艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第十話 貴女の全てを寄越しなさい!

 

 

 『脚技(あしわざ)』とは。

 私の先代に当たる初代神風が創始し、創作した『トビウオ』『水切り』『稲妻』の三つと、今も佐世保鎮守府に所蔵している時雨さんが得意とする『波乗り』。さらに、二代目朝潮さんが解体される前に思い付き、満潮さんに伝授した『黒独楽』の二つを含めた合計五つの総称です。

 

 「い、五つもあるんだ……」

 「はい。もっとも、私が教えることが出来るのは『トビウオ』『水切り』『稲妻』の三つですけど」

 

 時刻は07:00(マルナナマルマル)

 『喫茶 猫の目』名物の『いらっしゃいませ』を見て気絶していた矢矧さんが復活したので、矢矧さんの部屋で少し話した内容からもう少し踏み込んだ『脚技』の説明を窓際の席で朝食を食べながらしてるんだけど……。

 まだ若干顔が青いわね…大丈夫かな?

 

 「他の二つは?」

 「『波乗り』と『黒独楽』に関しては教え方はおろか、どういう技なのかも知りません。鎮守府に居る人で知ってそうなのは…満潮さんと円満さん。あとは桜子先輩くらいかな?」

 「桜子先輩?」

 「私の先代、初代神風です。昨日会いませんでした?矢矧さん達を救助するために出撃したんだけど……」

 「それっぽい人を見たような…見てないような……。あ!花組とか言う5人組の中に居た人?」

 「そうです。髪が私みたいに紅い人が居たでしょ?それが桜子先輩です」

 

 花組についても一応説明しておいた方がよさそうね。

 奇兵隊総隊長近衛組。通称『花組』は桜子先輩を隊長として、今は店の裏で朝風達と談笑している先代神風型駆逐艦の4人の計5人で構成されている奇兵隊の一部隊です。

 なぜ花組と呼ばれているかと言うと、メンバー全員が名前に花の名を含んでいるからだそうです。

 奇兵隊で一番お金がかかる集団とも言われてますね。

 その理由は、花組が拳銃なら跳ね返せる程度の『装甲』を陸上でも形成する事が出来る18式内火艇ユニット『薄衣(うすぎぬ)』の強化版、20式内火艇ユニット『狩衣(かりぎぬ)』を使用できるからです。

 

 「そんな物があるんだ……。その狩衣が高いの?」

 「値段までは知りませんがそれなりに高いと思います。けど、お金がかかるのは狩衣のせいじゃありません。むしろ装備にかかるお金は奇兵隊で一番安く済んでるかも」

 「じゃあどうし…いや、まさかとは思うけど……」

 「お察しの通りです。花組は奇兵隊で一番、戦闘区域に与える被害が大きい(・・・)んです」

 

 昨日の出撃でも、熱海街道を使用不能になるまで破壊しましたしね。あの辺りの交通事情は詳しくないけど、きっと尋常じゃない規模の損失をもたらしているはずです。

 

 「内火艇ユニットって凄いのね……。訓練用の艤装としか思ってなかったわ」

 「訓練用とは言え、一応は艤装ですから」

 

 狩衣は内火艇ユニットに分類されていますが、設計の段階から陸上で人間相手に使用することを前提に作られた、言わば陸戦用の艤装です。

 矢矧さんが訓練で使ってたのはリュックサックみたいな外見だったと思うんですけど、狩衣はコートの様な外見…と言うかコートですね。

 コート自体も防弾、防刃仕様なんですが、『装甲』を張ることに特化させているので、陸上でもライフル弾を楽に跳ね返せる強度の『装甲』を張ることができます。

 しかも!艦娘や深海棲艦と同じく、通常兵器をほぼ無効化するチート仕様。これを装備した花組メンバーに勝てるのは艦娘か深海棲艦。もしくは、同じ様な装備をした人だけです。

 

 「攻撃が効かないんじゃそうなるよねぇ……」

 「攻撃が効かないだけじゃありません。狩衣を装備した先輩達に切り裂けない物は事実上存在しません」

 

 これが戦闘区域となった地域に甚大な被害をもたらす最大の理由。

 狩衣で形成できる『装甲』は、例えば刀に纏わせれば物理抵抗を無視して物体を切り裂き、人間離れした膂力を使用者に与えます。

 補足するけど、膂力を与えると言っても筋肉が増える訳じゃないわ。

 狩衣で形成、展開出来る『装甲』は使用者の動作を強化、増強するのにも応用できるの。要は、不可視のパワードスーツね。10馬力くらいって言ってたかな?

