艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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間違えて百九話を先に投稿しちゃいました(つд`)
と言うわけで、遅ればせながら百八話も投稿します。


第百十八話 羨ましいくらいのおバカさんです

 

 大淀式砲撃術って知ってる?

 ええ、お姉ちゃんが阿賀野さんとの試合で披露したアレよ。

 アレって、その一の『蜂落とし』とその二の『斫り』、そしてその三の『流れ星』はべつに出鱈目って呼べるほど特殊なモノじゃ……え?何?射撃精度が十分出鱈目?

 ん~……そう言われてみればそうかも。

 『蜂落とし』は防空駆逐艦が白目剥くような対空性能だし、『斫り』なんて重巡棲姫を一撃で仕留めちゃうくらいだしね。

 そう考えると『流れ星』もか。

 

 でも、後半の三つは先の三つとは別物と言って良いわ。アレは砲撃術に分類されてるけど、正確には砲弾を媒介とした力場操作術よ。

 

 青木さんだって、お姉ちゃんが砲撃を()()()()に変えて阿賀野さんを攻撃したのを見たでしょう?

 私も『蜂落とし』を教えてもらった時にその五まで見せてもらったんだけど、さすがに出鱈目過ぎて呆れるしか出来なかったのを憶えてる。

 

 その六は見たことなかったのか?

 ええ、その六を見たのはあの試合の時が初めてよ。って言うか、その六はその時まで存在してなかったの。

 

 そう、大淀式砲撃術その六はあの試合中に完成したのよ。もし、お姉ちゃんと阿賀野さんの試合が組まれてなかったら、その六は完成どころか思い付きもしてなかったんじゃないかな。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 満潮へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 私は大淀の事が嫌いです。

 その気持ちは、かつての記憶を思い出した今でも変わっていません。

 さすがに弟の仇だ。と言って命を狙うことはしなくなりましたが、それでも彼女を嫌う気持ちは萎えません。むしろ大きくなってるくらいです。

 いや、今最もその気持ちが大きくなっているかも知れません。

 何故なら……。

 

 「せ、先輩、それに大和さん……。腕が……」

 「朝潮ちゃんが痛いと言ってます。だから腕を離してください」

 「いえいえ、朝潮は先輩である私とお話したいはず。だから腕を離すのは大和さんの方です」

 

 今正に、私のご主人様であり愛すべき友人の朝潮ちゃんを、たまたま通りかかった『猫の目』の前でバッタリ遭遇した大淀と取り合……もとい、守っている最中だからです。

 

 「そう言えば、大岡裁きで今と似たようなお話がありましたね。朝潮ちゃんの事を想うなら手を離しなさい」

 「それはこちらのセリフです。見てください。大和さんが力一杯引っ張るから朝潮がベソかいてるじゃないですか」

 

 なんて可哀想な朝潮ちゃん!

 この冷酷メガネが手を離せば今の苦しみから解放されるのに、コイツが離さないせいで今も「い、痛い……」と涙しながら両足をぷらんぷらんさせてます。

 

 「店の前が騒がしいと思ったら……何してんだ?アンタら」

 「ばぁばなにしてゆの~?」

 

 こうなったら根競べです!

 と、決意を固めたら、お店のドアがカランカランと音を立てて開き、頭に幼女どころか赤子と言っても差し支えないほど幼い子供を乗せた金髪さんが出て来ました。

 以前、養成所からここまで送ってくださった時の軍服姿と違って、今日はピンクのエプロン姿ですが意外なほど似合ってますね。見ようによっては裸エプロンに見えなくもない……って、あれ?なんだか引っ張りが弱くなったような。

 

 「桜ちゃん!ばぁばですよ~♪」

 「ちょっ……!ぐほぉ!」

 

 おのれクソメガネ……。

 貴女が急に手を離すから、朝潮ちゃんが勢いよく私の胸に突っ込んで私を押し倒す格好になっちゃったじゃないですか。

 まあ、突っ込んだのが私の胸で良かったです。

 これがもし逆だったら、提督のように絶壁とまでは言わないまでも申し訳程度しかない貴女の胸に激突して、朝潮ちゃんの頭に瘤が出来ていたかもしれませんから。

 

