あの日も、私は秋月姉さんと照月姉さん、そして新しいお初さんを捜していました。
ええ、私以外の姉妹は何故か皆方向音痴で、いつも私が捜す役回りをしていたんです。
え?迷子になっていたのは私の方じゃないか?
とんでもない!
私は方向感覚には自信があるんです!
あの日だって、入院中の大淀さんのお見舞いをしに行こうという話になり、四人揃って出店の誘惑に堪えながら工廠へ向かっていたはずなのに、辿り着けたのは私だけだったんですから。
どっちに行ったのか?
どっちってどういう意味です?工廠と言えば、艤装などが格納してあり、艦娘の治療などを行う場所ですよね?え?横須賀鎮守府の工廠は『工房』と『病院』で建物が別れている!?
ああ、それで大淀さんの姿が影も形もなかったんですね……。
でも、迷子になった結果、あの時のメンバーと会うことができた。ですか?
だから迷子にはなっていません!
ま、まあ、青木さんがどうしても私を方向音痴扱いしたいならそういことにしておきます。そうしないと話が進みませんから。
黒い服を着た人たちにやたらと通行を邪魔されましたが、たしかにあのメンバーと会えたのは迷子になった結果と言えなくもありません。
私が工廠に入ると、すでに矢矧さんが雪風さんと磯風さんと浜風さんの三人と談笑してて、私と同じく『工房』に迷い込んだ初霜さんと朝霜さんも「なんでこんなところに来たんだろう」と首を傾げていました。
更に、矢矧さんたちの輪から少し離れて、恐らく紫印提督からの命令を電話で受けていたと思われる霞さんが私たちに艤装を装備して二式大艇に乗れと伝えつつ加わりました。
そして最後に、私たちが訳もわからないまま二式大艇に詰め込まれてほどなく、大和さんが現れました。
ええ、色々な偶然が重なって、私たち『天号組』はあの場に集ったんです。
~戦後回想録~
元秋月型防空駆逐艦 三番艦。涼月へのインタビューより。
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絵日傘という童謡をご存知でしょうか。
この曲は昭和6年に発表された曲で日本舞踊、特に子供のお稽古曲で人気の舞踊小曲です。
桜ひらひら 絵日傘に
蝶々もひらひら きてとまる
乳母のお里は 花の路
すみれの花も たんぽぽも
一番の歌詞はこんな感じです。
その曲を、試合開始と同時に流してくれるよう提督にお願いしていました。
(呑気な奴だ。アイオワはとっくに戦闘態勢に入っているぞ?)
「それは、こちらも同じですよ」
私は曲に合わせて踊りながら、呆れている窮奇にそう答えました。撃ってこないと言う事は、アイオワさんも窮奇と同じように呆れているのでしょうか。
それとも、私の行動の意味が理解できずに様子を覗っているのかしら。
『何のつもりか知らないけど、戦闘が始まっている以上撃たせてもらうわ』
ご随意に。
貴女には単に踊っているようにしか見えないのでしょうが、私だってとっくに戦闘態勢です。
この舞は、人としての私と戦艦としての私を繋ぐ架け橋であり、
「さあ、始めましょうか窮奇」
(ああ、始めよう大和。終わりの始まりを告げる鐘を鳴らすぞ)
私たちがそう確認し合うのと同時に、アイオワさんの主砲が火を噴きました。
先ずは小手調べとでも言うつもりでしょうか。
私は大した速度も出さず、今も踊り続けているのだから一斉射なりすれば良いのに、彼女が撃ったのは第1主砲のみ。
一発一発が、駆逐艦くらいなら大破に持って行ける威力の砲撃が都合三発。それが少しだけ弧を描いて私に向かって来ています。
そんな危機的状況にも関わらず、私は身体保護機能を除いた全ての『装甲』をカット。同時に電探傘へ全余剰力場を集中して、砲弾の腹に添えて横薙ぎに振るいました。
『な……!今何を!?』
あらあら、アイオワさんは私が取った行動に心底驚かれてるご様子。
一週間前に満潮教官も似たような反応をしていましたが、彼女は貴女と違ってすぐに砲撃を再開しましたよ?