 

 「だから車が吹っ飛んでたんだ……」

 「それでも、真っ当な艤装に比べれば玩具みたいな物ですよ?艤装なら同じ事が何百倍、何千倍ってレベルでできますから。人間相手に使うことはないけど、艦娘は『装甲』の強化、増強機能の恩恵を無意識レベルで受けているんですよ?」

 「え?そうなの?」

 「当然です。この機能が無ければ、艤装を背負う事なんて出来ませんし砲撃の反動で体が潰れちゃいます」

 

 艤装って見た目より重いのよ。

 駆逐艦の艤装ですら、大人の男性がようやく持ち上げられるか出来ないかって位重いし、戦艦の艤装とかになったら数人がかりらしいわ。

 それに、砲撃の反動に耐えることが出来るのもこの機能のおかげ。見た目は玩具でも、艦娘が使用すれば実砲と同程度の性能になる砲を撃ったらその反動だけで死ねちゃうもの。

 その機能を上回る反動を受けると体に影響が出ちゃうみたいだけど、そんな事がありそうなのは戦艦くらいね。

 

 「へぇ…知らなかった……」

 「知ってる人の方が少ないですから気にする必要無いですよ」

 

 深海棲艦を拳で殴るなら話は別だけど。

 過去にそんな事をした戦艦と軽空母が居たらしいけど、今は一人くらいしか思い浮かばないわね。

 

 「あ、居ることは居るんだ」

 「戦闘で使用してるかどうかはわかりませんけど、訓練に乱入してきた長門さんをガゼルパンチで吹っ飛ばしてるのを何度か見たことがあります」

 「く、訓練に乱入!?長門さんって…戦艦 長門の事よね?」

 「はい。あの人って、とある駆逐艦にベタ惚れでして……」

 

 今の子は一方的に被害を受けてるけど、その子の先代にはドッカンドッカン吹っ飛ばされてました。横須賀の名物と呼ばれていた時期もありましたね。

 人が文字通り殴り飛ばされる光景なんて、漫画やアニメ以外じゃ滅多に見れないから。

 

 「こぉ~ら!軍事機密をペラペラ喋ってる悪い子はだ~れだ♪」

 「いひゃいいひゃい!もう!ホッペタ抓らないでよ先輩!」

 「相変わらず柔らかいわねアンタのホッペタ。ず~と抓ってられるわ」

 「伸びるからやめて!」

 

 私の背後から両のホッペタを抓ってきたのは、さっき名前だけ出て来た桜子先輩。

 私と同じ紅い髪のショートボブに奇兵隊特有の黒い軍服、その上からコートの外見をした狩衣を羽織ってるわ。普段は軍服だけなのに、なんで狩衣まで装備してるんだろ?

 

 「もぉ!私の後ろに忍び寄るのやめてくださいっていつも言ってるじゃないですか!」

 「あら、つれないわね。可愛い後輩とスキンシップしたいと思うのは元艦娘の性よ?」

 「嘘ばっかり。私を玩具にして遊びたいの間違いでしょ?」

 

 ちなみに、桜子先輩は超がつくほどのトラブルメーカーで、横須賀鎮守府で起こる騒動の8割は先輩が起こしてると言われているわ。しかも、質が悪い事にお咎めはほぼ無いと言って良い。

 なんでそんな横暴がまかり通ってるかと言うと、色々とコネもあるけど単純に強いから。

 妊娠中と、子供が生まれて1年くらいは大人しかったらしいんだけど、先輩を力尽くで止めてた二人が大本営に異動したのと同時期くらいから猛威を振るいだしたそうよ。

 昨日の無断出撃が良い例ね。

 花組のお姉様方が二式大艇に乗り込むのを見たからマズいと思って、話し中で電話が繋がらなかった円満さんの代わりに満潮さんに教えたから最悪の事態は避けれたけど、そうしなかったら熱海街道が使用不能になる程度じゃ済まなかったかもしれないわ。