 「い、痛いです……」

 「痛い?腕がですか?」

 「いえ額が……。大和さんの胸が硬くって……」

 

 はて?私の胸は硬いと言われるほど硬くはないはずですが……。でも、朝潮ちゃんの額は赤くなって若干腫れてきてますね。いったいどうして……。

 あ、そういえば私って。

 

 「すみみせん。それたぶん、私の胸パットのせいです……」

 「胸パット?」

 「はい、何故か私の標準装備に胸パットがありまして……」

 

 最初は大和型特有の装備かと思っていたのですが、先代の武蔵も今の武蔵もサラシだけで装備していませんから、これは大和型のと言うより私特有の装備と言えるでしょう。

 ちなみに、見た目は完全に金属製なのですが意外と暖かく、しかも通気性も最高でつけ心地が良く、重さをほとんど感じないという謎仕様。

 以前、先代の武蔵に理由を聞いてみたら「妖精産の物に常識が通用すると思うな」と言われました。

 しかも『九一式』と書かれているため、今の武蔵に「九一式徹甲乳だ」と何故か羨ましがられもしました。

 

 「つまり、偽乳ですね」

 「ばぁば、ぎにゅ~ってなぁに?」

 「無いのにさも有るかのように偽った胸の事です。桜ちゃんは真似しちゃダメですよ?」

 「あい♪」

 

 おい婆メガネ。

 どうして金髪さんから奪い取るように受け取った幼子にばぁばと呼ばれているのかわかりませんが、物事の分別もつかない幼子に出鱈目を吹き込むのはやめなさい。

 たしかに胸パットのせいで多少盛られてはいますが、少なくとも貴女の胸以上に立派な大きさは有りますからね?なんなら今日あたり比べてみます?

 

 「あ、あの、先輩。その子が桜ちゃんですか?」

 「あら、朝潮はこの子と会うのは初めてですか?」

 「はい、満潮さんから先輩のお孫さんがここに居るとは聞いていたのですが……。私、お店の中にまで入れた事がなくて」

 「店の中に入れたことがない?」

 「ええ、その……。あの三人組が私を……」

 「ほう……?またあの三人組ですか」

 

 あの三人組?

 そういえば以前、朝潮ちゃんがここでの出来事を思い出して、顔を真っ青にしてチワワみたいにプルプルと震えていたことがありましたね。

 今もそうなってますし、朝潮ちゃんが怖がっているのはその三人組でしょう。

 って言うか孫!?

 大淀ってあの見た目で孫が居るんですか!?たしか提督よりも若かったはずですよね!?

 

 「ねぇばぁば、このひとだぁれ?」

 「この子は朝潮ですよ。ばぁばの子供みたいな子です」

 「あしゃしお?」

 

 なんと愛らしい。

 真っ青な朝潮ちゃんを、大淀の頭の上で小首を傾げながらしげしげと見つめるつぶらな瞳を持つこの幼児が彼女の血縁だなんて考えられません。

 いや、それより今、サラッと朝潮ちゃんを自分の子供と言いませんでしたか?

 

 「朝潮、抱っこしてみますか?」

 「え、良いん……ですか?」

 「ええ、構いません。人見知りが激しいこの子が、初対面でここまで興味を持ったのは貴女が初めてですから」

 「で、では少しだけ……」

 

 ほう、少女と幼児のコラボですか。

 大変素晴らしい!

 おっかなびっくりで桜ちゃんを抱っこする朝潮ちゃんと、今だに青い顔をしている朝潮ちゃんを「よしよし」と撫でる桜ちゃん尊い!ほんの少しだけですが、大淀を褒めても良い気分になりましたよ!

