と言う事で十三章の投稿を開始します!
第百二十二話 弱きを助け、強きは完膚無きまでに叩き潰す
『響』になった子が二人しかいないのはご存知ですか?ええ、初代響と私が一緒に戦った響の二人です。
初代響はどんなに過酷な状況からも生還し、多少の怪我なら気にせず出撃する様から『不死鳥』の通り名で呼ばれていたそうです。
もっとも、ネームド艦娘なんて言葉が出来る前の事なので、彼女がそう呼ばれていたことを知っている人は限られていましたけど。
私が四代目『暁』として着任した次の年に彼女は引退したんですが、彼女は私の頭を撫でながら「今日から暁が長女なんだから、しっかりするんだよ」と言って鎮守府を去って行きました。
その後の消息は知りません。
誘拐されたとか他国に渡ったなんて噂は聞きましたが本当の事はわからないままです。
でもあの人に会った時に、妙に懐かしい感覚に包まれたのを憶えています。
はい、艦種別国際艦娘演習大会の最中です。
その二日目の第二試合が始まる少し前だったでしょうか、哨戒から戻って工廠に艤装を預け、さあ出店巡りだ!って言いながら姉妹達と工廠から飛び出た時にあの人とぶつかっちゃったんです。
正直怖かったです。
だって一瞬、「あぁん?」って感じで睨まれたんですもの。でも彼女は、ぶつかったのが私だと気付くと不思議そうな顔をして少し悩んだ後、クスリと笑って私の頭を撫でながらこう言いました。
「立派なレディーになったじゃないか」って。
その時は意味がわからなかったんですが、どうも私は無意識に他の三人を庇うように両手を広げてたらしいんです。
きっとあの人は、私が彼女から妹たちを守ろうとしてたんだと思って褒めてくれたんでしょうね。
~戦後回想録~
元特Ⅲ型駆逐艦 一番艦 暁へのインタビューより。
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「この辺で良いか?」
「ええ、こんな人気のない所にご足労願って申し訳ないわね。ガングート」
「心にも無いことを。貴様はそんな事を気にする女じゃなかったじゃないか。なあ?桜子」
妙な言い方をするわね。まるで、私の事を以前から知ってるみたいな言い方じゃない。
工廠の近くで六駆の子達に声をかけてたから万が一を考えて殺気をぶつけ、倉庫街の一角まで誘い出したけど、もしかして誘い出されたのは私の方だったのかしら?
「それなりに見て回ったが、艦娘はだいぶ入れ替わってしまっても建物はほとんど変わっていないな。貴様が仕掛けた看板トラップを見つけた時は笑いを堪えるのに往生したよ」
「アンタ、昔ここに居たの?」
「ああ、ほんの4年前まで、私は艦娘としてここに居た」
相変わらず美味そうにパイプから煙を吸い込むガングートが4年前までここに居た?しかも横須賀所属の艦娘として?
どの子だろう。
今から4年前と言えばちょうどハワイ島攻略戦の頃。その前後に解体されたのかしら。
でも、もし本当にそうなのなら、どうして今も艦娘でいられる?しかも他国、露国の戦艦として。
「貴様は憶えていないようだが、私と貴様は過去に何度も会っているんだぞ?」
「へぇ、そうなんだ。申し訳ないけど、私には全く覚えがないわ」
妙な懐かしさは感じてるけどね。
でも私が艦娘時代に関わった子は限られてるし、死んでしまった二人を除いて他は全ている。
もしコイツが過去に私と会ってたと言っても、私的には風景と大差なかったんでしょうね。
「初めて見たのは呉の食堂だったか。貴様が軽巡洋艦を半殺しにした日だ」
「そんなに前!?」
当時の呉にいたって事は、コイツはいずれかの艦の初代。しかも、4年前に解体されたと仮定するなら10年選手って事になる。
それだけ長い間艦娘をやってた子なら記憶に残ってても良いはずなんだけど……。う~ん、思い出せない。
「貴様が当時の朝潮と喧嘩しているのも見たことがあるし、食堂で天龍を殴り飛ばしたのも憶えてる……。思い出すとどうしても懐かしく感じてしまうな」
昔の私を知っている自称元横須賀所属の艦娘。
でもコイツが今言った内容は私の自伝に書いてあることだから、知ろうと思えばすぐに調べがつくことばかりだわ。
その程度の情報を知ってるからって、コイツが横須賀に居たことを信じる根拠にはならない。
「アンタ、誰?」
だからストレートに聞いてみることにした。
するとガングートは、待ってましたとばかりに姿勢を正して名乗りを上げた。今の艦名ではなく、かつての艦名を。
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これは円満にも話さなかったんだけど、ガングートを初めて見た時に妙な懐かしさを感じたわ。
ガングートも、歓迎会の時に私を懐かしそうに見てたからたぶん私の予想は合ってると思う。
ええ、彼女は昔の知り合い。いえ、戦友だった。
色々と事情があって艦名は言うことができないけど、彼女は間違いなく、天龍だった頃の私が可愛がっていた駆逐艦の一人だったわ。
それを確信したのは、ガングートが神風の試合を嬉しそうに眺めてるのを見た時よ。
何を考えてたのかまではわからなかったけど、私には彼女が「相変わらずだな」って思っているように見えたから。
~戦後回想録~
横須賀鎮守府提督補佐。辰見 天奈大佐へのインタビューより。
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「それを信じる根拠は?」
「無い。だが事実だ。FSBは……いやタシュケントは駆逐艦響を誘拐する」
ガングートがかつての艦名を私に告げ、私が「そんな奴も居たわね」なんて物思いに耽ろうとしたら、それを邪魔するようにFSBが計画している艦娘誘拐計画を私に話した。
でも、どうして響?
