艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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 十二章開始は月末と言ったな。
 あれは嘘だ!

 久しぶりに言えたので投下開始しまーす(・∀・)



第十二章 狂乱と狂瀾の対舞曲《コントルダンス》
第百十一話 こんな今も、あったのかもね


 

 

 

 

 ラバウル基地を閉鎖して、本土に戻ってから一番最初にやった仕事は痴話喧嘩の仲裁でした。

 いえ、冗談ではなく本当です。

 

 南方中枢を撃破した事で南方、特に南方中枢の封じ込めを目的として配置してあったラバウル、ブイン、ショートランドの三基地をショートランド泊地のみ残して解体し、横須賀鎮守府に提督補佐として配属された僕は、鹿島を連れて執務室に着任の挨拶をしに行ったんですが……ドアの前まで来たところで室内から男女が罵倒し合う声が耳に飛び込んで来たんです。

 

 ええ、お察しの通り、紫印提督とヘンケン提督です。

 僕と鹿島が室内に踏み込んだ時には二人とも完全にヒートアップしていましたね。

 

 喧嘩の経緯ですか?

 正直、馬鹿馬鹿しすぎて話す気にもなれないんですが……。

 彼等の秘書艦の満潮さんとジョンストンさんも呆れ果てて言葉もないと言った感じでしたし、鹿島もすぐに喧嘩の理由を察して逃げていきました。

 

 え?どうして鹿島が逃げたのか。ですか?

 自分にも飛び火しかねないと思ったそうです。

 実際彼女は無自覚に人の彼氏を誘惑してしまうくらい魅力溢れる人で、僕の所に着任する前に、彼女は佐世保で姉妹艦の香取さんと訓練していたんですが、その時期に香取さんの彼氏から言い寄られた事があるそうです。

 

 今だから言えるんですが、鹿島がラバウルに配属されたのは半分左遷みたいなものなんです。

 その一件のせいで鹿島と香取さんの姉妹仲は最悪を通り越して絶望的になり、鹿島が居た間の佐世保鎮守府は文字通り修羅場と化していたそうです。

 

 結局、二人の喧嘩の原因は何か?

 いや、理由も何も無いですよ。

 最初に言ったでしょ?僕の横須賀鎮守府での一番最初の仕事は()()()()の仲裁だったって。

 

 

 ~戦後回想録~

 横須賀鎮守府提督補佐。 通称 イケメン提督へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 「落ち着きなさいよ円満さん。今からそんなにソワソワしてどうすんのよ」

 「だ、だって、彼と会うの3ヶ月と16日ぶりだし……」

 「数えてたのかよ」

 

 大和と秘書艦を交代し、艦種別国際艦娘演習大会の開催を一週間後に控えた12月某日。

 秘書艦を連れて、今回は飛行機で来日する予定になっているヘンケン提督の到着を文字通り指折り数えて待っている円満さんは、執務机の前で壊れたメトロノームのように行ったり来たりを繰り返している。

 正直言ってウザい。

 数カ月間会えなかった恋人と会えるのを心待ちにする気持ちは理解できるけど、もともと円満さんって、ヘンケン提督とは打算で交際してなかったっけ?

 

 「本気で好きになっちゃったの?」

 「す、好き!?誰が!?」 

 「いや、誰がって円満さんがヘンケン提督をよ」

 「そそそそんな訳ないじゃない!」

 

 いや、完全に惚れてるでしょ。

 今の円満さんって、元帥さんとのデート(奇兵隊一個中隊の護衛付き)前日と行動が同じじゃない。

 この後はどうせアレでしょ?

 恋愛経験もない私に「何を話したら良いと思う?」とか「やっぱりお化粧くらいした方が良いかしら」とか聞いてくるんでしょ?爆発すればいのに。

 

 「ね、ねえ満潮……」

 「知らない。頭良いんだからピロートークくらい自分で考えなさいよ」

 「そんな意地悪しないで……ってピロートーク!?そんなの私とヘンケンには早すぎるわ!」

 

 お?いつの間にかヘンケンって呼ぶようになってる。

 動揺してつい言っちゃった可能性もあるけど、ヘンケン提督が帰国してる間も暇を見つけては小まめに電話やメールはしてたみたいだから、その間に仲良くなってヘンケンって呼ぶようになったのかもね。

 あ、ちなみにピロートークとは、簡単に言うと夜戦(意味深)の後のイチャイチャやたわいもないお喋りのことよ。

  このピロートークが充実しているかいないかで、相手が遊びか本気かを見極めたりする人もいるらしいわ。

 

 「いい加減キスくらいしたら?その流れでガーってなったヘンケン提督とヤっちゃえば良いんだから」

 「だからまだ早いって言ってるでしょ!?いきなりセ……夜戦とか私が無理!」

 「へぇ?じゃあキスだけなら良いんだ」

 「そ、それは雰囲気次第で……」

 「いやいや、キスくらい出会い頭にしなさいよ。このままじゃ円満さん、キスすら経験しないままお婆ちゃんになっちゃうよ?」

 「キ、キスくらいしたことあるし!」

 

 は?今なんて言った?

