艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百二十九話 復讐鬼と復讐姫は復讐に恋をする

 

 

 

 FSBプレゼンツ。特Ⅲ型駆逐艦二番艦 響の誘拐計画とは。

 現在アリューシャン列島付近に待機させている海上輸送艇から、どうやってか鹵獲した深海棲艦(連合艦隊規模)を解き放って横須賀鎮守府を襲わせて、その混乱に乗じてタシュケントが誘拐するって寸法らしい。

 と言う話を、ジャービスの一件が片付いて工廠で一息ついてた円満に聞かせてみたら……。

 

 

 「深海棲艦を鹵獲って……。さすが露国と言うべきか、それとも日本が甘いと反省すべきか……」

 

 なんて、心底呆れたような反応が返ってきた。

 まあ、気持ちはわかるけどね。

 そもそも、艦娘一人を誘拐するために、深海棲艦の鹵獲に始まり海上輸送機の手配とその潜伏先の選定の手間をかけるなんて、世界規模で見ても艦娘保有数が多い日本から見たら異常だもの。

 

 「桜子さん、鹵獲深海棲艦の編成と来襲時間は?」

 「編成は空母ヲ級6隻を主軸にした機動部隊。六駆が哨戒から戻る途中を狙うって言ってたから、恐らく、第三試合終了前後。こちらが一番気を抜くタイミングでもあるわね」

 「なるほど……。一応聞くけど、誘拐計画がバレているとわからせるために、わざと見えるように艦隊を準備するのは桜子さん的にはNGなの?」

 「ええ、こっちに喧嘩売ってきたんだもの。どうせなら悔しがらせたいじゃない?」

 「具体的に、どうやって?」

 

 わかってるクセに。

 そんなあからさまに「嫌な予感がする」って考えてそうな顔されたら説明する気が失せちゃうじゃない。

 でも説明してあげる。

 相手が想像している最悪の事態の少し斜め上を行くのがこの桜子さんだからね。

 

 「それでは説明しよう!桜子さんプレゼンツ。FSBに響を改装させた後に奪還して歯噛みさせてやろう作戦とは!」

 「いや、今ので予想通りなのがわかったからいい」

 「まあそう言わずに聞きなさい」

 

 ガングートの話では、FSBは誘拐した響を日本まで乗ってきた海上輸送機の中でヴェールヌイに改装し、眠らせて輸送機内に監禁して、陽動のために自らが起こす深海棲艦による襲撃を口実にしてそのまま露国に戻るつもりらしい。

 飛ばれた後だと奪還は困難だから、奪い返して悔しがらせる事を考えたら改装後がベストね。

 問題があるとすれば……。

 

 「深海棲艦迎撃用の艦隊ね」

 「ええ、現場までの輸送は二式大艇で良いとして、FSBに気付かれず、それでいて機動部隊に対抗できる艦隊が即座に二式大艇に乗り込めるようにしとかないと……」

 「人員は多少ランダムにはなっちゃうけど、うちの隊員に目についた艦娘をそれとなく工廠に誘導するように言っとこうか?」

 「それしかないか……」

 「最悪、水雷戦隊に足止めさせている間に艦隊を編成して出撃させれば問題ないと思うけど……。どうする?艦娘を指定してくれれば対応できるわよ?」

 「それがベストだけど、機動部隊に対応できそうな艦種と人数が工廠に集まればさすがにバレる気がする。やっぱり、水雷戦隊が編成できるだけ集めるのが限界ね」

 

 限界ね。なんて円満は重苦しく言ったけど、私からしたら円満以上に気が重い。

 だって、敵機動部隊に対抗できるだけの練度と実力を兼ね備えた艦娘を選定し、タシュケントを始めとすFSBの諜報員に気取られぬように工廠に誘導しないとならないんだもの。

 

 「満潮と叢雲が使えれば問題なかったのに……って、どうしても考えちゃうわね」

 「そうね。FSBが満潮と叢雲が使えなくなる()()状況まで考えて計画を立ててたんだとしたら、正直舌を巻くわ」

 

