艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百三十七話 もう少し歳を重ねればわかりますよ

 

 

 

 

 

 

 クリスマスとは、イエス・キリストの誕生を祝う祭であり、降誕祭ともいう。

 それと勘違いされがちだけど、クリスマスはあくまで誕生を祝う日であってイエス・キリストの誕生日じゃないの。

 まあ、日本じゃ性なる夜とか揶揄されてるくらいだから関係ないか。

 

 「関係ないのは私も一緒か……」

 

 今年はガチのキリスト教徒もいる海外艦を招いている関係もあって、鎮守府内に教会を急造して本場のクリスマス行事が開催されている。(各宗派の小競り合いは見なかったことにする)

 だから提督である私もまったくの無関係ってわけじゃないんだけど、私は仏教徒だからガチなのは遠慮させてくれと言い訳し、澪を生贄に捧げて上手くエスケープすることができた。

 そんな私は今、辰見さんと長門、鳳翔さんが毎年自腹を切って開いているクリスマスパーティーに八駆の子達と一緒に参加する前に満潮が用意してくれたお摘まみ(クリマスver)が載せられたテーブルの前で正座待機してるわ。

 

 「澪はミサ。恵はムツリムの集会。桜子さんは入院中。そして満潮はパーティーのあと八駆の部屋でお泊まり……」

 

 更に予想外の第三者による介入を回避するために、性なる夜を過ごす場所は自室を選択した。

 これで邪魔が入る余地はない……はず。

 いや、弱気になっちゃダメよ私!

 

 「格好だって気合い入れてるんだから!」

 

 私がチョイスした衣装はサンタガール&下着は18禁と銘打たれていても良いくらい挑発的な奴。

 艦娘時代に恵の口車に乗せられて買った物だからサイズが不安だったけどすんなり着れたわ。しかも身長があの頃より伸びてるせいで図らずもミニスカサンタになったしね。胸が全くキツくないのに少しだけ悲しくなったなぁ……。

 

 

 「それにお酒もバッチリ!」

 

 今夜のために取り寄せたのは『獺祭 磨き二割三分 発砲濁り酒』。

 720mlで7000円オーバーするお高いお酒だけど、一万円オーバーがざらなシャンパンよりはマシな気がするわ。

 それに、先生はあまり好きじゃないみたいだけど味も私好み。

 綺麗な甘味と泡立つ炭酸が爽やかな美味しさは男性には物足りないかもしれないけど女性ウケは良いはずよ。

 

 「更に布団もOK!」

 

 どのタイミングでその気になっても良いようにお風呂も沸かしてるし布団も敷いてる。万が一の妊娠に備えて避妊具&避妊薬も完備!さらにさらに、連戦時のエネルギー補給のために各種栄養ドリンクと精力剤も箱買いしてきたわ。

 

 「よし!準備に抜かりはない!」

 

 満潮には「円満さんは色恋が絡むとアホになる」ってよく馬鹿にされるけど、先の先まで見据えた準備をする私は正に提督の鑑と言っても良いわね。

 

 「なんならヘンケン来訪、即夜戦開始でも良いくらいだわ」

 

 いや、そうなるかしら?

 容姿にはそれなりに自信があるし、それプラス今日は「さあ抱け!」と宣言しているような格好。

 私を見た途端、ただでさえ今日の事を妄想してムラムラしてるはずのヘンケンがガー!って襲い掛かってくる可能性は高い。

 そしてそれは私も同じ。

 今時点で変に汗ばんでるし、夜戦時の妄想……もといシミュレーションを常にしてるせいで受け入れ体勢も万端になってる。ハッキリ言って前戯なんていらないくらいよ。

 

 「ん?待てよ?」

 

 しまった……私としたことが肝心要の物を用意してなかった。

 それはクリスマスプレゼント。

 これだけ準備したんだから、今夜この部屋で過ごす事自体がプレゼントと言えなくもないけど個人的にはプレゼントは別で贈りたい。

 でもどうする?

