と、言う訳でギリギリになってしまいましたが、十四章の投稿を開始します(・∀・)
第百三十六話 新・天号作戦
紫印円満中将。
戦時中、最も活躍した提督は誰かとなった場合、真っ先に名前が挙がるのが彼女である。
彼女は正化二十四年にわずか十歳で二代目満潮として横須賀鎮守府に着任し、正化31年に任期の満了をもって提督補佐として横須賀鎮守府に再着任した。
そのわずか一年半後の平成二年。
先代横須賀鎮守府司令長官が元帥に昇進するのと時をほぼ同じくして少将に昇進。二代目横須賀鎮守府司令長官となった。
彼女が司令長官に昇格すると同時に始まった過剰なまでのメディア露出のせいで、当時は『元帥の愛人』や『お飾り提督』など、彼女を誹謗中傷する言葉がネット上を飛び回った。(しかし一方で、可憐な容姿のせいか一定数のファンは獲得しいていた)
彼女が提督として初めて一般から評価されたのは、平成三年に彼女が立案、陣頭指揮を執った敵南方艦隊迎撃作戦。通称『捷一号作戦』後である。
米軍の協力はあったにしろ、彼女は自軍の3倍以上の戦力で攻めてきた敵南方艦隊を犠牲を出しながらも見事撃退し、米軍による南方中枢撃破にも多大な貢献を果たした。
その情報が一般に知らされた当初は海軍によるプロパガンダではないかと疑われもしたが、その噂は後の『欧州遠征』、そして人類と深海棲艦の戦争に終止符を打った欧州棲姫討伐作戦。通称『新・天一号作戦』の成功をもって払拭された。
~艦娘型録~
歴代鎮守府司令長官。紫印円満中将の項より抜粋。
ーーーーーーーーーーーー
聴いてて苦痛な話題ってあるじゃない?
人によってウザいと感じる話題は色々あると思うけど、大多数の人がウザがってイラつくのは自慢話じゃないかしら。
例えば……。
「バ、バニーガール姿で執務ですと!?」
「そうだ。胸のサイズこそ貴様の嫁には劣るが、バニーガール姿になったうちの嫁は脚線美をこれでもかと強調されてエロさよりも美しさを感じてしまったよ」
今現在、地下の第三会議室で先生と佐世保提督が人目もはばからずに繰り広げている嫁自慢もそれに含まれるわね。
会議が終わったから気が抜けたんでしょうけど、まだ全員この場に居るんだから少しは遠慮しなさいよ。
「うちの扶桑も負けていませんぞ。ついこの間など、学生時代のセーラー服を引っ張り出して着てくれたのですからな」
「うちの嫁はセーラー服姿が普通だが?」
「わかっておられませんな元帥殿。普段は着てないから良いんじゃないですか!しかも!学生時代よりも艶やかに育った扶桑にとって当時のセーラー服はサイズが小さく、普通に着ているだけなのにマンガやアニメのように現実味のないエロさが醸し出されるのですよ!」
佐世保提督の熱弁で先生が「な、なるほど、一理ある」とか言って納得しちゃったから佐世保提督の後ろにいる扶桑に視線を移すと、扶桑は伏せていてもわかるくらい顔を真っ赤にしてプルプルと小刻みに震えてた。
きっと夫婦間の秘め事を大勢の前で暴露されて恥ずかしいんでしょうね。
大淀がこの場に居たら同じような反応をしてたかも。
「あの~提督」
「ん?何?大和」
「もう下がってもよろしいですか?」
今回の会議の主役とも言える役回り(と言っても主に話したのは窮奇)をしてくれた大和が、呆れ半分苛立ち半分って感じの顔をして出て行きたい旨を伝えてきた。
呆れてるのは先生と佐世保提督の嫁自慢に対するモノとして、苛立ってるのもそうなのかしら。
これから個人的に話したいことがあったのに誘いづらい空気をこれでもかと醸し出してるわ。
「もう少しだけ時間をくれない?場所を移して話したい事があるのよ」
「私とですか?」
「そう、アンタと」
今のセリフで、大和が苛立ってる原因がなんとなくわかった。
たぶん大和は、会議の場に呼ばれはしたものの、用があったのは自分ではなく窮奇だったことに臍を曲げてるんだわ。
気持ちはわからなくもないけど……。
今回の海外艦も交えての会議は後の欧州遠征、延いては欧州中枢攻略するために必要な情報を窮奇から聞き出す事が目的の一つだったんだから、その情報を知らない大和には涙を飲んでもらうしかないわね。
