艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百十六話 海の中からこんにちはー!ゴーヤだよ!

 

 

 

 

 

 ま~いにーちま~いにーち ゴ~ヤはオリョールの~

 な~みにも~まれーて……。

 

 嫌になってましたねぇ……。

 定期的な休息は与えられてましたが、基本的に一度海に出たら一週間は泊地に戻りませんでした。

 

 オリョールの女神?

 そんな異名がつけられてるなんて、あの試合に出るまで知りませんでしたよ。

 

 私が当時やってた事と言えば、海中に潜んで敵の目を掻い潜り、見つかった時は魚雷を巻いて文字通り煙に巻いてまた息を潜める。その繰り返しでちた。

 

 何か変な事言いました?え?でち?

 あ~……それ当時の語尾です。今でも油断するとたまに出ちゃうんですよ。

 

 当時の私は、ひたすらオリョールを徘徊する自分を『丁稚(でっち)』と卑下していましたから。

 

 

 ~戦後回想録~

 巡潜乙型改二 3番艦 潜水空母 伊58へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 『それでは気を取り直して第二試合!伊58対U511。始め!』

 

 神風が演じてくれた修羅場のせいで静まり返った観客席を、青葉が解説の漣とのトークでなんとか盛り上げ直してくれたことで始められた第二試合。

 この試合を組んだ当の桜子さんはどこかに行ったままだけど、見なくてもいいのかしら。

 

 「一時はどうなるかと思ったけど、あの二人のおかげで何とかなったわね」

 「あら、円満はそれも考えて、漣を解説に抜擢したんじゃないの?」

 「まあ、ね。でもまさか、神風があそこまでするとは考えてなかったわ。辰見さんがフォローしてくれてなかったらどうなってたことやら……」

 「私はゲスト達に脚技の解説をしただけよ。それ以外は何もしてないわよ?」

 

 いや、それが十分すぎる助けになった。

 神風と磯風の試合は民間人にウケが悪く、それの対応に追われていた私に代わって、観客席とは別に各提督とその秘書艦、更に海外からのゲスト用に設置した観覧席で、澪と一緒にゲスト達に解説の漣では出来ない玄人用の解説をする事で私が民間人の対応に専念できるようにしてくれたのよ。

 

 「でも、解説してて意外だったわ」

 「何が?」

 「あの二人の試合、特に神風の戦い方がゲスト達にウケたのよ。ウォースパイトなんか、ストレートに神風を寄越せなんて言ってきたっけ」

 「ウォースパイトが?彼女は戦艦でしょう?」

 

 その彼女が神風を欲しがった?

 確かに神風は、()()として見た場合上から数えた方が早いくらい強いし実戦経験も多い方。

 でも()()として見た場合、あの子ほど使いにくい艦娘はいない。そもそも性能が低いしね。

 それにあの子は、桜子さんのように命令違反をしたりしないけど()()()()()()で、かつ必要とあらば何でもする。

 それは、さっきの試合で確信した。

 あの子はやっぱり、良くも悪く『神風』なんだと再確認したわ。

 そんなあの子を、どうしてウォースパイトが欲しがったのかしら。

 

 「円満が疑問に思うのもわかる。で、その答えなんだけど、彼女の代わりに金剛が教えてくれたわ」

 「金剛が?あ、そう言えば霞から、金剛とウォースパイトが昔馴染みって話を聞いたわね……。それで、金剛は何て?」

 「金剛は神風を欲しがるウォースパイトに聞こえないようにこう言ったわ。曰く「あの駆逐艦、コイツにソックリです」ってね」

 「ソックリ……か」

 

 ウォースパイトの戦いぶりは噂レベルでなら聞いている。

 彼女は常に先頭に立ち、どれだけ傷だらけになろうとも戦うことを止めない。それこそ、停戦の命令があるまでね。そんななりふり構わないような戦い方がソックリなのかしら。

 いや、違う気がする。

 霞は、金剛とウォースパイトが直接会うのは十数年ぶりだとも言っていた。ならば戦い方じゃない。

 もっと根本的な。そう、生き方がソックリなんだわ。

 だから、手元に置きたくなったのね。

 

 「当然だけど、やんわりとお断りしておいたわ。マズかった?」

 「いいえ、それで良いわ」

 「スパイを送り込む絶好の機会だったのに?」

 「辰見さん、それ本気で言ってる?」

 「まさか。桜子を敵に回したら死ぬだけじゃ済まないじゃない」

 