 今から鎮守府の外に買いに行くにしても、ヘンケンが来るまでに戻ってこられる可能性は皆無。かと言って、部屋の中に男性への贈り物に適した物は皆無。

 いや、一つだけあった。

 男性への贈り物にバッチリで、かつ私も同時に悦べるモノが。

 

 「たしか、満潮がラッピング用のリボンを買いすぎたって言ってた気がする」

 

 あった。

 部屋を軽く見渡しただけで、ビニール袋に入った大量のリボンを見つけることが出来たわ。

 後はこれを……。

 

 「楽しみにしててね、ヘンケン。人生で一番思い出深いクリスマスにしてあげるから」

 

 感涙して理性が吹き飛ぶであろうヘンケンを想像しながら、私は服を脱いでリボンを身体に巻き始めた。

 「私がクリスマスプレゼントよ」と、言うために。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 満潮教官から聞いてはいたのですが、あの提督に限ってそんな事はないと思っていました。

 たしかに彼女は胸の話題になると発狂に近い取り乱し方をする人ではあったのですが、私も身長の事を言われると似たようなものでしたので、コンプレックスに関わることなら仕方がないのかなと理解していました。

 

 ですが、アレは今だに理解できません。

 いくら提督の恋愛経験が貧弱だったと言ってもアレはおかしいです。狂ってるどころかバグってましたよ。

 

 あれは、クリスマスの雰囲気に馴染むことができずにふらふらと一人でお散歩をしている最中、憲兵さんに連行されそうになっていたヘンケンさんと遭遇したあと。

 

 伝言を頼まれて提督の部屋に行ったときのことです。

 まさか、()()もあの格好を見ることになるとは夢にも思っていませんでした。

 

 

 ~戦後回想録~

 匿名希望の元艦娘へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 「いっそ殺して……」

 「あ~……はい。気持ちはわからなくもないです……」

 

 正直に言うとわかりません。

 いえ、この痴態を見られて死にたくなる気持ちはわかるのですが、どうしてそんな痴態を晒そうと考えたのかが全くわかりません。

 

 「すみません……。ノックをするべきだったのでしょうが、あの物音と悲鳴を聴いてしまったので……」

 「うん、それは咎めないわ。ハッキリ言って自業自得だし」

 

 提督が今どんな状態かと言いますと、存在自体が18禁なのでは?と言いたくなるくらいスケスケで際どいピンク色の下着を身に着けた全身にリボンを簀巻きと言っても過言ではないほど巻きつけ、私の足元に転がって何かを諦めたような瞳から涙を滝のように流しています。

 コレたぶん、()()()と同じで自分で巻いたんですよね?それで動けなくなって転び、思わず悲鳴を上げてしまったのでしょう。

 転ぶ物音とその短い悲鳴を聞いて、提督の身に何か起きたんだと思って踏み込んだのは色んな意味で失敗でした。

 

 「え~っと、取り敢えず解きましょうか?」

 「お願い……」

 

 そこからはお互いに無言でした。

 私は何も言わず……いえ、かける言葉を見つけられずに黙々とリボンを解き、リボンから解放された提督はのろのろと立ち上がって脱ぎ捨ててあったサンタの衣装を着始めました。

 それはそうと、リボンを解いている最中にふと思ったのですが、提督って本当に綺麗な身体をしていますね。

 肌はきめ細やかで色が白く、痩せているのに最低限の肉はついているようでモチモチとして非常に触り心地が良かったです。

 

 「もう少し触っておけば良かったですね」

 「何をよ。もしかして私の身体?」

 「はい♪とても良い触り心地でした♪」

 

 あら?誉めたのに提督的には嬉しくなかったのか、自身の両手で体を抱き締めて私から距離を取ろうとしています。

 まるで、私に襲われるのを警戒しているかのように。

 

 「あの~……提督?どうして距離を取ってるんですか?」

 「だって襲われるもん!薄い本的なことされそうだもん!」

 

 ふむ、どうやら変な勘違いをされているようですね。

 たしかに私は下手な男性よりよほど上手く女性を悦ばせられる自信がありますが、私は別に同性愛者ではありません。女性の身体を弄くり回すのが好きなだけなのです。

 故に提督の心配は杞憂。

 求められれば気分次第でお相手しますが、嫌がる相手には手を出しません。たぶん。

 

