艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百三十三話 Спасибо

 

 

 

 

 桃がその手の話が好きだったから知ってたんだけど、深海棲艦との戦争って長かったから、やっぱり根も葉もない噂話から実際にあった話まで十把一絡げではあるけど色んな話があるんだって。

 ()()()、私が聞いた露国の話はこんなだったわ。

 

 ある日、とある漁師が人魚と見紛うばかりに白く美しい女が海に浮いてるのを見つけた。

 最初は死体かと思ったんだけど、息がある事に気づいた漁師はその女を引き上げて家に連れ帰って介抱したんだって。

 

 後はなんとなく想像がつくでしょ?

 その漁師はその女と所帯を持ち、二人の間には娘が生まれたそうよ。

 

 その数年後。

 その親子に悲劇が起きた。

 母親が出掛けているのを見計らったように現れた、露国政府の者だと名乗るコート姿の一団が娘を寄越せと言ってきたの。

 当然、父親は反対したわ。

 その結果、父親は娘の目の前で撃たれて命を失った。

 

 しかも運が悪いことに、父親が撃たれるタイミングで母親が帰ってきてしまった。

 その後何が起こったのかなんて簡単に想像できるでしょ?

 

 夫を目の前で殺され、愛娘を攫われそうになった母親は、夫と娘にひた隠しにしていた本性を現し、その場にいた娘以外の人間を皆殺しにしたの。

 半壊した、化け物にしか見えない艤装を呼び寄せてね。

 

 

 ~戦後回想録~

 奇兵隊総隊長。神藤 桜子大佐へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーー 

 

 

 「それで?その深海棲艦の母親はどうなったの?」

 「露国の艦体に殲滅されたようです。残された娘の行方に関しては、その時の戦闘に巻き込まれて死んだというパターンと、母親を殲滅した艦隊に保護されたというパターンがあるのですが……。お姉様、どうしてこのタイミングでこの話が聞きたいと思ったんですか?」

 「アイツを見てたらなんとなく……ね」

 

 いや、確かめたくなっただけ。

 沈みかけた日に照らされて、艤装を背負ったままの響を肩に担いで大型海上輸送機に入って行った、黒いタートルネックシャツの上にい長袖シャツ、その上に白いロングコート、さらに空色のケープを着用して頭にはウシャンカをかぶった、ガングートと同じ琥珀色の瞳を持つ艦娘を見てたら以前聞いた話をもう一度聞いて確かめたくなったの。

 私の直感が、正しいかどうかを。

 

 「どれくらい経った?」

 「ちょうど一時間ですお姉様。突入しますか?」

 「ええ、フィナーレに打ち上げる予定の花火を合図に突入するわ。ただし、民間人に戦闘を気取られる訳にはいかないから重火器の使用は禁止よ」

 「そ、そんな殺生な!久々の戦闘だからホローポイント弾を詰めて来ましたのに……」

 「我が儘言わない。それに、アンタの傘は鉄製なんだから……って、今ホローポイント弾って言った?」

 

 桃が得物としている番傘は、見た目は番傘だけど布の部分(こま)は防弾、防刃仕様で、親骨、受け骨の部分は鋼鉄製。更に先っぽの石突きからシャフト、手元にかけての部分には機関銃が仕込んであるの。

 で、しまったと言わんばかりに口元に左手を添えて「聞き間違いですわお姉様」とか言ってる桃が口にしたホローポイント弾とは弾丸の一種で、もの凄く簡単に説明すると当たった対象の内部で炸裂したり膨張したりして人体を破壊する凶悪な代物よ。

 もっと詳しく知りたい人はいんたーねっととやらで調べてみると良いわ。すぐに教えてくれるらしいから。

 

 「お姉様!輸送機のエンジンが!」

 「気づかれた?いや、ガングートの奴がヘマしたわね」

 

 花火が上がり、さあ突入だと腰を浮かしかけた途端に輸送機のエンジンが音を立てて回り出した。

 このままじゃ逃げられるわ。

 あまり目立つ事はしたくなかったんだけど、こうなったら仕方ないか。

 

 「桔梗!菘!やりなさい!」

 『『了解!』』

 

 私の命を受けて、輸送機の両翼の傍に身を潜めていた桔梗と菘が飛び上がり、輸送機の翼を根元から断ち切った。

 念のために、輸送機内では得物が長すぎて思い通りに戦えない二人を待機させといて正解だったわ。

 

