艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百二十三話 唯一にして最高の戦果

 

 

 

 足柄が今何をしてるか?

 さあ?相も変わらず婚活に勤しんでるんじゃない?

 

 いや、長い休みが取れた時は礼号組で集まったりするけど、あの人って自分の近況ははぐらかしてまともに教えてくれないのよ。

 

 私?

 私はご覧の通りよ。

 楽な仕事じゃないけど、保育士の仕事は天職だと思ってるわ。まあ、子供達を園長の魔の手から護るのが大変だけどね。

 いや、本当に大変なんだったら!

 私には、大淀みたいにあのゴリラを素手で撃退するなんて無理だから!

 

 え?話を戻せ?

 別に戻すのは良いけど、さっきも行ったとおり私は知らないわ。知ってるとしたら……大淀か羽黒さんあたりかしら。

 大淀は艦娘だった頃から足柄と個人的に仲が良いし、羽黒さんはたしか、足柄とは叔母と姪の関係だったはずだから。

 

 

 ~戦後回想録~

 元朝潮型駆逐艦十番艦 霞へのインタビューより

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 私の対戦相手が()()足柄だとビスマルク姉様から聞かされたときは柄にもなく興奮した。

 それはビスマルク姉様も同じで、できることなら代わりたいとすら言ってたっけ。

 

 『どうしたの?そんな温い砲撃じゃあ、この私には擦りもしないわよ!』

 

 わかっています。

 私たちが調べた貴女の情報が確かなら、こんな様子見の砲撃なんか擦りもしません。

 本当なら様子見なんてせず、最初から全力で貴女にぶつかりたいと思っていたんですけど、日本の艦娘が囁いていた貴女の噂を聞いて、貴女が本当に()()足柄なのか確かめたくなったんです。

 本当に貴女が、私とビスマルク姉様が取り逃がした、恩師である先代アドミラル・グラーフ・シュペーの仇だった姫級を沈めた、()()足柄なのかどうかを。

 

 「いくつか、質問していいですか?」

 『はあ!?戦闘中に質問ですって!?』

 「はい、どうしても確かめたいことがありますので」

 

 足柄さんが少しだけ砲撃の手を緩めた。

 これは質問しても良いって事かな?だったら遠慮なく質問させてもらうとしましょう。

 私だけじゃなく、ビスマルク姉様も真実を知りたがってるはずですから。

 

 「貴女が『熟れた狼』とか『妙齢型』と呼ばれているのは事実……って、わぁっ!びっくりしたぁ!急にガチで当てないでくださいよ!」

 『うっさい!喧嘩売られて当てずにいられるほど私は人間できてないのよ!』

 「いや、喧嘩売ったつもりは……」

 

 ないんだけどなぁ。

 私はただ、貴女の事を調べる過程で聞いた貴女の噂が事実かどうかを確かめたかっただけなんです。

 例えば、歯がギザギザした駆逐艦が「足柄さん?あ~……相変わらず男を追っかけ回してるって聞いたなぁ。もう『餓えた狼』じゃなくて『熟れた狼』って歳なのに」って言ってたのや、さっきの試合で大暴れしてたメガネの軽巡が「彼女、結婚に焦ってるみたいで……。ほら、今の妙高型で一番長いのが彼女ですから、彼女は他の三人とは別に『妙齢型』などと呼ばれてるんです」って言ってたのが気になったんです。

 

 『私だって結婚したいのよ……。でも追えば追うほど逃げていくのよ!』

 「ちょ、ちょっと足柄さん、少し落ち着い……」

 『落ち着いいられるか!アンタみたいなピチピチのティーンエージャーと違って私には後が無いの!私とアンタとじゃ背負ってるモノの重さが違うのよ!』

 

 ダメだ。

 質問の順番を完全に間違えました。

 どうも先にした質問内容は彼女にとって地雷だったらしく、砲撃だけじゃなく魚雷まで乱射しながら突っ込んで来てます。

 私はTeenagerじゃない。ってツッコんでも聞いてくれなさそうなくらい怒ってるなぁ。困ったなぁ。

 

 「しょうがない。こうなったら不本意だけど、戦闘不能にしてから確かめよう!うん!そうしよう!」

 

 機関出力全開。回避運動は妖精に一任。各砲門、重巡足柄へ照準、指示を待ちなさい。それでは、本艦はこれより反航戦を開始します。

 

 「みんな!(Alle!)準備は良い?(Bist du bereit?)重巡(Schwerer Kreuzer)Prinz Eugen!突撃します!(Ich werde dich berechnen!)