 円満が歯噛みする気持ちもわかる。

 客観的に見ればジャービス暴走はもちろん、雪風をほぼ無傷で救った代償に満潮と叢雲が予想以上に負傷したのはたまたま。こんな状況を予測して計画を立てるなんてきっと円満でも無理よ。

 でも円満は、FSBは()()()()計算して響の誘拐計画を立てたんだと思ってる。優秀が故に、普通の人なら偶然で片付けてしまう事柄でも計画の内なんだと疑っちゃうんでしょうね。

 ホント、頭良すぎてバカだわこの子。

 

 「一つ気になったんだけど、ガングートとタシュケントは敵対してるの?」

 「表立って敵対はしてないはずよ。一応、上司と部下だし」

 「ふぅん。響の誘拐がFSB、ひいては露国の相違なのか、それとも部下の暴走なのか気になるわね」

 

 んん?

 私はガングートに聞いた限りでしか知らないけど、響の誘拐に関してはFSB内でも賛否両論らしい。

 反対派の理由に露国が日本と表立って波風を立てたくない。更に協力関係を結ぶ方が有意義だという意見がある。その再先鋒がガングートね。

 そしてその反対。

 タシュケントを始めとする推進派が響の誘拐に拘るのは、先に説明した実艦の艦生が艤装に影響するのかどうかを確かめ、あわよくば自国の戦力を増強しようって理由からよ。

 んで、私が何を疑問に思ったのかと言うと……。

 

 「響の誘拐が部下の暴走?どちらかと言うと、誘拐計画の阻止の方が部下の暴走よ?」

 「え?は?ガングートの方がタシュケントの部下なの!?」

 「あれ?言ってなかったっけ?」

 「聞いてないわよ!」

 

 そっか~言ってなかったか~。

 でも、そんなにカッカしなくても良くない? 

 一応はガングートの方が下になってるものの階級は同じだそうよ?

 それに、特殊な場合を除いて戦艦が駆逐艦の下につくって事が無いから勘違いしたんでしょうけど、円満が勝手にタシュケントの方が下だと思い込んだだけだからね?だから私は悪くない。

 

 「はあ、まあいいわ。あんまり私と桜子さんが話してると怪しまれそうだし、そろそろ観覧席に戻るわ」

 「そうした方が良いかもね。じゃあ、段取りはさっき決めた通りで進めるわよ?」

 「ええ、お願いします。今回は奇兵隊の負担が大きいけど、その分動きやすいようにはするつもりだから安心して」

 「了解よ。こっちは私に任せて、アンタは囮役をしっかりね」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 第七水雷戦隊を編成した切っ掛け?

 切っ掛けも何も、対空戦闘に特化した戦隊が必要だったから……って言っても、アンタは信じないんでしょうね。

 色々と聴き回って、あの部隊の本当の役割にも察しがついてるみたいだし。

 

 ええそうよ。

 あのメンバーを選んだ切っ掛け自体は偶然に近かったけど、第七水雷戦隊の本当の役目は大和の護衛。いえ、大和直属の部隊と言ってもいいわね。 

 

 でも、二式大艇に集まったメンバーが誰なのか知ったときは運命じみたものを感じたわ。

 奇兵隊が誘導したとは言えまるで定められていたかのように、後に『天号組』と呼ばれる彼女たちがあの場に集ったんだから。

 

 

 ~戦後回想録~

 横須賀鎮守府司令長官 紫印円満中将へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 「遅かったな円満。何か問題でもあったか?」

 「少しだけ。どうやらトラブルが起きそうでして」

 「ほう?まさか、また桜子が暴れようとしているのか?」

 「八割、いえ九割方その通りです」

 

 観覧席に戻るなり、先生が他の人に聞こえない程度の声量で探りを入れてきた。いや、この様子じゃ探ってきたと言うより確認かしら。

 桜子さんからどの程度聞いてるかはわかんないけど、この人にはこの後に起こるトラブルにもある程度察しがついてるんでしょうね。

 

 「私の許可を得る必要は無いから好きにやりなさい。他の提督に許可が要るような事でも、私が許可を出したと言って処理すればいい」

 「わかりました」

 

