十五章の投稿開始は……来月の頭くらいにはしたいなぁ(´_ゝ`)
不意打ちだった。
霞たち四人を連れて、哨戒がてら海上を移動して夕日に照らされた横須賀に着いた私を迎えてくれたのはスーツ姿の大城戸教官だった。
一応、教官が提督補佐として横須賀に異動になってたのは聞いてたわ。でも大会の時にも会えなかったから「異動したら会う機会もあるでしょ」くらいにしか考えてなかった。
だから再会した時にどう挨拶しようとかは、今の今まで全く考えてなかったわ。
「久しぶりですね矢矧。生きて再会できて嬉しいですよ」
「わ、私もです。え~っとあの……」
何て言おう。
霞が無駄に空気を読んで、他の三人を連れて先に工廠に行って私と教官を二人きりにしたもんだから、変に緊張して何を話せば良いのかまるで思い浮かばない。
「どうしました?あ、そう言えば呉から海上を移動して来たんですよね?疲れちゃいました?」
「いえ!そんな事はありません!こんなの、候補生時代にやった『一週間航行訓練』に比べたら屁でもありませんから!」
ちなみに『一週間航行訓練』とは、大城戸教官が考案して私の代で実践した訓練で、養成所があった島の周りを文字通り一週間ずぅ~~~っと、航行し続けるってモノよ。
パッと聴いただけなら「航行するだけ?そんな楽な内容で良いの?」ってなる……って言うか私もそうだったんだけど、この訓練の恐ろしいところは補給時の十数分間の休憩だけでそれ以外の時間はひたっすら海の上を航行し続けるところにある。もちろん睡眠時間も設けられていないわ。
いやぁ……今思い出してもアレほど辛い訓練はなかった。初日は「この訓練に何の意味があるんだろう」って考える余裕や雑談するくらい体力的にも余裕があったわ。睡眠時間も、誰かと交代で曳航したりされたりしてれば確保出来たからね。
でも時間が経つに連れてその余裕は消えていき、三日目を過ぎる頃には半分以上が脱落していた。
何て言うか、あの訓練って体力的にはもちろん精神的にも参るのよ。
例えば同じ景色を何度も何度も見てる内に景色を見ても自分が何処に居るのかわかんなくなるし、日が経つごとに補給の回数も減らされるから燃料配分にも気を使わなくちゃならなくなるの。しかも疲れ切ってる状態で!
一応、体力切れや燃料切れで脱落した者は船で回収されるんだけど、救助の船が来るまでは自力で浮いてなきゃならないから泳げない私は必死だったわ。
「そんな何かを諦めたような顔してどうしたんです?」
「ああいえ、あの訓練の時を思い出しちゃいまして」
「矢矧は人一倍頑張りましたもんね。結局ゴール出来たのは貴女だけでしたし」
「ええ、死に物狂いでしたよ……」
実際、私は他の候補生と違って脱落即死と言っても良かったですからね。
でも、おかげで他の矢矧候補を蹴落とせたし、ゴールして丸二日間眠って起きたら教官から誉めてもらえたのが何よりも嬉しかった。
「ご飯でも一緒に食べませんか?」
「ご飯……ですか?」
「ええ、もうとっくに夕飯時ですし、久々に会った元生徒に奢りたい気分なんです。それとも、お風呂が先の方が良いですか?」
「え~っと……」
どちらかと言うとご飯かしら。
確かに長いこと海上を移動して来たせいで汗はかいてるけど、『装甲』に守られてる状態だったから潮風は浴びてない。故に体もそんなにベタついてないわ。
それにご飯に誘うって事は、教官も食べずに待っていてくれたって事だからお腹が空いているはず。
ならここはご飯で決まりね。
「ご飯でお願いします」
「よろしい!お勘定は気にせずドーン!と食べてくださいね」
私よりも年上なのに、まるで少女みたい笑顔でそう言った教官に連れられて、私は工廠へ艤装を預けて懐かしの『猫の目』に向かった。
ご飯を奢られて教官との昔話に花を咲かす。なんて、甘い想像しかしないまま。
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『猫の目』が夜はBARになるのは知ってる?
