ペットプレイって知ってる?
私も詳しくはないから、円満さんの部屋を掃除してた最中に出て来た本から引用するわね。
ペットプレイとは、オブラートに包まず言うとSM行為の一つで、相手を人としてではなくペットとして扱うプレイよ。
これは別に猿でも熊でも好きな動物として扱えば良いんだけど、まあだいたい犬猫に落ち着く場合が多いわ。それよりぐんと変態度が上がれば牝豚扱いよ。
で、なぜ私がペットプレイの解説から入ったかと言うと、それは大和と朝潮のせい。
だって、朝潮に先導されて執務室に来た大和はロープで繋がれてたんだもん。しかも嬉しそう。尻尾振ってる幻覚が見えそうなくらいニコニコしてるわ。
「朝潮。とりあえず、なんで大和の首にロープを着けてるか教えてくれる?」
「はい!大和さんが遭難する恐れがあったため、やむなくロープで繋いで私が先導することにしました!」
「へぇ、そなんだー」
円満さん、気持ちはわかるけど現実逃避しないで。せめてツッコんで。
色々あるでしょ?なんで鎮守府で遭難するんだ~とか、それなら手を繋げばいいじゃないとかさ。
あ、チラチラと私の方を見てる。ツッコまないからね。そんな「どうにかしなさいよ」って目で見てもツッコまないから。アレにツッコんだら負けだと思ってるから!
「とりあえずロープを解かない?ほらその…大和だって苦しいでしょ?」
「そん…な……。私と朝潮ちゃんを引き離す気ですか!?」
どうしてそうなる。
円満さんがどうにかこうにか逃避先から意識を戻して、アンタ達二人のせいで微妙になっちゃった執務室の空気をどうにかしようとしたんだから従いなさいよ。
朝潮も心底残念そうな顔してるし……。もしかして気に入ってるの?戦艦をロープで繋いで引っ張り回すのに妙な興奮でも覚えてるの?たしか、朝潮って12歳だったよね?その歳で変態なの?
「し…司令官がおの…お望みなら……」
「な、泣かないで朝潮ちゃん!嫌なら従う必要なんてないんですよ!?」
いや従え。
艦娘は軍人の割に、作戦や訓練中以外は基本的に自由だし緩い雰囲気に包まれてるけどそれでも軍人だ。だから命令には従わなきゃいけないわ。
まあ、今のは命令じゃないから従わなくてもいいと言えばいいけど、普通は目上の人から恰好を指摘されたら直すわよ。これ社会の常識ね。
「円満ったら酷~い。駆逐艦を虐めちゃダメでしょ」
「桜子さんは黙ってて。話が進まないから」
大和の監視&朝潮の護衛任務に失敗してそのまま執務室に居座ってた桜子さんが、ここに来た時は絶対と言って良いほど占領してるソファーから上半身だけ乗り出してチャチャを入れて来た。
チャチャを入れる程暇なら帰れ。と言いたいところだけど、円満さんが念のために残ってくれるようお願いしたの。代わりに、私と円満さん用に作って来たお弁当を食べられちゃったけどね。はぁ…お腹空いたなぁ……。
「いえ、司令官の命令には従わなければなりません。大和さん、申し訳ありませんがしゃがんでもらってよろしいですか?」
「そんな!ロープを解いたらお散歩出来なくなっちゃうじゃないですか!」
犬か。
散歩なんてロープ無しでも出来るでしょうが。それとも何?大和ってそう言う趣味があるの?そんなデカい図体してペット願望があるの?雌犬志望ですか?
「後でもう一度繋いであげますから今は我慢してください。私だって辛いんです……」
「朝潮ちゃん……。わかりました…主人を困らせるなど飼い犬失格ですからね」
ついに飼い犬宣言しちゃったよこの人。
朝潮の前にしゃがんでロープを解かれてる間も恨めしそうに円満さんを見てるし、本当に繋がれた状態を気に入ってたのね……。バカじゃないの?