 だって、奇兵隊が全力出撃しようとしてたんだもん。

 満潮さん経由で円満さんに伝わってなかったら、間違いなく奇兵隊が全員出撃してたわ。

 

 「昨日お父さんに怒られて凹んでるのよぉ。だから癒して?」

 「自業自得じゃない。それに、どうせ『桜ちゃん』を使って元帥さんをポンコツにしたんでしょ?」

 「残念!桜が寝た後だったからその手は使えなかった!」

 

 エッヘン!と胸を張って言ってるけど自慢になってないから。

 あ、『桜ちゃん』って言うのは、もうすぐ三歳になる先輩の娘さんの事ね。母親似の容姿と、たぶん先輩の髪色が中途半端に遺伝したと思われる桃色のグラデーションが入った髪の、母親とは似ても似つかないほど内向的で人見知りが激しい女の子よ。

 

 「と言う事は、この人って元帥閣下の……」

 「ええ……。これでも元帥さんの娘なんです」

 

 先輩の「これでもって何よこれでもって!」と言う抗議は無視するとして。

 元帥さんは桜ちゃんの声を聞いたり傍に居たりすると、恐怖を感じるほど気持ち悪くなりますが基本的に真面目で厳しく、威厳のある人です。

 そんな人に育てられた先輩が、どうして独裁者も裸足で逃げ出しそうなくらい我が儘になったのか不思議でしょうがないわ。

 

 「ところで先輩。そんな恰好してどこ行く気ですか?また無断出撃?」

 「んな訳ないでしょ。円満に頼まれて、朝潮の護衛も兼ねて大和…だっけ?を監視しに行くのよ」

 

 あ~なるほど。だから、そんな暴れる気満々の格好をしてるんですね。

 ってなる訳ないでしょ!円満さんは何考えてるの!?先輩に暴れる理由を与えるなんて弾薬庫に爆弾を仕掛けるのと同等の行為よ!?

 いや、待って。円満さんはけっしておバカじゃない。その円満さんがリスクを承知で先輩に頼むって言う事は、監視対象の大和さんがそれだけ危険だと言う事。それこそ、先輩に武力制圧させなければならいほどに。

 けど、昨日の夜見た感じでは能天気なお嬢様って感じだったけど……。

 

 「大和を監視!?彼女、また何かしたんですか!?」

 

 むむ?矢矧さんは何か心当たりがあるみたいね。監視と聞いて、テーブルに身を乗り出して先輩に詰め寄ったわ。

 

 「アンタ誰?」

 「ずっと目の前に居ましたよ先輩。彼女は矢矧さん。昨日、無断出撃までして救助しに行ったじゃないですか」

 「え?私は旦那を迎えに行っただけだけど?」

 

 いや、そんな心底不思議そうな顔で聞き返さないでください。

 わかってますよ?先輩が旦那さんである海坊主さんLOVEなのは嫌と言うほどわかってます。先輩と出会ってからの2年余りで嫌と言うほど見せつけられましたから。

 けど、少しは他の人にも興味を持ってください。直接は会ってなかったのかもしれませんが、救助された矢矧さんが「ついで以下だったんだ……」ってショック受けてます。

 

 「おっと!こんな事してる場合じゃなかった!早く行かなきゃまた円満に文句言われちゃう!って事でこれ(・・)お願いね神風!」

 「え?これってど…ぐえっ!」

 

 うん、なんとなく予想はしてた。

 『猫の目』に着いたら普段マスターをやってる海坊主さんの姿が見えな理由を、代わりに居た金髪さんに尋ねてみたら海坊主さんは昨日の後始末のために出てると言っていた。

 そして先輩は今からお仕事。じゃあ、娘の桜ちゃんの面倒は誰が見るのか。

 さっき少し言ったけど、桜ちゃんは内向的で人見知りが激しいから面倒を見れる人が限られちゃうの。慣れるとそんな事ないんだけどね。私なんてめちゃくちゃ懐かれてるし。

 昨日と一昨日も海坊主さんが出てたから、先輩に呼び出されて桜ちゃんの相手をしてたわ。そのおかげで、奇兵隊が全力出撃しようとしたのにも気づけたって訳。

 

