艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百七話 天使と悪魔の社交ダンス

 

 

 たしか、艦種別国際艦娘演習大会の組合せと日程が掲示板に貼り出された頃だったと記憶してるんですが、その頃から大和姉さんが部屋で奇怪な動きをするようになったんです。

 

 いえ、奇怪とは言っても変態的な動きをしていたわけじゃありません。

 当時の私にはその手の知識がなく、姉さんもジャージ姿で音楽も無しで踊っていたのでソレだと気付けなかったんです。

 

 はい、踊っていました。

 流派の名前までは覚えていませんが、その踊りは姉さんが子供の頃から習っていた日本舞踊らしく、たしか絵日傘という演目だと教えてくれました。

 

 ええ、姉さんがアイオワさんとの試合が始まるなり踊り始めたアレです。

 アレを見た時に、「ああ、姉さんはこのためにあの練習をしていたんだな」って納得しました。

 

 

 ~戦後回想録~

 元戦艦 武蔵へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 私は前海軍元帥の秘書艦しかした事がないので聞きかじった程度ですが、秘書艦業務の多忙さは提督によって左右されるそうです。

 例えば円満ちゃん。

 満潮ちゃんの話では、彼女は優秀ですが私生活がズボラを通り越して壊滅的らしく、彼女を公私ともに支える満潮ちゃんは円満ちゃん以上に多忙を極めます。

 さらに人を使うのが下手だそうで、彼女が大事な仕事を任せるのは基本的に満潮ちゃんだけで、他の第八駆逐隊の子に秘書艦を任せる事もあるそうですが、任せる仕事の内容には雲泥の差があるそうです。

 もう一つの例として前横須賀提督、今の海軍元帥の場合を挙げてみるとしましょう。

 彼の場合は円満ちゃんとは逆で人の使い方が上手く、秘書艦の役割は簡単な書類整理と工廠や事務方へのお使い程度だったそうです。

 今は陸軍の参謀本部にいらっしゃる元少佐さんに面倒事を押し付けていた。なんて噂もありましたが恐らくただの噂でしょう。

 とまあ、私が知る限りの話を我が『居酒屋 鳳翔』のカウンターに突っ伏している大和さんに話して聞かせたんですが……。

 

 「私も前提督の時に秘書艦をしたかったです……」

 「あらあら。その様子だと、満潮ちゃん並みにこき使われているみたいですね」

 「そうなんですよぉ~。椅子に根が生えるんじゃないかってくらい座りっぱなしですし、それが少ない日は工廠に何度も何度も行かされるんで足が棒ですよ」

 

 などと愚痴が言いたくなる程度には酷使されてるようです。

 ですが聞いた限りですと、大和さんが任されているのはPCを使っての書類の清書、それに工廠へのお使い程度。イベント前で物量は多いでしょうが、内容的には八駆の子達とそう違いはないですね。

 

 「どうして頻繁に工廠に行かされるのですか?普通は一日一回。多くても2~3回程度では?」

 「いやぁ~、それがですね……。追い出されちゃうんです」

 「追い出される?整備員さんにですか?」

 「いえ、整備員さんたちはむしろ味方してくれてるんです。問題は妖精でして……」

 

 大和さんが言うには、兵装の開発や老朽化した兵装の破棄、その他諸々の用を円満ちゃんから命じられて工廠まで赴くのですが、妖精さんたちに邪険にされてなかなか用を済ますことができないのだとか。

 それでも円満ちゃんは大和さんに工廠関係の用を命じるため、何度も何度も工廠と執務室を行き来する羽目になっているそうです。

 

 「円満ちゃんも荒療治がお好きですね。効果は今一つみたいですが」

 「ええ、それでもここ何日かは、三回も往復すれば用を済ませられるようになりました」

 「あらあら、まるで三顧の礼ですね」

 「それと同じ事を提督に零したら怒られました……」

 

 三顧の礼とはたしか、故事成語のひとつで目上の人が格下の者の許に三度も出向いてお願いをすることだったはず。

 大和さんにその気はなくても、円満ちゃんは大和さんが無意識に妖精さんを格下に見ていると判断し、それを正そうとして怒ったのでしょう。

 まあ、単に大好きな妖精さんをバカにされて怒った可能性もありますが、どちらにしても……。

 

 「円満ちゃんらしいですね」

 「提督らしい?」

 「ええ、あの子は今でも、妖精さんのことが大好きなんだってよくわかりました」

 「妖精さんが大好き……ですか?」

 「はい。あの子が初めて妖精さんを見た時の笑顔は今でも忘れられません」

 