 

 「では、少しの間桜ちゃんをお願いしますね」

 「どこかへ行かれるんですか?」

 「ええ、ちょっと害虫退治に」

 

 桜ちゃんを朝潮ちゃんに預け、メガネの端を右手でクイッと上げながら立ち上がった大淀は、金髪さんと「少し暴れます」「まだ営業中だから程々にしてくれよ?」と短いやり取りをして店内へと入って行きました。

 害虫退治とか暴れるとか言ってましたが、お店にGでも出たのでしょうか。

 

 『見~つめる……げ!奥さん!』

 『貴方たちは!まだこんな、駆逐艦にトラウマを植え付けるようないらっしゃいませを続けていたのですか!』

 

 トラウマを植え付けるような『いらっしゃいませ』って何?って言うか奥さんってどういう事です?

 店員と思われる三人分の野太い声が店内から聞こえた途端に、朝潮ちゃんが「ピィ……!」とか鳴いて、桜ちゃんを抱っこしたまま私の後ろに隠れたので、朝潮ちゃんにトラウマを植え付けたのは店内にいる三人で間違いないようですね。

 

 『三人ともそこに直りなさい!お仕置きの時間です!』

 『お、お言葉ですが奥さん、これは当店の正式ないらっしゃいませです!いくら奥さんと言えども……』

 『言えども何です?私は別に、そのいらっしゃいませをやめろと言っているわけではありません』

 『で、では何故……』

 『私の後輩である朝潮を怖がらせたからです!あの可愛い朝潮を怖がらせ、あまつさえ粗相をさせた貴方たちの行いは万死に値します!』

 

 粗相をしたと聞いて朝潮ちゃんの方を見てみると、朝潮ちゃんは「し、してません!」と真っ青な顔から一転し顔を真っ赤になって否定していました。

 残念。

 本当に粗相をしていたのなら、私がパンツを脱がせて拭いてあげたのに……。

 

 『し、仕方ねぇ!末首(まっしゅ)男流手我(おるてが)!奥さんにジェットストリームアタックをぉっっぉふっ!?』

 『遅い!』

 『『酷ぇ!速攻で害悪(がいあ)を踏み台に!』』

 

 店内では何が起こっているのでしょう。

 いえ、茶番とは言え戦闘が行われているのは音でわかるのですが、音の感じ的に大淀が一方的に三人を殴ってるようにしか想えないんですよねぇ。

 

 「ねぇおいたん。ばぁばなにしてゆの?」

 「お仕置きと言う名の鬱憤晴らしだよ。お嬢はああなっちゃダメだぞ」

 「あい♪」

 

 金髪さんは何かを諦めたかのような目でお店を見つめていますが、本当に良いんですか?諦めたらお店が滅茶苦茶になっちゃいますよ?

 

 「お待たせしました。三馬鹿は片付けましたので、どうぞ店内へ」

 

 時間にして3分と言ったところでしょうか。

 派手な破壊音を鳴り響かせていた割に、服装に一切の乱れもない大淀がお店のドアを開けて私達を招きました。

 その奥のカウンターからはみ出た、レオタード姿をした中年男性三人分の足を隠すように立って。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 その日『猫の目』に行ったのは本当にたまたまです。

 初日の三試合を見終わって、大和さんがお腹が空いたと言いだしたのでダルシムに行こうという話になったのですが、向かう途中で『インド人を右に』と書かれた看板を見つけ従ったから結果的にそうなったんです。

 

 ええ、横須賀鎮守府名物の看板トラップです。

 『インド人を右に』は始めただったのですが、相変わらず隠すようにヒッソリと立てられていました。

 

 私は嫌な予感がしたので帰ろうと言ったのですが、大和さんが面白がって従ってみようと言い出しました。

 はい、あの辺りでインド人と言えばダルシムの壁一面に描かれた火を吐くインド人の絵しかありませんので、取り敢えずはそこまで行ったんです。

 

 トラップはどんな内容だったのか?