そう、あの店って20時以降はBARになるのよ。
当然客層もガラッと変わって、昼間は女性職員や整備員なんていう比較的柄の良い人しか来ないのに、BARに変わるや否や柄の悪い連中の溜まり場になっちゃうのよ。
具体的には海兵とか海兵隊の人たちね。
店員は奇兵隊の人達だから暴力沙汰は滅多に起きないんだけど、それでも起きるときは起きるわ。
例えば艦娘を初めとした女性が居る時ね。
ほら、自己顕示欲って言えば良いのか、男って飲み屋なんかに行くとお酒の勢いも手伝ってキャストに自慢話を始める人が結構いるじゃない?
あんな感じで、不幸にも紛れ込んでしまった女性に「俺は凄いんだぞ」的などうでもいい自慢話を我先にとしだすの。当然口説くのが目的よ。
ええ、私と教官も被害に遭ったわ。
せっかく昔話に花を咲かせてたのにゴツくて汗臭い男共に囲まれたせいで気分が台無しになったのを憶えてるわ。
え?そいつらは提督補佐を口説こうとしたのか?
そうよ。
普通なら、階級的には雲の上の存在である提督補佐を彼らが口説くなんて事はないわ。でもその時は、教官がスーツ姿だったせいでそうだと気付けなかったみたいなのよ。
どうもあの人達、スーツ姿の教官と半年近く横須賀から離れていた私を配属されたての新人と勘違いして口説いてきたみたいよ。
でもまあ、その後はどうなったか察しはつくでしょう?
花組にボコられた?
いやいや、その人達がボコられたのはその通りなんだけど、ボコったのは花組の人達じゃなくて大城戸教官よ。
そう、あの頃の元艦娘って、会う人会う人みんなが「本当に人間ですか?」って聞きたくなるくらい超人的な人が多かったじゃない?
大城戸教官も例に漏れずその手の人だったの。
ええ、今でもあの光景を夢に見ることがあるわ。
筋肉ダルマたちの攻撃は虚しく空を切り、大城戸教官に殴られた筋肉ダルマたちがマンガやアニメのワンシーンのように宙を舞う光景をね。
~戦後回想録~
元軽巡 矢矧へのインタビューより。
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『喫茶猫の目』は20時からBARへと変わり、マスターも海坊主さんから花組の雄松くららに変わります。
ちょっと気取った人は『猫の目』じゃなくて『BAR キャッツアイ』って呼んでますね。
提督補佐として横須賀に出戻った私を初めてここに連れて来てくれた人もそんな呼び方をしてたっけ。
「久しぶりだね、澪。僕の事が忘れられなかっ……ごめん。謝るから無言で桜子姉さんに電話しようとするのを辞めてくれないかな」
「ちなみに、矢矧に手を出そうとした場合は私が直接ぶっ飛ばしますので」
まあ、彼女の事が忘れられないのは間違いないんですけどね。だって彼女、正確には松風だった頃の彼女は、私が大潮として横須賀にいた当時の悩みの種の一つだったんですから。
「しないよ。澪の怖さは身をもって知ってるからね。それより今日は何にする?ご飯だけで呑んでないんだろ?」
「ビールなら呑みました」
「そんなので酔えるほど柔じゃないだろ?いつも通りタリスカーで良いかい?」
確かに飲み足りません。
元とは言え生徒である矢矧の前だからほろ酔い程度に抑えていたのですが……。昔話をして気分が良くなったのでもう少し酔いたくなりました。
ちなみに、タリスカーとはスコットランドのスカイ島で作られているシングルモルトウィスキーで、私が初めて憶えた思い出深いウィスキーでもあります。
スモーキーかつ、コショウのようなスパイシーさと潮気、そして重厚感のある優しく甘い余韻を持つ人気の高いウイスキーですね。匂いが消毒液みたいと感じたのも今では良い思い出の一つです。
