いません!
ここ最近、正確には年が明けてから横須賀鎮守府でおかしな事が起きています。
海外艦が空気の如く溶け込んでる光景は、私が大潮としてここに在籍していた当時から考えると十分異常なのですが、それでもこれはおかしい。
彼女が欧州連合の取りまとめ役として来日してたのは情報として識っていましたが、鎮守府のみんなの様子がおかしいと気付くまで存在を忘れていましたよ。
「ねえゴト。来年度の予算案をまとめた書類って何処にあったっけ」
「アレなら、ファイルにまとめて書棚に置いておきました」
「相変わらず気が利くわね。助かったわ」
そのおかしな事の原因は、正気を保っている私が近くに居るのも関係無しに円満の秘書艦のように振る舞っている瑞国所属の艦娘、その名もゴトランド。
そもそも所属も国も違うし横須賀鎮守府に来て日が浅いはずなのに、彼女を知らない関係者はほぼいなくなっています。
いや、それだけじゃありません。
まるで昔からずっとこの鎮守府にいたかのように異常なほど溶け込んでいます。
「円満は昔っから変なところが抜けてるから苦労するわ。私がしまってなかったら机の上に散らばったままだったんだからね?」
「はいはいごめんなさいね。でも今さらでしょ?私のそういうところはアンタがフォローしてくれる。バランス取れてるじゃない」
さて、皆さんは今の会話に違和感を感じなかったでしょうか。
な~んて、思わず居もしない第三者にそう訪ねたくなるくらい違和感バリバリの会話を、円満どころか結構な数の人がゴトランドと繰り広げてるんです。
あ、一応誤解のないように言っておきますが、円満とゴトランドが知り合ったのは欧州連合の艦娘が来日した先月が初めてですし、円満には私と恵以外に『昔から』と言えるほど古い友人は存在しません。
「澪からも何か言ってやってください!円満ったら来月には二十歳になろうってのに相変わらずなんですよ!」
「あ~うん。良いんじゃないかなぁ」
どうでも。
とまでは口に出しませんが、ゴトランドに話しかけられる度にそう言いたくなります。
だいたい、確かに来月の今頃は円満の二十歳の誕生日ですが、円満は二十歳になっても大して変わりません。精々、今までは周りの目を気にしてお酒を呑んでたのが大ぴらに呑むようになるだけですよ。
って言うか馴れ馴れしい。
私の態度を見たら相手にしてないって事くらいわかるでしょう?
「ねえゴト。悪いんだけど『猫の目』までお使いを頼んで良い?」
「『猫の目』に?」
「ええ、桜子さんにこの手紙を届けてもらいたいのよ」
「それは構わないけれど……」
できれば行きたくない。って感じかな。
まあそれもそうでしょう。
桜子さんを筆頭にあそこに詰めている奇兵隊員は心身共に鍛え上げられた古兵たちです。いくらゴトランドが、まるで昔からの友人みたいに錯覚させるほど人の懐に入り込むのが得意でもあそこの人たちには通用しないはずです。
ゴトランドの人心掌握術が通用するのは精々経験の浅い艦娘か、一般人と大差ないバイト君くらいの者ですよ。
「円満、いつまで泳がせるつもり?」
「彼女が飽きるまで、かな」
と、ゴトランドが執務室から遠ざかったのを確認してから円満に尋ねてみたらそう返してきました。
ゴトランドに洗脳されてる演技が出来るなんて、円満も成長しましたね。悪い方に。
「大丈夫なの?」
「平気よ。鎮守府内に彼女が欲しがりそうな情報はないし、洗脳された艦娘や職員も恵が端から正気に戻してくれてるもの。それに……」
「それに?」
その続きを聴いて、円満も随分と腹黒くなったなぁと呆れちゃいました。
だって円満は、あのオジサンを思わせるような悪い笑顔を浮かべてこう言ったんです。
「彼女、小間使いとして使うなら優秀だから」って。
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私が欧州連合のお偉方から命じられていた任務は紫印提督の懐柔でした。