 顔を赤らめて拗ねたように言ったけどキスくらいしたことあるですって?いつ?誰と?まさか相手は元帥さん!?いやいやいやいや、元帥さんと手を繋ぐことすら無理だった円満さんが元帥さんとキスができる訳がない。きっと今のはブラフ、もしくは見栄を張ったに違いないわ。もし万が一、いや億が一本当だったとしても精々ホッペにチュッ!が良いところ。

 マウストゥマウスは有り得ない!はず……。

 

 「あ、相手は元帥さん?」

 「そうよ。い、言っとくけど唇同士のキスだからね!」

 「嘘よ!そんな事有り得ない!」

 

 そうよ有り得ない。

 もし元帥さん相手にキ、キスしてたんなら私に自慢の一つもするはずだもの。それなのに、円満さんからその手の話は一切聞いていない。

 いや、馬鹿みたいに頭が良い円満さんのことだから、元帥さんとキスしたって言ったところで私が信じないと予想して言わなかった可能性もあるわね。

 今回言ったのはまあ、売り言葉に買い言葉って感じでつい言っちゃったんだと思う。

 

 「本当だもん!」

 「じゃあその時の事を詳しく説明してよ!本当にしてるんなら説明できるはずでしょ!?」

 

 円満さんは「う~……」とか唸りながら顔を火でも噴きそうな赤くして私を睨んでる。

 よって、単に見栄を張ってるだけだと再度私は予想するわ。もし、その時の事を事細かく説明してきたら……どうリアクションをとろう……。

 

 「あ、あれは桜子さんの結婚式の前日の事よ」

 「え?そんなに前なの!?」

 「そうよ!桜子さんと辰見さんに煽られたのもあったけど、私はその日先生に犯……抱かれる覚悟で部屋に行ったの」

 

 その結果は、自分の馬鹿さを思い知っただけで終わったけどね。と、詳細までは教えてくれなかったけど、円満さんはお酒の勢いに任せて元帥さんにキスをしたと話してくれた。

 これはどう反応するのが正しい?

 湯気が上がるくらい顔を真っ赤にしてる円満さんを見る限り、今の話がまったくの出鱈目とは思えない。でも本当だと確信もできない。

 結果、私が取ったリアクションは、苦笑いしながら「へ、へぇ~そうなんだ~」と誤魔化す程度で終わってしまった。

 誰かが執務室に来てくれたらこの微妙な空気も変わるんだろうけど……お?今気付いたけど部屋の外に誰か居ない?気配的に二人くらいかしら。

 

 「この時間に来そうなのは……三時のおやつ目当ての桜子さんか辰見さんくらいよね。でもそれだと……」

 

 どうして入ってこない?

 もしかして、室内の微妙な空気を察して様子を見てる?それとも聞き耳を立ててクスクス笑ってるのかしら。あの二人ならどっちもしそうだけど……って、そういえば今日は、あの二人以外にもこの時間に来そうな人達が二組ほど居たわね。

 

 「ねえ円満さん。ヘンケン提督が来たんじゃない?」

 「え!?もうそんな時間!?」

 「予定よりは少し早いけど間違いないんじゃないかしら?」

 

 そう言って秘書艦席から立ち、身嗜みを慌てて整え始めた円満さんを尻目に執務室ドアを開けると、そこには予想通りヘンケン提督が立っていた。

 予想外と言えばヘンケン提督が真顔なのと、見たことない艦娘と一緒だって事くらいね。

 胸の大きさ的には軽巡以上かしら。 

 以前会ったことがあるチャールズ・オースバーンとサミュエル・B・ロバーツも真っ平らだったから、駆逐艦が幼児体型って法則は米国艦にも通じるはずよ。例外は考えないものとする。

 

 「やっぱりヘンケン提督か。居たんなら入ってくれば……」

 「エ、エマ、今の話は本当か?」

 

