艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百三話 I will tell mommy!

 

 

 J級駆逐艦一番艦 Jervis

 

 数々の海戦を無傷で戦い抜き、『lucky Jervis』の名で国民から親しまれていた彼女であるが、彼女は他の英国籍の艦娘と違って特殊な存在であったらしい。

 彼女が特殊と呼ばれる理由はいくつかあるが、まず第一に、Jervisの艤装が建造されたのは西暦2010年。日本で言うところの正化22年であるにも関わらず、初代にして唯一のJervisである彼女が適合するまで適合者が一人も現れなかった艦娘であること。

 そして第二に、彼女が平成3年に日本で行われた演習を除いて被弾した事がないことなどが挙げられる。

 ただし二つ目に関してはオカルト染みた話が多く、例えば「直撃の瞬間砲弾が風で逸れた」「明後日の方向に撃った砲弾が弧を描いて敵艦に当たった」「彼女を狙った魚雷は必ず不発に終わる」等々、日本の幸運艦として知られる雪風と似通った信じがたい逸話が多くみられる。

 

 さらに出自に関しても謎が多い。

 彼女はメディアに露出する際は常にハイテンションで明く、ノリの軽いお転婆な面も見せ、その愛らしい容姿も手伝って国民にとってはアイドルの様な存在であったが、生年月日以外の情報が戦後になっても非公開なのである。

 

 しかし、真偽の定かではない噂話程度の情報は存在する。

 それは彼女の生年月日である2010年9月9日が、Queen Elizabeth級2番艦 Warspiteが2009年初めから翌年の10月の時期に戦線を離れていた事と重なり、彼女がJervisの生みの親なのではないかという噂である。

 しかもWarspiteにはロイヤルファミリーの一員であるという噂もある事から、そのせいで娘のJervisは戸籍を隠匿されているのではないかとも言われている。

 

 そして彼女は、着任時と退役時に不思議な事を言った艦娘としても知られている。

 彼女は着任時、正確には艤装との適合時に「やっと本当の私になれる」と言い、退役時には「私がやるんだと思ってたのにな……」と言い残して軍を去ったと伝えられている。

 

 

 ~艦娘型録~

 J級駆逐艦一番艦 Jervis の項より抜粋。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「え~っと……。ねえ陽炎。これどうしよ」

 「どうしよって言われても……。ああいうのは旗艦である矢矧さんがどうにかすべきだと思いますよ?」

 「いやぁ……そうしたいのはやまやまだけど、あの子ってどう見ても例の輸送機関係の子でしょ?面倒事の匂いしかしない……」

 「それには同意します。下手な対応をすれば国際問題にもなりかねませんしね」

 「迷子になったのかしら」

 「あれだけはしゃいでるのにですか?」

 

 私と陽炎を悩ませている原因。

 それは第一種警戒配置を解除されて工廠に戻ってきた私たちの悩みなどどこ吹く風と言った感じで、残りの二水戦のメンバーを「これがニッポンの艦娘かぁ(This is Nippon's Fleet girl )」とか「これ、対潜兵装?( Is this anti - submarine? )おお~、ああ~。なるほど……うん。( Oh ~, oh ~. I see ... ... Well. )大丈夫?( All right )」とか言って、物珍しそうに観察してる金髪碧眼の女の子よ。

 歳は11~2歳ってところかしら。

 ホント、輝くような美少女とか妖精って言葉がピッタリな女の子だわ。どことなく気品も感じるし。

 

 「ねえ、そこの軽巡洋艦さん。(Hey, there is a light cruiser there. )どの子が雪風なの?(Which child is the snowy wind?)

 「矢矧さんを見て何か言ってますよ?」

 「陽炎の方を見てない?」

 「いやいやいや、ライトクルーザーとか言ってたから矢矧さんですよきっと」

 

 コイツめ……。自分が被害を被る可能性が減った途端に調子に乗りだしたわね。

 だってイタズラっぽい笑みを浮かべて私の脇腹を肘でツンツンしてるもの。 

 出来ることなら陽炎も道連れにしてやりたいんだけど……困った事に私は英語が聴き取れない。

 読み書きは出来るのよ?読み書きは出来るから

例えばフリップボードなりノートなりに言いたい事を書いてくれたら理解できるし同じ方法で返答も出来るわ。

 でもこの場合だと無理。

 唯一聴き取れたのは、陽炎と同じで軽巡洋艦を意味するライトクルーザーと最後のスノーウィンドね。

 語尾が上がってた気がするから、もしかしてこの子はスノーウィンドについて聞きたいのかな?