 そう、だから神風をスパイとして英国に送り込み、それによって得られる有意義な情報をザッと算出した結果、私はその案をボツにした。

 理由は辰見さんが今言った通りよ。

 神風を利用して桜子さんの不興を買うくらいなら、現状維持に徹する方が得策。

 極端な言い方をすれば、桜子さんを相手に喧嘩をするより、他国を相手に戦争した方がはるかに気軽なのよ。

 あの人は敵と認識したモノなら、個人だろうと国家だろうと関係ないんだから。

 

 「それよりも今は、今からの試合が先の試合みたいにならないことを祈りましょう。と言っても、どんな試合になるか想像もつかないけど」

 「円満は潜水艦がどんな戦い方をするか知らないの?」

 「そう言う辰見さんは?」

 「私も知らないわ。だって私や円満みたいに駆逐艦や軽巡だった者からすれば、潜水艦は装備さえしっかり整えていれば恐れる必要のない相手だったじゃない」

 「確かにそうね。でも逆に言えば、何の警戒もしてない時は脅威だった」

 

 辰見さんが言ったように装備を整え、()()()()潜水艦を相手にする事を想定して動いていれば取るに足らない相手だわ。

 でも、実戦ではそうはいかない。元駆逐艦の身から言わせてもらえば、潜水艦は本当に厄介な相手よ。

 アイツらは警戒してない時に限って出てくるし、そういう時は対潜装備を積んでない事が殆どだからまともに対抗出来やしない。

 そのせいで沈んだ駆逐艦はかなりの数に上るわ。

 

 「その潜水艦同士の戦いは私も興味あったんだけど……。これ、マズくない?」

 「マズいわね。対戦者に直接カメラを持たせたけど視界悪すぎ。10m先も見えないじゃない」

 

 鎮守府近海だからこの程度で済んでるのか、それとも近海だからこんなに視界が悪いのかはわからないけど、潜水艦はこんな環境で戦ってるのか。しかも、何日も連続で。

 

 「潜水艦になる子は適性以外にも特殊な才能が要る。アレはこういうことなのね」

 

 

ーーーーーーー

 

 

 カメラを艤装に装備されたときは、何の意味があるんだろうって心底不思議に思いました。

 実際、まともに撮影出来てなかったでしょ?

 

 はい、私たち潜水艦は視界になんて頼りません。

 ただでさえ視界の悪い水中で敵を視認するなん、余程接近しない限り不可能ですからね。

 しかも数日間潜りっぱなしなのは普通で、それ故に潜水艦には特殊な才能が求められます。

 まあ特殊な才能とは言っても、水上艦の人達からしたら「そんな事か」と一笑されるような事なんですが、簡単に言うと暗闇の中で孤独に堪え、自分を見失わない才能です。

 極端な言い方をすれば『ぼっち』でも平気、ちょっと気取った言い方をすれば究極のソリストだけが潜水艦になれたんです。

 

 でも潜水艦は人懐っこい人が多かったじゃないか?

 それは()()反動ですよ。

 何日も何日も海の中で過ごすために、陸に居るときは全力で人肌を求めるんです。伊19なんかはそれが行き過ぎて『泳ぐ18禁』なんて呼ばれてました。

 

 話を戻しましょうか。

 ご存知の通り潜水艦は水中を移動します。

 水中ではレーダーは使えませんから、潜水艦は音波を使って敵を探知するソナーで索敵します。

 ですので、潜水艦にとって目なんて飾りなんですよ。偉い人にはわからなかったみたいですけどね。

 

 詳しい説明は割愛しますが、ソナーには2種類あって敵の艦艇が出す音を拾うパッシブソナーと、自ら音を出して敵艦から跳ね返ってくる音を聴くアクティブソナーがあります。

 

 パッシブソナーはこちらが聞き耳を澄ましている事を敵に気づかれることがないのがメリットですが、敵が停止していたりすると発見し難いですし、そもそも方位しかわからず距離が正確に分かりません。

 

 そこでアクティブソナーの出番です。

 コレは敵から返ってきた音を聴くので敵の方位、位置を完全に割り出せます。

 まあその代わり、こちらの方位を知せてしまうデメリットがあります。

 リスクの高いソナーなのですが使用方法としてはパッシブソナーで探知した敵を手っ取り早く攻撃する際に使います。

 