 良かったのに、と続けようとした私の言葉を遮るように、ヘンケン提督は絶望感満載の声でそう切り出した。

 迂闊だった。

 ヘンケン提督がいつから室外にいたのかはわからないけど、円満さんが元帥さんとキスした事があるって話を聞いちゃったんだわ。

 でもまあ過去の、それこそヘンケン提督と会う何年も前の事だし、よくある浮気がバレた時のテンプレ展開にはならないでしょう。

 

 「ち、違うの!」

 「何が違うんだ!君はその……Mr.Crazyのとkissしたんだろう!?」

 「お酒の勢いでキスしちゃっただけよ!でもそれ以上はしてないんだから!」

 

 あ、あれ?

 なんだか、浮気がバレた時の女のテンプレ言い訳集に載ってそうな事言ってない?

 もしかして円満さんくらい頭が良くても、咄嗟に言い訳するときは似たような事言っちゃうの?

 

 「いいや、それで終わったとは思えない」

 「どうして?私の事が信じられないの!?」

 

 円満さんとヘンケン提督が鬼のような形相をしてお互いに詰め寄ったのを見計らって、私は初めて会う米国の艦娘を室内に招き入れてからドアを閉めた。

 だってこんな醜態、他の子達には絶っっっ対に!見せられないもの。

 

 「長くなりそうだし自己紹介……しとく?」

 「そうね。Commanderはあの様だし……」

 「じゃあ私から。私は朝潮型駆逐艦三番艦の満潮よ。あそこで浮気がバレた女みたいなテンプレ台詞を吐いてる馬鹿女の秘書艦をしてるわ」

 「心中お察しするわ。あたしはFletcher級、USS Johnstonよ。よろしくね」

 「フレッチャー級?って事はチャールズの姉妹艦!?」

 「そうよ。ここにも本当はCharlieが来るはずだったんだけど……」

 

 この胸部装甲で駆逐艦だと?

 ま、まあ日本の艦娘でも胸がデカい子はいるから異常って訳じゃないけど……。

 って、それはどうでも良いか。

 そんなことより、ジョンストンがチャールズの名前を出した途端に辛そうな顔したの気になるわ。もしかして怪我でもしたのかしら。まさか戦死?

 いや、それは無いか。

 たしかチャールズは、ヘンケン提督の初期艦でありケッコン艦でもあったはずだから、もし戦死なんてしてたらヘンケン提督も呑気に円満さんと痴話喧嘩なんかしてないはずだもの。

 

 「一応休暇って事になってるけど、たぶんあの子Commanderと喧嘩したんだと思う」

 「喧嘩?まさか、円満さんと付き合ってるから?」

 「あ~、それは無いかな。あの子とCommanderの間に恋愛関係は皆無だし、ようやくlover(恋人)ができたあの人を祝福してたもの。これはあたしの予想だけど、この前の作戦でCommanderがとったtactics(戦術)が気に食わなかったんじゃないかな」

 

 ちょいちょい英語を混ぜないで。は、まあ良いか。なんとなく言いたい事はわかるし。

 でも、チャールズが臍を曲げて同行しなくなるほどの戦術ってどんなだったんだろ?

 あの時の対南方中枢戦の詳細は機密扱いで円満さんも教えてくれないし、辰見さんに同行してた叢雲さんも「数の暴力」ってはぐらかすだけだから私は知らないのよねぇ……。

 

 「あ、でも休暇は本当よ?あの子ったらウキウキしながら工場見学のscheduleを練ってたから」

 「は?工場見学?なんで?」

 「なんでって……行きたかったからじゃない?」

 「ちなみに、何の工場?」

 「え~とたしか……chocolate工場って言ってたかな?」

 「チャーリーだから!?それ絶対にチャーリーだからよね!?」

 

 バツが悪そう、いや申し訳なさそうに顔を逸らしたジョンストンの様子を見る限り間違いないわね。

 でも、どうして愛称がチャーリーってだけでチョコレート工場の見学なんかに行こうと考えたのかしら。まさか金のチケットでも当たった?

