呉に居た間のジャービス?
妙に雪風に懐いてる感はあったけど普通だったわよ?
ええ、大会のために横須賀に移動するまで、ジャービスは雪風にベッタリだった。付きまとってたって言っても良いほどにね。
幸運艦同士だから引かれ合ったのか?
いや、それはどうだろう……。
確かにジャービスには、雪風と似たような逸話が多いわ。だから戦闘時だけ見れば、もしかしたらジャービスの方が幸運だったかもしれないけど……私生活がねぇ。
どういうことかって?
いや、どうもこうも、あの子って陸に居るときはluckyジャービスって異名が嘘みたいに不運だったのよ。アレじゃあむしろunluckyジャービスだわ。
鳥の糞が頭に直撃するのなんて普通だし、注文した定食が売り切れなんて毎日だったでしょ?
それに、自動販売機があるじゃない?私も実際にその場面を見たことがあるんだけど、例えば私がコーラを買うとするでしょ?そしたらジャービスも「私もそれにする!」って言うんだけど、私が買った途端に売り切れランプが点くのよ。
マジで!
噂には聞いてたんだけど、実際にその場面を見た時は絶句したわ。
あれ?でもそれはそれで幸運と言えなくもないのかな?
いや、それと言うのも、売り切れランプが点灯するや否や、ジャービスがわかりやすいくらい落ち込むからさ、私だけじゃなくその場面に遭遇した人がジュースを譲るのよ。
ええ、当然お金なんて取らないわ。
だって貰えないでしょ。
売り切れランプが点灯した途端に「またか……」とか言って絶望するのよ?
そんな子からお金を取るなんて私にはできなかった。もちろん、その現場に遭遇した他の子達もね。
それにマザコンだったっけ。
ああごめんなさい。マザコンって言うとなんだか変態っぽくなるわね。
でもそう言いたくなるくらい、あの子はウォースパイトさんが大好きだったの。公言もしてたしね。
他の子達は「仲の良い親子だね~」とか言ってたんだけど、私には不思議とそうは見えなかった。
なんて言うか、私にはお互いが演技してるように見えたのよ。
ええ、ウォースパイトさんは母親を、ジャービスは愛娘の演技をしてるようにね。
~戦後回想録~
元駆逐艦 霞へのインタビューより。
ーーーーーーーーーー
「マ、ママ。今、なんて言ったの?」
『貴女には失望した。と言ったのよジャービス』
「どう…して?だって私……」
ちゃんとユッキーに負けたよ?ついさっき、ユッキーの勝ちだってannounceが流れたでしょ?
それなのに、どうしてそんな酷い事を言うの?
ママは……私が負けるところが見たかったんじゃないの?
『貴女が死力尽くして戦った結果、それでも敗北したなら私もこんなことは言いませんでした。でも貴女はわざと負けたわね?そんな失礼なことをするような子は私の子ではありません』
ママが何を言ってるのかわからない。でも、嫌われたのだけはわかる。
だって、ママのこんなに冷たい声は始めて聞いたもの。今まで私がどんなにイタズラしても、ママが大切にしてたteacupを割っちゃった時も、パパと一緒にお風呂に入りたくないって言って泣かせちゃった時もこんなに冷たい声で叱ったりはしなかった。
それなのに、ママが喜ぶはずの事をしたのに、ママは私の事が嫌いになった。
「ジャービス!どうしたんです!?頭が痛いんですか!?」
声がした方を向いてみると、いつの間にかユッキーが目の前にいた。
頭が痛い?ううん、頭は痛くない。
でもユッキーがそう言いたくなるのも当然だね。だって私、頭を抱えて蹲っちゃってるんだもん。
でもね?頭は本当に痛くないの。
痛いのは胸の奥。心臓のずっと奥の方がズクンズクンって痛むの。
この痛みはどうやったらなくなるの?ママに愛してるわって言って貰えれば治るかな?そう言ってもらうにはどうしたら良い?ママは私が負けるのが見たかったんじゃないとしたら、ママが見たかったのは私が勝つところ?ユッキーを沈めたら、ママはもう一度私を愛してくれるのかな。
「そうよ……。ユッキーを沈めればいいんだ」
「ジャ、ジャービス?何を……」
ごめんねユッキー。
