艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百十二話 野郎共、本業の時間よ

 

 

 

 

 

 あの大会で何が大変だったかって聞かれたら、私は迷わず歓迎会の準備だったって答えるわ。

 アレに比べたら神風が暴走したことや、長門さんとネルソンさんが試合中にプロレスしだしたのなんて可愛いものよ。

 

 いやぁ、ホント死ぬかと思った。

 海外からのゲストだから歓迎会は純和風にしようとか元帥さんが急に言い出してさ。そのせいで、全員収容可能な会議室を急遽和室に改装したり、外国人ならアイドルより芸妓の方がウケが良いだろってなったから、『那珂ちゃんwith第四駆逐隊』のライブを無しにして大和に踊ってくれるよう頼んだり……。

 そうそう!一番大変だったのが料理人の手配よ!

 一応、元帥さんの伝手で本職の料理人は一人手配できたんだけど、逆に言えば一人しか手配できなかったの!

 そのせいで私とお姉ちゃん、さらに鳳翔さんと渋る桜子さんまで投入してなんとか人数分作ったわ。

 

 いや、ちょっと待って?

 もしかして元帥さん、お姉ちゃんに日本料理の作り方を覚えさせるためにそうしたんじゃない?

 だってあれ以来、お姉ちゃんの料理のレパートリーにあの時の料理が加わったし、魚を捌く腕前も本職の料理人並になったもの。

 うん、間違いない。

 あのオッサン、お姉ちゃんに日本料理を覚えさせるために歓迎会を利用したんだわ。

 ちょっと文句言って……って何よ。

 それは後にしてくれ?後にしたら今のこの怒りを忘れちゃうかもしれないでしょう!

 

 は?歓迎会自体は何事もなかったのかって?

 いやいや、あの時青木さんって取材しまくってたよね?だから、歓迎会が大したトラブルもなく終わったのは知ってるでしょ。

 

 取材してたから裏で何が起こってたか知らない?

 裏って何よ裏って。

 もし会場の外で何か起こってたとしても、外には桜子さんが居たんだから……。

 

 ごめん。桜子さんが外に居たのを思い出したら、何も無かったなんて有り得ないと思えて来ちゃった……。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 満潮へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 「疲れた……。もう今日は何もしたくない……」

 「大変だったみたいね。さすがに同情するわ」

 

 ゲストと各鎮守府の提督&秘書艦、さらにお父さんを会議室に詰め込んで宴会……もとい歓迎会が始まって早1時間。

 会場の対面に位置する執務室のソファーでは、準備で満身創痍になったジャージ姿の満潮を霞が慰めるという珍妙かつ微笑ましい光景が繰り広げられていた。

 

 「同情するなら少し寝かせて」

 「しょうがない子ねぇ。ほら、頭乗せて良いから少し横になりなさい」

 「……ありがと」

 

 この子らってこんなに仲良かったっけ?

 霞が妙に手慣れた手つきで満潮に膝枕したのも気になるけど、満潮が若干照れながらも素直に膝枕されたのが驚きだわ。

 

 「ホントに寝ちゃダメよ?少ししたら制服に着替えて顔出しするんでしょ?」

 「やだ」

 「やだじゃない。アンタは円満の秘書艦なんだかシャンとしなさい」

 

 ママか。

 たしかに霞は満潮より年上だけど、見た目の割にお母さんみたいな物言いをするのに違和感がないわ。

 普段、似たような事を円満に言ってる満潮を見てるから違和感を感じないのかしら。

 

 「桜子さんからも何か言ってくださいよ。このままじゃこの子、ホントに寝ちゃいそうだわ」

 「別に良いんじゃない?満潮が居なくても会場には辰見と叢雲がいるし、それに澪と恵もいるんだから平気よ。だいたい、アンタだって秘書艦なのにこんな所にいるでしょ?」

 「うちは金剛さんがいるから問題ありません」

 「提督、取られちゃうかもよ?」

 「そ、それは……。いや、今日は大丈夫!会場にはウォースパイトさんがいますから!」

 

 それでどうして大丈夫になる?

 金剛とウォースパイトが呉提督を取り合って牽制でもし合ってるの?

