神凪……いや、ここでは神風で通した方が良いな。
彼女には本当に感謝している。
彼女のおかげで私はじぃ……祖父と本当の意味で再会できたし、今こうして生きていられるのも彼女が殴ってくれたおかげだと思っているよ。
ああ、天狗のままだったなら、私は欧州に行く前に戦死していたかもしれない。
今思い返すと当時の私はそれくらい酷かった。
普段会えないのは残念だが、彼女の姿はテレビを通して見ることができるからそこまで寂しくはない。
電話やラインで話しているしな。
聖剣を思い付いた切っ掛け?
話しても良いんだが……笑わないか?
そうか、なら話そう。
アレは呉に着任してしばらく経った頃、時津風や谷風たちと一緒にとあるアニメを見たのが切っ掛けだな。
そのアニメのヒロインの声と私の声が似ていると谷風に言われて、そしたら時津風にマネしてみてくれとせがまれた私はヒロインの必殺技を放つ前の掛け声をマネして見せたんだ。
後はまあ……わかるだろ?
当時は若干厨二病を患ってたのも手伝って、艤装を使って同じ事ができないかと試行錯誤を始めたんだ。
その結果出来上がったモノは極太のビームとは言い難かったが満足いくモノに仕上がり、戦闘で生かすこともできて『聖剣』という異名まで囁かれるようになった。
もっとも私のアレは、聖剣とは名ばかりでとんだナマクラだったがな……。
~戦後回想録~
元陽炎型駆逐艦十二番艦 磯風へのインタビューより。
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「調子はどう?神風」
「先輩……」
もうすぐ試合が始まるのに、私は出場者のために新設された待機室へも行かず、先輩から貰った刀を携えて工廠裏で海を眺めていた。
そしたら先輩が来てくれた。
たぶん、待機室に姿を現さない私がここでイジケてるんだと踏んで探しに……いや、背中を押しに来てくれたんでしょうね。
「調子は悪くない。でもモチベーションが低いって感じ?」
「はい……」
お見通しか。
確かに先輩が言う通り、身体の調子は悪くない。むしろ、絶好調と言って良いほど力が漲ってるわ。
でも、気が乗らない。
私を通して先輩を馬鹿にした磯風のことをぶん殴りたいと思う気持ちは萎えていないのに、何故か踏ん切りがつかない。何かが胸の奥に痞えてる感じがして踏み出せない。
それはたぶん、先輩が私に何かを隠してるから。
「教えてください。先輩は私に何をさせたいんですか?」
「教えたら、その通りにしてくれる?」
それは内容による。
とは口に出さず、ゆっくりと先輩の方を振り向く事で聞く気は有る旨を伝えた。
相変わらず自信に満ちた瞳。
また髪を伸ばし始めたのか、ミディアムと呼べるくらいまで伸びた真紅のストレートヘアが風に靡いている。
私と違って、見た目が多少変わる事はあっても、この人の芯は何年経っても変わってないんだなって思えてしまう。
いや、私も変わってないか。
私はずっと、先輩と初めてここで会った時から変わらずイジケ虫のままなんだから。
「ねえ神風、アンタって今年でいくつになるっけ?」
「16になったばかりです。て言うか昨日、みんなでお祝いしてくれたじゃないですか」
そんな事をどうして聞く?
海坊主さんや花組のお姉様方から、先輩が一番ノリノリでサプライズパーティーと言う名の質の悪いイタズラを準備してたって聞きましたよ?
いやぁ……今思いだしてもあの誕生日は無いですよ。
いつの間に造ったのか、倉庫街にある倉庫を一棟丸々改装、いや改築したトラップてんこ盛りの迷路に閉じ込められて、出口に辿り着いたらクラッカーで迎えられるどころかバズーカで吹き飛ばされたんですから。
正直、麻痺した鼓膜を微かに震わせた「はっぴばーすでーとぅーゆー♪」の歌声の意味を頭が理解するまでサプライズパーティーだと気付きませんでした。
ううん、アレでサプライズパーティーだと気付けという方が無理ね。何回か死にかけたし。
「じゃあ、開戦時の事は覚えてる?」
「微かにですが……覚えてます」
昨日の出来事を思い出して「なんでこの人の後輩になっちゃったんだろ」と若干後悔していたらこれまた妙な質問が飛んできた。
答えた通り、微かには覚えています。
でも当時の私は2歳かそこら、燃える建物や爆発音、逃げ惑う人達の悲鳴くらいしか覚えていません。
その時の私はたしか、父親の背中にしがみついて泣いていただけだったはずです。
「親は健在なんだっけ?」
「母は亡くなりました。父は……行方知れずのままです」
それこそどうして今さら聞く?
先輩には、私の身の上話はとっくにしてるじゃないですか。
私の母が亡くなったのは5年ほど前、開戦直後に行方知れずになった父に代わって必死に働き、私を11歳まで育てた末に無理が祟って亡くなりました。
私を養成所に預けてくれたのも母です。
頼れる親類もなく、行く当ても無い子供だった私を餓えさせないための苦肉の策だったんでしょう。
母の初七日が終わった日に養成所の人が「君のお母さんから君の事を頼まれている」って迎えに来ましたから。
「父親が生きている。って聞いたらどうする?」
「え?」
お父さんが生きてる?
