艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百二十六話 アンタが私と同じで、少しだけ嬉しい

 

 

 

 

 

 私とヘンケンさんの関係?

 青木さんがどんな答えを期待してるのか知らないけど、私にとってヘンケンさんは円満さんの交際相手。ただそれだけよ。

 

 そりゃあ、それなりに仲良くはしてるわ。

 お店に行けばハンバーガーをタダで食べさせてくれるし、円満さんと違って公私ともに自分の面倒は自分で見れる人だからそれなりに尊敬もしてる。

 まあ、今だに円満さんの前でデレッデレになるところはどうにかした方が良いと思ってるけどね。

 

 あ~でも、一度だけあの人にドキッとしたことがあるわ。

 いや、ときめいた的なドキッ…‥もなくはなかったけど、どちらかと言うとヤバい的なドキッね。

 まあ、だいたい恵姉さんのせいだったんだけど、アレのせいで円満さんに変な誤解されちゃってさ。

 その誤解を解くのに苦労した記憶があるわ。

 

 何があったのか?

 う~ん、あんまり話したくないんだけど、さっきコイツの誤解を解いてくれたからどうしても聞きたいって言うなら話してあげる。

 あれは大会二日目の夜。

 結局中止にはなったけど、ヘンケンさんが円満さんをエスコートしに部屋に来た時よ。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 満潮へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 「なんだ。ミッチーしかいないのか」

 「いきなりご挨拶ね。喧嘩売ってるの?ってか、ミッチー言うな」

 

 澪姉さんが、嫌がる円満さんを戦艦連中が待ち受けるお風呂に連行してどれ位経ったっけ?と、部屋着のジャージ姿でテレビを見ながらボケ~っと考えてたらドアをノックする音が聞こえたから出てみれば、そこにはタキシード姿のヘンケン提督が薔薇の花束抱えて立っていた。

 この人、こんな格好して何しに来たのかしら。

 もしかして円満さんをデートに誘いに来た?でも、円満さんからは何も聞いてないんだけどなぁ。

 

 「とりあえず入る?」

 「ああ、そうさせてもらおう」

 

 真顔のまま、競歩みたいな足取りで入室したヘンケン提督を見ながら、私しか居ないのに招き入れたのは迂闊だったかな。と、少し後悔したけど、この人は円満さん一筋だから問題ないかと思い直してドアを閉めた。

 

 「もしかして、緊張してる?」

 「おいおい、何を言ってるんだミッチー。俺が金鳥?蚊取り線香になった覚えはないぞ」

 

 ヘンケン提督はHAHAHAHAHAHAって、如何にも外人ですみたいに笑いながら座ったけど、これツッコまなきゃダメなの?

 たぶんこの人、ボケようとしたんじゃなくて素で言ってるはずなのよね。

 

 「字が違う。って言うか、外国人のクセによく金鳥から蚊取り線香なんて連想できたわね」

 

 ダメだった。

 ツッコんだら負けだと思ったから我慢しようとしたのに、真顔でHAHAHAHAHAHAと笑い続けてるこの人が気持ち悪すぎて思わずツッコんじゃった。

 

 「Grandmaが愛用してたって、それは良い。それより、エマはどこへ?」

 

 お、少し緊張が和らいだのか、真顔からキリッとした顔に変わったヘンケン提督が部屋をキョロキョロし始めた。

 円満さんが気になるのはわかるけど、一応は私のプライベート空間でもあるんだからジロジロと観察しないでほしいなぁ。

 仕方ない、円満さんの行方を教えて観察するのを止めるとしましょう。

 

 「円満さんならお風呂よ」

 「風呂?だが音が聞こえないぞ?」

 「あ~、ここじゃなくて艦娘用の浴場の方よ」

 

 コイツ……いつの間にかこの部屋の間取りを調べてやがる。だって音が云々言いながら、浴室が有る方へ視線を向けたもの。

 

 「そうか。なら俺も……」

 「どこに行く気よ」

 「どこって、風呂だが?」

 「だが?じゃない!アンタ、ナチョラルにお風呂を覗こうとするのやめなさいよ!」

 

 最近わかった事がある。

 それは、ヘンケン提督は緊張し過ぎるとポンコツになるってこと。

 今が正にそうね。

 この人、薔薇の花束抱えたまま浴場に突撃する気満々だわ。もし行ったら円満さんに嫌われるだけでなく、一緒に入浴してるはずの戦艦連中から袋叩きにされる危険があるって言うのに。

 

 「ミッチー、Intonationがおかしいぞ。正しくはNatureだ。はい、Once again」

 「んなこたぁどうでもいいのよ!風呂を覗くなって言ってるのがわっかんないの!?」

 

 なぁにがワンスアゲインだ!