別にユッキーの事は嫌いじゃないよ。むしろ大好きだよ。でも私はユッキーよりママの方が好きなの。
ママに愛して貰えない私に存在価値なんてないの。
ママにもっともっともっともっと愛して貰って、その時が来たら悲しんで貰いたいの。
私が消える時にママが泣いてくれる。その時に初めて、ママは私を娘だって認めてくれるはずなんだから。
「あはははははははは!良さそう~!これで、行ってみましょう!」
ーーーーーーーーーー
ジャービスの様子が急変してすぐに、私は哨戒艇に退避を命じて私も距離を取りました。
実際、そうして良かったです。
まるで泣いてるような、悦んでいるような顔になったジャービスは、その後すぐに白い光に包まれて別人のようになりましたから。
いえ、佐世保の文月さんや九代目の神通さんが奥の手としていた深海化とは違う気がします。
強いて言うなら、戦闘が再開されて数分後に駆け付けてくれた満潮さんに近かった気がします。
満潮さんと決定的に違ったのは……。
~戦後回想録~
元駆逐艦 雪風へのインタビューより。
ーーーーーーーーー
「ねえ満潮、ジャービスを無力化しろってどういう事?」
「私にもわかんない。でも、私に全力戦闘の許可が下りてるから相当マズいのは確かよ」
円満さんからの命令を受けて艤装を装備し、試合会場へと急行している最中に、叢雲さんがこの命令で一番訳がわからない部分を聞いてきた。
聞きたいのは私の方なんだけどなぁ。
でも、ある程度の想像はつく。
一番有り得そうなのは暴走、しかも単独で姫級とやり合える私と叢雲さんを向かわせてるって事は深海化による暴走の可能性が高い。
それくらいのことは、叢雲さんも想像がついてるはずよ。
「ジャービスって、深海化するほど精神が不安定なのかしら」
「さあ?ジャービスと会ったのは歓迎会の時が初めてだから私には何とも言えないわ。って言うか、深海化ってそんなにホイホイとできるモノなの?」
「私は恵姉さんの例しか知らないけど……」
私が知る唯一の深海化の使い手だった恵姉さんの場合は、普通の精神状態と精神崩壊状態を
実際に見たことがある円満さんは「あの状態に意図的になれる時点で壊れてる」って言ってたっけ。
「ふぅん。まあ、先代八駆の面子はどこかしら壊れてたけど……って!きゃあ!」
「何!?被弾したの!?」
叢雲さんが呆れたような視線を私に向けたのを
まだ予想戦域から6キロは軽く離れてるのよ?
それなのに、ジャービスは叢雲さんに模擬撃を直撃させたって言うの?
「叢雲さん!無事!?」
「無事に決まってんでしょ!こんだけ距離があったら『弾』の効力も半分以下よ!」
叢雲さんは強がってそう言ったけど、それは逆に言えば半分近くは効力があったと言うこと。
実際に叢雲さんは、流れ弾と思われるラッキーパンチで小破になっちゃったしね。
「各部妖精とのリンク開始。同時に回避運動を一任」
「ちょ!もう本気出す気!?まだ会敵すらしてないのに!」
「
叢雲さんが言う通り会敵すらしていない。ジャービスと雪風だと思われる反応と私たちの距離はまだ4キロはある。
それでも、私の本能が告げている。
コイツはヤバい相手だ。
いくら私と叢雲さんの二人がかりでも、端から出し惜しみせずに全力で立ち向かわなければ返り討ちになる。
だから、私は被弾しない事を祈りつつ、もう一人の私に会いにいった。
ーーーーーーーーーー
ウォースパイトの一言で怒ったのは金剛だけじゃなかった。
口には出さなかったけど円満や澪、恵まで目に見えて怒ってたわ。もちろん私や他のゲストたちもね。
その中で唯一食ってかかったのが金剛だったわ。
ウォースパイトは何て言ったのか?
一言で言えば「お前は私の子供じゃない」ね。
ほら、イタズラした子に母親がよく言うでしょう?「悪い事する子はお母さんの子じゃありません」って。
字面だけ見ればそんな感じだったんだけど、私でもゾッとするくらいウォースパイトは冷酷に言ってたわ。
赤の他人の私たちでさえ怒りを覚えたんだから、ジャービスからしたら拒絶されたのと同じくらい衝撃だったんじゃないかしら。それこそ、壊れちゃうくらいにね。
金剛はどう食ってかかったのか?
