艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百十三話 私の事が好きなら堪えて

 

 

 そんなに長い時間寝てなかったはずなんだけど、私が仮眠から目覚めると執務室が託児所になってたっけ。

 

 いや、文字通りの意味よ。

 どうも私が寝てる間に歓迎会から呑み会にシフトしてたみたいで、あぶれた駆逐艦連中が執務室でジュース片手にお菓子摘まみながら駄弁ってたわ。

 

 その時のメンバーはたしか私と霞さん、それにジャービスとタシュケントでしょ?あ、ジョンストンも居たっけ。あとはレーベとマックスに、マエストラーレとリベッチオ、ガンビアさんとその保護者のサミュエルも居たわ。

 

 え?逆じゃないかって?何が?

 いやいや、サミュエルって自他共に認めるガンビアさんの保護者だったから。

 青木さんだって、しょっちゅう迷子になるガンビアさんをサミュエルが探してるのを見たことあるでしょ?

 

 え?ガンビアさんにはCIAの諜報員じゃないかって噂があった?

 いや、有り得ないでしょ。

 だってガンビアさんって、二日に一回は迷子になって泣いてたのよ?たしかに機密レベルが高い場所で保護された事もあるみたいだけど、そんな方向音痴で何も無いところで躓くようなドジっ子って言葉が服着て歩いてるような彼女にスパイが務まるだなんて私には思えないわ。

 

 そんな国際色豊かな面子で何をしてたのか?

 べつに何も?本当に雑談してただけよ。

 ああでも、お開きになった後に霞さんが妙な事を言ってたわね。

 

 えっと……。

 そう!たしか、心底呆れたように「腹黒狸が4匹も……」って言ってたわ。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 満潮へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 「良いのか?エマ。鼠が四匹ほど執務室に行ってしまったぞ」

 「良いも何も、その鼠の一匹は貴方の部下でしょう?」

 「お見通しか。だが彼女は……」

 「CIAの直轄で正確には自分の部下じゃない。でしょ?」

 

 大和に急遽披露してもらうことになった日本舞踊を見終わり、歓迎会が呑み会に変わってから始まった海外艦達による質問攻めから解放されてようやくお酒を楽しめる段になって、隣で私と同じく質問攻めにされていたヘンケンがウンザリした顔のまま要らぬ心配をしてくれた。

 まあでも、ヘンケンの心配もわからないでもないわ。

 ()()なら重要書類や機密が入っているPCなどがある執務室に、他国のスパイが四人も潜入している状況は異常事態どころか超危機的状況よ。

 けど、ヘンケンの心配は杞憂に終わる。

 ()()()()だったらアウトだったけど、()()()()()()()()()()はそんな心配は無用。

 何故なら()()憶えてるから。

 ハッキリ言って、執務室にある書類や書籍、PCに保存してあるデータに至るまで、スパイが欲するような情報は皆無よ。

 そういう重要な情報は全て、もっとも信頼できる保管場所(私の脳内)に保存してるんだから。

 でも、心配してくれたんだからお礼くらいは言っておこうかしら。

 

 「それに、鼠共を牽制するために直属の部下(ジョンストン)を行かせてくれたじゃない」

 「な、何の事だ?」

 「誤魔化さないで。貴方のそういう、さり気ない心遣いには感謝してるんだから」

 「そ、そうか……」

 

 お礼を言われるとは、いえ、スパイを牽制するためにジョンストンを執務室に向かわせた事を私に気づかれているとは思ってなかったのか、ヘンケンは帽子を目深に被って赤くなった顔を隠した。

 そ、そんなにあからさまな照れ方をされると私まで照れちゃうんだけど……。

 ここは話を戻して気を紛らわすとしましょう。うん、そうしよう!

 

 「だいたい、執務室には霞と満潮も……」

 「と、ところでエマ。この後二人で飲み直さないか?」

 「居るから大丈夫……って、今なんて?」

 「二人で飲み直そうと言ったんだ。い、嫌なら断ってくれて構わないんだが……どうだ?」

 

 私の顔色を覗うようにそう言ったヘンケンの顔は、真っ赤を通り越して赤黒くなって少し怖い。正に鬼気迫るって感じだわ。

 その気迫に押されて……そう!小洒落たBARでカクテルでも飲みながら「君の瞳に乾杯」とか言われるような大人っぽい夜のデートに誘われたからじゃなくて、あくまでヘンケンの気迫に押されたからドキッ!として何を言おうとしてたかスッカリ忘れちゃったの。

 

 「の、飲み直すって……どこで?」

 

 何その気になってんのよ私!