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 姉さんの居場所ですか?

 神奈川に住んでいるのは知っていますが、詳しい住所までは私も知りません。

 はい、姉さんとはお盆とお正月に会う程度なので……。

 

 え?叔母なのに姉さんと呼んでるのが不思議?

 だってそう呼ばないと怒られるんですもの。

 私は姉さんがリンガでコンビを組んでいた先代の羽黒と入れ替わりで羽黒になり、その後リンガに配属されて姉さんと再会したんですが、出会い頭に「もしかして叔母さんですか?」って言ったらラリアットからの腕ひしぎ十字固めの洗礼を受けました。

 

 はい、父母から聞いていた姉さんのイメージとはかけ離れていたので、きっと間違えたから怒られたんだって思いました。

 

 でもよくよく話を聞いたらやはり叔……姉さんで、あの性格になったのは長い間戦地に居たせいだと無理矢理納得させられました。

 

 今でも独り身なのか?

 そのはずですよ?

 姉さんが結婚したという話は聞いていませんし、誰かとお付き合いしているなんて話も聞いたことがありません。

 

 ただ……。

 艦娘だった頃はお婿さん探しに余念がなかった姉さんが、終戦してから最初のお正月に会った時に妙な事を言ってたんです。

 

 ええ、私の両親や親戚の皆さんに「そろそろ結婚したら?」とか「良い見合い話があるんだけどどう?」などと言われても無反応で、それどころか帰り際にこう言ったんです。

 

 はい、ハッキリと「結婚する気はない」と言いました。

 

 

 ~戦後回想録~

 元妙高型重巡洋艦四番艦 羽黒

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 「ねえビスマルク、いくつか聞きたいことがあるんだけど……良い?」

 「構わないわ。何でも質問してちょうだい」

 「じゃあ単刀直入に。彼女、艦体指揮を使ってるでしょ」

 

 足柄とプリンツ・オイゲンの本格的な砲雷撃戦が始まって十数分。見てる内に感じた違和感、いや既視感の理由が知りたくて、真っ昼間なのにブルスト片手にビールを呷っていたビスマルクに直接聞いてみた。

 

 「カンタイシキ?あ~、不可視の船員(Unsichtbare Matrosen)の事をJapanではそう呼ぶのね」

 

 う、ウンジヒバー・マトローゼン……だと?

 何それカッコイイ。

 技の内容は恐らく同じはずなのに、なんだか妙な敗北感に襲われたわ。

 今からでも改名しようかな……。

 真似したようで癪だけどインビジブル・セイラーとか……いやいや!そんな事は今どうでもいい!

 

 「ええ、妖精さんと五感を共有して五感と思考速度を強化、及びセミオートでの艤装操作を可能とするのがソレだって言うんならね」

 「なら間違いないわ。私とオイゲンが使うUnsichtbare Matrosenと、貴女が言うカンタイシキは同じモノよ」

 

 コイツ、サラッと自分にも可能だって言いやがったわね。まあ、妖精さんとコンタクトが取れてる時点で、もしかしてとは思ってたけど。

 

 「エマ。もしかして貴女、元艦娘?」

 「ええ、貴女やプリンツ・オイゲンとは違って駆逐艦だけどね」

 「あら、随分と卑下するのね。駆逐艦が戦艦や重巡洋艦に劣るとでも?」

 

 まさか。欠片も思ってないわ。

 と、私は口には出さずに肩を竦める事で答えた。

 私が自分より立場の低い駆逐艦だったと知り、かつ卑下しているように演じれば鼻高々で色々と語ってくれると思ってたのに……当てが外れちゃったわね。

 

 「腹の探り合いは無しにしない?他の国はどうか知らないけど、少なくとも私は日本との同盟を望んでいるわ」

 「ありがたいお言葉ですが、私は立場上、貴女の言葉をはいそうですかと鵜呑みにする訳にはいきません」

 「それは理解してるわ。だったらそうね……エマはお酒が好きよね?」

 「ええ、あまり大っぴらに言えませんけど大好きです」

 「だったら話が早いわ。呑み友達から始めましょうよ。今晩あたりどう?」

 

 ふむ、誰にも邪魔されないところで二人で腹を割って話そうって暗に言ってる?それとも言葉通り、私とただ友人関係を築きたいだけ?