「会議での事をフォローするって訳じゃないけど、この話のメインはアンタよ」
「私がメイン……。ならばお聞きします」
最近わかってきたことだけど、大和は意外とプライドが高い。
それは育ちのせいもあるんでしょうし、大和本人が一般人と比べるのも馬鹿らしくなるくらいの才媛だってことも手伝ってるんだと思う。
実際、大和は言動が破天荒ではあるものの教養はあるし頭の回転も早い。澪や矢矧なんかが大和の言動を理解できないのは、大和の思考の早さについていけてないだけだと私は分析するわ。
「ちょっと待って頂きたい!お二人ともご自分の嫁こそが最高と言わんばかりだが、俺の嫁であるエマも負けないくらい最高だ!」
「ほう?ポッと出の貴様が円満を語るか。ならば聞いてやろう。貴様は円満のどこが最高だと言うんだ?」
なんか、大和と話してる間に先生と佐世保提督の嫁自慢にヘンケンが参戦してるんですけど?しかも、籍も入れてないのに嫁にされてるし。
「パンツ一丁でTシャツ。しかもシャツの裾で股間を隠す円満。これに比べたら、バニーガールとかセーラー服などの余計なオプションがなければ魅力を増せない貴方方の嫁など足元にも及ばない」
「ちょ、ちょっとヘンケン!」
「なんだエマ。俺は今大事な話をしているんだから君は黙っていてくれ」
キリッ!とでも聞こえてきそうなほどいい顔でヘンケンはそう言ったけど、ヘンケンと満潮にしか見せたことがないプライベートの痴態を大勢の前で暴露されて黙っていられる訳ないでしょ!
「なるほど。確かに至高の一つと言えなくもない」
「同感です元帥殿。叩けば折れそうなほど華奢で子供と見間違えそうになるほど愛らしい紫印提督がそんな格好をすれば大半の男は心を奪われるるでしょう」
誉められてるはずなのに欠片も嬉しくないんですが?
と言うか、今回の会議でも散々敵に回ってくれた佐世保提督に愛らしいとか言われるのが妙に気持ち悪く感じるわ。
「だが、まだまだ。いや、君はあまりも若い!若すぎる!」
「な……!それはどういう意味だ!」
「始めに言っておくが、コレばかりは経験がモノを言う。君と円満のように経験がない者同士にはハードルが高いのも、思い付きもしないのも承知している」
ちょっと先生、どうして私とヘンケンが未経験だってこの場でバラした?
そりゃあ今更よ?
私たち二人が処女と童貞のカップルだって事は周知の事実でしょうよ。でもみんな、知ってはいてもそこら辺を突っ込んで確認したりはしなかったのよ?
それなのに大声でバラすもんだから、みんなから憐憫の眼差しをこれでもかと浴びせられることになちゃったじゃない!
「男女が深い仲になって初めて実現する究極のコスプレ。その名も、『裸Yシャツ』だ!」
渋い声で宣言でもするようにそう言った先生の背後に稲妻が走ったような気がした。
いや、そう錯覚しただけか。
海軍元帥である先生がクソ真面目な顔して「裸Yシャツだ!」なんて言った事実が信じられなくてショックを受けたのよ。
それは私だけじゃない。
ショックを受けてないのは先生と、その隣で腕を組んで「もちろん男物ですな。わかります」とか言って感涙までしてる佐世保提督くらいよ。
他のみんなは心底呆れたような顔をしてるし、ヘンケンなんか膝から崩れ落ちちゃったわ。
「俺の……完敗だ」
「は?」
「すまないエマ。あの時の君は素晴らしかったが、裸Yシャツには敵わない」
ちょっと何言ってるかわかんない。
先生と佐世保提督が彼の肩に手を添えながら「その内君もお目にかかれるさ」とか言って励ましてるのも意味分かんない。
ただ一つわかるのは、男ってのは私が考えてた以上に馬鹿なんだって事くらいね。
ーーーーーーーーーー
大会後の会議の内容が知りたい?
知りたいって言われても、私は入院しててあの会議に出席してないから詳しくは知らないわ。って言うか、知ってても教えられる訳ないでしょ?
え?欧州への遠征に関する会議じゃなかったのかって?