 やっぱりか。

 この人は鎮守府が襲撃を受けそうな事に気づいてる。それが、桜子さんが動かなきゃならない相手の謀の内だと言うことにも。

 敵わないなぁホント。

 戦術や戦略面でなら、私は先生以上という評価を色んな人から受けている。

 でも謀略面ではまるで敵わない。

 さっきまでどころか、今私がこう考えてることも先生の計画の内なんじゃないかと疑っちゃうくらいにね。

 

 「満潮の容態はどうだ?」

 「かなり負傷していましたが、以前大淀にやられた時ほど酷くはありません。今は意識が戻った叢雲が見てくれています」

 「そうか。心配ならしばらく席を空けてもいいんだぞ?」

 「やめておきます。仕事をほったらかして看病してたって知れたらあの子に怒られますので」

 

 本当なら傍にずっと居てあげたいけど、私はこの鎮守府のトップなんだから私情に走るわけにはいかない。

 ここは自分を律するためにも、仕事の話をして気持ちを落ち着けよう。

 

 「明日のゲストを交えての会議、閣下はどう動くお積もりですか?」

 「私は特に表立って口を出すつもりはない。さっきも言ったが、お前の好きにしていい」

 「本土が開戦時に逆戻りする事になっても?」

 「それは失敗した場合だろう?お前は失敗しないんだからそうなることはない」

 

 お褒めに預かり光栄です。とでも言えば良かったのかしら。

 期待と言うか信頼と言うか、先生が私を信じてくれてることが嬉しい反面、期待が重すぎて黙り込んでしまった。

 

 「お前の見立てではどうなんだ?欧州の中枢は先の二つと比べても厄介な相手だと聞いているが」

 「『結界』に加えて、南方中枢が見せた『紅潮(あかしお)』の二つだけでも厄介なのに、欧州の敵艦隊はかつての敵太平洋艦隊と同規模。ですがやりようはあります」

 「欧州連合との共闘か」

 「はい。欧州連合には軍艦が残っていますし、通常の航空戦力も使用可能です。故に、ケンドリック提督が対南方中枢で使った戦術で数を減らします」

 

 ヘンケンが対南方中枢戦で試した、艦娘に『装甲』を破壊させて通常兵器でトドメを刺す戦術は『結界』を張る相手に対して有効。

 さらに、通常兵器による敵の()()への攻撃は体勢を崩し、敵を海から()()()()()()も可能。

 人死には多くなるでしょうけど、艦娘と通常兵器が連携すれば効率よく敵の艦隊を削れるはずよ。

 

 「欧州へはスエズ運河を通っていく気か?」

 「はい。敵に封鎖されてはいますが、後顧の憂いを立つ意味でもその航路がベストだと考えます」

 

 今現在、地中海と紅海を繋ぐスエズ運河は、戦艦仏棲姫と呼称されている個体が率いる艦隊によって封鎖されている。

 日本艦隊はこの敵艦隊を殲滅し、地中海を西進しながら伊国、仏国の艦隊と合流して欧州中枢が陣取っているノルウェー海を目指す。

 それに際して米軍はNYから出航し、アゾレス諸島を経由して、アイスランドで他の欧州連合艦隊と合流、欧州中枢の北側から攻める予定になっている。日本艦隊は南からね。

 

 「先日、前米提殿から個人的に連絡があった。聞きたいか?」

 「私が聞いても問題なければ」

 「ならば話そう。ワダツミ級二番艦が艤装作業に入った」

 「早すぎませんか?設計図を提供してまだ数カ月ですよ?」

 「あの国の工業力は異常だからな。だが一つ問題が起こった」

 「問題?妖精さんが住んでくれないとかですか?」

 「いや、あの船の艦名を『スミノエ』と『カナロア』のどちらにするかで軽く揉めているらしい」

 

 そんなことか……。

 日本で造ってたら『スミノエ』であっさり決まってたんでしょうけど、米国だから候補でカナロアが挙がっちゃったのね。

 ちなみにスミノエとは、正確には住吉三神と呼ばれる底筒之男神・中筒之男神・上筒之男神の総称よ。

 ワダツミの姉妹艦だから、同じ日本の海神の名前を先生が勧めたんでしょうね。

 対抗馬の『カナロア』は、ハワイ神話に伝わる四大神の一柱で海神であり、イカかタコの姿で現され魔法と冥界の神としての側面も持つそうよ。

 きっとハワイが米国の州の一つだからあやかったんでしょう。

 

