艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百十七話 私たちの戦いはこれからだ!

 

 

 

 

 神風の嬢ちゃんとあの子が対戦すると聞いたときはお嬢を恨んだよ。なんて余計な事をしやがるんだ。ってな。

 嬢ちゃんがあの子を痛めつけている間は殺意まで湧いちまった。

 

 そんで、浜辺から観客席のモニターを眺めていたお嬢を見つけたからぶん殴ってやろうと近づいたんだが……。

 なんつうか、お嬢の泣きそうな面ぁ見たらその気が失せちまったのを覚えてる。

 

 大佐もそうなんだが、あの親子は目的を果たすためなら平気で自分を犠牲にするんだ。

 自分がどんだけ傷付いても、やると決めたらとことんやり通す。

 

 あの時だってそうだ。

 お嬢は神風の嬢ちゃんが傷だらけになっていく様に心を痛めながら、ワシがあの子と会う口実を作ってくれたんだよ。

 それがわかっちまったから、ワシは素直にあの子を抱きしめる事ができたんだろうな。

 

 

 ~戦後回想録~

 ワダツミ級艦娘運用母艦一番艦 ワダツミ。元艦長へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 「知らない……いや、やめとこ」

 

 重たい瞼を開いて真っ先に見えた白い天井を見た途端に「知らない天井だ」って言いそうになった衝動を堪えた私は、不自然に動かない右半身とギブスでガッチガチに固められた左腕の痛み、更に妙に汗ばんだ身体の気持ち悪さに少しうめき声を上げならも、自分が今置かれている状況を整理することにした。

 

 「ここは……病院?なんで私、こんなところに……」

 

 記憶の最後にあるのは緊急脱出装置の発動を告げる警告音と、磯風の勝利を告げるアナウンス。

 と、言うことは、私は磯風に負けてここに運び込まれたと考えるのが自然ね。

 

 「そっか。私、負けちゃったんだ……」

 

 試合に負けたんだと頭が理解しても、不思議と悔しさが込み上げてこない。代わりに私の胸中を支配しているのは罪悪感。

 神風の名を受け継いでおきながら、不様に敗北した事が申し訳なくて仕方がない。

 出来る事なら今すぐ先輩に土下座して、先輩の気が済むまで罵倒して貰いたいくらいよ。

 

 「目が覚めたのか?」

 

 聞き覚えのある声がした左の方を向いてみると、鼻にガーゼを貼り付けた磯風がベッドに横になって私と同じように顔だけ向けていた。

 寄りにも寄って同じ部屋とは……。

 勝者と敗者につら突き合わさせて何を話せって言うのよ。互いの健闘を讃え合え、とでも言う気?

 

 「本当はまともに動けるようになってから言うつもりだったんだが……」

 「何を?やっぱり神風程度では私の相手にならなかっただろう?とか言うつもり?」

 「こんな寝たきりの状態で勝ち誇るほど傲慢じゃないさ。その、お礼が言いたくて……」

 「お礼?」

 

 まさかこの場でお礼参り?

 そりゃあアンタからしたら試合に勝ったとは言え、格下の私相手に泥仕合を演じた格好になったんだから仕返しをしたいという気持ちは理解できなくもない。

 出来なくもないけど、今できるの?

 見た感じ、アンタもベッドから起き上がれないように見えるんだけど……。

 

 「お前のおかげで、私はお爺ちゃんに会えたし、自分が天狗になっていたことにも気付けた。だから……ありがとう」

 「あ~……なるほど。うん、言いたい事はわかった」

 

 忘れてた……。

 そもそも私は、天狗になってた磯風の鼻をへし折り、かつ艦長さんが思わず駆け寄りたくなる程度に痛めつけるために、先輩の奸計によってコイツの相手に宛がわれたんだった。

 

 「じゃあ、艦長さんに自分が孫だって打ち明けたのね?」

 「ああ、試合の後工廠で……って、知っていたのか?」

 「アンタの身内が試合を見に来てるって程度はね。アンタが試合中にお爺ちゃん云々って言わなきゃ、相手が艦長さんだとは気付かなかったわ」

 