 「突入するわ!ついてきなさい桃!」

 「はい!お姉様!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 お姉様の合図で突入したら、すでに輸送機の内部は惨憺たる状況でした。

 具体的に言いますと、内壁にこびり付いた人だったと思われる残骸と、肩で息をしながら片膝を突いたガングートさん。

 そして、そのガングートさんをタシュケントさんが冷めた瞳で見下ろしていたんです。

 

 ええ、私もその光景が信じられませんでした。

 ガングートさんもタシュケントさんも艤装を背負った状態なのに、見た限りではタシュケントさんが一方的にガングートさんを痛めつけた後のように見えたんですから。

 

 ですが、その後のお姉様とタシュケントさんの戦闘を見て納得するしかなくなりました。

 まさか、お姉様をあそこまで追い詰めることができる人がいるなんて、その時まで思いもしませんでしたから……。

 

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦春風。春日 桃少尉へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 「輸送機の翼を破壊したのは君かい?紅い魔女(Красная ведьма)

 「露国語の部分はなんて言ったのかわかんないけど、翼を落としたのは私の部下よ。え~っと、タスケント……だっけ?」

 「タシュケントですお姉様」

 

 訂正どうも。

 でもわざとだからね?あくまでタスケ……タシュケントを挑発するためにわざと間違えたんであって、けして素で間違ったわけじゃないわ。

 

 「それにしても、無駄に広いわねこの輸送機。ルスラーンだったっけ?」

 「それを海上輸送機に改装した物さ。マイナーチェンジ版と言えば良いかな?」

 「ふぅん。こんだけ広いならうちにも一機欲しいわね」

 

 どれだけ広いかと言うと、側壁から反対の側壁まで軽く7~8m。奥行きなんか10mはあるんじゃないかしら。軽く運動するくらいなら十分な広さだわ。

 

 「さて、それじゃあ始めよっか。ガングートは邪魔だから、ソッチの隅で体育座りでもしてなさい」

 「一応聞くけど何をだい?Красная ведьма」 

 「いやいやいやいや、誘拐計画がバレ、首謀者っぽいアンタが裏切り者のガングートを処罰してる場面に私が踏み込んだらバトルしかないに決まってんでしょ」

 「呆れた……。君は同士ガングートから聞いていた以上の戦闘狂(Боевой энтузиаст)なようだ」

 

 だから露国語を混ぜられたらわからん!私と言葉を交わしたいなら100%日本語で語れ!

 日本文化は愛するけど他国の文化は割とどうでもいいのがこの桜子さんなんだから!

 と、内心ツッコミを入れながら、私に言われた通り機の最後尾辺りで体育座りしたガングートを見て軽く吹きかけてしまった。

 

 「油断するなよ桜子。タシュケントはシステマの達人だ」

 「歯磨き粉だったっけ?」

 「それ、本気で言ってないよな?」

 「あ、あったり前じゃない!心配しなくても、アンタがボコられてる時点で油断なんてしてないわ」

 

 私の記憶が確かならシステマとはデンター……じゃない、近代戦における様々な状況を想定した露国の実戦的格闘術。いや、殺人術と言って良い。

 しかもタシュケントは艤装を装備した状態。いくら海上ではないと言え、単純な膂力だけでも『狩衣』を装備した今の私を上回るわ。

 

 「ふぅん。本当にあたしとやるつもりなんだ。しかも、そんな玩具で」

 「あ~あ、負けフラグ立てちゃったわねタシュケント。私の得物を玩具呼ばわりして私に勝てた奴はいないのよ?」

 「へぇ、それは恐ろしい……ね!」

 

 私が刀の柄に右手を添えるのとほぼ同時にタシュケントが踏み込んできた。しかも右拳のオマケ付き。

 狙いは私の左手かしら。

 玩具呼ばわりはしても、私にコレを使わせるのは脅威だと判断して攻撃手段から潰しに来たのね。

 

 「判断は良い。でも、ちょっとだけ遅い」

 「……っ!」

 

 タシュケントの拳が届く前に私は、タシュケントの首目掛けて刀を振り抜いた。

 その結果タシュケントは踏み込みをキャンセルして踏みとどまり、上体を起こす事で私の一刀を回避したわ。

 いや、厳密には回避して切れてないか。

 私の一刀は、確かにタシュケントの『装甲』を斬ったんだから。

 