 たぶんもう一度的な意味なんでしょうけど、私って円満さんと違って英語話せないからね?だから日本語で言え!

 

 「惚れた女の裸を見たがって何が悪い!ミッチーだって好きになった女性の裸は見たいだろう!?」

 「ちょい待ち。好きになった女性?アンタ、私の事同性愛者だと思ってたの!?」

 「ん?違うのか?円満と同棲してるからてっきり……」

 「よし喧嘩だ。だいたい、それ言ったら円満さんはもちろん艦娘も全員レズビアンって事になるでしょ!」

 

 いや、「目から鱗が落ちるとはこのことだ」とか言いながら感心してるけど気付かなかったの?

 それとも同室イコール同棲とか思ってた?

 まあ、どっちにしてもバカなのは確かね。バーカ!

 

 「昔から思ってたけどぉ。提督になる人ってどこかしらおかしいわよねぇ」

 「同感ね。元帥さんも色々おかしいし……ん?」

 「あのオジサンはおかしいどころか狂ってるからぁ。あらぁ?満潮ちゃんどうかしたぁ?お姉ちゃんの顔に何かついてるぅ?」

 「いや、何もついてないけど……」

 

 声がした方を見上げてみると、士官服姿の恵姉さんが相も変わらず「あらあら」言いながら不思議そうに私を見ていた。

 いつの間に来て私の背後を取ったの?

 ドアを開け閉めした音はもちろん聞こえなかったし、気配も全く感じなかったわよ?

 

 「満潮ちゃんは知らないだろうけどぉ。私たち前八駆はあのオジサン直属だったのもあってぇ、全員無音歩行術の心得があるのぉ」

 「へぇ、初めて知っ……」

 「嘘だけどねぇ♪」

 「嘘かよ!ニコニコしながら平然と嘘つくのやめてくれない!?」

 

 マジで!

 恵姉さんの嘘って質が悪いのよ。

 今回はアッサリ嘘だと白状したけど、過去何度、恵姉さんがついた嘘を信じ込まされたか数え上げたら切りが無いわ。

 

 「まぁまぁ落ち着いてテレビでも見ましょうよぉ。円満ちゃんが戻ってくるまで満潮ちゃんもヘンケン提督も暇でしょぉ?」

 「まあそうだけど……。って、なんで自分の膝をポンポンしてるの?」

 「なんでって……。テレビを見る時は、12歳以下の子供は誰かの膝の上で見なきゃダメって昔教えたでしょぉ?」

 「あの~、私もう14なんですけど?」

 

 いや、「そうだったかしらぁ?」とか言ってるけど、円満さんや澪姉さんと一緒に誕生日もちゃんとお祝いしてくれたじゃない。

 

 「じゃあ、その法律は15歳以下に改正されました」

 「いつ?」

 「今!だから早くおいで?」

 「おいで?じゃないでしょ。それに今改正されたって事は、もしかしてその法律も嘘だったんじゃ……」

 

 あ、わざとらしく顔ごと目を逸らしやがった。

 つまり私が信じて従っていた法律は真っ赤な嘘で、しかも私はその嘘の法律を朝潮にも吹き込んでしまったってこと?