 それが不思議な事に、看板に従ってインド人を正面にして右、つまり西に進んでも次の看板は見当たらず、行き着いた先は『猫の目』だったんです。

 

 その話を店内に入ってから先輩にしたら「あ、危うく三代続けて……」などと、冷や汗を流しながら仰っていたのを今でも憶えています。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 朝潮へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 「ばぁば!ぷいん!」

 「はいはい、プリンですね。金髪さん、プリンをドラム缶でお願いします」

 「アホなこと言ってんじゃねぇ。お嬢の胃袋をパンクさせる気か」

 

 三人組の遺体(仮)から目を逸らしつつ、カウンター席に大淀(膝の上に桜ちゃん)、朝潮ちゃん、私の順で座るなり、金髪さんの言うとおりアホなことを大淀が言い出しました。

 ドラム缶よりはるかに小さい桜ちゃんに、そんな常人でも食べきれない量のプリンが食べれる訳がないでしょうが。

 

 「ほらよ。大和さんはコーヒーとナポリタン(5束分)で良かったんだよな?」

 「あ、はい。ありがとうございます」

 (お、おい大和、もうちょっと大淀の方を向いてくれないか?)

 「あら、大淀を前にしても大人しかったから寝てるのかと思っていましたが、ちゃんと起きてたんですね」

 (もちろんだ。彼女が傍にいるのに私が寝るわけがないだろう)

 

 おかしい。

 いつもの窮奇なら、大淀を前にすれば私の身体を乗っ取って愛を囁くくらいしそうなのに、『猫の目』の前で大淀と会ってから今まで一言も喋っていませんでした。

 大淀と会うまでは「どこかに大淀がいるはずだ!探せ!」とか「あっちだ!あっちから彼女の匂いが!」などと喚いて五月蝿かったのにです。

 

 「いつもみたいに私を乗っ取れば良いじゃないですか。今なら代わってあげなくもないですよ?」

 (そ、そうしたいのは山々なんだが……。その、恥ずかしくて……)

 「はぁ!?恥ずかしい!?」

 

 おっと、窮奇のあまりにも意外なセリフについ大声を上げてしまいました。

 おかげでオレンジジュースを飲んでいた朝潮ちゃんに「ど、どうかしましたか?」といらぬ心配をさせ、桜ちゃんがプリンと格闘している様子を眺めていた大淀に「相変わらず変な人です」などと言われてしまいましたよ。って言うか、貴女だけには変な人呼ばわりされたくありません。

 

 (だってお前、今日は勝負下着じゃないだろう?柄も上下がバラバラだし……。だから恥ずかしくて、彼女の前で脱げない)

 「いや脱ぐな!露出狂か!」

 「ふぇ!?」

 「あ、違っ……。朝潮ちゃんに言ったんじゃなくてですね」

 

 マズい。

 このままでは朝潮ちゃんにまで変な人認定されてしまいかねま……ん?大淀が朝潮ちゃんに何か耳打ちし始めましたね。

 いったい何を……。

 

 「そ、そんな!大和さんに限って……!」

 「いいえ、間違いありません。彼女はきっと朝潮ちゃんを密室に連れ込み、服を脱ぎながら迫るようなシチュエーションを妄想し、途中で正気に戻って自分にツッコミを入れたのです」

 「おいそこ!変な出鱈目を朝潮ちゃんに吹き込むのはやめなさい!」

 「出鱈目?戦艦が幼女趣味の変態なのは横須賀の常識です」

 

 それって長門さんのせいですよね!?

 あの人が駆逐艦を性的な目的で追い回す変態だって事は着任してから色々な人に聞かされたから知っていますが、幼女趣味の変態イコール戦艦と言われるのは納得できません。

 だって私は、朝潮ちゃん以外の駆逐艦に興味がないんです。

 つまり私は幼女趣味ではなく、言わば朝潮趣味なのです!