「さあ、私のために舞踏曲を奏でなさいアイオワ。私は見事、貴女が奏でる曲を踊りきって魅せましょう」
20cmサイズしかない電探傘の親骨に沿って傘表面に紅い力場を拡げ、90cmサイズに拡大された電探傘で砲弾を時にいなし、時に弾き返すのが私の新たな戦闘法。
いえ、
「さあご高覧あれ。この大和渾身の一芸。『戦艦乙女』を」
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何を言ってたかは放送されてなかったからわからないけど、アイオワさんの初撃を弾いて電探傘を肩に担いだ大和の姿に思わず見惚れちゃったのを憶えてる。
あの時は背中に無骨で巨大な艤装を背負っていたのに、芸妓のように振る舞う大和に違和感なんてなかったわ。
やってた事は所謂ピンポイントバリアとでも言えば良いのかしら。焦りなど微塵も見せず、優雅に踊りながらアイオワさんの砲撃を何分もの間捌き続けた大和を見て「どんな動体視力してんのよ」って呆れもしたっけ。
ほとんど移動してなかったとは言え、正確に大和へ直撃弾を叩き込むアイオワさんも確かに凄かったけど、あの大和の前じゃ霞んでたわね。
ええ、正直驚いたわ。
呉で別れてからほんの数カ月で、大和は別人と言って良いほど強くなっていたんだから。
陸にいるときは前と大して違いはなかったけど、海に出ている間の大和は、居るだけで旗下の者を安心させ、奮い立たせる戦艦だったわ。
だからこそ私は、大和の直衛艦隊である第7水雷戦隊の旗艦を任されるのに抵抗がなかったのかもね
~戦後回想録~
元軽巡洋艦 矢矧へのインタビューより。
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(おい、私にも出番を寄越せ。このままだと退屈すぎて寝てしまいそうだ)
アイオワさんの砲撃を捌き初めてそろそろ十分くらいでしょうか。興が乗ってきたのでもう少し続けていたいのに、やる事がなくて退屈した窮奇が駄々をこね始めました。
まあ、アイオワさんもこのままじゃらちが開かないと考えたのか接近してきてますし、窮奇にも出番をあげるとしましょうか。
「では、彼女を
(ふん、当てられんのがつまらんが今回は言う通りにしてやる。だが、最後の一撃は手加減無しで良いんだろう?)
「ええ、構いませんよ」
当てちゃダメですけどね。
装填しているのが模擬弾でも、私の全力射撃が当たったらアイオワさんが沈んじゃいますから。
(各砲照準。狙いはわかっているな?)
窮奇の命令に応え、艤装に据えられた全ての砲が、飽きもせずに私へ砲撃を続けているアイオワさんの進行方向、及び回避予測方向へと狙いを定めました。
横着者め。
自分の砲撃精度を見せつけたいのか、各砲一度の砲撃で彼女を誘導するつもりですね。
ならば、私も急がないと。
「八雲立つ」
上空へ弾いた敵砲弾の弾道、弾速計算、列びに落下予測値点算出開始。
「出雲八重垣 妻籠みに」
算出完了。
それを見計らったかのように、窮奇が砲撃による誘導を開始しました。
最初は上手くいくか、いえ弾数が足りるか不安でしたが、アイオワさんがムキになって途切れる事なく砲撃してくれたので問題ありませんでした。
「八重垣作る その八重垣を」
私が口にしたこれは、幾重にも重なった八重に重なる雲が湧き出る出雲に妻と共に住む。と、須佐之男命が詠んだ日本最古の和歌と言われるものです。
ですが、和歌の意味以上の意味はありません。
私はただ、アイオワさんを中心として立ち上がる水柱による八重の壁がそう見えるんじゃないかと思って、つい口ずさんでしまったんです。
この際ですから、相手の砲弾を利用して相手の動きを封じるこれをこう名付けましょう。
「大和流海戦術。『八重垣』」と。
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後になって、その時の様子を見せてもらった私の反応を見たCommanderのReactionは忘れられないわ。
ええ、爆笑してた。
「んなアホな」と言ったきり、口をあんぐりと開けて画面を見続ける私を余所に、あの男は爆笑しやがったのよ。
でも、Commanderが爆笑したくなる気持ちも、映像を見てなんとなくわかったわ。
特に最後の一発。
大和が放った戦域ごと吹き飛ばしたんじゃないかと思えるほどの強烈な一撃を客観的に見た時、私はこんな一撃を喰らわされたのかって渇いた笑いがでたもの。
たしか彼女は、その砲撃を『ハドウホウ』と呼んでいたわ。
~戦後回想録~
元Iowa級戦艦一番艦 Iowa。
現バーガーショップマクダニエル日本支店副店長へのインタビューより。
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「窮奇!今です!」
『八重垣』で特定の範囲に相手を拘束できる時間は僅か。それこそ、水壁が消えるまでの数秒間だけです。
その僅かな間に、窮奇がアイオワさんを行動不能にできるだけの攻撃を加える手筈になっていたのですが……。
(ああ、愛しい大淀。貴女が見せてくれた技の数々のおかげで私はこれを思い付いた。今から私が魅せるのは、言わば私と貴女の子供。私と貴女の愛の結晶!)