 あれは正化29年の末頃。

 前提督が当時の朝潮ちゃんの誕生日プレゼントを何にすべきかと、満潮だった頃の円満ちゃんに相談した時です。

 あの頃は今の満潮ちゃんのように笑顔が稀だった円満ちゃんが、まるでお父さんから新しいお人形を贈られた女の子のように満面の笑みを浮かべて喜んでいました。

 

 「あの時は単に可愛いとしか思いませんでしたが、後になって、なんて罪深い光景なんだって思い直したのを覚えています」

 「罪深い?」

 「はい。当時の彼女は15かそこら、人形で遊ぶような歳ではありませんでした。それなのに、あの子は妖精さんを与えられて見た目相応の反応をしたんです。そんな、子供らしい喜びすら知らなかった子達が戦場で戦っていると、改めて思い知らされたんです」

 

 そして、それは今も続いている。

 彼女は同い年の子が当たり前に経験する恋や娯楽も知らないまま、多くの人の命をその細い身体で背負って戦い続けています。

 もし、妖精さんが力を貸しているのに理由がるとすれば、そんな彼女の自己犠牲とも言えるひたむきさに惹かれたからでしょう。

 

 「私も、そうすれば妖精の信頼を得られるのでしょうか……」

 「さあ、妖精さんの姿が見えない私には何とも」

 

 寂しそうにカウンターの上を眺める大和さんに問われて、私は突き放すようにそう答えました。

 ですが「相変わらず厳しいですね」とぼやきつつも、やっぱりかと言わんばかりの顔をしていますから、大和さんも答えを貰えるとは思ってなかったのでしょう。

 

 「お酒を……頂いても良いですか?」

 「構いませんが……明日も仕事なのでは?」

 「潰れるほど飲んだりはしません。と言うか、未成年の飲酒はダメだと止められると思ってたんですけど?」

 「ふふふ♪うちでは例え駆逐艦に求められても止めはしませんよ♪」

 

 鎮守府内は治外法権ですから。は、冗談として。

 私は求められれば、お客さんが駆逐艦だろうと海防艦だろうとお酒を振る舞います。

 さすがに泥酔するほど飲ませはしませんが、いつ死ぬかわからない子達にやりたい事を我慢させるなんて事はしたくありませんから。

 

 「なら遠慮なく。何かお勧めはありますか?」

 「そうですね……。大和さんくらいの歳の子ならカクテルなどが良いのでしょうが、日本酒が飲みたいのですか?」

 「ええ、昔お祖父さまが美味しそうに飲んでるのを見て、いつか飲みたいと思っていたんです」

 「なるほど。お祖父さまが飲んでいたお酒の銘柄を覚えていますか?」

 「たしか……その時は『一品』だったかと」

 「なるほど、一品ですか」

 

 一品とは、黄門さまでお馴染みの水戸光圀公お膝元である茨城県水戸市に酒蔵を構える吉久保酒造によって作られ続けている銘柄で、原料米から吟味し磨き上げ、喉越しのやわらかな淡麗型でありながらフルーティーな香りと旨みを醸し出している逸品です。

 もともとこの酒蔵は、米穀をあきなう豪商が徳川光圀が作った笠原水道の清らかな水と地元の良い米でうまい日本酒ができると酒造業に転業して誕生したもので、やがて徳川家御用達の命を受け、儒学者、藤田東湖先生をはじめとした多くの藩士のご贔屓に預かったという逸話もあるそうです。

 

 「く、詳しいですね」

 「当然です。お酒を扱う店の店主がお酒に無知だなんて話にもなりませんから」

 

 と、注文された一品を手渡したグラスに注ぎながら誇らしげに言いましたが、私が日本酒について勉強し始めたのはほんの数年前から。

 前提督が日本酒を心底美味しそうに飲みながら「コレはどこどこの酒でな?昔どこかの誰かがうんたらかんたら」と、当時の円満ちゃんに話して聞かせていたのに感化されたからです。

 そんな前提督を「はいはい、わかったからサッサと飲んで寝なさいな」と邪険にあしらっていた彼女も、今では私同様日本酒の虜になっています。

 

 「提督もお酒が好きなんですか?たしか、彼女も未成年でしたよね?」

 「大和さんより一つ上だったと記憶しています。まあでも、彼女はお酒が強いですし、前提督もここで自分と一緒に飲む時以外は飲むなと厳命していたそうですから」

 「はあ、そうですか……」

 

 それでも違法ですけどね。

 今は前提督がいなくなったので一人で宅飲みをしているようですが、満潮ちゃんが飲酒量をコントロールしているようですから心配しなくても大丈夫でしょう。

 それに酒保の店員さんの話では月に一升ほどしか買ってないそうですし。

 

