艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百二十七話 駆逐艦でアレなら、戦艦はいったいどうなる?

 

 

 

 あの子は間違いなく、私がお腹を痛めて産んだ私の子供です。

 それは産んだ私はもちろん、主人とArk、それに出産に立ち会った助産師の証言もありますので疑いようのない事実です。

 

 でも私には、私の胸に吸い付くあの子を抱いても自分の子供という実感がわかなかったの。

 

 最初は、自分の出自を思い出してそう思い込んでるだけだと自分を説得したわ。

 でも違う。

 この子は血縁上、間違いなく私と主人の間にできた子だけど違う。そんな想いが、あの子の成長と比例するように大きくなっていきました。

 この子の器は私の子供と言って良い。

 だけど中身が違う。魂とも呼ぶべきモノは私と縁も所縁もない。そう、私は考えるようになっていったんです。

 

 それを確信したのは、あの子が『Jervis』の艤装を前にして言った言葉を聞いたときね。

 

 その時に初めて、私は私の子が殺された事を知ったわ。

 私と主人の愛の結晶は、転生者と名乗る身勝手な者達の尻拭いのために、生まれる前に殺されたんだって。

 

 笑えるでしょう?

 私が違和感を感じながらも、それでも娘として愛そうと思い、そうしたあの子は娘の仇だったんですから。

 

 あの子は娘の身体を我が物顔で使う、忌むべき失われた過去の呪い。

 あの子が語るように、『穴』を塞ぐためにあの子の命が必要だと言うのなら私がこの手で押し込んでやる。

 そう、考えた時期もあったわ。

 

 でもあの時、大和があの闇の中に身を投じた時に、安心してる私もいたの。

 

 結局私は、あの子を娘の仇だと恨みながら、娘として愛してもいたんでしょうね。

 

 

 ~戦後回想録~

 元Queen Elizabeth級2番艦 Warspiteへのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 ママは私に厳しい。

 そう思い込んでる訳じゃなくて、ArkやNelson、他のメイドたちがしてた噂も聞いたから、世間一般から見ても異常なほど厳しいのは間違いない。

 

 「でも、私はママが好き」

 

 他人からしたら異常でも、虐待されていると陰口を叩かれても私はママが好き。

 私に戦う理由が有るとすれば、それはママに褒めてもらいたいから。ママに頭を撫でてほしいから。

 私の事を嫌ってるのに、それでも愛そうとしてくれてるママと一緒にいたいからよ。

 

 『どうしました?終わりですか?』

 

 Japanに向かう輸送機の中でママは私に、今も中破して膝を突いている私を前にしても油断せず、500mほど先で砲を構えているユッキーと戦えと言った。

 その意味が、最初はわからなかった。何の意味があるのかわからなかった。

 だって、私に砲弾は当たらない。魚雷も、航空爆撃も、私に届く前に誤爆するか不発に終わるかのどちらか。

 艤装を背負った私には、どんな攻撃も届かない……はずだった。

 

 「そっかぁ。ママはこれが見たかったんだ……」

 『何か、言いましたか?』

 「ううん、何でもないよ」

 

 なのに、ママやArkでさえ海の上では私に傷一つつけられないのに、ユッキーはいとも簡単に私を傷つけた。

 いつものように、どうせ当たらないからと真っ直ぐ突っ込んだ私を滅多打ちにした。

 『Lucky Jervis』と呼ばれるほど悪運に恵まれた私に当てて見せた。それはつまり、ユッキーも私の悪運並の幸運を持っていると言うこと。

 

 「あはは♪たぁ~のしぃなぁ♪」

 『……打ち所が悪かったようですね。すぐに哨戒艇に回収依頼を……』

 「それはダァメ。私はもっと傷つかなきゃダメなの。もっと、もっともっともっともっと!じゃないとママが喜んでくれない!だから、終わらせないよ!」

 

 見ててねママ。私、頑張るから。

 ママに喜んでもらうために、私は全部出して全力でユッキーに負けるから!

 

 「Now, everyone! I will come in!(さあ、みんな!出番よ!)Lucky Jervis 抜錨するわ!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 気持ち悪かった。

 が、その時の素直な感想です。

 

 回避もせずに真っ直ぐ突っ込んで来た時点では気持ち悪いとまでは感じなかったんですが、その後の、中破してからのジャービスは明らかにおかしかったです。

 

 はい、本当に打ち所が悪くておかしくなかったんじゃないかと心配しましたよ。

 だってあの子、全力で()()()()来たんですよ?