 あ~でも、私って艦長さんの孫娘を公衆の面前でボコったのよね?うわぁ~……今度から艦長さんとどんな顔して会えばいいのかしら。

 あの人って見た目は絵に描いたような頑固ジジイだけど、会う度にお菓子とかくれるから嫌いじゃなかったんだけどなぁ……。

 

 『重いから少し持て~!?だから買いすぎだって言ったじゃない!病室で店開く気かクソジジイ!』

 『これでも少ねぇくらいだ馬鹿野郎!可愛い孫が退屈しないようにって心遣いがお嬢にはわかんねぇのか!』

 『いやいやいやいや!こんだけ甘い物ばっかし食わせたらいくら艦娘でも太るからね?だいたい、高速修復材使ってんだからが明日には退院でしょうが!』

 

 徐々に大きくなってるこの聞き覚えのある騒がしい声。そしてやり取り。

 間違いなく、先輩と艦長さんがこの病室に近づいてるんだわ。しかも会話から察するに、大の男が根を上げるくらい大量のお菓子を持って。

 

 「神風起きてる~?起きてるよね~?起きてなくても入るわよ~」

 

 寝てるかもしれないのに、一応はノックして入り口をガラガラと遠慮なく開いて入って来たのはやっぱり先輩と艦長さんだった。

 しかも両手に一杯どころか、お菓子が入っていると思われるダンボール箱を三つも荷台に載せて。

 あんな量を磯風に食べさせようだなんて、まともな人だって思ってたのに艦長さんもやっぱり奇兵隊の人なのね……。

 

 「お、神風の嬢ちゃんも起きてたか」

 「はい……ご無沙汰してます」

 

 さて、どんな顔して会えばいいかわからないまま会っちゃったけどどうしよう。

 「貴方のお孫さんをボコってごめんなさい」って謝った方が良い?それとも「貴方の捻くれた孫を真っ直ぐ矯正してあげたんだから感謝してよね!」って開き直るべきかしら。

 

 「嬢ちゃんも一緒に食べるといい。それと……ありがとよ」

 「どうしてお礼なんか言うんですか?私は艦長さんの……」

 「そりゃあわかってるし、嬢ちゃんが孫の鼻をへし折ったときは本気で殴りたくなったさ。でもまあ、お嬢の策略にまんまとハマっちまったのか、怪我した孫の所に行かずにゃおれんくなった」

 

 だから、せめて礼だけは言わせてくれ。

 って言って、艦長さんは照れ臭そうに煙草を懐から取りだして火を付けようとした。

 まあ、すぐさま先輩に「病室で煙草を吸うなクソジジイ!」って怒られたけどね。

 そのせいで、艦長さんに恨まれると心配してたのが嘘みたいに、私は安心しきっちゃったわ。

 

 「ところで神風。島風はどこ行ったの?」

 「島風ですか?さあ、私が起きたときには居ませんでしたが……って言うか来てたんですか?」

 

 先輩が言うには、私が病室に運ばれるのに着いて島風も病室に来たらしい。

 だから先輩は島風に、私と磯風を見ているよう頼んで艦長さんと買い物に出たらしいわ。

 

 「島風なら神風の隣に居るぞ?」

 「は?隣?隣には誰も……」

 

 磯風に言われて右隣に顔を向けてみたら、掛け布団から島風が顔を覗かせて私を見ていた。

 なるほど。

 右半身が動かなかったのは怪我のせいだと思ってたけど、実際は島風がしがみついていたから動かなかったのか。

 

 「あのさあ、神風。アンタらの仲をつべこべ言うつもりはないけど、せめて時間と場所はわきまえなさいよ」

 「ち、違う!私さっきまで寝てましたからね!?島風が隣にいたのにも今気付いたんですよ!?」

 

 いや、「ホントに?」とか磯風に確認してますが本当ですから。

 って言うか島風も弁解しなさいよ。このままじゃアンタ、私を睡姦した罪に問われちゃうわよ?私ごと!

 疑わしきは徹底的に調べ上げた上で罰する。それが桜子先輩なんだから!