 「ちなみに二番艦は第7艦隊に配置されるそうだ」

 「と、言う事は……」

 「当然、司令長官としてヘンケン君が座乗する」

 

 ヘンケンが新造艦に司令長官として座乗か。しかも用途はワダツミと同じ。

 これを嬉しく感じちゃうのは不謹慎かしら。

 

 「……安心した。いや、やはり少しだけ寂しいな」

 「何がですか?」

 「お前に()()()顔をさせる男が現れた事に対してだ。宛がっておいて何をと思われるかもしれんが、やはり嫉妬してしまうな」

 「ふふふ♪逃がした魚は大きかったですね。閣下どの?」

 「まったくだ」

 

 寂しいとか嫉妬してるとか言ってるけど、先生の表情から感じられる感情は桜子さんの結婚式の時に見たのと同じ、寂しさと切なさと嬉しさが入り混じったような複雑な感情。父親としてのそれだ。

 先生に恋焦がれてた頃の私ならこの顔を見てショックを受けてたんでしょうけど、今はヘンケンに恋してるせいか嬉しく感じる。誇らしいとさえ思えるわ。

 照れ臭いけどね。

 

 「そう言えば、金剛と呉提督の姿が見えませんが?」

 「別室で説教中だ。ウォースパイトは問題にしないと言ってくれたが、さすがに何も無しとはいかんのでな」

 

 照れ隠しついでに、姿が見えなくなっていた二人の行方を聞いてみたら案の定だった。

 でもまあ、国賓とも言えるウォースパイトの胸ぐら掴んで国家レベルの機密を喋ってお説教だけで済んだのは不幸中の幸いね。

 

 「彼女はジャービスのお見舞いに行かないんですかね」

 「行きにくいんだろうさ。私たちが考えている以上に、金剛の言葉が彼女の胸に刺さったんだろう」

 

 ふぅん。

 笑顔でアークロイヤルと話せる彼女からそんな感じは読み取れないけど、先生が言うんならそうなんでしょう。この人も、自身の復讐のために愛娘と愛妻を利用してる人だから。

 

 「やめようとは考えないのでしょうか」

 「無理だろうな」

 「どうして……ですか?」

 

 先生が同情するような眼差しをウォースパイトに向けた。復讐の対象は違っても、同じくらい狂った復讐鬼に同情せずにはいられないみたいね。

 いや、ウォースパイトの場合は復讐姫(ふくしゅうき)かしら。

 

 「止めたら私が私ではなくなる。もうとっくに、手段と目的が入れ替わってしまってるんだ。アイツに私と同じ想いをさせなければ気が済まない。あの時の私がされたように、全てを奪った上で首を刎ねなければ気が済まない。正直、女房子供と親父の無念を晴らしてやりたなどとは考えられなくなってるんだよ」

 

 先生は仕事モードを保ってる。でも感情が膨れ上がってるのを肌にビリビリと感じる。

 きっとこの人の復讐心は、とっくの昔に理性で押さえ付けられる限界を迎えてるんだ。

 それでも()()()とやらに復讐するために、この人は海軍元帥を演じてる。

 理性を保つために桜子さんの親を演じ、大淀の旦那様を演じ続けてる。幸せな想いを重ねれば重ねるほど、胸の内に棲む復讐鬼が育ってしまうとわかっていながら。

 そしてそれは、ウォースパイトも言えることなんでしょうね。

 

 「復讐鬼と復讐姫は復讐に恋をする」

 「ん?何か言ったか?」

 「いえ、何でもありません」

 

 ついつい恥ずかしいセリフを吐いちゃって焦ったけど聞こえてなくて良かった。

 でも先生を見てたら、何故か先生に恋い焦がれてた頃の自分と重なっちゃったの。

 先生がまるで、()()()とやらに恋してるように見えたのよ。

 大義名分もなく戦い続け、復讐心のみを糧として海軍のトップに上り詰めた、狂いきってしまった復讐鬼の寂しそうな横顔を見てたら。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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