 

 「ねぇばぁば~。ママとパパどこいったの~?」

 「桜子さんと海坊主さんですか?はて?金髪さん、お二人はどこへ?」

 「相棒は会場警備の指揮を執ってる。姐さんは……神風のとこじゃねぇか?」

 「だ、そうです。パパはお仕事で、ママは神風さんの所に行ってるんだって」

 「かみっかのとこ?」

 「はい。後でばぁばと行きますか?」

 「いく!」

 

 ピーンと右手を挙げて「いく!」と言った桜ちゃんは、ママの所に行けるのが嬉しいのかさっき以上にニコニコしてプリンとの格闘を再開しました。

 そんな桜ちゃんとは逆に、朝潮ちゃんが何かを思い詰めているように沈んでしまいましたが……。

 

 「そういやぁ、大淀さんもあの試合を見たのか?」

 「はい、しっかりと」

 

 金髪さんが思い出したように言うあの試合とは、話の流れ的に神風ちゃんの試合でしょうか。

 金髪さんは神風ちゃんとお知り合いみたいですし、大淀の感想でも聞きたいのかしら。

 

 「じゃあ、あの聖剣とか言う技も覚えたのかい?」

 「覚えることは覚えましたが……。大振り過ぎて射程も中途半端で使い辛いです。それに、私が使っても精々ル級までしか通用しないでしょう」

 

 は?聖剣を覚えた?

 大淀が常人離れした戦闘センスを持っているのは、あの時の窮奇との共闘で見たので知っていますが、見ただけで他人の技を覚えられる程だったんですか?

 

 「十分じゃねぇか?」

 「不十分です。あれ程の隙を晒すなら、最低でも戦艦棲姫を装甲ごと真っ二つに出来る位の威力がなければ使う必要がありません。殴った方が確実です」

 

 その理屈はおかしい。

 と、普通の艦娘が言ったのならそうツッコむのですが、姫級の深海棲艦を文字通り殴って沈めた彼女を見た後では、逆に「確かに」と言いたくなるから不思議です。

 

 「でも参考にはなりました。もし、力場の出力を瞬間的にでも数倍に出来る方法が有るのなら、奥の手の一つとして考案してみるのも有りだと思います」

 「まだ強くなるつもりかよ。たしか大淀さんは、今時点で艦娘最強なんだろ?」

 「そう言われているようですが、私にはそんな自覚はありませんし、まだ伸び代が有るのですから上を目指すのは当然です」

 

 へぇ、大淀って意外とストイックなんですね。

 短絡主義の脳筋だとばかり思っていたのに、意外な一面を知って少しだけ、本当に少しだけ見直しました。

 

 「神風さんの試合、凄かったですね。駆逐艦の生き様を見せつけられた思いでした」

 

 話の腰を折ったらダメだと考えていたのか、大淀と金髪さんの会話が終わったのを見計らったかのように朝潮ちゃんが口を開きました。

 朝潮ちゃんの言いたい事はわかります。

 私も彼女の試合を見て、朝潮ちゃんと同じような感想を抱きましたから。

 敵が如何に強大だろうと食いつき、自身の命を引き換えにしてでも相手を沈めるような彼女の戦いぶりは正に駆逐艦でした。

 でも私は……。

 

 「朝潮は真似しちゃダメですよ」

 「ダメ……ですか?」

 「ええ、貴女には早すぎますから」

 

 私が言いたかった事を大淀に言われてしまった。

 でもこれは好都合。

 恐らく大淀も私と同じような事を思ったのでしょうし、ここは憎まれ役を買って貰いましょう。

 

 「率直に言いますと、朝潮には覚悟が足りません」

 「覚悟……ですか?」

 「そう、覚悟です。例えば貴女は、捷一号作戦時に大和さんとの約束を守るため、任務を放棄して助けに行きましたよね?」

 「はい……。でも先輩は褒めて……!」

 「ええ、たしかに褒めました。約束を守るためなら自分の命すら厭わない。それでこそ朝潮です。ですが、それでは神風さんの域には至れません。何故だかわかりますか?」

 「わかりません……」

 

 大淀の口調は厳しくありません。

 むしろ、優しく諭すような口調を心懸けているように思えます。

 でも朝潮ちゃんは申し訳なさそうに唇を噛んでますから、尊敬する先輩から叱られているような気分なんでしょうね。

 

 「目的のためなら死んでも構わない。言うのは簡単ですが、実際に行動に移せる人は限られているでしょう。ですが逆に言えば、限られてはいても行動に移せる人がいるんです。貴女のように」