 

 「ちょっと待ってくれMs.Bismarck!エマには俺との先約が……!」

 「あら、だったら貴方も来れば良いじゃない」

 「い、良いのか?」

 「ええ、二人より三人の方が盛り上がるでしょうし、貴方がカリブ海の棲地を壊滅させた時の話も聞きたいと思ってからちょうど良いわ。まあ、エマが良いと言えばだけど」

 

 私にビスマルクが恋人関係を迫るとでも誤解したのか、私たちの間に身体ごと割って入ったヘンケンに対して、ビスマルクはあっけらかんと言った様子であっさりOKを出した。

 後は私の返事次第なんだけど……。

 縋るような目で私を見下ろされたらダメとも言えないわよね。

 

 「じゃあ、食事会が終わったら三人で呑みましょ。場所は……鳳翔さんの所で良い?」

 「私は構わないわ」

 「お、俺もそれで良い」

 

 ふふ♪焦った姿を見せたのが恥ずかしかったのか、ヘンケンったら帽子を目深に被ってそっぽ向いちゃった。

 他人が見たら、同性との呑み会すら許さない狭量な人に映るんだろうけど、そんな誤解を受けかねないほど必死に私を求めてくれる彼の行動には好感が持てるわ。

 ビスマルクだって「あらあら、随分と愛されてるわね」なんて言ってクスクス笑ってるし。

 

 「ん?いつの間にか形勢が傾いてるな」

 「試合が?ああ、言われてみればそうね」

 

 照れ隠し?

 と思ったけど、ヘンケンの視線に釣られてモニターに目をやると、彼が言う通り形勢が傾き始めていた。

 足柄が押されるという形で。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 正直、期待外れだったな~。

 いや、確かに足柄さんは強かったよ?強かったけど、Unsichtbare Matrosenを使った私の敵じゃなかったんだもん。

 

 でも、違和感は感じてました。

 その時は、私に押されて焦っただけだろって思ったんだけど、後になって体調が悪かったんじゃないかなって思い直したんです。

 

 じゃないと説明がつかなかったんですよ。

 試合の後に足柄さんと同じ泊地にいた羽黒さんから、私と姉様が追ってた隻眼の軽巡棲姫を沈めたのは足柄さんで間違いないと確認できた事で余計でもそう思いました。

 

 それに、その軽巡棲姫を倒した時に使ったって羽黒さんが言っていた『餓狼』と呼ばれる技も結局出さなかったんです。

 

 詳細を聞いてゾッとしましたよ。

 もし彼女がソレを使っていたら、あの時の状況からでも余裕で逆転できたんですから。

 

 はい、どうしてあの時手を抜いたのかが知りたくて、青木さんに同行して彼女を訪ねる事にしたんです。

 

 

 ~戦後回想録~

 元Admiral Hipper級重巡洋艦 3番艦 Prinz Eugenへのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 「どうして『餓狼』を使わないんだろ。アレなら、今の状況だって覆せるのに」

 「ガロウ?何ソレ」

 

 観覧席で円満さんとヘンケン提督、そしてビスマルクさんが何か話してるのを目の端に捉えながら霞さんと試合を見てたら、霞さんが不思議そうにそう呟いた。

 使うって言うくらいだから、霞さんが言ったガロウとやらは足柄さんの必殺技的なモノなのかしら。

 

 「簡単に言えば恵の『深海化』やアンタの『姫堕ち』と似たようなモノかな。但し、アレはぱっと見深海化してるように見えない。見た目的には、先の試合で大淀と阿賀野さんが使った回向返照に近いわ」

 

 ふむ、霞さんの言葉から予想するに、足柄さんの『餓狼』とは艤装の核になっている深海棲艦の力を艤装にではなく、力場に上乗せするって感じなのかしら。

 

 「使えない理由があるんじゃない?例えば……見た目は変わらなくても深海棲艦の力を公衆の前で使うのはマズいとか考えたんじゃない?」

 「有り得なくはないけど……。足柄は勝つためなら死すら厭わない人よ?こんな公衆の面前で負けるくらいなら迷わず使うと思うわ」

 

 ふぅん、足柄さんってそういう人なんだ。

 勝つためなら死んでもいいなんて考えは桜子さんや神風とは真逆。喧嘩にまではならないと思うけど馬は合いそうにないわね。

 

 「あの人ってさ、負け続けの人生だったんだって」

 「負け続け?」

 「そう、負け続け。礼号作戦の後に聞いたんだけど、スポーツや勉強はもちろん、恋愛などなど、大事な勝負事の時はあと少しって所で誰かに負けてたらしいわ。体調不良とか色々な事が最悪のタイミングで訪れてね。そのせいか知らないけど、艦娘になってリンガに配属されてしばらくは軽い対人恐怖症になってたそうよ」