 「それも特殊な兵装なのかい?いくら海上じゃないとは言え、あたしの『装甲』を斬れるなんて驚いたよ」

 「別に特殊な物じゃないわ。ただ古いだけの日本刀よ」

 

 深海棲艦を傷つけられるのは艦娘だけじゃない。 

 それは本来の歴史で失われている物。有名どころで言うと実艦の大和ね。そして、私が手にしているこの大刀も同様。

 この事に気付いたのは偶然だったわ。

 神風に特訓つけているときに、力場を大して纏わせてなかったのに神風の『装甲』を斬ることが出来たの。

 あの時は、ガチであの子の首を刎ねそうになったから焦ったわよ。

 

 「アンタはこの機を壊さないために砲が使えない。更にスペックは激落ちしてる。対する私は制限がない上にアンタの『装甲』を楽に斬れる。降参するなら今の内よ?」

 「降参?面白い冗談だね」

 

 まあそうよね。

 アンタからしたら、それでも自分の優位性は揺らいでいないんだもの。

 でも私はそこらの腕自慢とは訳が違う。

 私は数々の死線を力尽くで引き千切り、鬼級並の力を持ってた野風さえ打ち破って今も生きてる桜子さんよ。

 だから、例え性能で圧倒されていようと負けはしない。私が行く道には、常に勝利の風(神風)が吹き荒れてるんだから。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 最初の内は、むしろお姉様の方が押していました。

 そもそもリーチが違ってましたし、お姉様が得物を打ち刀から大刀に変える過程で会得した大刀術と、元帥様から仕込まれていた抜刀術の速度と威力は物凄かったですから。

 

 ですが、十数合ほど打ち合った頃になって形勢が逆転しました。

 はい、お姉様が逆に押され始めたんです。

 

 間合いを見極められ、懐に入り込まれ、恐らく数千馬力に及ぶ打撃を受け続けて、お姉様は海上輸送機の壁にめり込むほど打ちつけられて血反吐を吐きました。

 

 私はと言いますと、そんなお姉様が力無く壁にもたれ掛かる様子を目の当たりにして発狂するくらいしかできませんでした。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦春風。春日 桃少尉へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 「いやぁぁぁぁぁぁ!お姉様!お姉様しっかりして!お姉様ぁぁぁぁぁ!」

 

 桃が叫んでるのが聞こえる。

 桃の狂ったような絶叫が、途切れかけていた私の意識を呼び戻してくれた。

 何が起こった?

 どうして私の身体は動かない?

 いや、考えるまでもない。タシュケントの一撃が私の腹部に決まり、私を輸送機の壁まで吹き飛ばしたから私の身体は動かないんだ。

 狩衣を着てなかったら、壁に着いた赤い染みの一つになってたのは確実ね。

 

 「おのれよくも……。よくもお姉様を!」

 

 桃の仕込み傘の発砲音が耳に響く。

 きっと、私がやられたことで錯乱して乱射してるんでしょう。装弾してるのがフルメタルジャケットじゃなくてホローポイント弾で良かったわ。

 もし前者なら、跳弾して私にも当たってたかもしれないから。

 

 「やめなさい桃。私なら大丈夫だから」

 「へぇ、まだ生きてたんだ」

 「あったり前でしょ。私は絶対に死んだりしないんだから」

 

 正直に言えば見栄を張った。

 私が食らったタシュケントの攻撃はたった一発。そのたった一発で私の内蔵はシェイクされて血反吐まで吐いたし、足にも腕にも力が入らない。その上、視線すら足元から上げられないわ。

 壁に体重を預けてるとは言え、立ててるのが不思議なくらいよ。

 

 「そんなにあの駆逐艦が大事かい?君達からしたら、数いる駆逐艦の一人だろう?」

 「は?アンタ何言ってんの?」

 「何って……。君はヒビキを助けるために……」

 「違う。違わないけど違うわよタシュケント」

 

 私は「助けてれくれ」と頼まれたからここにいるの。

 ガングートに、「アイツらを助けてれ」ってお願いされたから、陸と大差ないとは言え艤装を装備したアンタの前に立ってるの。

 ガングートが言った『アイツら』の中に、アンタが入ってることに気づいちゃったから。

 

 「この任務が終わったら母親を解放する。そう言われてるんじゃない?」

 「な……!?」

 

