艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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十一章ラストです。

十二章開始は順調に行けば(仕事次第)今月末には投稿開始できると思います。

たぶんね!


第百十話 幕間 満潮と第八駆逐隊

 

 

 

 ここ最近、と言うよりは大和と秘書艦を代わってからの約二ヶ月、私は休みの前の日は八駆の部屋に寝泊まりするようになっていた。

 最初は消灯時間になったら円満さんの部屋に戻るつもりだったんだけど、三人に泊まっていってってねだられて仕方なく、本当に仕方なく泊まるようにしたの。まあ、所謂パジャマパーティーってヤツね。

 それに八駆の部屋は、上から見ると『(こんな)』形をしている庁舎の海側にある寮の二階のほぼ真ん中にあるから執務室まですぐだし、その執務室のちょうど真上に位置する円満さんの部屋までもすぐ行ける。

 故に、ここで寝泊まりしても、何かあった時にすぐ対応できるから問題ないしね。

 でも、私が一晩居ないだけで部屋を汙部屋に変える円満さんに説教するって仕事が増えたのは誤算だったわ。

 

 「ねえミッチー。司令官ってそんなにだらしないの?」

 「大潮も実際に見ればわかるわよ。円満さんって本っ当ぉぉぉぉにっ!顔と頭が良い以外はダメ人間なんだから。つかミッチー言うな」

 「まるで、呉で『だらし姉ぇ』って呼ばれてる軽巡みたいねぇ。どんなものなのか一度見てみたいわぁ」

 「やめときなさい荒潮。トラウマを負いかねないほど汚いから。マジで!」

 

 そう言っても好奇心の方が勝っているのか、大潮と荒潮は「今からコッソリ覗いきに行く?」「良いわねぇ。ついでに写真も撮っちゃうぅ?」なんて無粋な相談をしてるわ。って言うか、荒潮は写真を撮ってどうする気?まさか青葉さんあたりの売りつけようとか考えてるんじゃないでしょうね。

 

 「あ、あの……消灯時間はとっくに過ぎてますし、憲兵さんに見つかったら怒られちゃいますから……その」

 「大丈夫だよ。憲兵さんに見つかっても、ミッチーから急ぎの伝言を頼まれたって言えば見逃してもらえるって」

 「でも……」

 

 言い負かされるな朝潮。

 今大潮が言ったような言い訳をすればたしかに見逃してもらえるって公算が高いけど、アンタは間違った事言ってないんだからオドオドしてないで胸を張ってダメなものはダメと言い返しなさい。

 と、言ってあげたいけど、言ったところで気が弱い朝潮じゃ結局言い返せないだろうから助け船を出してあげるとしますか。

 

 「大潮も荒潮もやめなさい。円満さんの貴重なプライベートを邪魔したら私が許さないわよ」

 「ぶ~、ミッチーの意地悪~」

 「満潮ちゃんってぇ、まるで司令官のママみたいねぇ」

 

 などとぶーたれながらふて腐れてる二人はこれで良いとして、この際だからついでに朝潮にも説教しとこうかな。いつまでも言いたい事が言えないままじゃ、いつか任務中にもしもの事が起こるかもしれないもの。

 

 「朝潮も二人に遠慮なんてするんじゃない。たしかにこの二人は着任したのもアンタより早いし練度も上だけど立場的には同列なんだから」

 「で、でも二人は改二で、任務への貢献度も私より高いですし……」

 「だから何よ。任務への貢献度が高い奴が偉いって誰が決めたの?」

 「それは……」

 

 誰も決めてない。そもそも、そんなルールは存在しない。

 命令系統を明確にするために、駆逐隊でもある程度は立場の上下が存在する。

 今の八駆を例にすると旗艦の私、次いで大潮、荒潮、そして最後が朝潮よ。

 これは単に実力順で決めているけど、旗艦の私を除いて他の三人の立場は基本的には同列。

 この順番は、万が一私が作戦中に戦死した場合に次の旗艦を大潮が担うとわかりやすくためなの。

 まあこう言ったところで、頭が硬いこの子は納得しないんでしょうね。だったら別アプローチ。

 

 「朝潮は、大潮と荒潮の事をどう想ってる?」

 「どう……?」

 「アンタにとってこの二人は友達?ただの駆逐隊メンバー?それとも、事あるごとにアンタを困らせる迷惑な同居人?」

 「め、迷惑だなんて思った事ありません!二人は私の大切な……!」

 

 友達?姉妹?