 いや、それは無いか。

 たしかウォースパイトって結婚してて子供もいるって話だし、国防海軍のトップであるお父さんがいる中で金剛と呉提督を取り合うなんて恥さらしな真似をするとは思えないもの。

 

 「だったらもう少しそのままで居てあげて。その子、今日どころかこの二週間は本当に大変だったから」

 「それは構わないけど……って満潮!いい歳して指をしゃぶるんじゃないったら!」

 

 いや、ホントにママみたい。

 満潮もそう思ってるのか、はたまた普段の反動のせいか素直に甘えてるわ。

 そういえば、大淀が大本営に行ってから満潮が誰かに甘えてるのを見るのって初めてね。

 まあこの際だから、今の内に存分に甘えときなさい。明日からはもちろん、これから先は誰かに甘える暇なんてないでしょうから。

 

 「それにしても、アンタって子供をあやすのが上手ね。まるで普段からやってるみたいだわ」

 「べ、べつに上手くなんてないわよ。単に頭撫でてるだけだし」

 「ただ撫でてるだけで、満潮がそうなると思う?」

 

 どうなってるかと言うと、霞の撫で方がよほど気持ち良かったのか安心しきった顔してスヤスヤと寝息を立て始めてるわ。

 いつもの満潮なら気付くはずの、窓の外から漂ってきているこの気配にも全く気付かずに。

 

 「ちょっと出てくるから、そのまましばらく寝かせてあげて」

 「出てくるって……。こんな時間にどこへ?」

 「トイレよトイレ。言わせないでよ」

 「そんな物騒な物を持って?」

 「ああ日本刀(これ)?これは私の体の一部だから良いの」

 

 ってな感じで霞を誤魔化して執務室から出た私は、会場前で警備している奇兵隊(うち)の隊員から会場から出て行った者の名を聞いて執務室の窓、その向こうから喧嘩を売ってきた奴の元へと向かった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 歓迎会は特にトラブルらしいトラブルもなく終わった……かな?

 念のために大淀を出席させなかったのが良かったのかもね。もしあの場に大淀がいたら大和と喧嘩、最悪の場合はガチの殴り合いだもの。

 

 個人的には、変な気を利かせた澪と恵が先生まで抱き込んで、私とヘンケンの席を隣同士にしたのに少し困ったわ。

 

 ほら、アンタにも散々写真を撮られたでしょ?

 そりゃあ、海外からのゲスト以外は私とヘンケンの関係を知ってたからニヤニヤと生暖かい視線を飛ばすだけで留めてくれてたけど、事情を知らないウォースパイトさんやビスマルクさん、さらにはオイゲンとかタシュケントたちからは質問攻めにされたわ。

 

 まあ、あの人たちが気にしてたのは私たちの個人的な関係ではなく、日本と米国の今後の関係だったででしょうけどね。

 

 

 ~戦後回想録~

 横須賀鎮守府司令長官。紫印 円満中将へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 「パーティー会場はここで合ってたかしら?」

 「ああ、ここで間違いない。来てくれたことに感謝するよ」

 

 会場から抜け出し、執務室の窓の外から殺気をぶつけてきた奴の居所を尾行中の部下に確認して着いた先は、庁舎から五分ほど歩いた場所にある浜辺だった。

 

 「自己紹介が必要かな?」

 「あら、露国連邦保安庁(FSB)の諜報員が自己紹介してくれるなんて意外を通り越して驚きだわ」

 

 とは言いつつも、咥えたパイプから煙を燻らせている彼女に左手を差し出して「どうぞ」と促した。

 月明かりに照らされた癖の強い銀のロングヘアーに琥珀色の瞳、それに左頬の傷が特徴的ね。

 白柄に黒つばの海軍将校の帽子を被から、アホ毛みたいな癖毛が見えるけど……それどうなってんの?

 でもアホ毛以外はしっかりした格好だわ。

 服装は赤の半袖シャツに縁に白いラインが入った黒のプリーツスカート。足には黒いストッキングに靴底の両側にキールのような装甲が付いた黒の前チャック式ブーツを履いて、更にその上から白のコートを肩に羽織っている。

 コートは襟と袖襟が黒で縁に金色のラインが入ってて、腰部とコート下縁に黒いベルトが入っている。

 まさかそのコート、私が着てる『狩衣』と似たような物じゃないでしょうね。

 

 「招待に応じてくれたことに改めて礼を言わせて貰おう。私がГангут級一番艦、Гангут(ガング-ト)だ。以後お見知り置きを、奇兵隊総隊長殿」

 

 言葉遣いは恭しいけど、その胸を大きく反らせて横目で私を見下す態度は不遜極まりない。

 コイツ、スパイよりもヤクザとかマフィアの方が向いてる気がする。ホテルモスクワとか経営してない?

 

 「で?私に何の用?まさか本当に喧嘩したいだけとか言わないわよね?」

 「そう身構えるな。この国の諜報機関のトップと少しばかり話をしたかっただけだよ」

 「だったら、アークロイヤル(MI6)ガンビアベイ(CIA)あたりも呼んだほうが良いんじゃない?」

 

 訂正するのが面倒だったから口には出さなかったけど、奇兵隊はけっして諜報機関なんかじゃない。

 まあでも、そういう事を専門にしてる部隊も抱えてるから、諜報機関のトップと言われても否定しきれないか。

 

 「あの二人に興味はない。興味があるのは、中枢棲姫を倒し、艦娘でもない人の身で鬼級を倒した貴様だけだ」

 「あら、よくご存知で」

 

 と、肩を竦めて見せたけど動揺は隠し切れたかしら。

 前者は私が書いた自伝を読んでれば知っていてもおかしくない。でも後者は?