それは間違いないと思うわよ?
たぶんあの場で、ノルウェー海のど真ん中にいた欧州中枢を攻略するための作戦を円満さんが欧州艦達とすり合わせしてたんだと思う。
でも私は会議の内容よりも、その日の晩にお見舞いに来てくれた円満さんが言った「男って馬鹿ばっかり」ってセリフの方が気になるわね。
いったいあの日、会議の場でどんな話があったのかしら。
~戦後回想録~
元駆逐艦 満潮へのインタビューより。
ーーーーーーーーーー
「よろしかったのですか?提督」
「辰見さんと恵を残してるから平気よ。それより悪かったわね大和。気分悪かったでしょ?」
「いえそんなことは……」
ありません。
とは、精根尽き果てたという様子で執務室のソファーに腰掛けた提督には言えませんでした。
いや、私が不満に思っているのは我が儘みたいなモノなのですから、あの面子相手に臆することなく自分の考えを披露し、佐世保提督や大湊提督に反対されながらも理詰めで納得させたこの人に文句を言ってはなりません。
「お茶でも淹れましょうか?」
「お願いしようかな。ああそうだ、給湯室の冷蔵庫の奥に間宮羊羹が隠してあるからそれも出してくれない?糖分を補給したいわ」
「わかりました。では少々お待ちください」
そう言い残して給湯室でお茶を淹れ始めたのですが、私が給湯室に入ると張りつめていた提督の気配が弛みました。ボソボソと何やら独り言を言ってるのも聞こえます。
もしこの場に居るのが私ではなく満潮教官だったなら、提督は思いっきり甘えるなどして憂さを晴らしたのでしょうか。
「お待たせしました。羊羹は二切れで良かったですか?」
「良いけど……。一切れがデカくない?」
「そうですか?四等分したらこうなったんですが……」
「いやいや、普通一切れって言ったら15~20mmくらいでしょ。一棹の四分の一を一切れって言い張るのなんてアンタくらいよ?」
ふむ、確かにその位の大きさで切るのが一般的なようですが、我が大和家の一切れはこの大きさです。
個人的は一棹を一切れと言い張りたいくらいですよ。
ですが、お顔が引き攣っているのを見る限り、提督からすれば量が多いようなので……。
「切り直してきましょうか?」
「そこまでしなくて良い。一切れあげるから食べて」
「はい喜んで」
正に棚からぼた餅。
二切れでは食い足りないと思っていたから僥倖です。これも私の日頃の行いが良い証拠ですね。
「美味しそうに食べるわね。見てるだけで胸焼けがしてくるわ」
「なら、その一切れも頂きましょうか?」
「一棹丸々食う気か。いくら艦娘だからって食べ過ぎれば太るわよ?」
「それなら大丈夫です。食べ過ぎて大きくなったのは身長と胸だけですから」
「あ?」
おっと、提督に胸の話は禁句なのをすっかり忘れていました。愛らしいお顔をこれでもかと歪ませて睨んできてます。
ここは私への話を促して怒りを静めてもらいましょう。
「ところで提督。お話とは何なのですか?」
「ああ、すっかり忘れてた。話ってのは、来年度に編成予定の艦隊の旗艦をアンタにやってもらいたいのよ」
「新編成の艦隊旗艦を私に……ですか?」
「ええ、各提督の説得や異動の手続きとかはまだだけど、昨日のメンバーで艦隊を組もうと考えてるわ」
昨日のメンバーと言うことは、かつての私が最後を共にしたメンバーと言うこと。
どうやら提督は、私が無理を押して敵艦隊を撃滅した理由をわかってくれたみたいですね。
ですが、一つだけ注文をつけたいです。
「冬月もメンバーに加えてください」
「そう来ると思ってたわ。でも残念なことに、冬月は今年いっぱいで退役が決まっているの。次の冬月が決まるまで不可能よ」
「そう、ですか……」
ならば仕方ありませんね。
辞めるつもりの者を無理に引き留めても良い事にはなりません。ここは大人しく、次の冬月が着任するのを待ちましょう。
「それと編成後、特別なコーチをつけて艦隊自体の練度を高めたいと考えてる」
「特別なコーチですか?」
「ええ。私の予想ではアンタ達は敵陣のど真ん中に斬り込む事になる。だから対空、対艦など全てにおいて並以上になってもらう必要があるからね」
ふむ、提督はどのような戦況を予想しているかまではわかりませんが言っている事は理解できます。