 そりゃあ夜のデートに憧れはあるし、いずれはって思ってたけど今はマズいでしょ!

 ほ、ほら、今は各国のスパイが目を光らせてる状態だし、それに先生だっているし……。

 だいたい、ヘンケンだってまさか私がその気になるとは……って、なんて顔してるのよ。

 いや、ヘンケンが驚いてるのは予想通りだからいいんだけど、問題は見開かれたヘンケンの瞳に映った私。

 耳まで真っ赤に染めて上目づかいでヘンケンを見つめ返してる私は控え目に言って発情してる。飲み直した後にホテルにGoしてもOKよ。みたいな顔してるわ。

 

 「倉庫街にある『猫の目』が夜はBARに変わるらしい。そこでどうだ?」

 「う、うん……」

 

 OKしちゃった?もしかして私、今OKしちゃった!?

 いやいや、落ち着いて冷静になるのよ円満。

 飲み直す予定の『猫の目』は奇兵隊の本部みたいなものだから常に誰かしら詰めている。桜子さんや花組の子達は出払ってるはずだけど、金髪さんあたりが居るはずだから万が一の事態は避けられるわ。

 

 「日本酒しかないけど……わ、私の部屋で飲まない?」

 「い、良いのか?」

 「うん。満潮には八駆の部屋で寝てもらうから……」

 

 私何言ってんの!?

 私の部屋で飲まない?満潮には他所で寝てもらう?それ完全に誘ってるじゃん!貴方の好きにしてって言ってるようなもんじゃん!

 

 「ダメよ」

 「そうです。ダメです。それは円満にはまだ早いです」

 「あらあら、辰見さんも澪ちゃんも無粋ねぇ。良いじゃない今日くらい」

 

 私とヘンケンが無言で肯き合って席を立とうとしたら、どこに潜んで聞いていたのか、私たちの後ろから辰見さんと澪が真顔で待ったをかけてきた。

 そのさらに後ろでは、恵が「困った人達ねぇ」とでも言いたそうにあらあら言ってるわ。

 でも、辰見さんと澪には感謝しなきゃ。 

 もし二人が止めてくれなかったら、私は今晩ヘンケンと……。

 

 「じゃ、邪魔しないでよ!私が自分の身体をどうしようと私の勝手でしょ!?」

 

 だから何とち狂ってんのよ私!

 いや、たしかに興味はあるのよ?興味はあるし、駆逐艦だった頃もそうだけど、今だって機会さえあればなんて常に考えてるわ。

 そして今回はその良い機会。

 べつにヘンケンの事は嫌いじゃないし、二人は一応とは言え恋人同士なんだから夜戦(意味深)しても問題ないわ……って、ヤバい。口だけじゃなく思考までヤる方に傾いちゃってる……。

 

 「そうだけどダメ。円満には、私と辰見さんで考えた理想的な処女喪失をしてもらうんだから」

 「理想的な処女喪失って何!?」

 「そう来ると思ったよ。だから説明します。これが、私と辰見さんが夜も寝ないで昼寝して考えた円満の理想的な処女喪失だよ!」

 

 余計なこと考えてる暇があったんなら仕事してよ!と言おうとした私を、辰見が右手で待ったをかけながら「まあ聞きなさい」と言って静止させた。

 いや、聞けはいいんだけど、私には聞く気なんて一切ないわよ?

 

 「まず、大切な妹の初体験だからシチュエーションには拘るよ。場所は夕暮れの執務室が良いね。円満にとって職場であり、かつ艦娘や私たちの憩いの場でもある執務室で行う夜戦(意味深)は、背徳感と誰かが訪ねてくるかもしれないスリルが良いスパイスになって、自室やホテルなんかでヤるより何倍も凄い興奮を与えてくれるはずだよ」

 

 ふむ、悪くない……わけない!

 神聖な職場でそんなふしだらな事出来るわけないでしょ!今の話を聞いて執務椅子に座ったまま顎をクイッとやられて迫られたいとか、みんなで歓談するためのソファーに押し倒されてみたいとか少し考えたけど無し!

 だいたい、夕暮れの執務室なのに夜戦ってどういう事?昼戦(意味深)でいいじゃん!

 

 「さらに、可愛い後輩である円満に痛いだけの思いはさせなくないから、相手はヤりなれたテクニシャンを宛がうわ。年上だったら最高ね。不慣れな者同士の夜戦(意味深)で気持ちいいのなんて突っ込む方だけだもの」

 

 いやいや、何故か辰見さんと澪が「アレはないよね~」とか「思い出どころかトラウマだよ」なんて共感してるけど、要は私にヤリ〇ンに抱かれろって事でしょ?