 いや、朝潮に出鱈目を吹き込んでしまったことは不可抗力だから仕方ない。あの子が「満潮さんに教えてもらいました」とか言って誰かの膝の上でテレビを見る光景が容易に想像できるけど私は悪くない。

 だって私は騙されてたんだもの。

 「マズいわねぇ……」とか言ってる恵姉さんだけでなく、澪姉さんとお姉ちゃんまで私を騙してたんだもの。

 

 「裏切ったわね……。姉さんたちは私の気持ちを裏切ったんだ!」

 「ち、違うのよぉ?私たちはただ、満潮ちゃんと仲良くしたくて……」

 「でも嘘ついたんでしょ!?アレが嘘だったてことは、恵姉さんが『嘘ついたら泣いて謝るまで憲兵さんにくすぐられるのよぉ』って教えてくれたのも嘘なんじゃないの!?」

 「あ、あらあら……信じちゃってたのねぇ」

 

 やっぱり嘘だったんだ。

 正直、ここまでショック受けたのは初めてだわ。

 身体は小刻みに震えてるし焦点も合わない。自分が立っているのかどうかさえ疑わしい。

 そして何より、今にも泣き出しそうなほど顔が強張ってる。

 

 「うぞづぎぃ……姉ざんのうぞづぎぃ!」

 「ま、待って満潮ちゃん!別に満潮ちゃんを騙そうとしたわけじゃないのよ!?」

 「でも騙したじゃない!私、ちゃんと守ってたのよ!?恵姉さんが『満潮になった子は円満ちゃんのお世話するって法律で決まってるのよぉ』って言うからずっとあのダメ女の世話をしてきたし、『駆逐艦満潮は特殊でねぇ。退役するまで恋愛禁止なのぉ』って言われたから恋もせずに今までやってきたのに!」

 

 それも嘘だった。

 私がバカみたいに信じてたそれらも、ヘンケン提督の「うわぁ……」って言いたそうに呆れてる顔を見れば大嘘だったんだってわかる。

 その顔が、それを疑いもせずに信じてた自分が、どうしようもないほどの馬鹿だって嫌でも思い知らせる。

 

 「そうね……。私は満潮ちゃんに酷いことをしたわぁ。それに関しては言い訳しない。好きなだけ、私を罵倒して良いわぁ」

 

 そう言って恵姉さんは、堪えきれずに涙腺が決壊した私の目の前に正座した。

 そんな神妙な態度をとられたら、頭に浮かんでた罵詈雑言が霧散してしまった。

 今は恵姉さんを責め立てるより、円満さんやお姉ちゃん、それに澪姉さんが問題にならないほど豊満な恵姉さんの胸に顔を埋めて甘えたいと思ってるわ。って言うかそうした。

 そうしたら、恵姉さんは私の頭を撫でながら「ごめんね」って謝ってくれたわ。

 

 「微笑ましい。いや、この場合は羨ましいと言うべきか」

 

 ヘンケン提督が急にそんな事を言うもんだから、私は恵姉さんの谷間に顔を埋めたまま視線をヘンケン提督に向けてしまった。

 普通に考えれば、ヘンケン提督が羨ましがってるのは私の状況よね。つまり、ヘンケン提督も恵姉さんの、もっと言えば顔が埋もれるほどの胸の谷間に顔を埋めたいって事よね?

 

 「円満さんに言いつけてやる」

 「そうねぇ。今のは円満ちゃんに対する裏切りだわぁ」

 

 ヘンケン提督は「どうしてそうなる!?」って言いながら驚いてるけど恵姉さんの言う通りでしょ。

 だって、円満さんにはオッパイなんて無いの。

 贔屓目に見て貧乳空母の会、通称『フラット5』並、贔屓目無しで見たら海防艦並よ?

 それなのに、オッパイの谷間に顔を埋めたがるっことは完全に裏切りだわ。

 

 「待ってくれ!俺は君達の姉妹仲が羨ましいと言っただけで、けっして胸の谷間に顔を埋めたいと思ったわけじゃない!」

 「本当かしらぁ?じゃあ、私と満潮ちゃんならどっちが良いぃ?」

 「当然ミッチーだ!エマ並に無駄な脂肪が無いミッチーは俺の理想に限りなく近い!エマより胸が有るのが残念だがな!」

 

 うわっ!キんモ!

 ヘンケン提督が拳を握ってした熱弁を要約すると「俺はロリコンだ!」って言ってるようなものでしょ?