 「だいたい、こんな時間に何の用よ。満潮なら八駆の子達と一緒にクリスマスパーティーに行ってるわよ?」

 「あ、提督の醜態を見たせいですっかり忘れてました。私はヘンケン提督の伝言を伝えに来たんです」

 「ヘンケンの?でもなんでアンタに伝言を……」

 「彼が憲兵さんに連行された現場にたまたま居合わせたからです」

 「はぁ!?連行された!?なんで!?」

 「それは恐らく……」

 

 私は仰天している提督にその時の事を話し始めました。

 すると、提督は最初現実を受け止めきれなかったのかポカンとし、話が進むに連れて泣きだしそうなほど顔を歪め、話が終わる頃には絶望しきっていました。

 まあ、恋人が自分と同じように身体にリボンを巻き付けて、更に憲兵さんに連行されたという話を聴いたらそうなりますよね。

 もっとも、二度もあんな格好を見せつけられた私は別の意味で絶望しましたけど。

 

 「だ、大丈夫……ですか?」

 「大丈夫そうに見える?」

 「いえ……見えません」

 

 だって肩を落としてちゃぶ台の前に座った提督は、上にある美味しそうな夕食をハイライトがオフになった瞳でひたすら見つめていますもの。

 

 「それで、ヘンケンは何て?」

 「え~っとたしか「エマに伝えてくれ!俺は必ず行く!だから待っていてくれと!」と仰ってました」

 

 憲兵さんに「黙れこの変態が!」とか「わいせつ物陳列罪で逮捕だ変態!」などと言われながらでしたけどね。

 で、伝言を聴いた提督はと言いますと、何故か嬉しそうに微笑んでます。

 身体にリボンを巻いたガチムキの変態に待っていてと言われて嬉しがるなんて、控え目に言って頭おかしいんじゃないでしょうか。

 あ、でも……。

 

 「提督も変態でしたね」

 「誰が変態だ。解体するわよ?」

 

 おっと、自覚無しですか。

 いくら恋人に見せるためとは言え、自身の身体にリボンを巻き付けるなんて十分変態と言えますよ?

 まあ、解体されると困るので言いはしませんけど。

 

 「じゃあ用は済んだでしょ?私はこれからヤケ酒するから出てって」

 「ここにいちゃ……ダメですか?」

 「はぁ?せっかくのクリスマスなんだから楽しんできなさいよ。あんまりこういうことは言いたくないけど、楽しめるのは今のうちだけよ?」

 「それはわかっているのですが……」

 

 私だって最初は楽しもうと思いました。

 実際ご主人さまがパーティーに誘ってくださったので最初の内は参加していましたもの。

 でも、艦娘達の楽しんでいる光景を見ているうちに居づらくなったんです。何故か私は、この場にいちゃいけないと思えてしまったんです。

 その結果、ヘンケン提督逮捕の現場に遭遇し、提督の醜態を目撃する事にもなったんです。

 

 「……まあ良いわ。じゃあ私の相手をしてもらうけど構わないわね?」

 「このお料理を食べて良いならお付き合いします」

 「いや、アンタそう言いながらもう食べてるじゃない」

 

 なんと、いつの間にか私は懐からマイ箸を取りだしてお料理を口に運んでいました。

 ですがそれも無理からぬこと。

 こんな美味しそうなお料理を目の前にして我慢しろなど拷問です。故に、私は無意識に手を出したんだと思います。

 だからけっして食い意地が張っている訳ではありません。

 

 「あ、そうだ。アンタ、いつ帰るの?」

 「いつ帰るも何も、今お相手を始めたばかりですよ?」

 「そっちじゃなくて、アンタの里帰りの話よ。正月に帰るんでしょ?」

 「里帰りですか?いえ、そんな予定はありません」

 

 里帰りとはお正月などによくある帰省の事ですよね?