「じゃあ、ストレートで。あとチェイサーもお願いします」
「どれにする?10年で良いかい?57°northもあるよ。それとも奮発して25年?」
再度ちなみに、大本営のオジサンや円満が大好きな日本酒のように、ウィスキーも同じ銘柄で数種類あります。
くららが口にしたのは今でも手に入る物の一部ですね。手に入りにくい25年も惹かれますが、ここはやはり自分の1番好きな……。
「ストームで」
三度ちなみに。
シングルモルト スコッチウイスキー。タリスカーほどその生まれ故郷の自然をよく体現したウイスキーはありません。タリスカーを嗜むということは海の力を感じ、ハーポート湖沿岸のゴツゴツした岩場に思いを馳せる、つまりスカイ島そのものを感じるのと同義なんです。
そのタリスカーの特長を際立たせた、究極のタリスカーをウイスキーを愛する全ての人に飲んで欲しい。その想いが結実したのが、私も愛するタリスカー ストームなのです。
「ああそれと、矢矧にも同じ物を」
「へえ、彼女もいける口なのかい?」
「いいえ、お酒自体呑むのは初めてのはずです」
と、『はず』の部分を強調して言いながら、客層がガラッと変わった店内に途惑いつつ若干置いてけぼり感を感じてそうな矢矧を見てみると「わ、私はお酒なんて!」と不自然に慌てています。
知ってるんですよ?
候補生達が私たち教官に隠れてお酒を養成所に持ち込み、休みの前の日は酒宴を開いていた事くらいね。当然、貴女がそれに参加していたことも。
「えっと、どうやって呑めば良いんですか?」
「どうもこうも、普通に呑めば良いんですよ。こう、グイっと」
「おいおい、そんな吞み方を教えるのは教官としてどうなんだい?」
くららに止められてしまいましたが、
「少しだけ、本当に少しだけ口に含んでから飲み込んでみてください」
「は、はい……」
ウィスキーの飲み方はいくつか有りますが、今回はチェイサー、所謂水を飲みつつ呑む嗜み方をご紹介しましょう。
「の、喉が熱い。それに胃も……」
「慣れるとそれも気持ち良くなりますよ。じゃあ次はチェイサーを一口含んでみてください」
「……あれ?コレってただの水ですよね?」
「はい。くららが変な物を入れてない限りはただの水です。甘く感じましたか?」
「はい、若干ですが甘く感じました」
「じゃあ次はさっきと同じくらいウィスキーを含んでみてください。きっと、最初よりまろやかで呑みやすく感じるはずですよ」
詳しい説明は省きます。
と言うより、私自身イマイチ理解できてないですし人によって感じ方も異なりますから。
それではまず、風味をストレートで嗜んだ後、重厚な舌触りや圧倒的な香気に覆い包まれた口中に水を含み呑みます。
すると、清涼感の拡がる中に香味の余韻が際立ち、また消化器への刺激も軽減できるんです。
私にウィスキーの吞み方を教えてくれた人曰く、コレが本来のチェイサーの役割なのだとか。
居酒屋などでチェイサーを頼む人を見たことがありませんか?ああいう人はたいてい『喉が渇いた』若しくは『酔い覚まし』が目的で頼むのですが、こに場合はチェイサーではなくお冷やです。
本来の意味でのチェイサーとは、お酒の味を引き立て、さらに自身の味をも引き立てて後を追う正に
「へぇ、ウィスキーを呑むのは初めてですが……。いや!お酒を呑むのは初めてですが美味しいです!」
「気に入ってもらえて良かったです。じゃあ次は……。くらら、矢矧のグラスに氷を」
円満は日本酒ばかりなので信じてもらえないのですが、ウィスキーは日本酒以上に温度変化による味の変化が多彩です。