悪いけど言えないわ。
と言うのも、あの時金剛が感情に任せて言ったセリフは英国にとっては今も機密扱いなの。
もし話しちゃったら、私だけでなくアンタも消されちゃうかもしれないわよ?
~戦後回想録~
横須賀鎮守府提督補佐 辰見天奈大佐へのインタビューより。
ーーーーーーーーー
「やめないか金剛!その手を離せ!今すぐにだ!」
この事態はさすがに予想できなかった。
もし金剛とウォースパイトの関係をもっと詳しく知っていたらある程度予想できてたかもしれないけど、金剛がウォースパイトの胸ぐらを掴み上げた今では後の祭りね。
呉提督の説得で思い直してくれれば、最悪でも解体処分で済ませられると思うんだけど……。
「相変わらず子供に甘いのね。そんなに気に障った?」
「ブチ切れましたよ。お前、あのセリフで子供がどれだけ傷つくか知ってるでしょう?」
「ええ、嫌と言う程わかってるわ。私自身、あの言葉で何度泣いたか憶えていないくらい泣いたもの」
「だったらなんで……!」
金剛が子供に甘い?
霞に聞いた話では、金剛は今でも駆逐艦不要論を唱える火力主義者で、呉では有名な駆逐艦嫌いだったはずだけど……。
いや?逆なのかしら。
金剛ほど艦娘歴が長い人が駆逐艦の重要性を理解してないとは考え辛い。
もしかして金剛は子供が好きだから、幼い子供が多い駆逐艦が戦場に出なくても良いように不要論を唱えてまで駆逐艦を戦線から遠ざけてたんじゃない?
そう考えれば、呉提督が考えを改めるまでどんな作戦でも
「あの子の進化は、この戦争を終わらせるために必要なことです」
「戦争を終わらせため?ふざけんな!自分の復讐のためだろうが!」
「復讐?何の事かしら」
「とぼける気?だったら私が言ってやるよ。お前、あの子を使って王室を見返す気でしょう?「お前達が捨てた私の子供が世界を救った」とでも言って、歯噛みする王室の奴らを嗤うつもりなんじゃないですか?」
あ~……えっと。
口調が別人みたいに荒っぽくなった金剛は怒りに任せて言ったんだろうから気にもしてないんでしょうけど、今とんでもないこと言わなかった?
いや、知ってるのよ?
ウォースパイトが英国王室の公表できない不義の子だってことは噂レベルでなら知ってるの。
でも噂レベルだったのが、ウォースパイトと旧知の間柄である金剛が口にしたセリフと、ウォースパイトの肯定するような沈黙のせいで事実としてこの場にいる人間全てに認知されてしまった。
これは非常にマズい。
下手したら、この場にいる人間全てが殺されても文句が言えない事態になっちゃったんだから。
「Ark、銃をしまいなさい」
「ですが奥様。彼女が口にしたセリフは我が英国を貶めかねない根も葉もない風評です」
「貴女のそのreactionが、金剛の言葉に信憑性を持たせてしまうとわからないのですか?もう一度言うわよArk、銃をしまいなさい」
すでに手遅れ。と言うよりは、ウォースパイトはこの事実が真実として知られる事は問題だと考えてない節がある。
恐らく今の金剛の行動やセリフ、さらに自身が英国王室に捨てられた身だと認知させるのすら、彼女の復讐には必要なことなんでしょう。
でもこれで、先生とウォースパイトが妙に似てると思えた理由がわかったわ。
この二人は終戦の事なんて考えていない。
いえ、終戦そのものが自分の復讐を成就させる手段でしかない。
そのためなら自分はもちろん、愛する家族だろうが友人だろうが部下だろうが何でも利用する。
自分が苦しむのすら、復讐心への糧として。
「
「私は貴女のそういうところが大好きよ」
正に一触即発。とでも言いたくなる雰囲気ね。
これでもかと言うほど眉をつり上げて怒っている金剛は今にもウォースパイトを殴りそう。
対するウォースパイトは、力無く微笑んで殴られるのを待ってるみたいだわ。
「な、なんだアレは」
「どうした大湊の、今は……。ん?アレは艦娘……なのか?」
大湊提督と佐世保提督に釣られて全員の視線がモニターに集まった。
そこに映っていたのは回避運動に専念する雪風と……アレ、何?いや誰?