「司令官。ご命令通り、私と大和さんの絆を断ち切りました」
「これで良いですか?いえ、満足ですか?提督」
「どうしてそうなる……」
円満さんがそう言いたくなる気持ちもわかるわ。ホント、どうしてそうなるのかしらね。
大和は蔑むように、朝潮は涙目で訴えかける様に円満さんを見つめてるけど、どういう思考回路してたら恋人同士が引き離されたみたいな結論に至れるのかしら。
「はぁ……。まあ良いわ。本題に入るけど、明日からここに居る満潮に貴女の嚮導をしてもらうから」
「満潮ちゃん?」
「『ちゃん』?仮にもアンタは教えを乞う立場なんだから最低でも『さん』付けでしょうが」
育ちが良さそうな割に礼儀を知らないわね。
駆逐艦を『ちゃん』づけで呼ぶのは上位艦種共の悪い癖。いえ、傲慢と言って良いけど、先に言った通り教えを乞う立場に居るんだから敬意は払うべきだわ。
普段はそんな事気にしないけど初対面、しかも仇敵の核を使った艤装と適合した女に『ちゃん』づけで呼ばれてニコニコできる程私は人間が出来てないの。許されるなら、満潮様と呼ばせて跪かせたいわ。ってか跪け。
「ご、ごめんなさい!あの…満潮……さん」
「ふん。今度また、私に舐めた口利いたら殴り飛ばすから覚悟しときなさい」
「満潮さん!大和さんも悪気が会った訳ではないのですから……。その…もう少し優しく……」
「アンタは黙ってなさい。だいたい何時まで居るつもり?大和の案内は済んだんだからさっさと退室しなさい」
「で、でも……」
少しキツ過ぎたかしら……。
いや、これで良い。この子も大潮や荒潮と同じく、何度邪険に扱っても私と仲良くしようと寄って来る。
そりゃあ、姉妹艦だし同じ駆逐隊だからそうしようとする気持ちもわかるけど、私みたいな嫌われ者と一緒に居たって百害あって一利なし。この子のためにならないわ。
「朝潮ちゃんには、この後庁舎内を案内してもらう予定です。なので、朝潮ちゃんのお仕事はまだ終わっていません」
「あっそ。それでもこの場に居る理由にはならないわね。大和に話が終わるまで、アンタは執務室の外で待ってなさい」
大和に庇われて少し気持ちを持ち直した朝潮が、私の言葉で再びシュンとした。力なく「はい……」と言って執務室から出て行こうとしてるわ。
ごめんね朝潮。私はいつにも増してイライラしてるの。そんな私をアンタに見せ続けたくないのよ……。
大和の嚮導をしなくちゃいけなくなった事に対してじゃないわ。それはむしろ願ったり叶ったりだから。
私のイライラの原因は、仇敵を目の前にしてるのと同義なのに手を出せない事に対してよ。
正直言うと、今すぐ飛びかかって首の一つも絞めてやりたいけど、円満さんに許されたのは『暴走時の処理』だもの。暴走してない内は手を出せないからイライラして仕方ない。けっしてお腹が空いてるからじゃないわ。
「そうだ朝潮。お願いがあるんだけどいい?」
「え?は、はい!なんでしょうか司令官!」
「私も満潮もお昼ご飯を食べ損ねちゃったのよ。だから食堂に行って何か用意して貰って来てくれないかしら」
「はい!お安い御用です!」
さすが円満さん。
朝潮に昼食を取りに行くために退室するという名分を作り、尚且つ戻って来る口実まで用意したわね。
そしてたぶん、私の罪悪感を少しでも軽くするために……。
「それでは行ってまいります!大和さん、また後程!」
「はい。気を付けて行って来てくださいね」
朝潮はそう言って退室して行った。大和が名残惜しそうなのと、桜子さんが「私の分も~」とか言ってるのが気にはなるけど無視。うん、無視するのよ私。
私と円満さんのお弁当を平らげといてまだ食うのか!と言いたいのは我慢しなさい。
「じゃあ、話を戻すわね。さっきも言った通り、明日から貴女には満潮の元で艤装の使い方を習ってもらうんだけど……。何時がいい?満潮」