 

 「そ、その……。神風は何もしていなかったが、小刻みにビクビクしながら喘ぎ声を……」

 「うぉい!磯風!出鱈目言うんじゃないわよ!」

 「本当だ!島風がお前に何をしていたのかは布団に隠れていたのでわからなかったが……。と言うか、寝ていた私を叩き起こしたのはお前の喘ぎ声なんだぞ!?」

 

 なん……だと?

 私が喘いでいた?なんで?いや、考えるまでもない。

 寝汗とは思えないほどの量の汗で濡れた病院着と、一瞬おねしょを疑うくらいに濡れていた股ぐら、更に隣で「我慢出来なくて……」とか言ってる島風を見れば馬鹿でもわかる。

 コイツ、私が寝てる間にヤりたい放題したわね!?

 

 「まあ良いじゃねぇかお嬢。艦娘同士のナニは日常茶飯事だろ?」

 「私が良くない!」

 「え?良くなかった?」

 「話がややこしくなるからアンタは黙ってなさい!」

 

 この状況は非常にマズい。

 このままじゃ私、身に覚えも無いのにレズ認定されちゃう。なんとか誤魔化さないと……ん?外から聞こえてくるこの声ってもしかして。

 

 「先輩、今から第三試合なんですか?」

 「ああ、そうみたいね。青葉がアナウンスしてるわ。でも今は長門の試合なんてどうでも……」

 

 やっぱり試合開始を告げるアナウンスだったか。

 だったらこの機に話題を逸らし、私にとっての大不祥事を有耶無耶にしてやる。

 

 「良くないです!見ましょう!病室にもテレビくらいあるでしょう!?」

 「いやあるけど……。アンタ、戦艦同士の撃ち合いに興味あるの?」

 

 正直言うと全く興味ありません。 

 でも、今は利用させてもらいます。私がレズの汚名を被るのを阻止するために!

 

 「そりゃありますよ!ね!島風もあるよね!」

 「ん~、私は別に……」

 「あ・る・よ・ね~?」

 「お、おう!?ある!あります!」

 

 よし!相も変わらず私の隣から離れようとしない島風も、私の必死の説得(殺気付き)によって快諾してくれたわ。あとは磯風あたりが見たいと言えば……。

 

 「もちろん磯風も見るよね!いや、見ろ!」

 「あ、ああ、そうしよう……かな?」

 

 さすが磯風。

 アンタなら、私が心を込めてお願いすれば見たいと言ってくれるって信じてたわ。

 

 「はぁ、しょうがないわねぇ」

 

 よし!よし!

 先輩も五人中三人が見るって言ったら、渋々ながらもベッドの脇に設置してあるテレビをつけてくれたわ。

 それとほぼ同時に、窓ガラスが割れそうなほどの轟音が室内に響いた。

 まさか、今のは砲撃音?

 試合会場から軽く10kmは離れてるはずなのに!?

 

 「先輩!今のって!」

 「長門かネルソンの砲撃でしょ?って、コイツら……何してんの?」

 「何って……え?ホントに……」

 

 何してるかわからなかった。

 先輩に促されるように視線を移したテレビの中で、長門さんとネルソンさんは両の手の平をガッチリと組ませてたわ。

 まるで、力比べでもしているかのように。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 長門ってさ、小学校の先生やってたくらいだから学は有るのよ。但し、馬鹿なの。

 

 アンタだってあの試合を見たでしょう?

 アイツったら何を思ったのか、初手で全力射撃した後はひたすらネルソンとプロレスしてたじゃない。

 まあ、それに付き合ったネルソンも同レベルの馬鹿だとは思うけどね。

 

 え?司会的には助かった?

 あ~、そう言えば第一試合と第二試合のせいで観客席は冷えっ冷えだったんだっけ。

 

 はぁ?長門はそれを察して、ネルソンにプロレスを仕掛けたんじゃないかって?

 

 ないない。

 昔の長門ならそれも有り得たんでしょうけど、あの頃の長門は脳筋が極まりすぎて本能だけで動いてたって言っても過言じゃなかったのよ?