 どう続けようと思ったのかは「えっと……」って言ったまま俯いちゃったからわからないけど、たぶんこの子にとっては両方なんでしょうね。

 だけど年上だから友達とは言い辛い。血が繋がってないから姉妹とも言い辛い。

 そんなくだらない事で悩むなんてクソ真面目なこの子らしいと言えばらしい。

 なら、この子の先代であるお姉ちゃんの事を引き合いに出して、そんなくだらない事を考える頭をほぐしてやるとしますか。

 

 「ねえ朝潮。アンタの先代、お姉ちゃんもアンタと同じで八駆最年少だったのは知ってる?」

 「いえ、初めて聞きました」

 「どんなだったと思う?アンタみたいに歳の差を気にして遠慮してたと思う?」

 「えっと、違うんです……か?」

 「うん、違う。最初こそ多少は遠慮してたそうだけど、澪姉さんと恵姉さんのおもちゃにされてる内に遠慮なんてしなくなったそうよ」

 「お、おもちゃ?」

 

 そう、お姉ちゃんは朝潮時代に、当時の澪姉さんと恵姉さんにぬいぐるみのように猫可愛がりされていた。

 円満さんは今の私みたいな感じだったから表立ってそれに加わりはしなかったそうだけど、本心では混ざりたいとか思ってたんじゃないかな。

 

 「大潮と荒潮がアンタを困らせるのもソレと似たようなものよ。困ったアンタが可愛いから困らせるの。そうでしょ?」

 「い、いやぁ~その……」

 「否定はしないわぁ」

 

 大潮は誤魔化したかったみたいだけど、荒潮は朝潮に優しく微笑みながらあっさりと認めた。

 ったく、可愛がりたい気持ちはわかるけどやり方が歪んでんのよ。アンタらがそんなだから、いつまで経っても朝潮が本当の意味で溶け込めないんだからね?

 

 「だから遠慮なんてしなくていいの。アンタがこの二人を友達だと想ってるなら、今度から言いたい事はハッキリ言いなさい。当然、私にもね」

 「満潮さんにも……ですか?」

 「そうよ?それとも何?アンタ、私を小うるさい小姑みたいな奴とでも思ってんの?」

 「いえ!そんな事はありません!その、満潮さんは友達と言うよりも……」

 

 お?まさかお姉ちゃんみたいに思ってるとか言ってくれるのかしら。

 それはそれで嬉しいけど、個人的には友達と思ってほしいわね。だって私が目指してるのは円満さんやお姉ちゃんたちみたいな関係だもの。

 

 「お母さんみたいで……」

 「予想の斜め上が来た!私そんなに歳食ってないわよ!?」

 

 大潮と荒潮も「説教臭いしね~」とか「満潮ママぁ~」なんて言ってるけど冗談じゃないから!

 だいたい私の歳でアンタらを産むとか不可能だからね!?そもそも結婚どころか男性と付き合ったこともないし!

 

 「ミッチーママ~、お腹空いた~」

 「ご飯ならさっき食べたでしょ!って言うかミッチー言うな!ママとも呼ぶな!」

 「お菓子ならあるわよぉ?」

 「こんな時間にお菓子なんて食べるんじゃない!虫歯になっても知らないわよ!」

 「「やっぱママじゃん」」

 「ママじゃない!」

 

 ヤバい。

 大潮と荒潮が調子に乗って私をイジり始めた。

 たしかに言われてみれば、私は説教臭いし言ってることも母親が言うようなそれに近いかもしれない。

 でもそれは仕方がないの。

 もう何年も、私生活が子供みたいな円満さんの世話をしてきたんだから仕方ないのよ。けっして元から説教臭い訳じゃない。だいたい、本来なら私が言われる立場だからね!?

 

 「お、お母さんと呼んでも……」

 「ダメ!それだけはダメよ朝潮!せめてお姉ちゃんにして!それならまだ受け容れられるから!」

 「で、でも、たまにお母さんが恋しくなるんです。そんな時くらいは……」

 

 絶対にダメ!