 

 「スノー……たしかスノーは雪よね。そしてウィンドは風……。あ、雪風がどの子か知りたいのかしら」

 「Yes!ユキーカゼ!」

 「お、合ってたっぽい」

 

 どうよ!ってな感じで陽炎を見たら「私にドヤ顔しなくて良いからサッサと教えてあげてください」なんて塩対応が返ってきた。

 でも、雪風がどの子かをどうやって教えよう。いや、指でも指せば簡単なのわかってるのよ?

 だって、雪風は金髪少女の後ろにいるし、雪風自身も「私が雪風です」と言わんばかりに自分を指差してるんだもの。

 だけど素直にそうする気になれない。

 たぶんその理由は、金髪少女が陽炎と同じような表情だからでしょうね。

 このイタズラが成功するのをワクワクしながら待ってるような顔を見てたら、わざと間違いを教えてやりたくなってくるわ。

 

 「早く教えてよ~。(Please tell me soon ~.)ねえねえねえ~。(Hey Hey Hey ~. )早く~(Early ~.)

 

 煽られてる?

 何言ってるかわからないけど、早く教えろ的な感じで煽られてる?

 焦れてきたのか若干拗ねてきてるし、このまま英語で話し掛けられ続けてもウザいからサッサと教えるのが正解なのもわかってるんだけど、この子が仕掛けてるかもしれないイタズラが何なのかわからないから迂闊に教えたくない。

 いったいこの子はどんなイタズラを……。

 いや、待てよ?

 この子たしか、私がスノーウィンドを訳そうと日本語でブツブツ言ってたのに反応したわよね?もしかしてこの子……。

 

 「日本語、喋れるんじゃない?」

 

 間違いない。

 私がツッコむやいなや、金髪少女は「しゃ、喋れないよ(Well, I can not talk)」とか言いながらこれでもかってくらいに狼狽え始めたもの。

 でも、そのリアクションは私の予想が合っていると言ってるようなもの。いくらリスニングが苦手でも、I can not talkくらいは聴き取れるし、聴き取れさえすれば意味だってわかるんだから。

 

 「雪風はその子よ。ほら、そのワンピースの子の隣にいるオッパイが有る子」

 「オッパイが有る子?(A child with a tits?)日本人の言い回しってなんか変…(Japanese phrasing is something strange ....)って!この人ってホントに駆逐艦!?戦艦の間違いじゃない……あ」

 

 あっさりボロを出しやがった。

 不幸にも飛び火して「私だって好きでこんなに大きい胸なわけじゃ……」とか言って泣き出しそうになってる戦艦並みのオッパイこと浜風は「そんだけデカけりゃしゃあないじゃろ」と言って慰めようとしてる浦風に任せるとして、今は英語がわからずにアタフタする私を見て楽しもうとしてた金髪クソガキへのお仕置きを優先するとしますか。

 

 「弁解が有るならどうぞ?」

 「あ~、えっとぉ~……。LIP SERVICE的な?」

 「ほう?人がアタフタする様を嗤いながら見物するのを英国ではリップサービスって言うのね。さすがブリカス。やる事が陰湿だわ」

 「ブ、ブリカス!?陰湿!?それは聞き捨てならいわ!訂正して!」

 「あら、人のことは平気で小馬鹿にするクセに、自分が馬鹿にされるのは堪えられないの?」

 

 効いてる効いてる♪

 金髪クソガキは言い返されたのがよほど悔しいのか、目尻に涙を浮かべて「う~……」とか言って唸ってるわ。

 

 「や、矢矧さん……もうそのへんでやめといた方がいいんじゃ……」

 「はぁ?何を日和ったこと言ってるのよ陽炎。たしかにこの子は海外からのゲストなのかもしれないけど、馬鹿にされて黙っていられるほど私は人間が出来てないの。って言うか、『売られた喧嘩は大枚叩いてでも買う』は駆逐艦の流儀じゃないの?」

 「それは……そうなんですが」

 

 そうなんですが、何?

 もしかしてビビってるの?こんな、世間知らずって言葉が服着て歩いてるみたいな子供に?

 呆れた……。

 勇猛果敢な怖いもの知らず、いえ死にたがりとも謳われる二水戦所属の駆逐艦が、単に外国人ってだけで竦み上がるなんてね。

 

 「だいたいここは鎮守府、しかも軍事機密満載の工廠よ?いくらゲストでも勝手に立ち入って良い場所じゃないわ」

 「それは……」

 「わかってるとでも言うつもり?ならアンタはわかってて入ったって事よね。じゃあ通報します」

 「つ、通報!?」

 

 ふふふ、自分のした問題行動を自覚させられ、しかも通報すると脅されたクソガキの慌てふためく様を見るのは痛快だわ。

 でも追撃の手は緩めない。

 「子供相手に大人気ない……」とか陽炎が呆れた口調で言ってるけど私は気にしない。ええ、気にしないわ。これはもう、仕返しから金髪クソガキへのお仕置きに変わってるんだから。