気持ち悪いこと言ってないでサッサと撃ってください。
と、言おうと思いましたが、窮奇の言葉に促されるように両舷、及び背部主砲がアイオワさんへ照準を合わせました。
これから全主砲を一斉射するつもりなのでしょうか。
ですがそれでは、大淀が見せた技の意味がわかりません。
(この一撃は王道、いえ覇道とも言える貴女への愛の示し方。強いて名付けるなら……)
反動で吹き飛ばされないだけの力場を『脚』に残し、残りの全てが各砲身へと集まっていくのがわかる。
これを例えば、大淀が試合の最後に見せた黄金の大剣のような技に結びつけるとするなら……。
(覇道砲!)
大地、いえ、大海原を揺らす咆哮とでも例えれば良いのでしょうか。それが、私を中心として形成された半径50mほどのクレーターが出現すると同時に鳴り響きました。
アイオワさんに向けられた都合九門の砲門から同時に放たれた九発の砲弾はと言うと、綺麗な円を空中に描きながらアイオワさんの100m手前に落ちようとしています。
ただし、九発の砲弾がに虹色の光を放つ一発の巨大な砲弾と成って。
「一発でも強力な46cm砲の砲弾を力場で繋ぎ、さらに成形して巨大な砲弾として敵にぶつける。ですか。喰らったら大抵の敵は海の藻屑ですね」
滝の如く天に昇る巨大な水柱のせいで姿は確認できませんが、手前に着弾させたのですからアイオワさんは吹っ飛ばされるだけで済んでるはず。
問題はどれだけ飛んだかですね。
青葉さんによるアナウンスを聞く限り、アイオワさんは場外まで飛んだようですから最低でも2~300mほどですか。
「意外とスンナリ勝てましたね。もうちょっと手応えがあると思っていたのですが」
(
「あら、弁護するなんて意外ですね。嫌ってたんじゃないんですか?」
(嫌いだがアレだけの技量を持つ相手に敬意を払わないわけがないだろう。むしろ、奴の技量がずば抜けていたから苦も無く『八重垣』で拘束でき、『覇道砲』を撃ち込めたんだぞ?)
言われてみれば確かに。
アイオワさんが放った砲弾はほぼ全て直撃弾。故に、傘で弾くのに苦労しませんでした。
もしあれ程の射撃精度じゃなかったら自前の砲弾で『八重垣』を作るための弾数を補ったり、一々傘が届く範囲まで移動しなければならなかったでしょう。
つまり。
「彼女は強すぎた。それ故に、私に完敗した」
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相手が強ければ強いほど真価を発揮する。
それが、大和独自の戦闘法。『戦艦乙女』だったわ。
アレはお姉ちゃんの対極と言って良いわね。
お姉ちゃんは速度と機動性、更に手数の多さで先の先を取り続けるのに対し、大和の戦い方は半ば固定砲台のようにほとんど動かず、電探傘による防御で後の先を取るの。
そして特に凶悪なのが『覇道砲』。
そう、大和がアイオワさんとの試合で初めて見せた半径100メートルもの範囲を吹き飛ばしたアレよ。
私が『戦艦乙女』の実験に付き合った時は使わなかったけど、後に録画された映像を見たときに、もし使われてたらと考えて背筋が寒くなった憶えがあるわ。
しかもアレ、試合中に見せたのは装弾してる弾の関係もあって本来の半分以下の威力だったんだってさ。
~戦後回想録~
元駆逐艦 満潮へのインタビューより。
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「窮奇、この状況をどう思いますか?」
(どうもこうもないだろう。何の冗談だ?これは)
哨戒艇に回収されて工廠に戻ったら、何故か艤装は降ろさせてもらえずに補給を済ませ、黒い軍服を着た人たちに導かれるままに懐かしの二式大艇に乗せられました。
そこに、私に先んじて乗り込んでいたのは矢矧、初霜、霞、雪風、磯風、浜風、朝霜、涼月の八人。
かつての私が最後の出撃を共のしたメンバーが、冬月を除いて勢揃いしていたんです。
(わかるか大和。わかるよな?)
ええ、わかります。姿形は変わっても、私はここにいるメンバーの誰が誰なのかわかります。
矢矧以外は直接会うのが初めてなはずなのに、私にはここに集ったメンバーが誰だかわかります。
(状況からして出撃だろうが、この面子は円満が集めたのか?)
「さあ?それはわかりませんが、正直それはどうでもいいです」
(それは何故だ?)
わかりませんか?
私の半身である窮奇が今の私と同じ気持ちを抱いていないのが意外ですが、そこは窮奇が私の悪性ということで一応納得しておきましょう。
「これを運命と呼ばずに何と呼べば良いのでしょう」
私はたまらず、二式大艇に集められたメンバーに向けてそう零しました。
みんな「何言ってんだ?コイツ」みたいな顔をしていましたが、私はこの時ハッキリと聴きました。
運命の歯車が、カチリカチリと回り出す音を。
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
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神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
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紫印 円満(実質三部の主役?)