 と、声を大にして言いたい。言いたいけど、朝潮に潤んだ瞳で縋るように見つめられたら言い辛い。

 大潮と荒潮も朝潮に感化されたのか「ママぁ」とか言いながら私に擦り寄ってきてるし……。

 え?マジでこの子たちのママをしなきゃダメなの?

 いやいや!感化されちゃダメよ満潮!

 もしこの子たちのママになる事を選んだら、今度から霞さんをママネタでイジれなくなっちゃうんだから!

 

 「そうだ霞さん!ママって呼びたけりゃ霞さんの事をそう呼びなさい!」

 「霞さんと言いますと……呉にいるあの霞さんですよね?」

 「そう!あの人って呉提督を相手に赤ちゃんプレイするような変態だから、きっと喜んでママって呼ばせてくれるわ!」

 「あの霞さんがですか!?にわかには信じられませんが……」

 「そうよね!信じられないよね!でもガチだから!」

 

 よし!少しだけ罪悪感は感じるけどこの線で乗り切ろう!じゃないと「ママぁ~オッパイ~」とか言いながら四つん這いで躙り寄って来てる大潮と荒潮に出もしないのに吸い付かれかねないもの。

 

 「横須賀鎮守府で言うと……雷さんとか夕雲さんみたいな感じですか?」

 「あの二人とはタイプが違うわね。霞さんは基本的に甘やかさないから」

 

 一応説明しておくと、六駆の雷と十駆の夕雲は横須賀鎮守府の二大ママと呼ばれている駆逐艦よ。

 大事な事だからもう一回言うけど()()()だからね?

 男性の性なのか、鎮守府に勤める国防軍人には母性を求める人が少数ながら存在する。私だって孤児だから母親が無性に恋しくなるときはあるけど、それでも駆逐艦に母性を求めたことは無いわね。

 駆逐艦みたいな、見た目が完全に少女なそれに母性を求めたら人として終わりだと思ってるから。

 あれ?ってことはコイツら人として終わってる?

 

 「厳しそうな人だもんね~霞さんって。初めて会った時なんて何故か睨まれたし」

 「大潮ちゃんもぉ?」

 「そう言うって事は荒潮も睨まれたの?」

 「睨まれたって言うかぁ。何か言いたいけど我慢してるって感じだったかしらぁ」

 

 それ、たぶん睨んでない。

 あの人って単に元々目付きが悪いだけで、睨んでると思われがちだけど睨んでる訳じゃないのよ。

 大潮と荒潮の時も荒潮が感じたように何か、例えば姉妹として歓迎しようとしたけど、キャラじゃないとか照れ臭いみたいな感情が勝って見つめるだけで終わっちゃったんだと思うわ。

 

 「霞さんも素直じゃないなぁ」

 「素直じゃないミッチーがなんか言ってる」

 「だから()って言ったでしょ?私には素直じゃない自覚くらいあるし……」

 

 それでも最近は素直になったと思う。

 そうじゃなければ、この子たちにせがまれたからって泊まりに来たりしないもの。

 まあ、霞さんに触発されたのが主な原因ではあるけど、元々円満さんたちみたいな関係を羨ましく思ってたから、今こうしてこの子たちの傍に居ようって考えられるようになった。

 でも、そうなったらなったで、今度は前以上の悩みを抱えるようになってしまった。

 

 「満潮さん?」

 「な、何よ朝潮。私の顔に何かついてる?」

 「いえその……なんだか悲しそうだったので」

 「私が?」

 「はい。何かに怯えているようにも見えました」

 

 何かに怯えてる……か。

 私が今どんな顔してるかはわかんないけど、朝潮が言う通り怯えてるのは確かだわ。

 私はこの子たちを失うのが怖い。

 この子たちの誰かが欠けて、新しいその子を迎える事態を恐れている。それが、この子たちと仲良くすると決めてから生まれた私の新しい悩み。

 これが姉さんたちならそんな事で悩まなかった。

 だってあの人達は私なんかよりずっと強いんだもの。そんな姉さんたちが戦死するような事態は考え辛い。

 でも、この子たちは姉さんたちほど強くない。

 大潮と荒潮は改二改装を受けて、朝潮ももう少しで改二改装を受けられるって練度だけどハッキリ言って弱い。改二になって性能が上がっただけで、この子たちは経験も技術面未熟。実際朝潮は、ついこの間の秋刀魚漁支援任務で大怪我したばかりだしね。