 

 わざと外した砲弾にまで当たりに行ったときは開いた口が塞がりませんでした。

 

 でも、本当に気持ち悪かったのはその後、私の勝ちがアナウンスされた後です。

 青木さんも見てたでしょう?

 あ、観客席のモニターは試合後すぐに切られたんですか。なら良かったです。アレは、民間人に見せる訳にはいきませんからね。

 アナウンス直後はニコニコしながら誰かと無線で話していたあの子が、急に真顔になったと思ったら深海棲艦のような姿になって戦闘を再開したんです。

 

 はい、私とジャービスの試合は試合後からが本番でした。満潮さんと叢雲さんが救援に来てくれなかったらと思うと、今でもゾッとする事があるほどですよ。

 

 

 ~戦後回想録~

 元陽炎型駆逐艦八番艦 雪風へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 異様な雰囲気。とでも言えば良いのかしら。

 雪風とジャービスの試合が始まってからというもの、和やかに試合を見ているウォースパイトを中心にして押し潰すような圧力が観覧席内を支配し始めた。

 私を始め、辰見さんや澪、ヘンケンや各提督とその秘書艦、更に各国の艦娘と言った歴戦の強者たちに冷や汗を流させるほどのね。

 この中で涼しい顔をしてるのは圧力を放ってるウォースパイト本人と、その隣でタバコの代わりに禁煙パイポを咥えてる先生くらいよ。

 

 「ご機嫌が優れないようですが、ご息女の相手に雪風では不足でしたか?」

 「いえ、そんな事はありませんわ。期待通り過ぎて申し訳なく思っているくらいです」

 「ならば安心しました。雪風で相手にならないのであれば、後は満潮か大淀を宛がうくらいしかありませんからな」

 

 先生は随分とジャービスを買ってるわね。

 でも、今ならそれもわかる。

 試合開始直後の無防備な前進はともかく、中破してからジャービスの動きが明らかに変わった。

 相変わらず被弾しに行ってるのは理解できないけど、視界内の攻撃はもちろん、視界外の攻撃にまで反応しているアレはほぼ間違いなく艦体指揮。しかも、都合五人目の使い手。

 こんなにも私と同じ事を考える艦娘がいたなんて、嬉しいと思う反面少し悔しいわね。

 

 「Ms.大淀はわかりますが、ミチシオとはMs.紫印の秘書艦でしたわよね?」

 「ええ、優秀な子ですよ。駆逐艦という括りでなら間違いなく日本でNo.1です」

 「まあ♪それは素晴らしいですわ。是非一度、私の娘と戦ってもらいたいです」

 

 さっすが先生。よくわかってるじゃない。

 今この場にあの子が居れば、間違いなく「い、意味分かんない!」とか言って照れたでしょうね。

 残念ながら、今日は霞と一緒に出店巡りをしてるから居ないけど。

 

 「模擬弾ではなく実弾で。ですか?」

 「ええ、もちろん」

 

 ウォースパイトが先生の質問に答えた途端、観覧席を満たしていた圧力が強くなった。いや、増えたと言った方が正しいのかしら。

 その新たな発生源は先生。

 表情や態度は変わってないのに、たぶんこの場にいる全ての人が息苦しさすら感じるほどの物理的な圧力を感じているわ。実際、何人か倒れたし。

 

 「やはり、貴方にも理解してはもらえませんか?」

 「一人の父親としては理解できません」

 「そうですか。貴方からは、私と同じようなニオイがしたので理解してもらえると思ったのですが……残念です」

 「早合点しないで頂きたい。確かに父親としては理解できませんが、似たような想いを抱える者同士としてなら理解できます」

 

 いや、私にはサッパリ理解できない

 そもそも、先生とウォースパイトが話している内容からして理解できていない。

 当然、二人が殺気立ってる理由もね。

 

 「では、どこが貴方の逆鱗に触れたのですか?」

 「貴女なら、言わずとも理解できるのではないですか?」

 

 ウォースパイトは「なるほど、そういう事ですか」なんて言って神妙な顔して納得してるけど、私は変わらず理解できません。

 何なの?この二人。

 実際に会ったのはほんの数日前のはずなのに、桜子さん、下手したら大淀並に想いを共有している気がするわ。

 いや、それ以上かも。

 この二人は妙に似ている。あの二人とは違うもっと根本的な部分で通じ合ってる気がする。

 