 冗談じゃない!

 処女を捧げさせる相手くらい選ばせてよ!一生に一度の痛みなのよ!?

 

 「ちなみにヘンケン提督。今まで抱いた女性の数は?」

 「み、Ms.辰見。それは軽くセクハラなのでは……」

 「何を戯けたことを!米国ではどうだか知りませんが、日本の!特に女性優位の鎮守府内では男性へのセクハラは合法!いえ、義務だと言っても過言ではないんですよ!?」

 

 んな訳あるか!

 たしかに鎮守府、いや海軍の主力が女性である艦娘なのもあって、鎮守府や泊地では女性の発言力が強い傾向にある。あるけど、だからってセクハラしちゃダメでしょ。

 

 「まさか、童貞とか言いませんよね?」

 「そ、それは……」

 「この反応、間違いなさそうね」

 

 辰見さんの容赦ない追求に負け、まるで中学生時代の黒歴史を暴露された高校生並に、顔に恥辱の色を浮かべてヘンケンが項垂れてしまった。

 

 「どうなんです?ヘンケン提督。童貞なんですか?」

 「お、俺は……」

 「正直に白状するなら、貴方を円満の初体験の相手に選ばなくもないですよ?もっとも、貴方の努力次第ですが」

 

 もうやめてあげて澪!

 女二人、しかも街中で見たら大半の男が思わず振り向くレベルの二人に「お前ぇ童貞なんだろ~?」とか「皮まで被ってんじゃねぇだろうなぁ」的な責められ方をされたせいで泣きそうになってるじゃない!これ以上はさすがに見ていられないわ!

 

 「やめて二人とも!これ以上彼をイジメないで!」

 「退きなさい円満。これはイジメなんかじゃない。全て貴女のためなのよ?」

 「辰見さんの言うとおりだよ円満。童貞でテクもないデカ〇ン野郎に無理矢理突っ込まれて痛い目に遭うのは円満なんだよ?私たちはそうならないために……」

 「痛くても良い!」

 

 思わずそう言ってしまったけど、今のは嘘偽りない私の本心。

 ヘンケンからしたら失礼な考えかもしれないけど、私は今、辰見さんと澪からいい歳して性体験がないことを大勢の前で暴露されたような状況になっているヘンケンに抱かれても良いと思っている。

 だってこれほど酷い拷問、いえ公開処刑に、恥辱にまみれながらも必死に堪えているヘンケンの事が愛おしく思えちゃったんだもの。

 

 「円満が良くても私たちは良くないの!二十歳過ぎても童貞で皮も被ってる奴に……!」

 「その辺でやめろ二人とも。それ以上はさすがに黙ってられん」

 

 それでも尚、澪が食い下がろうとしたところで、それまでヘンケンの隣で黙ってお酒を呑んでいた先生が割って入った。

 表情は普通だけど、微かに震えているお猪口を持つ左手からは怒りを必死に抑えているのが見受けられるわ。

 

 「元帥殿に同意する。俺も流石に黙っていられん」

 「佐世保提督の尻馬に乗ったようで気分は良くありませんが私も同じです。辰見、大城戸両提督補佐の言葉は聞くに堪えない」

 

 先生と同じく、それまでお酒を呑みながら二人で雑談していた佐世保提督と大湊提督が、そう言いながらヘンケンと二人の間に身体をねじ込んで物理的な壁を作り出した。

 でも、先生にしても両提督にしても、どうしてヘンケンの味方をする気になったのかしら。

 特に佐世保提督は、先の会議の件でヘンケンとは険悪なはずなのに……。

 

 「Mr.佐世保。どうして俺を……」

 「ふん、べつに貴様を助けようと思ったわけではない。単に、この二人の言葉が度を過ぎているから注意しに来たまでのこと」

 「佐世保提督は素直じゃありませんねぇ。素直に他人事とは思えなかったからと言えばいいのに」

 

 ふむ、大湊提督の言葉から推察するに、つまり佐世保提督はヘンケンと同じく二十歳過ぎ、もしかしたら扶桑と結婚するまで女性を知らず、しかも被っていたから味方する事にしたって事かしら。

 

 「酷いですねお三方。僕たちを仲間外れにしないでくださいよ」

 「まったくです。僕たちだって、同じ男としてケンドリック提督に味方せずにはいられません」

 

 佐世保提督と大湊提督で打ち止めかと思っていたら、この場にいる男性陣最後の二人である呉提督とイケメン提督が辰見さんと澪の背後から現れた。

 これで、辰見さんと澪は前後から包囲された格好になり絶体絶命。対してヘンケンは、海軍最高権力者である先生と佐世保、大湊両提督に保護されている状況になった。形成は完全に逆転したわね。

 でも、二人が参戦した途端に、佐世保提督と大湊提督が露骨に嫌な顔をし始めたんだけど……なんで?