 なんでそれを?それとも何の事だ?って言おうとした?まあ、アンタがどっちを言おうとしたのかなんてどうでも良いわ。

 私はただ、ガングートから得た情報と桃から聞いた話、そして自分の直感を総合して導き出した想像を披露して時間稼ぎをするだけよ。だって、今の私にはそれくらいしかできないからね。

 

 「食べ物の差なのか人種の違いなのか知らないけど、アンタってそのなりでまだ12歳なんだってね」

 「だから何さ。それが今何の……」

 「関係ならある」

 

 私はガングートから持ちかけられた誘拐計画の阻止を受諾した後、責任者であるタシュケントの情報を識ってるだけ寄越せと言った。

 それによると、タシュケントがFSBに入ったのは6歳になるかならないかの頃、そして若干12歳という歳でシステマの達人だということ。

 そしてFSBに入る、いえ、拉致されて構成員として育てられる前は両親と共に海辺の小さな町で暮らしていたという過去。

 桃の話を思い出したのは正確にはこの時ね。

 この時タシュケントの情報と以前桃から聞いた噂話が、私の頭の中で紐付けられた。

 

 「アンタは母親を前にしてどうしたいのかしら。甘えたい?それとも、自分を今みたいな境遇にした元凶である母親に復讐したい?」

 「何を言ってるのか理解できないね。君は時間稼ぎがお望みなのかな?」

 

 大正解。

 この機に、贅沢を言えば刀を振れるくらいには体力を回復させたい。でも、それは無理でしょうね。

 私が攻撃する意志を見せれば、タシュケントは今度こそ私を肉塊に変えるでしょう。

 ならば、口撃あるのみだ。

 

 「アンタの母親ならとっくに死んでるわよ。アンタがFSBに拉致られた日にね」

 「そん……な!」

 

 嘘だ!とでも言いたそうな感じね。

 タシュケントが今だ顔が上げれない私にもわかるくらい動揺したわ。

 子供を精神的に追い詰めるのは本意じゃないけど、この場を切り抜けるためならなんだってしてやるわ。

 

 「日本にもアンタと似たような生まれ方をした艦娘はいるわ。ねぇ?桃」

 「え、ええ。たしかに日本にも深海棲艦とのハーフと噂されている艦娘はいます。たしか、特型駆逐艦の誰かだったと記憶していますが……」

 

 実際はいない。

 それは桃の話を思い出してすぐ部下に調べさせた。その結果、深海棲艦と恋仲になった男はいたけど、その二人の間に子供は生まれなかった。生まれる前に不幸な結末を迎えたらしい。

 だから日本の話の場合は完全に噂。

 でも、今のタシュケントにはこんな不確かな情報で十分すぎる。

 

 「桜子、その特型駆逐艦とはまさか……」

 「さあ?それは想像にお任せするわ」

 

 ようやく顔を上げる余裕が出来たからタシュケントを見てみると、ガングートと同じく私から向かって左側、唇をワナワナと震わせながら機首の方へと視線を向けていた。

 つまり響はあの壁の向こう。

 更に、その反応は私の想像が合っていると言ってるようなもの。

 

 「哀れねタシュケント。とっくに死んでる母親を人質にされて良いように使われ、自分と同じかもしれない子をアンタと同じ目に遭わせようとしてるなんて」

 「う、うるさい!君が言ったことは全部……!」

 「出鱈目かどうかはアンタが一番わかってるでしょ!」

 

 腹部の痛みに堪えながらした一喝で、タシュケントは唇を噛んで黙り込んだ。

 きっと今、組織に騙されて良いように利用されてきた怒りと、母親を殺された憎しみをどう処理して良いかわかんないだと思う。

 一撃お見舞いできる程度の体力は戻ったし、決めるなら今しかないわね。

 

 「う、動くな!少しでも動いたら……!」

 「撃つ?良いわよ撃っても。それでアンタの気が晴れるなら撃ちなさい」

 

 私は一歩づつ、ゆっくりとタシュケントに近づいた。

 でも、タシュケントは右舷艤装の砲を私に向けてるのに撃つ気配はない。いや、撃てない。

 装甲すら維持できないほど私の話で動揺した今、撃てば私が言ったことが真実だと自ら認めるようなものなんだもの。

 僅かながらも、私の話を嘘だと疑っている今のタシュケントにそれは絶対にできない。

 

 「マーマは本当に死んだの?(Твоя мать действительно мертва?)もういないの?( Не так ли уже?)