 「貴女は、御息女がこの試合中に()()()へ至れるとお考えで?」

 「ええ、最低でもそれ位はしてくれないと困ります。もしあの子が()()()()()へ至れたなら、私はあの子の気が済むまで甘やかしてあげるつもりです」

 「そうですか、良くわかりました。紫印少将、満潮と叢雲はどこに居る?」

 「み、満潮と叢雲ですか?満潮なら霞と一緒に居るはずですが……」

 

 と言いながら、叢雲の居場所を知ってそうな辰見さんに視線を送ると、白状にも小首を傾げて両手の平を肩より上に挙げて「さあ?」というジェスチャーで答えてくれた。

 先生が私の事を『円満』ではなく『紫印少将』って呼ぶって事はマジモードなのが確定だから、下手な答えは返せないのに困ったなぁ……。

 こうなったら、どうして先生が二人の居場所を聞いてきたのかを予想して、一番求めてそうな答えを返すしかないわね。

 ヒントはいくつあるわ。

 まず、第一のヒントはジャービスの戦い方。

 霞から聞いた限りでしか識らないけど、あの子は超がつくほどのマザコンで、呉にいる間は何かある度にウォースパイトに報告したり判断を求めたりしてたそうよ。

 霞の分析では、あの子が戦う理由はウォースパイトに褒められる事らしい。

 それを踏まえて、今のわざと被弾する戦い方をしている事を考えると、ジャービスは被弾、もっと言うと傷つけば傷つくほどウォースパイトに褒めてもらえると考えている可能性がある。

 

 そして第二のヒント。

 それは、先生が言った『あの先』というセリフと、ウォースパイトが言った『その更に先』というセリフ。

 今現在、ジャービスが使っている艦体指揮に先が有るとするなら、それは精神崩壊状態と通常の精神状態を行き来できることで初めて実現する『深海化』と、艤装のコアに宿る船霊にアクセスする事で可能となる『姫堕ち』。先生が言ったのが前者で、ウォースパイトが言ったのが後者だと思う。

 

 以上二つのヒントを踏まえて第三のヒント。

 先生が私に、単独で姫級とでもやり合える満潮と叢雲の居場所を聞いてきたことを考えれば自ずと答えは見えてくる。

 

 「元帥閣下。試合終了と同時に中継を終了。並びに満潮、叢雲両名にジャービスの無力化、及び拘束を命じたのでよろしいですか?」

 「話が早くて助かる。ああそうだ、必要とあらば満潮の全力戦闘も私が許可する」

 「了解しました。では辰見大佐、叢雲に出撃準備をさせなさい。それに伴い、兵装ユニットの無制限使用を許可します」

 

 辰見さんの「了解しました」という返答を聴いた私はポケットからスマホを取りだして、霞と一緒に出店回りをしているはずの満潮に連絡を取った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 円満さんから連絡が来たのはたしか、雪風とジャービスの試合が終わった直後くらいだったかしら。

 

 ええ、命令を受けたときは訳がわかんなかったわ。

 だってそれまで、霞さんとチョコバナナを囓りつつ雪風の勝利のアナウンスを聞きながら「変な試合だったわね」なんて言ってたのに「ジャービスの無力化、及び拘束」なんて命令されたんだもん。しかも全力戦闘の許可付き。

 

 それからは、霞さんに代わってくれって言われたからスマホを霞さんに預けて大慌てで工廠に走ったわ。

 私が工廠についたくらいにはもう、叢雲さんは艤装を装備し終わってたわね。

 

 ええ、三日目の第二試合の開始が遅れたのはそのせいよ。

 だって本気のジャービス、いえ進化したジャービスは、全力の私と叢雲さんの二人がかりでも無力化しきれないくらい強かったんだもの。

 

 たぶん、ジャービスが万全の状態で、かつ実戦だったら私たちの方が負けてたわね。

 それくらい、ヤバい相手だったわ。

 

 私は直接聞けなかったんだけど、円満さんが工廠に連れ帰られたジャービスを見て「駆逐艦でアレなら、戦艦はいったいどうなる?」ってブツブツ言ってたそうよ。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 満潮へのインタビューより。

 

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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