 そんな長門が、観客席を盛り上げるためにプロレスしたなんて私には思えないわ。

 

 

 ~戦後回想録~

 奇兵隊総隊長。神藤桜子大佐へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 『何と言う凄まじい轟音!長門、ネルソン両艦娘の一斉射撃の砲撃が観客席まで震わせました!どうですか?解説の漣さん!』

 『正に戦艦の真髄を見た!と言った感じですね!耳の奥が痒いです!」

 

 痒くても指を突っ込んで掻くんじゃないぞ。

 っと、それはどうでも良いな。

 今はそれよりも、初手から全力射撃をするなんて戦法が被った事の方が問題だ。いや、それすらも問題ではないな。

 真に問題なのは、私の『一斉射かッ…胸が熱いな!』よりも、奴の『ネルソンタッチ』の方が格好良かったことだ!なんなんだあの艤装は!艤装が変形するなんて反則だろう!

 

 『ふん、貴様の一斉射は随分と地味だな。だが、威力は大した物だ。さすがは余と同じBig sevenの一角。そこは素直に賞賛しよう』

 「お褒めに預かり光栄だ。貴公の一斉射は見た目も威力も素晴らしい。そこは素直に認めよう」

 

 実際は腸が煮えくりかえってるがな。

 悔しかったのは威力で勝てなかったことじゃない、あの見た目だ!解説の漣が言った「ダイガンザンみたい」なあの砲撃形態だ!

 同じビッグセブンなのに、どうして私の艤装は変形しないんだ!変形さえすれば、その手のアニメが好きな駆逐艦たちから好かれるかもしれないのに!

 

 『このまま互いに撃ち合っても、試合の結果は知れているな』

 「ああ、私と貴様の練度はほぼ互角、射撃精度も似た寄ったり。千日手は確実だ」

 

 私とネルソンはゆっくりと互いの距離を詰めた。真っ直ぐ、砲撃すらせずにだ。

 艦娘としての性能で決着がつかないと悟るや、私と同じ考えに至った貴公には妙なシンパシーを感じるよ。

 

 「「ならば……」」

 

 互いの距離は僅か30cm。

 私とネルソンは打ち合わせもしていないのに機関のみ残して艤装をパージ、同時に円の頂点が真後ろに行くよう『脚』を扇状に変形させ、二つを合わせて半径4m程の即席のリングを作り出した。

 そう、艦娘として決着がつかないのなら、個人の力量で決着をつけるしかない。つまり!

 

 「「力比べだ!」」

 

 それを合図に、私とネルソンはガッチリと互いの両手を組み合わせた。

 組み合ってわかったが、此奴も相当鍛えている。

 横須賀で並ぶ者無しと謳われる力自慢の私と互角に押し合うのだからな。

 

 『え~っと、解説の漣さん。これはいったい……』

 『プロレスktkr!これは鎮守府初、いや世界初と言っても過言じゃない、艦娘同士のプロレスですよ!』

 

 プロレスは大袈裟だな。

 私はプロレス技はおろか格闘技の心得自体が無い。まあそれでも、力任せに殴るのとバックドロップ程度なら出来るし、知識としては識っているがな。

 だが艦娘同士、しかも戦艦同士が海上でプロレスのような組技や投げ技がメインの格闘技を行うことは不可能に近い。

 『水切り』が使える駆逐艦や軽巡洋艦ならまだしも、戦艦ではお互いがプロレスをする事を了承して協力し合わなければ無理だ。それ以外の場合では『脚』の操作に数秒から十数秒を要する戦艦では単純な押し合いが精々だな。

 

 「長門よ。このまま、どちらかがラインアウトするまで押し合うか?」

 「ここは試合場のほぼ中央だぞ?現実的ではないな」

 「ならばどうする?このままでは会場がまた冷め切ってしまう」

 「そうだな。ならば、派手にやるとするか!」

 

 私はわざと力を緩め、引きよされるままにネルソンの腰にしがみついた。

 対するネルソンは、私が何をしようとしたのかを瞬時に察して四股を踏み、私に覆い被さるように私の機関に組み付いた。

 

 「させると思うか!」

 「思わないさ。だが、それで良い!さあ投げろ!ネルソン!」

 「な!?貴様!私に八百長試合をしろと言うのか!」

 「八百長だと?それは聞こえが悪いな。先ほどの漣の言葉を借りるならこれはプロレスだ。英国ではどうだか知らんが、日本においてプロレスはエンターテイメントショーの意味合いもあるんだよ」

 

 だから、これから私と貴公が演じるのはショーだ。勝敗など関係ない。ただただ観客を盛り上げるだけのエンターテイメント。

 だが、もちろん手加減はしない。私は全力で道化を演じてやる!