特に私の役割を考えれば、欧州中枢の更に奥へと進む必要がありますからね。
でもそれなら……。
「『波動砲』で吹き飛ばせば良いのではないですか」
「おバカ。会議で窮奇が「穴の中はどうなっているかわからない」って言ってたでしょ?その中に入るために、一発撃ったらほとんど行動不能になる『波動砲』を頼りに突入する気なの?」
「でも手っ取り早いですし……」
ダメなのでしょうか。
私は至極真面目に言っているのに、提督は「これだから戦艦は……」と言って頭を抱えてしまいました。
それに、突入した後の事は突入した後に考えればいいのです。
あ、『穴』と言えば……。
「窮奇の話を聴いていて疑問に思ったのですが、残りの二つはどうするのですか?」
「残りの二つ?」
「ええ、各中枢は『穴』を通ってこちらに来たと窮奇は言っていましたよね?ならば『穴』は各中枢に一つづつ。計三つ有るのでは?」
それなのに、会議では欧州中枢の『穴』さえ塞げば解決みたいな雰囲気で進んでいました。
それとも、ハワイ島中枢と南方中枢の『穴』は塞いじゃったんでしょうか。
「呆れた。窮奇は本当に何も教えてないのね……」
「と、言いますと?」
「他の出席者には書類で予め教えておいたんだけど……」
提督曰く、『穴』と仮称されているモノは正確には一つしかないそうです。にも関わらず、およそ十数年前に三カ所同時に開いた『穴』から中枢が出現しました。
これは『穴』が三つ叉の矛のような形状をしているかららしく、両脇の枝道とも言える二つは中枢の出現と同時に閉じ、残りの本道だけが今も存在しているのだと言うことです。
そしてこれが、欧州連合の戦力を持ってしても欧州中枢を打倒できない理由だとも。
「欧州中枢の役割は『調整』。つまり、単純に言えば虐殺よ。しかもその規模は億単位って話だから、当然必要な戦力も他の二つより多く必要になる」
「だから、『穴』は欧州中枢の元に有る訳ですね」
「そういう事。『穴』ってのは、窮奇が言うところの『むこう側』からエネルギー的なモノを受け取るための補給路でもあるわけ。実際、欧州連合は何度か中枢の首元まで迫った事があるんだけど、あと一歩言うところで全回されちゃったそうよ」
「全回?」
「そう、全回。全回復。中枢自身のダメージはもちろん、犠牲を出しつつ削った艦隊までもね」
なるほど、それで会議の内容が中枢を如何に撃破するより、如何に突破して『穴』に到るかに傾倒していたのですね。
今聞いた話が本当なら『穴』を塞がない限り不毛な消耗戦が続くだけ、イタチごっこの繰り返しですもの。
「だから世界連合とも言える規模の軍を囮に使い、私たちを突入させるわけですね」
「ええそうよ。囮は派手であればあるほど良いからね」
そう言った提督の瞳は少し揺らいでいました。
対欧州中枢戦の主導は欧州連合ですが、それでも艦娘、軍艦、航空機隊を合わせれば十数万にも及ぶ人の命を囮として使うことに提督は恐怖しているのでしょう。
彼女が感じている恐怖に比べたら、ただ戦えば良いだけの私たちの恐怖などちっぽけなモノなのでしょう。
それを包み隠し、決意表明でもするかのように提督はこう続けました。
「失われた過去の作戦名にあやかって、この突入作戦を『新・天号作戦』と命名します」と。
ーーーーーーーーーー
ええ、まるで過去にリベンジしなさいと言われたような気分でした。
あの時のアレが新・天号作戦だったのか?
確かにそうですが、ノルウェー海戦で私たちが突撃したのは正確には『二号作戦』です。
一般的に有名な一号作戦はリグリア海戦でワダツミごと突撃した時ですね。
はい。
お察しの通り、提督は最後のあの状況さえ予測していたんです。
提督は「たまたまそうなっただけ」と謙遜していましたが、初めから提督の本命は二号作戦ではなく一号作戦だったのでしょう。
~戦後回想録~
匿名希望の元艦娘へのインタビューより。
主要キャラ人気投票
-
朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
-
神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
-
大和(影が薄い三部主役)
-
紫印 円満(実質三部の主役?)