例えば今呑んでいるタリスカー・ストームは、ロックで呑むよりもストレートで呑む方が口当たりが良く、それなのに一杯でも十分満足できる重厚感も有ります。
人肌に温めて、味をよりまろやかにするためにグラスをひたすら回し続ける人もいます。
で、ロックの場合ですが、味と言う意味では同じなのですがストレート時より辛く感じ、時間が経つに連れて氷が溶けますのでストレートよりもグイグイ呑めて物足りなさすら感るんです。
当然、悪酔いするのは後者ですね。
「うわぁ、こんなに変わるんだ……」
「氷を入れてすぐなのにぜんぜん変わるでしょ?」
「はい、まるで別のお酒みたいです。何て言えば良いのか……辛い?」
矢矧は素質が有りますね。
先ほど味がガラッと変わると説明しましたが、変に酒飲みを気取っているだけの人はこの違いがわからないそうです。
円満も一度呑んでみればハマると思うんですが、あのオジサンに『洋酒は怖いぞ』と吹き込まれているらしくて手を出そうとしないんです。
「何が怖いんですか?」
「お金ですよ。ちなみにこの店は良心的な価格ですので、今私たちが呑んでいるのはダブルで900円。これが例えば、タリスカー25年になるとシングルで3000円になります」
「そ、そんなに値段が違うんだ……。って言うか高!シングルってほんの少しですよね!?」
そう、洋酒はこれが怖い。
矢矧が今言ったようにシングル(もしくはショット)の量は少ない。具体的に言いますとシングルで1オンス(30ml)です。
まあ、洋酒はボトルで数千数万円は可愛い方で、希少な物になると十万百万は当たり前の世界なのでこれくらいの値段設定じゃないとお店は元が取れないんです。
BARなどで調子に乗って注文すると一気に酔いが冷める請求が来るので、呑む場合は注意が必要ですね。
「澪も初めてここで呑んだ時は同じ反応をしてたよね。そう言えば、あの彼とは今も続いているのかい?」
「続くも続かないもないですよ。彼はただの友人ですから」
私が男性とここに来たことがあると知って「きょ、教官って付き合ってる人がいるんですか!?」とか言って驚いてる矢矧は置いといて。
私をここに連れて来てくれた人は工廠の整備員の一人。
私が大潮だった頃に交際していた人です。
もっとも、ハワイ島攻略戦が終わってしばらくした頃、神風を辞めてグラマラスに成長した桜子さんでも見たのか「大潮も艦娘を辞めたら大きくなるのかな」なんて、私の胸を揉みながら言ったもんですから「小さいのが嫌なら大きい人と付き合えばいいじゃない!」って返してそのまま喧嘩別れしちゃいました。
「でも、ここに来る時は仲良さそうにしてるじゃないか」
「そりゃあ私もあの頃と違って大人ですし、奢ってくれるって言うんだから断る理由もありませんから」
「本当に?」
「本当ですよ。今の彼は、休みの前にご飯とお酒を奢ってくれる財布君です」
少しだけ罪悪感は感じてますけどね。
別れた原因も売り言葉に買い言葉の喧嘩が原因ですから、彼の事が嫌いになって別れた訳じゃありません。
実際、再会したときは嬉しかったですし……。
「よう姉ちゃん。見ねぇ顔だが新人さんかい?」
「おい、やめとけよ。胸のデカい方は艦娘じゃねぇか」
「関係ねぇよ。いつも俺らの代わりに戦ってくださってる艦娘様に一杯奢ろうってだけなんだ。別に責められる理由もないだろ?」
「それもそうか。じゃあ俺はこっちの色々と小さい方を」
「お!出たよロリコンが!そんなんじゃ前提督を笑えねぇぞ?」
色々と小さいって具体的に何処がですか?