 「へぇ、今のあの人からは信じられないわね」

 

 彼女と付き添いの羽黒さんが横須賀に滞在している間過ごしてもらう部屋に案内したのは私なんだけど、その時受けた印象は気さくなお姉さんって感じだったかな。誰とでもすぐ仲良くなれそうとも思ったっけ。

 そんなあの人が元対人恐怖症とはとても……。

 

 「同性相手で、かつ慣れたら今みたいに気さくに接することができてたみたいだけど、相手が男性になると目を合わせるのも無理だったんだってさ」

 「それ、本当?だってあの人……」

 

 男に餓えた狼とか呼ばれるくらい男好きじゃなかった?あ~でも、私が聞いたのはあくまで噂だからなぁ。

 

 「なんでも、昔リンガに応援として送られて来た真っ赤な駆逐艦と眼帯した軽巡洋艦が持ち込んだエロ本とかウェディング雑誌を見てる内に「このままじゃ行き遅れる!」って考えたんだって。それで一念発起して対人恐怖症、いや男性恐怖症か。を克服して……って、どうしたの?満潮。そんな「あちゃ~……」みたいな顔して」

 「いや~だって……」

 

 エロ本諸々を持ち込んだ駆逐艦と軽巡洋艦に察しがついちゃったんだもん。

 真っ赤って言われるほど赤い駆逐艦なんて神風、しかも、リンガに行った経験がない今の神風じゃなくて当時の桜子さんで間違いないし、その桜子さんと一緒に行動してた眼帯した軽巡洋艦なんて天龍だった頃の辰見さんくらいしか思い浮かばないわ。

 霞さんに悟られないためにも話を逸らそう。

 

 「で?霞さん的にはどう?」

 「どう……って言われても、今の状況じゃ『餓狼』でも使わない限り逆転はない……って、行ってる傍から魚雷が直撃したわね」

 

 モニターに視線を戻してみると、確かに足柄さんに魚雷が直撃していた。審判の判定も大破判定だし、このままだと余程の事がない限り足柄さんの負けで終わるわね。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 足柄さんですか?

 ええ、確かに神奈川に住んでいらっしゃいます。

 主人が呉提督に引き継ぎを行っている最中なので最近は会えていませんが、引っ越ししたという報告もないので住所は変わってないはずですよ?

 

 今は何をしているのか?

 何をって……普通に子育てしてますよ?

 彼女の息子さんとうちの息子は同い年で同じ幼稚園に通っていますから保護者会でも会いますし、子育ての先輩としてもよくアドバイスを頂いて……え?彼女は結婚していたのか、ですか?

 

 なるほど、彼女はお子さんがいるのを親族にも話していなかったのですね……。

 

 申し訳ありません。

 彼女が親族にも話していないような事を私の口から言う事はできません。

 

 でもこれだけは。

 彼女は母親として、私以上にしっかりと仕事と子育てを両立しています。

 

 はい、尊敬しています。

 彼女は桜子さんと同じくらい、母親としても女としても私の大先輩ですから。

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡洋艦 大淀。現海軍元帥夫人へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 「姉さん!大丈夫ですか!?」

 「大丈夫な訳ないでしょ羽黒。身体も気分も最悪よ」

 

 試合が私の勝ちで終わり、哨戒艇に回収されて工廠に運ばれるなり、彼女の姉妹艦と思われる子が彼女に駆け寄った。

 なんだかスッキリしないなぁ。

 私と戦った彼女は顔面蒼白で、在り来たりな言い方をすれば病人みたいなんだもん。

 

 「え~っと、プリンツ・オイゲン……だったっけ?ごめんね。まともに相手できなくて」

 「い、いや、それは良いんですけど……」

 

 大丈夫?

 って続けようとした私の相手をする余裕も無さそうなほど真っ青な顔をした足柄さんは、白衣を着た人たちが持って来た担架のに乗せられてどこかへ連れて行かれてしまった。

 残されたのはハグロって呼ばれてた人と私だけだけど……何話したらいいんだろ。

 

 「姉さん、やっぱり体調が良くなかったんだ……。だから試合に出るのはやめてって言ったのに」

 「やっぱり?じゃあ、急に悪くなったわけじゃないの?」

 「ええ、昨日の晩くらいから食が細くなって、腹痛を訴えていました」

 「お医者さんには診てもらわなかったの?」

 「今朝診てもらったそうです。でも、診察結果が出る前に試合前の呼び出しがかかってしまって……」

 