 水上艦の人達が先制雷撃と呼んでいるのはコレの事です。私たち潜水艦は、敵艦を先に発見して雷撃し、爆雷を投下される前に逃げるを心掛けてたんですよ。

 

 相手が水上艦の場合は先に言った方法で良いんですが、相手が潜水艦の場合は勝手が違ってきます。

 低速な艦載機同士の戦いと例えれば良いのでしょうか。

 ええそうです、潜水艦同士の戦いは横だけでなく縦の動きが加わるんです。

 

 

 ~戦後回想録~

 巡潜乙型改二 3番艦 潜水空母 伊58へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 潜水艦娘は水上艦娘に比べて『脚』が大きい。いや、『脚』と呼ぶのは正確じゃないわね。

 水上艦娘と違って潜水艦娘の『脚』は『装甲』とイコール。実際の潜水艦のような形の力場に包まれ、水中を泳ぐように移動する子がほとんどよ。

 

 「伊58は椅子型だけどね」

 「ふぅん、随分と詳しいじゃない」

 「これでも横須賀鎮守府の提督よ?艦娘のカタログスペックは全部覚えてるし、艦種毎の特徴だって把握してるわ」

 「でも、潜水艦の戦い方は知らないんでしょ?」

 「知識としては識ってるわ。だから実際にこの目で見れるこの試合は楽しみにしてたんだけど……」

 「動かないわね」

 「ええ、ソナーの索敵範囲を考えれば、双方とも敵の位置なんてとっくに掴んでるでしょうに」

 

 なのに動かない。いや、動いていないように見えるが正しいのかしら。

 試合開始からすでに10分以上経ってるのに、伊58だけでなくU-511の方も細かく動いてるんだろうけど仕掛ける気配がない。

 観客席の方は青葉と漣が漫才じみたトークで保たせてくれてるけど、こっちは動きがなさ過ぎる事に苛立ってるゲストまでいるわ。

 

 「Admiral、無線を使わせて貰って良いかしら」

 「一応お聞きしますが、何のためにですか?ビスマルク」

 「U-511に指示を出すのよ。このまま何もしないんじゃ、我が国の沽券にも関わるわ。まさか、ダメとは言わないわよね?」

 「ええ、構いませんよ。貴女がそう言い出さなければ、私から伊58に指示を出していましたから」

 

 苛立っているゲストの筆頭であるビスマルク。

 彼女は独国からのゲストで、世界中を見ても珍しい、いえ、唯一の艦娘兼提督よ。

 その事を最初聞いたときは冗談かと思ってたけど、歓迎会の時に見た妖精さんからの好かれっぷりを目の当たりにして本当だとわかった。あの好かれ方は艦娘ではなく、提督のソレだったもの。

 

 

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 ビスマルク姉さんは凄くせっかちで、プライドが高い人なんです。

 あの試合の時だって、ろーちゃんとでっちはアクティブソナーの音波を互いにぶつけて相殺し合って、お互いの位置を探り探られってしてたのに、ビスマルク姉さんのせいでおじゃんになっちゃいました。

 

 そうです!

 無線とは言え、あんな大声で怒鳴られたからろーちゃんの位置はでっちにバレちゃったんですって!

 

 え?今でも自分の事をろーちゃんって呼んでるの?ですって?

 いや、だってろーちゃんはろーちゃんですし。むしろ、ユーちゃんだった頃の方が違和感ありましたよ。

 

 わかったから話を戻せ?

 それからはでっちの独壇場でした。

 はい、潜水艦同士の戦闘では基本的に、先に正確な位置を割り出された方が負けるんです。

 ろーちゃんも必死にでっちの位置を割り出そうとしたんですけど、さっき言った方法で邪魔されて、結局最後まででっちを捕捉できませんでした。

 

 そうです。

 最後のあの時です。ろーちゃんの真下からアップ90度ででっちが急速浮上した時ですって!

 

 え?最後のアレだけは派手だから良かった?

 えっと……青木さん、あれ本当はやっちゃダメですよね?ダメ、ですよね?ねぇ?ねぇ!