 「かみっか!」

 「はぁ~い。かみっかですよ~。ってか先輩。愛娘をこれ(・・)呼ばわりはないんじゃないですか?」

 

 先輩が私の頭に乗せて来た何かを降ろしてみると案の定桜ちゃんだった。

 あ、なぜ私が『かみっか』と呼ばれているかと言うと、まだちゃんと神風って言えないからよ。

 

 「細かい事は気にしない!じゃあね桜。ママお仕事行って来るからね~♪」

 「あい!」

 

 右手同士でかるくタッチするお出掛けの挨拶。

 先輩も海坊主さんも出かける前はかならずこれをやって出掛けるわ。もちろん私もね。桜ちゃんも気に入ってるのか、無駄にタッチを求めて来る時があるわ。たぶん「bye」って言ってるつもりなんだろうけど「あい!」って言いながら短い右手を伸ばして来る桜ちゃんってすんごい可愛い…って、それは今どうでもいいか。

 

 「それじゃ行って来るから。後頼んだわよ!」

 

 そう言って、先輩は慌ただしく店を出て行った。

 黙って大人しくしてれば美人なのになぁ……。子供を産んでるとは思えない程スタイルも良いし、意外だけど家事も完璧で子供の面倒見も良い。気が短いのと、口より先に手が出る性格じゃなければ良妻賢母を絵に描いたような人なのに……。

 

 「かみっか!まんま!」

 「は~い。まんまですね~。私のおっぱい触っても出ないからちょっと待ってね~」

 

 朝ご飯食べさせてないのかしら……。いや、そんな事はないか。

 桜ちゃんの体調や機嫌で変わるけど、先輩と海坊主さんは食に関しては一家言あるらしく、朝昼晩絶対に食べさせるもの。よく「食べ物に困らない事ほど幸せな事はないのよ?」って言いながら桜ちゃんに食べさせてるわ。

 と言う事は、単純にお腹が空いたのね。子供って燃費悪いし。

 

 「金髪さ~ん。桜ちゃんが食べれる物あります?」

 「金髪さんってなんだ金髪さんって。どの艦娘にしてもそうだが、人の名前を覚えちゃいけないってルールでもあんのか?」

 

 それは私に言わないでください。単純に、金髪さんの名前が覚えにくいだけなんじゃないですか?

 

 「っつか、お嬢はアレルギーなんざねぇだろ?軟らかけりゃ何でもいいだろ」

 「それもそっか。桜ちゃんは何が食べたい?」

 「ぷいん!」

 「じゃあプリンで。あ、喉に詰まるような物はトッピングしないでくださいね?」

 「わぁ~ってるよ。ちょっと待ってろ」

 

 わかってるとは思いますけど念のためです。桜ちゃんに万が一の事があれば大事になりますもの。

 先輩が暴れるだけならまだしも、元帥さんや『一人艦隊』と呼ばれているあの人まで加わっちゃいますからね……。そうなったら、鎮守府どころか関東一円が廃墟になっちゃうわ。

 

 「大和ったら、今度は何をしたのかしら……」

 「矢矧さんは大和さんと同じ養成所出身でしたよね?どんな人なんですか?」

 

 理由まではわからないけど、円満さんが先輩を監視につける程の人だ。只者じゃないのは確実として、矢矧さんの青ざめた顔を見る限り相当の危険人物でもあるようね。

 

 「同じ養成所から来たと言う意味ではそうなるんだろうけど……。彼女って、艦娘候補生じゃなかったのよ」

 「候補生じゃなかった?どういう事です?」

 「艦娘適性のない不法侵入者だったの……。それがどういう訳か『大和』の艤装と適合しちゃって」

 

 適正もないのに艤装と適合した?しかも不法侵入者!?そんな人がどうして艦娘に……。う~ん。その辺は考えても仕方がないか、現に艦娘になっちゃってるんだし。

 