 

 「いや、お前らはいい。大人しく酒でも呑んで艦娘達とイチャついてろ」

 「これに関しては佐世保提督に完全に同意します。モテ男どもは失せろ」

 

 あれぇ~?

 佐世保提督と大湊提督が、額に青筋浮かべて呉提督とイケメン提督に敵意どころか殺気を飛ばしてるぞぉ~?

 殺気を飛ばされた二人も「あれぇ~?どうしてそうなる~?」みたいな顔して首を傾げてるし、辰見さんと澪は「非モテ男VSモテ男。ファイッ!」とか言うだけ言って逃げちゃった。

 

 「ちなみに、貴様らの初体験は何歳のころだ?」

 「そ、それが今、何の関係が……」

 「ある!いいか呉提督、()()から()()()は初体験が二十歳を過ぎてからゾーンだ!貴様ら二人のように、十代で汚れた奴らが立ち入っていい場所ではない!」

 

 と言いつつ、佐世保提督は両手の先を下に向けて交差させながら、床に見えない線を引いて陣地を主張し始めた。その途端に、先生が露骨に目を逸らしたんだけど……。

 あ、そう言えば先生って、桜子さんを養子にした頃には結婚してて、当時の桜子さんと同い年の娘さんもいたんじゃなかったっけ?

 と、言うことはよ?

 先生の歳から逆算すると、先生が初体験を済ましたのは遅くとも16~7の頃になる。つまり、佐世保提督と大湊提督の言葉を借りるなら、先生は呉提督とイケメン提督と同じく、十代で汚れた奴らに該当するわ。

 だから、先生は目を逸らしたのね……。

 

 「貴様ら二人に、童貞のまま二十歳を迎えた俺たち四人の気持ちがわかるか?周りが次々と童貞を卒業していく中、そんなに焦って卒業するものじゃないと虚勢を張っていた俺たちの気持ちがわかるのか!」

 

 声を大にして童貞童貞言うな!

 しかも佐世保提督が四人って言ったせいで、先生までそうなんだと誤解されちゃったじゃない!

 ほら、周りの艦娘たちが珍獣でも見るような目で先生を見始めたわ。それに下手したらこれ、上官侮辱罪になるんじゃない!?

 

 「お待ちください佐世保提督。たしかにこの二人は我ら四人にとって敵ですが、場合によってはこちら側に来させても良いと思います」

 「正気か大湊の。こんな汚れた人種と酒の席を同じくするなど俺にはできん!」

 「たしかに彼等は汚れています。ですが、()()()()()()()()話は変わります」

 

 だから先生を数に入れるな。は、取り敢えずいいか。

 大湊提督の言葉に、佐世保提督が「目から鱗だ」とでも言わんばかりに目を見開いた。

 そんな佐世保提督とは逆に、呉提督とイケメン提督はバツが悪そうにしてるわ。関わらなきゃ良かったとも考えてそう。

 

 「で?どうなのですお二方。被っているのですか?それともずる剥けですか?私は佐世保提督と違って寛大ですので、仮性でも良しとしますよ?」

 

 今ふと思ったんだけど、これって私に対する盛大なセクハラじゃない?

 だって、私を大の男四人が囲んで童貞だの被ってるだのずる剥けだの言い合ってるのよ?

 なんかムカついてきたから憲兵呼んでやろうかしら。

 

 「まあ待て大湊提督。この場でその質問に答えさせるのは酷だろう」

 「ですが閣下。これは重要な……」

 「貴様の言い分もわからないではない。よって、私から一つ提案がある」

 「と、申しますと?」

 

 さすがにこれ以上は日本の提督が変な誤解を受けかねない……いや、とっくに手遅れだけど、それでも先生はそう考えたのか、お猪口をテーブルに置いてスックと立ち上がり、何を言い出すのかと待っている6人の提督(私含む)を見据えてこう言ったわ。

 

 「風呂に行くぞ!」ってね。

 

 その言葉を聞いて何かに思い至ったのか、佐世保提督は「良い案ですな」なんて言いながら一人で納得し始めた。

 

 「元帥閣下といえども負けませんぞ?」

 「良い度胸だ佐世保提督。だが、私が何と呼ばれているかくらい、貴様も知っていよう?」

 「ええ、存じております。たしか……」

 

 周防の狂人でしょ?