 

 

 ~戦後回想録~

 元呂号潜水艦 呂500へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 『何してるのU-511!JapanのU-Bootなんかサッサと片付けちゃいなさい!』

 

 索敵に時間をかけすぎた。

 あんまり時間をかけるとビスマルク姉さんが焦れて無線を寄越すくらい想像出来てたのに、ユーはアクティブソナーの撃ち合いが面白くてその事を失念してました。

 

 「ユーの負け?いや、まだ逆転できる。魚雷の発射音から距離を……」

 

 そう、先に位置を把握されたかって諦めちゃダメ。

 パッシブソナーである程度の方位は掴んでるし、魚雷の発射音から距離も特定出来る。逆転する方法なんていろいろあるんです。いろいろ。

 

 「魚雷発射音確認。方位3-0-0。深度60。距離800」

 

 その場所に居ない事はもちろんわかってる。

 わざわざ自分が居る場所を知らせてそこに留まるなんて真似は深海棲艦でもしません。

 せめて発射音ではなく、魚雷発射菅への注水音が捉えられればもっと早く行動できるのに……。

 

 「相変わらずユーのアクティブソナーを相殺してくる。注水音を捉えるのは不可能と判断。ならユーは……」

 

 待つしかない。

 と、一発目の魚雷が通り過ぎて行くのを、左目の端に捉えながら決めました。

 せめてもう一発撃ってくれれば、どういう針路を取っているかある程度予想が……。

 

 「嘘……!真っ直ぐ!?」

 

 相手は針路を変えていない。

 最初の発射位置から方位は変えず、距離と深度を縮めてきてる。つまり、ユーに向かって突っ込んできてる!

 

 「だったら……!」

 

 魚雷発射菅一番と六番に注水、一番を方位3-6-0深度50に向けて発射。でも、これは躱されるはず。

 問題は、相手が上に避けるか下に避けるか。

 ユーが魚雷を発射したにも関わらず、相手は包囲を変えていませんから上か下かだけ気にしてれば良いはずです。

 バラストに注水なり排水なりする音を捉えて、その予測針路に六番を撃ち込みます!

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 ビスマルク姉さんやオイゲンさんとは同じ町の出身で家も近かったです。はい、所謂幼馴染みってやつでした。

 

 あの日も、ろーちゃんたちは一緒に居ました。

 ろーちゃんたちの町が燃やされて、お昼なのに空が真っ黒に染まった日も……。

 

 その日以来、ろーちゃんは色が見えなくなりました。

 どこに行っても、どれだけ晴れていても、ろーちゃんの目に映る景色はずーっと灰色のままだったんですって。

 

 だから、潜水艦になる事を選んだんです。

 陸に居ると、色が見えない事実を嫌でも突きつけられるでしょう?

 でも、海の中に居るときは気にならなかったんです。

 だって、真っ暗な海の底なら、色が見えなくても悲しくなりませんでしたから。

 

 はい、ろーちゃんは海に引き籠もってたんです。

 そんなろーちゃんを、でっちは海の底から連れ出してくれました。

 でっちは「そんな事をしたつもりはないでち」って言ってたけど、ろーちゃんに色を戻してくれたのは間違いなくでっちなんです。

 

 ろーちゃんを海の底から連れ出してくれたでっちは、今でもろーちゃんにとっては女神さまなんですって♪

 

 

 ~戦後回想録~

 元呂号潜水艦 呂500へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 気に食わない。

 待機室で見た時から、ゴーヤは相手の潜水艦が気に食わなくてしかたありませんでちた。

 別に何かされたとか言われたとかじゃないのでちが、あの青白い生気のない顔と、何かを諦めているかのように達観した目を見たら、何故か無性にぶん殴りたくなったんでち。

 

 『嘘……!真っ直ぐ!?』

 

 ええ真っ直ぐでち。

 ゴーヤは今、下方斜め四十五度位の角度でアンタに向かって潜行してるでち。

 

 『だったら……!』

 

 魚雷発射菅に注水音。それが二つ。

 一発目はゴーヤに向けて真っ直ぐに、それを避ける方向を確認して二発目を撃つつもりでちね。

 まったく、独国の潜水艦は随分と温い戦いばかりをしてきたんでちね。

 この伊58が、真正面から来るとわかっている魚雷を大袈裟に避けるわけがないでち!

 

 『う、嘘!どうやって避けたの!?いや、魚雷の方が避けた!?』

 

 針路を変えずに魚雷を避けたのがそんなに不思議でちか?まあ、気持ちはわからなくもないでち。

 潜水艦が()()()()()()するなんて普通は考えませんから。

 でも実艦ならともかく、潜水艦の形をした装甲に包まれている()()の艦娘なら話は別でち。

 ゴーヤの場合でも全長は2m程度なんでちから、当然水の抵抗は実艦とは比べるまでもなく小さいでち。

 故にバレルロールも余裕でち。それによって生じた海流で魚雷を逸らす事も!