他にも誘拐すべき艦娘はいくらでも居るのに、どうして日本に喧嘩を売るような真似までして響を誘拐しようとしているのかしら。
「かつての実艦の響が、戦後に露国へ売却されたのは知っているな?」
「へぇ、そうなんだ。初めて知ったわ」
「おいおい……。自国の艦の艦歴くらい……」
「興味あると思う?」
「いや、ないだろうな。仕方ない、あまり時間はかけられないからザッと説明するぞ」
別に説明しなくても良い。
と、止めようかと思ったけど、ガングートは構わず説明を始めた。
彼女曰く、特Ⅲ型駆逐艦二番艦 響は、戦後に当時はソビエト連邦だった露国へ売却されてヴェールヌイに改名され、数奇な艦生を送った後に海軍航空隊の標的艦にされて海の底に沈んだらしい。
そしてその艦生こそが、露国が響を欲している理由だとも。
「単刀直入に言えば、露国は響をヴェールヌイに改装して自国の艦娘として使う気だ」
「できるの?今の響もけっこう高い練度だったはずだけど、そんな改二改装的な事ができるなんて聞いた事がないわよ?」
「露国のお偉方はできると確信しているらしい」
「その理由は?」
「艦娘が祖先の経歴如何で成れるかどうかが決まるからだ。実際、私は生まれも育ちも日本だが、父方の曾祖父と母方の祖父の経歴のせいで日本の駆逐艦と露国の戦艦両方の適性を得た。ならば逆も有りではないか?と言うのがお偉方の見解だそうだ」
ふむ、つまり艦娘になる者の縁が大きく影響するのなら、艦の経歴も相応に影響するって考えたのね。
だから駆逐艦響が戦後とは言えヴェールヌイになったんだから、艦娘として響もヴェールヌイに改装できると踏んでそれを確かめようとしてるってことか。
でも一つ気になる。
どうしてコイツはそんな情報を私に教える?しかも、響誘拐計画のオマケ付きで。
「何を企んでるの?」
「企みなど無い」
「じゃあなんで、私に誘拐計画なんて話したの?」
そんな話を聞けば、本当だろうと嘘だろうと私は邪魔をする。いいえ邪魔どころか、アンタらFSBの関係者を根刮ぎ日本から追い出すわ。
そのくらい、私の事を知ってるんなら想像がつきそうなものだけど……。
「私と同じ想いをさせたくない……。じゃあダメか?」
「同じ想い?じゃあ、前にFSBが攫った元艦娘って……!」
アンタのこと?って続けようとした私を、ガングートは悲しげに目を細めることで止めて「ああ、私だ」と答えた。
そして、誘拐を阻止するために協力してくれって言った後、眉をへの字に歪ませて「だから、
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元艦娘が誘拐される事件は意外と多かった。
髪を染めたり、カラーコンタクトを入れたりした自称元艦娘が増えるまではな。
我々海軍も……ん?なんだ?陸軍じゃないのかだと?
ああ、君は自分が陸軍に出戻りした後で艦娘になったのか。だったら知らないのも無理はない。
話を戻すが、正化29年末のハワイ島攻略戦が、いや正確には平成元年に三軍の構造改革が成功するまで、元艦娘が誘拐されていると言う事実を知ってはいても海軍は表立って介入する事ができなかった。
陸軍に邪魔されてな。
そうだ。
元艦娘の監視、及び有事の際の護衛、保護は陸軍の仕事だったのさ。
にもかかわらず、当時の陸軍はその任を蔑ろにし、幾人もの元艦娘の拉致、誘拐を許した。
それだけならまだしも、金銭と引き換えに協力する者まで居た始末だ。
彼女も、そんな陸軍の被害者の一人だった。
桜……神藤大佐が彼女に協力したのは同情もあったんだろうが、本当は腹が立ったからだろうな。
いや、ある意味復讐か?
うん、そっちの方がシックリくるな。
神藤大佐は陸軍に売られ、利用された彼女に同情すると同時に、陸軍に復讐する絶好の機会を得たから協力したんだろう。
何せ彼女も、昔は陸軍に煮え湯を飲まされていたからな。
~戦後回想録~
現陸軍元帥へのインタビューより。
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私は陸軍が嫌い。
その気持ちは三軍の粛清が終わって、お父さんの命令で陸軍参謀本部に移った少佐……じゃないや、少将が実権を握っている今でも変わっていない。
陸軍が喧嘩を売ってくるなら喜んで叩き潰すし、アイツらのせいで酷い目に遭った人がいたら全力で肩を持つ。
例え私怨だと言われてもね。
「いいわ。協力してあげる」
「本当……か?」
「なによ、まさか私の言う事が信じられないって言うの?」
「い、いや、こうもアッサリと要請を受け容れてくれるとは……」
「思ってなかった?なんで?」
「なんでってそりゃあ、私の今の立場を考えれば当然……」
罠を疑って当然。ってところでしょ?
確かに、今のアンタがFSBに所属している事実を鑑みれば、さっきまでの話は私の同情を買うための作り話。
だとするならこの要請は私の、もしくは奇兵隊の護衛に裂く人員のウェイトを響に偏らせ、本命の艦娘の護衛を薄くするのが目的だわ。
でもね、ガングート。
アンタは奇兵隊を、いや私を見誤っている。
私が最優先すべきは艦娘を護ること。
誘拐される危険性があるなら全力で阻止するし、助けを求められれば日本艦だろうが
だから私は、助けを求めてきたアンタにこう言ってやるわ。
「弱きを助け、強きは完膚無きまでに叩き潰す。それがこの桜子さんだからよ。だから、安心して私に任せなさい!」ってね。
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
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神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
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紫印 円満(実質三部の主役?)