 「鳳翔さん、まだやってる?」

 「あら、噂をすれば影ですね」

 

 申し訳なさそうに入り口の戸を開いてあずき色のジャージ姿をした円満ちゃんが顔を覗かせました。

 今は……22時前ですか。

 ここに一人で来る事自体最近では珍しいですが、こんな時間に来ることの方がもっと珍しいですね。明日はお休みなのかしら。

 

 「あ、大和も来てたんだ」

 「はい、ここ最近、鳳翔さんに愚痴を聞いてもらうことが多くて……」

 「へぇ、そうだったんだ」

 

 と言いながら、円満ちゃんが「邪魔じゃない?」と言いたげに視線を投げてきました。

 大和さん的には少し居辛いかもしれませんが、久々に来てくださった円満ちゃんを追い返すのも気が引けますね……。

 

 「大和、隣良い?」

 「え?あ、はい。どうぞ」

 「じゃあ遠慮なく。鳳翔さん、一本浸けて……って大和、それお酒?」

 「ええ、一品という銘柄だそうですが……やっぱりお酒を飲むのはマズいですか?」

 「べつに構わないわよ。単に、アンタがお酒を飲むのが意外だっただけ」

 

 私がどうすべきか困っているのを察してくれたのか、円満ちゃんはこの機に大和さんと親睦を深めようと考えてくれたようですね。

 ならば私も、円満ちゃんと大和さんが仲良くなれるようにサポートしなければなりませんね。

 

 「円満ちゃんも一品にしますか?」

 「そうねぇ……。久しく飲んでないからそうしようかしら」

 「はい。燗にします?」

 「じゃあぬる燗で」

 「わかりました。上撰と金撰、どちらが良いですか?」

 「ん~と、金撰にしようかな」

 「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 お酒に口をつけようかどうか今だに悩んでいる大和さんが、不思議そうに「カン?ぬるカン?」と小首を傾げていますから説明しておきましょう。

 よく熱燗と呼ばれる燗酒とは、簡単に言うと加熱したお酒のことです。

 お酒自体を加熱することを燗をつける、お燗するなどと言い、燗した日本酒は燗酒と呼ばれます。

 温度帯によって呼び名が変わり、熱燗、ぬる燗、日向燗などがあり、だいたい下記の通りになります。

 飛び切り燗 55度前後。熱燗 50度前後。上燗 45度前後。ぬる燗 40度前後。人肌燗 37度前後 日向燗 33度前後。

 余談ですが、一般に『冷や』と呼ばれる物も温度帯が別れており、単純に常温、冷蔵庫などで冷やしたものが『冷や』ではなく、涼冷え 15度前後。花冷え 10度前後。雪冷え 5度前後。と分けられます。

 

 「へぇ……。かなり細かく分けられてるんですね。私が注文したコレも燗に出来るのですか?」

 「大和が飲んでるのって純米大吟醸でしょ?」

 「え~と……」

 

 円満ちゃんの問いに、大和さんは自信なさげに「そうなんですか?」と言いたげな視線を私に送って来たので、私は首肯することで「そうだ」と円満ちゃんに伝えました。

 

 「その様子だと、アンタってお酒飲むの初めてよね?」

 「そうですけど……」

 「だったら最初はそのまま飲んどきなさい。べつにソレが燗に向いてないって訳じゃないけど、燗にすると造りの善し悪しがハッキリと出るし繊細な部分が味わい難いから」

 

 今の円満ちゃんの説明を補足しますと、基本的に日本酒の中でも吟醸酒(純米大吟醸、純米吟醸、吟醸)など高価なお酒は燗をつけず、常温の『冷や』よりも低い温度の所謂『冷酒』で提供されることが多いです。その理由は円満ちゃんが説明したとおりですね。

 誤解されかねませんので更に補足しますと、そもそも冷蔵庫や氷で冷やすことは、実は日本酒の伝統からは外れているのです。

 つまり(大)吟醸酒だからといって燗はタブーではないですし、季節(気温)や体調、肴により、冷や(常温)やぬる燗、熱燗などの好みの温度で飲まれることを杜氏をはじめ酒蔵人は望んでいるそうです。要は好みの温度で好きに飲めって事ですね。

 ですが、初めて日本酒を飲む人や初めて飲む銘柄の場合はどの温度が適しているかなどわかりませんし細かく温度を計って試すのも面倒ですよね?(とある人はソレも楽しみの一つと仰っていましたが)