  

 私がタシュケントの目の前に立った途端、怯えきったような瞳を私に向けてタシュケントがそう言った。

 だから私は露国語がわかんないから何て言ったかわかんないっての。

 でも、この子の瞳には憶えがある。

 桜は私や亭主より先に寝ちゃうから、寝室に寝かせて私と亭主は別室でイチャイチャ……もとい、テレビなんかを見ながら談笑したりするんだけど、たまに桜が起きちゃうことがあるの。

 今のタシュケントの目は、その時の桜に良く似てる。

 私と亭主がいない不安と恐怖に怯えて私たちを探すときの桜に。

 故に、言葉はわからなくても何て言ったかはなんとなくわかる。だから、ここで最後の一撃をアンタに喰らわせるわ。

 だから覚悟しなさいタシュケント。今からこの戦場に、神風を吹かせてあげる。

 

 「ええ、アンタのママはもういない」

 

 私は泣き始めたタシュケントを抱き締めてそう返した。

 母親を求めて、ずっと迷子になってたタシュケントを胸に抱いて頭を撫でてあげた。

 いや、撫でたくなったのかな。

 

 「じゃああたしはどうしたら良いの?(Тогда что мне делать?)これからあたしは……(Я с этого момента ...)

 「うちに来なさい」

 「うち……に?」

 「そう、うちに。言っとくけど奇兵隊にって意味じゃないわよ?」

 「じゃあ……」

 

 どういう意味?

 とでも言いたげに、首を傾げて私を見上げるタシュケントは年相応の子供に見えた。

 その顔を見てたら、お母さんの気持ちがわかったような気がしたわ。

 もう十年以上前、身寄りがなかった赤の他人の私を家族に迎えると言ったお母さんの気持ちが。

 

 「私がアンタのママになってあげるって言ってんのよ」

 「いや、え?でも……」

 

 わかんない?わかんないか。

 ガングートも「どうしてそうなるんだ?」って言いたそうな顔して私を見てるし、このまま戦闘を終わらせるためにも説明すべきなんでしょうけど……お腹が痛くてそれどころじゃないのよねぇ……。

 

 「簡単な事ですよタシュケントさん。慈悲深いお姉様は貴女を養子にしてくださると仰ってるんです」

 

 ねえ桃。だいたいその通りだけど『慈悲深い』の部分は蛇足じゃない?

 たしかに、菩薩も平伏すほどの慈悲深さに定評があるのがこの桜子さんよ?

 でも、この空気でそれ言っちゃったら恩着せがまし過ぎない?人によったら挑発と受け取りかねないわ。

 

 「あたしを養子にって……。でも、そんなことをしてこの人に何のメリットが……」

 「メリット?今のお姉様が、そんな下世話なことを考えてるように見えますか」

 

 桃にそう言われて、私に視線を戻したタシュケントは心底驚いたような顔をした。

 私は今どんな顔をしてるんだろう。

 痛みのせいで意識が飛びかけてるけど、驚いた後に嬉しそうに頬を緩ませて私の豊満な胸に顔を埋めて言ったタシュケントの言葉を聴いて、少しだけあの時のお母さんに近づけたような気がして嬉しくなった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 桜子が意志を失ったのはそのすぐ後だ。

 その後は、FSBの響拉致推進派の粛清やタシュケントの退役後の処遇を桜子に一任するための工作等々で大忙しだと思っていたんだが、()()()すんなりと事が運んだから今に到ると言う訳だ。

 

 桜子は「あのクソ親父、またいらんお節介を……」とか言っていたが私には意味がわからなかった。

 いや、理解してはダメな気がした。

 

 だが、その工作が終わってからのタシュケントは見違えたように溌剌としていた。

 ああ、それまでの作り物の笑顔ではなく、心の底から幸せそうに笑えるようになったよ。

 

 そうだな。

 桜子に助けを求めて正解だった。

 何故ならタシュケントは、意識を失った桜子を抱き抱えながら、こう言ったんだ。そう、「Спасибо」とな……。

 ああ、聴き取れなかったか?

 少しだけ日本のイントネーションに近づけて言うとスパシーバ。

 つまり、『ありがとう』という意味だ。

 

 

 ~戦後回想録~

 元ガングート級戦艦一番艦。ガングートへのインタビューより。

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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