胸ですか?確かに矢矧比べると小さいですが、これでもそれなりに有ります。
っと、胸の大きさで一々目くじらを立てていたら円満と同じになってしまいますので胸の話はやめましょう。
「どちら様ですか?」
「俺らかい?俺らは横須賀鎮守府所属の海兵隊様だよ。これでも、開戦時は深海棲艦相手にドンパチしてたんだぜ?」
「へぇ、そうですか」
嘘くさい。
だいたい海兵隊って、海とはついてますが海兵と違って上陸作戦を主任務として行う部隊ですよね?
そんなあなた達がどうやって深海棲艦とドンパチしたんです?奇兵隊みたいに上陸した深海棲艦を相手にしてたんですか?
「あの頃は酷かったよなぁ。食いもんもなけりゃ弾もねぇし。終いにゃ竹槍持って突撃したりしてよぉ」
「おう、やったやった。あん時ゃ生きた心地がしなかったぜ」
ガーハッハッハ!と下品な声で大笑いする自称歴戦の海兵隊員たち。
ですが、彼等が今も自慢気に矢矧に語っている話は大嘘ですね。完全に騙りです。
だって、竹槍持って深海棲艦に突撃したり餓死するほど食料に困ったのは奇兵隊だけですから。
大方、古参ぽい奇兵隊員が一人もいないから、奇兵隊の本部であるここで騙っても問題ないと思ったんでしょう。もしくはお酒の勢いで、ですね。
「と、言うことで胸のデカい姉ちゃん。こっち来て一杯付き合えや」
「い、いや、私は……」
「あんだぁ?俺の酒が呑めねぇってのかぁ?」
うわぁ……。
俺の酒が呑めないのかって言う人って実在するんだ。言われた矢矧には悪いですが生で聴けたことに少し感動しました。
って、感動してる場合じゃないですね。
矢矧が本当にどう対応して良いかわからずに半ベソかいてますからそろそろ助けるとしましょう。
「くらら、少し暴れますよ」
「少しじゃなくて思う存分暴れて良いよ。修理代から澪たちの勘定まで全部アイツらに請求するから」
「じゃあ遠慮なく」
くららのOkを得た私は「じゃあ俺はこっちの貧乳で我慢すっか」などと、殺されても文句を言えないようなセリフを吐きながら私の肩に手を置いた海兵隊員の一人(仮にチンピラAとしましょう)の手を掴んで捻り挙げました。
「痛てててててぇ!?なんだこのアマ、なんって力してやがる!」
「あら、情けないですね。ほんの少ししか力を入れてませんよ?」
「嘘つくんじゃねぇよクソアマぁぁぁぁぁぁぁ!?やめろ!折れる!マジで折れるぅぅぅぅ!」
誰がクソアマだ。それに『やめろ』じゃなくて『やめてくださいお願いします』でしょうが。
本当に折ってやりたいですが、折ると余計に五月蝿くなりそうなので一度離すとしましょう。
「テメェ何者だ?その細身でソイツを捻りあげるなんざただの女にできる芸当じゃねぇぞ」
「ええ、お察しの通りただの女じゃありません」
私から解放されて捻り挙げられていた右腕を抱えて蹲るチンピラAにB、Cが寄り添っているのを尻目に、さっきまで矢矧に絡んでいた恐らくリーダー格と思われる海兵隊員(ボスとしておきますか)が、もっともらしいセリフを吐きながら両腕を組んで威嚇して来ました。
後ろのテーブル席で呑んでた十数人も席から立ちましたね。
こんなか弱い私を、筋肉ダルマ二十人近くで袋にでもする気なんでしょうか。
「問われて名乗るのもおこがましいですが問われたからには名乗りましょう。私は横須賀鎮守府所属、紫印提督補佐の大城戸 澪中佐です」
「て、提督補佐?しかも中佐だと!?こんなチンチクリンがか!?」
誰がチンチクリンだ。
確かに私の容姿は歳の割に幼く見られますがチンチクリンと言われるほどではありません。
胸も身長も円満より大きいんですよ?