 ほうほう、食欲の減退に腹痛ですか。

 普通に考えれば、食中毒か何らかの寄生虫に犯されたと言ったところでしょう。

 でも、だったら何故、診察結果を待つような事をしたんでしょう。

 極端な話、艦娘なら高速修復材を飲めば癌でも治るのに、足柄さんにはそれをした様子もないです。

 考えられるのは……。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 妊娠くらいしかない。

 本人に確かめるまではしませんでしたが、私はそう予想しました。

 

 それは羽黒さんから聞いた「結婚するつもりはない」という証言と、大淀さんから聞いた証言で今は確信に変わっています。

 

 だって、大淀さんが出産したのは次の年だったじゃないですか。青木さんが出版してた壁新聞でも、彼女の出産を取り扱っていたでしょ?

 

 その大淀さんの子供と同い年と言う事は、彼女とそう変わらない時期に足柄さんも妊娠していたということになります。

 

 そう考えれば、足柄さんほどの艦娘が一年近くも役割が終わっていたショートランド泊地に異動になっていたことにも説明がつきます。

 

 どうして子供の存在をひた隠しにするのかまではわからないですけど、きっと人には言えない事情があるんでしょうね。

 

 

 ~戦後回想録~

 元Admiral Hipper級重巡洋艦 3番艦 Prinz Eugenへのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 ええ、大正解よ。

 私はあの時妊娠してたわ。一ヶ月半くらいだったかしら。

 

 ショートランド泊地に異動になったのも出産のため。

 いやぁ、あの後病室に来た霞に一発でバレちゃってさ。事情を話したら元帥まで巻き込んで私の妊娠を隠蔽しようって事になって、とんとん拍子に私の異動が決まった……って、え?霞は私が何してるか知らないって言った?

 あ~、それはたぶん、私が秘密にしててって言ったからスットボケたんじゃないかしら。

 

 どうして隠蔽したのか?って、それ聞く?

 この子って、海軍のトップが隠蔽する事を決めるくらい訳ありなのよ?

 

 それでも聞きたい?

 はぁ……。アンタって物好きって言うか命知らずって言うか……。でもまあ、アンタの好奇心に素直なところは尊敬するわ。

 いや、調子にのらないで。八割方呆れてるんだから。

 

 本当にヤバい事情があるのか?

 無いわよ。

 私がこの子に変な負い目をさせたくなくて、ある程度分別がつく歳になるまでは親族にも秘密にしたかったからそうしただけ。

 ほら、やっぱり父親が居ないと色々と詮索されちゃうじゃない?リンガで出産したら、羽黒を通じてバレかねなかったしね……。

 

 あ、一応言っとくけど、父親が誰だかわからないとか離婚したとかじゃないからね?

 

 ええ、仏壇を見たらわかるでしょ?

 戦死したのよ。私がこの子を身篭もったのすら知らないままね。

 

 彼はリンガに配属されてた海兵で、艦娘を戦闘海域の近くまで運搬する高速艇の操舵手だった。

 ここまで言えばある程度察しがつくでしょ?

 

 そう、彼は私を庇って戦死した。

 シーレーンに迷い込んできた隻眼の軽巡棲姫の砲撃から私を庇うために、自分ごと高速艇を盾にして骨も残さず吹き飛んだわ。

 

 馬鹿な男よね。

 確かに直撃弾だったし、被弾すれば大破くらいしてたでしょうけど、彼が庇ってくれなくても私が死ぬ事はたぶんなかった。それなのに、彼ったら笑いながら砲弾に身を晒したのよ?

 ハッキリ言って、無駄死によ。

 

 本当にそう思ってるのか?

 んな訳ないでしょ!

 本当にそう思ってたらこの子を生んでない!私はね、あの人の死を無駄にしないためにこの子を生んだのよ!

 

 ごめん。少し感情的になっちゃった。

 でも、これで貴女も納得できたでしょ?

 私が貴女との試合で本気を出せなかったのは最悪のタイミングで最高の報せが届いたから。

 

 ええ、もしかしてと思って高速修復材を飲まずにいて正解だったわ。

 もし飲んでいたら、この子は生まれてなかったかもしれないんですもの。

 

 そうね。

 一年近く戦線を離れなくちゃいけなくなったけど、私はこの子を産めて良かったと思ってる。

 だってこの子は、私があの戦争で得た『唯一にして最高の戦果』なんだから。

 

 

 ~戦後回想録~

 元妙高型重巡洋艦三番艦 足柄へのインタビューより。

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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