 その場合は、お酒を購入する酒屋さんや居酒屋さんに聞くのが一番手っ取り早いです。

 でもここで注意事項を一つ。

 これはとある人の体験談なのですが、日本酒を専門に扱っている酒屋さんや居酒屋さんではない場合、聞いたところでわからない場合があります(と言うよりわからない場合の方が多いです)

 ならばどうすれば良いのか。

 確実なのは、酒蔵の直売店で購入する時に聞くことです。昨今は吟醸酒でもラベルにぬる燗などを薦める記述を記載している酒蔵も多くなっているので、そちらを参考にするのもよろしいかと思います。

 

 「へぇ、日本酒って奥が深いんですね」

 「奥は深いけど変に身構える必要なんてないわ。好みのお酒を見つけて好みの肴を摘まみながら好みの温度で飲む。たったそれだけなんだから」

 

 円満ちゃんはそれだけと言いましたが、実はソレが一番難しい。

 まず日本酒の銘柄は数が多く(酒蔵だけで1400以上、銘柄になると一万以上)、マイナーな酒蔵になると流通している場所も限定されてしまいます。

 ソレさえ見つけてしまえば、普段はソレを楽しみ、旅行先などでその土地の地酒を楽しむなどの楽しみ方が出来るのですが、今日が日本酒デビューである大和さんには難しいですね。

 

 「あ、意外と爽やかで飲みやすいんですね。日本酒ってもっとこう……そう!如何にもアルコールって味がするんだと思ってました」

 「アルコールってどんな味よ……は、まあいいか。それの肴にするなら白身魚の刺身とか山菜の天ぷらなんかがお薦めよ。鳳翔さん、私の伝票に付けといて良いから……」

 「はい、そう仰ると思っていました」

 

 ので、円満ちゃんが注文したぬる燗と一緒に出したのはヒラメのお造りと山菜の天ぷら。これで当分は保つでしょう。

 

 「そういえば、満潮教官は一緒ではないのですか?」

 「満潮は八駆の部屋でお泊まりよ」

 「仲良くやれてるようですね」

 「ええ、あの子が上手くやれてるようで安心した……」

 

 円満ちゃんの微笑みながらお猪口の縁を指で撫でている様子を見るに、自分と性格的にも良く似ている満潮ちゃんが素直になって本当に嬉しいのでしょう。

 むしろ今の満潮ちゃんの方が、満潮だった頃の円満ちゃんより素直かもしれないですね。

 

 「あ、そう言えば鳳翔さん。ふと思ったんだけど、魚の仕入れって今どうしてるの」

 「変わらず曙美さんが届けてくださってます。ただまあ、あの事件直後はしばらく無理だと電話を頂きました」

 

 あの事件とは、先月末に大淀ちゃんが起こした漁場破壊事件です。

 最初は秋刀魚漁支援任務に彼女が参加してるなんて夢にも思いませんでしたので、あの事件犯人が大淀ちゃんだと曙美さんから聞いたときは漁場が破壊されたと聞いたときより仰天しました。

 だってあの子は……。

 

 「夜は起きていられないはずですよね?」

 「大淀?」

 「ええ、あの子はたしか、何があっても午後九時には寝てしまうんじゃなかったですか?」

 「基本的にはね」

 

 大和さんが「もう少し詳しく!」と、妙に食い付いているのが気になりますが、円満ちゃんの説明によるとこうです。

 普段の大淀ちゃんは『猿真似』と呼ばれる能力のせいで起きている間は脳を常に酷使している常態らしく、午後九時になると酷使された脳が休息を求めて強制的にシャットダウンしてしまうそうです。

 ですが逆に言えば、脳が酷使されていなければ起きていられるんだとか。

 

 「じゃあ、大淀ちゃんはその日、お昼寝してから参加したんですか?」

 「昼寝どころじゃないわよ。あの子ったら昼過ぎに漁協に押し掛けて、睡眠薬まで飲んでギリギリまで寝てたそうよ」

 「朝潮だった頃に参加した時もその手で乗り切ったんですか?」

 「あの頃は昼寝だけね。あの時は私もあの子自身も夜が極端に弱いくらいにしか思ってなかったから」

 

 難儀な能力ですね。

 応用の幅が広く相対する者からしたら反則的な能力なのに、強制的な睡眠というデメリットがあるだなんて。

 それよりもこの話が始まってから、大和さんがブツブツと独り言言ってるのが気になるのですが……。

 

 「九時少し前に挑めば展開次第で確実に……。ああでも、それだと少し卑怯な気が……」

 「馬鹿な事考えんじゃないの。ところで大和、アンタこの間やっと見つけたとか言ってたわよね?何を見つけたの?」

 「え~と、なんて言ったら良いのか……」

 