 ですが、艦娘は戸籍を抹消されていますので里帰りどころか家族への連絡も許されなかったはずです。

 それなのに、何処から私が里帰りするなんて話が出てきたのでしょうか。

 

 「あれ?先せ……じゃない。元帥閣下から、「大和が里帰りするから予定を開けておいてやってくれ」って言われたんだけど……」

 「あのぉ~そもそも私、あの人と直接連絡が取れないのですが……」

 「それもそうよね。って事は、あの人ったらま~た肝心な部分を言い忘れたわね」

 

 などと呆れながら、提督はスマホを取りだして「ちょっと待ってて」と言い、何処かへ電話をかけ始めました。話の流れ的に元帥さんでしょうか。

 

 「あ、夜分遅くに申し訳ありません。大和の里帰りの事で確認したいことが……。え?明日改めて言うつもりだった?」

 

 ふむふむ。

 元帥さんの声はさすがに聞こえませんが、提督のリアクションから推察するにどうやら私の里帰りは軍からの命令みたいですね。

 名目上は『元総理との面会』だそうなので、元帥さん経由で私を里帰りさせようとしているのはお祖父さまでしょう。

 

 「わかりました。そのように手配致します。え?ヘンケンですか?彼なら……。いえいえ!ここにはいません!今は大和と一緒です!」

 

 ヘンケン提督なら今頃檻の中……は、どうでも良いですね。

 それよりも、お祖父さまは私に何の用があるのでしょうか。いや、用がなくても思いつきで帰らせようとしている可能性もあります。

 今は介護の関係で旅館の方で寝泊まりしているらしいですが、なにせあの人は「尻が撫でたくなった」とか「乳に挟まれたくなった」などのくだらない理由で山奥の家まで私を呼びつけていた人ですから。

 

 「はぁ……。疲れた……」

 「根掘り葉掘り聞かれたんですか?」

 「ええ、「ヘンケンとキスはしたのか?」とか「クリスマスだからと言って羽目を外しすぎるなよ」とか、酷いのになると「避妊はミスるなよ」なんて言われたわ」

 「ふふふ♪良いお父様じゃないですか」

 「いやいや、夜の性活にまで口出すなんて干渉しすぎでしょ。私って孤児だから知らないけど、実際の親もこんなに干渉してくるの?」

 「さあ?どうなんでしょう?でも……」

 

 私のお父様は旅館の番頭を務めていますが婿養子なせいか発言力が弱く、女将であるお母様とお祖父さまに頭が上がりません。

 故に、お祖父さまに溺愛されている私の行動にも余程の事がない限り口を挟みませんし、お説教の類もされたことがありません。

 ですが、私が何かする度に一番心配してくれるのはお父様でしたし、艦娘になると伝えた時に一番反対したのもお父様です。

 もっともその時は、お母様が私宛の請求書や私が艦娘にならずに旅館に留まった場合の金銭的なリスクと私が艦娘になって家を空ける場合のメリットを天秤にかけた結果をお父様に話して納得させちゃいましたけど。

 でもまあ、お父様はお母様がそんな打算的な言い訳をしてまで艦娘になる許可を私に出したんだと気づいていたから、渋々ながらも納得してくれたのでしょう。

 だからと言うわけではないですが……。

 

 「父親って、そんなものなんじゃないでしょうか」

 「ふぅん……」

 

 納得したのかそれともできていないのかわかりませんが、提督は少し頬を赤らめてお酒が注がれたグラスを口に運びました。

 この人は孤児だというお話なので、イマイチ親という存在が想像しきれないのでしょうね。

 子供の頃の私もそうでした。

 お母様とお父様のところに預けられてほどなく、養子だと知ってしまった時の私も実の親が本当はどんなものなのか想像しきれませんでした。

 ですが一緒に過ごす内に、私は血の繋がりのない私を実の子のように育ててくださったお父様とお母様のことを尊敬し、愛するようになっていきました。

 だから、きっとこの人も……。

 

 「もう少し歳を重ねればわかりますよ」

 

 と、私は怪訝な顔をする今の私よりも一つ年上の提督に見守るように言いました。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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