 

 「だから!先生とキスしたのはアンタと会う前の事だって言ってるじゃない!だいたい、アンタって米国人なんだからキスは挨拶みたいなもんでしょ!あそこの軽巡とも挨拶代わりにチュチュしてるんじゃない!?」

 「俺がキスした事があるのは家族とだけだ!それにJohnstonはDestroyerだ!」

 「はあ!?あの胸がデカくて痴女みたいな格好した子が駆逐艦!?嘘つくんならもうちょっとマシな嘘つきなさいよ!」

 

 ま~だやってたのかこのバカップルは。

 まさか自分に飛び火するとは予想してなかったジョンストンが若干怯え始めちゃったじゃない。

 って言うか円満さん、それは言い過ぎ。

 日本にも痴女みたいな格好した駆逐艦は居るでしょうが。まあ、これ程の胸部装甲を備えた上で痴女みたいな格好してる駆逐艦は居ないけど……。

 日本の艦娘で、しいて近い格好をしてる子を挙げるとするなら天津風かな?その天津風の胸を盛った感じね。

 うん、米国版天津風って感じだわ。

 略すならアメ津風?それともアメリ風かしら。

 

 「そう言えば秘書艦もアイオワだったわね。アンタ、私の事を最高の女性だとか言っときながら、本当は胸がデカい子の方が好きなんでしょ!」

 「それは誤解だ!俺が好きなのは君のようなフラットボディだ!」

 「誰がフラットボディだ!私だって少しは、いやちょっと?いやいや!微妙に有るんだからね!?なんなら触って確かめてみなさいよ!」

 

 いや、無いから。

 円満さんは有るって信じ込んでるみたいだけど無いからね?それは無いことに同情しなくなるくらい見てる私がよ~っく知ってるから。

 

 「貴女のCommanderって意外と血の気が多いのね。まるで駆逐艦みたい」

 「みたいもなにも、あの人って元駆逐艦だからねぇ。しかもヘンケン提督が禁句を言っちゃったから余計にヒートアップしてるわ」

 「止めた方が良くない?」

 「止めれるんならアンタが止めて。私は嫌」

 

 嫌と言うより止めたくない。

 円満さんの地雷を踏み抜くどころか撃ち抜いたヘンケン提督が「さあほら!触りなさいよ!触って有るか無いか確かめて!」と言いながら胸を突き出す円満さんに詰め寄られてる狼狽してる光景はたしかに見苦しい。

 でも、些細な事で見苦しく痴話喧嘩してる円満さんが可愛く見えたし、喧嘩の真っ最中なのに平和だなぁ~って思っちゃったから止めたくなくなったのよ。

 そしてこうも思った。

 もし戦争が無く、円満さんが普通の女の子としてヘンケン提督と出会ってたら……。

 

 「こんな今も、あったのかもね」

 

 と、そんな有り得たかもしれない今を夢想しながら、私は呆れ果ててるジョンストンの隣で生暖かく二人の喧嘩を眺め続けた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 イケメン提督こと元ラバウル司令と鹿島さんが、着任の挨拶をしに執務室に来たのはそれから30分後くらいだったかしら。

 その頃には喧嘩を眺めるのにも飽きてきてて、さすがにそろそろ止めよっかなぁって考え出した頃だったから正直助かったわ。鹿島さんは気付いたら居なくなってたけど。

 

 ええ、喧嘩の仲裁はイケメン提督に丸投げした。

 だってあの人って、ラバウルでもそうだったし横須賀に着任するなりハーレムを形成するくらモテてたじゃない?だから痴話喧嘩の仲裁にも慣れてると思ったの。

 

 え?止めれたのかって?

 あ~……一応は止めてくれた……かな。

 いやぁ、彼が仲裁に入ってくれたおかげで円満さんとヘンケン提督の喧嘩は止まったわ。でも今度はヘンケン提督のヘイトがイケメン提督に移っちゃってさ。

 そう、「君はエマの何なんだ!」って感じで間男認定しちゃったのよ。

 

 まあ最終的に、騒ぎを聞いて駆け付けてくれた辰見さんの説得(物理)で喧嘩は完全に止まったんだけど、私的にはその後の方が大変だったわ。

 だって辰見さんが暴れたせいで半壊した執務室の掃除を、その場にいたメンバーで掃除ができた私とジョンストンの二人だけでする羽目になっちゃったんだもん。

 

 他のメンバーはその間何をしてたのか?

 正座させてた。

 いや、マジで。掃除が終わるまで全員正座させてたから。もちろん執務室を半壊させた張本人である辰見さんも例外じゃないわ。ついでに説教もしてやったわよ。

 

 いやぁホント、今でも考えることがあるけど、あのダメ提督共が戦争を終わらせるなんて偉業をよく成し遂げれたなって思うわ。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 満潮へのインタビューより。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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