 「散々迷惑かけられたわ……。あー!今思い出してもイライラして来る!」

 「かみっかぁ……」

 「はいはい、怖くないからね~。矢矧さん、この子怖がりだから少し抑えてもらっていいですか?」

 「あ、ごめん……。」

 

 なぁ~んだ。矢矧さんの様子を見るに迷惑な人レベルか。円満さんも大袈裟ねぇ。大きな作戦を控えてるって噂もあるし、神経過敏になっちゃってるのかしら。

 それより桜ちゃん。胸にしがみ付いて来るのは良いんだけど、服と一緒に肉まで握り込んでるからね?地味に痛いから離してくれないかなぁ……。

 

 「ほれ、出来たぞ。なんだ?またお嬢が愚図ってんのか?」

 「ちょっとビックリしただけだよね~。ほら、プリン来たよ~」

 「ぷいん!」

 

 よし。プリンを見てなんとか機嫌が直ったみたい。

 さっきまで矢矧さんに軽く怯えてたのに、今はテーブルに置かれたプリンアラモードから目が離せないみたいだわ。

 

 「かみっかぁ。たえてい~い?」

 「ちゃんといただきますしたら食べていいよ?」

 「いたたます!」

 

 偉い!ちゃんと両手を合わせていただきますが出来たわね!小さい手でスプーンを持って、一心不乱にプリンを食べる姿も凄く愛らしいわ。

 これで先輩みたいな性格にならなきゃ完璧美少女に育つこと間違いなし!だから、先輩と海坊主さんの次に面倒を見る機会が多い私が先輩の悪影響を受けないように……。

 

 「育てなきゃ!」

 「(使命感)ってか?それには賛成するが、育てる以前に死なねぇように頑張れよ?」

 「わかってます。私は絶対に死んだりしません。せめて、この子が大人になるまでは……」

 

 だって、私が死んだら『神風』になれる適性があるはずのこの子にお鉢が回って来る可能性が出て来ちゃうもの。だから死ねない。少なくとも、この子が『神風』の艤装と適合できる年齢を過ぎるまでは……。

 

 「消極的だな。姐さんなら「私の代で戦争を終わらせる」くらい言うと思うぜ?」

 「それが出来れば最高ですけど……」

 

 私は先輩ほど強くない。先輩より強くなるのを諦めた訳じゃないけど、今の私はかつての先輩よりずっと弱い。それに、例え先輩より強くなっても、私一人で戦争を終わらせるなんて無理だわ。

 戦争を個人レベルで終わらせるなんて、マンガやアニメのヒーローじゃないと……。

 

 「もし…戦争を終わらせることが出来れば、カミレンジャーの名は世界に轟くわね」

 「矢矧…さん?急に何を……」

 「カミレンジャーは正義の味方なんでしょ?それなのに終戦を諦めるなんて、それは悪に屈したのと同じ事よ」

 「でも……」

 「神風ちゃんが言いたい事はわかるわ。戦争を終わらせるなんて軍隊レベル。いえ、国家レベルで取り組まなきゃ無理。けど、その一翼を担う事は出来るはずよ」

 

 さっきまで、桜ちゃんを怯えさせないように大人しくしていた矢矧さんが、何かを決意したような表情で私をそう諭して来た。

 つまり、チャンスが巡って来るまで牙を研いで待っていろ。と言う事ですよね?

 だって人間同士の戦争と違って、この戦争に政治的な交渉や調印はあり得ないもの。戦争を終わらせるためにはどちらかが滅びるしかない。それが出来ないから、10年以上もの間戦争が続いてるんだから。

 だけど逆に言えば、機会さえあれば深海棲艦を滅ぼして戦争を終わらせるのに一役買えると言う事だわ。

 いや、一役買えるだなんて金髪さんが言う通り消極的ね。私の手で戦争を終わらせる事だって出来る。私が桜ちゃんの未来を守る事が出来る!