「9時からで良いわ。そのくらいなら哨戒に出る子たちも出終わった後だし、円満さんのお世話も終わってるしね」
「一言余計だけどそれでいきましょう。明日の
作戦中は別として、艦娘も含めた鎮守府に居る人間はタイムスケジュールに沿って動いている。
一般的な哨戒任務に従事する子を例にすると、
そして
詳しい内容は省くけど、哨戒任務は基本的に3交代制。
艦娘とは言え、深夜の出撃は危険極まりないから機械警備に切り替えるの。
万が一、敵が警戒網に引っかかった場合は夜間待機している艦娘が即座に出撃するわ。勿論、私と円満さんも叩き起こされる。
機械警備で事が済むなら昼もそうしろってなりそうだけど、哨戒任務自体が訓練も兼ねてるからそれは出来ないの。実戦に勝る訓練はないって奴よ。
話が逸れちゃったわね。
午前中に哨戒に出た子は、
訓練内容は所属してる艦隊によって若干の違いがあるけど、基礎的な筋力トレーニング、航行訓練、砲撃訓練、連携訓練を
それが終わったら
夜間哨戒に出る子達はまた違ったタイムスケジュールで動いてるんだけど、今回は割愛するわね。
「提督のお世話も満潮さんのお仕事なんですか?」
「それはアンタに関係ない」
関係ないけど一応説明しておくわ。
私の場合は上記のタイムスケジュールとは少し……。いや、だいぶ違う。
まず
朝食の準備が出来る
え?『死者の目覚め』って何かって?それはグーグル先生に聞いてみなさい。すぐに教えてくれるから。
食べ終わったらだいたい
私と円満さんは執務室に行き、
そこからお昼まではひたすら書類仕事。
詳細は省くけど、艦娘関係の書類は提督である円満さんか提督補佐の辰見さんじゃないと決済出来ないからどちらかに回すとして、それ以外の書類。例えば訓練場の使用許可とか、どっかの電球が切れたから交換してくれとか、待遇改善の要望書。どうでも良いのになると、拾った猫の里親探しのポスターの掲示許可などを処理していくわ。まあ、この辺は辰見さんの秘書艦である叢雲さんに回したりもするけどね。
今日は大和と桜子さんのおかげで予定が若干狂ったけど、
昨日みたいなトラブルが無ければ、一応私はこれで上がり。
円満さんは、昼から哨戒に出た子達の報告を待ったり、その子たちと交代で夜間哨戒に出る子達を見送ったりするから
このタイムスケジュールじゃ、私は哨戒任務や訓練をしてないんじゃないかと思われるかもしれないけど、私だって哨戒にも出てるし訓練だってしてるわ。昨日だってお昼から哨戒に出てたし、毎日空いた時間を使って基礎的なトレーニングもしてるし休日だってちゃんとあるの。
円満さんも、辰見さんとスケジュールを調整し合って休みを取ってるしね。だって鎮守府はブラック企業じゃないもの。これ大事。
説明が長くなっちゃたわね。
作戦や遠征、もっと言うと大規模作戦とかになればこの通りにはならないけど、だいたいこんな感じの毎日を送ってるってわけ。
そう言えば…私を大和の嚮導に着けたら秘書艦はどうするんだろ。
「ねえ円満さん。秘書艦はどうするの?」
「朝潮たちに交代で頼もうと思ってるわ。アンタが外れるからあの子達は出撃させにくいし」
「甘やかしすぎじゃない?三人でも哨戒くらい出来るわよ」
「ダメ。哨戒任務とは言え、
私には一人で出撃しろって言うクセに……。
まあ、それだけ私を信用してくれてるって事だろうけど、円満さんは安全マージンを取り過ぎだと思うわ。
哨戒だからって慢心していいとは思わないけど、あの子達だってそれなりに経験を積んでるんだから信用してあげても……。
「あのぉ~、哨戒ってそんなに危険なんですか?」
「危険度は低いけど安全な訳じゃないわ。昔より減ってるとは言っても、はぐれの深海棲艦と会敵する事もあるし」
「そんな危険な事を、あんな幼い子にさせてるんですか?」
コイツは何を言っている?