 大和さんが考えていた馬鹿な事の詳細は置いておくとして。

 大和さん自身もまだ考えが固まりきっていないのか、辿々しく円満ちゃんに自分がやろうとしている事を説明しました。

 その話を聞いた私の感想としましては、戦艦のクセに考え方が駆逐艦に近い。でしょうか。

 円満ちゃんも私と同じような感想を抱いたらしく、「面白いこと考えるわね」と感心しています。

 

 「ただその……」

 「ソレを実現させる手段が思い付かない。ね?」

 「はい……。それに、今の私は艤装を思うように動かせませんし」

 

 大和さんは、お酒を呷る円満ちゃんを「教えてくれないかな~」と言いたげに横目でチラチラと覗っています。

 片や円満ちゃんは何か考えているのか、はたまた何も考えていないのか、ひたすら肴を摘まみながらお酒を呷っています。これが前提督でしたら、考え事をしているときは食事の手が止まりますのでわかりやすいんですが……円満ちゃんの場合は手が止まりませんのでわかりませんね。

 

 「私が考えるに、アンタのソレを実現するために必要な手段は三つある。その中でも最も必要なのは『刀』ね。ソレを覚えれば、もう一つも自然と解決する……はずよ」

 「どうして刀が必要なんですか?私、剣術の心得は……」

 「ああごめん。刀とは言ったけど日本刀の事じゃなくて、力場操作法の一つの『刀』の事よ」

 「力場……操作法?」

 

 大和さんが疑問に思うのも仕方ありません

 そもそも『脚』『装甲』『弾』に分類される各種力場は、艦娘が意識せずとも各艦娘の性能に応じた効力を発揮します。

 つまり、無意識に『刀』と似たような事や『脚』の形状を変えるなどをしている艦娘もいますが、本来なら()()()など必要ないのです。

 私やかつての桜子さんのように、性能の低さを邪道で誤魔化さなければならない者を除いて、ですが。

 

 「明日からの秘書艦業務は午前中だけでいいわ。午後からは満潮に『刀』のやり方を教わりなさい」

 「それは願ったり叶ったりですけど……」

 「妖精さんの協力が得られていないのに力場操作の練習は難しい。でしょ?それは窮奇に協力してもらいなさい。それが、今のアンタに必要なモノの三つ目よ」

 

 違う。

 円満ちゃんは大和さんに答えを与えているように聞こえますが実は違います。

 私のような低脳では円満ちゃんの考えの全てはわかりませんが、少なくとも満潮ちゃんに『刀』を習えと言ったのは大和さんの案を実現するためだけではありません。

 これは大和さんの頑張りを妖精さんに見せるため。

 自身が思い付いた戦い方を実現させる課程で努力する様を妖精さんに見せつけ、妖精さんの信頼を取り戻させるのが本来の目的なのだと私は予想します。

 

 「半分正解。かな」

 「あら残念。半分しか合っていませんでしたか」

 

 その予想を「では、今日はもう寝ることにします」と言って大和さんが退店した後に円満ちゃんに話してみたんですが半分しか合っていなかったようです。

 では、もう半分は?

 

 「大和が考えた戦闘スタイルには穴が有る」

 「穴……ですか?」

 「そうよ。大和は全部一人でやるつもりみたいだけど、それは恐らく無理。例え艦体指揮を使っても()()()()()の両立は不可能よ」

 

 艦体指揮、たしか円満ちゃんが艦娘時代に創作した、妖精さんと五感を共有する方法でしたか。

 あれ?でもたしか……。

 

 「艦体指揮使用中は思考能力も上がるのではなかったですか?」

 「ええ、たしかに思考能力も向上する。でも駆逐艦の艤装ならともかく、大和型のように攻撃手段が多い艤装では処理が追いつかない可能性が高い。それが……」

 

 致命的な隙となる。

 大和さんの新たな戦闘スタイルを実現、成立させるには攻撃と防御それぞれを受け持つ司令塔()が一つづつ必要になると、円満ちゃんは語りました。

 つまりもう半分は、大和さんと窮奇の信頼関係の構築。と、言ったところでしょう。

 そして最後に、かろうじて聞き取れる程度の声でこう呟きました。

 

 「まるで太極図。いえ、天使と悪魔の社交ダンスかしら」と。

 

 きっと円満ちゃんの頭の中では、大和さんと窮奇が共闘し、踊り狂う様が思い浮かんでいたのでしょう。

 だって円満ちゃんのその時の顔は、悪巧みをしているときの前提督とソックリでしたから。

 それに、少し疑問も浮かびました。

 大和さんと窮奇。どっちが天使で、どっちが悪魔なんだろうって。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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