 ガング-トが言ってる鬼級とは間違いなく野風の事。

 その野風討伐時の顛末は海軍の最重要機密になってるし、施設も半径2キロ圏内は奇兵隊によって完全に封鎖されていた。

 それなのに、コイツはどうして野風が鬼級だと知っている?

 いや、知って()()が正しいのかしら。

 野風が率いていたアクアリウムが()()から武器弾薬の類を購入していたことは調べがついている。

 それに、コイツが野風が鬼級と同等の力を持っていたのを知っていたことと結びつければ、アクアリウムのバックについていたのがFSBだってことは容易に想像できるわ。

 でも、何故それを知らせるような真似をするのかがわからない。何か裏があるのは確実ね。

 だったら、私はこう言うわ。

 

 「で?何が欲しいの?」

 「話が早くて助かる。物事を力尽くで解決すれば良いと思っている短絡思考という噂は眉唾だったようだ」

 

 その噂を流した奴について詳しく。

 は、置いとこう。見つけ出して考えを改めるまで洗脳してやろうとも考えたけど今は置いておく。

 仕事に私情は挟んでも時と場合は考える。それがこの桜子さんなんだから。

 

 「率直に言おう。私は貴様が欲しい」

 「は?生憎だけど、私には亭主がいるし女に興味なんてないわ」

 「そこは心配するな。私は男も女も両方いける口でな。夫婦揃って相手をするのも吝かじゃあない」

 

 アンタが良くてもこっちはノーサンキューよ!

 アンタは悪質なロシアンジョークを言って場を和まそうとでも考えたのかもしれないけど、私の旦那まで手籠めにする発言はハッキリ言って逆効果ね。

 私って独占欲が超強いんだから。

 

 「お生憎様。私はアンタの女になる気はないし、部下になる気もさらさらない」

 「そうか。それは残念だ」

 「あら、あっさり引き下がるのね。私の娘や友人を人質にする。くらいは言うと思ってたのに」

 「しないさ。貴様を敵に回すくらないなら、米国相手に戦争した方が遥かにマシだからな」

 

 パイプから旨そうに煙を吸い込みつつ、肩を竦めたガングートの表情は戯けているように見える。でも、そう見えるように演技しているのか、その瞳は本当に残念そうに私を見つめてるわ。

 随分と買い被るわね。

 米国と戦争するくらいなら、私一人を相手にした方がはるかに安上がりでしょうが。

 もっとも、もし私の身内に手を出すようなら、どんな手を使ってでもアンタだけはぶっ殺すけどね。

 と言うか、本当なら今すぐ拘束してやりたいのよ?

 私もお父さんから聞いて初めて知ったけど、FSBは過去に元艦娘を誘拐した前科があるんだから。

 たしか、その時攫われたのは元特型駆逐艦の誰かだったかしら。

 

 「さて、それでは戻るとするか。あんまり遅いとタシュケントが五月蝿いからな」

 

 そう言って、ガングートは後ろ手に手を振りながら庁舎の方に歩き出した。

 何?この感覚。

 アイツの背中を見た途端、妙に懐かしいと思っちゃったんだけど……。

 

 「ねえ、ガングート」

 「なんだ?」

 「私たち、前にどこかで会ってない?」

 「……在り来たりなくどき文句だが、実際に言われると意外にくるモノがあるな」

 

 別に口説いてるわけじゃない。

 単純に、アンタの背中に見覚えがあったから聞いただけよ。ただの既視感だと思うけどね。

 

 「で、どうなの?」

 「さあな、私は過去に拘らない女なんだ」

 

 そう言い残して、ガングートは今度こそ庁舎へと戻っていった。

 念のために監視は付けたけど、あの様子なら大人しく会場に戻ってくれそうだわ。

 

 「まったく、これから忙しくなりそうね」

 

 FSBだけじゃなくMI6とCIA、さらにSISMI(マエストラーレ)DRM(リシュリュー)までが鎮守府内をウロチョロする状況で艦娘たちを守らなきゃならないなんて考えるだけで目眩がしてくるわ。

 

 「でも、やらなきゃ」

 

 奇兵隊は鎮守府の暗部。

 どんなに蔑まれ、どんなに汚い真似をしてでも艦娘を護る盾であり、艦娘に仇成す敵を斬り裂く刃なんだから。

 

 「奇兵隊総隊長。神藤桜子大佐より奇兵隊全隊員へ。野郎共、本業の時間よ。気合いを入れなさい」

 

 私は会場を警備中の隊員のみならず、待機中の隊員にまで無線でそう伝えた。

 出来るだけ冷静に、でも確固たる決意を込めてね。

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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