『姫堕ち』発動中の満潮みたいに『機関』からX字のように伸びたアームに繋がれた砲と魚雷発射管、さらにウェディングドレスを思わせる服装に真っ白な光。
そこだけ見れば、ジャービスが『深海化』を通り越して『姫堕ち』に到ったと思うことができた。
でもその艤装を背負っている人物がジャービスじゃない。強いて言うならウォースパイトに似ている。
まるでジャービスが十代後半まで成長したような艦娘が、狂気を顔に貼り付けて雪風を攻撃していた。
ーーーーーーーーー
今まで戦った中で最強の敵は誰?って聞かれたら、私は迷わずジャービスだって答えるわ。
あの子と戦うまで、私も満潮も反則的に強い奴ってのは大淀みたいな奴の事を言うんだと思ってたんだけど、あの一戦を経験して考え方が変わった。
強さの次元が違うとでも言えば良いのかしら、あの時のジャービスの前じゃ常識も理屈も意味を成さなかったのよ。
確実に当たると思った砲弾は直前で逸れるし、逆に大ハズレと高を括って回避しなかった砲弾が直撃したり、酷いのになると撃とうとした瞬間弾薬が誤爆して砲が吹き飛んだりね。
訳わかんないでしょ?
私たちもそうだった。
雪風を退避させたれたは良いけど、戦闘開始からものの数分で私たちは攻撃手段のほとんどを失ったんだから。
~戦後回想録~
元特Ⅰ型駆逐艦 五番艦 叢雲へのインタビューより。
ーーーーーーーーーー
「満潮!生きてんの!?」
「なんとか……ね」
ジャービスと思われる艦娘と会敵して数分。
挨拶代わりの砲弾を数発放ったところで、私の左舷連装砲の内部が爆発してアームごと吹き飛んだ。
私の心配をしてるけど叢雲さんも似たような状態ね。
私みたいに左腕が焼かれて使い物にならなくなるほど酷くはないものの、右舷連装砲の誤爆で背中を少し痛めたみたい。
「叢雲さん、連装砲、及び魚雷発射管をパージして」
「はぁ!?丸腰になれって言うの!?」
「自爆して死ぬよりマシでしょ?それに、私と叢雲さんならそれでも丸腰じゃない」
そう、私にはお姉ちゃん仕込みの格闘術と『衝角戦術』があるし、叢雲さんには槍がある。
それに、運だけで私たち二人を中破にしたアイツを倒すには、運が介在する余地が無いほどの超近接戦を仕掛けるしかない。
かつて、神風だった頃の桜子さんが雪風相手にそうしたように。
「アンタも
「前面『装甲』のみを残して他はカット。右腕に余剰力場を集中。これより本艦は格闘戦を開始する」
こういう時ばかりは異名が欲しくなるわね。
まあ私は口上を述べるようなキャラじゃないんだけど、高々と名乗りをあげてジャービスに突っ込んでいく叢雲さんをみたら少しだけ羨ましく思っちゃった。
『邪魔しないでよ!私はユッキーを沈めなきゃダメなの!じゃないとママが……ママが喜んでくれないの!』
「クッソ!なんであんなのが当たるのよ!」
ジャービスの砲撃はお世辞にも上手いとは言えない。だって明後日の方向に向けて撃ってるもの。
でもそれが何故か当たる。
今も、先行している叢雲さんに向けて撃ってるとは思えない角度で飛んでた砲弾が弧を描いて襲ってるわ。それをギリギリで至近弾にしてる叢雲さんはやっぱり大した者ね。
「私も負けてらんないわね」
砲撃が真っ正面から突っ込んでる叢雲さんに集中してる隙を突いて、私はジャービスの右斜め後方から『稲妻』で突っ込んだ。
完全に私を見失ってるわ。
これなら確実に拳を打ち込め……。
「んなアホな!」
「うふっ♪lucky♪」
ジャービスの右後方に潜り込んだ私のガゼルパンチが当たる寸前、高波が起きて私を左に押し流した。
しかも最悪なことに、ジャービスが左後方に潜り込もうとしている叢雲さんに向けて放った魚雷の射線上に。
「何やってんのよ満潮!私を庇う必要なんて……!」
「違う!波で流されたところに
自分で言ってておかしいと思う。
本当に今のはたまたま?