 

 『ユーは、負けません!』

 

 あっそ。

 国の威信とかなんとか、とにかく何かしらの理由があって負けられないんでちか?ゴーヤには別に勝たなきゃいけない理由なんてないでちから、別に勝ちを譲ってやっても良いんでちが……。

 でも、アンタみたいな引き籠もりに居座られるのは我慢ならないでち。

 だからゴーヤは負けてあげない。

 あの時と同じ空を見なくてもいいようにゴーヤは海中に居る事を選んだんでち。

 その私の戦場に、お前みたいな奴が居座ってるのがゴーヤには我慢できない。

 まずは手始めに、お前がが撃ってきた二発目を処理してやるでち。

 

 「魚雷、二番発射管に注水」

 

 狙いは相手ではなく魚雷。

 距離もまだ500mほどありますし、直撃させて爆発そのものを目眩ましにしてまた隠れさせてもらうでち。

 所謂『微塵隠れ』ってやつでちね。

 たしか、佐世保で『夜戦忍者』とか呼ばれてる軽巡洋艦の得意技でちたか。

 

 『ユーは負けない。ビスマルク姉さんやオイゲンさんと、もう一度青空を見るまで負けられないんだ!』

 

 青空?何かの比喩でちか?

 いや、もしかしたらコイツ、ゴーヤと同じ空を見たことがあるのかもしれないでち。

 曇り空でもないのに真っ暗な、死と絶望が渦巻いて真っ黒に染まったあの空を。

 だったら、青空が見たいって言うんなら一時でもゴーヤが見せてやるでち!

 お前が恋い焦がれる、澄み渡るような青空を!

 

 『そんな!ユーじゃなく魚雷を……!』

 

 魚雷の着弾を確認。同時にバラストへの注水開始。ダウン75度。急速潜行開始。奴の真下へ!

 

 『ど、どこに……!え?この音って……排水音!?真下から!?』

 

 バラスト緊急排水。完了。機関全回。急速浮上!さあ!お空へどっぼーんするでち!

 

 「はぁああん! とても……痛い……。こんな出鱈目な」

 

 ゴーヤと奴の装甲の接触面からギギギギと嫌な音が聞こえてくる。

 この手を使うのは久しぶりでちが、確かに出鱈目でちね。ゴーヤも出来れば使いたくない手でち。

 本気で勝ちたいと思った相手以外には……ね!

 

 「貴女……誰?」

 

 誰?とは失礼な奴でちね。

 そう言えばコイツ、待機室で会った時も哨戒艇で移動している間もゴーヤを見てなかったでちね。ずっと、空ばかり見てたでち。

 だったら名乗ってやるでち。

 お前を負かした相手の名前、しっかりと憶えておくんでちよ!

 

 「海の中からこんにちはー!ゴーヤだよ!」

 

 と、海面を突き破って空高く舞い上がったアイツをビシッと指差して、ゴーヤは高らかに名乗ってやったでち。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 でっちは違うって言うんだけど、ろーちゃんにはでっちが空を見ろって言ってるように見えたんですって。

 

 だって、でっちが指差してた方には真っ青な青空が広がってて、空に沈んでいくろーちゃんはまるで、空に包まれてるように思えたんだもん。

 

 その時に色盲が治ったのか?

 ううん、ちゃんとは治ってなかったです。

 鎮守府に戻って、でっちと別れた後はまた灰色の世界に戻っちゃっいましたって。でも、でっちと一緒に居る間だけは色が戻ったんですって。

 

 その事をビスマルク姉さんに話したら、オイゲンさんと一緒に横須賀鎮守府に居られるようにしてくれたんです。

 ビスマルク姉さんからしたら、自分が迂闊に無線を使った事でろーちゃんが負けたんだって妙な責任を感じたんでしょうけど、仮にろーちゃんが先にでっちを捕捉出来てたとしても負けてたのはろーちゃんだと思います。

 

 どうしてそう思うのか?

 簡単ですよ。

 海中に引き籠もる事しか考えたなかったろーちゃんと、陸に戻るために海中に潜り続けてたでっちじゃ役者が違いすぎます。

 

 でっちは、青い空を守るために暗い水底に居続ける事を選んだ、深海の女神さまだったんですから。

 

 

 ~戦後回想録~

 元呂号潜水艦 呂500へのインタビューより。

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  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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