今でこそ紫印提督は救世の女神と讃えられていますが、当時は日本国民はおろか軍関係者にすらお飾り提督と嘲笑されていました。
そんな彼女を欧州連合が懐柔しようと目論んだのは、彼女が握っていた実権がかなりのモノだったからです。
お偉方は、お飾りと蔑まれる10代の彼女が日本最大の鎮守府のトップに立ち、海軍元帥に個人的なコネクションも持っていたことは異常であり、そしてチャンスだと考えたのでしょうね。
だから人心掌握術に長けた私に白羽の矢が立てられたんです。
もっとも、私が懐柔できた人はほんの僅かに終わりましたけどね。
紫印提督は懐柔されたフリをして私を良いように使い、大城戸中佐にはあからさまに警戒されて思うように動けませんでした。
神藤大佐になんか、初めて『猫の目』に行った日に「倉庫街に居るところを見たら斬る」と脅されましたっけ。
そして、私が一番脅威に感じたのが荒木中佐です。
彼女さえ居なかったら、最低でも鎮守府の半分は掌握できていたんですから。
~戦後回想録~
元Gotland級 1番艦 軽巡洋艦 Gotlandへのインタビューより。
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「つ、作ってしまった。私特製のチョコケー……キ?」
「いや、これは作ったより造ったの方が妥当じゃない?って言うかこれ、ケーキじゃなくて魚雷よね」
満潮さんが言う通り、私の目の前で異様な存在感を放っている全長が1mに届きそうな焦げ茶色の物体はケーキには見えない。茶色い魚雷だわ。
でも……。
「ほ、ほら、先輩って馬鹿みたいに食べるし……」
「いやいや、まだ無理でしょ。たしか今だに流動食しかダメで、量も制限されるんじゃなかった?」
そうだった。
桜子先輩は、退院こそしたものの去年の演習大会時にタシュケントとやり合って内臓を痛めてたんだった。
「ごめんかみっか姉さん。あたしのせいだ……」
「ち、違う!タシュケントのせいじゃないのよ!?ほら、先輩だって「懐に入られた時の事を考えてなかった」って言ってたじゃない!」
「でもマーマを殴ったのはあたしだし……」
うわぁ、マズいなぁ。
私が気合を入れすぎてケーキを作っちゃったせいで、私と一緒に満潮さんから料理を習ってたタシュケントに変な負い目を感じさせちゃったみたい。
でも、さっきも言った通りタシュケントのせいじゃないのよ?
そりゃあ殴ったのはタシュケントだけど、それは先輩が大刀の間合いに完全に慣れてなかったから。
要はあの人、今まで相手の懐に飛び込んでばかりで自分が飛び込まれるなんて考えてなかったの。
つまり先輩が油断してたせい。自業自得と言っても良いわ。
それさえ無ければ、いくらタシュケントがシステマの達人だろうと圧勝してたはずだもの。
「た、タシュケントが作ってるのってボルシチだっけ?」
「う、うん。コレなら食べれるかなって思って」
「へぇ、これがボルシチなのね。なんて言うかこう……」
紅い。赤いじゃなくて紅い。
個人的にはビーフシチューみたいな感じかなって思ってたのに、タシュケントが満潮さんに手伝ってもらいながら作ったボルシチは綺麗な紅色をしてるわ。
まるで、先輩の髪みたいに。
「パーパの得意料理だったんだ。マーマの瞳の色とソックリだろ?って、作りながらあたしに言ってたのを今でも憶えてるよ」
「そうなんだ……」
と、差し障りのない相槌を打ちながら満潮さんに視線を送ると、満潮さんは瞼を閉じることで「突っ込んで聞くんじゃないわよ」と伝えてきた。
海坊主さんから聞いてはいたけど、満潮さんの反応を見る限りこの子が深海棲艦とのハーフってのはマジみたいね。
「あの、かみっか姉さん。味見してもらってもいいかな?」
「味見?そりゃあ構わないけど……。それよりさ、どうして私の事を姉さんって呼ぶの?」
「どうしてって……」
コレが本当にわからない。
この子と会ったのはかれこれ2カ月、いえ、大方3ヶ月前の大会が終わってから。