  

 「後悔させてやる……」

 「ん?何か言った?」

 

 金髪クソガキが肩を震わせながら何か言ったわね。

 え~っと、なんて言った?後悔させてやる?どうやって後悔させてくれるのかわかんないけど、そんなセリフを吐いた時点でアンタは負けを認めたようなもの。

 要は……。

 

 「負け犬の遠吠えってヤツね」

 

 私のその一言がトドメだったのか、金髪クソガキはキッ!て擬音が聞こえてきそうな目付きで私を睨んだ後、

ママに言いつけてやる!(I will tell mommy!)」って言い残して走り去ったわ。

 いやぁ~良い気分♪

 人を小馬鹿にするクソガキを完全に言い負かし、なんて言ったかまではわからないけど捨てゼリフまで吐かせた私の脳内には金色をした完全勝利Sの5文字がキラキラと舞い降り、ファンファーレまで鳴ってるわ。

 

 「両手を掲げて悦に浸ってるとこ悪いんですけど、マズいんじゃないですか?下手したら国際問題になるんじゃ……」

 「心配しすぎよ陽炎。たぶん問題ないわ」

 「その心は?」

 「あの子が海外からのゲストなのは間違いない。でもおそらく、立場はそこまで高くないからよ」

 

 あの子が仮に艦娘だとしても駆逐艦。

 駆逐艦ならば、国によって多少は違うだろうけど良くて少尉待遇。それに対して私は軽巡洋艦。大した戦果を挙げてない私でも少尉から中尉相当の待遇よ。

 だからあの子が私に泣かされたと自分の上司にチクったところで、軽巡洋艦である私に対して非礼を働いたで事は済む……はず。

 

 「あ、ちょうど良いところに居た」

 「あれ?霞じゃない。どうしたの?そんなに汗だくになって」

 「ちょっと人捜しをね。陽炎、この辺で金髪の女の子を見なかった?」

 「見た、と言うよりさっきまで居た……かな。矢矧さんが泣かせたらどっか行っちゃったけど……」

 「そう、一足違い……って、はぁ!?泣かせた!?」

 

 あ、あれ?

 あの子が私に泣かされたって話を陽炎から聴いた霞が心底「マズい」って感じの顔して私を見たまま固まっちゃったんだけど……。

 

 「や、矢矧さん。今の話は本当です……か?」

 「え、ええ、本当よ。一応聞くけど……マズかった?」

 「マズいなんてもんじゃないったら!下手したら日本と英国の艦娘同士で戦争することになるかもしれないわ!」

 「ちょ、ちょっと待って!?艦娘同士で戦争?あの子って何者なの!?」

 

 え?どういう事?

 あの子って英国のお偉いさんのお嬢様だったりしたの?そんな子を泣かせちゃったから国際問題になって、しかも戦争にまで発展するって言うの?んなアホな。

 

 「さすが矢矧さんパネェっス」

 「不知火は何もしてないので落ち度はありません」

 「いやぁ、さすが横須賀の軽巡洋艦はやることが違うわぁ。うちにはとてもマネできへん」

 「マネしちゃダメですよ黒潮さん。そもそも子供を言い負かして悦に浸ってる時点でダメです」

 

 おいそこの一から四番艦、少しは私をフォローしようとかって気にならないの?このままじゃ私、良くて解体処分なんですけど?

 

 「次の矢矧って何人目の矢矧なのかしら」

 「初風姉さん、矢矧さんが解体されるとはまだ決まってませんよ?」

 「でも雪風姉さん、今の話だとだいぶ悪い風が吹いてるわよ?」

 「それよりお腹空いたよ~。雪風~、ご飯食べに行こ~よ~」

 

 七から十番艦も同じか。時津風なんか私の進退よりご飯の方が大事らしいし。

 私、一応今はアンタ達の旗艦なんだけどなぁ……。

 

 「短い付き合いじゃったねぇ矢矧さん。うち、矢矧さんのことは忘れんけぇ成仏してや」

 「さすがにこの磯風もフォローしきれないな。すまない矢矧さん」

 「ざまぁ」

 「ん?矢矧さんは死んじまうのかい?」

 

 一番縁起でもない事を言いやがったな十一から一四番艦。浜風なんか「ざまぁ」とか言いやがったし。

 もしお咎めがなかったらアンタらだけ訓練メニューを倍にしてやる。絶対にだ!

 

 「とにかく矢矧さん、私と一緒に来てもらえますか?」

 「行くって……何処に?」

 「執務室です。もう遅いかもしれませんが、司令官と一緒に対策を練りましょう」

 

 冷や汗を流しながら言った霞の言葉を聞いて初めて、私は本当にマズいことになったんだと自覚した。

 

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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