だとすると、彼女はあの艤装に適合出来ると言う事になります。適合可能な者が近くに居るから艤装が活性化し、何らかの手段で深海棲艦はそれを察知して襲撃して来たのでは?
いやいや、都合が良すぎます。
過去に行われた調査と実験で、艤装と適合出来る条件はほぼ解明されています。それに照らし合わせれば、彼女が適合出来るわけがないんです。
名前に艤装と同じ名を冠していますが、それが適合可能条件にならない事も他の艤装で確認済みです。
やはり今回の襲撃は、偶々あの艤装の所在を深海棲艦が察知したからと考えるべきでしょう。
「仮定とは言え、目的がある程度絞れたのならあとは対応するだけですね。矢矧は今何処に?」
「現在、艤装を装着して整備場で待機中だが……」
「艤装に適合したばかりの彼女だけで迎撃が困難なのはわかっています。私も出ますから安心してください」
「君も…!?いや、失礼。少佐も出撃されるのですか?」
「当然です。養成所で深海棲艦相手に戦闘が出来るのは私と矢矧だけですもの」
「しかし少佐は……」
「わかってます。無理はしません」
と、言うのは方便です。
無いに等しい戦力で、12隻もの敵を相手に時間を稼ぐには無理をするしかない。そんな事は所長もわかっているはず。
「以降の指揮は所長に一任します。敵が10海里内まで接近したら私と矢矧は戦死したものとし、迷わず施設を放棄して退避してください」
「しかし!」
「これは命令です」
「……了解しました。ご武運を」
私は所長の敬礼に見送られ、放送室を後にして矢矧が待っているはずの整備場に向かいました。
状況は絶望的。私と矢矧だけで敵の侵攻を食い止めるのは至難の業。矢矧はともかく、私では相手を道連れにすることも出来ない。
「それなのに…気分が高揚していく……」
久しぶりの実戦だからかしら。けど、私は戦闘狂じゃない。それなのに、早く海に出たいと思ってる。早く敵と撃ち合いたいと思ってる。
まったく…これだから、駆逐艦は血の気が多いと言われるんでしょうね。
「大城戸教…いえ、少佐!あの…やはり敵襲…ですか?」
「はい。貴女には、これから私と共に迎撃に向かってもらいます。良いですね?」
「迎撃?敵の規模は!?私たち二人だけでどうにかなる数なんですよね!?」
はぁ……。
予想はしてましたが、やはり臆病風に吹かれているようです。
初めての実戦、しかも相手の数は6倍。同情はしますけど、貴女はそんな態度を取ってはいけません。
貴女は軽巡洋艦なんですよ?駆逐艦の引き連れて、先陣切って敵艦隊に噛みつく水雷戦隊の親玉なんです。そんな事では、血の気が多い駆逐艦はついて来ません。
「狼狽えるんじゃない!敵の数は高が6倍!一人で6隻づつ沈めればいいだけでしょう!」
「そんな…簡単に言いますけど、私は練度1のド新人ですよ?それに教官だって……内火艇ユニットでは……」
「貴女の練度が1だろうと、私が使うのが内火艇ユニットだろうと問題ありません。貴女は敵の背後から撃てばいい。敵は全て、私が引きつけます」
私は矢矧と話をしつつ、60リットルサイズのリュックサイズと同じくらいのサイズの内火艇ユニットを背負い、左手に探照灯、右手には訓練用の12cm単装砲(仮)を装備しました。
こんな装備で深海棲艦と戦う事になるとは、艦娘だった頃は夢にも思いませんでしたね……。
「探照灯まで……。自殺行為です!内火艇ユニットで出せる速度は精々10ノットなんですよ!?」
「だから何です?例え10ノットしか出せなくても、当たらなければどうと言う事はないでしょう?」
「どうやって避けるんですか!そんな低速な相手なら、私でも余裕で……」
「当てれますか?私も舐められたものですね。だったら見せてあげましょう。私の戦い方を」
調子に乗るんじゃないド新人。
貴女が何発撃とうが私には掠りもしません。
深海棲艦共の砲撃も同様です。私には当たらない。掠らせない。狙いすら着けさせない。私を誰だと思っている!
「着いて来なさい矢矧!臆病な貴女に、艦娘の戦い方を。いえ、
私は、今だ月に照らされた水平線の彼方に居る敵艦隊を見据え、矢矧を伴って浜へと歩き出しました。
相手は高々12隻。しかも近海に居る様な奴らだ。練度は大したことない。ブランクを埋めるには丁度良い相手です。
「さあ!補習授業の始まりです!アゲアゲで行きますよ!」
平成3年春。
こうして、私の教官人生で最も長く、最も激しい夜が始まりました。