 

 「なるほど、貴様の覚悟はわかった。ならば余も、Big sevenの一角として貴様に付き合ってやる!」

 

 私の機関を掴むネルソンの腕に力がこもったのを確認した私は、ネルソンの腰に回していた腕の力を緩めた。

 するとネルソンは私の頭が下を向くように持ち上げ、そのまま尻餅をつくように私の頭を海面に突き立てた。

 所謂、ゴッチ式パイルドライバーと言う奴だ。

 

 「ふぅん!」

 「ごふぉ……!」

 

 海面から頭を引き抜いて(もちろんダメージはほぼ0)起き上がった私の首に、ネルソンが間髪入れずにラリアットを叩き込んできた。

 さすがにこれは痛いな。いや、痛いと言うより苦しいか。一瞬息が止まったぞ。

 だが、海面に背中から倒れた私を通り過ぎた奴の背中はガラ空き。ああ、わかっているさ。次は私に投げろと言ってるんだろう?

 

 「一応言っておく。痛いぞ」

 「望むところだ。やれ!長門!」

 「おおおぉぉぉぉぉう!」

 

 ネルソンの機関に後ろから組み付いた私はブリッジの要領で力の限り持ち上げ、そのまま自分の『脚』の上に叩きつけた。

 そう、私が唯一出来るプロレス技。バックドロップだ。

 

 「楽しい。楽しいなぁ。なあ!長門よ!」

 「同感だ。さあ立てネルソン。もっと楽しもうじゃないか。私たちの戦いはまだ始まったばかりだぞ」

 「ああ、どちらかが倒れるまで続けよう!」

 

 さっきも言ったが、私とネルソンは別に打ち合わせなんてしていない。

 だがこの時、私とネルソンは言葉ではなく肉体言語で解り合っていた。

 だから私もネルソンも自然とタイミングを合わせて、同時に試合再開のゴングを鳴らした。

 

 「「私たちの戦いはこれからだ!」」

 

 と、高らかに叫んでな。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 プロレスのルールには今だに詳しくないので、あの時の試合がどうしてネルソンさんの勝ちで終わったのかはわからないままです。

 でも確かに、先の二試合の盛り下がりが嘘のように観客席は興奮の坩堝に包まれていました。

 はい、一緒に見ていたおか……大和さんは「何やってるんだか……」と呆れていましたが、私は観客の皆さんと一緒になって「おーー!」とか言ってました。

 

 え?長門さんの事を毛嫌いしてなかったか。ですか?

 確かに部屋の天井一面に私の写真を貼り付けていた事や、隙あらば私を部屋に連れ込もうとする長門さんは苦手でしたが、別に毛嫌いと言う程嫌ってはいませんでした。

 

 何と言いますか、嫌いきれなかったんです。

 皆さんは長門さんが性的な目的で私に近づいてると仰っていましたが、あの人は私に話し掛ける際、必ず「元気そうだな」と言うんです。

 

 その時の長門さんの顔は心の底から安堵しているようで、まるで学校の先生みたいに思えたからかもしれません。

 

 はい、母親ではなく先生です。

 母の怒った顔しか見たことがなかったせいもあるのでしょうが、私が元気かどうかを確かめてくる長門さんが、艦娘になる前に通っていた小学校の先生と重なって見えたんです。

 

 もっとも、すぐにニヘラと笑って私を攫おうとしてましたけど……。

 でも、苦手なのは変わっていませんが、長門さんには本当に感謝してるんです。

 

 だって、私が今こうして暮らしていられるのは、他ならぬ長門さんのおかげなんですから。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 朝潮へのインタビューより。

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  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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