は、取り敢えず置いといて、私の立場がわかって尻込みしたのか、そこかしこから「や、やべぇんじゃねぇか?」とか「減給くらいで済むよな?」などと無駄な心配をする声が聴こえてきます。
今さら心配しても遅いのですが、このまま謝られては私の腹の虫が治まらないので少し
「別に恐れる事はありません。階級を盾にあなた達を土下座させようとは思っていませんし、不敬に対する組織的な罰を与えるつもりもありません」
「な、なんだ、話がわかるじゃねぇか中佐さん。そうだよな?俺らは単に旨い酒を一緒に吞もうとしただけだもんな?」
「ええ、そうです。だから続きといきましょう。もしあなた達が私をノックアウト出来たなら、私と矢矧が好きなだけお相手しましょう。もちろん、夜のお相手も」
「そりゃあつまり……」
「私と矢矧を好きにして良いと言ってるんです」
後ろのカウンターで「そういう事なら僕も参加する!」とか言ってる馬鹿は無視するとして、男って単純ですねぇ。
私をノックアウトできれば私と矢矧の体を好きにできると知って先程以上にヒートアップしてます。
「馬鹿だねぇ。澪に勝てる気でいるよアイツら」
「ええ、馬鹿で助かりましたよ」
これで日頃の鬱憤が晴らせる。
心底絶望した様子で「私の初体験の相手は複数のゴリラか……」なんて言ってる矢矧には悪い事をしたと思っていますが、横須賀に来てからこっちストレス貯りまくってたんですよ。
ええ、イライラしてました。
艦娘たちは私が現役だった頃とは比べものにならないくらい平和ボケしてましたし、円満には厄介ごとばかり押しつけられて爆発寸前でした。
でも、この二十人近いゴリラ共を殴り飛ばせば少しはスッキリするでしょう。
「じゃあ、ドーン!と行きますよ!」
と言って、私は一番近くにいたボスを店の外まで殴り飛ばしました。
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元艦娘に喧嘩を売るな。
これは鎮守府だけじゃなく、民間人にも広く浸透している常識だよね。
うん、確かに元艦娘は命懸けの戦闘を熟してきた戦いのプロフェッショナルだからある意味間違ってないよ。
でも所詮は女子供。
桜子姉さんや僕たち花組のメンバーみたいに、一人で複数を相手に無双できる人はほん一握りだよ。
そのほんの一握りには澪も含まれてる。
澪は艦娘時代に今の海軍元帥の直属だったから格闘術の手解きも受けてたし、何より『マリオネット』って言うチートすれすれの特殊能力も持ってたからね。
うん、澪は僕よりも強いよ。たぶん辰見さん並じゃないかなぁ。
しかも当時の提督や提督補佐は、自衛用として『薄衣』を標準装備してたんだ。
当然、軍人とは言え普通の人間が何十人束になったって敵わないよ。
あの時だって、群がる馬鹿共を相手に無双してたからね。
そうだよ。
あの当時ネットで話題になり、元艦娘に喧嘩を売るなって常識が根付く切っ掛けになった『山積みにされた軍人たちの前で仁王立ちする元艦娘』の写真に写ってたのは澪で間違いないよ。
~戦後回想録~
元駆逐艦 松風。現奇兵隊花組所属 雄松 くらら少尉へのインタビューより。
次章予告。
大淀です。
正式に編成された大和さん達『第一特務戦隊』通称『一特戦』。
円満さんは彼女たちを艦隊として練成するために特別コーチをつけて鍛え始めます。
でもその過程で霞が悩んでしまうみたいです。悩むなんて霞らしくありませんよ?
その一方で、主人を初めとした悪巧み組は着々と何かの準備を進めているみたいです。
私を横須賀に幽閉して何をしてるんですか?
次章、艦隊これくしょん『涙と友情の
お楽しみに。
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
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神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
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紫印 円満(実質三部の主役?)