 だって、贔屓目に見て中学生くらいの私と円満さんは、胸と身長以外は近い体型をしてるんだもの。

 ちなみに私の身長は132位で、円満さんはそれよりちょっと高くて142位ね。

 バストサイズはトップが1.5cm位私の方が大きいわ。

 

 「それなら証拠を見せてもらいましょうかぁ」

 「しょ、証拠とは具体的に何を……。おい待てMs.メグミ。なぜ上着を脱ぐ?」

 「証拠を見せてもらうって言ったでしょぉ?だからぁ、私の胸を前にして理性が保てたら信じてあげるぅ♪」

 

 あげるぅ♪とか言ってるクセに、なんで人でも殺しそうなほど邪悪な笑みを浮かべてんの?

 いや、だいたいわかるのよ?

 恵姉さんの巨乳と言うほどではないけど形が良く、しかも手の平からはみ出す程度に大きいオッパイを、女性経験の少ないヘンケン提督の目の前にぶら下げて理性を保てるなら一応は無乳が好きなんだと信じられる。

 でもきっと、それはただの口実。

 恵姉さんはオッパイを目前にして狼狽えるヘンケン提督を見て楽しむつもりなんだわ。

 あれ?でも上着を脱いで黒い布地に『ヒアソビシーヤ派』って書かれたTシャツ一枚になった恵姉さんのオッパイに妙なポッチが二つ有るような……。

 

 「め、恵姉さん。一応確認するんだけど……」

 「うふふ♪ええ、お察しの通りよぉ♪私は今ノーブラ♪」

 

 やっぱりあのポッチは乳首か!

 恵姉さんが下着は着けない派だって事は知ってたけど、まさかノーブラオッパイを恋人でもない男性の顔に突きつけるような人とは思ってなかった。

 ヘンケン提督もさすがに予想外だったのか、正座したまま顔を真っ赤にして「こ、これがオッパイ……」とか言って凝視してるわ。

 

 「あらあら、かしこまっちゃって可愛いわねぇ。どうして正座なんかしてるのかなぁ?」

 「い、いや、日本で畳に座るときは正座だと昔Grandmaに……」

 「それ、嘘よねぇ?本当は、両腿で力一杯押さえ付けないと仰角が大変な事になっちゃうからでしょぉ?」

 

 両腿で力一杯押さえ付けないと仰角が大変な事になるモノって何よ。

 ヘンケン提督の視線は恵姉さんのオッパイに固定しつつも、お尻をモジモジさせながら膝の上で両拳をギューッと握ってる姿を見ても、私子供だからわかんな~い。

 

 「そんなに我慢しなくても良いのよぉ?顔を埋めても良いしぃ、揉んでも吸い付いても私は何も言わないわぁ」

 

 私は男じゃないからヘンケン提督の今の気持ちはわからない。

 でも、恵姉さんの悪魔のような誘惑で理性が揺さぶられたのはわかったわ。

 だって、ヘンケン提督の両拳が一瞬緩んで膝から浮いてたもん。

 

 「い、いくら誘惑しようと無駄だ。確かに君のオッパイは魅了的だが俺はエマに操を立てている」

 「良い答えだわぁ。その意志の固さに免じて、主砲が暴発寸前なのは見逃してあ・げ・るぅ♪」

 

 暴発寸前の主砲って何?

 まさかとは思うけど、男性特有の下半身の突起物じゃないよね?アレが暴発するとどうなるんだろ。

 知識として識ってはいるけど想像したくないなぁ……。

 

 「満潮ちゃん、ちょっとこっちに来てくれるぅ?」

 「嫌な予感がするから嫌だ」

 「良いから良いから、ヘンケンさんが円満ちゃんを見た途端にガー!ってならなようにするために必要なのよぉ」

 

 それはそもそも、恵姉さんがノーブラオッパイでヘンケン提督が「ハアハア」言って目がうつろになるくらい誘惑したのが悪いのでは?