 

 「決めたわ!神風ちゃんから『脚技』を習って、カミレンジャーを『脚技』を使う事を前提にした水雷戦隊にしてみせるわ!」

 「いやいや、『脚技』を教えるかどうかは円満さんの許可を取ってからって言ったじゃないですか」

 「だったら許可を取りに行くわよ!さすがにもう起きてるでしょ?」

 

 時間は…09:00(マルキュウマルマル)を少し過ぎたくらいか。朝が弱い円満さんでも確実に起きてるわね。

 どのみち、矢矧さんは昨日気絶してたせいで着任の挨拶がまだだから執務室に連れて行く予定ではあったんだけど……。

 桜ちゃんの面倒を頼まれちゃったから先輩が戻って来るまで待たないといけないし……。困ったなぁ……。

 いや、困る必要なんてないか。先輩なら、こんな時は絶対こう言うわ。

 

 「いえ、やっぱり後回しにしましょう。許可なんて事後承諾で十分です」

 「じゃ、じゃあ!」

 「はい。矢矧さんに『脚技』をお教えします」

 

 そう、許可なんか後回し。『猫の目』の裏にある奇兵隊の兵舎には内火艇ユニットが有るし、朝風達に艤装を取りに行ってもらっても良い。桜ちゃんの面倒を見ながらでも、『脚技』を教える事はできるもの。

 それに、久しく忘れていた気持ちが蘇った気がする。

 私が艦娘になってから大きな作戦が無かったのと、中途半端に強くなってしまったせいで忘れていた強くなりたい(・・・・・・)という気持ちを。

 私より強い人なんて掃いて捨てるほど居るのに、気づかない内に慢心していたのね……。

 

 「良いのか?下手したら円満の嬢ちゃんにドヤされるぞ?」

 「構いません。文句を言われたら言い返しますから」

 

 文句を言われるとは思ってませんけどね。

 そもそも、私が円満さんの許可を欲したのは矢矧さんの立場が危うくなるかもしれなかったからです。矢矧さんに覚悟があっても、孤立するのは悲しいし寂しいもの。

 

 「先輩があの時言ったのはこういう事だったのかも……」

 

 私が性能の低さと境遇に落ち込んでいた頃、先輩は私を励ましに来てくれた。

 先輩は孤立を恐れる私にこう言ったわ。「強くなった貴女に惹かれて集まって来るからよ。誰よりも強くなったと貴女が思えた時、周りを見てごらんなさい。きっと、貴女の強さに見合う仲間が居るはずだわ。貴女と、肩を並べて戦ってくれる仲間が」と。

 けどそれは、朝風達で全員だと思ってた。私と一緒に戦ってくれる人は朝風達以外には出てこないと思ってた。

 軽巡の人は間違っても一緒に戦ってくれないだから、私は水雷戦隊を組めないと諦めていた。

 それなのに、矢矧さんが忘れていた気持ちを思い出させてくれた。私と一緒に戦ってくれる人が、まだ一人ここに居た。

 

 「矢矧さんに問います。後悔はしませんね?」

 「愚問ね。私は後悔なんてしないわ。私は教官のように成るって決めてるの。そのためだったら何だってするわ。だから、貴女の全てを寄越しなさい!」

 「全てを寄越せ。と来ましたか……」

 

 生意気な。歳と立場は貴女の方が上かも知れないですけど、艦娘としては私の方が先輩なんですよ?しかも私に教えを乞おうと言うんですから、もうちょっと下手に出るべきだと思うんです。

 金髪さんが「まるでプロポーズだな」と言ってるのはこの際無視しますね。私はノーマルですから。

 

 「だったら私も手加減なんてしてあげません。泣いて懇願してもやめてあげませんから」

 「上等よ。それくらいじゃないと張り合いがないわ」

 

 私と矢矧さんは、不敵な笑みを浮かべてお互いの覚悟を確認した。

 桜ちゃんに「かみっか。ママみたい」と言われたのが軽くショックだったけど、同時に誇らしくも思ったしワクワクもしてきた。だって、これは私が先輩に並び、超えるチャンスでもあるんだもの。

 ええ良いわ。やってやろうじゃない。

 いつになるかはわからないけど、私が再び吹かせてやるわ。

 かつて戦場を駆け抜けた神風を。

 かつて戦場を吹き荒れた緋色の風を、私が再び吹かせてあげる! 





ちなみに、桜ちゃんは元艦娘以外で名前が設定してある数少ないキャラで、モデルは友人の娘さんです(´・ω・`)

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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