あのタイミングで高波が起き、私が流される方向を予測して魚雷を放ったんじゃなく、たまたまそうなっただけ?本当に、今の一連の出来事は偶然なの?
「そう言えば、桜子さんが以前こう言ってたわね」
雪風と戦ったとき、桜子さんは「世界の全てが敵に回った気がした」と言っていた。
正に今みたいに、風も、波も、万が一の確率でしか起きないような艤装の不具合も。その全てが私たちの敵として立ちはだかり、ジャービスの味方として邪魔をする。
「これがラッキージャービス。雪風並の幸運を持つと噂される英国最強の駆逐艦か」
しかも今はスペックが跳ね上がってる。
もしかしたら、『姫堕ち』で駆逐水鬼並にスペックが上がってる私以上に。正直、ジャービスが装填してるのが模擬弾じゃなかったら、さっきの魚雷で私は死んでたわ。
『お二人は一瞬で構いませんので彼女の動きを止めてください。私が仕留めます』
「この声、雪風?撤退したはずじゃ……!」
『仲間を見捨てて逃げるほど腐ってはないつもりです。それより、できますか?』
できますか?ですって?
そんなのできると言うしか選択肢はない。救援に来たのに良いように嬲られ、あまつさえ助けに来た相手にただ助けられるだけなんて恥でしかないもの。
故に、私たちはこう言う。
「やってやろうじゃないのよ!一瞬どころか五分でも十分でも止めてやる!満潮、やるわよ!」
「了解よ。でも私は残り時間が少ないから、五分以上は叢雲さんだけでお願いね!」
と、雪風の挑発に乗せられて再度突撃を開始したのは良いけど、雪風ってジャービスと同じように装填してるのは模擬弾よね?
模擬弾で今のジャービスの『装甲』を貫きつつ、戦闘不能に追い込む事なんてできるのかしら。
『お二人が早々に武装を捨ててくれたおかげで弾薬が補給できました。まったく、運良く私の退避先に流れてきてくれて助かりましたよ』
近海とは言え、海原に漂ってた私たちの武装を拾った?どんだけ運が良いのよ。
どうやら、雪風が冗談みたいに幸運だって噂は本当みたいね。
『ユッキー!私に沈められに来てくれたの!?そうなのね!良かった~これでママに誉めて貰えるわ!』
ジャービスのヘイトが雪風に向いた。
おかげで私たちはジャービスの視界の外。完全に背後から追ってる形なのに、何故かタイミング悪く高波が起きてまったくと近づけない。
「こうなったら……!」
「ちょ、なんで私の背後に回るのよ満潮。嫌な予感しかしないんだけど……」
「大丈夫、痛いのは一瞬だけよ」
たぶんね。
私が何をしようとしているか察したのか、叢雲さんは「帰ったら甘味の一つも奢りなさいよ!」とか言って槍を腰撓めにして構え、いつでも
後は、ジャービスに向けて叢雲さんを殴り飛ばすだけだ。
「五万馬力ぃぃぃ!ガゼルパンチ!」
ジャストミート。
叢雲さんのお尻辺りに命中したガゼルパンチ(五万馬力)を推進力にして飛ぶ叢雲さんは、邪魔しようとする高波に大穴を空けながらジャービスに向けて驀進して行ったわ。
「今よ雪風!」
『了解しました。叢雲さんはそのまましがみついててください』
叢雲さんの「私ごと撃つ気かコラ!」って抗議は聞かなかった事にして、雪風はここからどうやってジャービスを無力化するつもりなんだろう。
下手に撃ったら、叢雲さんごとジャービスを沈めちゃうんじゃない?
『私は運が良いですからね。今撃てばきっと、運良く叢雲さんを一切傷つけずにジャービスを気絶させれます』
だからどうやって?
アンタ普通に連装砲と魚雷発射管構えてるじゃない。まさか本当に、撃てばさっき言ったような結果に
それはもう幸運なんかじゃなくチートじゃない。
『カットイン強制発動。魚雷、魚雷、連装砲』
は?今なんて言った?カットイン強制発動?