 「それでは足りない。と、先輩は仰りたいんですか?」

 「はい。神風さんの戦い方。いいえ、敢えて桜子さんの戦い方と言いましょう。彼女の戦い方は自分が死なないためなら目的など二の次三の次。いや、生き残った先に果たすべき目的があると言った方が良いでしょうか」

 

 言い方が悪い。

 それでは遠回しすぎて言いたい事が伝わりません。

 実際に、朝潮ちゃんは理解しきれずに頭の上にハテナマークを浮かべて悩んでいます。

 でも、私は口を挟みません。

 そのまま貴女も「何か良い言い方はないかしら」と悩んでいなさい。

 

 「つまり、こういう事だ朝潮。あの紅い駆逐艦は『目的のためなら死んでも構わない』ではなく『目的を果たすために死なない』を信条として戦っているのさ」

 「それはどういう……って、大和さん?なんだか口調が……」

 

 チッ、窮奇が出しゃばりましたか。

 いつものことではあるのですが、急に入れ替わるもんですから朝潮ちゃんが混乱してるじゃないですか。

 

 「黙って聞け。良いか?そもそも紅い駆逐艦とお前では前提が異なる」

 「前提……ですか?」

 「そうだ。例えばこの間の作戦で、お前は大和を……じゃない。私を守るために砲弾の前に身を晒したな?」

 「はい……」

 「あの時は治療が間に合ったから良かったものの、最悪の場合お前は死んでいた。つまり、お前は私を守ったその後の事など考えてなかったわけだ」

 「た、確かにそうですが……」

 「約束を守る事自体が目的だからアレで良かった。か?だから大淀は、お前には覚悟が足りないと言ったんだ」

 

 なんだか朝潮ちゃんにお説教する流れになっちゃいました。でも朝潮ちゃんはそれを不満がらず、真摯に受け止めるつもりなのか私に身体ごと向き直って椅子の上に正座しました。

 大淀が「う~……」とか唸ってふて腐れているのは無視します。

 

 「前提が異なるとはつまり、奴の場合は()()()()()が大前提なんだ。わかるか?」

 「なんとなく……。ですが」

 「もう少し噛み砕いて言ってやろう。あの紅い駆逐艦があの試合に挑んだ目的は知らんが、一歩間違えば死にかねないような戦い方をしておいて、奴にとって戦闘は手段であり過程でしかない。死線を越えた先に目的が有るのに、死んだら元も子もないだろう?」

 

 窮奇は最後に「今度私と約束するときは『守る』ではなく、『守り続ける』と言えるようになっておけ」と言い残して、私と代わりました。

 まったく、美味しいところだけ奪ってサッサと引っ込むなんてズルいですよ。

 朝潮ちゃんの「ありがとうございます大和さん!朝潮、勉強になりました!」という感謝の言葉と尊敬の眼差しが私ではなく、窮奇に向けられたモノだと思うと複雑なことこの上ないです。

 もっとも、引っ込むと窮奇は朝潮ちゃんの事などスッカリ忘れたように、私の中で「大淀はどんな顔してる?惚れ直してくれた?」とか「ああ、私が朝潮と話してるのを恨めしそうに見つめるなんて。きっと大淀は嫉妬していたのね」などと見当違いの事をブツブツと言ってます。

 まったく、私の半身は……。

 

 「羨ましいくらいのおバカさんです」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 それに、呆れるくらい純粋だとも思いました。

 彼女は大淀に良いところを見せるために、あの子にお説教をしたのですが、お説教している間も彼女は大淀の事しか考えていませんでした。

 

 大淀と話したい。

 大淀と触れあいたい。

 大淀に振り向いて欲しい。

 大淀に、愛して欲しい。

 

 そんな大淀への愛情ばかりが流れ込んで来たから、私はいつの頃からか大淀を恨むのをやめてしまったんでしょうね。

 

 

 ~戦後回想録~

 匿名希望の元艦娘へのインタビューより。

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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