歩ける程度まで回復した私を桔梗姉様と桃姉様が強引に担いで連れて行かれた桜子先輩の病室で初めて会ったんだけど、どんな説明の仕方をしたのか初対面にも関わらず「かみっか姉さん」と呼んできたの。
「マーマがね、かみっか姉さんは私の一番最初の子供だって教えてくれたんだ。それに、桜ちゃんがかみっかって呼んでることも」
「あ~、だいたいわかった」
つまり先輩は、タシュケントに私の事を「娘みたいなもん」と説明し、さらに実子の桜ちゃんが私の事を『かみっか』と呼んでる事しか教えてないんだわ。
だからタシュケントは、容姿に似てる特徴が多い私を先輩の実子と誤解したまま『かみっか姉さん』って呼ぼうと考えたんだと思う。
「ダメ……かな?」
「ううん、ダメじゃないよ。私だってその……嬉しいし」
パァ!って擬音が聞こえてきそうなくらい喜んでるタシュケントには悪いけど半分嘘をついた。
嬉しいのは本当よ?でももう半分は嫉妬してる。
例え戸籍上の事とは言え、先輩と正式な家族になれたタシュケントが羨ましい。
だって私は、先輩にいくら娘みたいなもんって言われても娘じゃないんだもの。
「ねえ神風。このチョコラッピングしないの?」
「え?ああ、チョコね。ラッピングはするけど……」
「じゃあ早くした方が良いわよ」
「どうして?そんなに急がなくて……いや、そういう事か」
どうして満潮さんが話の流れをぶった切るようにラッピングを急かしてきたのか。
それは今私たちがいる『猫の目』の厨房の裏。つまり店の裏にある中庭が騒がしくなったからよ。
桜子先輩が「お腹空いたー!飯食わせろー!」と叫び、たぶん桃姉様が「落ち着いてくださいお姉様!ご飯なら先々月食べたじゃないですか!」と、フォローになってないフォローをしている声的に、暴れる桜子先輩を花組のお姉様方が宥めようとしてるって感じね。
「ついに限界が来たか」
「そうみたいね。でもまあ、固形物を禁止されて2カ月近くでしょ?桜子さんにしては我慢した方よ」
たしかに。
私や海坊主さん、さらには桜ちゃんまで動員して我慢させてたけど、空腹が極まった事で嗅覚が鋭敏になってここから漏れ出た匂いを嗅ぎ取っちゃったんでしょう。
実際、タシュケントが作ったボルシチはお腹が空いてなくても涎が出そうなほど良い匂いだし。
「タシュケントはソレをお皿に盛り付けといて。そんで神風はそのチョコをラッピングね」
「満潮さんはどうするんですか?」
「桜子さんを宥めて店内に誘導する」
と言って満潮さんは、心底ゲンナリしたような顔をして厨房から出て行きました。
残された私とタシュケントはと言うと……。
まあ、言われた通りにするしかないかな。
「じゃあ、桜子先輩の久々の食事の準備をしよっか」
「понимание!」
タシュケントの元気な返事を背に受けながら、私はチョコのラッピングに取り掛かった。
まさか、中庭で刃傷沙汰寸前の事態が起きてるなんて微塵も考えずに。
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桜子お姉様は死にそうになるほど食べ物に困った経験があるせいか、近くに食べ物があるとお腹が空いてなくても食べようとするんです。
恐らくは食べられる時には食べておこう的な精神なのでしょうが、同じ経験をしているお兄様ですら引いてしまう量を平らげるお姉様の胃袋は控え目に言って異常ですね。
そんなお姉様が、流動食は許可されていてもそれ以外は食べられず、しかも量を制限された生活を2カ月近く続けるとどうなるか。青木さんにはわかりますか?
はい。暴れました。
狩衣と愛刀は装備せず、持っていたのは竹箒でしたが、奇兵隊でも五本の指に入る実力者であるお姉様が持てば竹箒も立派な凶器です。
実際その時、お姉様は竹箒で狩衣を装備していた私たち花組を打ち倒し、奇兵隊でも数少ないお姉様以上の実力者である実働部隊の一つ『剣』の隊長であるソード1すら退けました。
え?奇兵隊で一番強いのはお姉様じゃないのか?