カットインってもしかして駆逐艦、特に夜戦時に稀に起こる、脳内にその時最も適した攻撃手段がシャ!シャ!シャ!って感じで浮かぶ現象のこと?
それを強制発動ですって!?
「上手くいきましたね。幸運の女神のキスを感じちゃいます」
「いやいや、上手いことジャービスの兵装だけ破壊して無力化できたみたいだけど……」
近くに寄った途端に雪風はそう言ったけど、叢雲さんも吹っ飛んで気絶しちゃったわよ?頭とかアフロみたいになってるし。
まあ叢雲さんは緊急避難装置が発動してるから心配しなくてもいいとして、問題は……。
「また負けちゃった……。もうダメだ。ママに嫌われる。ママに要らないって言われる……」
元の身体に戻って海面にへたり込み、頭を抱えてぶつぶつと独り言を言ってるジャービス。
どうやら、ジャービスのママことウォースパイトさんに何か言われたから深海化どころか姫堕ちすらすっ飛ばして、さっきの状態になったみたいね。
「アンタのママは随分と薄情なのね。高が試合で負けたくらいで……」
「ママは薄情なんかじゃない!」
「でも、試合に負けて何か……。そうね例えば、弱い子は私の子供じゃないとか言われたんじゃない?」
あ、これでもかと顔を歪ませて涙を流し始めた様子を見るに、どうも当たってたっぽい。
なんかすっごい罪悪感が……。
「ママは私に厳しいけど、厳しくしたのと同じくらい優しくしてくれるの!だから私はママが大好きなの!必要とされたいの!娘でいたいの!貴女たちにそんな私の気持ちがわかるの!?」
「わかんないわよ。雪風はどうか知らないけど、私は親の顔も知らない孤児だからね」
ムカつく。
母親自慢もムカつくけど、「親がいない子なんいるの?」と言わんばかりに驚いてる顔が私の神経を逆撫でる。
「娘でいたい?アンタってウォースパイトさんの娘なんでしょ?英国って、親子でいることに資格か何か必要なわけ?」
「で、でもママが私の子じゃないって……」
「いやそれってさ、母親がイタズラした子によく言う「悪い子はうちの子じゃありません」的な脅し文句と同じでしょ?それを真に受けて暴走するとか馬鹿じゃないの?」
ジャービスほど母親のことが好きなら暴走するほどなのかもしれない。私は言われたことがないから、そのセリフで子供がどれだけ傷つくか想像もつかないけどね。
でも、言われてみたい気はする。
いえ、言われてみたい。
私は母親を困らせた末に「アンタなんてうちの子じゃありません」って言われてみたい。
「アンタが羨ましい。そんな、親子でなければけっして言えないセリフを言って貰えるアンタが羨ましいわ」
「親子じゃないと……言えない?どうして?」
わかんないか。それもそうよね。
想像でしかないけど、ジャービスはたぶん愛されるために努力すれば、相応に愛して貰えると考えてる。
でもそうじゃないのよ。
親子愛でも友愛でも親愛でも、愛ってのは見返りとして受け取るものじゃない。
制御不可能な生理現象みたいなものよ。
そんな溢れ出んばかりの愛を押さえ付けて初めて、心を鬼にしてでも子供に成長して欲しいと思ったときだけ、母親は自分の子供じゃないと突き放せるの。赤の他人にそんなセリフを言っても「当たり前じゃん」で終わるもん。
まあ、母親を知らない孤児の誇大妄想だけどね。
「疑うんなら戻ってみなさい。きっと、ウォースパイトさんはアンタを優しく抱き締めてくれるはずよ」
ーーーーーーーーーー
ってな感じのことを言った記憶を最後に私は気絶したわ。
まあ、初っ端の誤爆で左半身が焦げてたしね。
後に円満さんから、泥酔して病院に運び込まれたウォースパイトさんとジャービスが何事もなかったかのように仲良くしてたのを見たって聞いたわ。
え?なんでウォースパイトさんが泥酔してたのかって?
さあ?
私、あの後から数日間入院してたからその経緯に関しては人づてでしか知らないの。
辰見さんから聞いた話ではたしか……。
~戦後回想録~
元駆逐艦 満潮へのインタビューより。
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
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神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
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紫印 円満(実質三部の主役?)