もしかして先輩は、奇兵隊のコネクションを使って探してくれたの?それで見つかったから、教えようとしてくれてるの?だったらこれ程嬉しいプレゼントは無いわ。
でも、そんな都合の良い話がない事は、血が滴りそうなほど強く愛刀を握り込んでる先輩を見てわかった。
「会いたいと思います。会えなくても、せめて母が亡くなったことくらいは伝えてあげたいです」
「そう、そうよね……」
私の答えを聞いても先輩の表情は変わってない。でも、平静を保ててないのはわかる。そして、言いたい事も。
「先輩、回りくどい真似はやめませんか?」
「そう。じゃあ単刀直入に言うわ。磯風の身内が呉に……いえ、アンタと磯風の試合を見に来てる」
「そうですか。良くわかりました」
先輩は卑怯だ。
私が父の生存を半分諦めつつも、もしも生きているならと希望を捨て切れてない事を知っていながら、私のその気持ちを利用しようとしてる。
たぶん先輩は、試合を通して磯風に私と同じ気持ちを共有させて、その身内と再会させようとしてるんだわ。
まったく、もう一度言うけど回りくどい。
先輩は力尽くで物事を解決出来るクセに、自分の知り合いや身内が絡むと途端に気持ちを大切にしだす。
つまり、磯風の身内は先輩の知り合い、もしくは奇兵隊としての身内。
さらに付け加えるなら、その人は再会することを拒んでいる。
「足腰立たないくらい、痛めつけても良いんですね?」
「ええ、構わないわ」
そう言いながら、先輩が私から目を逸らした。どうやら、私の気持ちを利用する事への罪悪感に堪えるのもここらが限界みたいですね。
「先輩。私を見てください」
「神風……」
私は先輩の目を真っ直ぐ見上げました。
さっきまでとは違う、自信など欠片も感じられないほど怯えた瞳。
たぶん私と海坊主さん、そして元帥さんくらいしか知らない本当の先輩。神藤 桜子と言う名の仮面が剥がれた、気弱で臆病な本当の先輩。
でも、我が儘とか暴君とか魔女とか大食らいとか言われても、自分の信念を貫き通すためならその仮面を被る事をやめない芯の強い人。
「私は先輩の何ですか?桜ちゃんの世話係?ペット?玩具?それとも、都合の良い道具ですか?」
「私にとってアンタは……」
「私はどれでも構いません」
先輩の言葉を遮ってそう言った。
うん、私はどれでも構わない。
桜ちゃんのお世話係?
喜んでやらせて頂きます。桜ちゃんは普段の先輩の悪影響を受けないよう私が育てます。
ペット?
先輩は頭を撫でるのが上手なのでむしろもっと猫可愛がりしてください。
玩具?
先輩に玩具にされてるときは私も楽しんでます。たまに度が過ぎるのは直して欲しいですが、先輩と遊ぶのは大好きです。
そして、都合の良い道具でも構いません。
望むところです。
私は円満さんに鍛えられ、先輩に研ぎ上げられた先輩の刀です。私は先輩のモノなんです。
「命令してください。先輩の命令があれば、私は相手が戦艦だって斬り裂いて見せます」
先輩が目をパチクリさせて驚いてる。
私が言ったことがそんなに意外でしたか?でも、これは今の私にとって大事な儀式です。
イジケ虫の私が『神風』の仮面を被るための大事な儀式なんです。
「後悔……しない?」
「しません。私より先輩の方が後悔して泣いちゃわないか心配ですよ」
「言うようになったじゃない。出会った頃が嘘みたいだわ」
私がイタズラっぽい仕草と表情でそう返すと、先輩は微笑んで私の頭をポンポンと叩いて、そして初めて命令してくれた。
「アンタの好きなように磯風をボコって来なさい。責任は全て私が取るわ」
「了解!私がひねくれ者共の心に神風を吹かせてあげる!」
ーーーーーーーーーー
そう言って、あの子は工廠へ駆け出したっけ。
今だから言うけど、当時の私は神風に命令していいのは円満だけだと思ってたの。
いやほら、神風は円満の部下だから私は命令できる立場じゃなかったからさ。
でもあの日、神風に初めて命令した日に、お父さんの気持ちが少しわかった気がした。
私にとって、奇兵隊のみんなは家族よ?