 と、抗議しようとした私を、恵姉さんは無理矢理ヘンケン提督の目の前に立たせて自分は私の後ろに回り込んだ。

 なんか、私に注がれるヘンケン提督のうつろな視線が怖いんだけど……。

 

 「だ、大丈夫?」

 

 じゃないのはわかってるけど取りあえず……ね。

 なんか、私を目の前にした途端さっきより鼻息が荒くなって目も血走り始めてるんですけど……。

 

 「恵姉さん、これさっきよりヤバくない?」

 「ヤバいわねぇ。ロリコンなのはホントだったみたぁい」

 

 恵姉さん、貴女は相変わらず楽しそうだけど、私は今かつてないほど、時雨に犯されかけた時以上の身の危険を感じています。特に胸部に!

 だから、私を拘束している両肩の手を退けてくれない!?

 

 「俺はエマ一筋。(I am Emma muscle.)俺はエマ一筋。(I am Emma muscle.)このオッパイはエマか?(Is this tits emma?)そうだ。きっとエマだ。(That's it. It is surely Emma.)だったら吸い付いても問題ない!(Then you can suck on it!)

 「なんかヤバい!英語だから何言ってるかサッパリわかんないけどヤバい!恵姉さん離して!マジで離して!」

 

 そう言っても恵姉さんは私を離してくれない。

 それどころか右腕を私の首に回して拘束し直して、左手をワキワキさせながら私の胸元に近づけてる。

 本当に何がしたいのよこの人。

 もしかして、私をヘンケン提督に襲わせてその場面を円満さんに見せる気?いや、そう考えれば辻褄が合う気がする。実際、円満さんがお風呂に行ってそろそろ一時間だからいつ戻って来てもおかしくないもの。

 

 「ト・ド・メ♪」

 「ちょっ……!」

 

 ここまで悪意に満ちた無邪気があるのだろうか。

 と、私に考えさせるような無邪気さで、恵姉さんが私のジャージのジッパーを一気に下げた。

 その瞬間、うつろだったヘンケン提督の両目がカッとう見開かれ、私は「後は寝るだけだから」と下着を着けてなかった羞恥と後悔、さらにヘンケン提督が発した物理的な力すら感じる視線を受けて「ヒィッ……!」とか言っちゃった。

 

 「待ってヘンケン提督!私は円満さんじゃないから!もうちょっとしたら円満さんが帰ってくるからそれまで堪えて!」

 

 そう訴えかけながら、膝立ちになって両腕をゆっくりと持ち上げたヘンケン提督から少しでも逃れられるようにと、私は瞼を硬く閉ざした。

 早く戻って来てよ円満さん。今のタイミングで円満さんが戻って来たらそれはそれでマズい気はするけど、私が襲われるよりはずっと良い。今のヘンケン提督が円満さんを見たら、誰が邪魔しようと強引に円満さんを押し倒すかもしれないけどそれなら問題ない。

 だって二人は恋人同士だもの。

 この人が、恵姉さんの奸計で無理矢理興奮させられた結果だとしてもそれなら何の問題もない。

 だって私は逃げられるし!

 

 「へぇ、そこまでするとは思わなかったわぁ」

 「君は俺を舐めすぎだ。俺はエマを傷つけないためなら死ぬのも厭わない」

 「そのようですね。正直、感服しました」

 

 ヘンケン提督が正気に戻ったみたいだけど何が起きてる?と思って、恐る恐る瞼を開いてみると、そこには若干青ざめてはいるものの、いつものヘンケン提督が私を慈しむように見つめていた。

 男性にそんな視線を向けられたのが初めてなのもあるんでしょうけど、迂闊にもその表情に少しだけドキッとしたわ。

 何故か組んだ両手を股間に押し当てた状態なのが気にはなるけど……。

 

 「すまないミッチー、君に怖い想いをさせてしまった」

 「ミッチー言うな。それより大丈夫?顔がどんどん青くなってるわよ?」

 「ああ、問題ない。少しばかり、俺のJr.にお仕置きしただけだ」

 「ジュニア?お仕置き?いったい何の……。まさか貴方!」

 

 以前誰かに、男性は股間の突起物を息子などと呼ぶことがあると聞いた事がある。

 この人はきっと、正気に戻るために組んだ両手を股間に打ちつけたんだわ。

 なんて危険な事を……。

 男の人ってそこを強打すると凄く痛いんでしょ?何年か前に、元帥さんがそこをお姉ちゃんに殴られて倒れたとこを見たこと有るから間違いないわ。

 