そう思うのも当然とは思いますが、強さで言うならお姉様は当時の奇兵隊で上から三番目でした。
はい、お姉様の前に総隊長だった方は名実共に奇兵隊最強だったそうですが、お姉様はそうではありませんでした。
当時の、平成4年時での奇兵隊内での強さランキングは一位がお兄様。二位がソード1。三位がお姉様ですね。その後に金髪さんことビークル1と秋津洲さんが続いて、そのかなり後に私たち花組と言った感じになります。
はい、お兄様とは貴女たちが海坊主と呼んでいた人で間違いありません。
あの人ってイジられキャラではありましたが、先代総隊長と今は陸軍元帥を務めている人がいた時代でさえ、トップ3に名を列ねたほどの実力者なんです。
あの時も、お兄様がいてくれたら私たちはもちろん、満潮さんも怖い思いをせずに済んだのかと思うと、少し恨めしく思ってしまいます。
~戦後回想録~
元春風。現奇兵隊花組所属 春日 桃少尉へのインタビューより。
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「出しゃばるんじゃなかった……」
さすがに神風の魚雷……じゃなかったチョコケーキは無理でも、タシュケントのボルシチなら食べさせても平気だろうと判断し、ソレを文字通り餌にして暴れる桜子さんを止めようと思ったのが間違いだった。
まさか、鎮守府に詰める奇兵隊が総掛かりでも止められてないとは予想してなかったもの。
「ね、ねえ秋津洲さん。海坊主さんは?」
「総隊長の代わりに提督の護衛をしてるかも」
「金髪さんは?」
「桜ちゃんと散歩中かも」
「ソード1って人は?」
「あそこの壁に刺さってるかも……」
語尾にかもってつけるなわかりにくい。
は、置いといて。
軽く現状を整理しよう。
今現在、中庭の中央辺りにいる桜子さんは竹箒を片手に持ったまま両腕と頭をダランと下げて棒立ち中。セミロングと呼べるくらいまで伸びた紅い髪のせいで表情は見えないけど、辛うじて見える口元から何かを呟いてるのはわかる。
その周りでは、花組の人たちを筆頭に奇兵隊の人たちが取り囲んでるわ。
唯一何とか出来そうな人たちは外出&趣味の悪いオブジェと化している。
うん、やっぱり出しゃばるべきじゃなかった。
「秋津洲さんって、奇兵隊じゃ上から数えた方が早いくらい強くなかったっけ?なんとかしてよ」
「え?無理無理。今の総隊長には艤装を背負ってても勝てないかも。秋津洲チャレンジ超級に挑んだ方がマシかも」
秋津洲チャレンジって何?
は、またまた置いといて。
秋津洲さんが今の桜子さんと事を構えたくない気持ちは痛いほどわかる。だって涙ぐんで泣き出す寸前だしね。
私だってそう。
私はお姉ちゃんからガゼルパンチを教えてもらい、桜子さんから護身術も習ってる。でも逆に言えばその程度。円満さんみたいにそこらのJK並の戦闘力しかない人が相手ならどうとてでもなるけどあの人は無理。
「……わ……ろ」
桜子さんが何か言った途端、場の空気が一変した。
取り囲む奇兵隊もソレを察して身構えてるわ。それプラス、古参と思われる人たちが何やらざわめいてる。
なんか「お、おいコレって……」とか「ああ間違いねぇ。親父殿より範囲は狭いし圧も弱いが『狩場』だ」とか言ってるわ。
「ねえ秋津洲さん、『カリバ』って何……って、あれ?」
『カリバ』とやらの事を聞こうと思ったら、隣に居たはずの秋津洲さんが消えていた。
あの人、いよいよ本当にマズいと思って逃げたわね。
「飯……!食わせろぉぉぉぉぉぉぉ!」
爆発。とでも表現したら良いのかしら。
べつにドカン!とかズドン!なんて音がして炎に彩られた訳じゃないのに、桜子さんから何かが噴き出したのを肌で感じた。
それと同時に、体が硬直して思うように動けなくなったわ。それは奇兵隊の人たちも同じみたい。
桜子さんは無人の荒野を歩くかのように、力無く垂らした竹箒で地面を削りながらゆっくりとこちらへ歩を進めてるわ。
「さ、桜子さん……よね?」
桜子さんの一歩進む度に重い体に鞭打ちながら一歩下がり、店の裏口まで追い詰められた私は、目の前にまで迫った桜子さんに思わずそう聞いてしまった。
だって、こんな桜子さんは見たことがないんだもの。
顔の半分以上が髪の毛で隠れた様は幽鬼の如く。その瞳は血走り、殺気どころか怨嗟に彩られている。
「退け」
「ひいっ……」
桜子さんはけして高圧的に言ったんじゃない。
尽きかけた体力を振り絞ってようやく捻り出したように力無く小さい声なのに、私は情けない声を上げて腰を抜かしてしまった。
今の桜子さんなら、艤装を背負ったお姉ちゃんにも余裕で勝てるんじゃない?と、頭の隅で現実逃避しながら。
「そこまでです先輩!」
「ご飯だよマーマ!」
再び場の空気が一変した。いえ、さっきまで中庭を支配していた気配が、バン!と勢い良く厨房の勝手口を開いて寸胴鍋を持った神風とタシュケントが現れた途端に霧散した。
あの寸胴鍋の中身は……もしかしてボルシチ?