 先生が軍関係者からそう呼ばれていることは私はもちろん、各提督やヘンケンだって知ってる事よ?そんな今さらな事をなんでこの流れで……。

 いや待って?

 佐世保提督は「負けませんぞ」って言ったわよね?と、言うことは何かしらの勝負をするって事?お風呂で?

 

 「子宮ハンター。もしくは周防の種馬。でしたな」

 「おい待て、私はそんな風に言われていたのか?」

 「またまたご謙遜を。元帥殿の武勇は佐世保まで鳴り響いておりますぞ」

 

 なんて最低な異名だ……。

 先生もそんな異名、いえ蔑称をつけられているとは思ってなかったらしく「嘘だろ?」って感じの顔して呆然としてるわ。

 それもそうよね。

 たしか先生の女性経験って、開戦初期に亡くなった前妻と大淀だけのはずだもの。

 それなのにそんな蔑称をつけられたらそうなるわよ。

 でも今ので、佐世保提督がどんな勝負をしようとしてるのかがなんとなくわかったわ。つまりこの人たち、男性特有の突起物の大きさをお風呂で比べようとしてるのよ。

 馬鹿じゃないの?

 もう一回言うけど馬鹿じゃないの!?

 

 「そうと決まれば行くぞヘンケン。日本男児の底力を嫌という程見せつけやる!そこの呉とイケメン!貴様らもだ!」

 「やれやれ、佐世保提督の脳筋ぶりにも困ったものです。ですが私も、その手の女性から『大湊の黒マグロ』と呼ばれた男。貴方方に引けはとりませんよ」

 

 完全に男6人が連れ添ってお風呂に行く流れになったわね。

 でも、大湊提督の『大湊の黒マグロ』ってどういう意味なんだろう?黒マグロって言ったら、普通に考えれば魚のマグロよね?

 

 「うわぁ……。ソー〇嬢にそんな呼ばれ方したら普通は自殺もんでしょ」

 「しかも黒いんでしょ?顔はあんなに青白いのにナニは黒いってどんだけ自家発電したのよあの長髪」

 

 あ~……そういう事ね。

 辰見さんと澪が、大湊提督を蔑むような目で見ながら言った言葉で私にもなんとなくなくわかったわ。

 わかりたくなかったけどわかっちゃった……。

 

 「エ、エマ……」

 「ごめん、ヘンケン。さすがに助けようがない……」

 

 佐世保提督と大湊提督に両腕を掴まれて、無理矢理立ち上がらされたヘンケンが縋るような目を私に向けてきた。

 でもごめん。

 貴方がこれからどんな目に遭うのかわからないけど、さすがにこの面子を相手に助けるのは無理。

 って言うか、ようやくセクハラから解放されてホッとしてるわ。

 だからせめて、私が解放される代わりに生贄となる貴方に、私なりのエールを贈ってあげる。

 

 「私の事が好きなら堪えて」ってね。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 円満ちゃんのその言葉を聞いてぇ、ヘンケンさんは死地に赴く兵士のような顔をしてオジサン達に連行されていったわぁ。

 うふふ♪計画通りに行き過ぎて、笑いを堪えるのが大変だったわねぇ。

 

 えぇ、辰見さんと澪ちゃんを嗾けたのは私。

 円満ちゃんは素直じゃないから、周りが強引なくらい干渉しないとヘンケンさんとの仲が進展しないと思ったからそうしたのぉ。

 

 実際上手くいったでしょぉ?

 あの日以来、円満ちゃんとヘンケンさんの仲は急速に進展して、欧州への遠征前には普通にデートする仲になったわぁ。

 

 その後の展開も計画通りだったのかぁ?

 もちろんよぉ。

 辰見さんと澪ちゃんがヘンケンさんの性体験について責め立てれば、あのオジサンや佐世保提督あたりが味方について外に連れ出してくれるって予想がついてたものぉ。

 

 ああでもぉ、誤算が一つだけあったわぁ。

 あの時の円満ちゃんってぇ、私の想定以上にその気になってたみたいで、ヘンケンさんが連行された後わかりやすく落ち込んじゃったのよぉ。

 

 そう、円満ちゃんったらお薬が効き過ぎちゃってて、ヘンケンさんに抱かれる気満々だったのぉ。

 それがおじゃんになった憂さ晴らしに付き合わされて、次の日は澪ちゃんともども、二日酔いで死んじゃってたわぁ。

 

 

 ~戦後回想録~

 横須賀鎮守府司令長官補佐。荒木 恵中佐へのインタビューより。

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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