大和の問いに答えた円満さんも、ソファーで私達の様子を眺めてる桜子さんも「何言ってんだコイツ」みたいな顔してるわ。
「アンタが何を思ってそんな事を口にしたのかわからないけど、幼いかどうなんて関係ない。艦娘は国を守るために戦ってるの。危険な目に遭う覚悟はできてるわ」
海防艦になると駆逐艦より更に幼いしね。
けど先に言った通り、艦娘になった理由は様々だけど、艦娘は艦種に関係なく覚悟を決めて日々の任務に従事している。
むしろ、危険な目に遭う覚悟が出来てない艦娘の方が珍しいわ。訓練でだって怪我をするし、最悪の場合は死亡する事もある。
実際、運用開始初期の頃は訓練中の事故がよく起こったらしいわ。
艦名は忘れたけど、駆逐艦同士の追突事故で、追突された方が死亡した事故は忘れてはならない教訓として養成所の段階で教えられほどよ。何でも、追突の衝撃で上半身が吹っ飛んじゃったんだってさ。
「そうですか。わかりました」
大和が何を理解したのかは私にはわからないけど、表情からは納得しているように見えない。子供を危険な戦場に出すことが納得出来ないのかしら。
けど、それは仕方のない事よ。
平時なら仕方ないで済ましちゃダメだけど今は戦時。
日本は他国に比べて平和とは言え、それは本来なら戦場に出なくても良い
平和ボケしてるっぽいお嬢様が納得しようがしまいがそれは変わらない。
『駆逐艦朝潮です!昼食をお持ちしました!入ってもよろしいでしょうか!』
「良いわよ。入りなさい」
円満さんがそう返したけど朝潮が入ってこない。もしかして、両手が塞がってドアが開けれないのかしら。
「ごめん大和、開けてあげて」
「あ、はい」
円満さんに言われて大和がドアを開けると、どうやって開けようか悩みすぎて半ベソかいてる朝潮の姿が見えた。
予想通り、両手が塞がって開けられなかったのね。
若干重そうに、二人分のカレーが載せられたお盆を持ってるわ。
廊下にでも置いて開ければよかったのにって思うけど、食べ物を地ベタに置くのはダメな事とでも思ってそうしなかったのね。
ホント、無駄に真面目なんだから……。
「お待たせしました!駆逐盛りと並盛りにしましたけど…よろしかったでしょうか?」
「ありがとう。そこのテーブルに…置いたら食べられちゃうからこっちに貰うわ」
円満さんが言ったテーブル。
それは一航戦の無駄に食べる方を上回る大食漢である桜子さんが占領しているソファーの前に設えてあるテーブルね。
あそこに置いたら間違いなく食べられるわ。
だって二人分のお弁当を食べたにも関わらず、涎を垂らす勢いでカレーを運ぶ朝潮を凝視してるもの。獲物を狙う肉食獣みたいって言った方が良いかな?
「ご苦労様。大和との話は済んだからまた案内をしてあげて。それと、後で正式に言うけど、明日から八駆の三人に交代で秘書艦をやってもらうから他の二人にも言っておいてね」
「了解しました!秘書艦のお役目、精一杯頑張らせて頂きます!」
気合い入れすぎ。
真面目なのは良い事だけど、朝潮の場合は少々度が過ぎている。
廊下を走らないのは当たり前、歩く時はセンターラインがある訳でもないのに頑なに右側通行を貫き、真ん中より少し左側に寄っただけで始末書を書こうとする。って言うか、何度か実際に書いて来た。
人に注意までする度胸は無いみたいだけど、朝潮のギャグと紙一重の真面目さは着任から一か月もしない内に鎮守府中に知れ渡ったわ。
鎮守府にも信号や横断歩道があるんだけど、信号のない横断歩道をどうやって渡ったらいいかわからずに泣いてるのを見た時は度肝を抜かれたわ。
要は真面目すぎてポンコツなのよこの子。
「あ、あの…満潮さん……」
「何よポンコツ。カレーならそこに置いて……。あ……」
しまったぁぁぁぁ!余計な事考えてたせいで思わず口に出してしまったぁぁぁぁ!ポンコツ呼ばわりされた朝潮が「え……?」って感じで固まっちゃってるわ!
そうよね!固まっちゃうよね!いつもキツイ言い方はしてるけどポンコツ呼ばわりなんてした事ないもん!
「満潮…アンタ……。それは流石に無いんじゃない?」
「い…いいんです司令官……。満潮さんからしたら、私は出来の悪い姉妹艦でしょうから……」
ヤバいヤバいヤバい!朝潮は目に涙を浮かべて今にも泣きだしそう!なんてフォローすればいい!?
確かに私は朝潮をポンコツだと思ってるけど、けっして悪い意味でそう思ってるんじゃないわ。
だって律儀に規則を守ろうとする様は立派だと思うし、横断歩道を手を上げて渡る姿なんて微笑ましいもの。正直、何度か可愛いと思ったわ。うん、キュンっ!ってした。本当よ?
ってぇ!それは今どうでもいい!今は泣き出しそうな…ってかもう半分泣いてる朝潮をどうやって慰めるかを考えないと!