 「つ、潰れ……た?」

 「いや、なんとか潰れるのだけは免れたが……くっ!」

 「痛いの!?ちょ、どうしようこれ。さすったら良いの?撫でたら楽になる?」

 

 自分でもとんでもないことを言ってる自覚はある。

 でも余程痛いのか、冷や汗を流しながら四つん這いになったヘンケン提督を見たら、恵姉さんの手を振り払って思わずそう言いながら駆けよちゃった。

 

 「お尻を叩いてあげたら良いらしいわよぉ?」

 「こんな感じ?」

 「もっと強い方が良いかしらぁ。スパーン!って音がするくらい」

 

 ホントに?

 ヘンケン提督は叩いた瞬間に「尾てい……フォウ!」とか言ったわよ?それに今のこの状況、どう控え目に言っても、私がヘンケン提督にスパンキングしてるようにしか見えないんじゃないかしら。

 

 「ただいま~。もう散々な目に……」

 

 やめとけば良かった。

 叩く度に「フォウ!」とか「Oh yes!」とか言うヘンケン提督のリアクションが面白くなってきたタイミングで円満さんが戻って来た。戻って来てしまった。

 

 「え、円満さん、これはその……」

 

 なんて言い訳しよう。

 円満さんの「え?何がどうなってそうなったの?」とでも言いたそうな顔を見れば混乱してるのは痛いほどわかる。

 って言うか混乱するよね!

 自分の恋人が同居してる駆逐艦にスパンキングされてるんだもん!もし立場が逆だったら私だってそうなるし!

 

 「そっか、満潮もそうだったのね」

 「そうだったって……何が?」

 

 いや、円満さんの何かを諦めたような目を見れば想像はつく。きっと、私もヘンケン提督の事が好きだと勘違いしたんだわ。

 うん、それしか考えられない。

 だってかなり特殊なプレイではあるけど、人のお尻をスパンキングするなんて、好意があるとか親しくないと有り得ないもんね。たぶん。

 

 「良いの。言わなくてもわかってるから」

 「ち、違うよ?私は別にヘンケン提督の事は好きでもなんでも……」

 「それはわかってるわ。でも我慢できなかったんでしょ?恵やヘンケンと一緒に猥談してたら我慢できなくなったのよね?私にも経験があるからわかるわ」

 

 は?猥談?しかも経験がある?

 円満さんは何を言ってるの?あまりにもショッキングな場面に遭遇しちゃったせいで頭がバグっちゃったのかしら。

 

 「ヘンケン……。貴方もそっちの気があったのね。だったら私も練習しとかなきゃ」

 「待ってくれエマ。君はたぶん誤解をしている」

 「恥ずかしがる気持ちはわかるけど誤魔化さないで。私は貴方が叩かれて悦ぶ変態でも受け容れるつもりだから」

 

 その理屈だと、私は叩いて悦ぶ変態になっちゃわない?

 冗談じゃないわよ!

 私はヘンケン提督のお腹にめり込んじゃったかもしれない突起物を叩き出してあげようとしただけよ!?

 言わばこれは治療行為。

 けっして円満さんが言ってるような変態行為じゃないわ!

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 って感じの説明はしたんだけど、円満さんがした私のドS認定とヘンケン提督のドM認定はしばらく解けなかったな。

 「アンタが私と同じで、少しだけ嬉しい」とまで言われちゃったもの。

 

 いや?円満さんの部屋を掃除してたら縄とか鞭とかボンテージとか出て来たから、ヘンケン提督はドMで合ってたのかしら。

 

 え?円満さんの過去の経験が気になる?

 あ~……さすがにそれは教えられないわ。

 私も気になって知ってそうだった辰見さんや桜子さんに聞いてみたんだけど、「どうしても知りたいなら実際の現場を見た叢雲に聞け」って言われたのね?

 

 で、どうしても知りたかったから聞いてみたのよ。

 そしたら、その時の出来事を嬉々として事細かく説明してくれたわ。

 円満さんの、黒歴史をね。

 

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 満潮へのインタビューより。

 

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  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
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