でも神風は少し違ったの。
神風は私の名前を受け継いでくれた後輩であり妹。桜のお姉ちゃん。いや、それ以上だった。
大袈裟な言い方をすると、あの子は野風とは別の意味でもう一人の私だったのよ。
あの子は、汚れてなかった頃の私がそのまま成長した三人目の私。
もしかしたら有り得たかもしれない二つ目の私の可能性。
そんなあの子に命令した時、お父さんはこんな思いをしながら私を戦場に送ってたんだなって理解した。
出来ることなら自分が代わりにやりたい。
でも、今の私にはこの子に託す事しか出来ない。行かせなくない。やらせたくない。この子に辛い思いや痛い思いをさせたくない。
無事に戻って来るまで気が気じゃ無い。
どうして私は、この子に無理強いする事しか出来ないの?
そんなもどかしく、身を焦がすほどの悔しい思いをしながらお父さんは私を送り出してくれてたんだって、その時初めて理解、いえ、思い知ったわ。
~戦後回想録~
奇兵隊総隊長。神藤 桜子大佐へのインタビューより。
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「ふん、中々来ないから臆して逃げたのかと思ったぞ」
「逃げる?私がアンタから?有り得ないわね」
艤装と先輩から貰った刀を装備して、見覚えのないワンピース姿の駆逐艦と入れ替わりで待機室に入るなり、磯風が不敵な笑みを浮かべて迎えてくれた。
相変わらず小馬鹿にされてるわね。
艤装を装備した私の爪先から頭の天辺まで無遠慮に観察しながら「それ、ちゃんと動くのか?」とか「旧式とは聞いていたがまさかここまでとは……」なんて、私にも聞こえるようにブツブツ言ってるわ。
「アンタのは綺麗すぎるわね。もしかして卸したて?」
「ついこの間改装を受けたから卸したてと言えば卸したてだな。羨ましいか?」
「いいえ、まったく」
羨ましくなんてない。
私の錆や傷まみれの艤装と違って磯風の艤装は綺麗だし、駆逐艦とは思えないほどの重武装は重そうと言うよりも頼もしいと思える。
たしか、陽炎型特有の改二改装とは違う特殊な改装で『乙改装』と呼ばれるモノだったっけ。
性能面も私とは比べるのが馬鹿らしいほど高いんでしょう。
でも……誇りまみれの艤装を背負っている私には全く羨ましいと思えない。
「綺麗なおべべを自慢するのは良いけど、アンタにソレが扱いきれるの?」
「当然だ。何故なら私は二水戦所属の駆逐艦。私自身も並ではない」
あっそ。
私は嫌味を言ったつもりだったんだけど、磯風は嫌味に感じるどころか褒められたとでも思ったんでしょうね。
だってドヤ顔して、これまた駆逐艦とは思えないほど大きい胸を張ってるもの。円満さんの前でやってもがれちゃえば良いのに。
「棄権しろ」
「は?今なんて言った?」
「棄権しろと言ったんだ。この磯風、挑戦されたなら相手がどれだけ弱かろうが全力で相手をするが、さすがにお前のような者を相手にするのは気が引ける」
これはまた随分な挑発を……。
いや?コイツ本気で言ってるわね。
コイツは私が弱いどころか、艤装の状態を見てまともに戦うことすら無理だと判断したらしい。
だから私の身を按じ、憐れんで棄権を奨めてるんだわ。
「ここまで馬鹿にされたのはさすがに初めてね」
「馬鹿にしているのではない。事実を言っているだけだ」
たしかに私の艤装は薄汚れてるし、実際に使う私以外が見たら動くかどうかも疑わしいと思う気持ちは理解できる。
でも、ここまでハッキリと蔑まれた事は今まで一度もない。ここまで私を、いいえ『神風』を貶めた奴はコイツが初めてだ。
「久々にキレちゃったわ。とっとと表に出ろ。お前如きじゃ私に勝てないって事を、その身体に嫌というほど思い知らせてやる」
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馬鹿にしたつもりも憐れんだつもりもなかったんだ。だが、神風にとっては最大級の侮辱だったんだろうな。
ああ、今だから言うが気圧された。冷や汗までかいたよ。
表に出ろと言ったときの彼女は怒りを通り越していたのか無表情で、全身に殺気を漲らせていたのが良くわかった。
試合が始まってからもそうだ。
まるで彼女は怒りを制御し、力に変えているようだったよ。
ん?序盤は押していたじゃないかって?
たしかに、序盤は私の方が優勢だったさ。だが、青木さんも覚えているだろう?
彼女はどれだけ被弾しても諦めなかった。
いや、私の弾幕を最小限の被弾で済ませていた。
服が破れてその身にも傷を負い、単装砲と魚雷を失っても彼女は止まらなかった。
結果はご存知の通りだ。
私は聖剣を破られ、死にたくなるほどの醜態をさらした。あの時点で敗北していたと言っても良いな。
今でも、あの時の彼女のセリフが忘れられないよ。
どんなセリフか?
そうか、私たちの会話は会場には流されていなかったのか。
あれは、私の聖剣が彼女の風に負けた瞬間。
彼女は私の聖剣を砕きながらこう言ったんだ。
「聖剣、敗れたり」とな。
~戦後回想録~
元陽炎型駆逐艦十二番艦 磯風へのインタビューより。
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
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神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
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紫印 円満(実質三部の主役?)