 

 「私がずっとついててあげられれば良いんだけど……」

 

 そういう訳にもいかない。

 大和が長門さんを相手に実戦的な訓練をしたいと言い出したので、私は休暇明けから秘書艦に戻ることになっている。この子たちにも訓練や哨戒任務がある。だから、ずっと傍にいて守ってあげられない。

 私が居ない間に誰かが、もしくは全員が死んじゃうかもしれない。

 そんな不安を抱えてる私が、以前は哨戒任務くらいなら三人でもできる。って円満さんに言ってたんだから嘘みたいだわ。

 

 「私が居ない間に艦隊全滅とか……やめてよね」

 

 思わず言ってしまった私の言葉に、三人は「え?」という顔をして私に注目した。

 口に出したのは失敗だった。と、少し後悔したけど、口に出したことで、円満さんがこの子たちを三人だけでは哨戒任務にすら出さなかった理由がわかった気がした。

 円満さんはこの子たちを過小評価してたわけじゃない。円満さんは、以前は私自身自覚してなかった不安を見抜いて、この子たちの安全マージンを他の子達より高く設定してたんだわ。

 私の知らないところで、円満さんは私を守ってくれてたのね……。

 

 「み、満潮さん!今日は一緒に寝ましょう!」

 「一緒にって……同じ部屋で寝るんだから一緒に寝るでしょ?」

 「そうじゃなくて……その、同じ布団で……」

 

 ああ、そういう事か。

 朝潮に時雨みたいな特殊な性癖があるとは……いや、あるか。でもアイツみたいにヤらしい事してくるとは思えないから同じ布団で寝るのは良いわ。

 良いけどそうなると……。

 

 「あー!朝潮ちゃんズルい!大潮もミッチーと同じ布団で寝るー!」

 「だったら私もぉ~」

 

 当然そうなる。

 大人用のサイズの布団ならともかく、子供サイズの布団に四人包まって寝るのは不可能でしょ。

 まあ、どうせ引っ付いて寝るつもりなんでしょうから風邪を引く心配はなさそうだけど。

 

 「そうと決まったら寝ましょう!満潮さんの左側は譲りません!」

 「じゃあ大潮は右ー!」

 「それなら私はぁ……。こぉこ♪」

 「ちょっ!荒潮!そんなとこで寝るな!」

 

 入る隙間がなくなったからと荒潮がチョイスしたのは私の股の間、ちょうどお臍の辺りを枕にしてるわ。しかも両腕を朝潮と大潮に抱き枕にされてるからまともに抵抗もできず、私はなんとも間抜けな格好で寝ることになってしまった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 今でもそんな寝方をしてるのか?

 してるわけないでしょ!

 あんな寝方をしたのはあの日だけで、その次の週のお泊まり会では普通に川の字で寝たから!

 

 え?アイツにその話はしたのか?

 出来るわけないじゃない!

 アイツって、その手の話をしても表情は変わらないけど怒ってるのがすぐにわかるんだから!

 もし、荒潮が私の股の間で寝たことがあるなんて言おうもんなら、アイツはニコニコしながらあの子の家に車で突っ込むくらいはするはずよ

 

 は?後ろにいる?いるって誰が……あ。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 満潮へのインタビューより。







次章予告。

 大淀です。

 欧州の艦娘と日本の艦娘が火花を散らす演習試合。
 ですがけして予定通りにならないのが横須賀流。試合の枠を超えて暴走する艦娘たちのせいで、円満さんは頭を抱えて失神寸前です。
 桜子さんと辰見さんのフォローでどうにか気を持ち直す円満さんですが、どうやって収拾を付けるつもりなのでしょうか?
 呑気で楽しいお祭り騒ぎでは終わらないのでしょうか?

 次章、艦体これくしょん『狂乱と狂瀾の対舞曲(コントルダンス)

 お楽しみに。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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