「ポンポコ」
「え?は?ポン…何?」
「ポンポコ……と、満潮さんは言ったんですよね?」
大和は何を言ってるの?ポンポコ?ポンポコって何?しかも私が言った?
いや待って、これは大和なりに誤魔化そうとしてるのかも。だとしたら、これは私へのパスだわ。ポンポコで連想出来る事をそれっぽく朝潮に言って煙に巻けって事ね!
「そ、そう!ポンポコって言ったのよ!」
「いや、ポンポコって何よ。腹太鼓でも叩いたの?」
「それ!それよ桜子さん!」
ナイスアシストだわ!桜子さんの一言で朝潮を騙す…もとい!さっきのポンコツ呼びを誤魔化す算段がついたわ!
「この前ポンポコを見たのよ!」
「ポン…ポコ?」
「そうよ朝潮!ポンポコ知らない!?ジ○リであるのよ。『正化狸合戦ポンポコ』って映画が!」
「で、でも…満潮さんは私の事を……」
「違うのよ!あれは語尾なの!私ってあの映画が大好きだからさ、ついつい語尾に『ポンポコ』って着けて話しちゃう事があるのよ!」
苦しい。非常に苦しい。何よ語尾って。
そんな特殊な語尾をつける奴なんて艦娘でも居ないわ。『かも』とか『でち』とか『ぽい』なら知ってるけど『ポンポコ』はない。もしそんな奴が居たら、目も合わさずにその場を立ち去るわ。
けど、今はこれで押し通すしかない。青葉でも居たら致命的だったけど、今執務室に居る人間なら誤魔化すために仕方なくそうしたんだとわかってくれるはず!
「満潮さんがそんな語尾を着けるとはとても……」
「思えないよね!でも部屋じゃポンポコってつけて話してるのよ?ねぇ!?円満さん!」
「う、うん…そうよ、朝潮……。満潮って部屋じゃ語尾にポン…コポォ!じゃない。『ポンポコ』って着けて話すの……。プッ……」
笑うな!爆笑しそうなのを必死に我慢してくれてるのはありがたいけど笑うな!あんまり笑うようなら、今日の晩御飯は円満さんが嫌いな物ばっかり出してやるんだから!
「本当…ですか?」
「ほん……!」
クッ……!カレーを両手に持って涙を浮かべた上目遣いの朝潮に嘘をつく事に罪悪感が芽生えて来る。
でも耐えろ!この程度の罪悪感、姉さん達の訓練で味わった虚無感や絶望感に比べれば屁でもないわ。私なら嘘をつき通せる!
「本当ポンポコ!部屋じゃいつもこんな喋り方ポンポコ!」
「ブフっ……!」
吹くな!お願いだから吹き出さないで桜子さん!
円満さんだって、肩をプルプルさせながら必死に耐えてくれてるんだから桜子さんも耐えて!お願いします!
「こ、今度……」
「え?何?じゃない。何ポンポコ?」
「今度…一緒に見てくれます…か?ポンポコを……」
「ええ良いわ!一緒に見ましょう……ポンポコ!」
よし!よし!なんとか誤魔化せた!本当に誤魔化せてるかどうか疑問だけど、なんとかこの場は切り抜けられそうだわ!舌を噛み切りたい衝動を抑えた甲斐があったってもんよ!
「良かったですね朝潮ちゃん。それじゃあ、長居しても迷惑でしょうから、そろそろ行きましょうか」
「はい!では満潮さん!司令官!行ってまいります!」
「う…うん……。気を…気を付けてね…クっ……」
そう言って、大和は今にも笑いだしそうな円満さんが朝潮から見えない様に朝潮と円満さんの間にデカイ体を割り込ませ、朝潮が持っていた私の分のカレーを机に置いてドアへと向かって行った。
思ってたより気が利くのね。しかも察しが良い。大和のパスが無かったら、たぶん朝潮を誤魔化す事は不可能だったわ。
しばらく円満さんと桜子さんの爆笑を聴きながらカレーを食べなきゃならないのと、一緒にポンポコを見る約束をする羽目になったのは誤算だったけど……。
「この借りは…いつか返すわ……」
朝潮を促して退室しようとしている大和の背に向けて、私はボソっとそう言った。聞こえない程度の声量で言ったつもりだったんだけど、大和にはしっかりと届いてたみたい。
だって、大和はドアを締めながら唇だけでこう言ったもの。
「素直じゃないんですね」って。
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
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神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
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紫印 円満(実質三部の主役?)