「ああ……。ご飯……ご飯……」
「そうだよマーマ。ご飯だよ」
さっきまでが嘘みたい。
二人に、いやボルシチが詰まった寸胴鍋に向かって力無く両手を突き出し、老婆のように腰を屈めてヨロヨロと歩く桜子さんからはついさっきまでの狂気がまるで感じられないわ。
「食べて……良いの?」
「良いんですよ。先輩。食べて良いんです」
「あぁ……いただきます」
寸胴鍋に辿り着いた桜子さんは、神風から許しをもらうと膝を突き、両手を合わせて救われたような声で『いただきます』と言って……鍋に頭を突っ込んだ。
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『血のバレンタイン事件』?
何ですかそれ。そんな事件があったんですか?
は?奇兵隊の隊舎でそんな事件があったって聞いたって……誰から?ゴトランドさんから!?
ゴトランドさんって先輩から倉庫街に立ち入るなって警告されてたから、あの人が隊舎に来た事なんて……。
あ、一度だけあったか。
はい。先輩が警告した日です。
たしかその日はバレンタインでしたし、青木さんが言ってる『血のバレンタイン事件』とはたぶんあの日の騒動の事ですね。
いえいえ、たしかに多少流血した人はいましたが、血のバレンタインなんて呼ぶほどの流血はありませんでした。
強いて言うなら、ボルシチが詰まった寸胴鍋に頭を突っ込んで中身を食べたせいで、鍋から頭を出した先輩の顔が真っ赤に染まってたくらいです。
ええ、つまりあの一件は『血の』ではなく『ボルシチのバレンタイン事件』と呼ぶべきですね。
たぶん、話を聞いた人が上手く聴き取れずに『ボルシ』を省略しちゃったんだと思います。
私の記憶が確かなら、ゴトランドさんが来たのも丁度その時でした。ぱっと見は血塗れの先輩を見て引いてたのを憶えています。
彼女は何をしに来たのか?
何でも円満さんから手紙を託けられたそうです。
手紙の内容まではわかりませんが、それを「もう!そんなに汚して!桜子は相変わらず食べ方が汚いわね!」と、馴れ馴れしく話しかけながらゴトランドさんは手渡しました。
ええ、ゴトランドさんが倉庫街への立ち入りを禁じられたのはそのせいです。
彼女は初対面でも馴れ馴れしく、まるで昔からの友人のように話しかけ続けて相手の警戒を解き、懐に跳び込んで自分の良いように相手を誘導するなんて事をしてたんです。
それを桜子先輩にまでしようとしたのが彼女の運の尽きですね。
しかも、お腹が膨れて幸福感に包まれていた先輩に。
あの時のゴトランドさんは哀れでした。
気分を害し、血塗れと見紛うくらい真っ赤な先輩に詰め寄られたゴトランドさんは、わかりやすく怯えて許しを請うてましたから。
~戦後回想録~
元駆逐艦 神風へのインタビューより。
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
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神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
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紫印 円満(実質三部の主役?)